説明

スクリーニング方法、及びアミロイド病に対し保護する化合物

本開示は、凝集媒介型タンパク質毒性の阻害剤をスクリーニングするのに有用な方法及び組成物を提供する。本開示は、当該スクリーニングに有用なトランスジェニック動物及び細胞を提供する。対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害することに有用である化合物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2009年1月14日に出願の米国仮出願番号第61/144,505号に優先権を主張し、その開示は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。
【0002】
(開示の分野)
本開示は、凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する方法、アミロイド病の症状発現を阻害する方法、及び凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
1ダースをこえる非関連タンパク質がインビボで異常に会合し、一般にアミロイドと称されるフィラメント又は原線維を形成し得ることは、数十年間公知であった(再調査のために、Sacchettini及びKellyの文献, Nature Rev. 1:267-75, 2002; Stefani及びDobsonの文献, J. Mol. Med. 81:678-99, 2003; Lansbury及びLashuelの文献, Nature 443:774-79, 2006を参照されたい)。特定のポリペプチド分子の細胞外又は細胞内凝集体の存在は、認知されたアミロイド病の特徴であり、当該凝集体は、凝集媒介型タンパク質毒性を促進する。関与するポリペプチドには、全長タンパク質(例えば、リゾチーム及び免疫グロブリン軽鎖)、ペプチド(例えば、アミリン及び心房性ナトリウム利尿因子)、及び通常又は異常なタンパク質内分解プロセシングの結果として生じる比較的大きなタンパク質の断片(例えば、アルツハイマーのβ-アミロイドペプチド)を含む。異常なプロセシングは、しばしばミスフォールディングの結果である(Goldeらの文献, Science 255:728-30, 1992; Shojiらの文献, Science 258:126-29, 1992; Kimberlyらの文献, J. Biol. Chem. 275:3173-78, 2000)。ほとんど全ての全長アミロイド形成タンパク質は分泌され、これは、これらのタンパク質が輸送後にミスフォールドすることを示唆する(Kellyの文献, Structure 5:595-600, 1997; Moyer及びBalchの文献, Emerging Therap. Targets 5:165-76, 2001)。場合によっては、関与するタンパク質は、疾患の散発的な形態のような野生型配列を有するが、他の場合には、該疾患の家族性形態と関連している遺伝子突然変異から生じている異型である。
【0004】
ミスフォールドタンパク質又は凝集タンパク質の存在は、複雑な生体反応の引き金となり、とりわけ、ヒートショックタンパク質(Hsp又は分子シャペロンタンパク質)及びユビキチン-プロテアソーム経路に関与するタンパク質の遺伝子の発現をもたらす(Sherman及びGoldbergの文献, Neuron 29: 15-32, 2001)。このような複雑な生体機構の進化は、細胞について、任意のアンフォールドタンパク質又はミスフォールドタンパク質が現れたらすぐにそれらを分離し、迅速かつ効率的に除去することが必要であるという事実を明白にする。最近まで、主要なアミロイド病は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、反応性アミロイドーシス、及び全身性アミロイドーシス(例えば、免疫グロブリン-軽鎖系疾患、トランスサイレチン系疾患、及びゲルソリン系疾患)に限定されると考えられていた(Westermarkらの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2843-45, 1990; Hurleらの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 :5446-50, 1994; Selkoeの文献, Science 275:630-31, 1997; Kiuruの文献, Amyloid 5:55-66, 1998)。しかしながら、アミロイド様障害は、以前考えられていたよりもおそらくはるかに広範囲にわたっており、多くの一般的神経変性及び神経筋病理並びにプリオン病を含み得る。最も活発に研究されているアミロイド病はADであり、特徴的な脳斑はβ-アミロイドを含む。β-アミロイドの主要な生化学成分は、タンパク質内分解によるβ-アミロイド前駆体タンパク質(APP)から誘導される39〜43アミノ酸ペプチドである(Glenner及びWongの文献, Biochem. Biophys. Res. Commun. 83:885-90, 1984)。
【0005】
アミロイド線維及び斑の形態でのタンパク質の沈着は、中枢神経系又は様々な末梢組織に影響を及ぼす20を超す変性状態の特徴である。
【発明の概要】
【0006】
(要旨)
対象におけるタンパク質凝集及び凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する組成物及び方法が提供される。治療組成物の生成に有用な化合物は、一般式Iを有し:
【化1】

式中、R1はアリール、ヘテロアリール、アリールアルキル又はヘテロアリールアルキルであり、その各々は任意に置換され;R2は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール又は置換ヘテロアリールであり;R3は、-R4-X-R5及び-C(R)2-C(R)2-C(R)2-R6からなる群から選択される式を有し;R4は、結合、アルキル、置換アルキル、アリール又は置換アリールであり;R5は、H、アルキル、置換アルキル、アリール及び置換アリールであり;XはO、S、N(R)、C(O)、C(O)NR、S(O)nからなる群から選択され、式中、nは0、1又は2であり;R6は、アリール、任意に置換アリール、ヘテロアリール及び置換ヘテロアリールからなる群から選択され;及び、各Rは、H、アリール、置換アリール、アルキル又は置換アルキルからなる群から独立に選択され;又は上記化合物のいずれかの塩である。一実施態様において、R1は、アリールアルキル又は置換アリールアルキルである。別の実施態様において、R1は、フェニルメチル又は置換フェニルメチルである。さらなる態様において、R2は、アルキル又は置換アルキルである。さらに別の実施態様において、R2は、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から選択される。さらに別の実施態様において、R2は、フェニルメチル又は置換フェニルメチルである。更に更なる実施態様において、R2は、ピリジルメチル又は置換ピリジルメチルである。一実施態様において、R2は、複素環により置換されるアルキルであり、式中、前記アルキル及び複素環は各々任意に置換される。別の実施態様において、Xは、Oである。さらに別の実施態様において、R5は、アルコール保護基である。更に更なる実施態様において、R5は、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)、ベンジル(Bn)、β-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、ジメトキシトリチル[ビス-(4-メトキシフェニル)フェニルメチル、DMT]、メトキシメチルエーテル(MOM)、メトキシトリチル[(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル、MMT)、p-メトキシベンジルエーテル(PMB)、メチルチオメチルエーテル、ピバロイル(Piv)、テトラヒドロピラニル(THP)、トリチル(トリフェニルメチル、Tr)、シリルエーテル(例えば、トリメチルシリル(TMS)、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、tert-ブチルジメチルシリルオキシメチル(TOM)、及びトリイソプロピルシリル(TIPS)エーテル)、メチルエーテル、及びエトキシエチルエーテル(EE)からなる群から選択される。
【0007】
さらに別の実施態様において、本開示は、式IIの化合物:
【化2】

式中、Ar1はアリール、ヘテロアリール、フェニル又は置換フェニル基であり、式中、R1は、H、-CH3又はSO2Rであり、式中、Rは、H、アリール、置換アリール、アルキル又は置換アルキルであり;式中、R2は、任意のアルキル、アリール、ヘテロアリールであり;式中、Xは、O、S又はNHであり、式中、R3は(CH2)nであり、かつX=O若しくはSである場合nは0〜3であり、又はXがNHである場合R3=C=Oであり;式中、Ar2は任意のアリール又はヘテロアリールであり、並びに上記のいずれかの任意の塩を提供する。
【0008】
また、本開示は、以下を含むがこれらに限定されない、式I又はIIの化合物を提供する。
【化3】

【0009】
また、本開示は、A7〜H7又はその誘導体を含む式I又はIIの化合物を含む、組成物を提供する。当該組成物は、本開示の化合物及び医薬として許容し得る担体を含み、他の活性化合物を更に含むことができる。本組成物は、それらの活性を強化させるようにタンパク質凝集を阻害することが公知の他の化合物と併せて使用できる。本組成物は、その必要のある対象に、タンパク質凝集を阻害する治療上有効量で提供される。本組成物は、タンパク質凝集と関連している神経変性疾患、及び凝集媒介型タンパク質毒性などのアミロイド病を治療及び予防する際の使用を見出す。
【0010】
また、タンパク質凝集を阻害する化合物を同定する方法も提供する。本方法には、非ヒトトランスジェニック動物におけるβ-アミロイドペプチドの発現、並びに麻痺及び/又はタンパク質凝集における試験化合物の効果を測定することを含む。一実施態様において、β-アミロイドペプチドを発現するように改変された線虫(C. elegans)を利用するアッセイが利用される。別の実施態様において、タンパク質凝集は、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光指示薬により測定される。一実施態様において、対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法には:(1) β-アミロイドペプチドを発現する第1の線虫を提供すること;(2) 該第1の線虫における蛍光量を測定すること;(3)該β-アミロイドペプチドを発現する第2の線虫を試験化合物に曝露すること; (4) 該第2の線虫における蛍光を測定すること;及び、(5) 該第1及び第2の線虫における蛍光レベルを比較すること;を含み、ここで該試験化合物は、該第2の線虫における蛍光レベルが該第1の線虫における蛍光レベルより低いときに、対象において凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物として同定される。非限定的な例において、β-アミロイドペプチドは、体壁筋において発現される。
【0011】
本発明の1以上の実施態様の詳細は、添付図面及び下記の説明に記載される。本発明の他の特徴、目的及び利点は、明細書及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】線虫のライフサイクルを示す。
【0013】
【図2】本明細書に記載されている凝集のトランスジェニック線虫モデルの概略図を示す。
【0014】
【図3A−C】本開示の例示的アッセイを示す。
【0015】
【図4A−B】本開示の特定の薬剤の蛍光に対する効果を示す。(A)は、実施例に記載されている線虫モデルにおける経時的な蛍光(% vGFP)に対する薬剤A7〜H7の効果(時間)を表している2つのグラフを示す。各々半分の濃度での薬剤の組合せの効果も示す。(B)は、薬剤D7及びF7の投与のタイミング効果の2つのグラフを示し;D7H及びF7Hは該虫の生涯与えられ;D7Hup及びF7Hupは上方シフトで与え;D7Ht0及びF7Ht0は0時点で与える。
【0016】
【図5A−B】HSF1、dAF2及びdAF16に対するRNAiを使用するRNAiアッセイを示す。
【0017】
【図6A−B】RNAiの存在下における薬剤(A) F7及び(B) D7の組合せの効果を示す。
【0018】
【図7】薬剤E6、E7及びF7(H、高、L、低)の結果を示す。
【0019】
【図8】タンパク質凝集の該虫モデルにおける高(H)又は低(L)濃度のいずれかでの特定の薬剤(例えば、F7、C12、C9、C8、C7)の効果を示す。
【0020】
【図9】実施例に記載されている線虫モデルのタンパク質凝集のアッセイにおける再合成された化合物F7の効果を示す。
【0021】
【図10】実施例に記載されている線虫モデルのタンパク質凝集アッセイにおける薬剤の組合せの効果を示す。
【0022】
【図11】図11は、ジケトピペラジンの効果のグラフを示す(E7、F7、H7及びD7)。ジケトピペラジンは、対照実験と比較する場合、CL660動物においてvGFPの減少を示す。示されるデータは、成虫期への36時間である。エラーバーは、3件の実験の標準偏差であり;n = 100である。
【0023】
【図12A−B】daf-16 RNAiは、hsf-1 RNAi(B)とは異なり、CL660動物(A)のDKPにみられる有益な効果を弱めることを示す。
【0024】
【図13】ジケトピペラジンの鏡像異性体もCL660動物のvGFPを減少させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(詳細な説明)
本明細書及び添付の請求の範囲において使用するように、単数形「a」、「an(and)」及び「該(the)」には、当該文脈が明示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「タンパク質」への言及には複数の当該タンパク質を含み、「化合物」への言及には1以上の化合物及びその等価物への言及を含む、などである。
【0026】
他に定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属している当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているのと類似の又は等価の任意の方法及び試薬が、開示された方法及び組成物の実施に使用できるにもかかわらず、例示的方法及び材料が本明細書に記載されている。
【0027】
本明細書に記載の全ての刊行物は、該刊行物に記載されている方法論を記載し開示する目的で引用により本明細書に完全に組み込まれ、これは本明細書の記載に関連して使用できる。上記刊行物及び本書面全体にわたって記載される刊行物は、本願の出願日前のそれらの開示のためにだけ提供される。本明細書は、発明者が開示前という理由で当該開示に先行する権利がないということの承認として解釈されるべきではない。
【0028】
対象におけるタンパク質凝集及び凝集媒介型タンパク質毒性を阻害するための組成物及び方法が提供される。組成物は、タンパク質凝集を阻害し、それらの活性を強化することが公知の他の化合物と併せて使用できる。本組成物は、それを必要とする対象に、タンパク質凝集を阻害する治療上有効量で提供される。本組成物は、タンパク質凝集及び凝集媒介型タンパク質毒性と関連している神経変性疾患を治療及び予防する際の使用を見出す。
【0029】
アミロイド病(又はアミロイドーシス)は、生活機能の障害を伴う身体の様々な器官及び組織におけるアミロイドの蓄積によって特徴づけられる多様な病因の異種的状態の群のいずれかである。アミロイドは、多くの異なる疾患において示される、多様であるが特定のタンパク質沈着の群についての総称である。アミロイド沈着は、代謝的に不活性であるが、物理的に器官構造及び機能を妨げる。それらの発生が多様であるにもかかわらず、全てのアミロイド沈着は、共通の形態学的特性を有し、特定の色素(例えば、コンゴレッド)で染色され、かつ染色後の偏光において特徴的な赤緑色の複屈折的外観を有する。それらは、共通の超微細構造的特徴、並びに共通のX線回折及び赤外線スペクトルも共有する。関連する疾患状態は炎症性、遺伝性又は新生物形成性であり得、沈着は局所性、汎発性又は全身性であり得る。アミロイドーシスには3つの主要な全身的形態、すなわち原発性、続発性及び家族性がある。加えて、2つの主要局所的形態、すなわち、β-アミロイドペプチド(Aβ)及び膵島アミロイドポリペプチド(IAPP、2型糖尿病対象の膵臓に発生)、並びにいくつかの種々の形態(例えば、慢性の血液透析と関連しているAβ2-ミクログロブリン)がある。
【0030】
原発性アミロイドーシス(AL)は、当該異常タンパク質が、免疫グロブリン、通常は軽鎖断片(すなわち、ベンス-ジョーンズタンパク質)であるがしばしば重鎖断片(AHアミロイドーシス)である、モノクローナルプラズマ細胞疾患である。これらの鎖は異常な構造を有するか又は異常にプロセシングされ、不溶性沈着の形成を結果的に生じる。沈着の一般的部位には、皮膚、神経、心臓、胃腸管(舌を含む)、腎臓、肝臓、脾臓及び血管を含む。軽度の形質細胞増加症は骨髄に起こり、これは多発性骨髄腫について示唆的であるが、大部分のAL対象は、真の多発性骨髄腫を有しない(しかしながら、多発性骨髄腫を有する対象の約10〜20%はALアミロイドーシスも発症する)。続発性アミロイドーシス(AA)は、いくつかの伝染性、炎症性及び悪性(例えば、骨髄腫)状態に続いて発症する場合があり、急性相反応血清アミロイドA(SAA)タンパク質の分解により引き起こされる。共通の原因となる感染症には、結核(TB)、気管支拡張症、骨髄炎及びらい病を含む。炎症性状態には、関節リウマチ(RA)、若年性RA、クローン病及び家族性地中海熱を含む。これらの障害において産生される炎症性サイトカイン(例えば、IL-1、腫瘍壊死因子及びIL-6)は、血清において循環する前駆体タンパク質SAAの肝臓での産生増加を引き起こす。AAアミロイドーシスは、脾臓、肝臓、腎臓、副腎及びリンパ節に偏向を示すが、心臓及び末梢又は自律神経の関与も公知である。家族性アミロイドーシスは、血漿タンパク質(例えば、家族性アミロイド多発性ニューロパシーI又は老人性全身性アミロイドーシスにおけるトランスサイレチン(TTR))の正常型又は変異型の蓄積から生じる。異常タンパク質のほぼ全てが肝臓によって産生される。80以上のTTRに関する遺伝子の突然変異が同定され、全てが常染色体優性パターンで遺伝する。他の稀な遺伝性アミロイドーシスは、アポリポタンパク質A-I(家族性アミロイド多発性ニューロパシーIII)、リゾチーム(家族性非神経障害性アミロイドーシス)、フィブリノゲン(遺伝性アミロイド腎症)、ゲルソリン(フィンランド遺伝性全身性アミロイドーシス)、スーパーオキシドジスムターゼ(家族性筋萎縮性側索硬化症)、及びシスタチンC(遺伝性脳アミロイド脈管症)を含む、他の生理的タンパク質の突然変異から生じる。これらのアミロイドーシスは、様々な全身的及び局所的影響を有する。
【0031】
局所性アミロイドーシスは単一の器官系が関与する傾向があるものであり、アルツハイマー病(Aβペプチド)、海綿状脳症(プリオン)、パーキンソン病(α-シヌクレイン)、ハンチントン病(ハンチンチン)、2型糖尿病(IAPP)、甲状腺の髄様癌(カルシトニン断片)、及び心房性アミロイドーシス(心房性ナトリウム利尿因子)を含む。
【0032】
凝集媒介型タンパク質毒性の阻害。本開示は、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物を含む組成物を対象に投与することを含む、対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する方法、又は対象におけるアミロイド病の症状発現を阻害する方法を提供する。「凝集媒介型タンパク質毒性」とは、罹患組織及び器官における不溶性原線維タンパク質(アミロイド)の細胞内及び/又は細胞外蓄積と関連している病理学的結果をいう。凝集媒介型タンパク質毒性を阻害すること又はアミロイド病の症状発現を阻害することに関して、「阻害」によって意図されるのは、(i) アミロイドの細胞内及び/又は細胞外蓄積と関連している病理学的結果を予防又は治療すること、例えば、タンパク質毒性又はアミロイド病の臨床症状を、同症状に罹患傾向があり得るが未だ症状を経験していない又は提示していない対象において発現させないこと;(ii) タンパク質毒性又はアミロイド病を抑制すること、例えば、該疾患又はその臨床症状の発現を止めること; (iii) タンパク質毒性又はアミロイド病を寛解させること、例えば、感受性対象において臨床症状の発症を遅延させること、又はいくつかの若しくは全ての臨床症状の重篤性の低減;又は(iv)タンパク質毒性又はアミロイド病を緩和させること、例えば、いくつかの又は全ての臨床症状を後退させること;である。
【0033】
本明細書において使用する「対象」には、凝集媒介型タンパク質毒性又はアミロイドーシスが発生する可能性があり、又は、アミロイド病(例えば、本明細書に記載されているアミロイド病)に罹患し易い生物を含む。従って、「対象」には、ヒト、研究室及び獣医学的生物の両方、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、マウス、ウマ、ウシなどを含む。一実施態様において、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物(例えば、式I又はIIにより記載される一般式を有する)は、インビボで様々な器官に沈着する不溶性原線維へのアミロイドタンパク質会合を予防若しくは阻害し、又は該化合物は予め形成された沈着のクリアランスを促進し、若しくは既にアミロイド沈着を有している対象における沈着を遅延させる。別の実施態様において、本化合物は、アミロイドタンパク質が、その可溶性オリゴマー形態で若しくはその原線維形態で細胞表面に結合又は付着し、細胞傷害又は毒性を引き起こすことから予防することもできる。さらに別の実施態様において、本化合物は、アミロイド誘導性細胞毒性をブロックすることができる。さらに別の実施態様において、本化合物は、アミロイド誘導性神経毒性をブロックすることができる。さらなる実施態様において、本化合物は、アミロイド線維形成が標的器官において予防されるような方法で、特定の器官(例えば、脳)からクリアランスを促進でき、又はアミロイドタンパク質の濃度を低下させることができる。
【0034】
本開示は、従来技術における欠点を克服し、ニューロンにおいて保護効果を与える薬剤を同定するのに有効なスクリーニング法を提供する。本願発明に係る開示は、神経変性を研究するのに特に有用なモデルである、顕微鏡で透明に見える回虫カエノルハブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(線虫(C. elegans))を使用して開発されたスクリーニングアッセイに基づく。これは、単細胞接合体から成熟成虫への発達に要する時間に渡って、当該生存虫内の細胞の変化の観察が可能であることによる。これらの種類の観察は、他の動物において極めて困難であり、ヒトにおいては不可能である。線虫の遺伝学は周知であり、かつその全ゲノム配列がマップされているので、本開示に係る線虫に基づくスクリーニングシステムは、強力なスクリーニング/同定ツールを提供する。
【0035】
本開示は、トランスジェニック非ヒト動物モデルを使用する凝集媒介型タンパク質毒性をスクリーニングするのに有用な方法及びキットを提供する。一実施態様において、該モデルは、カエノルハブディティス・エレガンスなどの線形動物(nematode worm)を含む。この実施態様において、本開示は、ヒトアミロイドタンパク質、及びアミロイド沈着と共局在するヒートショックタンパク質に機能的に連結される蛍光指示タンパク質(例えば、GFP)を発現するトランスジェニック線虫動物を提供する。アミロイドのタンパク質の発現の誘導及びその結果として生じる沈着は、HSP-GFP融合構築物と共局在する。沈着はそれから、標準蛍光顕微鏡検査法を使用して限局化できる。本方法は、液体培地中、試験化合物の存在下及び不在下において視覚化された線形動物(nematode)において実施できる。凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物は、培養で減少した可視GFP(vGFP)を有する。
【0036】
一実施態様において、アミロイドのタンパク質は、unc-54又は好ましくはmyo-3などの組織特異性プロモータに機能的に連結される。一実施態様において、本方法に有用なポリヌクレオチドは、myo-3::Aβ1-42/let-858 3'UTRを含む。このポリヌクレオチドを含むベクターは、myo-3体壁特異的ミオシンプロモータ及び長い3'非翻訳領域を有し、これは導入遺伝子の発現をsmg-1機能に依存させる(例えば、非センス媒介型mRNAデコイ)。トランスジェニック線形動物のsmg-1は、23℃の非許容温度で不活発になり、これはHSP-GFP融合構築物を伴うヒトAβ1-42について安定化導入遺伝子mRNAの翻訳を可能にする。
【0037】
以下に述べる非限定的な具体例では本開示のトランスジェニック線形動物モデルの検出可能な標識として緑色蛍光タンパク質を利用するが、他の蛍光タンパク質は当業者により置換できる。検出可能な標識のいくつかの例には、黄色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、及び赤色蛍光タンパク質を含む。当該蛍光タンパク質の他のスペクトル異型、突然変異異型及び誘導体も意図される。
【0038】
一実施態様において、検出可能な標識は、プロモータの制御下である。具体的実施態様において、プロモータは、組織特異的プロモータである。他の具体的実施態様において、組織特異的プロモータは、ニューロン性プロモータである。有用なように意図されるいくつかのニューロン性プロモータは、ドーパミン輸送体プロモータ及びチロシン水酸化酵素プロモータなどのドーパミンニューロンに特異的なプロモータである。一実施態様において、組織特異的プロモータは、筋組織プロモータ(例えば、myo-3プロモータ)を含む。
【0039】
組織特異的プロモータによる蛍光標識の発現は、筋細胞などの細胞のサブセットにおける標識の発現を可能にする。当業者は、本開示が上記のプロモータの使用に限定されないこと、及び任意の他の特定の筋又は他の組織特異的プロモータが本開示の実施に使用できることを認めるであろう。本目的は、細胞の特定の具体的集団における検出可能な標識の発現を得ることである。
【0040】
本開示により提供される組換え/トランスジェニック線虫は、薬剤及び凝集媒介型タンパク質毒性を予防又は低減させることができる薬剤(例えば、小分子薬剤、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチド模倣体など)を同定するための他の薬剤のスクリーニング方法にも使用できる。
【0041】
従って、本開示は、以下を含むペプチド又はタンパク質の凝集媒介型毒性に影響を及ぼす物質のスクリーニング方法を更に提供する:(a) タンパク質毒性を引き起こすタンパク質/ペプチドと関連するシャペロン関連(例えば、HSP16.2)タンパク質を発現する組換え線虫であって、該シャペロン関連タンパク質が蛍光標識に機能的に連結されており、該線虫がタンパク質毒性タンパク質の誘導可能な発現を含む、前記組換え線虫を提供すること; (b)線虫を候補薬剤に曝露させること;及び(c)該曝露前に該標識の発現に相対的な該標識の発現における変化を検出することであって、該標識の蛍光(すなわち、検出)の減少はタンパク質毒性を阻害する薬剤又は神経変性疾患を阻害する薬剤に相当すること。意図される神経変性疾患には、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、伝播性海綿状脳症、家族性アミロイド多発性ニューロパシー(FAP)、プリオン病、タウオパシー、トリヌクレオチド病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、又は多系統萎縮症を含む。
【0042】
本開示による組換え線形動物を生成する方法は、所望の導入遺伝子又は所望の核酸配列を含む発現構築物を両性具有線形動物に導入することを含むことができる。これは、例えば、マイクロインジェクション手段により遂行できる。子孫が線形動物の卵子から孵化した後、それらは発生し、その後、必要に応じて、組織特異的又は細胞特異的である発現を可能にする制御配列の制御下で所望の導入遺伝子又は所望の核酸を含む少なくとも1子孫が同定される。この同定の目的に関して、トランスフェクションのために使用される発現構築物は、必要に応じて融合タンパク質として、容易に検出可能なマーカータンパク質をコードする標識遺伝子を追加的に含むことができる。
【0043】
このようにして同定された線形動物子孫はそれから、要求されるか又は必要である場合、必要に応じて、更なる繁殖処置を受けることができる。例えば、上記の異常な又は存在しない遺伝子発現に加えて様々な所望の特性を呈する系統を産生するために、例えば、他の関心対象の導入遺伝子を発現する他の線形動物とかけあわせる。
【0044】
試験される薬剤(RNAi分子を含む)の送達は、適切な細菌株での線形動物の単純供給により実施できる。細菌において成長している該虫の結果、薬剤又はRNAiは腸管から残存細胞へと通過し、対応するmRNAの分解をもたらす。
【0045】
線虫は本開示の方法で使用する例示的種であるが、他の組換え/トランスジェニック線形動物が使用できる。例えば、カエノルハブディティス(Caenorhabditis)属の線形動物は、例えば、線虫、C.ブルガリス(C. vulgaris)又はC.ブリガサエ(briggsae)を含む。
【0046】
線形動物の使用は、特に医薬及び活性化合物を同定して特徴づけることに、多くの効果を有する。本開示に従う線形動物は、特に、神経変性疾患を患っているヒト患者において全く同等の様式で観察できる症状を示し、それには斑様沈着が神経系に現れる症状、及び特にアルツハイマー病を患っている患者の症状を含む。さらに、これらの生物は、1匹の線形動物から多数の同一トランスジェニック子孫を産生でき、このことは多数の医薬候補又は全ライブラリのスクリーニングを可能にする。
【0047】
スクリーニングは、プレートのウェル当たり1以上の候補薬剤を有する寒天又は可溶相のいずれかを使用するマイクロタイタープレートにおいて、実施できる。一実施態様において、対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法には: (1)β-アミロイドペプチドを発現する第1の線虫を提供すること;(2)該第1の線虫における蛍光量を測定すること;(3)該β-アミロイドペプチドを発現する第2の線虫を試験化合物に曝露させること;(4)該第2の線虫における蛍光を測定すること;及び(5)該1及び第2の線虫における蛍光レベルを比較すること;を含み、該第2の線虫における蛍光レベルが第1の線虫における蛍光レベルより低い場合、該試験化合物が対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物と同定される。非限定的な例において、β-アミロイドペプチドは、体壁筋において発現される。
【0048】
トランスジェニック線虫系統は、神経変性疾患と関連しているヒトタンパク質を発現するように設計された。これらのモデル系には、Aβ(アルツハイマー病;例えば、Link, Proc. Natl. Acad. Sd. USA 92:9368-72, 1995; Linkらの文献, Neurobiol. Aging 24:397-413, 2003を参照されたい)、ポリグルタミンリピートタンパク質(ハンチントン病;例えば、Steffan及びThompsonの文献, Expert Opin. Ther. Targets 7:201-13, 2003を参照されたい)、及びα-シヌクレイン(パーキンソン病;例えば、Vartiainenらの文献., Exp. Gerontol. 41:871-76, 2006を参照されたい)を発現するトランスジェニック虫を含む。これらの無脊椎動物モデルにおいて、ヒト疾患の多くの態様が再現される。例えば、トランスジェニック線虫系統CL2006は、体壁筋(すなわち、頸部の下の筋肉)内で(unc-54プロモータの指示下)ヒトAβ1-42を構成的に発現し、これは結果的に麻痺を生じる、(Linkの文献, Proc. Natl. Acad. Sd. USA 92:9368-72, 1995)。類似の表現型は線虫系統CL4176において示され、ここでAβ1-42の発現は、16から23℃の温度上方シフトに依存する(Linkらの文献, Neurobiol. Aging 24:397-413, 2003)。
【0049】
本開示は、斑様沈着が神経系に現れるものを含む神経変性疾患の治療及び/又は予防におけるそのリード化合物及び誘導体、又は当該疾患の治療及び/又は予防における医薬の効果を修飾するのに適している物質をスクリーニングするのに有用である。例えば、化合物は、それらの対応する塩、エテル体(eterified)などに誘導体化でき、本開示の方法でスクリーニングできる。例えば、本方法を使用して、過度の実験なく、式I又はIIの化合物の塩、鏡像異性体及び誘導体を同定できる。リード物質に存在するヒドロキシル基は、例えば、異なる性質のエーテル化又は慣習的反応に使用できる。また、本開示は、追加的な化合物及び溶媒和物の形成、並びに式I又はIIの化合物などのリード物質の主鎖、例えば鎖に存在する芳香族環構造上で実施できる置換の任意の型を包含する。例えば、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、若しくはアルキル基の置換、又はこのような基又は原子による置換が実施できる。
【0050】
タンパク質毒性分子の凝集を阻害するための他のアッセイは、本明細書に記載されている蛍光技術と同時に、又は追加的に、実施できる。さらに、他のトランスジェニック生物又は組換え宿主細胞が、本明細書に記載されている線虫モデルに追加して使用できる。当該方法は、典型的にはβ-アミロイドペプチド凝集を解析する。
【0051】
本明細書において使用する「β-アミロイドペプチド」には、APPから産生される任意のアミロイド形成ペプチドを含む。天然ヒトAPPは、21番染色体上の18エキソンを含む単一の400kbの遺伝子によりコードされる。選択的mRNAスプライシングは、3つのAPPアイソフォームを生じる。2つの形態、APP751及びAPP770は、クニッツ(Kunitz)プロテアーゼ阻害剤(KPI)領域を含み;第3の形態であるAPP-695は、KPIセグメントを欠く。特に興味がある配列は、疾患に連関するものである。疾患に連関された突然変異の例には、以下のものを含む:オランダコンゴレッド親和性血管障害に連関された(APP770の)コドン693での突然変異(Levyらの文献, Science 248:1124-26, 1990);家族性ADに連関された(APP770の)コドン717でのバリン-イソロイシン突然変異(Goateらの文献, Nature 349:704-06, 1991)、強化されたAβ1-42産生はこの突然変異を有するAPPについて報告される(Caiらの文献, Science 259:514-16, 1993; Suzukiらの文献, Science 264:1335-40, 1994);コドン717のバリンがフェニルアラニン又はグリシンにより置き換えられる突然変異(Chartier- Harlinらの文献, Nature 353:844-46, 1991; Murrellらの文献, Science 254:97-99, 1991);アラニンがコドン692でグリシンにより置き換えられ、コンゴレッド親和性血管障害及びADの両方を引き起こす突然変異(Hendriksらの文献, Nature Gen. 1 :218-21, 1992);正常なリジン-メチオニンジペプチドのアスパラギン-ロイシンによる置換で生じるコドン670及び671での二重突然変異(Mullanらの文献, Nature Gen. 1 :345- 47, 1992)、この二重突然変異を有するAPPはAβ分泌増加に関連する(Citronらの文献, Nature 360:672-74, 1992; Caiらの文献, Science 259:514-16, 1993)。いくつかの実施態様において、β-アミロイドペプチドは、例えば、Aβ1-42などのAPPからタンパク質分解により誘導される39-43アミノ酸ペプチドである。
【0052】
線虫において「麻痺の速度を測定する」ことには、時間の関数として、該虫における筋機能の評価又は測定を含む。例えば、筋機能の評価又は測定は、分単位ベース(例えば、1分ごと、5分ごと、10分ごと又は30分ごと)に、又は時間単位ベース(例えば、1時間ごと、2時間ごと、6時間ごと又は12時間ごと)に判断できる。筋機能の評価又は測定は、目視検査によって、又は自動化した手段によってなし得る。一実施態様において、麻痺の速度を測定することは、目視検査による筋機能の測定を含む。別の実施態様において、麻痺の速度を測定することは、自動化システムによる筋機能の測定を含む。
【0053】
目視検査による線虫の筋機能の測定は当業者に周知の手順であり、例えば、ピックで該虫を精査すること(すなわち、物理的に接触すること)、及び頸部の下の筋収縮をみることを含む。筋収縮がない場合、該精査は、通常、筋収縮がないことを保証するために更に何回か(例えば、該虫上の同じ及び/又は異なる部位で)繰り返される。筋収縮の欠如は、該虫が麻痺していることを示す。線虫における筋機能の測定は、自動化されることもできる。「自動化」により意図されるのは、筋機能の測定及び/又はアッセイにおける人間操作者の関与を減少させる任意の手段による筋機能の評価又は測定であり、一般的には、機械的及び/又は電子的構成要素を含む。一実施態様において、線虫の筋機能の自動化測定には、筋細胞内のCa2+流動の測定を含む。別の実施態様において、線虫の筋機能の自動化測定には、筋細胞内でのATP加水分解の速度の測定を含む。さらに別の実施態様において、線虫の筋機能の自動化測定は、1以上のレポータータンパク質の測定を含む。
【0054】
筋細胞内のCa2+流動の測定は、当業者に周知の方法で測定でき、該測定には、例えば、紫外線で励起する蛍光Ca2+指示薬、及び可視光で励起する蛍光Ca2+指示薬などの蛍光指示薬を用いるCa2+測定、並びに生物発光指示薬を用いるCa2+測定を含む。Ca2+結合と同時にスペクトル応答を示す蛍光プローブは、蛍光顕微鏡検査法、流動細胞計測法、及び蛍光分光学法を使用する細胞内遊離Ca2+濃度の変化の調査を可能にする。例示的な紫外線励起性のレシオメトリック(ratiometric)Ca+指示薬には、fura-2、indo-1、fluo-3、fluo-4、カルシウムグリーン、quin-2、fura-4F、fura-5F、fura- 6F、及びindo-5F を含む(Invitrogen, Carlsbad, CA; Haugland及びJohnsonの文献, 「生体反応のための蛍光及び発光プローブにおける細胞内イオン指示薬(Intracellular Ion Indicators in Fluorescent and Luminescent Probes for Biological Activity)」, 第2版, Mason編, 40-50頁, 1999も参照されたい)。例示的な可視光励起性のCa2+指示薬には、fluo-3、fluo-4、rhod-2、カルシウムグリーン、カルシウムイエロー、カルシウムオレンジ、カルシウムクリムゾン、及びオレゴングリーン488 BAPTA指示薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を含む。発光クラゲ及び他の海洋生物から最初に単離された発光タンパク質であるエクオリンは、例示的な生物発光Ca+指示薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)である。
【0055】
筋細胞内のATP加水分解の速度の測定も当業者に周知の方法によって測定される。例えば、ATP加水分解の速度は、ADPからATPの再生及びホスホ(e<<o/)ピルビン酸がピルビン酸キナーゼにより触媒される酵素共役β-NADH蛍光定量的手法により測定できる(例えば、Kenneyらの文献, Can. J. Physiol. Pharmacol. 72:1361-67, 1994を参照されたい)。この反応は、NADHのNAD+への酸化に、及びピルビン酸の乳酸への還元に共役し;これらの反応は、乳酸デヒドロゲナーゼにより触媒される。1モルのADPが産生されるたびに、1モルの蛍光化合物であるNADHが、非蛍光化合物であるNAD+に酸化される。従って、NADH蛍光の減少速度は、筋細胞によるATP加水分解の速度に比例する。
【0056】
レポータータンパク質も、線虫の筋機能の自動化測定のために使用できる。Aβ1-42を発現する虫のDNAマイクロアレイ解析は、Aβ1-42発現に応答するいくつかの遺伝子の発現増加を示した。高いAβ1-42タンパク質毒性(すなわち、麻痺)の条件下でこれらの遺伝子はオンにされると同時に、それらは低いAβ1-42タンパク質毒性(すなわち、麻痺でない)の条件下でオフにされる。関心対象のレポーター(例えば、ルシフェラーゼ又は蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP))に機能的に連結されるこれらの遺伝子のプロモータを含んでいるレポーター構築物は、自動化システムで筋機能をモニタするために使用できる。そのようなシステムは、分光光度計又は蛍光活性化セルソータなどのレポーター活性(筋機能の代用として)を解析するための手段を含む。いくつかの実施態様において、線虫は、例えば生存期間及び/又は若さを制御する1以上の遺伝子などの1以上の遺伝子の発現が欠損している。哺乳動物及び虫の両方で、インスリン/インスリン成長因子(IGF)-I様シグナリング(IIS)は、生存期間及び若さに顕著な役割を果たす(Kenyonの文献, Cell 120:449-60, 2005)。線虫において唯一のインスリン/IGF-1受容体であるDAF-2は、FOXO転写因子(DAF-16)のリン酸化を引き起こすシグナルの伝達を開始させ、核へのその移行を妨げる(Linらの文献, Nat. Genet. 28:139-45, 2001)。DAF-16のこの負の制御は、その標的遺伝子の発現を損ない、該虫の生存期間を短縮させる。従って、daf-2発現のノックダウンは、長命の若い虫を創出する(Kenyonらの文献, Nature 366:461-64, 1993)。虫において、daf-2活性の減少による生存期間の延長は、ヒートショック因子1(HSF-I)にも依存し、hsf-1の発現増加は、daf-16依存的様式で虫の生存期間を延長させた(Hsuらの文献, Science 300:1142-45, 2003)。
【0057】
理論に拘束されることなく、IIS経路により制御される2つの対立する機構が虫を凝集媒介型タンパク質毒性(例えば、Aβ1-42媒介型毒性)から保護すると考えられる:HSF-Iトランスクリプトームは、主要なタンパク質毒性保護経路、すなわち単量体化された(monomorized)アミロイドタンパク質のタンパク質分解に共役する脱凝集プロセスを制御する(例えば、その一方で、DAF-16トランスクリプトームは、より有毒なオリゴマーアミロイド凝集体(例えば、Aβ1-42凝集体)をより低毒性の高分子量凝集体へと変換する活発な凝集プロセスを制御する(Cohenらの文献, Science 313:1604-10, 2006)。
【0058】
発現における「欠損」により意図されるのは、対照においてみられるものよりも遺伝子発現が任意に統計学的に顕著に低いレベル、例えば10%低い、20%低い、30%低い、40%低い、50%低い、60%低い、70%低い、75%低い、80%低い、85%低い、90%低い、95%低い、又は100%低いレベルである。遺伝子発現の評価は、当該技術分野において周知の任意の多くの方法により達成でき、該評価には、例えば、RNAレベルの測定(例えば、ノーザンブロット法又は逆転写PCRを使用する)、タンパク質レベルの測定(例えば、ウエスタンブロット法又は免疫組織化学を使用する)、及びタンパク質活性の測定(例えば、HSF-Iの脱凝集活性及び/又はDAF-16の凝集活性を測定すること)を含む。脱凝集/凝集活性を測定する方法は、本明細書の他に記載されている。
【0059】
線虫における遺伝子発現のノックダウンは、周知の方法を使用して当業者により達成され得る。例えば、ポリペプチドのレベル及び/又は活性は、虫において、タンパク質又はRNAの発現を指示できないポリヌクレオチドを利用することにより、調節できる。例えば、ポリヌクレオチド構築物は、生物におけるゲノムヌクレオチド配列を変更又は変異させる方法で利用できるように設計できる。当該ポリヌクレオチド構築物には、RNA:DNAベクター、RNA:DNA突然変異ベクター、RNA:DNA修復ベクター、混合二重オリゴヌクレオチド、自己相補的RNA:DNAオリゴヌクレオチド、及びリコンビノジェニ(recombino genie)オリゴヌクレオチドを含むがこれらに限定されるものではない。当該ヌクレオチド構築物及び使用方法は、公知技術である。例えば、米国特許第5,565,350号、第5,731,181号、第5,756,325号、第5,760,012号、第5,795,972号及び第5,871,984号を参照されたい。また、WO 98/49350、WO 99/07865、WO 99/25821及びBeethamらの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:8774-78, 1999も参照されたい。
【0060】
遺伝子ノックダウン又はサイレンシングの多くの技術は、当業者にとって周知であり、以下のものを含むがこれらに限定されない:アンチセンス技術(例えば、Sheehyらの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:8805-09, 1988;及び米国特許第5,107,065号;第5,453,566号;及び第5,759,829号を参照されたい);共抑制(例えば、Jorgensen, Trends Biotech. 8:340-44, 1990; Flavellの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 :3490-96, 1994; Finneganらの文献, Bio/Technology 12:883-88, 1994;及びNeuhuberらの文献, Mol. Gen. Genet. 244:230-41, 1994を参照されたい);RNA干渉(例えば、Napoliらの文献, Plant Cell 2:279-89, 1990; Sharpの文献, Genes Dev. 13:139-41, 1999; Zamoreらの文献, Cell 101 :25-33, 2000; Montgomeryらの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 15502-507, 1998;及び米国特許第5,034,323号を参照されたい);ウイルス誘導性遺伝子サイレンシング(例えば、Burtonらの文献, Plant Cell 12:691-705, 2000;及びBaulcombeの文献, Curr. Op. Plant Bio. 2: 109-13, 1999を参照されたい);標的RNA特異的リボザイム (例えば、Haseloffらの文献, Nature 334: 585-91, 1988を参照されたい);ヘアピン構造(例えば、Smithらの文献, Nature 407:319-20, 2000; Chuang及びMeyerowitzの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:4985-90, 2000; Stoutjesdijkらの文献, Plant Physiol.129:1723-31, 2002; Waterhouse及びHelliwellの文献, Nat.Rev. Genet.4:29-38, 2003; Panstrugaらの文献, Mol.Biol. Rep. 30:135-40, 2003; Wesleyらの文献, Plant J. 27:581-90, 2001; Wang及びWaterhouseの文献, Curr.Opin.Plant Biol 5:146-50, 2001; WO 98/53083; WO 99/53050;及びWO 02/00904を参照されたい);リボザイム(例えば、Steineckeらの文献, EMBO J. 11 :1525-30, 1992;及びPerrimanらの文献, Antisense Res. Dev. 3:253-63, 1993を参照されたい);オリゴヌクレオチド媒介型標的化修飾(WO 03/076574及びWO 99/25853を参照されたい);Zn-fmger標的化分子(WO 01/52620; WO 03/048345;及びWO 00/42219を参照されたい);及び、当業者に知られている他の方法又は上記方法の組合せ。
【0061】
非限定的な例において、RNA干渉(RNAi)は、daf-2、hsf-1及び/又はdaf-16などの線虫遺伝子の活性を減少させるために使用される。簡潔にいうと、虫に関心対象遺伝子(例えば、daf-2、hsf-1及び/又はdaf-16 dsRNA)に対する細菌発現二重鎖RNA(dsRNA)を与えることは、該関心対象遺伝子の活性を減少させる。さらなる実施態様において、対象において凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法には:(1)β-アミロイドペプチドを発現する第1の線虫を提供すること;(2)該第1の線虫から抽出物を調製すること;(3)該第1の線虫からの抽出物の脱凝集活性を測定すること; (4)該β-アミロイドペプチドを発現する第2の線虫を試験化合物に曝露させること;(5)該第2の線虫から抽出物を調製すること;(6)該第2の線虫からの抽出物の脱凝集活性を測定すること;及び、(7)該第1及び第2の線虫の抽出物の脱凝集活性を比較すること;を含み、該第2の線虫からの抽出物の脱凝集活性が該第1の線虫からの抽出物の脱凝集活性を超える場合、該試験化合物が対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物と同定される。非限定的な例において、β-アミロイドペプチドは、体壁筋において、発現される。
【0062】
線虫からの抽出物の「脱凝集活性を測定する」ことにより意図されるのは、1以上の虫から調製される抽出物の、アミロイド線維、例えば、Aβ1-42原線維などのβ-アミロイド線維を脱凝集させる能力を評価することである。虫は、野生型線虫、1以上の試験化合物で処理した虫、及び/又は1以上の遺伝子の発現が欠損した虫であり得る。アミロイド線維の脱凝集を測定するための方法は当該技術分野において周知である。1つの非限定的な例において、均質化された虫からの破砕後上清(PDS)が、アミロイド線維の脱凝集を測定するインビトロアッセイに使用される(Cohenらの文献, Science 313:1604-10, 2006を参照されたい)。
【0063】
簡潔にいうと、予凝集アミロイド線維の時間依存的脱凝集をインビトロで、虫のPDSの存在下及び不在下において、定量化する。予凝集アミロイド線維(例えば、Aβ1-42原線維)は、例えば、チオフラビン-Tなどの蛍光色素でラベルできる。チオフラビン-Tは、インビトロでのアミロイド線維の蛍光定量測定に使用される。アミロイド線維の非存在下で、該色素は、それぞれ350及び438nmの励起極大及び発光極大でかすかに蛍光を発する。アミロイド線維の存在下、それぞれ450及び482nmの励起極大及び発光極大でこの色素を用いて明るい蛍光があり;蛍光変化は、アミロイド線維の0から2.0μg/mlまで線形である。1以上のプロテアーゼ阻害剤は、脱凝集よりもむしろプロテアソーム性分解及び/又はタンパク分解性分解をモニタする可能性を除外するために、含ませることができる。脱凝集前及び後のサンプルは、アミロイド特異抗体(例えば、アミロイド特異的モノクローナル抗体)を使用するウエスタンブロット解析によりアッセイして、原線維及び単量体アミロイドタンパク質を視覚化することもできる。
【0064】
更なる実施態様において、対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法には:(1)β-アミロイドペプチドを発現する線虫を提供すること;(2)該線虫から複数の等量の(equivalent)抽出物を調製すること;(3)複数の等量の抽出物からの第1の抽出物の脱凝集活性を測定すること;(4)該複数の等量の抽出物からの第2の抽出物を試験化合物に曝露させること;(5)該第2の抽出物の脱凝集活性を測定すること;及び、(6) 該第1及び第2の抽出物の脱凝集活性を比較すること;を含み、該第2の抽出物の脱凝集活性が該第1の抽出物の脱凝集活性を超える場合、該試験化合物が対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物と同定される。非限定的な例において、β-アミロイドペプチドは、体壁筋において、発現される。
【0065】
別の実施態様において、ハイスループットスクリーニング法には、多数の潜在的な治療化合物(すなわち、対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する可能性を有する化合物)を含むコンビナトリアルケミカルライブラリを提供することを含む。このようなコンビナトリアルライブラリは、それから、本明細書に記載されている1以上のアッセイでスクリーニングされ、所望の特徴的活性(例えば、不溶性原線維へのアミロイドタンパク質会合を阻害すること、又は予め形成されたアミロイド沈着のクリアランスを促進すること)を示す当該ライブラリメンバー(特に化学種又はサブクラス)が同定される。このように同定される化合物は、従来の「リード化合物」として有用であり得、又は潜在的若しくは実際の医薬組成物においてそれ自身使用され得る。ある場合には、候補化合物のプールを同定してさらにスクリーニングし、該回収物におけるいずれの個別的化合物又は化合物サブプールが所望の活性を有するかを測定できる。
【0066】
別の実施態様において、対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法には:(1)β-アミロイドペプチドを発現する第1の哺乳動物を提供すること;(2)該第1の哺乳動物から抽出物を調製すること;(3)該第1の哺乳動物からの抽出物の脱凝集活性を測定すること;(4) 該β-アミロイドペプチドを発現する第2の哺乳動物を試験化合物に曝露させること;(5)該第2の哺乳動物から抽出物を調製すること;(6)該第2の哺乳動物からの抽出物の脱凝集活性を測定すること;及び、(7)該第1及び第2の哺乳動物の抽出物の脱凝集活性を比較すること;を含み、該第2の哺乳動物からの抽出物の脱凝集活性が該第1の哺乳動物から抽出物の脱凝集活性を超える場合、試験化合物が対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物と同定される。非限定的な例において、β-アミロイドペプチドは、脳内で発現される。
【0067】
一般的にはマウスなどの齧歯動物であるトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、神経変性疾患及び動物の生存期間と関連している多くのタンパク質を含む多数のタンパク質を過剰発現又は低発現するように設計されてきた。これらのモデルには、例えば、家族性アルツハイマー病(FAD)関連プレセニリン1(PS1)及びプレセニリン2(PS2)異型(Borcheltらの文献, Neuron 17:1005-13, 1996)及びAPP/APP異型(Borcheltらの文献, Neuron 19:939-45, 1997)、又は両方(Arendashらの文献, Brain Res. 891 :42-53, 2001)を発現するトランスジェニックマウス、並びにIGF‐I受容体ノックアウトマウス(Holzenbergerらの文献, Nature 421 : 182-87, 2003)を含む。宿主動物における関心対象組織(例えば、脳)において発現される遺伝子由来のプロモータは、トランスジェニック動物の表現型を変化させるために利用される。
【0068】
様々なプロモータ配列を使用して、トランスジェニック動物においてAPPコード配列などのコード配列の発現を制御することができる。それらには以下を含むがこれらに限定されない:発現が亜鉛及び糖質コルチコイドホルモンレベルの変調を介して制御できるメタロチオニンプロモータ(Palmiterらの文献, Nature 300:611-15, 1982);ラットニューロン特異的エノラーゼ遺伝子プロモータ(Forss- Petterらの文献, Neuron 5:187-97, 1990);ヒトβ-アクチン遺伝子プロモータ(Rayらの文献, Genes Dev. 5:2265-73, 1991);ヒト血小板由来成長因子β鎖遺伝子プロモータ(Sasaharaらの文献, Cell 64:217-27, 1991);ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモータ(Maueらの文献, Neuron 4:223-31, 1990);ヒト銅-亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子プロモータ(Ceballos-Picotらの文献, Brain Res. 552: 198-14, 1991);及び、哺乳動物POUドメイン制御性遺伝子ファミリーメンバーのためのプロモータ(Xiらの文献, Nature 340:35-42, 1989)。POUドメインは、転写因子Pit-1、Oct-1、Oct-2及びUNC-86の間の類似領域であり、DNA結合ドメインの部分を表す。これらのプロモータは、トランスジェニック動物のニューロン内で特異的に発現を提供する。
【0069】
トランスジェニック動物は、当業者に周知の多くの方法で調製される。トランスジェニック動物は、そのゲノムに遺伝子外又は外来性のDNA断片を有するものである。遺伝子外又は外来性のDNA断片の安定的な遺伝を達成するために、組込みイベントは、機能的な生殖細胞を生じさせ得る細胞型、すなわち精子又は卵母細胞のいずれかで起こらなければならない。生殖細胞を形成でき、かつその中にDNAを容易に導入できる2つの動物の細胞型は、受精卵細胞及び胚幹(ES)細胞である。
【0070】
トランスジェニック動物を作出する例示的方法は、例えば米国特許第4,736,866号に記載されるように、接合期注入によるものである。該方法は、DNAを受精卵又は接合期細胞に注射すること、及びそれからその卵を偽妊娠母で発生させることを含む。接合体は、同じ系統の雌雄動物を使用して、又は異なる系統の雌雄動物から得ることができる。トランスジェニック樹立動物は、同じ挿入DNAを有するより多くの動物を産生するように育てられる。トランスジェニック動物を産生するこの方法において、新規なDNAは、典型的には、非相同組換え事象によりランダムにゲノムに組み込まれる。1から数千のDNAのコピーが、ゲノムの1つの部位に組み込まれ得る。別の方法はES細胞を使用することであり、これはインビトロ培養から、発生している動物に組み込まれることになる「宿主」胚まで戻ることができ、かつ生殖細胞を含む全ての組織でトランスジェニック細胞を生じ得る。ES細胞は培養においてトランスフェクションされた後、該変異は、該細胞を胚に注入することにより生殖細胞系へと伝達される。変異生殖細胞を保有する動物は、それから、トランスジェニック出生仔を産生するように育てられる。
【0071】
同様の様式で、ノックアウト動物(ヘテロ接合ノックアウト及びヌル変異体)を産生できる。ノックアウト動物を作出する例示的方法は、ノックアウトすべき遺伝子のエキソンが薬剤耐性カセット(例えば、ネオマイシン耐性)などの選択可能なカセット、及び一対のloxP部位に隣接する遺伝子標的化ベクターを使用する。薬剤耐性カセットは、標的化陽性の接合体のスクリーニング及び選択のための有用な手段を提供し、その両方及びノックアウトすべき遺伝子のエキソンはCre-lox組換えにより削除されてノックアウトアレルを産生できる、(例えば、Holzenbergerらの文献, Endocrinology 141 :2257-66, 2000; Holzenbergerらの文献, Endocrinology 142:4469-78, 2001を参照されたい)。トランスジェニック樹立動物は、関心対象のタンパク質(例えば、天然又は変異型APP)を過剰発現若しくは低発現する、又は1以上の遺伝子ノックアウトを有するトランスジェニック動物の安定系統を産生するために使用できる。行動研究は、導入遺伝子により媒介される1以上の影響、例えば天然又は変異型APPにより媒介される1以上の影響を評価するために使用できる。例示的な行動研究には、記憶試験(例えば、水浸プラットフォーム、及び恐怖条件づけ試験)、及び運動技能試験(例えば、ロタロッド(rota-rod)、架線敏捷性(string agility)、及びビームバランス(beam balance)試験)を含むがこれらに限定されるものではない。
【0072】
水浸プラットフォーム(又は水迷路)試験は、獲得及び記憶保持を測定するために使用される。解析の目的に関して、円形プール階は4つの四分円に分けられており、認識できないプラットフォームが四分円のうちの1つの水面下に位置している。試験は、数日に渡って1日当たり複数回の試験を伴う。日々の試験の過程において、動物は、逐次的に四分円の各々に入れられ、最長の時間(例えば、60秒)泳ぐことができる。プラットフォームを設置すると(又は最長の時間後)、動物は、次の試験前の時間(例えば、30秒)の間のプラットフォーム上に留まることが可能となる。該試験の各々についてプラットフォームを発見するまでの時間及び該試験の平均を各動物について記録する。獲得試験の最終日の翌日、記憶保持は、単一プローブ試験(例えば、60秒)で測定される。水浸プラットフォームは水迷路から取り除かれ、該動物は、該水浸プラットフォームが獲得試験のために配置されていた反対側の四分円に放たれる。試験は、次なる解析である泳ぎ経路及び泳ぎ速度について記録される。各四分円に費やされる時間のパーセントを測定し、統計学的に解析する。例えば、Kingらの文献, Behav. Brain Res. 103:145-62, 1999を参照されたい。恐怖条件づけ試験は、獲得及び記憶保持を測定するためにも使用される。簡潔にいうと、合図恐怖の獲得は、恐怖獲得及び試験の二相からなる。条件つき恐怖獲得は、穏やかな足へのショックと共に終わる可聴合図(例えば、音又は白色雑音)を与えることにより誘導される。獲得には、同じ合図の複数の繰り返しが関与する。同じ合図(恐怖の結果)の後に動かなくなる時間は、続く数日間記録され;恐怖は、感電の記憶に依存する。例えば、Kingらの文献, Behav. Brain Res. 103:145-62, 1999およびCainらの文献, J. Neurosci. 22:9113-21, 2002を参照されたい。
【0073】
運動技能の評価に関するロータロッド試験は、基本的にLynchらの文献(Brain Res. 83:249-59, 1975)に記載されているように実施される。簡潔にいうと、動物は、設定された時間(例えば、3〜5分)の間、踏み車(例えば、Rota-Rod, Ugo Basile, Comerio, Italy)上を走り、設定された又は加速度的な速度で回転しているロッドの一番上の位置を維持することを要求される。該プロトコルは、該動物が落下する場合、又は(落下するたびに、該動物はロッドの上に再び置かれる場合には)時間が満了する場合に、終了する。ロッド上の合計時間又は落下の総数が記録され、統計学的に解析される。架線敏捷性試験も運動技能を評価する周知の方法である。
【0074】
前足グリップ能力及び敏捷性を測定するために、架線(例えば、綿の架線)は、パッド表面の上にぴんと張ってつるされる。最初に、動物は、前足でのみ該架線を握らされ、その後解放される。試験時間(例えば、60秒)の過程で、評点系を使用して各動物を評価する:0:解放後架線上に残ることができない動物;1:動物は約60秒間2つの前足でぶら下がる;2:動物は架線を登ることを試みる;3:動物は架線周辺に2つの前足及び一方又は両方の後足を置く;4: 動物は側方移動を伴い架線周辺に4つの足及び尾を置く;及び、動物は逃げる。例えば、Kingらの文献, Behav. Brain Res. 103:145-62, 1999を参照されたい。
【0075】
運動技能を評価するための更なる周知の試験は、ビームバランス試験である。狭いダウェルビーム(例えば、幅約1cm)は、パッドを入れられた表面上の2つの支持カラムの間に固定される。該ビームのいずれかの端に、プラットフォームが取り付けられる。各動物は、1日の試験の間にいくつかの試験(例えば、3つ)を与えられる。動物は、ビームの中央に垂直方向に置かれ、試験の間隔の間(例えば、60秒)解放される。該動物がビームから落ちるのに要する時間がいくつかの試験の各々において記録される。あるいは、該動物が試験期間の間にビーム上に残る場合、又はいずれかのプラットフォームに逃げる場合、最大の間隔期間が記録される。各試験のスコア、いくつかの試験の平均、及び逃避の数は、各動物について記録される。例えば、Kingらの文献, Behav. Brain Res. 103: 145-62, 1999を参照されたい。
【0076】
また、トランスジェニック動物は、特に、導入遺伝子により媒介される1以上の影響の発生年齢、該1以上の影響の持続期間、表現型の表現率、及び全身性若しくは局所性の臓器機能不全(例えば、脳機能不全)を測定するために、臨床的に観察される。本明細書に記載されるように、遺伝子発現の評価は、当該技術分野において周知の任意の多くの方法により達成でき、例えば、RNAレベルの測定(例えば、ノーザンブロット法又は逆転写PCRを使用する)、タンパク質レベルの測定(例えば、ウエスタンブロット法又は免疫組織化学を使用する)、及びタンパク質活性の測定を含む。表現型における様々な変化に関心がある。例えば、修飾されたAPP発現を有するトランスジェニック動物において、これらの変化には、以下を含み得る:出生から短期間内に発現される脳の皮質辺縁領域における進行性神経学的疾患、内因性発現レベルを上回るAPP遺伝子の発現レベルの増加(一般に、神経学的病状及び早死の発現を伴う)、グリオーシス並びに海馬及び大脳皮質に存在する細胞内APP/Aβの癒着、2-デオキシグルコース取り込み/利用の減少、及び脳の皮質辺縁領域における肥大性グリオーシス、探索/移動挙動の減少によって特徴づけられる進行性神経学的疾患、並びに記憶及び学習試験におけるパフォーマンスの低下。
【0077】
関心対象(例えば、脳)のアミロイド病に影響を受けることが公知の領域は、特に変化について再調査される。関心対象のアミロイド病がADである場合、再調査される領域には皮質辺縁領域が含まれ、APP/Aβ排出、グリオーシス、グルコース取り込み及び利用における変化、並びにAβ斑形成が含まれる。しかしながら、天然又は高レベルのAPPを発現させた場合に長命でない動物の系統において、特定のアミロイド病と関連している全ての行動及び/又は病理学的変化が観察できるというわけではない。例えば、高レベルのAPPを発現するトランスジェニックFVB/Nマウスは、検出可能なAβ斑を発現しない傾向があるが、同一の導入遺伝子を発現するより長寿のC57B6/SJL Flマウスは、チオフラビン-T及びコンゴレッドで容易に検出されるアミロイド斑を発現する。様々な脳領域の免疫学的研究も、導入遺伝子産物を検出するために使用される。
【0078】
本開示の方法を使用して、凝集媒介型タンパク質毒性を阻害することに有用な多くの化合物が同定された。本開示の方法により同定される例示的化合物は、一般式Iを有する化合物:
【化4】

式中、R1はアリール、ヘテロアリール、アリールアルキル又はヘテロアリールアルキルであり、その各々は任意に置換され;R2は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール又は置換ヘテロアリールであり;R3は、-R4-X-R5及び-C(R)2-C(R)2-C(R)2-R6からなる群から選択される式を有し;R4は、結合、アルキル、置換アルキル、アリール又は置換アリールであり;R5は、H、アルキル、置換アルキル、アリール又は置換アリールであり;XはO、S、N(R)、C(O)、C(O)NR及びS(O)nからなる群から選択され、式中、nは0、1又は2であり;R6は、アリール、任意に置換されたアリール、ヘテロアリール及び置換ヘテロアリールからなる群から選択され;及び、各Rは、H、アリール、置換アリール、アルキル又は置換アルキルからなる群から独立に選択され;又は、上記化合物のいずれかの塩である。一実施態様において、R1は、アリールアルキル又は置換アリールアルキルである。別の実施態様において、R1は、フェニルメチル又は置換フェニルメチルである。さらなる態様において、R2は、アルキル又は置換アルキルである。さらに別の実施態様において、R2は、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から選択される。さらに別の実施態様において、R2は、フェニルメチル又は置換フェニルメチルである。更に更なる実施態様において、R2は、ピリジルメチル又は置換ピリジルメチルである。一実施態様において、R2は複素環により置換されたアルキルであり、式中、前記アルキル又は複素環は各々任意に置換される。別の実施態様において、XはOである。さらに別の実施態様において、R5はアルコール保護基である。更に更なる実施態様において、R5は、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)、ベンジル(Bn)、β-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、ジメトキシトリチル[ビス-(4-メトキシフェニル)フェニルメチル、DMT]、メトキシメチルエーテル(MOM)、メトキシトリチル [(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル、MMT)、p-メトキシベンジルエーテル(PMB)、メチルチオメチルエーテル、ピバロイル(Piv)、テトラヒドロピラニル(THP)、トリチル(トリフェニルメチル、Tr)、シリルエーテル(例えば、トリメチルシリル(TMS)、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、tert-ブチルジメチルシリルオキシメチル(TOM)及びトリイソプロピルシリル(TIPS)エーテル)、メチルエーテル、及びエトキシエチルエーテル(EE)からなる群から選択される。
【0079】
さらに別の実施態様において、本開示は、式IIの化合物:
【化5】

式中、Ar1はフェニル又は置換フェニル基であり、式中、R1はH、-CH3又はSO2Rであり、RはH、アリール、置換アリール、アルキル又は置換アルキルであり;式中、R2は、任意のアルキル、アリール、ヘテロアリールであり;式中、XはO、S又はNHであり、式中、R3は(CH2)nであり、かつX=O若しくはSの場合nは0〜3であり、又はXがNHである場合R3=C=Oであり;式中、Ar2は任意のアリール又はヘテロアリールであり、並びに上記いずれかの任意の塩を提供する。例えば、式I又はIIの化合物には、以下を含むがこれらに限定されない。
【化6】

【0080】
アルキル基には、直鎖、分枝及び環式のアルキル基を含む。本明細書において使用する用語「アルキル」は明らかにアルケニルを包含する。アルキル基には、1〜20個の炭素原子を有するものを含む。アルキル基には、1〜3個の炭素原子を有する小さなアルキル基を含む。アルキル基には、4〜10個の炭素原子を有する中程度の長さのアルキル基を含む。アルキル基には、10をこえる炭素原子を有する長いアルキル基、特に10〜20個の炭素原子を有するものを含む。環式のアルキル基には、1以上の環を有するものを含む。環式のアルキル基には、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-又は10-員の炭素環を有しているもの、特に3-、4-、5-、6-、又は7-員環を有しているものを含む。環式のアルキル基の炭素環は、アルキル基を担持することもできる。環式のアルキル基には、二環式及び三環式アルキル基を含むことができる。アルキル基には、任意に置換アルキル基を含む。置換アルキル基には、特にアリール基により置換されるものを含み、これは順次任意に置換できる。アルキル基の具体例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、分枝ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、分枝ヘキシル、及びシクロヘキシル基を含み、これらの全ては任意に置換できる。用語「シクロペンチル環」は、任意の不飽和度を有する五炭素の環をいう。用語「シクロヘキシル環」は、任意の不飽和度を有する六炭素の環をいう。
【0081】
アルケニル基には、直鎖、分枝及び環式のアルケニル基を含む。アルケニル基には、1つ、2つ又はそれより多い二重結合を有するもの、及び2以上の二重結合が共役したものを含む。アルケニル基には、2〜20個の炭素原子を有するものを含む。アルケニル基には、2〜3個の炭素原子を有する小さなアルキル基を含む。アルケニル基には、4〜10個の炭素原子を有する中程度の長さのアルケニル基を含む。アルケニル基には、10個をこえる炭素原子を有する長いアルケニル基、特に10〜20個の炭素原子を有するものを含む。環式のアルケニル基には、1以上の環を有するものを含む。環式のアルケニル基には、二重結合が環に存在するもの、又は環に付着するアルケニル基に存在するものを含む。環式のアルケニル基には、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-又は10-員の炭素環を有するもの、特に3-、4-、5-、6-又は7-員環を有するものを含む。環式のアルケニル基の炭素環は、アルキル基を担持することもできる。環式のアルケニル基には、二環式及び三環式アルキル基を含むことができる。アルケニル基は、任意に置換される。置換アルケニル基には、特に、アルキル又はアリール基により置換されるものを含み、該基は順次任意に置換できる。アルケニル基の具体例には、エテニル、プロプ-1-エニル、プロプ-2-エニル、シクロプロプ-1-エニル、ブト-1-エニル、ブト-2-エニル、シクロブト-1-エニル、シクロブト-2-エニル、ペント-1-エニル、ペント-2-エニル、分枝ペンテニル、シクロペント-1-エニル、ヘキサ-1-エニル、分枝ヘキセニル、シクロヘキセニルを含み、これらの全ては任意に置換できる。
【0082】
用語「アリール」は、1以上の環を含む炭素環式芳香族基を包含する。従って、本明細書に使用されるように、用語「アリール」は、単環炭素環式芳香環(例えば、フェニル)及び二環炭素環式芳香環(例えば、ナフチル)を明らかに包含する。炭素環式芳香環は、例えば、1以上のC1-6アルキルC2-6アルケニル、ハロゲン、アリールオキシ、チオアリール、シアノ、ヒドロキシ、ニトロなどにより任意に置換できる。置換アリール基には、特に、アルキル又はアルケニル基により置換されるものを含み、それらの基は順次任意に置換できる。具体的アリール基には、フェニル基、ビフェニル基、ピリジニル基及びナフチル基を含み、これらの全ては任意に置換される。
【0083】
ヘテロアリール基には、1以上の5-又は6-員の芳香環又は芳香族複素環を有する基を含む。ヘテロアリール基は、例えば、1以上のC1-6アルキルC2-6アルケニル、ハロゲン、アリールオキシ、チオアリール、シアノ、ヒドロキシ、ニトロなどにより任意に置換できる。「ヘテロアリール」への言及には、窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜3個のヘテロ原子を含む単環及び二環複素環式芳香環への言及を含む。単環複素環式芳香環の例には、例えばピリジニル、ピリミジニル、チオフェニル、フラニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル又はイミダゾリルを含み、二環複素環式芳香環の例には、例えばベンズイミダゾリル、キノリニル又はインドリルを含む。芳香族複素環は、該環に1以上のN、O又はS原子を含むことができる。芳香族複素環には、1、2又は3個のNを有するもの、1又は2個のOを有するもの、及び1又は2個のSを有するものを含むことができる。
【0084】
アリールアルキル及びヘテロアリールアルキル(heteroarylalky)基は、用語「置換アルキル」に明らかに包含される。アリールアルキル基は1以上のアリール基により置換されたアルキル基であり、式中、該アルキル基は付加的な置換基を任意に担持し、かつ該アリール基は任意に置換されている。具体的なアルキルアリール基は、フェニル置換アルキル基、例えば、フェニルメチル基である。ヘテロアリールアルキル基は、1以上のヘテロアリール基により置換されるアルキル基であり、式中、該アルキル基は付加的な置換基を任意に担持し、かつ該アリール基は任意に置換されている。
【0085】
アルキルアリール基及びアルキルヘテロアリールは、用語「置換アリール」に明らかに包含される。アルキルアリール基は、1以上のアルキル基により置換されたアリール基であり、式中、該アルキル基は付加的な置換基を任意に担持し、かつ該アリール基は任意に置換されている。具体的なアルキルアリール基は、メチルフェニルなどのアルキル置換フェニル基である。アルキルヘテロアリール基は1以上のアルキル基により置換されたヘテロアリール基であり、式中、該アルキル基は付加的な置換基を任意に担持し、かつ該アリール基は任意に置換されている。
【0086】
任意のアルキル、アルケニル及びアリール基の任意置換には、以下の1以上の置換基による置換を含む:ハロゲン、--CN、--COOR、--OR、--COR、--OCOOR、--CON(R)2、--OCON(R)2、--N(R)2、--NO2、--SR、--SO2R、--SO2N(R)2、又は--SOR基。アルキル基の任意置換には、各々任意に置換された1以上のアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、複素環基、又はそれらの組み合わせによる置換を含む。アルケニル基の任意置換には、1以上のアルキル基、アリール基、又はその両方による置換を更に含み、式中、該アルキル基又はアリール基は任意に置換されている。アリール基の任意置換には、1以上のアルキル基、アルケニル基、又はその両方によるアリール環の置換を更に含み、式中、該アルキル基又はアルケニル基は任意に置換されている。
【0087】
アルキル、アルケニル及びアリール基に関する任意置換基には、特に、以下を含む:--COORa、式中Raは水素又はアルキル基又はアリール基であり;及び、より具体的には、式中Raはメチル、エチル、プロピル、ブチル又はフェニル基であり、これらの全ては任意に置換されており;--CORa、式中Raは水素又はアルキル基又はアリール基であり;及び、より具体的には、式中Raはメチル、エチル、プロピル、ブチル又はフェニル基であり、これら全ての基は任意に置換されており;--CON(Ra)2、式中各Raは各々他のRaと独立して水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中Raはメチル、エチル、プロピル、ブチル又はフェニル基であり、これら全ての基は任意に置換されており;Ra及びRaは、1以上の二重結合を含むことができる環を形成でき;--OCON(Ra)2、式中各Raは各々他のRと独立して水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中Rはメチル、エチル、プロピル、ブチル又はフェニル基であり、これら全ての基は任意に置換されており;Ra及びRaは、1以上の二重結合を含むことができる環を形成でき;--N(R)2、式中各Rは各々他のRaと独立して水素又はアルキル基、アシル基若しくはアリール基であり、より具体的には、式中Raはメチル、エチル、プロピル、ブチル、又はフェニル又はアセチル基であり、これら全ての基は任意に置換されており;又は、Ra及びRaは1以上の二重結合を含むことができる環を形成できる。--SRa、--SO2Ra又は--SORa、式中Raはアルキル基又はアリール基であり、より具体的には式中Raはメチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル基であり、これらの全ては任意に置換されており;--SRaについて、Raは水素であり得;--OCOORa、式中Raはアルキル基又はアリール基であり;--SO2N(Ra)2、式中Raは水素、アルキル基又はアリール基であり、隣接するRa基は環を形成でき;--ORa、式中RはH、アルキル、アリール又はアシルであり;例えば、Rは--OCOR*を生じるアシルであり得、式中R*は水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には式中R*はメチル、エチル、プロピル、ブチル又はフェニル基であり、これら全ての基は任意に置換されている。
【0088】
具体的な置換アルキル基には、各々任意に置換された、ハロアルキル基、特にトリハロメチル基及び特にトリフルオロメチル基、並びにベンジル、ピリジル、ピリジルメチル及び複素環を含む。具体的な置換アリール基には以下のものを含む:モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-及びペンタハロ置換フェニル基;モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ、ヘキサ-及びヘプタ-ハロ置換ナフタレン基;3又は4-ハロ置換フェニル基、3又は4-アルキル置換フェニル基、3又は4-アルコキシ置換フェニル基、3又は4-RCO置換フェニル、5-又は6-ハロ置換ナフタレン基。より具体的には、置換アリール基には以下のものを含む:アセチルフェニル基、特に4-アセチルフェニル基;フルオロフェニル基、特に3-フルオロフェニル及び4-フルオロフェニル基;クロロフェニル基、特に3-クロロフェニル及び4-クロロフェニル基;メチルフェニル基、特に4-メチルフェニル基及びメトキシフェニル基、特に4-メトキシフェニル基。
【0089】
用語「ヘテロアリール」は、炭素原子、水素原子、及び1以上のヘテロ原子(典型的には、窒素、酸素及び硫黄から独立に選択される1〜3個のヘテロ原子)を含む単環式又は多環式芳香環を意味する。当業者に周知であるように、ヘテロアリール環は、その全炭素カウンタパートよりも低い芳香族特性を有する。従って、本開示の目的に関して、ヘテロアリール基は、ある程度の芳香族特性を有することのみが必要である。ヘテロアリール基の実例には、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジル、トリアジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、(1,2,3)-及び(1,2,4)-トリアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソオキサゾリル、チアゾリル、フェニル、イソオキサゾリル並びにオキサゾリルを含むがこれらに限定されるものではない。ヘテロアリール基は、非置換であり得、又は1若しくは2個の適切な置換基により置換できる。典型的には、ヘテロアリール基は単環であり、式中、該環は2〜5個の炭素原子及び1〜3個のヘテロ原子を含み、本明細書においては「(C2-C5)ヘテロアリール」という。
【0090】
本明細書において使用する「アルコール保護基」とは、次の化学反応の化学選択性を得るために、及び特定の条件下での修飾を予防するために、官能基の化学的修飾により分子へと導入される基をいう。本開示の化合物及び方法に有用な例示的なアルコール保護基には、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)、ベンジル(Bn)、β-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、ジメトキシトリチル[ビス-(4-メトキシフェニル)フェニルメチル、DMT]、メトキシメチルエーテル(MOM)、メトキシトリチル [(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル、MMT)、p-メトキシベンジルエーテル(PMB)、メチルチオメチルエーテル、ピバロイル(Piv)、テトラヒドロピラニル(THP)、トリチル(トリフェニルメチル、Tr)、シリルエーテル(例えば、トリメチルシリル(TMS)、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、tert-ブチルジメチルシリルオキシメチル(TOM)及びトリイソプロピルシリル(TIPS)エーテル)、メチルエーテル、及びエトキシエチルエーテル(EE)を含むがこれらに限定されるものではない。
【0091】
医薬として許容し得る塩は、医薬として許容し得るアニオン及び/又はカチオンを含む。医薬として許容し得るカチオンには、特に、アルカリ金属カチオン(例えば、Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属カチオン(例えば、Ca2+、Mg2+)、無毒性重金属カチオン、及びアンモニウム(NH4+)、及び置換アンモニウム(N(R')4+、式中R'は水素、アルキル、又は置換アルキル(すなわち、メチル、エチル又はヒドロキシエチルを含む)、具体的には、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム及びトリエタノールアンモニウムカチオン)を含む。医薬として許容し得るアニオンには、特に、ハロゲン化物(例えば、Cl-、Br-)、硫酸、酢酸(例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸)、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、クエン酸、及び乳酸を含む。
【0092】
さらにまた、本開示の化合物は、プロドラッグ形態を有することができる。本開示の化合物のプロドラッグは、本開示の方法に有用である。インビボで本開示の化合物の生物学的に、薬学的に又は治療的に活性な形態を提供するよう転換される任意の化合物は、プロドラッグである。プロドラッグの様々な例及び形態は当該技術分野において周知である。プロドラッグの例は、特に、以下のものに見出される:H. Bundgaardにより編集された「プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)」(Elsevier, 1985)、K. Widderらにより編集されたMethods in Enzymology, Vol. 42, 309-396頁(Academic Press, 1985);Krosgaard-Larsen及びH. Bundgaardにより編集された「薬剤設計及び開発のテキスト(A Textbook of Drug Design and Development)」のH. Bundgaardによる第5章「プロドラッグの設計及び適用(Design and Application of Prodrugs)」、113-191頁, 1991;H. Bundgaardの文献, Advanced Drug Delivery Reviews, Vol. 8, p.1-38 (1992);H. Bundgaardらの文献, Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 77, p. 285 (1988);及び、Nogradyの文献 (1985) Medicinal Chemistry A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, 388-392頁。
【0093】
式I又はIIの化合物は、凝集タンパク質毒性を予防又は阻害するのに有用である。また、本開示は、以下の構造を含む化合物を提供する。当該化合物は、凝集タンパク質毒性の有用な阻害剤である。本開示の方法及び組成物には、鏡像異性体、医薬として許容し得る塩、及び式I又はIIを有する化合物の誘導体を含む。本発明の例示的化合物には、以下に記載するものを含む:
【化7】

【0094】
下記のスキームIは、本開示の化合物を合成するために使用されるUgi反応を表す。
【化8】

【0095】
具体的に上記した化合物に加え、本開示に従って記載されているアッセイも、神経変性疾患などの様々な障害の治療に活性を有する更なる化合物を同定することに有用であり、当該活性は、凝集媒介型タンパク質毒性の1以上の態様の変調から生じる。上記の化合物に関連して記載したように、本開示の化合物の活性は、アミロイドタンパク質の不溶性原線維への会合の予防若しくは阻害、予め形成された沈着のクリアランス、又は既にアミロイド沈着を有する対象における沈着の遅延化を含むことができる。化合物の活性は、可溶性オリゴマー形態で、若しくはその原線維形態で、アミロイドタンパク質が細胞表面に結合又は付着すること、及び細胞傷害又は毒性を引き起こすことの予防、又は特定の器官(例えば、脳)からのアミロイドクリアランスを促進することも含み得る。
【0096】
式I又はIIによる先に提供された化合物は、本開示に従って提供される活性化合物の範囲を制限することを意図しない。むしろ、本開示は、本明細書に列挙された追加的化合物、列挙された化合物の複数の異型、並びに本明細書に記載されている方法及びアッセイに従って同定可能な更なる化合物を包含する。特に、本開示は、本明細書に記載されている様々な化合物の医薬として許容し得るエステル、アミド、塩又は溶媒和物も包含する。
【0097】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の生体活性異型も、特に本開示により包含される。当該異型は、本明細書に記載されている化合物の生物学的活性(すなわち、凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する能力)を保持すべきである。本開示の一実施例に従い、適切な生物学的活性異型は、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の類似体及び誘導体を含む。本明細書において使用する「類似体」とは、1以上の個々の原子又は官能基が、異なる原子又は異なる官能基のいずれかで置き換えられた化合物であって、一般的には類似の特性を生じる化合物をいう。実際、本明細書に記載されているものなどの単一化合物は、類似の活性を有する類似体の全てのファミリーを生じることができ、従って本開示による有用性を生じ得る。同様に、本明細書に記載されているものなどの単一化合物は、本開示による有用な化合物のより大きなクラスの単一ファミリーメンバーを表し得る。したがって、本開示は、本明細書に記載されている化合物のみならず当該化合物の類似体、特に当該技術分野において周知の方法により同定できるもの、及び当業者に認識可能であるものを完全に包含する。
【0098】
本明細書で使用される「誘導体」は、出発化合物に別の分子又は原子を付着させることによって類似の出発化合物から形成される化合物を含む。更に、本開示による誘導体は、1以上の原子又は分子の付加により、又は2以上の前駆体化合物を化合させることにより、前駆体化合物から形成される1以上の化合物を包含する。
【0099】
また、本開示は、該当する場合、個々に、又は任意の比率で混合される、本開示を実施するための本明細書に記載されている化合物の立体異性体を含む。立体異性体には、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ混合物、及びこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されるものではない。当該立体異性体は、鏡像異性体出発物質を反応させることにより、又は本開示の化合物の異性体を分離することにより、従来技術を使用して調製又は分離できる。異性体には、幾何異性体を含み得る。幾何異性体の例には、二重結合を介するシス異性体又はトランス異性体を含むが、これらに限定されない。他の異性体は、本開示の化合物の中に意図される。異性体が、本明細書に記載されている化合物の純粋形態で、又は他の異性体を有する混合物で、使用できる。本開示には、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物のプロドラッグ及び活性代謝物を更に含む。プロドラッグは、対象に投与される場合、本明細書に記載されている化合物に対し全体的に又は部分的に変換された任意の化合物を含む。活性代謝物は、対象に投与された場合、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物又はそのプロドラッグの代謝から生じる生理的に活性な化合物である。
【0100】
いくつかの実施態様において、本開示の化合物の治療上有効量は、凝集媒介型タンパク質毒性又はアミロイド病の症状発現を阻害するために、対象に投与される。式I又はIIを含む組成物の「治療上有効量」は、対象に投与される場合、その組成物で治療されている対象で所期の効果を達成するのに十分な量である。例えば、これは、対象におけるアミロイド線維形成、凝集又は沈着と関連している疾患を予防し、寛解させ、及び/又は治療することに有用な組成物の量であり得る。理想的には、式I又はIIを含む組成物の治療上有効量は、対象において実質的な細胞毒性引き起こすことなく、対象におけるアミロイド線維形成、凝集又は沈着と関連している疾患を予防し、寛解させ、及び/又は治療するのに十分な量である。
【0101】
対象におけるアミロイド線維形成、凝集又は沈着と関連している疾患を予防し、寛解させ、及び/又は治療することに有用な式Iの化合物を含む組成物の有効量は、治療対象、苦痛の特定型及び重篤性、並びに組成物の投与様式に依存する。式I又はIIの化合物を含む組成物の治療上有効量に対する反応は、例えば、アミロイドタンパク質の不溶性原線維への会合の阻害、予め形成された沈着のクリアランス、又はアミロイド沈着の沈着速度の減少を含み得る。本明細書に記載されているように、本開示は、式I又はIIの化合物を含む医薬組成物を意図する。追加的薬剤には、例えば、フラボン、ビグアニド、フラノフラボノイド、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミド1 -β-D-リボフラノシド、トリメタジオン、及びモリンを含み得る。当該化合物に有用な送達系及び治療法は公知であり、療法としてこれらの化合物を投与するために使用できる。加えて、代表的な実施態様は、本明細書に記載されている。
【0102】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物は、エステル、アミド、塩、溶媒和物、プロドラッグ、代謝産物、誘導体等の形態で投与できるが、但し、本開示による薬理活性を維持することを条件とする。本開示の化合物のエステル、アミド、塩、溶媒和物、プロドラッグ及び他の誘導体は、例えば、J. Marchの文献, 「高等有機化学:反応、機構及び構造(Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure)」, 第4版. (New York: Wiley-Interscience, 1992)に記載されているものなどの当該技術分野において一般に知られている方法に従って調製できる。
【0103】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の医薬として許容し得る塩の例には酸付加塩を含む。しかしながら、医薬として許容し得る酸でないものの塩は、例えば、化合物の調製及び精製に有用であり得る。本開示による適切な酸付加塩には、有機酸及び無機酸を含む。好ましい塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、メタン硫酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸(benzesulfonic)、及びイセチオン酸から形成される塩を含む。他の有用な酸付加塩には、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、サリチル酸などを含む。医薬として許容し得る塩の具体例には、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-l,4-二酸塩、ヘキシン-1,6-二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、及びマンデル酸塩を含むがこれらに限定されるものではない。
【0104】
酸付加塩は、適切な塩基での処理により遊離塩基に再変換できる。本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物に存在してもよい酸性部分の塩基性塩の調製は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリエチルアミンその他などの、医薬として許容し得る塩基を使用するのと同様の様式で調製できる。本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物のエステルは、該化合物の分子構造内に存在してもよいヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基の官能化を介して調製できる。アミド及びプロドラッグは、当業者に公知の技術を使用して調製することもできる。例えば、アミドは適切なアミン反応物を使用してエステルから調製でき、又はそれらはアンモニア又は低級アルキルアミンとの反応により無水物又は酸塩化物から調製できる。さらに、本開示の化合物のエステル及びアミドは、0 ℃〜60 ℃の温度の適切な有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド)中、カルボニル化剤(例えば、ギ酸エチル、無水酢酸、塩化メトキシアセチル、ベンゾイルクロリド、メチルイソシアナート、クロロギ酸エチル、メタンスルホニルクロリド)及び適切な塩基(例えば、4-ジメチルアミノピリジン、ピリジン、トリエチルアミン、炭酸カリウム)との反応により製造できる。プロドラッグは典型的には部分の共有結合により調製され、これは個人の代謝系により修飾されるまで、治療的に不活性である化合物を生じる。医薬として許容し得る溶媒和物の例には、水、イソプロパノール、エタノール、メタノール、DMSO、酢酸エチル、酢酸、又はエタノールアミンと組み合わせての本開示による化合物を含むが、これらに限定されない。
【0105】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物を含む組成物を投与する方法は、髄腔内、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、硬膜内、頭蓋内、脳室内、及び経口の経路を含むがこれらに限定されるものではない。本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物を含む組成物は、例えば、注入又はボーラス注入、局所、上皮又は粘膜裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸の粘膜など)を介した吸収、眼、鼻及び経皮を含む任意の従来的経路により投与でき、他の生理活性物質と共に投与できる。投与は、全身的又は局部的であり得る。ある場合には、注入は、例えば貯蔵部に取り付けられたカテーテルにより容易化できる。肺投与は、例えば、エアロゾル化剤を含む製剤を使用して(例えば、吸入器又はネブライザにより)実施することもできる。
【0106】
具体的実施態様において、治療を必要とする領域に局所的に医薬組成物を投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定目的でなく、手術、局所施用(例えば、創傷被覆)、注入、カテーテル、坐薬又は移植(例えば、膜(例えばシリコン膜又は線維)を含む、多孔性、非多孔性又はゼラチン性材料から形成されたインプラント)などの間又はその後に、局所又は局所注入又は灌流により達成できる。一実施態様において、ポンプが使用され得る(例えば、Langerの文献, Science 249: 1527-33, 1990; Seftonの文献, Crit. Rev. Biomed. Eng. 14:201-40, 1987; Buchwaldらの文献, Surgery 88:507-16, 1980; Saudekらの文献, N. Engl. J. Med. 321 :574-79, 1989を参照されたい)。1つの具体例において、投与は、移植されたミニポンプを使用して、医薬組成物の静脈内、硬膜内、頭蓋内、髄腔内又は硬膜外注入により達成される。当該ミニポンプは、標的部位への治療剤の有効な送達を可能にする任意の位置で、移植できる。別の実施態様において、投与は、治療すべき組織の部位(又は前の部位)での直接注入によりなし得る。別の実施態様において、医薬組成物は、小胞で、特にリポソームで、送達される(例えば、Langerの文献, Science 249: 1527-33, 1990; Treatらの文献, 「感染症及び癌の治療におけるリポソーム(Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer)」, Lopez-Berestein及びFidler (編), Liss, N.Y., pp. 353-365, 1989を参照されたい)。
【0107】
さらに別の実施態様において、医薬組成物は、制御放出系で送達できる。別の実施態様において、重合物質を使用できる(例えば、Rangerらの文献, Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61-67, 1983; Levyらの文献, Science 228: 190-02, 1985; Duringらの文献, Ann. Neurol. 25:351-56, 1989; Howardらの文献, J. Neurosurg. 71 :105-12, 1989を参照されたい)。他の制御放出系、例えばLangerの文献(Science 249: 1527-33, 1990)による総説で議論されているものも使用できる。
【0108】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物が送達されるビヒクルには、当業者に公知の医薬として許容し得る組成物を含み得る。例えば、いくつかの実施態様において、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物は、医薬として許容し得る担体に含まれる。用語「医薬として許容し得る」は、動物、より具体的にはヒトでの使用につき、連邦若しくは州政府の監督機関の承認を得たこと、又は米国薬局方若しくは他の一般に公認された局方に収載されていることを意味する。用語「担体」とは、組成物とともに投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又はビヒクルをいう。当該医薬担体は、石油、動物、植物又は合成起源のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ごま油等を含む水及び油などの滅菌液であり得る。水は、医薬組成物を静脈内投与するときに好ましい担体である。生理食塩水、血漿媒体、水性デキストロース、及びグリセロール溶液は、特に注射可能溶液用の液体担体として利用することもできる。媒体には、従来の医薬補助材料、例えば、浸透圧を調整する医薬として許容し得る塩、シクロデキストリンなどの脂質担体、血清アルブミンなどのタンパク質、メチルセルロースなどの親水性薬剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐剤その他などを含むこともできる。
【0109】
医薬賦形剤の例には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどを含む。医薬組成物は、必要に応じて、微量の湿潤剤又は乳化剤又はpH緩衝剤を含むこともできる。医薬組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉、持効性製剤などの形態をとることができる。医薬組成物は、従来の結合剤及び担体、例えばトリグリセリドなどとともに坐薬として製剤化できる。経口製剤には、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムその他などの標準担体を含み得る。非経口医薬担体のより完全な説明は、Remingtonの文献「製薬の科学及び実施(The Science and Practice of Pharmacy)」(19版, 1995)の95章に見出すことができる。
【0110】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物を含む組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合させた医薬組成物として、ルーチン手順に従って製剤化できる。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張性水性緩衝液の溶液である。必要な場合、組成物には、可溶化剤、及び注入の部位で苦痛を和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔剤を含むこともできる。
【0111】
各種実施形態の成分は、例えば、錠剤、ピル、粉、液溶体若しくは懸濁液などの固体、半固体及び液体剤形で、又は乾燥凍結乾燥粉末として、又は活性薬剤の量を示しているアンプル若しくはサシェなどの密封容器内の水不含濃縮物として、単位用量形態で個別的に又は共混合されて、供給される。組成物を輸液により投与する場合、無菌医薬品等級の水又は食塩水を含有する輸液ボトルで調剤できる。組成物が注入により投与される場合、該成分が投与前に混合できるように、滅菌水又は食塩水のアンプルを提供できる。
【0112】
有効である本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の量は、治療すべきアミロイド障害又は状態の性質、並びに該障害又は状態の段階による。有効量は、標準臨床技術により測定できる。また、処方に使用される正確な用量は投与経路により、かつ健康管理実務者の判断及び各対象の状況によって決定されるべきである。当該用量範囲の例は、約70kgの体重を有する患者につき、単一用量又は分割用量で、約1mg/日〜約1000mg/日であり、約10mg/日、20mg/日、30mg/日、40mg/日、50mg/日、60mg/日、70mg/日、80mg/日、90mg/日、100mg/日、125mg/日、150mg/日、175mg/日、200mg/日、225mg/日、250mg/日、275mg/日、300mg/日、350mg/日、400mg/日、450mg/日、500mg/日、550mg/日、600mg/日、650mg/日、700mg/日、750mg/日、800mg/日、850mg/日、900mg/日、950mg/日、1000mg/日、及び約1mg/日〜約1000mg/日の間の他のこのような値を含む。いくつかの具体的態様において、標的細胞又は組織におけるフラボン、ビグアニド、フラノフラボノイド、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミド1-β-D-リボフラノシド、トリメタジオン、又はモリンの目標濃度は、単一用量又は分割用量で0.1〜10mg/kg体重である。
【0113】
任意の具体的対象についての具体的投与レベル及び投与頻度は様々であり得、具体的化合物の活性、該化合物の代謝安定性及び作用時間、療法を受けている宿主の年齢、体重、全般的健康状態、性別、食事、投与様式及び時間、排出速度、薬剤併用、並びにアミロイド状態の重篤性を含む様々な因子による。
【0114】
本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物を含む組成物は、治療期間全体にわたってほぼ同用量で、漸増用量療法で、又は負荷用量療法(例えば、該負荷用量が維持用量の約2〜5倍である)で、投与できる。いくつかの実施態様において、用量は、治療対象の状態、アミロイド病若しくは状態の重篤性、療法に対する見かけの反応、及び/又は当業者により判断される他の因子に基づき、治療過程の間に変更される。いくつかの実施態様において、本開示を実施するために本明細書に記載されている本開示された化合物を用いる長期治療が意図される。
【0115】
本開示の別の実施態様において、本開示を実施するための本明細書に記載されている化合物(例えば式Iの化合物)の治療的に有効な用量を含む医薬組成物は、断続的に投与される。「間欠投与」により意図されるのは、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の治療的に有効な用量の投与、それに続く中断期間、及びその後の治療的に有効な用量のさらなる投与などである。治療的に有効な用量の投与は、例えば持効性製剤を用いる連続的様式で達成でき、又は例えば1日あたり1、2、3若しくはそれより多い投与による所望の毎日投与計画に従って達成できる。「中断期間」により意図されるのは、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の連続徐放又は毎日投与の中断である。中断期間は、連続徐放性又は毎日投与の期間より長くてもよく、又は短くてもよい。中断期間の間、関連組織における化合物のレベルは、実質的に、治療の間に得られた最大レベルを下回る。中断期間の好ましい長さは、有効量の濃度及び使用する化合物の形態による。中断期間は、少なくとも2日、少なくとも4日、又は少なくとも1週であり得る。他の実施態様において、中断期間は、少なくとも1月、2月、3月、4月、又はそれより長い。徐放性製剤を使用する場合、中断期間は、化合物のより長い滞留時間のために延長できる。あるいは、徐放性製剤の有効量の投与頻度は適宜減らすことができる。本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物の投与の間欠スケジュールは、所望の治療効果、究極的には疾患又は障害の治療が達成されるまで、続けることができる。
【0116】
本明細書に記載するアミロイド病の治療には、対象におけるアミロイド病の症状発現を阻害する方法を含み、該方法は、本開示を実施するために本明細書に記載されている化合物(例えば、式Iの化合物)を含む組成物の治療上有効量を対象に投与することを含む。一実施態様において、アミロイド病は、脳機能に影響を及ぼす神経変性疾患であり、該疾患には、運動に影響を及ぼす状態、記憶に影響を及ぼす状態、及び認知症に関連する状態を含む。神経変性疾患に罹患する脳の領域は、血管系を含む間質、又は機能的若しくは解剖学的領域を含む柔組織、又はニューロン自体であり得る。
【0117】
本開示の一実施態様において、治療される対象は、ヒト、例えばアルツハイマー病の危険があるヒトである。アルツハイマー病は、漸進性認知悪化によって特徴づけられる神経変性疾患であり、認知症の最も一般的な型である。病理学的プロセスは、主に、アミロイド斑及び神経原線維性濃縮体の沈着に応答しての炎症反応を伴うニューロン損失又は萎縮から構成される。アルツハイマー病を有する対象の脳におけるアミロイドの最も頻繁な型は、主にAβペプチド原線維から構成され、β-アミロイドペプチドは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)として公知のより大きいタンパク質からタンパク質分解により誘導される39〜43個のアミノ酸ペプチドである。APPにおける突然変異は、家族性形態のアルツハイマー病、並びに脳アミロイド脈管症及び老人性認知症を結果的に生じ、これはAβ原線維及び他の成分から構成される斑の脳沈着によって特徴づけられる。家族性形態のアルツハイマー病は、対象集団の約10%のみを表す。アルツハイマー病の大部分の発生は、APP及びAβが任意の突然変異を有しない、散発的事例である。様々な長さのAβペプチドの構造及び配列は当該技術分野において周知である。当該ペプチドは、当該技術分野で公知の方法に従って作成でき、又は公知の方法に従って脳から抽出できる(例えば、Glenner及びWongの文献, Biochem. Biophys. Res. Comm. 122:1131-35, 1984; Glenner及びWongの文献, Biochem. Biophys. Res. Comm. 129:885-90, 1984を参照されたい)。加えて、ペプチドの様々な形態が市販されている。
【0118】
科学文献において同定又は提案されたアルツハイマー病素因には、特に、年齢(例えば、40歳超、50歳超、60歳超、70歳超、80歳超、85歳超、90歳超、又は95歳超であること)、特定の遺伝子型(例えば、家族性ADと関連しているプレセニリン-1、プレセニリン-2及びAPPミスセンス突然変異;後発性ADと関連するα-2-マクログロブリン及びLRP-I遺伝子型)、環境因子(例えば、アルミニウムへの暴露)、特定のウイルス及び細菌(例えば、単純ヘルペスウイルス及びクラミジアニューモニエ)による感染の既往歴、及び特定の脈管因子(例えば、高血圧症及び糖尿病)を含む。さらなる態様において、ヒト対象は、例えば、臨床認知速度(CDR)、アルツハイマー病 評価スケール認知(ADAS-Cog)、認知症についての能力障害評価(DAD)、又はミニメンタルステート評価(MMSE)などの認知試験により、アルツハイマー病の危険があることが示される。対象は、認知試験において、同程度の年齢及び学歴の歴史的対照と比較して低い平均スコアを示し得る。対象は、同じ又は類似の認知試験での対象の以前のスコアと比較して、スコアの減少を示すこともできる。
【0119】
CDRを測定することにおいて、対象は、典型的には、以下の6つの認知及び行動カテゴリの各々において評価され評点される:(1)記憶、(2)見当識、(3)判断及び問題解決、(4)社会性(community affair)、(5)家庭及び趣味、並びに(6)個人看護。評価は、対象又は該対象をよく知っている証人により提供される歴史的情報を含み得る。対象は、これらの領域の各々で評価されて評点され、該全体の評点(0、0.5、1、2又は3)が決定される。0の評点は、正常であるとみなされる。0.5のCDRを有する対象は、軽度の一貫した健忘症、事象の部分的回想、及び「良性」健忘症によって特徴づけられる。一方、1、2及び3の評点は、それぞれ軽度、中程度及び重篤な認知症に相当する。例えば、Morrisの文献, Neurology 43:2412-14, 1993を参照されたい。
【0120】
特にアルツハイマー病があることで疑われる対象において認知を評価するための別の手段はADAS-Cog、又は標準化アルツハイマー病評価スケール(SADAS)とよばれる変形である。両試験は、アルツハイマー病及び認知低下によって特徴づけられる関連障害の臨床薬剤試験の有効な測定として一般的に使用される。ADAS-Cog及びSADASはそれ自体アルツハイマー病を診断するように設計されていないが、それらは認知症の症状を特徴づけることに有用であり、認知症進行の比較的感度が高い指標である。例えば、Doraiswamyの文献, Neurology 48: 1511-17, 1997を参照されたい。ADAS-Cogは、質問を使用して、70ポイントスケールのアルツハイマー病に見られるような認知低下の進行及び重篤度を測定するように設計されている。ADAS-Cogスケールは、間違った答えの数を定量化し;その結果として、該スケールにおけるハイスコアは、認知低下のより重篤な場合を示す。未治療のアルツハイマー病患者の一年の悪化は、1年につき約8ポイントである。例えば、Raskindの文献, J. Clin. Psychiatry 2:134-38, 2000を参照されたい。DADスケールは、日常生活の活動を実施するための対象の能力を測定するために開発され、セルフケア(すなわち、更衣動作及び個人衛生)及び手段的活動(例えば、家事、料理及び家庭の装置を使用すること)に従って評価できる。DADスケールの目的には、認知障害による対象における日常生活の活動に機能的な能力を量的に測定すること、及び日常生活の活動の履行を損なっている可能性のある認知欠損の領域を描写するのを助けることを含む。DADは、介護者との面接を介して与えられる。それは、該面接前の2週間に渡って観察される対象における日常生活の活動の実際の履行を測定する。スケールは、以下の活動領域を評価する:衛生、更衣動作、電話、節制、摂食、食事調製、外出活動、金融及び対応、薬物使用、余暇及び家事。合計スコアは、各質問についての評点を加えることによる得られ;より高いスコアはより少ない障害を表し、より低いスコアはより多くの機能不全を示す。例えば、Gelinasらの文献, Am. J. Occ. Ther. 53:471-81, 1999を参照されたい。MMSEは、アルツハイマー病及び脳血管性認知症に見られるような、認知症の発症、及び全体的な知的悪化の存在を評価する手段である。MMSEは、1〜30でスコア化される。MMSEは、基本的な認知可能性(例えば、いわゆる「IQ試験」)を評価せず、むしろ知的技術を試験する。「正常な」知的能力者は、MMSE客観試験において30を得点する。30より低いスコアは段階的に、それぞれ、非常に軽度の、軽度の、中程度の、及び重篤な認知症に相当する。例えば、Folsteinの文献, J. Psychiatr. Res. 12:189-98, 1975を参照されたい。
【0121】
本開示の別の実施態様において、対象は、ヒト、例えば、パーキンソン病の危険があるヒトである。パーキンソン病は、筋硬直、振戦、物理的運動の遅滞化(運動緩慢)、及び極端な場合には物理的な運動の欠失(無動症)によって特徴づけられる神経変性疾患である。一次的症状は、基底核による運動皮質の減少した刺激の結果であり、通常、色素性ドーパミン分泌(ドーパミン作動性)細胞の欠失により引き起こされる。パーキンソン病において脳細胞が失われる機構には、傷害細胞におけるユビキチン結合したα-シヌクレインタンパク質の異常な蓄積を含む。理論に拘束されることなく、α-シヌクレイン-ユビキチン複合体は、小胞体とゴルジ体との間でタンパク質を輸送する機構の欠損により、プロテオソームの方向を目指すことができないと考えられる。このタンパク質蓄積は、レビー小体と呼ばれるタンパク質性細胞質封入体を形成する。
【0122】
統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)は、診断を援助し、PDの重篤度を測定するために使用される主要な臨床ツールであり、以下の区分を含む:(1) 精神状態、挙動及び気分;(2)日常生活の活動;(3)運動試験;(4)療法の複雑さ;(5) 改変Hoehn及びYahr段階化;及び、(6)日常生活スケールのSchwab及びEnglandの活動。例えば、Fahn S., Marsden CD., Calne D. B.,及びGoldstein M.編. 「パーキンソン病の最近の発展(Recent Developments in Parkinson 's Disease)」, Vol 2. Macmillan Health Care Information, Florham Park, NJ, 1987, pp 153-63; 293-304を参照されたい。
【0123】
対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法も、本明細書に開示される。以下の能力を有する任意の化合物が、本開示の方法における使用に意図されている(最終的に実現されるか否かに関わらない):(1)不溶性原線維へのアミロイドタンパク質会合を予防又は阻害する能力;(2)予め形成されたアミロイド沈着のクリアランスを促進する能力; (3)既にアミロイド沈着を有している対象におけるアミロイド沈着を遅延させる能力;(4)アミロイドタンパク質(可溶性及び/又は原線維)が細胞表面に結合又は付着することを予防する能力;又は、(5)アミロイド誘導性細胞毒性をブロックする能力。
【0124】
核酸又はポリペプチドについて与えられる全ての塩基サイズ若しくはアミノ酸サイズ及び全ての分子量若しくは分子質量値はおよその値であり、説明のために提供されていることは更に理解されるべきである。以下の実施例は例示目的で提供され、限定目的で提供されるものではない。
【実施例】
【0125】
(実施例1)
凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定すること。凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物の同定は、25℃の誘導及びsmg-1活性の阻害により引き起こされるmyo-3プロモータの指示下、体壁筋内でヒトAβ1-42を発現するトランスジェニック線虫系統を使用して実施した。有効な阻害剤がない場合におけるこの誘導は、Aβ1-42を有するヒートショックタンパク質-GFP融合構築物の会合をもたらす(このモデルの概略図は、図2に示される)。
【0126】
脱色及びプレーティング。線虫(トランスジェニック系統)を除染し、漂白剤を使用してばらばらにした。M-9溶液(42mM Na2HPO4、22mM KH2PO4、86mM NaCl、1mM MgSO4)の最終的なすすぎの後、孵化していない卵子を約10mlのM-9溶液に放置し、該線形動物の成育を同調させた。異常に高濃度の卵子が存在する場合、それらは、各々10mlの全M-9溶液を有する2つの円錐管に分割した。該管を15℃冷蔵庫のロッカーに置いた。ロッカーに置いた24時間後に、該円錐管を冷蔵庫から取り外し、孵化した虫について顕微鏡下で検査した。遠心機を使用して該虫をペレット化し、3ml を残してM-9溶液を除去し;該虫は、該管を2回振盪することで再懸濁した。
【0127】
該虫を50μlアリコートの(先に大腸菌OP50でスポットした)初代プレート上にスポットし、プレートを平坦に維持し、全ての虫アリコートがプレート上の既にOP50のスポット内にあるように注意した。いったん該虫がL1ステージに達したら、プレートを15℃冷蔵庫に置き、再びプレートを平坦に保つように注意した。
【0128】
フィレティング(Fileting)。L1ステージの虫を冷蔵庫に24時間置いた後に、プレートをフィレティングのために取り出した。15〜25匹の虫をそれぞれ、水性環境で試験される化合物又は対応する対照を含むマイクロタイタープレートのウェルに入れた。通常、動いていた虫のみをフィレ(filleted)した。該虫を約36時間、又はL3ステージに達するまでインキュベートした。Aβ毒性はその後、smg-1活性を生じさせる25℃で18時間の虫の飼育により発生させた。虫は、光学/蛍光顕微鏡の下、3〜4の時点で観察された。典型的には、虫は、ウェルの一番下に定着させ、手動で計数した。
【0129】
虫のスコアリングは、麻痺解析により実施することもできる。虫の麻痺が疑われる場合、ピックを精査に使用した。頸部の後の筋収縮が観察されない場合、虫はOP50のスポットから取り出され、追加的な精査のための清浄な寒天の領域上に配置した。未だ頸部の後に筋収縮がない場合、虫は「麻痺」とスコア化し、プレートから取り出してフラム(flamed)した。筋収縮を示した虫は全て、「生きている」としてスコア化された。
【0130】
(実施例2)
動物は、成虫期まで15℃で育てた。妊娠成虫を懸濁して漂白し;卵をM9塩溶液に再懸濁し、15℃で24時間孵化させた。化合物を100μM濃度のS-培地に加え、それから1ウェルにつき400μLで48ウェルコスター(Costar)プレートに等分した。対照として、DMSOを0.1%濃度でS-培地に加えた。L1孵化幼虫は、25μL分量当たり50〜100匹で各ウェルに加えた。このように、虫は、15℃で第3の幼虫ステージ(L3)に達するまで、液体培地で育てた。L3で、虫を25℃に移し、Aβタンパク質の生体生成を開始させた。動物が成虫期に達した(時点= 0時間)後、観察を24時間開始した。動物は、強度レベルに関係なく、vGFPシグナルの有り又は無しのいずれかとしてスコア化した。
【0131】
化合物は、フラボンの化学構造上の変種として合成し、行及び列が関連する化学構造を含むように96ウェルライブラリにおいて分類した。ヒットしたものの鏡像異性体を合成し、上記の通りに同じ試験をした。
【0132】
合成化合物の96ウェルライブラリにおいて試験される化合物のうち、ある化合物群は、CL660動物におけるvGFP発現を減少させることが可能であった。ジケトピペラジン(DKP)(例えば、一般式I又はIIを有する)のファミリーは、対照群のレベルを著しく下回ってvGFPレベルを減少させた(図11)。これらのデータは、これらの化合物が該動物の外陰部筋細胞におけるAβタンパク質の発達に対して保護役割を有することを示唆する。
【0133】
該化合物が作用している経路を測定するために、Aβ凝集の処理に関与することが既に知られている遺伝学を用いて実験を実施した。インスリン/IGF-1経路は、細胞ストレスの処理に役割を担う。DAF-2は線虫における唯一のインスリン/IGF-1受容体であり、DAF-2の欠乏が長命でストレス耐性の虫を生じる。Aβタンパク質は、その存在に応答してhsp-16.2活性で示されるように、細胞活性に生化学ストレスを与える。DAF-2、DAF-16及びHSF-1の2つの下流の標的は、それぞれ、凝集性又は脱凝集性活性のいずれかを制御して、毒性Aβタンパク質の負荷を処理することが示された。DAF-16はFOXO転写因子をコードし、daf-2RNAiを与えられた虫の寿命(lifespan)の延長のために必要とされる。HSF-1は、daf-2 RNAiを与えられた虫に示される寿命の延長のためにも必要とされる。
【0134】
CL660動物は、S基礎溶液に懸濁されたRNAiを発現する細菌を与えられた。虫におけるDAF-16のノックダウンは部分的にDKPファミリー由来のF7及びD7の有益な効果を抑制したが(図12a)、HSF-1のノックダウンはvGFP発現に効果を及ぼさなかった(図12b)。これらのデータは、DKPが脱凝集的経路HSF-1にではなく、凝集的経路DAF-16に作用していることを示唆する。
【0135】
上記の各々の鏡像異性体は、1つの立体異性体がその他より良好又は同等に働くか否かを調査するために、化合物を試験した。1つの立体異性体を除き、各化合物は、対照を下回ってvGFPシグナル伝達を著しく減少させた(図13)。該例外(E7a)は、シグナル伝達を中程度に減少させた。これらのデータは、両方の立体異性体がAβ毒性を著しく減少させることが可能であることを示唆する。
【0136】
上記の開示は理解を明確にする目的で図と例とを挙げて若干詳細に記載したが、特定の改変及び修飾が添付の請求の範囲で実施できることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iを有する化合物、及びその塩:
【化1】

式中、R1はアリール、ヘテロアリール、アリールアルキル又はヘテロアリールアルキルであり、その各々は任意に置換され;
R2は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール又は置換ヘテロアリールであり;
R3は、-R4-X-R5及び-C(R)2-C(R)2-C(R)2-R6からなる群から選択される式を有し;
R4は、結合、アルキル、置換アルキル、アリール又は置換アリールであり;
R5は、H、アルキル、置換アルキル、アリール及び置換アリールであり;
XはO、S、N(R)、C(O)、C(O)NR、S(O)nからなる群から選択され、式中、nは0、1又は2であり;
R6は、アリール、任意に置換アリール、ヘテロアリール及び置換ヘテロアリールからなる群から選択され;
かつ、各Rは、H、アリール、置換アリール、アルキル又は置換アルキルからなる群から独立に選択される。
【請求項2】
R1が、アリールアルキル又は置換アリールアルキルである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R1が、フェニルメチル又は置換フェニルメチルである、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
R2が、アルキル又は置換アルキルである、請求項2記載の化合物。
【請求項5】
R2が、アルキル又は置換アルキルである請求項1記載の化合物。
【請求項6】
R2が、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から選択される、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
R2が、フェニルメチル又は置換フェニルメチルである、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
R2が、ピリジルメチル又は置換ピリジルメチルである、請求項6記載の化合物。
【請求項9】
R2が、複素環で置換されたアルキルであり、前記アルキル又は複素環が各々任意に置換されている、請求項5記載の化合物。
【請求項10】
XがOである、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
R5がアルコール保護基である、請求項5記載の化合物。
【請求項12】
R5が、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)、ベンジル(Bn)、β-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、ジメトキシトリチル[ビス-(4-メトキシフェニル)フェニルメチル、DMT]、メトキシメチルエーテル(MOM)、メトキシトリチル[(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル、MMT)、p-メトキシベンジルエーテル(PMB)、メチルチオメチルエーテル、ピバロイル(Piv)、テトラヒドロピラニル(THP)、トリチル(トリフェニルメチル、Tr)、シリルエーテル、メチルエーテル、及びエトキシエチルエーテル(EE)からなる群から選択される、請求項5記載の化合物。
【請求項13】
以下から選択される式を有する、請求項1記載の化合物:
【化2】


【請求項14】
医薬として許容し得る担体における請求項1記載の化合物。
【請求項15】
対象における凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する方法であって、請求項1の化合物の治療上有効量を含む組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項16】
前記化合物が、以下のものを含む、請求項15記載の方法:
【化3】


【請求項17】
筋細胞においてヒートショックシャペロンタンパク質に機能的に連結された検出可能な標識、及び筋細胞において誘導可能なAβペプチドを発現する、組換え線虫。
【請求項18】
前記検出可能な標識が視覚的に検出できる標識である、請求項17記載の組換え線虫。
【請求項19】
前記検出可能な標識が、分光器で検出できる標識である、請求項17記載の組換え線虫。
【請求項20】
前記検出可能な標識が、緑色蛍光タンパク質である、請求項17記載の組換え線虫。
【請求項21】
前記検出可能な標識が、黄色蛍光タンパク質である、請求項17記載の組換え線虫。
【請求項22】
前記検出可能な標識が、青色蛍光タンパク質である、請求項17記載の組換え線虫。
【請求項23】
前記検出可能な標識が、赤色蛍光タンパク質である、請求項17記載の組換え線虫。
【請求項24】
凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物を同定する方法であって: (i) β-アミロイドペプチドを発現する第1の線虫を提供すること; (ii)該第1の線虫における蛍光の量を測定すること; (iii) 該β-アミロイドペプチドを発現する第2の線虫を試験化合物に曝露させること;(iv)前記第2の線虫における蛍光を測定すること;及び、(v)該第1及び第2の線虫における蛍光レベルを比較すること;を含み、該試験化合物は、該第2の線虫における蛍光レベルが該第1の線虫における蛍光レベルより低い場合に、凝集媒介型タンパク質毒性を阻害する化合物として同定される、前記方法。
【請求項25】
前記蛍光が、緑色蛍光タンパク質により発生する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記蛍光が、黄色蛍光タンパク質により発生する、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記蛍光が、青色蛍光タンパク質により発生する、請求項24記載の方法。
【請求項28】
前記蛍光が、赤色蛍光タンパク質により発生する、請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A−B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A−B】
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【図6A−B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−515214(P2012−515214A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546337(P2011−546337)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/021068
【国際公開番号】WO2010/083328
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511170607)
【Fターム(参考)】