説明

スクリーンおよび成形型の製造方法。

【課題】明るさを向上させたスクリーンを提供すること。
【解決手段】投射光を反射する入射面11を有するスクリーン1であって、入射面11には、複数のレンズ要素21が配置され、複数のレンズ要素21は、1/4球状の球面21Aを有し、球面21Aは、投射光の光源に向けて形成され、球面21Aの投射光が投射される部分には、投射光を反射する反射部21Bが形成されている。これにより、入射面における反射部の面積を拡大することができるので、スクリーンの明るさを向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンおよびスクリーン成形用の成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクターから投射された画像(投射光)を正面側に位置する観察者に向けて反射させて、当該画像を表示するスクリーンが知られている。このようなスクリーンとして、下側から斜方入射される投射光を正面に反射させるスクリーンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載されたスクリーンは、投射光が入射される観察面の垂直方向、及び水平方向に沿って配置され、かつ、半球状の球面を有する微細な凹部又は凸部を複数有する。このうち、凹部においては、当該凹部の球面におけるプロジェクターの設置位置から離れた領域に反射膜が形成されており、当該反射膜にて、入射された光を入射面の法線方向に反射させる。これにより、当該法線方向に設定された観察位置に位置する観察者により、投射光、すなわち画像が視認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−15195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたスクリーンでは、観察面に凹部を密に配置することで、観察面において反射膜が形成された面積を拡大させているものの、依然として明るさが不足しているという問題がある。
このため、明るさをより向上できるスクリーンの構成が要望されてきた。
【0005】
本発明は、明るさを向上させたスクリーンおよびスクリーン成形用の成形型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するために、本発明のスクリーンは、光が入射される入射面を有するスクリーンであって、前記入射面には、凹状のレンズ要素が所定方向に沿って複数配置され、それぞれの前記レンズ要素は、前記光の出射位置に対して向かう1/4球状の球面を有し、前記球面における前記光が入射される領域には、当該光を所定方向に反射させる反射部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
ここで、1/4球状の球面とは、1/4球の球面だけでなく、それに近似するものも含む。
例えば、1/4球においては、2つの面(球面状でない2つの隣り合う面)の交差角度は90度であるが、この交差角度が例えば80度以上100度以下等に設定された略1/4球状の球面等も含むものである。また、1/4球においては、2つの断面は半円状となるが、この断面形状を中心角が例えば120度以上240度以下の扇形に形成された略1/4球状の球面等も含むものである。
【0008】
ここで、前述の特許文献1に記載のスクリーンにおいて、観察面に配列された半球状の球面を有する凹部(レンズ要素)に形成される反射膜(反射部)の位置は、前述のように、当該球面において光の入射位置から離れた側の位置である。具体的に、当該反射膜の形成位置は、光の入射位置がスクリーンの正面側下方である場合には、球面における上側の曲面部分である。そして、凹部において反射膜が形成されない部分は、光の反射に寄与しない。
【0009】
これに対し、本発明では、スクリーンの入射面には、1/4球状の球面を有する凹状のレンズ要素が複数配列されている。これによれば、1/4球状の球面を、従来の半球状の球面と同じ半径で形成する場合、スクリーンの入射面を正面視した場合の1つ当たりのレンズ要素の面積は、従来のレンズ要素より小さくすることができる。このため、半球状の曲面を有するレンズ要素を入射面に配列する場合に比べ、レンズ要素の配列数を増加させることができる。従って、従来のスクリーンに比べて、入射面の面積に対する反射部の面積の割合を増加させることができ、スクリーンの明るさを向上させることができる。
【0010】
さらに、本発明によれば、各レンズ要素は、当該レンズ要素の球面が光の出射位置に対して向かうように配置されている。そのため、各レンズ要素は、当該出射位置から出射された光を、当該球面に設けられた反射部に適切に入射させることができ、各反射部に入射された光を所定方向に効率よく反射させることができる。
【0011】
本発明では、前記入射面を有するスクリーン基材を備えて構成され、前記スクリーン基材は、黒色素材で形成されていることが好ましい。
ここで、従来の半球状の球面を有するレンズ要素では、反射部が形成された領域以外の領域に光吸収層を形成し、各レンズ要素により所定方向に反射させる光とは異なる光(余分な光であり、例えば外光)を吸収させることで、当該異なる光が所定方向に反射されることを抑制する構成が提案されている。しかしながら、当該レンズ要素に比べて、1/4球状の球面を有するレンズ要素では、当該レンズ要素の開口面積が小さいため、反射部が形成された領域以外の領域に上記光吸収層を形成することが困難である。
【0012】
これに対し、本発明によれば、入射面に入射される上記異なる光を、スクリーン基材自体により吸収することができ、当該異なる光が所定方向に出射されることを抑制できる。このため、画像を形成する光が入射される場合に、上記異なる光により、当該画像のコントラストが低下することを抑制できる。更に、上記光吸収層を入射面に形成する手間を省くことができるので、スクリーンの製造工程が煩雑化することを抑制できる。
【0013】
本発明では、それぞれの前記レンズ要素は、互いに隣接して配置されていることが好ましい。
本発明によれば、入射面において、各レンズ要素が密に配置されるので、当該入射面の面積に対する反射部の面積の割合を更に増加させることができ、これにより、スクリーンの明るさをさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明の成形型の製造方法は、入射された光を反射させるスクリーンを成形するための成形型の製造方法であって、原板に対して複数の溝を形成する溝形成工程と、前記複数の溝が形成された前記原板表面および前記複数の溝内に、マスク層を形成するマスク層形成工程と、前記マスク層における前記溝近傍の位置に、前記原板を露出させる開口部を形成する開口部形成工程と、前記開口部からエッチング液を浸透させて前記基材をエッチングして、前記原板の厚さ方向の断面が前記溝とともに1/4球状となる球面を前記原板に形成する球面形成工程と、前記マスク層及び前記エッチング液を前記原板から除去する除去工程と、前記原板の表面形状を転写して、当該原板に形成された前記球面に応じた凸状の球面を有する成形型を製造する成形型製造工程と、を実施することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、溝形成工程にて、1/4球状の球面の一部を構成する溝が形成され、マスク層形成工程にて、当該溝内及び原板表面にマスク層が形成される。この後、開口部形成工程にて、マスク層における溝近傍に開口部が形成され、球面形成工程にて、当該開口部からエッチング液が注入されて、エッチング処理が行われる。この球面形成工程では、開口部から露出する原板の表面形状が維持されたまま、当該開口部に応じた領域が下方に浸食されるとともに、当該領域の周縁から外側に凹曲面状に広がるように原板が浸食される。この際、溝の形成位置とは反対側の原板の浸食はそのまま進行するが、溝の形成位置側の原板の浸食は、溝内に形成されたマスク層に沿って下方に進行する。そして、除去工程により、マスク層及びエッチング液を原板から除去することにより、原板に1/4球状の球面、すなわち、前述のスクリーンのレンズ要素に応じた球面を形成できる。このような球面が形成された原板を用いて、前述のスクリーンを成形するための成形型を製造できる。
なお、上記本発明の成形型の製造方法にて製造された成形型を用いて前記球面をスクリーン基材に転写する転写工程と、前記スクリーン基材に転写された前記球面における光が入射される領域に、当該光を所定方向に反射させる反射部を形成する反射部形成工程と、を実施することで、前述の効果を奏するスクリーンを大量に、かつ、簡易に、製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るスクリーンを示す正面図。
【図2】前記実施形態におけるスクリーンの縦断面図。
【図3】前記実施形態におけるスクリーンの一部を拡大して示す拡大正面図。
【図4】(A)前記実施形態における原板製造工程(溝形成手順)を示す図。 (B)前記実施形態における原板製造工程(溝形成手順)を示す図。 (C)前記実施形態における原板製造工程(マスク層形成手順)を示す図。 (D)前記実施形態における原板製造工程(開口部形成手順)を示す図。 (E)前記実施形態における原板製造工程(球面形成手順)を示す図。 (F)前記実施形態における原板製造工程(除去手順)を示す図。
【図5】(A)前記実施形態における成形型製造工程(型形成手順)を示す図。 (B)前記実施形態における成形型製造工程(剥離手順)を示す図。
【図6】本発明の実施形態の変形に係るスクリーンの一部を拡大して示す拡大正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔スクリーンの全体構成〕
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るスクリーン1を示す正面図である。
本実施形態に係るスクリーン1は、正面側下方に位置するプロジェクター(図示省略)から入射面11に斜方入射される光を当該入射面11の法線方向に反射して、当該法線方向に設定された観察位置にて視認される画像(当該光により形成される画像)を表示するものである。
このスクリーン1は、図1に示すように、正面視略長方形状に形成されたスクリーン基材10を備えて構成され、当該スクリーン基材10の正面は、プロジェクターからの光が入射される入射面11である。
このスクリーン基材10は、本実施形態では、黒色素材で形成されており、当該黒色素材としては、染色や着色材の配合等によって全体が黒色に着色された黒色樹脂シートなどが挙げられる。このように、黒色素材により形成されたスクリーン基材10を用いることで、プロジェクターから入射される光以外の光(例えば、外光)をスクリーン基材10自体で吸収できる。
【0018】
入射面11には、当該入射面11の延長面11A上に予め設定された基準点P1を中心とする同心円(真円及び楕円を含む)の一部を構成する円弧状の仮想の基準線(図示省略)が複数設定され、当該基準線に沿って、複数のレンズ要素21が配置されている。このため、入射面11には、当該基準線に沿い、かつ、複数のレンズ要素21により構成されるレンズ列L1が複数設けられる。
なお、図1においては、レンズ列L1のうち、代表的なレンズ列L1を図示しているが、実際には、より細かい間隔でレンズ列L1は形成されている。また、図1において図示されたレンズ列L1の符号も一部省略している。また、本実施形態では、基準点P1は、入射面11の中心点Cを通り、かつ、鉛直方向に沿う仮想の直線である中心線VL上に設定されている。
【0019】
〔レンズ要素の構成〕
図2は、基準点P1からの放射方向におけるスクリーン1の縦断面図であり、図3は、入射面11の一部を拡大して示す部分拡大図である。
レンズ要素21は、それぞれ、プロジェクターから入射される光を、前記法線方向に反射させるレンズとして機能する。このようなレンズ要素21は、1/4球状の球面21Aを有している。このため、基準点P1からの放射方向に沿ってレンズ要素21を断面視した場合、当該レンズ要素21は、1/4円状に表され、レンズ要素21を正面視した場合、当該レンズ要素21は、半円状に表される。
【0020】
このような球面21Aは、光の出射位置(例えば、スクリーンを設計する上でのプロジェクターの予定設置位置)に対向するように配置される。換言すると、各レンズ要素21は、球面21Aが当該出射位置に対向するように形成される。このため、球面21Aは、当該出射位置に対向するように、レンズ要素21内の上側に位置する。
【0021】
このような球面21Aには、反射部21Bが形成されている。具体的には、当該反射部21Bは、球面21Aにおいて、入射された光を入射面11の法線方向に反射可能な領域(有効反射領域)を含む領域内に形成されている。このような反射部21Bは、高反射性を有する白色塗料をスプレーなどで塗布するか、アルミニウム(Al)や銀(Ag)を斜方から蒸着するなどして形成される。
【0022】
以上説明したレンズ要素21は、基準点P1から離れた位置に形成されているものほど、当該基準点P1からの法線方向における寸法が大きくなるように形成されている。このレンズ要素21の半径は、本実施形態では、20μm以上200μm以下に設定されている。
また、各レンズ要素21は、図3に示すように、互いに隣接するように密に形成されている。このように1/4球状の球面21Aを有するレンズ要素21が配列されることにより、半球面状の球面を有するレンズ要素が配列された従来のスクリーンと比べて、レンズ要素21をより密に入射面11に配置できる。そして、これにより、入射面11の面積に対する反射部21Bの面積(詳しくは、有効反射領域の面積)の割合を増加させることができ、従来のスクリーンに比べて、スクリーン1の明るさを向上できる。
【0023】
〔レンズ要素の配置〕
ここで、レンズ要素21の配置について詳細に説明する。
各レンズ列L1において、基準点P1からの放射方向に隣り合う2列間の寸法(以下「縦ピッチ」という場合がある)は、当該基準点P1から離れるに従って、次第に大きくなる。このため、各レンズ列L1において、基準点P1に近い2つの隣り合う2列間の寸法より、当該基準点P1から離れた2つの隣り合う2列間の寸法の方が大きい。
また、各レンズ列L1においては、基準点P1及び入射面11の中心点Cを結ぶ仮想の直線である中心線CLと、基準点P1からの放射方向との角度θが大きくなるに従って、縦ピッチは大きくなる。このため、当該角度θが小さい位置である中心線CL近傍の隣り合う2列間の寸法より、当該角度θが大きい位置である入射面11の隅部近傍の隣り合う2列間の寸法は大きい。
【0024】
次に、同じレンズ列L1上のレンズ要素21の配置について説明する。
同じレンズ列L1上の隣り合うレンズ要素21間の寸法(当該列の延出方向の寸法。以下「横ピッチ」という場合がある)は、基準点P1から離れるに従って次第に大きくなる。このため、基準点P1に近いレンズ列L1における2つの隣り合うレンズ要素21間の寸法より、当該基準点P1から離れたレンズ列L1における2つの隣り合うレンズ要素21間の寸法の方が大きい。
また、レンズ要素21の同じレンズ列L1における横ピッチは、中心線CLと、基準点P1からの放射方向との角度θが45度となる位置で最大となり、当該角度が45度から小さくなるに従って、及び、45度から大きくなるに従って、小さくなる。このため、あるレンズ列L1においては、中心線CL近傍及び入射面11の隅部近傍のレンズ要素21間の寸法が最小となり、角度θが45度となる位置に配置されたレンズ要素21間の寸法が最大となる。
【0025】
ここで、基準点P1から離れるに従って、横ピッチを増大させる理由について説明する。
前述したように、角度θの増大に従って縦ピッチを増大させると、基準点P1から、あるレンズ要素21の中心を結ぶ直線と、当該レンズ要素21が位置するレンズ列L1の接線に対する垂線との角度にずれが生じる。この角度ずれは、基準点P1から離れるほど大きくなり、また、中心線CLから離れるほど大きくなる。このため、角度θが同一となる位置であっても、基準点P1に近い位置に形成されたレンズ要素21と、当該基準点P1から離れた位置に形成されたレンズ要素21とで、入射される光を入射面11の法線方向に適切に反射させる領域(前述の有効反射領域)の位置がずれる。
これに対し、基準点P1から離れるに従って横ピッチを増大させることで、有効反射領域のずれに応じてレンズ要素21を配置できる。
【0026】
また、各レンズ列L1において、角度θが45度となる位置に形成された隣り合う2つのレンズ要素21間の寸法(横ピッチ)が最大となり、角度θが45度より増加及び減少するに従って、当該横ピッチが減少するように設定されている。
これによっても、前述の横ピッチの設定と同様に、有効反射領域のずれに応じてレンズ要素21を配置できる。
なお、横ピッチを最大とする角度θは、スクリーン1の大きさやプロジェクターとの位置関係等により変化する場合があり、本実施形態のように45度に限らない。
【0027】
〔スクリーンの製造方法〕
次に、前述のスクリーン1の製造方法について説明する。
当該製造方法では、原板を製造する原板製造工程、この原板を用いて成形型を製造する成形型製造工程、この成形型を用いてスクリーンを成形するスクリーン成形工程を順に経てスクリーン1が製造される。
【0028】
〔原板製造工程〕
図4は、原板製造工程を示す模式図であり、製造される原板5の厚さ方向の断面をそれぞれ示す図である。この断面は、後に形成されるスクリーン1の縦断面に対応する方向で見たものである。
原板製造工程は、溝形成手順と、マスク層形成手順と、開口部形成手順と、球面形成手順と、除去手順と、を実施する。
【0029】
・溝形成手順
溝形成手順では、図4(A)及び図4(B)に示すように、レンズ要素21において球面21Aとは反対側の部分に対応する溝51を原板5に複数形成する。この溝51は、原板5において、レンズ要素21を形成する位置に対応させてそれぞれ形成する。この第1溝51は、後に球面形成手順にてレンズ型54を構成する一部となる。
【0030】
なお、原板5の材質としては、レーザー光(例えばYAGレーザー光)の照射により表面に加工変質層を形成可能な、不純物を含むガラスを用いる。このようなガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス、硬質ガラス(石英ガラスを除く)、クリスタルガラスなど、YAGレーザー光と反応して高熱を発生する不純物(アルミナ等)を含有するガラスを用いることができる。
【0031】
まず、原板5の表面の所定位置にレーザー光を照射して、図4(A)に示すようなマイクロクラック層51Aを形成する。
この後、所定時間、原板5をフッ酸等のエッチング液に浸すと、マイクロクラック層51Aが選択的にエッチングされて、溝51が形成される。
溝51の寸法は、レンズ要素21の配置等に応じて適宜設定される。例えば、溝51の深さ寸法としては、150μm程度が好ましく、当該溝51の溝幅寸法(溝51を平面視した際の短手方向の寸法)としては、30μm〜50μm程度が好ましい。
【0032】
・マスク層形成手順
図4(C)は、マスク層形成手順を説明する図である。
マスク層形成手順においては、溝51を形成した原板5の表面にマスク層52を形成する。このマスク層52は、当該表面だけでなく、溝51内部の表面も被覆するように形成する。
マスク層52は、原板5をエッチング可能な液(エッチング液)によって浸食されない材質とする。本実施形態では、マスク層52として、クロム(Cr)膜を形成する。マスク層52の形成方法としては、蒸着法よりも、CVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相蒸着)法やスパッタリング法の方が好ましい。CVD法やスパッタリング法であれば、溝51内部の表面にも隙間なく成膜できるからである。
マスク層52の厚さ寸法としては、マスク層52の材質に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、クロム膜の場合、150nm程度が好ましい。
【0033】
図4(D)は、開口部形成手順を説明する図である。
開口部形成手順においては、マスク層52における各溝51近傍に、開口部53を形成する。この開口部53は、後の球面形成手順で原板5をエッチングする際にエッチング液を浸透させるためのものである。開口部53の位置は、レンズ要素21に応じたレンズ型54を形成する位置に対応する。開口部53の形状は、円状、楕円状、多角形状など、特に限定されない。開口部53の寸法としては、例えば、開口部53が円状の場合、数μm程度が好ましい。
なお、開口部53は、マスク層52に対するレーザー照射によって形成できる他、フォトエッチング等によっても形成できる。
【0034】
・球面形成手順
図4(E)は、球面形成手順を説明する図である。
球面形成手順においては、原板5を、所定時間、エッチング液に浸漬させる。これにより、原板5は、開口部53から侵入するエッチング液によってエッチングされて、1/4球状の球面54Aを有し、かつ、前述のレンズ要素21に対応するレンズ型54が形成される。
レンズ型54の形成について具体的に説明すると次の通りである。
開口部53から浸透したエッチング液は、徐々に原板5をエッチングする。このとき、溝51側に進行するエッチングは、当該溝51内のマスク層52まで到達し、当該マスク層52によりエッチングの進行が抑制される。この溝51内のマスク層52は、エッチングの進行を抑制する膜(エッチング抑制膜)として機能し、例えば、図4(E)では、右方向に進行するエッチングが抑制される。
一方で、溝51側とは異なる方向に進行するエッチングは、マスク層52によって妨げられないので、そのまま進行する。このため、例えば、図4(E)では、左方向や下方向などにエッチングが進行する。
【0035】
ここで、溝51内にマスク層52が形成されていないと、原板5には、エッチングにより半球状の球面が形成される。これに対し、本実施形態では、当該溝51内のマスク層52によってエッチングの進行が抑制される。つまり、半球状の球面の略半分に相当する部分がエッチングされないので、半球状の球面の略半分である1/4球分に相当する部分がエッチングされる。その結果、原板5に1/4球状の球面54Aを有するレンズ型54を形成できる。
なお、図4(E)において2点鎖線で示すのは、原板5の一部がエッチングされたことで離脱した一部のマスク層52である。
【0036】
なお、本実施形態では、ソーダ石灰ガラス製の原板5を用いているので、効率よくエッチングするためのエッチング液として、フッ化水素アンモニウム4質量%、硫酸3質量%および酢酸3質量%の水溶液が好ましい。さらに、本実施形態では、エッチング液の液温を25℃とし、エッチング時間を12時間程度としている。
【0037】
図4(F)は、除去手順を説明する図である。
除去手順においては、レンズ型54の形成後、原板5に残るマスク層52およびエッチング液を除去する。マスク層52の除去は、除去液を用いて行われる。除去液としては、硝酸セリウムアンモニウム10質量%、及び過塩素酸10質量%の水溶液が好ましい。その他の除去方法としては、塩素ガスによるドライエッチング法も好ましい。
さらに、除去手順においては、この原板5に残る除去液も除去する。
【0038】
以上の手順を経て、原板5が製造される。
このような原板製造工程にて製造された原板5は、本発明の成形型に対応し、当該原板5には、図4(F)に示すように、最終的に製造するスクリーン1のレンズ要素21の形状に対応する1/4球状の球面54Aを有するレンズ型54が形成される。
【0039】
〔成形型製造工程〕
次に、成形型製造工程について説明する。
図5は、成形型製造工程を示す模式図であり、製造される成形型6の厚さ方向の断面をそれぞれ示す図である。この断面は、後に形成されるスクリーン1の縦断面に対応する方向で見たものである。
成形型製造工程は、型形成手順と、剥離手順と、を実施する。
【0040】
・型形成手順
図5(A)は、型形成手順を説明する図である。
型形成手順においては、原板製造工程にて製造された原板5にめっき膜を形成することで成形型6が形成される。具体的には、次のようにして実施される。
型膜形成手順では、まず、原板5を洗浄した後、所定時間、塩化スズ1g/リットル、塩酸1質量%の水溶液に浸漬させる。浸漬後、原板5を水で洗浄する。
次に、原板5を、所定時間、塩化パラジウム1g/リットル、塩酸1質量%の水溶液に浸漬させる。浸漬後、原板5を水で洗浄する。
【0041】
次に、原板5に無電解めっき処理を施す。この無電解めっき処理では、原板5を、所定時間、市販の無電解ニッケルめっき液に浸漬させて、当該原板5の表面に無電解ニッケルめっき膜を形成させる。無電解ニッケルめっき膜の厚さ寸法としては、0.1μm程度とする。
次に、原板5に電解めっき処理を施す。この電解めっき処理では、無電解ニッケルめっき膜が形成された原板5を、スルファミン酸ニッケルめっき液に浸漬させ、所定時間、通電し、無電解ニッケルめっき膜上にニッケルめっき膜を形成させる。ニッケルめっき膜の厚さ寸法としては、0.5mm程度とする。
【0042】
・剥離手順
図5(B)は、剥離手順を説明する図である。
剥離手順においては、原板5から成形型6を剥離させる。この成形型6には、原板5の凹状のレンズ型54の形状に対応する凸状のレンズ型61が形成される。
【0043】
〔スクリーン成形工程〕
次に、スクリーンの成形工程について説明する。
・転写手順
このスクリーン成形工程においては、まず、転写手順を実施する。転写手順においては、成形型6の表面形状(レンズ型61が形成された表面の形状)をスクリーン基材10の表面に押し当てることで、当該スクリーン基材10にレンズ型54に応じた凹状のレンズ要素21を形成する。つまり、成形型6を介して、原板5に形成された凹状のレンズ型54の形状が、スクリーン基材10にレンズ要素21として転写される。
【0044】
本実施形態では、スクリーン基材10の素材として、黒色の塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)シートを用いる。このスクリーン基材10と成形型6とを150℃に加熱し、当該成形型6でスクリーン基材10を所定時間、押圧する。その後、成形型6からスクリーン基材10を離型し、所定のサイズに切断する。
【0045】
・反射部形成手順
次に、反射部形成手順を実施する。反射部形成手順は、スクリーン基材10に形成されたレンズ要素21の内面に、反射部21Bを形成する。反射部21Bは、上記のとおり、各レンズ要素21の有効反射領域を含む領域に形成する。本実施形態では、反射部21Bの材質をアルミニウム(Al)とする。反射部21Bは、スクリーン基材10の斜方から蒸着またはスパッタリングすることで形成される。反射部21Bの厚さ寸法としては、1000Å(オングストローム)程度とする。
このようにして、スクリーン1が製造される。
【0046】
〔本実施形態の作用効果〕
以上説明した本実施形態に係るスクリーン1によれば、以下の効果がある。
スクリーン1の入射面11には、1/4球状の球面21Aを有する凹状のレンズ要素21が複数配列されている。これによれば、1/4球状の球面21Aを、従来の半球状の球面と同じ半径で形成する場合、スクリーン1の入射面を正面視した場合の1つ当たりのレンズ要素21の面積は、従来のレンズ要素より小さくすることができる。このため、半球状の曲面を有するレンズ要素を入射面に配列する場合に比べ、レンズ要素21の配列数を増加させることができる。従って、従来のスクリーンに比べて、入射面11の面積に対する反射部21Bの面積の割合を増加させることができ、スクリーン1の明るさを向上させることができる。
【0047】
さらに、スクリーン1によれば、各レンズ要素21は、当該レンズ要素21の球面21Aが光の出射位置に対して向かうように配置されている。そのため、各レンズ要素21は、当該出射位置から出射された光を、当該球面21Aに設けられた反射部21Bに適切に入射させることができ、各反射部21Bに入射された光を所定方向に効率よく反射させることができる。
【0048】
スクリーン1においては、スクリーン基材10を黒色のPVCシートとする。そのため、入射面11に入射される外光を、スクリーン基材10自体により吸収することができ、外光が観察者側に出射されることを抑制できる。その結果、画像を形成する光が入射される場合に、上記外光により、当該画像のコントラストが低下することを抑制できる。更に、外光を吸収させるための光吸収層を入射面11に形成する手間を省くことができるので、スクリーン1の製造工程が煩雑化することを抑制できる。
【0049】
本実施形態に係る成形型製造方法によれば、溝形成手順にて、レンズ型54の1/4球状の球面の一部を構成する溝51が形成され、マスク層形成手順にて、当該溝51内及び原板5表面にマスク層52が形成される。この後、開口部形成手順にて、マスク層52における溝51近傍に開口部53が形成され、球面形成手順にて、開口部53からエッチング液が注入されて、エッチング処理が行われる。この球面形成手順では、開口部53から露出する原板5の表面形状が維持されたまま、開口部53に応じた領域が下方に浸食されるとともに、当該領域の周縁から外側に凹曲面状に広がるように原板5が浸食される。この際、溝51の形成位置とは反対側の原板5の浸食はそのまま進行するが、溝51の形成位置側の原板5の浸食は、溝51内に形成されたマスク層52に沿って下方に進行する。そして、除去手順により、マスク層52及びエッチング液を原板5から除去することにより、原板5に1/4球状の球面54A、すなわち、前述のスクリーン1のレンズ要素21に応じた球面54Aを形成できる。この原板5を用いて、成形型製造工程においてスクリーン1を成形するための成形型6を製造できる。
【0050】
本実施形態に係るスクリーン成形工程によれば、転写手順により球面54Aがレンズ要素21としてスクリーン基材10に転写される。その後、反射部形成手順により、レンズ要素21の内面の有効反射領域に反射部21Bを形成する。このようにして、前述の効果を奏するスクリーン1を大量に、かつ、簡易に、製造できる。
【0051】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、基準点P1は、入射面11の延長面11A上に設定されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、基準点P1の設定位置は、入射面11上であってもよい。
【0052】
前記実施形態では、入射面11に形成される複数のレンズ要素21は、当該入射面11において2次元的に配置されているが、本発明はこれに限らない。すなわち、レンズ要素21の配列パターンは、前記実施形態のものに限定されない。例えば、図6に示すように、レンズ要素21を球の半径分、左右交互にずらして配置したものでもよい。その他、正方格子状(縦横碁盤の目状)千鳥状(六方稠密状)等、他の配置であってもよい。
【0053】
前記実施形態では、レンズ要素21は、入射面11における反射面積(反射部21Bの面積)の向上の観点から互いに密接して設けているが、製造されるスクリーンの視野角や明るさ、及び、製造上の観点等から、本発明の作用効果に影響しない程度において、レンズ要素21間に隙間が設けられていてもよい。
【0054】
前記実施形態では、黒色PVCシートを用いてスクリーン1を形成したが、光吸収性を付与するためにスクリーン基材10を黒色以外の素材で形成し、入射面11に対して黒色の塗料を塗装して着色してもよい。
【0055】
前記実施形態では、溝51の形成を、レーザー照射およびウェットエッチングによって行ったが、これに限られない。原板5の所定位置に溝51を形成できる方法であれば、特に限定されず、基材に応じて適宜選択できる。例えば、フォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって行ってもよい。
【0056】
前記実施形態では、マスク層52として、クロム膜を用いたがこれに限られない。その他、例えば、酸化クロム(CrO)膜を下地として、その上にクロム膜をスパッタリング法などにより成膜したものであってもよい。
また、マスク層52を成膜する前に、原板5の表面にサンドブラストなどによるブラスト加工を施しておいてもよい。ブラスト加工を施しておくことで、原板5表面に微細な凹凸が多く形成されて原板5の表面積が増え、マスク層52との密着力が向上する。
【0057】
成形型の形状をスクリーン基材10に転写する方法については、特に限定されるものではなく、当該成形型、及びスクリーン基材10の材質等によって適宜選定すればよい。上述のような電鋳型を用いる方法の他、例えば、2P法により転写する方法も採用できる。すなわち、上記1/4球状のレンズ要素を形成することが可能であれば、他の方法によりスクリーンを製造してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、画像が投射されるスクリーンに好適に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1…スクリーン、10…スクリーン基材、11…入射面、21…レンズ要素、21A…球面、21B…反射部、5…原板、51…溝、52…マスク層、53…開口部、54…レンズ型、54A…球面、6…成形型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入射される入射面を有するスクリーンであって、
前記入射面には、凹状のレンズ要素が所定方向に沿って複数配置され、
それぞれの前記レンズ要素は、前記光の出射位置に対して向かう1/4球状の球面を有し、
前記球面における前記光が入射される領域には、当該光を所定方向に反射させる反射部が設けられている
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリーンにおいて、
前記入射面を有するスクリーン基材を備えて構成され、
前記スクリーン基材は、黒色素材で形成されている
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスクリーンにおいて、
それぞれの前記レンズ要素は、互いに隣接して配置されている
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項4】
入射された光を反射させるスクリーンを成形するための成形型の製造方法であって、
原板に対して複数の溝を形成する溝形成工程と、
前記複数の溝が形成された前記原板表面および前記複数の溝内に、マスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層における前記溝近傍の位置に、前記原板を露出させる開口部を形成する開口部形成工程と、
前記開口部からエッチング液を浸透させて前記基材をエッチングして、前記原板の厚さ方向の断面が前記溝とともに1/4球状となる球面を前記原板に形成する球面形成工程と、
前記マスク層及び前記エッチング液を前記原板から除去する除去工程と、
前記原板の表面形状を転写して、当該原板に形成された前記球面に応じた凸状の球面を有する成形型を製造する成形型製造工程と、を実施する
ことを特徴とする成形型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−194382(P2012−194382A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58313(P2011−58313)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】