説明

スクライブ装置

【課題】 低押圧力で薄板ガラス板をスクライブできるスクライブ装置を提供する。
【解決手段】 スクライブ装置のスクライブユニット50を加圧手段と、ボールスプラインを内設して前記加圧手段の真下に配設したボールスプライン取付けユニット54と、前記ボールスプラインのボールスプライン軸54b1と直結して設けたカッターヘッド取付けユニット56と、カッター57bを取付けたカッターヘッド57と、前記ボールスプライン取付けユニット54に設けられてガラス板に付与される押圧力を減圧する減圧手段とから構成する。また、前記加圧手段には摺動摩擦抵抗が50gf以下のエアシリンダ53を用い、前記減圧手段は錘55bを用いて前記ボールスプライン軸54b1を上方に持ち上げる減圧装置55からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクライブ装置に関し、特に薄板ガラスのスクライブに適したスクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルの薄型化、小型化、軽量化になるに従って使用するガラスの板厚は大変薄くなってきている。また、液晶表示パネル以外においても、タッチパネルなどに使用されるガラスは撓み変形が求められることから0.1〜0.2mmの厚みなどのものが用いられるようになってきている。
【0003】
ガラスをスクライブする際にはガラスの切り粉が発生する。特に、切込み量(切込みの深さ)が深過ぎると切り粉の量が多くなったり、細長いガラスの欠け片のような形状の切り粉などが発生する。また、意図しない方向への亀裂(クラック)なども発生したりする。
そして、発生した切り粉やガラスの欠け片などはカッターを取付けたカッターヘッドの間隙などに入り込んで堆積し、カッターの摩耗を早めたり、カッターヘッドの正常な動きを妨げたりするなど様々な問題を引き起こす要因になっている。
また、切込み量が浅過ぎるとスクライブ線が断続的になると云う不具合も生じる。
【0004】
この切り粉問題を解決するスクライブ装置について様々提案されており、例えば下記の特許文献1に示されたスクライブ装置もその一つとして挙げられる。
【0005】
特許文献1に示されたスクライブ装置の構成は、図8に示されるように、2方向からエアを吹き付けてガラスの切り粉を吹き飛ばす構成をなしたものである。1方向のエアの吹き付けは(カッター)刃8の進行方向から外部に配設したエアブロー管17から吹き付け、もう1方向のエアの吹き付けは、エアシリンダ14の押圧力を伝えるスクライブヘッド1のヘッド本体2に設けたベアリング4のヘッド軸3にエアブロー通路12を設け、そのエアブロー通路12を介してホルダのエア吹き付け口から刃の進行方向側に吹き付けるものである。
【0006】
【特許文献1】特許公開2005−82413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のスクライブ装置はガラスの切り粉をエアで吹き飛ばして切り粉問題を解決するものである。
しかしながら、切り粉の発生量や切り粉の形状などはスクライブの切込み深さに影響を受ける。従って、切り粉の発生量を極力少なくし、クラックの発生しない適正な切込み量に設定することが求められる。
【0008】
スクライブの切込み量はガラスの表面にかかる押圧力と密接に関係する。押圧力が大きいと切込み量が深くなり、一方、押圧力が小さいと切込み量は浅くなる。
また、押圧力はガラスの厚みによって調整することが必要で、ガラスの板厚が厚いと押圧力を大きくする必要があり、ガラスの板厚が薄いと押圧力を小さくする必要がある。
例えば、1mm以上の厚板ガラスをスクライブする場合は、押圧力は1kgf以上必要とするが、0.2mm以下の薄板ガラスの場合は200gf前後の押圧力が好ましいとされている。
【0009】
特許文献1に示された構成においては、ガラス板の表面にかかる押圧力はエアシリンダ14の押圧力と、シリンダ軸受け部材16の自重、ヘッド本体2の自重、ホルダベース5の自重、ホルダ7の自重などが加算されて押圧力として作用する。シリンダ軸受け部材16やヘッド本体2、ホルダベース5、ホルダ7などの材料は剛性が必要とされることから、鉄系材料が多く使われる。また、その構成部品の形状の大きさも制限される。このため、これらの材料の総重量が大きくなり、少なくとも材料分だけでも数100gfの押圧力が加えられる。そして更に、この押圧力にエアシリンダの押圧力が加わることになる。
このようなことから、特許文献1に示されたスクライブ装置の構成は、200gf前後の押圧力でスクライブしなければならない薄板ガラスのスクライブには適さず、切り粉の問題は解決してもクラック発生の問題は残る。
【0010】
また、エアシリンダの押圧力はタイプによって使用範囲があるために、所望の押圧力を得るにはタイプを選択して使用する必要がある。つまり、薄板から厚板の広範囲にわたるガラスに対して1つのエアシリンダで制御するのは困難で、スクライブするガラスの板厚に応じてエアシリンダを交換する必要がある。
【0011】
更にまた、特許文献1の構成は、ヘッド軸3がベアリング4によって回転自在に支持されており、このヘッド軸3にホルダベース5が固定され、そして、このホルダベース5に刃8を取付けたホルダ7を固定した構成をなしている。つまり、ヘッド軸3の回転自在によって刃8も自在に回転にする構成をなしている。
【0012】
しかしながら、このような構成にあっては、スクライブ中に振動などによって異常な外力がかかった時にはガイド軸の回動が生じて刃8の正常な動きにその影響を与えることが生じる。
また、ホルダベース5の重心バランスがホルダ7の回動に影響を与えることが考えられる。つまり、ホルダベース5の重心がヘッド軸3の軸線上から外れているとホルダベース5の重量の影響を受けてヘッド軸3及びホルダ7の回動に偏りなどが生じてきて、刃8の追従性を悪くすると云う問題が発生する。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、薄板ガラスのスクライブに好適なスクライブ装置を得ると共に安定したスクライブ品質を得ることを目的にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
課題を解決するための手段として、本発明の請求項1に係るスクライブ装置の特徴は、テーブル上に載置したガラス板と平行に、且つ、ガラス板のX軸方向にスクライブユニットを移動する第1の移動装置と、前記ガラス板のY軸方向に前記スクライブユニットを移動する第2の移動装置と、前記ガラス板と垂直なるZ軸方向に前記スクライブユニットを移動する第3の移動装置を備え、前記スクライブユニットのカッターヘッドに取付けたカッターで一定の押圧力を付与しながら前記ガラス板をスクライブするスクライブ装置において、前記スクライブユニットは前記第3の移動装置の昇降ブラケットに取付けられて、加圧手段と、ボールスプラインを内設して前記加圧手段の真下に配設したボールスプライン取付けユニットと、前記ボールスプラインのボールスプライン軸と直結して設けたカッターヘッド取付けユニットと、前記カッターを取付けた前記カッターヘッドと、前記ボールスプライン取付けユニットに設けられて前記ガラス板に付与される押圧力を減圧する減圧手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明のスクライブユニットの構成は、加圧手段の真下にボールスプライン取付けユニットを設けて、加圧手段の加圧力(押圧力)が直接にボールスプライン取付けユニットに内設したボールスプラインのボールスプライン軸に作用するようにしている。これにより、ボールスプライン軸には加圧手段の加圧力しかかからず、加圧手段の設定した加圧力でボールスプライン軸は運動する。
更に、ボールスプライン軸にカッターヘッド取付けユニットを直結させて、加圧手段の加圧力が直接的にカッターヘッド取付けユニットに及ぶようにしている。これにより、カッターヘッド取付けユニットにはボールスプライン軸から付与される加圧力のみで作用する。つまり、カッターヘッド取付けユニットに付与される加圧力は、他の外圧などの付与はないので最小に抑えることができる。
また更に、ボールスプラインなる転がり軸受けを採用する。低摩擦抵抗の下で直線運動する軸(ボールスプライン軸)を用いることで、軸の摺動摩擦抵抗を小さく抑えている。
【0016】
更にまた、押圧力の減圧手段を設けることで、押圧力が大きい場合には減圧手段で押圧力を下げ、所要の押圧力を得ることができる。これにより、薄板から厚板のガラスまで所要の押圧力でスクライブできる効果を得る。
【0017】
また、本発明の請求項2に係るスクライブ装置の特徴は、前記加圧手段は摺動摩擦抵抗が50gf以下のエアシリンダからなることを特徴とするものである。
【0018】
摺動摩擦抵抗が50gf以下であると押圧力のバラツキが小さくなり、ガラス表面への切込み深さが一定して安定し、非常に安定したスクライブ品質が得られる。これが、50gfより大きくなると押圧力のバラツキが大きくなり、ガラス表面の切込み深さのバラツキが大きくなり、スクライブ品質が悪くなる。
【0019】
また、本発明の請求項3に係るスクライブ装置の特徴は、前記ボールスプライン軸は前記加圧手段であるエアシリンダのシリンダ軸と略同一軸線上に配設されていることを特徴とするものである。
【0020】
ボールスプラインのボールスプライン軸をエアシリンダのシリンダ軸と略同一軸線上に配設することでボールスプライン軸の軸面には隔たりのない均一な力がかかる。このため、摺動摩擦抵抗が増すことなく最小の摩擦抵抗でボールスプライン軸が動く。
【0021】
また、本発明の請求項4に係るスクライブ装置の特徴は、前記減圧手段は前記ボールスプライン軸を上方に持ち上げる装置からなり、錘を配設したものからなることを特徴とするものである。
【0022】
錘を用いてボールスプライン軸を上方に持ち上げる機構にすれば、押圧力に対する抗力が生まれて押圧力が小さくなる。単に錘を使っての簡単な構造の減圧装置ができるので、コスト的にも安く形成できる。
【0023】
また、本発明の請求項5に係るスクライブ装置の特徴は、前記減圧手段は、ボールスプライン取付けユニットに取付けられる支持板と、該支持板に回動自在に取付けられるレバーと、該レバーの一方端側に取付けられる錘と、該レバーの他方端側に取付けられる昇降部材と、該昇降部材と間隙をもって係合して前記ボールスプライン軸に取付けられる昇降アームと、からなることを特徴とするものである。
【0024】
上記の構成にすることで、錘を取付けたレバーの一方端が下がり、レバーの他方端に取付けた昇降部材が上方に上がる。そして、それと共に昇降アームが上がってボールスプライン軸が上方に持ち上がる。テコの原理を使った構造で、構成部品点数も少ないのでコスト的に安くできる。
【0025】
また、本発明の請求項6に係るスクライブ装置の特徴は、前記減圧手段は減圧力が調整できることを特徴とするものである。
【0026】
減圧力が調整できることによって所望の押圧力を得ることができる。前述したことではあるが、エアシリンダは使用圧力範囲が決まっているので、所定の押圧力を得るにはそれに適したエアシリンダを選択しなければならない。しかしながら、減圧力が調整できるようになれば、1個のエアシリンダでかなり広い範囲での押圧力を得ることができる。
つまり、ガラスの板厚によってはエアシリンダを交換しなければならないものが、交換せずに減圧力の調整で対応できるようになる。
また、減圧力の調整で所望の押圧量を得ることができ、スクライブ品質も高めることができると共に、安定したスクライブ品質を得ることができる。
【0027】
また、本発明の請求項7に係るスクライブ装置の特徴は、前記減圧手段での減圧力の調整は錘の重さを変えることによって行うことを特徴とするものである。
【0028】
錘の重さで減圧力を調整する方法は、重さ別に錘の数を複数用意しておき、所要の重さの錘を使用すれば良い。錘の交換も容易で、コスト的にも安くできる。
【発明の効果】
【0029】
以上、請求項の発明毎にその作用・効果を詳しく説明した。纏めると、本発明のスクライブ装置は薄板ガラスも容易にスクライブすることができ、安定したスクライブ品質を得ることができる。また、使用するエアシリンダのタイプ別の数を最小限に抑えることができ、コスト的にも安いコストでスクライブ装置を製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以降、実施形態と云う)を図1〜図6を用いて説明する。なお、図1は本発明の実施形態に係るスクライブ装置の正面図、図2は図1におけるスクライブ装置の平面図、図3は図1における第3の移動装置とスクライブユニットの側面図を示している。図4は図3におけるボールスプライン取付けユニットの要部断面図、図5は図3におけるカッターヘッド取付けユニットとカッターヘッドの要部断面図、図6は図3における減圧装置の正面図と側面図で、図6の(a)は正面図、図6の(b)は図6の(a)におけるA方向から見た側面図を示している。
【0031】
図1、図2において、基台20上にテーブル21が設けられており、このテーブル21上にガラス板22が載置され、スクライブユニット50に設けられているカッターでスクライブされる。
スクライブユニット50はガラス板22の表面に押圧力を付与する装置であるが、このスクライブユニット50は第3の移動装置40の昇降ブラケット46に配設されており、図中矢印で示したX−X方向(以降、X軸方向と云う(図1参照))、Y−Y方向(以降、Y軸方向と云う(図2参照))に移動する。このX軸方向とY軸方向はガラス板22の面と平行をなして移動する。
また、このスクライブユニット50はガラス板22の面に対して垂直方向であるZ−Z方向(以降、Z軸方向と云う(図1参照))にも移動する。
【0032】
X軸方向の移動は第1の移動装置30によって行われる。また、Y軸方向の移動は第2の移動装置25によって行われ、Z軸方向の移動は第3の移動装置40によって行われる。
【0033】
ここで、それぞれの移動装置について簡単に説明する。
最初に、Y軸方向の移動を行う第2の移動装置25は、基台20の左右の溝23(図2参照)から突き出た2個の脚26と、図示していないが、基台20の内部に配設したサーボモータやボールネジ、及び、サーボモータやボールネジと係合する係合部材などを主要構成部品にして構成している。
突き出た左右2個の脚26の上部には第1の移動装置30が設けられていて、上記サーボモータが回転すると左右2個の脚が同時に同じ方向(Y軸方向)に移動する。そして、それに併せて2個の脚26上に設けられた第1の移動装置30もY軸方向に移動する。
【0034】
次に、第1の移動装置30は、左右2個の脚26の上部に設けた取付部材32a、32bと、この取付部材32a、32bに設けたサーボモータなるモータ33とボールネジ34、脚26の上部に設けられたレール35、及び、ブラケット36などから構成している。ブラケット36にはボールネジ34やレール35に係合する複数の係合部材が設けられており、これらの部材も含めて第1の移動装置30を構成している。
ブラケット36には第3の移動装置40が取付けられていて、モータ33の回転によってブラケット36がX軸方向に移動し、それに併せて第3の移動装置40もX軸方向に移動する。
【0035】
次に、第3の移動装置40は、図3に示すように、第1の移動装置のブラケット36に設けられている。
第3の移動装置40はサーボモータからなるモータ43、モータ43を取付ける取付台42、モータ43に連結されるボールネジ44、ボールネジ44を支持する支持台41と支持板45、ボールネジ44の回動によって上下に昇降する昇降ブラケット46、昇降ブラケット46を正常な位置で円滑に動かすためのスライド基台47とスライダー48、そして、ストッパー49などを主要構成部品にして構成している。
【0036】
スライド基台47はブラケット36に固定され、スライド基台47と係合して摺動するスライダー48は昇降ブラケット46に固定されている。スライド基台47とスライダー48との係合はスライド基台47に設けたV溝にスライダー48に設けた突起とが係合して円滑な摺動が行われるようになっている。
【0037】
ボールネジ44を支持する支持台41と支持板45は、支持台41はブラケット36に固定され、支持板45は昇降ブラケット46に固定されていて、ブラケット36からの双方の位置は同一の距離になっている。そして、この支持台41と支持板45で支持されたボールネジ44の回動によって昇降ブラケット46が上下に昇降する。
【0038】
ストッパー49は後述するスクライブユニット50のカッター57bの下降限度をコントロールするために設けている。つまり、カッター57bが規定以上に下降してガラス板22に異常な押圧力がかからないようにするために設けている。このストッパー49には電極49bが設けられていて、スクライブユニット50に設けたストッパー56aの電極56a2と接触する。
【0039】
第3の移動装置40の昇降ブラケット46にはスクライブユニット50を設けている。また、この第3の移動装置40はZ軸方向、つまり、ガラス板に対して垂直方向に移動する。そして、第3の移動装置40のZ軸方向の移動に伴ってスクライブユニット50もZ軸方向に移動する。
【0040】
次に、スクライブユニット50は、図3に示すように、第3の移動装置40の昇降ブラケット46に固定された取付台52と、この取付台52に設けたエアシリンダ53と、エアシリンダ53の真下に設けたボールスプライン取付けユニット54と、ボールスプライン取付けユニット54のボールスプライン軸54b1に直結したカッターヘッド取付けユニット56と、カッターヘッド取付けユニット56に設けたカッターヘッド57と、減圧装置55とから構成している。
ボールスプライン取付けユニット54は第3の移動装置40の昇降ブラケット46に固定されており、その内部にはボールスプラインを内設している。また、カッターヘッド取付けユニット56に設けられるカッターヘッド57は着脱可能に設けられており、カッターヘッド57は回動可能になっている。
以下、それぞれの構成ユニット毎にその仕様を説明する。
【0041】
エアシリンダ53はガラス板22の表面に押圧力を付与するための加圧手段として設けている。また、このエアシリンダ53は摺動摩擦抵抗が50gf以下のエアシリンダを用いている。
ここで、摺動摩擦抵抗が50gf以下のものを使用すると、ガラス表面での押圧力のバラツキが小さくなり、スクライブ切込み深さが一定になってスクライブ品質が安定するからである。また、摺動摩擦抵抗が50gfより大きくなると、押圧力のバラツキが大きくなり、それに併せて切込み深さのバラツキも大きくなってスクライブ品質が悪くなってくる。
なお、摺動摩擦抵抗が50gf以下のエアシリンダとしてはSMC株式会社製のMQPタイプの低摩擦シリンダなどが挙げられる。
【0042】
ボールスプライン取付けユニット54は、図4に示すように、取付部材54aにボールスプライン54bを内設したものからなっている。
ボールスプライン54bはボールスプライン軸54b1とボール54b2とスリーブ54b3とから構成されており、ボールスプライン軸54b1が軸方向のみに低摩擦抵抗の下で自在に移動する。本実施形態においては、摺動抵抗が10gf以下のものを使用しているので、摺動摩擦抵抗も小さく、また、摺動摩擦抵抗のバラツキも非常に小さい。
なお、摺動抵抗とはボールスプライン軸54b1を可動方向(垂直方向)に動かすとき、止まっている状態から動き始めるときに生じる抵抗力を示している。
【0043】
ボールスプライン54bは取付部材54aに設けた穴に挿入して穴と係合させるが、この穴は摺り割付の穴になっており、ボールスプライン54bを係合させた後にネジ(ボルト)54cで摺り割り部を締め付けてボールスプライン54bを固く穴に係合させている。
また、取付部材54aは第3の移動装置40の昇降ブラケット46に固く固定される。
【0044】
ボールスプライン軸54b1の上端はエアシリンダ53のシリンダ軸53bの下端まで突出しており、ボールスプライン軸54b1の上端はシリンダ軸53bの下端と常時接触している。
また、ボールスプライン軸54b1の下端はカッターヘッド取付けユニット56と直結している。
【0045】
本実施形態においては、ボールスプライン軸54b1とシリンダ軸53bとは略同一軸線上に配置している。同一軸線上に配置することにより、シリンダ軸53から付与される押圧力がボールスプライン軸54b1の軸面に均一にかかる。このため、ボールスプライン軸54b1とボール54b2との摺動面に偏りのある力がかからないために、ボールスプライン軸54b1の摺動摩擦抵抗は増えることなく最小限に抑えられる。
これが、同一軸線上から外れた位置のボールスプライン軸54b1に押圧力が付与されると、ボールスプライン軸54b1とボール54b2との摺動面に偏りのある力がかかり、摺動摩擦抵抗が増える。
なお、エアシリンダ53のシリンダ軸53bとボールスプライン54bのボールスプライン軸54b1とは、部品の製作精度や組立精度などによって完全に同一軸線上に配置できるとは限らない。略同一軸線上としてあるのはこれらの誤差を含めたものとして定義している。
【0046】
カッターヘッド取付けユニット56は、図5に示すように、ストッパー56aとヘッド取付け部材56bとから構成している。
ストッパー56aはカッター57bの下降量を規制するために設けている。ストッパー56aはストッパー板56a1に電極56a2を設けたものからなり、ボールスプライン軸54b1に圧入方法にて固く係合している。
このストッパー56aの電極56a2は第3の移動装置のストッパー49の電極49bと接触して電気信号が流れるようになっている。
【0047】
ヘッド取付け部材56bはカッターヘッド57を取付けるために設けているもので、ボールスプライン軸54b1と固く係合している。このヘッド取付け部材56bにはカッターヘッド57が取付けられる。
【0048】
カッターヘッド57はカッター取付部材57aとカッター57bとからなる。カッター取付部材57aはベアリング57a2を配設するためのベアリング取付部材57a1と、ベアリング57a2と、ベアリングに係合するホルダ57a3と、摺動部材57a5を配設するためのピン57a4と、摺動部材57a5と、摺動部材57a5にカッター57bを取付けるためのピン57a6とからなる。
【0049】
ここで、ホルダ57a3はベアリング57a2の内輪に圧入されてベアリング57a2に固定され、ベアリング57a2はその外輪がベアリング取付部材57a1に圧入されてベアリング取付部材57a1と固定される。これにより、ホルダ57a3はベアリング57a2によって回動自在に支持される。
【0050】
ベアリング取付部材57a1はカッターヘッド取付けユニット56のヘッド取付け部材56bに設けた凹部に静合状態で取付けられ、図示していない止めネジなどによって固定される。従って、止めネジを緩めてヘッド取付け部材56bからベアリング取付部材57a1を取り外すことによって、カッターヘッド57はカッターヘッド取付けユニット56から着脱が自由に可能になる。
【0051】
摺動部材57a5は板状の形状をなして、その先端側には摺り割りが設けられ、その摺り割り部にカッター57bがピン57a6を介して回転可能に取付けられる。また、摺動部材57a5はピン57a4を介してホルダ57a3に回動可能に取付けられる。これにより、カッター57bを設けた摺動部材57a5は中心軸Eから矢印でもって示したFの方向やF’の方向に動くようになっている。
つまり、カッターヘッド57が図中右側の方向に動くと、カッター57bはガラス板22との摩擦抵抗によりF方向に動いてガラス板22をスクライブするようになっている。逆に、カッターヘッド57が図中左側の方向に動くと、カッター57bはガラス板22との摩擦抵抗によりF’方向に動いてガラス板22をスクライブする。
【0052】
次に、図6に示す減圧装置55は、ガラス板22の表面での押圧力が大きかった場合に、押圧力を減圧して小さくするための手段として設けた装置である。
この減圧装置55は、ボールスプライン取付けユニット54に取付けられてレバー55cを支持する支持板55aと、支持板55aに止めピン55fを介して回動自在に設けられるレバー55cと、レバー55cの一方端側に設けられる錘55bと、レバー55cの他方端側に設けられる昇降部材55eと、ボールスプライン取付けユニット54のボールスプライン軸54b1に取付けられて昇降部材55eと間隙をもって係合する昇降アーム55dとから構成している。
【0053】
錘55bは、本実施形態においては、レバー55cの端側に設けた穴とネジ及びナットを介してレバー55cに固定して取付けている。また、昇降部材55eは先端にミニチュアベアリングを設けたピンからなり、圧入方法でレバー55cの他方端側に固定している。ピンの先端設けたミニチュアベアリングはボールスプライン軸54b1に取付けた昇降アーム55dの溝の中に間隙をもって係合する。
【0054】
レバー55cの一方端側に錘55bを取付けるとレバー55cの一方端側は下がる。そして、レバー55cの他方端側の昇降部材55eは持ち上がる。そして、同時に昇降部材55eと係合した昇降アーム55dが持ち上がり、併せてボールスプライン軸54b1も上方に持ち上がる。
【0055】
これによって、エアシリンダ53からボールスプライン軸54b1に付与される押圧力に錘55bから作用する抗力が働き、抗力の分だけ押圧力は減圧されて小さくなる。
従って、重さの異なる錘を各種用意しておき、減圧したい重量の錘を取付けることによって所望の押圧力が得られる。また、錘の重さを変えることによって押圧力を自由に調整することができる。
【0056】
減圧していない状態において、カッター57bを介してガラス板22の表面にかかる押圧力は、エアシリンダ53から付与される押圧力と、ボールスプライン軸54b1の重量とボールスプライン軸54b1の摺動抵抗、カッターヘッド取付けユニット56の重量、カッターヘッド57の重量の合算したものが押圧力としてガラス板22の表面にかかる。
ボールスプライン軸54b1、カッターヘッド取付けユニット56、カッターヘッド57は剛性を必要とすることから、本実施形態においては、主に鉄系材料でもって形成している。また、これらの構成部品の形状の大きさも装置として支障のないバランスの取れた大きさに形成している。
そのため、ボールスプライン軸54b1の摺動抵抗が非常に小さいものを用いたにしても、ボールスプライン軸54b1の重量、カッターヘッド取付けユニット56の重量、カッターヘッド57の重量などからもたらされる押圧力は約300gf前後になり、エアシリンダ53の押圧力を加えると約400gf前後の押圧力になる。
【0057】
一方、0.2mm板厚のガラス板22をスクライブするのに望ましい押圧力は200gf位と云われている。
そこで、200gf減圧する錘を用いることにより200gfの押圧力が得られる。
【0058】
以上述べたように、スクライブユニットに上記の構成をなす減圧装置を設けることにより、所望の押圧力を得ることができる。特に、薄板ガラスのスクライブにおいては低押圧力が要求される。減圧装置にて所望の低押圧力を得ることができ、クラックの発生や細長いガラスの欠け片の発生などを防止することができる。また、ガラスの切り粉発生も最小限に抑えることができ、良好で安定したスクライブ品質を得ることができる。
また、スクライブにおける押圧力の最適値は、ガラスの板厚及び硬さにより変動する。つまり、同じ板厚でもガラスに配合される成分やガラスの表面に施した処理により、スクライブ時の押圧力を適宜変更する必要がある。ここでは、説明の煩雑さを避けるため、スクライブ時の荷重が小さい場合の一例として「0.2mm板厚のガラスをスクライブする際の押圧力は200gf」と云う条件を挙げているが、ガラスの成分や表面処理によっては、これに限るものではない。
【0059】
また、減圧装置も錘を使ってのテコの原理を利用した非常にシンプルな構造を取っているので、コスト的にも安くできる。
【0060】
また、本実施形態においては、エアシリンダは摺動摩擦抵抗が50gf以下のものを使用する。また、摺動抵抗が10gf以下の非常に小さいボールスプラインを使用する。
なお、好ましくは、摺動摩擦抵抗が30gf以下のシリンダを用いて、更に好ましくは、摺動摩擦抵抗が30gf以下のシリンダと摺動抵抗が10gf以下のボールスプラインを組合せて用いることにより、エアシリンダからカッターに至るまでの摺動摩擦抵抗の合計が50gf以下となる構成を用いる。
このように、摺動摩擦抵抗の非常に小さい装置を用いることにより、押圧力のバラツキは非常に小さくなり、常に一定の安定した押圧力が得られる。このことはまた、スクライブ品質を安定させる効果を生む。
【0061】
また、本実施形態においては、エアシリンダのシリンダ軸とボールスプラインのボールスプライン軸とを同一軸線上に配置する。同一軸線上に配置することで、シリンダ軸から付与される押圧力がボールスプライン軸の軸面に均一にかかる。つまり、ボールスプライン軸の摺動面に偏りのある力がかからないために、ボールスプラインの摺動摩擦抵抗は増えない。
【0062】
また、本実施形態においては、エアシリンダの押圧力の伝達にボールスプラインを用いる。ボールスプラインはボールスプライン軸が軸周りに回転せずに軸方向に運動する。このため、振動などによる異常な力がかかっても、ボールスプライン軸はエアシリンダの押圧力が付与されており、しかも回動しないので、カッターの追従性に及ぼす影響は小さく抑えられる。
前述した従来技術にあっては、カッターはヘッド本体の回動自在に設けたヘッド軸に連結した構造をなしている。この構造の下では、振動などによる異常な力がかかった場合にヘッド軸が回動することが起きる。そして、その回動に併せてカッターが追従する危険が生じる。つまり、カッターの追従性に振動などによる異常な力の作用がもろに影響を及ぼす。
【0063】
なお、本実施形態においては、加圧手段としてエアシリンダを用いたが、加圧手段としては特にエアシリンダに限るものではない。例えば、加圧力が一定で、調整する必要性が殆どない場合には、極端な例として加圧手段に錘を用いても支障はないものである。
【0064】
また、本実施形態においては、減圧手段として、錘を用いた減圧装置で構成したが、必ずしも本実施形態の構成装置に限るものではなく、他の構成装置であっても良い。また、錘以外のものを用いた減圧手段であっても構わない。
【0065】
次に、上記で説明した減圧手段での減圧力の調整方法は錘の重さを変えることによって行う調整方法を取っている。これは、重さが異なる錘を幾種類か用意しておき、重さの異なる錘を変えることによって減圧力を調整するものである。
【0066】
減圧力の調整は他の調整方法も可能で、以下、減圧装置55における他の調整方法を図7を用いて説明する。図7の(a)は錘の取付け位置を変えることによって減圧力を調整し、図7の(b)は錘の取付け位置と錘の重さを変えることによって減圧力を調整する説明図を示している。
【0067】
図7の(a)において、レバー55cには複数の錘の取付け穴55c1、55c2、55c3、55c4を設けている。支持板55aに止めピン55fを介して回動自在に取付けたレバー55cの取付け位置Oを基点とし、基点Oからの取付け穴55c1、55c2、55c3の距離をそれぞれl1、l2、l3、・・とすると、同じ重さの錘55bを用いても、錘55bを取付ける穴の位置によって作用する力が異なる。これは、レバー55cの重量が影響するためで、基点Oからの取付け距離が長くなるに従ってレバー55cの重量が増し、それに錘55bの重量が加わってくるためである。レバー55cに錘55bを取付けると、錘55b取付け側のレバー55cが下降する。そして、反対側にある昇降部材55eが上昇する。
錘55bの取付け位置が基点Oから遠くになるに従って下降量が大きくなり、併せて昇降部材55eの上昇量が大きくなる。そして、昇降部材55eの上昇量が大きくなることによってボールスプライン軸54b1の持ち上がり量も大きくなり、減圧力が増える作用を生む。
【0068】
錘の重さだけで減圧力を調整する方法は、重さの異なる錘を幾種類も用意する必要がある。しかしながら、錘の取付け位置を変える調整方法を取ると、用意する錘の種類を少なくすることができる。
【0069】
図7の(b)に示す調整方法は、錘を2種類用い、それぞれ取付け位置を異にした調整方法である。取付け穴55c1には錘55b1を取付け、取付け穴55c3には錘55b2を取付けている。錘55b1と錘55b2は重さが異なる錘であっても良い。
【0070】
このように、錘の重さと取付け位置の両方を組み合わせた調整方法を取ると、減圧力の調整範囲を各段に広げることができるようになる。
【0071】
本発明のスクライブ装置は、小さい押圧力を必要とする薄板ガラスのスクライブに最も適した装置である。しかしながら、大きい押圧力を必要とする厚板ガラスのスクライブにも適用することもできる。必要とする押圧力に応じて適するエアシリンダを選択する必要があるが、本発明のスクライブ装置は減圧力を調整して所望の押圧力を得ることができる故、用いるエアシリンダの種類の数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係るスクライブ装置の正面図である。
【図2】図1におけるスクライブ装置の平面図である。
【図3】図1における第3の移動装置とスクライブユニットの側面図である。
【図4】図3におけるボールスプライン取付けユニットの要部断面図である。
【図5】図3におけるカッターヘッド取付けユニットとカッターヘッドの要部断面図である。
【図6】図3における減圧装置の正面図と側面図で、図6の(a)は正面図、図6の(b)は図6の(a)におけるA方向から見た側面図である。
【図7】減圧力を調整する他の方法を説明する説明図で、図7の(a)は錘の取付け位置を変えることによって減圧力を調整する説明図、図7の(b)は錘の取付け位置と錘の重さを変えることによって減圧力を調整する説明図である。
【図8】特許文献1に示されたスクライブ装置の要部断面図である。
【符号の説明】
【0073】
20 基台
21 テーブル
22 ガラス板
23 溝
25 第2の移動装置
26 脚
30 第1の移動装置
32a、32b、54a 取付部材
33、43 モータ
34 ボールネジ
35 レール
36 ブラケット
40 第3の移動装置
41 支持台
42、52 取付台
45、55a 支持板
46 昇降ブラケット
47 スライド基台
48 スライダー
49、56a ストッパー
49b、56a2 電極
50 スクライブユニット
53 エアシリンダ
53b シリンダ軸
54 ボールスプライン取付けユニット
54b ボールスプライン
54b1 ボールスプライン軸
54b2 ボール
54b3 スリーブ
55 減圧装置
55b、55b1、55b2 錘
55c レバー
55c1、55c2、55c3、55c4 取付け穴
55d 昇降アーム
55f 止めピン
55e 昇降部材
56 カッターヘッド取付けユニット
56a1 ストッパー板
56b ヘッド取付け部材
57 カッターヘッド
57a カッター取付部材
57a1 ベアリング取付部材
57a2 ベアリング
57a3 ホルダ
57a4、57a6 ピン
57a5 摺動部材
57b カッター
60 スクライブ装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブル上に載置したガラス板と平行に、ガラス板のX軸方向にスクライブユニットを移動する第1の移動装置と、前記ガラス板のY軸方向に前記スクライブユニットを移動する第2の移動装置と、前記ガラス板と垂直なるZ軸方向に前記スクライブユニットを移動する第3の移動装置を備え、前記スクライブユニットのカッターヘッドに取付けたカッターで一定の押圧力を付与しながら前記ガラス板をスクライブするスクライブ装置において、
前記スクライブユニットは前記第3の移動装置の昇降ブラケットに取付けられて、加圧手段と、ボールスプラインを内設して前記加圧手段の真下に配設したボールスプライン取付けユニットと、前記ボールスプラインのボールスプライン軸と直結して設けたカッターヘッド取付けユニットと、前記カッターを取付けた前記カッターヘッドと、前記ボールスプライン取付けユニットに設けられて前記ガラス板に付与される押圧力を減圧する減圧手段と、を備えていることを特徴とするスクライブ装置。
【請求項2】
前記加圧手段は摺動摩擦抵抗が50gf以下のエアシリンダからなることを特徴とする請求項1に記載のスクライブ装置。
【請求項3】
前記ボールスプライン軸は前記加圧手段であるエアシリンダのシリンダ軸と略同一軸線上に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスクライブ装置。
【請求項4】
前記減圧手段は前記ボールスプライン軸を上方に持ち上げる装置からなり、錘を配設したものからなることを特徴とする請求項1に記載のスクライブ装置。
【請求項5】
前記減圧手段は、前記ボールスプライン取付けユニットに取付けられる支持板と、該支持板に回動自在に取付けられるレバーと、該レバーの一方端側に取付けられる錘と、該レバーの他方端側に取付けられる昇降部材と、該昇降部材と間隙をもって係合して前記ボールスプライン軸に取付けられる昇降アームと、からなることを特徴とする請求項1又は4に記載のスクライブ装置。
【請求項6】
前記減圧手段は減圧力を調整できることを特徴とする請求項1又は4、5のいずれかに記載のスクライブ装置。
【請求項7】
前記減圧手段での減圧力の調整は錘の重さを変えることによって行うことを特徴とする請求項1又は4乃至6のいずれかに記載のスクライブ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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