説明

スクリュポンプ

【課題】ロータの鋭角部分を減らし、吐出容積率の高いスクリュポンプを提供する。
【解決手段】スクリュポンプの第一ロータ20は、3条で3つの歯20Aを有する。歯20Aの歯元部20A1は、第二ロータ30の中径円30B2の一点に基づいたトロコイド曲線により輪郭が形成される。また歯20Aの歯先部20A2は、第二ロータ30の中径円30B2の一点に基づいたサイクロイド曲線により輪郭が形成される。第二ロータ30は、4条で4つの歯30Aを有する。歯30Aの歯元部30A1は、第一ロータ20の中径円20B2に基づいたトロコイド曲線により輪郭が形成される。歯30Aの歯先部30A2は、第一ロータ20の中径円20B2に基づいたサイクロイド曲線により輪郭が形成される。第一ロータ20の歯幅角θは、歯先部20A2が外径円20B3に接触するよう最小角度以上で、吐出容積率が最小角度のときとほぼ同等となる角度以下に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対のロータの回転により流体をハウジング内へ吸入し、さらに、流体を
ハウジング外へ吐出するスクリュポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュポンプは、螺旋状の歯を有した第一ロータと第二ロータが互いに噛み合って作動室を形成する。スクリュポンプは、第一ロータおよび第二ロータが回転することで、作動室に流体を閉じ込めて、スクリュポンプの吸入口から吐出口へと流体を搬送するものである。スクリュポンプでは、ブローホールなどにより流体の搬送効率が低下することが知られている。そのため、例えば、特許文献1のようにロータの形状を工夫し効率の向上が図られている。
【0003】
特許文献1には、主動ローター(第一ロータ)と従動ローター(第二ロータ)が噛み合って回転自在に設けられたねじポンプ(スクリュポンプ)が開示されている。特許文献1のスクリュポンプでは、主動ローターの主歯形は、従動ローターの歯先端点が描くサイクロイドである。また、従動ローターの主歯形は、主動ローターの歯先端点が描くトロコイドである。これにより、筒抜け(ブローホール)の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−73959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のねじポンプでは、従動ローターの歯先端点が鋭角となっている。そのため、加工工程および品質確保に工数がかかってしまうという問題がある。また、スクリュポンプは、一般的にルーツポンプに比べ容積効率が悪いという問題もあった。ロータを収容する容積に対しロータの占める面積が大きく、吐出容積が小さくなっていた。そのため、同じ吐出容積のルーツポンプなどに比べ、スクリュポンプの体格が大きくなってしまっていた。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、ロータの鋭角部分を減らし、吐出容積率の高いスクリュポンプの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、ハウジングと、ハウジング内に流体を吸入する吸入口と、ハウジングから流体を吐出する吐出口と、歯先端部がハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、ハウジング内に回転自在に収容される第一ロータと、第一ロータの歯と噛み合い、歯先端部がハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、第一ロータと同期回転自在にハウジング内に収容される第二ロータとを備え、第一ロータおよび第二ロータは、歯先部の輪郭がサイクロイド曲線で形成されるとともに、歯元部の輪郭がトロコイド曲線で形成されており、第二ロータのピッチ円は、第一ロータのピッチ円よりも大きく、第二ロータの条数は、第一ロータの条数よりも多く、第一ロータの歯幅角は、歯先端部が第一ロータの外径円に線接触する最小角度以上で、スクリュポンプの吐出容積率が最小角度のときとほぼ同等となる歯幅角以下の角度であることことを特徴とする。
【0008】
本発明では、第一ロータの歯先部の輪郭をサイクロイド曲線で形成し、歯元部の輪郭をトロコイド曲線で形成した。そのため、第一ロータの歯幅を狭くしてシリンダ容積に対するロータ容積の比であるロータ占有率を低減することができ、スクリュポンプの吐出容積率を向上させることができる。さらに、第二ロータの歯先端部は鈍角部分が形成され、従来に比べ鋭角部分を低減することができる。なお、吐出容積率とは、シリンダ容積に対する理論吐出容積の比である理論吐出容積率にハウジングとロータとのクリアランスに起因する体積効率を乗じたものである。
【0009】
また、上記スクリュポンプにおいて、第一ロータおよび第二ロータは、互いの歯が噛み合うピッチ円上で歯先部のサイクロイド曲線から歯元部のトロコイド曲線へと変わることを特徴とする。
【0010】
また、第一ロータの歯幅角を、ポンプの吐出容積率が最大となる角度より4度以内とした。
また、第一ロータの歯幅角を、最小角度以上で最小角度より9度大きい歯幅角以下の角度とした。
また、上記スクリュポンプにおいて、第一ロータの外径円の直径に対する第一ロータの回転軸心と第二ロータの回転軸心との間隔の比は、成立限界の最小値以上、最小値より0.02大きい値以下の範囲内であることを特徴とする。
【0011】
また、上記スクリュポンプにおいて、第一ロータは、3条の歯を有し、第二ロータは、4条の歯を有していることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、ハウジングと、ハウジング内に流体を吸入する吸入口と、ハウジングから流体を吐出する吐出口と、歯先端部がハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、ハウジング内に回転自在に収容される第一ロータと、第一ロータの歯と噛み合い、歯先端部がハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、第一ロータと同期回転自在にハウジング内に収容される第二ロータとを備え、第一ロータは、歯先部の輪郭がサイクロイド曲線で形成されるとともに、歯元部の輪郭がインボリュート曲線で形成されており、第二ロータは、歯先部の輪郭がインボリュート曲線で形成されているとともに、歯元部の輪郭がトロコイド曲線で形成されており、第二ロータのピッチ円は、第一ロータのピッチ円よりも大きく、第二ロータの条数は、第一ロータの条数よりも多く、第一ロータの歯幅角は、歯先端部が第一ロータの外径円に線接触する最小角度以上で、ポンプの吐出容積率が最小角度のときとほぼ同等となる歯幅角以下の角度であることを特徴とする。
【0013】
本発明では、第一ロータの歯先部の輪郭をサイクロイド曲線で形成し、歯元部の輪郭をトロコイド曲線で形成し、第二ロータの歯先部の輪郭をインボリュート曲線で形成し、歯元部をトロコイド曲線で形成した。そのため、第一ロータの歯幅を狭くしてロータ占有率を低減することができ、スクリュポンプの吐出容積率を向上させることができる。さらに、第二ロータの歯先端部は鈍角部分が形成され、従来に比べ鋭角部分を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ロータの鋭角部分を減らし、吐出容積率の高いスクリュポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスクリュポンプの上断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る第一ロータおよび第二ロータの断面図である。
【図3】シミュレーションに用いた第一ロータおよび第二ロータを示す断面図である。
【図4】シミュレーション結果を示す図である。
【図5】シミュレーション結果を示す図である。
【図6】シミュレーション結果を示す図である。
【図7】シミュレーション結果を示す図である。
【図8】本発明の変更例に係るロータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るスクリュポンプについて図に基づいて説明する。
図1に示すようにスクリュポンプ10は横置き型のスクリュポンプである。スクリュポンプ10は、オイルフリーの真空ポンプとして用いられる。スクリュポンプ10のハウジングは、ロータハウジング11と、ロータハウジング11の前端部に接合されるフロントハウジング12と、ロータハウジング11の後端部に接合されるリヤハウジング13とにより構成されている。ハウジング内の空間部には、互いに噛み合う第一ロータ20及び第二ロータ30が収容されている。
【0017】
ロータハウジング11の一端側(図1の左側)には、ハウジング内に流体を吸入する吸入口14が形成され、他端側(図1の右側)にはハウジング内の流体を外部へ吐出する吐出口15が形成されている。吸入口14は、略方形状に開口されて、第二ロータ30寄りに配置されている。吸入口14は、両ロータ20、30の噛み合う位置を臨んでいる。吐出口15は、第二ロータ30の側にて開口されている。吐出口15の開口面積は、吸入口14より小さく設定されている。
【0018】
第一シャフト21は、第一ロータ20を貫通し第一ロータ20に固定されている。第二シャフト31は、第二ロータ30を貫通して第二ロータ30に固定されている。第一ロータ20の回転軸心A1と第二ロータ30の回転軸心A2は、間隔Lで平行に配置される。第一シャフト21の一端部(図1の左側)は、フロントハウジング12に形成された軸孔12Aに挿通され、軸受18を介してフロントハウジング12に支持されている。第一シャフト21の他端部(図1の右側)は、リヤハウジング13に形成された軸孔13Aに挿通され、軸受18を介してリヤハウジング13に支持されている。
【0019】
第二シャフト31の一端部(図1の左側)は、フロントハウジング12に形成された軸孔12Bに挿通され、軸受18を介してフロントハウジング12に支持されている。第二シャフト31の他端部(図1の右側)は、リヤハウジング13に形成された軸孔13Bに挿通され、軸受18を介してリヤハウジング13に支持されている。即ち、第一ロータ20は両端から突出する第一シャフト21により両持式にハウジングに軸支される。第二ロータ30は両端から突出する第二シャフト31により両持式にハウジングに軸支される。
【0020】
リヤハウジング13を挟んでロータハウジング11と反対側には、ギヤハウジング40がリヤハウジング13に接合されている。ギヤハウジング40は、リヤハウジング13とともにギヤ室41を形成する。第一シャフト21の他端部は、リヤハウジング13を貫通しており、ギヤハウジング40内において駆動ギヤ42に固定されている。第二シャフト31の他端部はリヤハウジング13を貫通しており、ギヤハウジング40内において従動ギヤ43に固定されている。ギヤハウジング40内には、駆動源としての電動モータ45が配置され、電動モータ45の出力軸46は軸継手47を介して第一シャフト21の他端部に連結されている。駆動ギヤ42と従動ギヤ43の噛み合いにより、第一シャフト21の回転は駆動ギヤ42及び従動ギヤ43を介して第二シャフト31に伝達され、第一ロータ20及び第二ロータ30が同期回転される。
【0021】
次に、図2に基づき第一ロータ20および第二ロータ30の形状について説明する。
第一ロータ20は、3条のオスロータである。第一ロータ20は、内径円20B1で表せられる軸周面を有している。第一ロータ20は、軸周面から径方向に放射状に広がる螺旋状の歯20Aを3つ備えている。内径円20B1は、第一シャフト21の回転軸心A1を中心とする円である。各歯20Aは、図2に示すように第一ロータ20の断面において、それぞれ等間隔に配置されている。
【0022】
第一ロータ20の歯20Aは、回転軸心A1側の歯元部20A1と、歯元部20A1の外周側に位置する歯先部20A2とを有する。歯元部20A1と歯先部20A2の境界は、中径円20B2で表されるロータ20のピッチ円上にある。また、歯先部20A2の径方向の先端には、外径円20B3で表される歯先端部20A3を有する。図2に示すように、歯元部20A1は、径方向において内径円20B1と中径円20B2との間に位置する部位である。歯先部20A2は、径方向において中径円20B2と外径円20B3との間に位置する部位である。中径円20B2の直径は、内径円20B1の直径より大きく設定されている。そして、外径円20B3の直径は、中径円20B2の直径よりも大きく設定されている。ロータハウジング11の内周面の一部分は、外径円20B3に沿う位置に形成されている。歯先端部20A3は、外径円20B3上においてロータハウジング11の内周面に接触する。第一ロータ20は、歯20Aが螺旋状に形成されているので、歯先端部20A3は、ロータハウジング11の内面に対し、線接触する。
【0023】
第二ロータ30は、4条のメスロータである。第二ロータ30は、内径円30B1で表される軸周面を有している。内径円30B1は、第二シャフト31の回転軸心A2を中心とする円である。第二ロータ30は、軸周面から径方向に放射状に広がる螺旋状の歯30Aを4つ備えている。歯30Aは、第一ロータ20の歯20Aと噛み合うものである。各歯30Aは、図2に示すように第二ロータ30の断面において、等間隔に配置されている。
【0024】
第二ロータ30の歯30Aは、回転軸心A2側の歯元部30A1と、歯元部30A1の外周側に位置する歯先部30A2とを有する。歯元部30A1と歯先部30A2の境界は、中径円30B2で表されるロータ30のピッチ円上にある。また、歯先部30A2の径方向の先端には、外径円30B3で表される歯先端部30A3を有する。図2に示すように、歯元部30A1は、径方向において内径円30B1と中径円30B2との間に位置する部位である。歯先部30A2は、径方向において中径円30B2と外径円30B3との間に位置する部位である。歯先端部30A3は、外径円30B3に沿うように円弧状に形成されている。中径円30B2の直径は、内径円30B1の直径より大きく設定されている。そして、外径円30B3の直径は、中径円30B2の直径よりも大きく設定されている。本実施形態において、第一ロータ20の外径円20B3と第二ロータ30の外径円30B3は、同じ直径で形成されている。ロータハウジング11の内周面の一部分は、外径円30B3に沿う位置に形成されている。歯先端部30A3は、外径円30B3上においてロータハウジング11の内周面に一定の面で接触する。
【0025】
第一ロータ20の歯元部20A1の輪郭は、第二ロータ30の外径円30B3に基づきトロコイド曲線で形成されている。つまり、第二ロータ30の外径円30B3上のある一点が第一ロータ20のピッチ円である中径円20B2のある点から描くトロコイド曲線として形成されている。本実施形態では、歯元部20A1の輪郭は、全てがトロコイド曲線となっている。一方、第一ロータ20の歯先部20A2の輪郭は、第二ロータ30の中径円30B2に基づきサイクロイド曲線で形成されている。つまり、第二ロータ30の中径円30B2上のある一点が、第一ロータ20のピッチ円である中径円20B2のある点から描くサイクロイド曲線として形成されている。なお、歯先端部20A3(外径円20B3上)において2つサイクロイド曲線が交わっている。また、歯先部20A2の輪郭は、全てがサイクロイド曲線となっている。
【0026】
第一ロータ20は、図2に示すような歯幅角θで各歯20Aの歯幅の大きさが設定されている。歯幅角θは、第一ロータ20の回転軸心A1から歯20Aの中径円20B2における幅を結んだときに形成される角度である。第一ロータ20では、3つの各歯20Aが同じ歯幅角θで形成されている。歯幅角θは、図2よりも大きくすると、歯先端部20A3が外径円20B3においてロータハウジング11と面接触するように大きくなる。一方、図2よりも歯幅角θを小さくすると、歯先端部20A3が径方向内側に移動して、ロータハウジング11と接触しなくなる。そのため、流体が隙間から漏れてポンプとして機能しなくなる。図2に示すように、歯先端部20A3が外径円20B3においてロータハウジング11の内面に線接触するときの歯幅角θが、歯幅角θの最小角度である。本実施形態においては、第一ロータ20の歯幅角θは、この最小角度に設定されている。
【0027】
第二ロータ30の歯元部30A1の輪郭は、第一ロータ20の外径円20B3に基づきトロコイド曲線で形成されている。つまり、第一ロータ20の外径円20B3上のある一点が第二ロータ30のピッチ円である中径円30B2のある点から描くトロコイド曲線として形成されている。本実施形態では、歯元部30A1の輪郭は、全てがトロコイド曲線となっている。一方、第二ロータ30の歯先部30A2の輪郭は、第一ロータ20の中径円20B2に基づきサイクロイド曲線で形成されている。つまり、第一ロータ20の中径円20B2上のある一点が第二ロータ30のピッチ円である中径円30B2のある点から描くサイクロイド曲線として形成されている。本実施形態において、歯元部30A1のトロコイド曲線は、第二ロータ30の内径円30B1に接触する状態である。つまり、隣り合う歯30Aは、一トロコイド曲線により歯元部30A1が形成されている。また、歯先部30A2は、ロータハウジング11の内面(外径円30B3)に到達した部分までがサイクロイド曲線で形成されている。
【0028】
ここで、第一ロータ20の歯幅角θとスクリュポンプ10における理論吐出容積率についてのシミュレーション結果を説明する。
図3は、シミュレーションに用いたスクリュポンプ10の第一ロータ20および第二ロータ30の断面を示す図である。シミュレーションでは、第一ロータ20の外径円20B3の直径を100ミリメートルとした。さらに、第一ロータ20の回転軸心A1と第二ロータ30の回転軸心A2との間隔Lを70ミリメートルとした。第一ロータ20は、3条(3歯)であり、第二ロータ30は、4条(4歯)である。第一ロータ20および第二ロータ30は、歯元部20A1、30A1の輪郭がトロコイド曲線で形成されている。また歯先部20A2、30A2の輪郭は、サイクロイド曲線で形成されている。
【0029】
図4は、図3の第一ロータ20の歯幅角θを変化させたときの、スクリュポンプ10における理論吐出容積率の変化を示している。ここで、理論吐出容積率とは、次の(式1)で定義されるものである。
理論吐出容積率=理論吐出容積/シリンダ容積 ・・・(式1)
理論吐出容積は、第一ロータ20が1回転するときの吐出容積である。シリンダ容積は、第一ロータ20および第二ロータ30が収容されているロータハウジング11の容積である。
【0030】
図4に示すように、第一ロータ20の歯幅角θは、51度、60度、70度、80度の4つの場合をシミュレーションした。その結果、第一ロータ20の歯幅角θが大きくなるとともに、理論吐出容積率が減少した。シミュレーション結果では歯幅角θが51度のときに、理論吐出容積率がおよそ0.50と一番大きい。よって第一ロータ20の歯幅角θは、小さい方が良いと言える。なお、今回のシミュレーション条件において、第一ロータ20の歯幅角θは、51度が最小角度である。つまり、歯幅角θを51度未満にすると、第一ロータ20がロータハウジング11の内面との間に隙間を有して流体漏れが大きくなり、スクリュポンプ10は効率が大きく低下する。
【0031】
図4において、歯先端部20A3と歯先端部30A3は、外径円20B3上においてロータハウジング11の内周面に接触した状態で、第一ロータ20の歯幅角θを変化させたときの、スクリュポンプ10における吐出容積率の変化のシミュレーション結果を示した。しかし、実際のスクリュポンプ10を製造する場合においては、摩擦抵抗及び製造交差の関係から第一ロータ20の歯先端部20A3と第二ロータの歯先端部30A3とロータハウジング11との間にはそれぞれクリアランスが必要であり、このクリアランスにより体積効率が変化するため、実際の吐出容積率は、次の(式2)で定義されるものになる。
吐出容積率=理論吐出容積率×体積効率 ・・・(式2)
図5は、スクリュポンプ10の体格において一般的なクリアランスを用いたときに、図3の第一ロータ20の歯幅角θを変化させたときの、スクリュポンプ10における吐出容積率の変化を示している。
第一ロータ20の歯幅角θは、51度、60度、70度、80度の4つの場合をシミュレーションした。その結果、第一ロータ20の歯幅角θが大きくなるとともに、吐出容積率は増加してから減少した。シミュレーション結果では歯幅角θが51度のときに、吐出容積率がおよそ0.461となり、歯幅角θが60度のときに、吐出容積率がおよそ0.460となった。歯幅角θが51度から60度の間にあるときの吐出容積率の詳細をシミュレーションすると、歯幅角が55度のときに、吐出容積率が最大となったあと減少し、59度までは歯幅角θが51度の時とほぼ同等の吐出容積率となった。なお、今回のシミュレーション条件においても、第一ロータ20の歯幅角θは、51度が最小角度である。
【0032】
次に、別のシミュレーション結果について図6に基づき説明する。図6のシミュレーション条件は、図4のシミュレーション条件と同じである。つまり、外径円20B3の直径は100ミリメートル、間隔Lは70ミリメートルである。そして、第一ロータ20の条数および第二ロータ30の条数をそれぞれ変化させて理論吐出容積率を測定した。なお、第一ロータ20の歯幅角θは、条数が変わっても常に最小角度となるよう設定した。
【0033】
図6に示すように、第一ロータ20が3条の場合、第二ロータ30は4条よりも5条のときに理論吐出容積率が低くなっている。そして、第一ロータ20が4条の場合は、第二ロータ30が5条の場合より6条のときに理論吐出容積率が低くなっている。ここから、第一ロータ20と第二ロータ30の条数の関係は、第一ロータ20の条数と第二ロータ30の条数の差が小さい方が理論吐出容積率を大きくできることがわかる。なお、第一ロータ20が5条のときは、本シミュレーションの条件下では第二ロータ30は7条で形成することができなかった。
【0034】
さらに、図6では、第一ロータ20の条数が3条から4条、5条と増加するに伴い、理論吐出容積率は、上昇していることがわかる。このシミュレーション結果では、第一ロータ20が5条で第二ロータ30が6条のときに、理論吐出容積率がおよそ0.535と一番高くなった。
【0035】
次に、別のシミュレーション結果について図7に基づき説明する。本シミュレーションでは、第一ロータ20の歯幅角θを常に最小角度とした。外径円20B3の直径は、100ミリメートルである。そして、第一ロータ20および第二ロータ30の条数を変化させるとともに、第一ロータ20の回転軸心A1と第二ロータ30の回転軸心A2との間隔Lを変化させた場合の理論吐出容積率の変化を測定した。なお、第二ロータ30の条数は、第一ロータ20の条数より大きく、差が小さくなるよう設定している。つまり、第一ロータ20の条数より一つ大きい条数を採用している。
【0036】
図7に示すように、間隔Lを70ミリメートルから減少させていくと、理論吐出容積率は、大きくなることがわかる。本シミュレーション結果では、第一ロータ20が3条、第二ロータ30が4条において、間隔L/外径円20B3が0.62のときに、理論吐出容積率は、およそ0.63と一番大きくなっている。
【0037】
第一ロータ20が3条の場合、外径円20B3に対する間隔Lの比は、0.62より小さくすると、第一ロータ20および第二ロータ30が近づき過ぎる。そのため、スクリュポンプ10として成立しなくなる。つまり、スクリュポンプ10の成立限界は、第一ロータ20が3条、第二ロータ30が4条の場合、外径円20B3(100ミリメートル)に対する間隔L(62ミリメートル)の比が0.62のときである。外径円20B3に対する間隔Lの比は、成立限界である0.62以上であれば良い。同様に、第一ロータ20が4条、第二ロータ30が5条の場合、外径円20B3(100ミリメートル)に対する間隔L(66ミリメートル)の比の成立限界としての最小値は、0.66である。
【0038】
また、第一ロータ20が5条、第二ロータ30が6条の場合、外径円20B3に対する間隔L(69ミリメートル)の比は、0.69が成立限界の最小値である。そのため、図7のシミュレーション結果から、外径円20B3に対する間隔Lの比は、第一ロータ20および第二ロータ30の成立限界の値から、成立限界の値より0.02大きい値の範囲とすると、理論吐出容積率が高く好ましい。
【0039】
図4乃至図7のシミュレーション結果を踏まえ、図2の第一ロータ20および第二ロータ30の形状について更に説明する。
第一ロータ20は、3条である。そして第二ロータ30は、第一ロータ20の条数より大きく、条数の差が小さい4条である。第一ロータ20の外径円20B3は直径が100ミリメートルと設定されている。そして、第一ロータ20の回転軸心A1と第二ロータ30の回転軸心A2の間隔Lは、62ミリメートルに設定するのが好ましい。また第一ロータ20の歯幅角θは、51度から59度の間に設定するのが好ましい。歯幅角θは、最小角度51度から59度の間に設定するのが好ましいが、製造公差を考慮すると、1度程度は許容範囲である。つまり、歯幅角θは、51度以上60度以内であれば良く、吐出容積率を高くできる。なお、図6及び図7のシミュレーションについては、ロータハウジング11は関与しないため、理論吐出容積率の増加は、そのまま吐出容積率の増加につながる。
【0040】
本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)スクリュポンプ10の第一ロータ20および第二ロータ30において、歯元部20A1、30A1の輪郭をトロコイド曲線で形成し、歯先部20A2、30A2の輪郭をサイクロイド曲線で形成した。これにより、ブローホールを低減し高効率のスクリュポンプ10を提供できる。
(2)第二ロータ30は、第一ロータ20の条数より大きい条数であり、第二ロータ30のピッチ円は、第一ロータ20のピッチ円より大きく設定されている。そして第一ロータ20の歯幅角θは、歯先端部20A3が外径円20B3に線接触する最小角度における吐出容積率とほぼ同等になる角度としたので、吐出容積率を高くすることができる。吐出容積率が高いので、スクリュポンプ10の小型化を図ることができる。
【0041】
(3)第二ロータ30は、サイクロイド曲線およびトロコイド曲線で形成したので、第二ロータ30の鋭角部分を低減することができる。鋭角部分を低減すると、加工が容易となる。また、第二ロータ30の品質を向上することができる。
(4)第一ロータ20は3条の歯20Aを周方向に等間隔で各軸周面から径方向へ放射状に設けているため、第一ロータ20の回転時にバランスが良い。第二ロータ30は、4条の歯30Aを周方向に等間隔で各軸周面から径方向へ放射状に設けているため、第二ロータ30の回転時にバランスが良い。そして、スクリュポンプ10として第一ロータ20および第二ロータ30が噛み合って回転するときにバランスが良い。
【0042】
(5)第一ロータ20の外径円20B3に対する第一ロータ20の回転軸心A1と第二ロータ30の回転軸心A2との間隔Lの比は、成立限界の最小値以上、最小値より0.02大きい値以下の範囲内に設定することで、理論吐出効率を高めることができる。これにより、スクリュポンプ10の小型化を図ることができる。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下に本発明の変更例について説明する。
○第一ロータ20および第二ロータ30の輪郭の形状は、サイクロイド曲線およびトロコイド曲線のみを用いて形成される場合に限らない。例えば、図8に示すように、第一ロータ60の歯元部60A1の輪郭の一部にインボリュート曲線を用いても良い。図8は、歯幅角θの歯60Aを4つ備えた第一ロータ60と、6つの歯70Aを備えた第二ロータ70が噛み合うスクリュポンプの断面図である。歯60Aは、内径円60B1から中径円60B2までの歯元部60A1と、中径円60B2から外径円60B3までの歯先部60A2と、歯先部60A2の先端である歯先端部60A3を備えている。また歯70Aは、内径円70B1から中径円70B2までの歯元部70A1と、中径円70B2から外径円70B3までの歯先部70A2、歯先部70A2の先端である歯先端部70A3を備えている。
【0044】
そして、第一ロータ60の歯元部60A1は、インボリュート曲線およびトロコイド曲線から輪郭が形成されている。中径円60B2から内径円60B1に向けてインボリュート曲線が描かれ、内径円60B1付近では、トロコイド曲線へと変移する。第二ロータ70の歯先部70A2は、サイクロイド曲線とインボリュート曲線とにより輪郭が形成されている。第一ロータ60の歯元部60A1におけるインボリュート曲線は、第二ロータ70の歯先70A2におけるインボリュート曲線に対応している。第一ロータ60と第二ロータ70が同期回転すると、インボリュート曲線同士が接触する構成である。インボリュート曲線を採用しても吐出容積率を大きくでき、スクリュポンプの小型化を図ることができる。なお、第一ロータ60の歯幅角θは、スクリュポンプの吐出容積率が最小角度とほぼ同等なる角度に設定されている。
【0045】
○歯元部20A1、30A1および歯先部20A2、30A2の輪郭は、全てがサイクロイド曲線およびトロコイド曲線でなくても良い。例えば、歯先端部20A3、30A3付近において、部分的に円弧状の曲線を変化させて歯20A、30Aを形成しても良い。
○中径円20B2、30Cは、必ずしもピッチ円上でなくても良い。中径円20B2、30Cは、各ピッチ円より大きくても、小さくても吐出容積率を大きくでき、スクリュポンプの小型化を図ることができる。
【0046】
○第一ロータ20の外径円20B3と第二ロータ30の外径円30B3は、同じ大きさに限らない。実施形態における図2の構成では、外径円20B3、30B3を同じとしたが、スクリュポンプ10を用いる用途および場所に合わせて外径円20B3、30B3を変更しても良い。
【符号の説明】
【0047】
10 スクリュポンプ
11 ロータハウジング
12 フロントハウジング
12A、12B 軸孔
13 リヤハウジング
13A、13B 軸孔
14 吸入口
15 吐出口
18 軸受
20、60 第一ロータ
30、70 第二ロータ
20A、30A、60A、70A 歯
20A1、30A1、60A1、70A1 歯元部
20A2、30A2、60A2、70A2 歯先部
20A3、30A3、60A3、70A3 歯先端部
20B1、30B1、60B1、70B1 内径円
20B2、30B2、60B2、70B2 中径円
20B3、30B3、60B3、70B3 外径円
21 第一シャフト
31 第二シャフト
40 ギヤハウジング
41 ギヤ室
42 駆動ギヤ
43 従動ギヤ
45 電動モータ
46 出力軸
47 軸継手
A1、A2 回転軸心
L 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に流体を吸入する吸入口と、
前記ハウジングから流体を吐出する吐出口と、
歯先端部が前記ハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、前記ハウジング内に回転自在に収容される第一ロータと、
前記第一ロータの歯と噛み合い、歯先端部が前記ハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、前記第一ロータと同期回転自在に前記ハウジング内に収容される第二ロータとを備え、
前記第一ロータおよび前記第二ロータは、歯先部の輪郭がサイクロイド曲線で形成されるとともに、歯元部の輪郭がトロコイド曲線で形成されており、
前記第二ロータのピッチ円は、前記第一ロータのピッチ円よりも大きく、
前記第二ロータの条数は、前記第一ロータの条数よりも多く、
前記第一ロータの歯幅角は、歯先端部が前記第一ロータの外径円に線接触する最小角度以上で、吐出容積率が最小角度とほぼ同等となる角度以下の角度であることを特徴とするスクリュポンプ。
【請求項2】
前記第一ロータおよび前記第二ロータは、互いの歯が噛み合うピッチ円上で歯先部のサイクロイド曲線から歯元部のトロコイド曲線へと変わることを特徴とする請求項1に記載のスクリュポンプ。
【請求項3】
前記第一ロータの歯幅角を、ポンプの吐出容積率が最大となる角度より4度以内としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクリュポンプ。
【請求項4】
前記第一ロータの歯幅角は、最小角度以上で最小角度より9度大きい歯幅角以下の角度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクリュポンプ。
【請求項5】
前記第一ロータの外径円の直径に対する前記第一ロータの回転軸心と前記第二ロータの回転軸心との間隔の比は、成立限界の最小値以上、最小値より0.02大きい値以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載のスクリュポンプ。
【請求項6】
前記第一ロータは、3条の歯を有し、
前記第二ロータは、4条の歯を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のスクリュポンプ。
【請求項7】
ハウジングと、
前記ハウジング内に流体を吸入する吸入口と、
前記ハウジングから流体を吐出する吐出口と、
歯先端部が前記ハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、前記ハウジング内に回転自在に収容される第一ロータと、
前記第一ロータの歯と噛み合い、歯先端部が前記ハウジングに接触する螺旋状の歯を有し、前記第一ロータと同期回転自在に前記ハウジング内に収容される第二ロータとを備え、
前記第一ロータは、歯先部の輪郭がサイクロイド曲線で形成されるとともに、歯元部の輪郭がインボリュート曲線で形成されており、
前記第二ロータは、歯先部の輪郭がインボリュート曲線で形成されているとともに、歯元部の輪郭がトロコイド曲線で形成されており、
前記第二ロータのピッチ円は、前記第一ロータのピッチ円よりも大きく、
前記第二ロータの条数は、前記第一ロータの条数よりも多く、
前記第一ロータの歯幅角は、歯先端部が前記第一ロータの外径円に線接触する最小角度以上で、吐出容積率が最小角度のときとほぼ同等となる歯幅角以下の角度であることを特徴とするスクリュポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−207660(P2012−207660A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34454(P2012−34454)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】