スクリーニング方法

【課題】 LPIとGPR55との結合に作用する新規物質を探索するための手段を提供する。
【解決手段】 リゾホスファチジルイノシトール(LPI)とその受容体であるGタンパク共役受容体55(GPR55)との結合を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法であって、候補物質の存在下で、GPR55発現細胞にLPIを接触させ、LPIとGPR55との結合を促進または抑制する物質を目的物質として同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)とその受容体であるGタンパク共役受容体55(GPR55)との結合を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Gタンパク質共役受容体は受容体のスーパーファミリーであり、ホルモン、オータコイド、神経伝達物質などのさまざまな内因性リガンドにより引き起こされる、さまざまな生物学的反応を媒介している(非特許文献1)。これらの受容体は共通する分子構造を保有している。すなわち、この構造は7個の膜貫通ドメインを有し、これらの領域に多数の保存残基を有するというものである。現在、1,000を越える遺伝子について、Gタンパク質共役受容体分子をコードすることが解明または予想されている(非特許文献1)。このようにこのGタンパク質共役受容体は、哺乳類組織の中で最も多様性のあるシグナル伝達タンパク質のグループになっているが、その中の多くはオーファン受容体であり、それらの生理学的機能はまだ決定されていない。
【0003】
GPR55はオーファンGタンパク質共役受容体であり、1999年、Sawzdargo et al.により同定された(非特許文献2)。ヒトGPR55遺伝子は第2染色体のq37にマップされており、319個のアミノ酸よりなるタンパク質をコードしている(ヒトGPR55遺伝子のcDNAはGenBank #NM_005683、タンパク質はgenPept/NP_005674にて公知)。GPR55はいくつかの哺乳類組織中、たとえば胸部脂肪組織、精巣、脾、扁桃腺、子宮筋、回腸、脳の複数領域などにおいて発現するが(非特許文献2、特許文献1)、その生理学的および/あるいは病理学的意味合いは、まだはっきりしていない。近年、独立した2つのグループがGPR55はカンナビノイドの新しい受容体である可能性を提唱している(特許文献1、2)。カンナビノイド受容体は将来の医薬品のターゲットとして有望であることから、このような主張は興味深い。しかし今のところそれ以後の報告で、正確な実験データを根拠にしてGPR55がカンナビノイドに特異的な受容体であることを示す事例は現れていない(非特許文献3、4)。特筆すべき点として、既知のカンナビノイド受容体に対するGPR55の配列同一性は低く、CB1受容体に対しては13.5%、CB2受容体に対しては14.4%である。さらにCB1やCB2といった受容体にはいずれも存在する古典的な「カンナビノイド結合ポケット」が、GPR55には存在しない(特許文献1)。そのためGPR55がカンナビノイド受容体であるかどうかという問題は未解決のままである。
【0004】
するとGPR55は何の物質に対する受容体であろうか?Devane et al. (非特許文献5)はアナンダミド (N-アラキドノイルエタノールアミン)がカンナビノイド受容体の内因性リガンドであることを示した。本願発明者ら(非特許文献6)とMechoulam et al. (非特許文献7)は、2-アラキドノイルグリセロール (2-AG)がカンナビノイド受容体に対するもう一つのリガンドであることを示した。構造-活性相関についての研究に基づき、本願発明者らはアナンダミドではなく2-AGがカンナビノイド受容体(CB1とCB2)に対する真の天然リガンドであるという結論に達した(非特許文献8−10)。現在、この意見を支持する証拠が徐々に集積されている(非特許文献11)。一方、2-AGは生物活性リゾ脂質スーパーファミリーの一因であると考えられており、このスーパーファミリーには血小板活性化因子(PAF)、リソホスファチジン酸(LPA)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、リゾホスファチジルセリン(lysoPS)などの各種タイプの脂質媒介物質が含まれている。これらの内因性リガンドは特定のGタンパク質共役受容体と相互作用することが知られている(非特許文献12)。多数のGタンパク質共役受容体がリゾ脂質受容体であると判明しており、その数はまだ増え続けていることを考えると、残されたオーファン受容体も、そのかなりの比率が既知または未知の生物活性リゾ脂質に対する受容体であるだろう。
【0005】
これまでに多数のGタンパク質共役受容体について、リゾ脂質受容体であることが同定されている。LPA1(Edg2) (非特許文献18、19)、LPA2 (Edg4) (非特許文献20)、LPA3 (Edg7) (非特許文献21)ならびにLPA4(GPR23) (非特許文献22)は特異的LPA受容体である。GPR92 (非特許文献23)もやはりLPA受容体(LPA5)であることが報告されている。S1P1(Edg1) (非特許文献24,25)、S1P2 (Edg5) (非特許文献26)、S1P3 (Edg3) (非特許文献26)、S1P4(Edg6) (非特許文献27)ならびにS1P5 (Edg8) (非特許文献28)は特異的S1P受容体である。GPR119はLPC (非特許文献29)またはN-oleoylethanolamine (非特許文献30)に対する受容体であると推測される。さらにGPR34はlysoPS受容体であることが最近判明した(非特許文献31)。加えてカンナビノイド受容体(CB1とCB2)は、2-AG (非特許文献6、7)またはアナンダミド(非特許文献5)に対する内因性の受容体である。これらの所見から、各種タイプの既知または未知のリゾ脂質に特異的な、同定されていない多数のGタンパク質共役受容体が存在することが推測される。
【0006】
リゾホスファチジルイノシトール(LPI)は酸性リゾリン脂質であり、LPA、S1PならびにlysoPSに類似している。LPIはおそらくホスファチジルイノシトールの分解産物であるが、これはホスホリパーゼCとジアシルグリセロールリパーゼの複合反応により2-AGが形成される場合と同様である(非特許文献11)。LPIが示すこれらの著名な特徴から、この物質はLPA、S1P、lysoPSならびに2-AGのように、脂質メディエーターとして作用する可能性が示される。事実、数名の研究者によってLPIがある種の生物学的活性を示すことがこれまでに明らかになっている(非特許文献32-40)。しかしLPIがそれ自身の受容体と相互作用して、LPA、S1P、lysoPSや2-AGの場合と同様に細胞反応を引き起こすかどうかという点についてはまだ調べられていない。事実、この「LPI受容体」分子に関してこれまで得られた情報は存在しない。
【特許文献1】国際公開パンフレットWO0186305
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2004074844
【非特許文献1】Bockaert, J., and Pin, J. P. (1999) EMBO J. 18, 1723-1729
【非特許文献2】Sawzdargo, M. et al. (1999) Brain Res. Mol. Brain Res. 64, 193-198
【非特許文献3】Petitet, F. et al. (2006) Chem. Biol. Drug Des. 67, 252-253
【非特許文献4】Baker, D. et al. (2006) Trends Pharmacol. Sci. 27, 1-4
【非特許文献5】Devane, W. A. et al. (1992) Science 258, 1946-1949
【非特許文献6】Sugiura, T. et al. (1995) Biochem. Biophys. Res. Commun. 215, 89-97
【非特許文献7】Mechoulam, R. et al. (1995) Biochem. Pharmacol. 50, 83-90
【非特許文献8】Sugiura, T. et al. (1997) J. Biochem. 122, 890-895
【非特許文献9】Sugiura, T. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274, 2794-2801
【非特許文献10】Sugiura, T. et al. (2000) J. Biol. Chem. 275, 605-612
【非特許文献11】Sugiura, T. et al. (2006) Prog. Lipid Res. 45, 405-446
【非特許文献12】Ishii, I. et al. (2004) Annu. Rev. Biochem. 73, 321-354
【非特許文献13】Sugiura, T. et al. (1996) Bur. J. Biochem. 240, 53-62
【非特許文献14】Oka, S. et al. (2005) J. Biol. Chem. 280, 18488-18497
【非特許文献15】Breivogel, C. S. et al. (1997) J. Pharmaool. Exp. Ther. 282, 1632-1642
【非特許文献16】Robinson, M. J. and Cobb, M. H. (1997) Curr. Opin. Cell Biol. 9, 180-186.
【非特許文献17】Wang, F. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274, 35343-35350.
【非特許文献18】Hecht, J. H. et al. (1996) J. Cell Biol. 135, 1071-1083.
【非特許文献19】An, S. et al.(1997) Biochem. Biophys. Res. Commum. 231, 619-622
【非特許文献20】An, S. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273, 7906-7910
【非特許文献21】Bandoh, K. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274, 27776-27785
【非特許文献22】Noguchi, K. et al. (2003) J. Biol. Chem. 278, 25600-25606
【非特許文献23】Lee, C. W. et al. (2006) J. Biol. Chem. 281,23589-23597
【非特許文献24】Okamoto, H. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273, 27104-27110
【非特許文献25】Lee, M. J. et al. (1998) Science 279, 1552-1555
【非特許文献26】An, S. et al. (1997) FEBS Lett. 417, 279-282
【非特許文献27】Graler, M. H. et al. (1998) Genomics 53, 164-169
【非特許文献28】Im, D. S. et al. (2000) J. Biol. Chem, 275, 14281-14286
【非特許文献29】Soga, T. et al. (2005) Biochem. Biophys. Res. Commun. 326, 744-751
【非特許文献30】Overton, H. A. et al. (2006) Cell Metab. 3, 167-175
【非特許文献31】Sugo, T. et al. (2006) Biochem. Biophys. Res. Commun. 341, 1078-1087
【非特許文献32】Metz, S. A. (1986) Biochem. Biophys. Res. Commun. 138, 720-727
【非特許文献33】Mets, S. A. (1998) Biochem. Biophys. Acta. 968, 239-252
【非特許文献34】Falasca, M., and Corda, D. (1994) Eur. J. Biochem. 221, 383-389
【非特許文献35】Falasca, M. et al. (1995) Oncogene 10, 2113-2124
【非特許文献36】Baran, D. T., and Kelly, A. M. (1988) Endocrinology 122, 930-934
【非特許文献37】Singaravelu, K. et al. (2006) J. Neurosci. 26, 9579-9592
【非特許文献38】Bassa, B. V. et al. (1999) Am. J. Physiol. 277, F328-337.
【非特許文献39】Blondeau, N. et al. (2002) J. Cereb. Blood Flow Metab. 22, 821-834
【非特許文献40】Corda, D. et al. (2002) Biochem. Biophys. Acta. 1582, 52-69
【非特許文献41】Billah, M. M., and Lapetina, E. G. (1982) J. Biol. Chem. 257, 5196-5200
【非特許文献42】Francel, P., and Dawson, G. (1988) Biochem. Biophys. Res. Commun. 152, 724-731
【非特許文献43】Zoeller, R. A. et al. (1987) J. Biol. Chem. 262, 17212-17220
【非特許文献44】Snoek, G. T. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274, 35393-35399
【非特許文献45】Falasca, M. et al. (1998) Oncogene 16,2357-2365
【非特許文献46】Mariggio, S. et al. (2006) FASEB J. 20, 2567-2569
【非特許文献47】Sugiura, T. et al. (1995) Biochim. Biophys. Acta 1255, 167-176
【非特許文献48】Yamashita, A. et al. (2003) J. Biol. Chem. 278, 30382-30393
【非特許文献49】Xiao, Y. J. et al. (2001) Anal. Biochem. 290, 302-313
【非特許文献50】Sutphen, R. et al. (2004) Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 13, 1185-1191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のとおり、Gタンパク共役受容体であるGPR55は様々な生理学的または病理学的な機能を有することが明らかとなっているが、このGPR55に対する内因性リガンドは明らかになっていなかった。また、LPIについてもその生理活性や病理因子としての役割が示されていたが、それらの作用機序については不明であった。
【0008】
これに対して、本願発明者らは、LPIがGPR55受容体の内因性リガンドであり、両者の結合がそれぞれの生理活性等の基礎となることを見出した。
【0009】
以上のとおりの新規な知見に基づけば、生体内のLPIは、その受容体であるGPR55と結合することによって、細胞内において様々な生理活性因子や病理的因子として機能することが考えられる。従って、両者の結合を促進または抑制する物質は、生体の様々な機能を人為的に変更し得る薬剤、あるいはLPIとGPR55との結合あるいは結合異常を原因とする様々な疾患の予防もしくは治療薬剤となる可能性を秘めている。
【0010】
本願発明は以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、LPIとGPR55との結合に作用する新規物質を探索するための手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)とその受容体であるGタンパク共役受容体55(GPR55)との結合を促進する物質をスクリーニングする方法であって、候補物質の存在下で、GPR55発現細胞にLPIを接触させ、LPIとGPR55との結合を促進する物質を目的物質として同定することを特徴とする方法を提供する。
【0012】
この促進物質のスクリーニングする方法においては、LPIとGPR55との結合促進を、
(1) GPR55発現細胞における細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化の促進;
(2) GPR55発現細胞におけるCa2+の一過性応答の促進;および
(3) GPR55発現細胞壁へのGTPγSの結合促進
の少なくとも一つを検出することによって決定することを好ましい態様としている。
【0013】
また本願発明は、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)とその受容体であるGタンパク共役受容体55(GPR55)との結合を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、候補物質の存在下で、GPR55発現細胞にLPIを接触させ、LPIとGPR55との結合を抑制する物質を目的物質として同定することを特徴とする方法を提供する。
【0014】
この抑制物質のスクリーニングする方法においては、LPIとGPR55との結合抑制を、
(1) GPR55発現細胞における細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化の消失または抑制;
(2) GPR55発現細胞におけるCa2+の一過性応答の消失または抑制;および
(3) GPR55発現細胞壁へのGTPγSの結合の消失または抑制
の少なくとも一つを検出することによって決定することを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、LPIとGPR55との結合を促進または抑制する新規物質を同定することが可能となる。これらの物質によって、生体の様々な機能を人為的に変更し得る薬剤、あるいはLPIとGPR55との結合あるいは結合異常を原因とする様々な疾患の予防もしくは治療薬剤の開発に新たな路を開拓する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明方法において、LPIとGPR55との結合は、当該技術分野で作用されている公知の方法(例えば、特許文献1、2に開示されているような方法等)に基づいて行うことができる。
【0017】
例えば、GPR55発現細胞に標識化LPIを接触させ、細胞からの標識シグナルを指標としてLPIとGPR55との結合を確認することができる。両者を接触させる際に候補物質を添加し、標識シグナルの強度が上昇すれば、その候補物質はLPIとGPR55との結合促進物質であると判定することができ、標識シグナルの強度が減少すれば、その候補物質はLPIとGPR55との結合を抑制する物質であると判定することができる。
【0018】
さらに、LPIとGPR55との結合は、以下のいずれか1以上を検出することによって判定することも好ましい。
(1) GPR55発現細胞における細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化
(2) GPR55発現細胞におけるCa2+の一過性応答
(3) GPR55発現細胞壁へのGTPγSの結合
これらを指標とすることによって、LPIとGPR55との結合を促進する物質や抑制する物質が、両者の結合による生理的変化を生じさせる物質であると判定することもできる。なお、前記(1)−(3)の検出は、下記実施例に示した方法をはじめ、当該技術分野において採用される公知に手段によって実施することができる。
【0019】
なお、これらのスクリーニング方法の対象となる被験物質には、例えば、有機または無機の化合物(特に低分子量の化合物)、タンパク質、ペプチド等が含まれる。これらの物質は、機能や構造が既知のものであっても未知のものであってもよい。また、「コンビナトリアルケミカルライブラリー」は、目的物質を効率的に特定するための被験物質群として有効な手段である。コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製およびスクリーニングは、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,004,617号;5,985,365号を参照)。さらには、市販のライブラリー(例えば、米国ComGenex社製、ロシアAsinex社製、米国Tripos, Inc.社製、ロシアChemStar, Ltd社製、米国3D Pharmaceuticals社製、Martek Biosciences社製などのライブラリー)を使用することもできる。また、コンビナトリアルケミカルライブラリーを、GPR55発現細胞の集団に適用することによって、いわゆる「ハイスループットスクリーニング」を実施することもできる。
【0020】
以下、実施例として、LPIがGPR55受容体の内因性リガンドであることを実証した試験結果を示す。
【実施例】
【0021】
1.方法
1-1.化学物質
脂肪酸を含まないウシ血清アルブミン(BSA)、LPIナトリウム塩(ダイズ由来)、リゾホスファチジルコリン(LPC)(卵黄由来)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)(卵黄由来)、PAF (1-O-ヘキサドデシル)、LPA (1-オレオイル)ナトリウム塩、S1P、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)、ならびにサイコシンはSigma (St Louis, MO)より購入した。LysoPSナトリウム塩(ブタ脳由来)はAvanti Polar Lipids, Inc. (Alabaster, AL)より入手した。2-AGはCayman (Ann Arbor, MI)より購入した。1(3)-パルミトイル-sn-グリセロール、1(3)-ステアロイル-sn-グリセロール、ならびに2-オレオイル-sn-グリセロールは既報(特許文献9)のとおり調製した。アナンダミド、N-パルミトイルエタノールアミン、ならびにN-オレオイルエタノールアミンは既報(非特許文献13)のとおりに合成した。myo-イノシトール1-リン酸はAlexis Biochemicals (San Diego, CA)より入手した。SR141716AはBiomol (Plymouth Meeting, PA)より入手した。CP55940、HU-210、virhodamine、異常カンナビジオールはTocris (Bristol, UK)より購入した。WIN55212-2はRBI (Natick, MA)より入手した。PD98059はCalbiochem (San Diego, CA)より購入した。百日咳毒素(PTX)はList Biological Laboratories (Campbell, CA)より入手した。Fura-2/AMはWako Pure Chem, Ind. (Osaka, Japan)より入手した。pcDNA4/TO、LipofectamineTM 2000ならびにStealthTMRNAiはInvitrogen Life Technologies (Carlsbad, CA)より購入した。[35S]GTPγS (46.25 TBq/mmol)はPerkin-Elmer Japan Co., Ltd. (Kanagawa, Japan)より入手した。
1-2.クローニングと細胞培養
ヒトGPR55(GenBank/NM_005683)のオープンリーディングフレーム全体を含むDNA断片を、Pyrobest(R) DNA Polymerase (Takara Bio Inc.)とオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRによってヒト脾臓cDNAから増幅した。フォワードプライマー(配列番号1)は、KpnI部位、Kozak配列およびFLAG配列を含みむ以下の配列:
5'-aaaaaaggtaccgccaccatggactacaaggacgacgatgacaagagtcagcaaaacaccagtggggac-3'
であり、リバースプライマー(配列番号2)はXbaI部位を含む以下の配列:
5'-aaaaaatctagattagccccgggagatcgtggtgtc-3'
である。
【0022】
得られたDNA断片をKpnIとXbaIにより消化した後、哺乳類発現ベクターpcDNA4/TOのKpnIならびにXbaI部位の間にクローニングした。プラスミドの完全性はDNA配列決定により検証した。
【0023】
HEK293細胞は10%ウシ胎児血清、100 U/mlペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン(GIBCO)を添加したDulbecco変法イーグル培地(DMEM)中、37℃条件下で培養した。GPR55-pcDNA4/TOまたは空のベクターは、LipofectamineTM2000試薬を用いて細胞にトランスフェクションした。細胞表面におけるFLAGタグ化GPR55タンパク質の発現を確認するために、細胞浸透性のない0.1% BSAを含むリン酸緩衝食塩水中、0.25μg/mlの抗FLAG M2モノクローナル抗体(Sigma)存在下で室温条件下、1時間にわたり細胞をインキュベートし、続いてAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG抗体(1:1,000、Molecular Probes)を用いて30分間、室温条件下で染色を行い、これを共焦点蛍光顕微鏡(Leica TCS SP5)を用いて分析した。安定的にトランスフェクトされたクローンはzeocin (100ng/ml, Invitrogen)存在下で選別した。
1-3.RNA干渉(RNAi)分析
GPR55を発現するHEK293細胞を2.5×105細胞/皿の割合で35-mm皿に播種し、抗生物質を含まない増殖培地中でさらに一晩培養した。そしてLipofectamine RNAiMAX試薬を用い、メーカーの指示に従って、GPR55に対応するDuplex低分子干渉RNA (siRNA)を細胞にトランスフェクションした後、細胞を37℃で24時間にわたりインキュベートした。使用したsiRNAの塩基配列は次の通りである。
センス鎖:5'-agguguuuggcuuccuccuucccau-3'(配列番号3)
アンチセンス鎖: 5'-augggaaggaggaagccaaacaccu-3'(配列番号4)
Stealth RNAi negative control duplex (Invitrogen)はGC含有量がduplex siRNAに近いため、これをネガティブコントロールに用いた。
1-4.ウエスタンブロット分析
コンフルエントに達していない細胞を、5 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)ならびに0.1% BSAを含む1 mlのDMEM中で、LPI(最終濃度、1μM)または各種リガンド(最終濃度、1μM)、または溶媒(Me2SOの最終濃度、0.02% v/v)存在下で、35-mm皿に入れ、37℃で5分間にわたりインキュベートした。インキュベーション後に溶媒を吸引し、氷冷(4℃)した5 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)を含むTyrode液で細胞を洗浄した。20 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)、1% Triton X-100、10%グリセロール、1 mM EDTA、50 mMフッ化ナトリウム、2.5 mM p-ニトロフェニルリン酸、1 mMフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)、1 mMオルトバナジン酸ナトリウム、ならびに10μg/mlロイペプチンを含む溶解緩衝液を氷冷(4℃)し、その100 mlを細胞に添加した。ウエスタンブロット分析は既報(非特許文献14)に従って実施した。概略を示すと、細胞破砕液を15,000 x gで20分間にわたり遠心分離し、その上清を吸引して他の容器に移した。BCAタンパク質アッセイ試薬(Pierce, Rockford, IL)を用いて総タンパク質濃度を測定した。タンパク質抽出物(20μg)を10%ゲルを用いたSDS-PAGEにより分画し、ニトロセルロース膜上に転写した。この膜を、5%脱脂粉乳存在下、15 mM Tris-HCl (pH 7.5)ならびに0.05% Tween 20を含む生理食塩水溶液 (TBST)に1時間にわたり室温で浸すことによりブロッキング処理を行った。次にこれらの膜を4℃条件下、抗-ERK抗体(1:5,000)の存在下で、5% BSAを含むTris緩衝化生理食塩水中に一晩インキュベートした。この膜をTBSTで洗浄し、抗ウサギIgGホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗体(1:2,000)存在下、5%脱脂粉乳を含むTBST中に室温条件下、1時間にわたりインキュベートした。さらに洗浄を行った後、ECL試薬を用いて膜を分析した。リン酸化ERKのウエスタンブロット分析は以下のように行った。62.5 mM Tris-HCl (pH 6.7)、2% SDS、100 mM 2-メルカプトエタノールを成分とする除去緩衝液中に、60℃条件下で50分にわたり膜をインキュベートして、使用した抗体を膜から除去した。インキュベーション後にブロッキング溶液を用いて膜をブロックし、続いて一次抗体すなわち抗リン酸化ERK抗体(1:5,000)を用い、その後で二次抗体である抗ウサギIgG抗体(1:2,000)を用いることによりイムノブロット反応を行った。ECL試薬を用いて膜の分析を行った。バンド強度の定量はNIH Imageを用いて行い、総ERKに対するリン酸化ERKの比率を計算した。データは刺激倍率で表した(溶媒のみまたはゼロ時間との比較値)。
1-5.細胞内遊離Ca2+濃度([Ca2+]i)の測定
[Ca2+]iの測定は既報(非特許文献8−9)に従って行った。概略を示すと、コンフルエントに達していない細胞を25 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)、3μM Fura-2/AM、ならびに0.01% cremophor ELを含むTyrode液(-Ca2+)中で、100-mm皿に入れて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。インキュベーション後に溶液を吸引し、細胞をHEPES緩衝化Tyrode液で洗浄した。そしてセルスクレーパーを用いてこの細胞をこすり落とし、遠心分離し(180 x gで5分間)、HEPES干渉緩衝化Tyrode液(-Ca2+)で2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES干渉緩衝化Tyrode液(-Ca2+)中に再懸濁した。[Ca2+]iの測定はCAF-100 Ca2+分析機(JASCO, Tokyo, Japan)を用いて実施した。CaCl2を添加して4-5分後に測定を行った(キュベット中の最終濃度、1mM)。LPIならびに各種リガンドをMe2SOに溶解し、一定分量(各1μl)をキュベットに添加した(Me2SOの最終濃度、0.2% v/v)。Me2SO (0.2%、V/V)それ自体は[Ca2+]iに目立った影響を及ぼさなかった。一部の実験では、0.1% BSAを含む500μl HEPES干渉緩衝化Tyrode液(-Ca2+)中に細胞を懸濁し、これをLPI、LPAまたはS1P (最終濃度、10μM)または溶媒(1μl)により37℃条件下で1分間にわたり前処置した。続いてこの細胞を遠心分離により沈殿させ、0.1% BSAを含むHEPES干渉緩衝化Tyrode液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2 (最終濃度、1 mM)を添加した後、LPI (最終濃度、3μM)をキュベットに添加し、[Ca2+]iの変化を分析した。
1-6.GTPγS結合アッセイ
[35S]GTPγS結合アッセイは、Breivogel et al.(非特許文献15)の方法に修正を加えた方法により実施した。概略を示すと、(A)ベクターをトランスフェクションしたHEK293細胞、または(B) GPR55を安定的に発現するHEK293細胞を、Potter-Elvehjamガラス-テフロン(登録商標)ホモジナイザを用いて、1 mM EGTAと1 mM PMSFを含む10 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH 7.4)中でホモジナイズした。このホモジネートを1,000 x gで10分間にわたり遠心分離した。この上清をさらに40,000 x gで30分間にわたり遠心分離した。この上清を除去し、ペレットを1 mM EGTAと1 mM PMSFを含む10 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH 7.4)に溶解した。タンパク質含有量の測定は、BCAタンパク質アッセイ試薬を用いて行った。そして膜分画(20μgタンパク質)を、20 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)、30 μM GDP、100 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM EGTA、1 mMジチオスレイトール、0.1% BSA、ならびに0.1 nM [35S]GTPγSを含む500 μlのアッセイ緩衝液中、各種濃度のLPIの存在下または非存在下で、30℃で1時間にわたりインキュベートした。非特異的結合の測定は、LPI非存在下、10 μMの非標識GTPγSの存在下にて行った。インキュベーションの終了は、真空条件下でWhatman GF/Cグラスファイバーフィルタを通した急速濾過と、それに続いて20 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)、100 mM NaCl、ならびに25 mM MgCl2を含み、氷冷(4℃)された洗浄緩衝液を用いて、洗浄を3回行うことにより実施した。このフィルタに結合した放射能を、液体シンチレーションカウンタ(Aloka LSC-6100)を用いて測定した。
1-7.統計分析
データは、分散分析(ANOVA)を行った後にDunnett検定を行うか(図2-4、7、10)、あるいはTukey検定を行うことにより(図5)分析した。p<0.05を有意差と見なした。
2.結果
2-1.GPR55を発現するHEK293細胞におけるERKに対するLPIの作用
GPR55を発現するHEK293におけるERKに対するLPIの作用について初めて調査を行ったが、これはERKが各種の細胞内シグナル伝達の下流に位置する主要なタンパク質であるためである(非特許文献16)。ここではLPI (1μM)は一過性にGPR55を発現するHEK293細胞中ではERKの急速なリン酸化を誘導するが(図1A)、それに対してLPIは空ベクター導入細胞中ではERKに作用を及ぼさないことが判明した。このLPI誘導性の急速リン酸化は、安定的にGPR55を発現するHEK293細胞中においても観察された(図1B)。それ以後の実験では安定的にGPR55を発現するHEK293細胞を、GPR55発現細胞として採用した。
【0024】
図2には、LPI (1μM)による刺激後のERKのリン酸化における経時的変化を示す。LPIは空ベクター導入細胞中ではERKのリン酸化を誘導しなかった。一方、LPIはGPR55を発現するHEK293細胞中において、ERKの急速なリン酸化を引き起こした。最大反応が観察されたのは5分後であり、その後このリン酸化は減少した。
【0025】
図3には用量依存性を示す。空ベクター導入細胞中では、LPIは少なくとも10μMの濃度条件下に至るまで、ERKのリン酸化に影響しなかった。一方、GPR55発現細胞においては、LPIは用量依存的にERKのリン酸化を引き起こした。この応答は10 nMから検出可能であり、1μM条件下でプラトーに達した。EC50は200 nMであった。
2-2.GPR55を発現するHEK293細胞中における、各種カンナビノイド受容体リガンドおよび関連分子、LPI、ならびに他のリゾ脂質がERKに及ぼす作用
次に、GPR55を発現するHEK293細胞中において、各種のカンナビノイド受容体リガンドおよび関連分子、ならびにリゾ脂質がERKに及ぼす作用について調べ、それらを空ベクター導入細胞における場合と比較した。図4Aに示すとおり、2-AG (1μM)、アナンダミド(1μM)、N-パルミトイルエタノールアミン(1μM)、N-オレオイルエタノールアミン(1μM)、virhodamine (1μM)、CP55940 (1μM)、HU-210 (1μM)、WIN55212-2 (1μM)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(1μM)、異常カンナビジオール(1μM)、ならびにSR141716A (1μM)などといったカンナビノイド受容体リガンドならびに関連分子は、空ベクター導入細胞中においてはERKに対して検出可能な作用を及ぼすことはなかった。LPI (1μM)、LPC (1μM)、LPE (1μM)、LysoPS (1μM)、PAF (1μM)、SPC (1μM)、ならびにサイコシン(1μM)などの各種リゾ脂質についても、空ベクター導入細胞中においてはERKに対して顕著な影響を及ぼすことはなかった。一方、LPA (1μM)とS1P (1μM)はこれらの細胞中でERKの急速なリン酸化を引き起こしたが、これはおそらくHEK293細胞がLPA1やLPA2などといったいくつかのタイプのLPA受容体と(Kishimoto, S., and Sugiura, T., 未発表データ)、S1P2やS1P3などといったS1P受容体(非特許文献17)を発現しているという事実に起因するものであろう。
【0026】
図4Bでは、各種カンナビノイド受容体リガンドおよび関連分子ならびにリゾ脂質が、GPR55を発現するHEK293細胞中でERKに及ぼす作用を示している。空ベクター導入細胞における場合と同様に、2-AG (1μM)、アナンダミド(1μM)、N-パルミトイルエタノールアミン(1μM)、N-オレオイルエタノールアミン(1μM)、virhodamine (1μM)、CP55940 (1μM)、HU-210 (1μM)、WIN55212-2 (1μM)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(1μM)、異常カンナビジオール(1μM)、ならびにSR141716A (1μM)はGPR55発現細胞中においてERKに対する明らかな作用を引き起こすことは無かった。LPC (1μM)、LPE (1μM)、LysoPS (1μM)、PAF (1μM)、SPC (1μM)、ならびにサイコシン(1μM)についても、GPR55発現細胞中においてはERKに対して顕著な影響を及ぼすことはなかった。一方、LPAとS1Pは、空ベクター導入細胞における場合と同様に、これらの細胞においてもERKのリン酸化を誘導した。特に空ベクター形質移入細胞(図4A)とGPR55発現細胞(図4B)を比較してLPIに対する応答には顕著な違いが見られた。LPI (1μM)はGPR55発現細胞においてERKの急速なリン酸化を誘導したが、空ベクター形質移入細胞においてはこれは生じなかった。以上の結果から、GPR55がLPIに対する内因性の特異的受容体であることが強く示唆される。
2-3.GPR55を発現するHEK293細胞中において、GPR55に対するsiRNAがLPI誘導性のERKリン酸化に及ぼす作用
次に、GPR55に対するsiRNAがLPI誘導性のERKリン酸化に及ぼす作用について調べた。図5に示すように、GPR55を発現するHEK293細胞中において、GPR55に対するsiRNAによりこの細胞を処理したところ、LPIにより誘導される応答は著しく減少した。一方、対照となるsiRNAはLPIにより誘導されるこの応答に顕著な影響を与えなかった。以上の結果から、LPIにより誘導されるERKリン酸化がGPR55により媒介されているという証拠がさらに提示された。
2-4.GPR55を発現するHEK293細胞中においてLPIが[Ca2+]iに及ぼす作用
次に、GPR55を発現するHEK293細胞中においてLPIが[Ca2+]iに及ぼす作用について調べたが、これは多数のGタンパク質共役受容体リガンドがCa2+の一過性応答を引き起こすことがこれまでに示されているためである。図6Aに示すとおり、空ベクター導入細胞においてLPI (3μM)は[Ca2+]iに影響を及ぼさなかったが、LPA (3μM)とS1P (3μM)は[Ca2+]iの急速な増加を誘導した。LPA誘導性またはS1P誘導性の急速な[Ca2+]i一過性増加は、GPR55発現細胞の場合にも観察された(図6B)。特に、GPR55発現細胞においてLPI (3μM)はCa2+の一過性応答を引き起こしたが、これは空ベクター導入細胞の場合には生じなかった(図6B)。この応答は30 nMから検出可能であり、LPI濃度の増加に伴って増強した(図7)。一方、2-AG (3μM)、アナンダミド(3μM)、N-パルミトイルエタノールアミン(3μM)、N-オレオイルエタノールアミン(3μM)、virhodamine (3μM)、CP55940 (3μM)、HU-210 (3μM)、WIN55212-2 (3μM)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(3μM)、異常カンナビジオール(3μM)、SR141716A (3μM)、LPC (3μM)、LPE (3μM)、LysoPS (3μM)、PAF (3μM)、SPC (3μM)、ならびにサイコシン(3μM)の作用は、微小または小規模であり、空ベクター導入細胞とGPR55発現細胞を比較して目立った違いは見られなかった(データ示さず)。
【0027】
そこで、次にLPIによる刺激後に脱感作が生じるかどうか調べた。図8に示すように、細胞をLPI (10μM)で前処置すると、それに続くLPI (3μM)により誘導される刺激は目立って減少していることから、LPIで前処置した細胞では受容体の脱感作が生じていると考えられる。特筆すべき点として、LPA (10μM)前処置またはS1P (10μM)前処置のいずれもLPI (3μM)により誘導されるCa2+の一過性応答に目立った影響を与えなかった。以上の結果から、LPIとLPAまたはS1Pは別個の受容体、すなわちこれらの細胞内のLPI受容体とLPA受容体またはS1P受容体と相互作用して、この応答を引き起こしていることが明確に示される。
2-5.GPR55を発現するHEK293細胞中において、GPR55に対するsiRNAがLPI誘導性のCa2+の一過性応答に及ぼす作用
GPR55に対するsiRNAがLPI誘導性のCa2+の一過性応答に及ぼす作用について調べた。図9に示すように、細胞をsiRNAにより処理するとLPI (3μM)により誘導されたCa2+の一過性応答は減少したが、対照のsiRNAによりこの細胞を処理した場合は、このLPI誘導性のCa2+の一過性応答に目立った影響は生じなかった。以上の所見から、LPIにより誘導されるCa2+の一過性応答はGPR55により媒介されていることが明確に示された。
2-6.[35S]GTPγSの結合
最後に、GPR55を発現するHEK293細胞の細胞壁に対する[35S]GTPγSの結合について調べた。図10Aに示すとおり、LPIを添加しても空ベクター導入細胞の細胞壁に対する[35S]GTPγSの結合には目立った影響は生じなかった。一方、LPIはGPR55発現細胞の細胞壁に対する[35S]GTPγSの結合を容量依存的に刺激した(図10B)。
3.考察
今回の研究では、GPR55を発現するHEK293細胞に対してLPIが及ぼす作用を詳細に調べた。ここでは一時的または安定的にGPR55を発現するHEK293細胞内において、LPIがERKの急速なリン酸化を誘導することが示された(図1-5)。一方、LPIはこれらの細胞内のAkt、p38有糸分裂活性化タンパク質キナーゼ、c-Jun N末端キナーゼのリン酸化を誘導しなかった(Oka, S. and Sugiura, T., 未発表報告)。また私たちはLPIがGPR55を発現する細胞中でCa2+の一過性応答を引き起こすことを発見した(図6-9)。これらの応答が空ベクターを導入した細胞中では観察されないことは重要である。LPAとS1PもGPR55を発現する細胞中でERKのリン酸化とCa2+の一過性応答を誘導した(図4Bと6B)。しかしこれらの応答は空ベクターを導入した細胞中でも観察されており(図4Aと6A)、そこからLPAとS1Pにより誘導されるこの応答は、HEK293細胞内に元から発現しているLPA受容体とS1P受容体により媒介されていると思われる。LPIによるこの作用(ERKのリン酸化ならびにCa2+の一過性応答)がLPIそれ自体に起因するものであり、その代謝産物によるものでは無いことは、LPIの分解生成物として生じうるモノアシルグリセロール類(1-パルミトイル、1-ステアロイル、ならびに2-オレイル)ならびにmyo-イノシトール-1-リン酸によって、GPR55を発現する細胞中におけるERKのリン酸化ならびにCa2+の動員が誘導されなかった点(データ示さず)からも明らかである。同様に、ホスホリパーゼC (Bacillus thuringiensis)処置により得られたLPIの加水分解産物も、これらの細胞中でERKのリン酸化ならびにCa2+のCa2+の一過性応答を誘導しなかった(データ示さず)。ダイズ由来のLPI (Sigma)による作用がその試薬中における何らかの不純物によるという可能性についても、ダイズ由来のLPI (Avanti)ならびにラット脳より精製したLPIが同様な応答を引き起こしたことから(データ示さず)、考えにくいであろう。
【0028】
また、GPR55がプロトンセンシング的Gタンパク質共役受容体ではないことも、このGPR55を発現する細胞中において細胞外pHを下げても(pH 7.4からpH 6.5または6.8)、ERKのリン酸化ならびにCa2+の一過性応答のいずれも誘起されないことからも明らかである(データ示さず)。今回の研究ではGPR55を発現する細胞壁に対する[35S]GTPγSの結合がLPIにより刺激されるという証拠をつかんだ(図10)。これらの結果からGPR55はLPIに対する内因性の機能性受容体であることが強く示唆される。本願発明者らの知りうる限り、これは哺乳類組織中におけるLPI受容体の存在に関する具体的証拠を示す最初の報告となる。
【0029】
最近、いくつかのグループによって、GPR55はカンナビノイドに対する新規受容体である可能性が報告されているが(特許文献1、2)、詳細な実験データはまだ発表されていない。今回の研究では、Δ9-テトラヒドロカンナビノール、ならびにCP55940、HU-210、WIN55212-2などといったその他の各種合成カンナビノイド、そして2-AG、アナンダミド、N-パルミトイルエタノールアミン、N-オレオイルエタノールアミン、virhodamineなどといった内因性カンナビノイド受容体リガンドならびに関連分子について、GPR55を発現する細胞を刺激するかどうかについて調べた。するとこれらの化合物はLPIとは異なり、ERKのリン酸化を誘導しないことが分かった(図4B)。これらの実験結果から、GPR55はLPI受容体であり、LPIは内在性カンナビノイドではないと考えられる。これまでに言及されているとおり(非特許文献3)、GPR55には古典的な「カンナビノイド結合ポケット」が含まれておらず、GPR55がカンナビノイドに対する内因性受容体であることはかなり疑わしい。
【0030】
LPIが誘導し、GPR55により媒介されるERKのリン酸化の基本となるメカニズムについては今後の解明が待たれる。LPIの誘導するERKのリン酸化にはMEKが関わっていると考えられ、MEK阻害剤であるPD98059を用いて細胞を処理すると、LPIの誘導するERKのリン酸化が消失する(データ示さず)。さらに研究を行い、LPIの誘導する細胞応答に関与する細胞内シグナル伝達経路の詳細を解明する必要がある。Gタンパク質に関して見ると、明らかにG1またはG0はLPI誘導性ならびにGPR55媒介性の細胞応答に関与していない。なぜならば、GPR55を発現するHEK293細胞をPTXで処理しても、LPIにより生じるERKのリン酸化またはCa2+過渡応答のいずれにも影響が生じないためである(データ示さず)。一方、LPAの誘導する細胞応答はPTX処理により(完全にブロックされることは無かったが)著しく減少した(データ示さず)。このような違いはおそらく、関与しているGタンパク質の違いによるものであろう。また特許文献1ではG12/13がGPR55に共役する可能性について報告されている。にも関わらず、現時点で詳細は曖昧なまま残されており、GPR55に共役するGタンパク質の完全な解明には、さらなる調査が待たれる。
【0031】
哺乳類組織中でのGPR55の生理学的な役割についても、まだはっきりしていない。GPR55はヒト脳の尾状核や被殻などといったいくつかの領域において発現していることが示されているが(非特許文献2)、他の脳領域における発現はごくわずかである(非特許文献2、特許文献1)。興味深いことに、胸部脂肪組織中において高レベルのGPR55が発現している(特許文献1)。精巣、脾、扁桃、アデノイド、子宮筋、回腸などにおいても比較的高レベルでGPR55が発現している(特許文献1)。これらの所見から、GPR55の内因性リガンドであるLPIは、これらの組織中で調節に関する重要な役割を担っているかもしれないと考えられる。
【0032】
LPIについては、これまでにはさほど大きな注意が払われておらず、生物活性脂質としてのLPIに関して得られる情報は、LPAに関する場合と比較して少ない。1986年にMetz (非特許文献32)は、LPIがラット膵島におけるインスリン放出を刺激することを報告している。しかし同じ著者の報告によれば、LPIのみならず、LPCとdilysocardiolipinもラット膵島におけるこの放出を刺激しており(非特許文献33)、これらのリゾリン脂質がCa2+の動員をトリガーし、それによってインスリンの放出を誘起することを示している(非特許文献33)。すなわちLPI、LPCならびにdilysocardiolipinがラット膵島に及ぼす影響は、ある種のリゾリン脂質の膜作用性質によると思われ、これらの脂質が「特異的受容体」により媒介されているとは思われない。
【0033】
Falasca and Corda (非特許文献34)の示すところによると、LPIはFRTL5細胞やKiKi細胞等といった、K-ras-形質転換ラット甲状腺上皮細胞の増殖を刺激した。また、Falasca et al. (非特許文献35)の示すところでは、LPIはこれらの細胞においてイノシトールリン脂質の崩壊、Ca2+の動員、アラキドン酸の放出を引き起こした。これらの著者の記述によれば、LPIによる以上の作用は、リゾリン脂質としての物理化学的な性質に起因する特異性の少ないメカニズムにより生じているのではなく、受容体により媒介されている可能性が非常に大きい(非特許文献35)。これはLPA受容体を含む複数の成長因子受容体に対する膜不透過性のアンタゴニストであるsuraminが、LPIに依存するホスホリパーゼCの活性化、[Ca2+]iの増加、ならびに[3H]チミジン取り込みを阻害するということからも分かる。彼らはまた、LPIが誘導するこれらの応答が、PTX処理による影響を受けないことを示しており(非特許文献35)、これは今回の調査におけるGPR55に関する所見と合致する。
【0034】
また、数名の研究者がLPIが生物学的活性を有する可能性について述べている。Baran and Kelly (非特許文献36)は、ラット肝細胞においてLPIが[Ca2+]iの増加を誘導することを示しており、Singaravelu et al. (非特許文献37)はラット小脳星状細胞中でそれが生じることを示した。Bassa et al. (非特許文献38)の報告によると、LPIとLPCはマウスのメサンギウム細胞においてERKの活性化を誘導する。また一過性広範囲虚血のin vivoモデルと、高細胞外濃度のグルタミン酸塩に暴露した小脳顆粒細胞の一次培養を用いた興奮毒性のin vitroモデルにおいて、LPIとLPCは神経死を防ぐことが示されている(非特許文献39)。しかしLPIによるこれらの作用の基本となるメカニズムは、LPCに関する場合と同様、まだ解明されていない。LPIがGPR55と相互作用し、それによって以上の細胞応答を誘導しているか、あるいはLPIがGPR55とは異なるまだ同定されていないLPI受容体または結合部位に作用し、それによって以上の細胞応答を誘導していた可能性もある。あるいは、LPIによる以上の作用は非特異的な物理化学的作用が一因となっているのかも知れない。よってさらに詳細な研究を行い、以上の先行研究に見られるLPIの作用機構を解明する必要がある。
【0035】
LPIはホスファチジルイノシトールから形成されるが、これはホスホリパーゼA2またはホスホリパーゼA1の作用により、あるいはacyl-CoA:LPIアシルトランスフェラーゼの逆反応による。LPIの生成に関しては報告がいくつか存在する。LPIレベルが増加している部位としては、トロンビンまたはA23187による刺激後のウマ血小板(非特許文献41)、ブラジキニン刺激後の後根神経節x神経芽腫ハイブリッドF-11細胞(非特許文献42)、脂質A前駆体による刺激後のRAW264.7細胞(非特許文献43)、ホスファチジルイノシトール転移タンパク質αを過剰発現しているNIH3T3細胞(非特許文献44)、K-ras-形質移入ラット甲状腺上皮細胞(非特許文献33、34)、H-ras-形質移入ラット甲状腺繊維芽細胞(非特許文献34、45)、ならびにATPまたはノルエピネフリンによる刺激後のラット甲状腺濾胞細胞(非特許文献46)等が挙げられる。また本願発明者らはラット肝ミクロソームにCoAを添加すると、LPIならびにacyl-CoAの生成が誘発されることを発見した(非特許文献47、48)。特に卵巣癌患者の腹水中におけるLPIならびにLPAのレベルは、肝不全などの非悪性疾患患者の腹水中に見られる場合と比較して大幅に増大していた(非特許文献49)。また卵巣癌患者の血漿中においても、高レベルのLPIとLPAが検出された(非特許文献50)。LPIならびにLPAは卵巣癌患者の体液中に比較的多量に蓄積しており、腫瘍細胞上で発現しているそれらの特異的受容体に対して自己分泌またはパラ分泌の様式で結合し、それによって卵巣癌の増殖ならびに転移を刺激することで重要な役割を果たしている可能性がある。
【0036】
LPIはさまざまな生物系において、生理学的および/あるいは病態生理学的に重要な分子であると考えられている(非特許文献40)。それにもかかわらず、LPIに関して得られる情報は非常に少なく、生物活性脂質としてLPIが果たすかもしれない役割について見落とされていることが多い。各種の哺乳類組織ならびに細胞中においてLPIとGPR55が果たす生理学的ならびに病態生理学的意味合いを完全に解明するためには、詳細な研究をさらに行う必要がある。
【0037】
まとめると、本願発明者らは一時的または安定的にGPR55を発現するHEK293細胞内におけるERKのリン酸化ならびにCa2+の一過性応答等といった、いくつかの生物学的応答をLPIが誘起することを発見したが、これは空空ベクターを導入した同細胞内では見られなかった。GPR55に対するsiRNAにより細胞を処置したところ、LPIによる細胞応答は著しく減少した。これらの結果から、LPIはGPR55に対する内因性の天然リガンドであること、またGPR55はLPIの内因性受容体であることが強く示唆された。生物活性脂質としてのLPIの再評価、ならびにLPI受容体としてのGPR55の同定により、生物活性脂質の調査において新しい有望な研究分野が開かれることになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一時的または安定的にGPR55を発現するHEK293細胞中のERKに対するLPIの作用。A:一時的にGPR55を発現するHEK293細胞中のERKに対するLPIの作用。空ベクターを導入した細胞またはGPR55を発現する細胞を、LPI (1μM)の存在下または非存在下にて、37℃条件下で5分間にわたりインキュベートした。実施例の「方法」で説明したとおりウエスタンブロット分析を行った。結果には2種類の別の実験の代表例を示すが、これらは同様の結果を生じた。B:安定的にGPR55を発現するHEK293細胞中のERKに対するLPIの作用。空ベクターを導入した細胞またはGPR55を発現する細胞を、LPI (1μM)の存在下または非存在下にて、37℃条件下で5分間にわたりインキュベートした。実施例の「方法」で説明したとおりウエスタンブロット分析を行った。結果には2種類の別個の実験の代表例を示すが、これらは同様の結果を生じた。
【図2】GPR55を安定的に発現するHEK293細胞をLPI刺激した後に細胞内のERKリン酸化にみられる時間依存的変化。空ベクター導入細胞(A)またはGPR55発現細胞(B)を、LPI (1μM)の存在下または非存在下にて、37℃条件下で表示した時間にわたりインキュベートした。実施例の「方法」で説明したとおりウエスタンブロット分析を行った。データは(ゼロ時間と比較した)刺激倍率として示した。数値は4回測定の平均±S.D.である。**、p<0.01;***、p<0.001 (ゼロ時間との比較による)。
【図3】GPR55を安定的に発現するHEK293細胞中における、LPI誘導性ERKリン酸化の用量依存性。空ベクター導入細胞(A)またはGPR55発現細胞(B)を各種濃度のLPI存在下または非存在下にて、37℃条件下で5分間にわたりインキュベートした。実施例の「方法」で説明したとおりウエスタンブロット分析を行った。データは(溶媒のみの場合と比較した)刺激倍率として示した。数値は4回測定の平均±S.D.である。**、p<0.01;***、p<0.001 (溶媒のみの場合との比較による)。
【図4】安定的にGPR55を発現するHEK293細胞中のERKに対する各種カンナビノイド受容体リガンドならびに関連分子、LPI、ならびに他のリゾ脂質が及ぼす作用。空ベクター導入細胞(A)またはGPR55発現細胞(B)を各種カンナビノイド受容体リガンドならびに関連分子、LPI、ならびに他のリゾ脂質(それぞれ1μM)の存在下または非存在下にて、37℃条件下で5分間にわたりインキュベートした。実施例の「方法」で説明したとおりウエスタンブロット分析を行った。データは(溶媒のみの場合と比較した)刺激倍率として示した。数値は4回測定の平均±S.D.である。***、p<0.001 (溶媒のみの場合との比較による)。
【図5】安定的にGPR55を発現するHEK293細胞中におけるLPI誘導性のERKのリン酸化に対する、GPR55に対するsiRNAの作用。GPR55発現細胞をLipofectamineのみ、またはGPR55に対するsiRNA、または対照のsiRNAを用いて24時間にわたり処理した。次に細胞をLPI (1μM)の存在下または非存在下にて、37℃条件下で5分間にわたりインキュベートした。実施例の「方法」で説明したとおりウエスタンブロット分析を行った。データは(溶媒のみの場合と比較した)刺激倍率として示した。数値は4回測定の平均±S.D.である。*、p<0.05 (リポフェクタミン単独または対照siRNAを用いた場合との比較による)。
【図6】安定的にGPR55を発現するHEK293細胞中における[Ca2+]iに対してLPI、LPA、ならびにS1Pが及ぼす作用。A:空ベクター導入細胞を3μM Fura-2/AMの存在下にて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。次に細胞をこすり落とし、遠心分離し、HEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)を用いて2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2を添加して4-5分後に測定を行った(キュベット中の最終濃度、1mM)。LPI、LPA、ならびにS1PをMe2SOに溶解し、一定分量(各1μl)をキュベットに添加した(LPI、LPA、またはS1Pの最終濃度、3μM;Me2SOの最終濃度、0.2% v/v)。[Ca2+]iの変化はCAF-100 Ca2+分析機を用いて、実施例の「方法」で説明したとおりに分析した。B:GPR55発現細胞を3μM Fura-2/AMの存在下にて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。次に細胞をこすり落とし、遠心分離し、HEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)を用いて2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2を添加して4-5分後に測定を行った(キュベット中の最終濃度、1mM)。LPI、LPA、ならびにS1PをMe2SOに溶解し、一定分量(各1μl)をキュベットに添加した(LPI、LPA、またはS1Pの最終濃度、3μM;Me2SOの最終濃度、0.2% v/v)。[Ca2+]iの変化はCAF-100 Ca2+分析機を用いて、実施例の「方法」で説明したとおりに分析した。
【図7】GPR55を安定的に発現するHEK293細胞におけるLPI誘導性のCa2+の一過性応答の用量依存性。A:空ベクター導入細胞を3μM Fura-2/AMの存在下にて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。次に細胞をこすり落とし、遠心分離し、HEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)を用いて2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2を添加して4-5分後に測定を行った(キュベット中の最終濃度、1mM)。各種濃度のLPIをキュベットに添加し、[Ca2+]iの変化をCAF-100 Ca2+分析機を用いて、実施例の「方法」で説明したとおりに分析した。数値(Δ[Ca2+]i)は4回測定の平均±S.D.である。B:GPR55発現細胞を3μM Fura-2/AMの存在下にて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。次に細胞をこすり落とし、遠心分離し、HEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)を用いて2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2を添加して4-5分後に測定を行った(キュベット中の最終濃度、1mM)。各種濃度のLPIをキュベットに添加し、[Ca2+]iの変化をCAF-100 Ca2+分析機を用いて、実施例の「方法」で説明したとおりに分析した。数値(Δ[Ca2+]i)は4回測定の平均±S.D.である。***、p<0.001 (溶媒のみの場合との比較による)。
【図8】GPR55を安定的に発現するHEK293細胞におけるLPI誘導性のCa2+の一過性応答に対してLPI、LPAまたはS1Pによる前処置が及ぼす作用。GPR55発現細胞を3μM Fura-2/AMの存在下にて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。次に細胞をこすり落とし、遠心分離し、HEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)を用いて2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。次に細胞をLPI、LPAまたはS1P(最終濃度、10μM)、または溶媒(1μl)を用いて、37℃条件下で1分間にわたり処置し、遠心分離により沈殿させ、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2添加後(最終濃度、1 mM)、LPI (最終濃度、3μM)をキュベットに添加し、[Ca2+]iの変化をCAF-100 Ca2+分析機を用いて、実施例の「方法」で説明したとおりに分析した。結果には3種類の別個の実験の代表例を示すが、これらは同様の結果を生じた。
【図9】GPR55を発現するHEK293細胞におけるLPI誘導性のCa2+の一過性応答に対してGPR55に対するsiRNAが及ぼす作用。GPR55発現細胞をLipofectamineのみ、またはGPR55に対するsiRNA、または対照のsiRNAにより24時間にわたり処置した。次に細胞をFura-2/AMの存在下にて37℃条件下で45分間にわたりインキュベートした。これらの細胞をこすり落とし、遠心分離し、HEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)を用いて2回洗浄し、0.1% BSAを含むHEPES緩衝化Tyrode溶液(-Ca2+)中に再懸濁した。CaCl2を添加して4-5分後に測定を行った(キュベット中の最終濃度、1mM)。LPI (最終濃度、3μM)をキュベットに添加し、[Ca2+]iの変化をCAF-100 Ca2+分析機を用いて、実施例の「方法」で説明したとおりに分析した。結果には3種類の別個の実験の代表例を示すが、これらは同様の結果を生じた。
【図10】HEK293細胞の膜分画に対する[35S]GTPγSの結合に対してLPIが及ぼす作用。空ベクター導入細胞(A)または安定的にGPR55を発現する細胞(B)より得た膜分画(20μgタンパク質)を、20 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)、30μM GDP、100 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM EGTA、1 mMジチオスレイトール、0.1% BSA、ならびに0.1 nM [35S]GTPγSを含むアッセイ緩衝液500μl中に、各種濃度のLPIの存在下または非存在下にて30℃条件下で1時間にわたりインキュベートした。非特異的結合の測定は、LPIが存在せず、30 μM非標識GTPγSの存在する条件下で行った。インキュベーションの終了は、真空条件下でWhatman GF/Cグラスファイバーフィルタを通した急速濾過と、それに続いて氷冷(4℃)した洗浄緩衝液を用いた洗浄を3回行うことにより実施した。このフィルタに結合した放射能を、実施例の「方法」で説明したとおりに液体シンチレーションカウンタを用いて測定した。特異的結合の値は、非特異的結合を総結合から引くことにより算出した。数値は5回測定の平均±S.D.である。*、p<0.05;***、p<0.001 (溶媒のみの場合との比較による)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾホスファチジルイノシトール(LPI)とその受容体であるGタンパク共役受容体55(GPR55)との結合を促進する物質をスクリーニングする方法であって、候補物質の存在下で、GPR55発現細胞にLPIを接触させ、LPIとGPR55との結合を促進する物質を目的物質として同定することを特徴とする方法。
【請求項2】
LPIとGPR55との結合促進を、
(1) GPR55発現細胞における細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化の促進;
(2) GPR55発現細胞におけるCa2+の一過性応答の促進;および
(3) GPR55発現細胞壁へのGTPγSの結合促進
の少なくとも一つを検出することによって決定する請求項1の方法。
【請求項3】
リゾホスファチジルイノシトール(LPI)とその受容体であるGタンパク共役受容体55(GPR55)との結合を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、候補物質の存在下で、GPR55発現細胞にLPIを接触させ、LPIとGPR55との結合を抑制する物質を目的物質として同定することを特徴とする方法。
【請求項4】
LPIとGPR55との結合抑制を、
(1) GPR55発現細胞における細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化の消失または抑制;
(2) GPR55発現細胞におけるCa2+の一過性応答の消失または抑制;および
(3) GPR55発現細胞壁へのGTPγSの結合の消失または抑制
の少なくとも一つを検出することによって決定する請求項3の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−195170(P2009−195170A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40687(P2008−40687)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月24日 インターネットアドレス「http://www.sciencedirect.com」に発表
【出願人】(399086263)学校法人帝京大学 (21)
【Fターム(参考)】