スタンパによる転写の検査方法、転写方法及び転写システム
【課題】微細な異物や空気の混入、変形等のスタンパの転写面の側の異常要素を短時間で容易に検出できるスタンパによる転写の検査方法、該検査方法を利用する転写方法及び転写システムを提供する。
【解決手段】透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパ12A、12Bが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12A、12Bを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、転写面の側の異物(異常要素)16に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別する。
【解決手段】透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパ12A、12Bが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12A、12Bを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、転写面の側の異物(異常要素)16に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体の製造等のために行われるスタンパによる転写の検査方法、該検査方法を利用する転写方法及び転写システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、情報記録媒体を製造するためにスタンパが利用されている。例えば、ハードディスク等の磁気記録媒体の分野では、スタンパを用いて磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することが提案されている。磁気記録媒体はサーボ領域とデータ領域とに区分けされ、サーボ領域には記録/再生ヘッドの位置決めのためのサーボ情報が記録され、サーボ情報に基づいて記録/再生ヘッドのトラッキング等が行われる。ハードディスクの場合、径方向に沿う複数のサーボ領域が周方向に適宜な間隔で放射状に設定される。これらサーボ領域の間の部分がデータ領域であり、データ領域には所定のトラックに沿ってデータが記録される。尚、サーボ領域は通常、記録/再生ヘッドの円弧軌道と同じ又は記録/再生ヘッドの円弧軌道に近い円弧形状である。サーボ情報は、具体的には記録層における1ビットの情報に相当する各領域を0又は1の情報に対応する方向に所定のサーボパターンで磁化することにより記録される。面内記録媒体では各領域を0又は1の情報に対応する周方向の一方の向き又はその逆の向きに所定のサーボパターンで磁化することによりサーボ情報が記録される。又、近年主流となりつつある垂直記録媒体では各領域を0又は1の情報に対応する表面に垂直な方向の一方の向き又はその逆の向きに所定のサーボパターンで磁化することによりサーボ情報が記録される。このようにサーボ情報は、0の情報に対応する方向に磁化された領域に対応する1ビットのサーボ情報要素と1の情報に対応する方向に磁化された領域に対応する1ビットのサーボ情報要素とが所定のサーボパターンで配置された構成である。このようなサーボ情報は、サーボ記録装置によって各磁気記録媒体毎に記録層における各領域を0の情報及び1の情報に応じて順次磁化させていくものであるため、磁気ディスクの1面あたりのサーボ情報の記録に時間を要し生産性が低いという問題があった。特に近年、面記録密度の向上のため、サーボ情報についても高密度で、高精度な記録が要求されるようになっており、サーボ情報の記録の効率改善に対するニーズが高まっている。
【0003】
そこで磁気転写用スタンパを用いて磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することが提案されている。具体的には、サーボパターンに対応する凹凸パターンの転写面を有する磁気転写用スタンパを用意し、予め一方向に磁化させた磁気記録媒体の表面に磁気転写用スタンパの転写面を近接又は接触させて予め磁化させた方向とは反対の方向の適当な大きさの直流外部磁場を印加することにより磁気記録媒体における磁気転写用スタンパの転写面の凸部に近接又は接触する部分が予め磁化させた方向とは反対の方向に選択的に磁化されサーボ情報が記録される。磁気転写用スタンパを用いれば短時間で磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することができるので、サーボ情報の記録効率の大幅な向上が期待されている。
【0004】
又、記録密度の大幅な向上が可能である次世代のハードディスクとして記録層がトラックや記録ビットに対応する凹凸パターンで形成されたディスクリートトラックメディアやパターンドメディアが提案されている。ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアでは、記録層のサーボ領域をサーボ情報に相当する凹凸パターンで形成することも提案されている。このようなトラックや記録ビット、サーボ情報に対応する凹凸パターンを形成するためにもスタンパを利用することが提案されている。例えば、トラックや記録ビット、サーボ情報に対応する凹凸パターンが形成されたスタンパを用意し、連続膜の記録層の上に樹脂層を形成し、上記のスタンパで樹脂層に凹凸パターンを転写し、樹脂層に基いて記録層をエッチングすることによりトラックや記録ビット、サーボ情報に対応する凹凸パターンの記録層を形成することができる。尚、記録層と樹脂層との間に1層又は2層以上のマスク層を形成し、樹脂層に基いてマスク層、記録層を順次エッチングすることも提案されている。
【0005】
このようなスタンパによる磁気情報や凹凸パターンの良好な転写を実現するためにはスタンパの凹凸パターンの精度が良好であることが好ましい。又、スタンパと被転写物とが密着した状態で磁気情報の転写や凹凸パターンの転写が行われることが好ましい。一方、スタンパと被転写物との間に異物や空気が混入することがあり、このような異物や空気の混入は、磁気情報や凹凸パターンが正確に転写されない原因となりうる。又、スタンパの凹凸パターンが異物により変形することがあり、このような変形のために後続の被転写物にも磁気情報や凹凸パターンが正確に転写されない可能性がある。従って、このような異物の混入や空気の混入、スタンパの凹凸パターンの微細な変形等の異常要素を確実に検出したいというニーズがあり様々な手法が提案されている。
【0006】
例えば、磁気情報が転写される前、又は磁気情報が転写された後に磁気記録媒体の表面を光学的に検査する手法が知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。又、磁気転写用のスタンパの表面を磁気ヘッドにより電磁気的に検査する手法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4536097号公報
【特許文献2】特開2001−249080号公報
【特許文献3】特許第3488881号公報
【特許文献4】特開2002−342922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、微細な異物や変形等の異常要素を光学的に(直接的に)検出するためには複雑で高価な検査装置が必要であった。又、光学的に検査する手法でも電磁気的に検査する手法でも従来の検査手法では微細な異常要素を検出するためには微細な領域の検査をスタンパや被転写物の全面に亘って行うことになるため検査のために長い時間を要するという問題があった。又、光学的に検査する手法でも電磁気的に検査する手法でも従来の検査手法では空気の混入を検出することはできなかった。
【0009】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、微細な異物や空気の混入、変形等のスタンパの転写面の側の異常要素を短時間で容易に検出できるスタンパによる転写の検査方法、該検査方法を利用する転写方法及び転写システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパが転写面において被転写物に接するように設置された状態でスタンパを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するスタンパによる転写の検査方法により上記目的を達成したものである。
【0011】
又、本発明は、透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパと、スタンパが転写面において被転写物に接するように設置された状態でスタンパを転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置及び転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置を有する検査装置と、を含む転写システムにより上記目的を達成したものである。
【0012】
発明者らは、透光性及び可撓性を有するスタンパと被転写物との間に微細な異物が混入した場合、スタンパの背面の側に異物よりも著しく大きく周囲と光学的に異なって見える光学的変化部分が生じることを見出した。例えば、スタンパと被転写物との間に数十〜数百μmの微細な異物が混入した場合、スタンパの背面の側に干渉縞が観察される数mm〜数十mmの光学的変化部分が生じる。異物の混入によって可撓性のスタンパが撓みスタンパと被転写物との間に隙間が生じるため、このような光学的変化部分が生じると考えられる。スタンパと被転写物との間に生じる隙間が僅かであっても、スタンパの背面からスタンパに入射してスタンパの転写面で反射されスタンパの背面から出射される光と、スタンパの背面からスタンパ及び隙間に入射して被転写物の表面で反射されスタンパの背面から出射される光と、の干渉によって干渉縞のような光学的変化部分が生じると考えられる。又、異物が微小であっても異物の混入によってスタンパと被転写物との間に隙間が生じる部分は異物よりも著しく大きいため、異物よりも著しく大きい光学的変化部分が観察されると考えられる。尚、スタンパと被転写物との間に空気が混入してスタンパと被転写物との間に隙間が生じる場合も同様の光学的変化部分が観察される。又、スタンパの凹凸パターンの微細な変形等によりスタンパと被転写物との間に隙間が生じる場合も同様の光学的変化部分が観察される。
【0013】
このように透光性及び可撓性を有し転写面において被転写物に接するスタンパを背面の側から観察し、光学的変化部分の有無を判別することにより異物や空気の混入、スタンパの凹凸パターンの微細な変形等の転写面の側の異常要素の有無を判別することができる。
【0014】
即ち、次のような本発明により、上記目的を達成することができる。
【0015】
(1)透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察することにより、前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別することを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【0016】
(2) (1)において、前記光学的変化部分は干渉縞が観察される部分であることを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【0017】
(3) (1)又は(2)に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含むことを特徴とする転写方法。
【0018】
(4) (1)又は(2)に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有することを特徴とする転写方法。
【0019】
(5)透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパと、前記スタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置及び前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置を有する検査装置と、を含むことを特徴とする転写システム。
【0020】
(6) (5)において、前記判別装置は、前記光学的変化部分として干渉縞の有無を判別することを特徴とする転写システム。
【0021】
(7) (5)又は(6)において、前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加するための外部磁場印加装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【0022】
(8) (5)又は(6)において、前記転写面が被前記転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するためのエネルギー線照射装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、微細な異物や変形等のスタンパの転写面の側の異常要素を短時間で容易に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転写システムの構造を模式的に示す側面図
【図2】同転写システムの検査装置で検査されるスタンパ及び被転写物を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図3】同転写システムを用いた転写方法の概要を示すフローチャート
【図4】同転写システムの検査装置で観察される光学的変化部分を模式的に示す平面図
【図5】本発明の第2実施形態に係る転写システムの構造を模式的に示す側面図
【図6】同転写システムの検査装置で検査されるスタンパ及び被転写物を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図7】同転写システムを用いた転写方法の概要を示すフローチャート
【図8】同転写システムの検査装置で観察される光学的変化部分を模式的に示す平面図
【図9】本発明の実施例に係る光学的変化部分が観察されたスタンパ及び被転写物の写真
【図10】図9の複数の光学的変化部分の1つを拡大して示す写真
【図11】図9の複数の光学的変化部分の他の1つを拡大して示す写真
【図12】図9の複数の光学的変化部分の他の1つを拡大して示す写真
【図13】図10に示される光学的変化部分で観察された異物を拡大して示す顕微鏡写真
【図14】図11に示される光学的変化部分で観察された異物を拡大して示す顕微鏡写真
【図15】図12に示される光学的変化部分で観察された異物を拡大して示す顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の第1実施形態は、図1に示されるような転写システム10に関する。転写システム10は、透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパ12A、12Bと、転写面が被転写物14に接するようにスタンパ12A、12Bを設置するための設置装置20と、検査装置30と、外部磁場印加装置40と、を備えている。
【0026】
スタンパ12A、12Bは円板形状である。図2に示されるように、スタンパ12A、12Bの転写面にはハードディスクのサーボパターンに対応する凹凸パターンが形成されている。スタンパ12A、12Bの厚さは例えば0.2〜10mmである。又、スタンパ12A、12Bの直径は例えば20〜200mmである。転写面の凹凸の段差は40〜120nmである。尚、図2では本第1実施形態の理解のためスタンパ12A、12Bの凹凸パターンを実際よりも著しく大きく描いている。後述する図6でも同様である。スタンパ12A、12Bは、凹凸パターンが形成された基板と基板の凹凸形状に倣って凹凸の面の上に形成された磁性膜(図示省略)とを有している。基板の材料はポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン等の透光性の樹脂である。磁性膜の材料は、CoPt合金、CoFe合金等である。尚、基板と磁性膜との間にPt等の下地膜を形成してもよい。磁性膜及び下地膜の合計の厚さは例えば5〜80nmであり、10〜40nmであることが好ましい。磁性膜及び下地膜の合計の厚さがこのような範囲であれば、スタンパ12A、12Bは充分な透光性を有する。又、磁性膜の上にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の保護膜及び/又はパーフルオロポリエーテルの潤滑膜を形成してもよい。
【0027】
被転写物14は連続膜の記録層を有するハードディスクであり実質的に剛体である。被転写物14は円板形状であり、被転写物14の直径はスタンパ12A、12Bの直径と同じくらい又はスタンパ12A、12Bの直径よりも小さい。被転写物14は基板を有し、更に基板の両面に対称的に形成された下地層、反強磁性層、軟磁性層、配向層、記録層、保護層、潤滑層等を有している。
【0028】
設置装置20は、テーブル22と保持器24とを有している。保持器24がスタンパ12B、被転写物14、スタンパ12Aをバキュームにより吸引して保持し、テーブル22の上に順次載置するようになっている。尚、テーブル22もバキュームによりスタンパ12Bを保持する構成としてもよい。
【0029】
検査装置30は、スタンパ12A、12Bが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12A、12Bを転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置32A、32Bと、転写面の側の異物(異常要素)16に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置34と、を有している。光学観察装置32A、32Bは、例えばCCDカメラ、CMOSセンサを利用したラインスキャンカメラ等である。尚、光学観察装置32Aがスタンパ12Aを観察し、光学観察装置32Bがスタンパ12Bを観察するように光学観察装置32A、32Bは対向して設置されている。判別装置34は、パーソナルコンピューター、マイクロコンピューター等のコンピューターであり、光学観察装置32A、32Bで得られるスタンパ12A、12B及び被転写物14の画像情報に基いて干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別するように構成されている。例えばスタンパ12A、12Bを介して観察される被転写物14の画像を多数の微小領域に分割して解析し、各微小領域の明るさや色を比較し、周囲の微小領域と明るさや色が著しく異なる微小領域の有無やそのような微小領域の分布を所定の基準と対比することにより、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別するように構成されたプログラム(ソフトウェア)を備えている。
【0030】
外部磁場印加装置40は、一対の電磁石42A、42Bを有している。一対の電磁石42A、42Bは、スタンパ12A、被転写物14、スタンパ12Bを挟むように配置され、スタンパ12A、12Bを介して被転写物14に垂直方向(被転写物14の表面に垂直な方向)の外部磁場を印加するようになっている。尚、図1では被転写物14の全面に同時に外部磁場を印加できるようになっているが、例えば外部磁場印加装置40は被転写物14の周方向の一部にのみ外部磁場を印加できる電磁石を備え、被転写物14又は電磁石が回転することにより被転写物14の全面に外部磁場を印加するようにしてもよい。又、外部磁場印加装置40は、電磁石に代えて永久磁石を用いる構成としてもよい。
【0031】
次に、図3のフローチャートに沿って転写システム10を用いた転写方法について説明する。
【0032】
まず、被転写物14に垂直方向の充分に大きい外部磁場を印加し被転写物14を初期化する(S102:初期化工程)。これにより被転写物14の記録層は全面において垂直方向の一方の向きに磁化される。尚、この工程では上記の外部磁場印加装置40を用いてもよいし、外部磁場印加装置40とは別の外部磁場印加装置を用いてもよい。
【0033】
次に、設置装置20により転写面が被転写物14に接するようにスタンパ12A、12Bを設置する(S104:設置工程)。具体的には、保持器24がスタンパ12B、被転写物14、スタンパ12Aをバキュームにより吸引して保持し、テーブル22の上に順次載置する。又、必要に応じてスタンパ12A、12Bが被転写物14を挟んだ状態でこれらを厚さ方向に加圧する。
【0034】
次に、検査装置30により光学的変化部分の有無を判別する(S106:検査工程)。具体的には、光学観察装置32A、32Bにより、スタンパ12A、12Bが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12A、12Bを転写面と反対側の背面の側から観察する。判別装置34は、光学観察装置32A、32Bで得られるスタンパ12A、12B及び被転写物14の画像情報に基いて光学的変化部分の有無を判別する。
【0035】
図2に示されるように例えばスタンパ12Aと被転写物14との間に微細な異物16が混入した場合、図4に示されるようにスタンパ12Aの背面の側に異物16よりも著しく大きく周囲と光学的に異なって見える光学的変化部分18が観察される。例えば、スタンパ12Aと被転写物14との間に数十〜数百μmの微細な異物16が混入した場合、スタンパ12Aの背面の側に、干渉縞が観察される数mm〜数十mmの光学的変化部分18が観察される。異物16の混入によって可撓性のスタンパ12Aが撓みスタンパ12Aと被転写物14との間に隙間が生じるため、このような光学的変化部分18が生じると考えられる。尚、スタンパ12Aの転写面の側にスタンパ12Aと被転写物14との間に隙間を生じさせるような、異物以外の他の異常要素が存在する場合も同様の光学的変化部分が観察される。例えば、スタンパ12Aと被転写物14との間に隙間を生じさせるようにこれらの間に空気が混入していたり、スタンパ12Aと被転写物14との間に隙間を生じさせるようにスタンパ12Aの転写面の凹凸パターンが変形している場合も、同様の光学的変化部分が観察される。スタンパ12Aと被転写物14との間に生じる隙間が僅かであっても、例えば、スタンパ12Aの背面からスタンパ12Aに入射してスタンパ12Aの転写面で反射されスタンパ12Aの背面から出射される光と、スタンパ12Aの背面からスタンパ12A及び隙間に入射して被転写物14の表面で反射されスタンパ12Aの背面から出射される光と、の干渉によって干渉縞のような光学的変化がもたらされると考えられる。又、異物16が微小であっても異物16の混入によってスタンパ12Aと被転写物14との間に隙間が生じる部分は異物よりも著しく大きいため、異物16よりも著しく大きい光学的変化部分18が生じると考えられる。尚、本第1実施形態の理解のため図4には異物16も描かれているが、実際には肉眼でも光学観察装置32A、32Bでも異物16の存在を捉えることは困難である。後述する図8についても同様である。
【0036】
一方、スタンパ12A、12Bの転写面の側に異物や空気の混入、転写面の凹凸パターンの変形のような異常要素が存在しない場合、干渉縞のような光学的変化は観察されない。
【0037】
判別装置34は、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別する。例えば、スタンパ12A、12Bを介して観察される被転写物14の画像を多数の微小領域に分割して解析し、各微小領域の明るさや色を比較し、周囲の微小領域と明るさや色が著しく異なる微小領域の有無やそのような微小領域の分布を所定の基準と対比することにより、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別する。尚、被転写物14の外周の輪郭線の内側の領域と外側の領域とは明るさや色が異なるが、この光学的な差異は光学的変化部分と判別されないようにプログラムを構成しておく。
【0038】
このように透光性及び可撓性を有するスタンパ12Aが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12Aを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、例えば異物16やスタンパ12Aの転写面の凹凸パターンの変形に起因した光学的変化部分が観察され、光学的変化部分18の有無に基いて転写面側の異物16等の異常要素の有無を判別することができる。
【0039】
検査工程(S106)において光学的変化部分18があると判別された場合、被転写物14及び光学的変化部分18が観察された側のスタンパ12Aは廃棄し、他の新たなスタンパ12A、被転写物14を用意して上記初期化工程(S102)、設置工程(S104)、検査工程(S106)を再度実行する。光学的変化部分18が観察されていない側のスタンパ12Bは再度利用する。尚、光学的変化部分18が観察されていない側のスタンパ12Bも廃棄し、新たなスタンパ12A、12B、被転写物14を用意して上記初期化工程(S102)、設置工程(S104)、検査工程(S106)を再度実行してもよい。
【0040】
一方、検査工程(S106)において光学的変化部分18がないと判別された場合は、外部磁場印加装置40により被転写物14に垂直方向(被転写物14の表面に垂直な方向)の外部磁場を印加する(S108:外部磁場印加工程)。具体的には、一対の電磁石42A、42Bにより、スタンパ12A、12Bを介して被転写物14に上記初期化工程(S102)の直流外部磁場の向きと逆の向きの垂直方向の外部磁場を印加する。被転写物14にはスタンパ12A、12Bの凸部を介して直流外部磁場が印加され、被転写物14の両面の記録層におけるスタンパ12A、12Bの凸部に接する部分が直流外部磁場の方向に磁化される。これにより被転写物14の両面の記録層にサーボ情報が記録される。尚、直流外部磁場の大きさが過大であると、記録層の全部が直流外部磁場の方向に磁化されうるので、直流磁場の大きさは被転写物14にスタンパ12A、12Bの凹凸パターンに倣ったサーボ情報を磁化転写できる大きさに制限する。
【0041】
これにより転写システム10を用いたサーボ情報の磁気転写が完了する。尚、被転写物14の両面のスタンパ12A、12Bは被転写物14から剥離する。以後同様に、所定の数の被転写物14への磁気転写が完了するまで転写システム10を用いた転写を繰り返す。被転写物14から剥離されたスタンパ12A、12Bは後続の被転写物14への磁気転写に繰り返し利用してもよい。又、被転写物14から剥離されたスタンパ12A、12Bは廃棄してもよい。又、所定の回数の磁気転写を行った後にスタンパ12A、12Bを廃棄してもよい。
【0042】
このように光学的変化部分18が観察された場合、その被転写物14や光学的変化部分18が観察された側のスタンパは廃棄され、光学的変化部分が観察されない(異物の混入等の異常要素が存在しない)スタンパ12A、12B及び被転写物14に対してのみ磁気転写が行われるので不正確なサーボ情報の磁気転写を防止できる。又、異常要素が異物である場合、異物との接触によりスタンパの転写面の凹凸パターンが変形しうるが、光学的変化部分が観察された側のスタンパは廃棄されるので、転写面の凹凸パターンが変形したスタンパによる後続の被転写物への不正確なサーボ情報の磁気転写も防止できる。
【0043】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前記第1実施形態に係る転写システム10は基板に加え更に基板の凹凸の面の上に形成された磁性膜等を有するスタンパ12A、12Bを備えているのに対し、本第2実施形態係る転写システム50は凹凸パターンが形成された基板のみで構成されたスタンパ52A、52Bを備えている。スタンパ52A、52Bの転写面にはハードディスクのサーボ領域のサーボ情報に対応する凹凸パターンに加え更にハードディスクのデータ領域のトラック又は記録ビットに対応する凹凸パターンも形成されている。
【0044】
又、前記第1実施形態に係る被転写物14は連続膜の記録層を有するハードディスクであるのに対し、本第2実施形態係る被転写物54はディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアの製造工程における中間体である。尚、ディスクリートトラックメディアは記録層のデータ領域の部分がトラックに相当する凹凸パターンで形成される。又、パターンドメディアは記録層のデータ領域の部分が記録ビットに相当する凹凸パターンで形成される。又、ディスクリートトラックメディアもパターンドメディアも記録層のサーボ領域の部分はサーボ情報に相当する凹凸パターンで形成される。被転写物54はこのような凹凸パターンに加工される前の連続膜の記録層を有している。又、被転写物54の記録層の上には保護層や潤滑層は形成されていない。一方、被転写物54の記録層の上には図6に示されるように紫外線等の所定のエネルギー線が照射されることにより硬化する性質を有する樹脂層54A、54Bが塗布されている。樹脂層54A、54Bの厚さは例えば30〜100nmである。尚、記録層(図示省略)と樹脂層54A、54Bとの間に1層又は2層以上の金属や酸化物、炭素等の硬質のマスク層が形成されていてもよい。
【0045】
前記第1実施形態ではスタンパ12A、12Bにより被転写物14の記録層にサーボ情報を磁気的に転写しているのに対し、本第2実施形態ではスタンパ52A、52Bにより被転写物54の樹脂層54A、54Bにディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアの記録層の凹凸パターンに対応する凹凸パターンを転写する。
【0046】
又、前記第1実施形態に係る転写システム10は外部磁場印加装置40を備えるのに対し、図5に示されるように本第2実施形態係る転写システム50は外部磁場印加装置40に代えてエネルギー線照射装置60を備えている。
【0047】
エネルギー線照射装置60は、一対のエネルギー線照射源62A、62Bを有している。一対のエネルギー線照射源62A、62Bは、スタンパ52A、被転写物54、スタンパ52Bを挟むように配置され、スタンパ52A、52Bを介して被転写物54に紫外線等のエネルギー線を照射するようになっている。
【0048】
他の構成については前記第1実施形態と同じ又は前記第1実施形態と類似しているので前記第1実施形態と同じ又は類似している構成要素については図1〜4と同一符号を付することとして説明を省略する。
【0049】
図7のフローチャートに沿って転写システム50を用いた転写方法について説明する。まず、前記第1実施形態の設置工程(S104)と同じ要領で設置装置20により転写面が被転写物54に接するようにスタンパ52A、52Bを設置する(S202:設置工程)。更に、スタンパ52A、52Bが被転写物54を挟んだ状態でスタンパ52A、52Bを加圧する。これにより被転写物54の樹脂層54A、54Bにスタンパ52A、52Bの凹凸パターンが転写される。尚、この時点で樹脂層54A、54Bはまだ流動性を有している。
【0050】
次に、前記第1実施形態の検査工程(S106)と同じ要領で検査装置30により光学的変化部分の有無を判別する(S204:検査工程)。図6に示されるように例えばスタンパ52Aと被転写物54との間に微細な異物16が混入した場合、前記第1実施形態と同様に図8に示されるようにスタンパ52Aの背面の側に異物16よりも著しく大きく周囲と光学的に異なって見える光学的変化部分18が観察される。尚、スタンパ52Aの転写面の側に空気の混入や転写面の凹凸パターンの変形等の、異物以外の他の異常要素が存在する場合も同様の光学的変化部分が観察される。
【0051】
一方、スタンパ52A、52Bの転写面の側に異物や空気の混入、転写面の凹凸パターンの変形のような異常要素が存在しない場合、干渉縞のような光学的変化は観察されない。
【0052】
判別装置34は、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別する。本第2実施形態でも透光性及び可撓性を有するスタンパ52Aが転写面において被転写物54に接するように設置された状態でスタンパ52Aを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、例えば異物16やスタンパ52Aの転写面の凹凸パターンの変形に起因した光学的変化部分が観察され、光学的変化部分18の有無に基いて転写面側の異物16等の異常要素の有無を判別することができる。
【0053】
検査工程(S204)において光学的変化部分18があると判別された場合、スタンパ52A、52B及び被転写物54は廃棄し、他の新たなスタンパ52A、52B及び被転写物54を用意して上記設置工程(S202)、検査工程(S204)を再度実行する。
【0054】
一方、検査工程(S204)において光学的変化部分18がないと判別された場合は、エネルギー線照射装置60により被転写物54に紫外線等のエネルギー線を照射する(S206:エネルギー線照射工程)。具体的には、一対のエネルギー線照射源62A、62Bにより、スタンパ52A、52Bを介して被転写物54にエネルギー線を照射する。これにより被転写物54の樹脂層54A、54Bが硬化し、転写システム50を用いた転写が完了する。尚、被転写物54の両面のスタンパ52A、52Bは被転写物54から剥離する。以後同様に、所定の数の被転写物54への凹凸パターンの転写が完了するまで転写システム50を用いた転写を繰り返す。被転写物54から剥離されたスタンパ52A、52Bは後続の被転写物54への凹凸パターンの転写に用いてもよい。又、被転写物54から剥離されたスタンパ52A、52Bは廃棄してもよい。又、所定の回数の凹凸パターンの転写を行った後にスタンパ52A、52Bを廃棄してもよい。
【0055】
被転写物54の両面の記録層はその後凹凸パターンの樹脂層54A、54Bに基いてエッチングされ凹凸パターンの記録層が形成される。又、記録層と樹脂層54A、54Bとの間にマスク層が形成される場合、凹凸パターンの樹脂層54A、54Bに基いてマスク層がエッチングされて凹凸パターンのマスク層が形成され、凹凸パターンのマスク層に基いて記録層がエッチングされる。
【0056】
このように本第2実施形態でも光学的変化部分18が観察された場合、その被転写物54やスタンパ52A、52Bは廃棄されるので不正確な凹凸パターンの転写を防止できる。又、異常要素が異物である場合、異物との接触によりスタンパの転写面の凹凸パターンが変形しうるが、光学的変化部分が観察された場合、スタンパは廃棄されるので、転写面の凹凸パターンが変形したスタンパによる後続の被転写物への不正確な凹凸パターンの転写も防止できる。
【0057】
尚、異常要素が異物である場合、本第2実施形態のような樹脂層54A、54Bへの凹凸パターンの転写よりも、前記第1実施形態のような磁気転写の方が光学的変化部分が観察されやすい。本第2実施形態のように樹脂層54A、54Bに凹凸パターンの転写を行う場合は異物が混入しても異物の一部が被転写物54の表面の樹脂層54A、54Bに埋まることがあるが、前記第1実施形態のように磁気転写を行う場合は異物が被転写物14の表面に埋まるような事態は生じにくいので被転写物14とスタンパ12A又は12Bとの間に隙間が生じやすく、それだけ光学的変化部分が観察されやすいと考えられる。従って、本発明は、磁気転写用のスタンパの検査により適していると考えられる。
【0058】
尚、前記第2実施形態において、検査工程(S204)において光学的変化部分18があると判別された場合、スタンパ52A、52B及び被転写物54は廃棄され、これらに対してエネルギー線照射工程(S206)は実行されないが、光学的変化部分18があると判別されたスタンパ52A、52B及び被転写物54に対してもエネルギー線照射工程(S206)を実行し、樹脂層54A、54Bが硬化した後に被転写物54から剥離されるスタンパ52A、52Bのうち光学的変化部分18がないと判別された方のスタンパを後続の他の被転写物への凹凸パターンの転写のために利用してもよい。
【0059】
又、前記第1及び第2実施形態において、外部磁場印加工程(S108)又はエネルギー線照射工程(S206)の前に検査工程(S106、S204)を実行しているが、外部磁場印加工程又はエネルギー線照射工程の後に検査工程を実行してもよい。
【0060】
又、前記第1及び第2実施形態において、設置装置20と検査装置30とが別体であるが、設置装置20と検査装置30とが一体である構成としてもよい。例えば、透光性を有する材料で設置装置20のテーブル22及び保持器24を構成し、転写面において被転写物に接するように設置されたスタンパを背面の側からテーブル22及び保持器24を介して観察してもよい。
【0061】
又、前記第1及び第2実施形態において、検査装置30は被転写物14(54)の両面のスタンパ12A、12B(52A、52B)を同時に観察するように構成されているが、被転写物の片面のみを観察する検査装置を用いて、一方のスタンパを観察した後に他方のスタンパを観察してもよい。
【0062】
又、前記第1及び第2実施形態において、光学的変化部分として干渉縞が観察される部分が例示されているが、干渉縞が観察されていなくても例えば周囲の他の領域と色や明るさが異なる領域を光学的変化部分として判別してもよい。
【0063】
又、前記第1及び第2実施形態において、検査装置30により光学的変化部分の有無を自動的に検出しているが、例えば作業者が目視により光学的変化部分の有無を検出してもよい。
【0064】
又、前記第1及び第2実施形態において、被転写物14、54の両面に磁気転写又は凹凸パターンの転写を行っているが、被転写物の片面だけに磁気転写又は凹凸パターンの転写を行う場合にも本発明を適用可能である。
【0065】
又、前記第1及び第2実施形態において、ハードディスクの製造のための転写が示されているが、例えばハードディスク以外の磁気記録媒体や光記録媒体等の他の情報記録媒体の製造にも本発明は適用可能である。
【実施例】
【0066】
前記第1実施形態のとおりサーボ情報の磁気転写を行った。スタンパ12A、12Bの仕様は以下のとおりであった。
直径:68mm
基板の厚さ:0.4mm
基板の材料:ポリオレフィン樹脂
磁性膜の厚さ:10nm
磁性膜の材料:Co−Pt合金
【0067】
又、被転写物14の仕様は以下のとおりであった。
直径:64mm
基板の厚さ:0.6mm
基板の材料:ガラス
記録層の厚さ:20nm
記録層の材料:Co−Cr−Pt合金
保護層の厚さ:4nm
保護層の材料:DLC
潤滑層の厚さ:2nm
潤滑層の材料:パーフルオロポリエーテル
【0068】
尚、記録層と基板との間には下地層、軟磁性層、配向層が形成されていたが、これらの層の厚さ、材料は本実施例の理解のために重要とは思われないため説明を省略する。
【0069】
初期化工程(S102)では被転写物14に被転写物14の記録層の飽和磁場以上の外部磁場を印加した。設置工程(S104)では被転写物14にスタンパ12Aのみを設置した。検査工程(S106)では光学観察装置32AとしてCCDカメラを用いて被転写物14に設置されたスタンパ12Aの全体を視野範囲として一括して撮像した。撮像時間は1秒以下であった。尚、光学的変化部分の有無の判別は撮像結果より目視にて行った。外部磁場印加工程(S108)では被転写物14に被転写物14の記録層の保磁力と同等の外部磁場を印加した。
【0070】
以上の転写作業を複数の被転写物14に対して繰り返し行ったところ、そのうちの1つのサンプルに図9〜12に示されるような複数の干渉縞(光学的変化部分)が観察された。光学的変化部分の幅(円周方向の幅)は、図10に示される干渉縞では6.4mm程度、図11に示される干渉縞では9.6mm程度、図12に示される干渉縞では16.2mm程度であった。スタンパ12Aの背面における各光学的変化部分の中心付近をマーキングした後に、スタンパ12Aを被転写物14から剥離した。その後、スタンパ12Aの転写面におけるマーキングした部分に相当する部分のあたりを光学顕微鏡で観察したところパーティクル(異物)が観察された。図10に示される光学的変化部分の中心付近で観察された異物の光学顕微鏡写真を図13に、図11に示される光学的変化部分の中心付近で観察された異物の光学顕微鏡写真を図14に、図12に示される光学的変化部分の中心付近で観察された異物の光学顕微鏡写真を図15に、それぞれ示す。図13に示される異物の大きさは約70μm、図14に示される異物の大きさは約380μm、図15に示される異物の大きさは約260μmであった。このように、異物の大きさに対し数十倍に拡大された光学的変化部分が観察され、簡便な光学観察装置で短時間で容易に異物の存在を検出することができた。
【0071】
[比較例1]
前記実施例で干渉縞(光学的変化部分)が観察されたサンプルのスタンパ12Aを被転写物14から剥離した後、スタンパ12Aの転写面及び被転写物14の両面をCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像した。撮像された画像中に異物を見つけることはできなかった。
【0072】
[比較例2]
前記実施例に対し、設置工程(S104)の前にもスタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面をCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像した。その他は前記実施例と同じ条件で複数の被転写物14に対して転写作業を行った。実施例と同じようにそのうちの1つのサンプルに図9〜12に示されるような干渉縞と同じような干渉縞が観察された。更に、実施例と同じように干渉縞が観察された部分を光学顕微鏡で観察したところパーティクル(異物)が観察された。一方、このサンプルのスタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面を設置工程(S104)の前にCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像した画像中に異物を見つけることはできなかった。
【0073】
比較例1、2に示されるように、設置工程(S104)の前にCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像されたスタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面の画像中にも、検査工程(S106)後にCCDカメラで撮像された(剥離された)スタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面の画像中にも存在するはずの異物を見つけることができなかった。
【0074】
これに対し、透光性及び可撓性を有するスタンパ12Aが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12Aを転写面と反対側の背面の側から観察した実施例では、微小な異物よりも著しく大きい(異物に起因する)光学的変化部分が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば、ハードディスク等の情報記録媒体の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
10、50…転写システム
12A、12B、52A、52B…スタンパ
14、54…被転写物
16…異物(異常要素)
20…設置装置
30…検査装置
32A、32B…光学観察装置
34…判別装置
40…外部磁場印加装置
60…エネルギー線照射装置
S102…初期化工程
S104、S202…設置工程
S106、S204…検査工程
S108…外部磁場印加工程
S206…エネルギー線照射工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体の製造等のために行われるスタンパによる転写の検査方法、該検査方法を利用する転写方法及び転写システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、情報記録媒体を製造するためにスタンパが利用されている。例えば、ハードディスク等の磁気記録媒体の分野では、スタンパを用いて磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することが提案されている。磁気記録媒体はサーボ領域とデータ領域とに区分けされ、サーボ領域には記録/再生ヘッドの位置決めのためのサーボ情報が記録され、サーボ情報に基づいて記録/再生ヘッドのトラッキング等が行われる。ハードディスクの場合、径方向に沿う複数のサーボ領域が周方向に適宜な間隔で放射状に設定される。これらサーボ領域の間の部分がデータ領域であり、データ領域には所定のトラックに沿ってデータが記録される。尚、サーボ領域は通常、記録/再生ヘッドの円弧軌道と同じ又は記録/再生ヘッドの円弧軌道に近い円弧形状である。サーボ情報は、具体的には記録層における1ビットの情報に相当する各領域を0又は1の情報に対応する方向に所定のサーボパターンで磁化することにより記録される。面内記録媒体では各領域を0又は1の情報に対応する周方向の一方の向き又はその逆の向きに所定のサーボパターンで磁化することによりサーボ情報が記録される。又、近年主流となりつつある垂直記録媒体では各領域を0又は1の情報に対応する表面に垂直な方向の一方の向き又はその逆の向きに所定のサーボパターンで磁化することによりサーボ情報が記録される。このようにサーボ情報は、0の情報に対応する方向に磁化された領域に対応する1ビットのサーボ情報要素と1の情報に対応する方向に磁化された領域に対応する1ビットのサーボ情報要素とが所定のサーボパターンで配置された構成である。このようなサーボ情報は、サーボ記録装置によって各磁気記録媒体毎に記録層における各領域を0の情報及び1の情報に応じて順次磁化させていくものであるため、磁気ディスクの1面あたりのサーボ情報の記録に時間を要し生産性が低いという問題があった。特に近年、面記録密度の向上のため、サーボ情報についても高密度で、高精度な記録が要求されるようになっており、サーボ情報の記録の効率改善に対するニーズが高まっている。
【0003】
そこで磁気転写用スタンパを用いて磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することが提案されている。具体的には、サーボパターンに対応する凹凸パターンの転写面を有する磁気転写用スタンパを用意し、予め一方向に磁化させた磁気記録媒体の表面に磁気転写用スタンパの転写面を近接又は接触させて予め磁化させた方向とは反対の方向の適当な大きさの直流外部磁場を印加することにより磁気記録媒体における磁気転写用スタンパの転写面の凸部に近接又は接触する部分が予め磁化させた方向とは反対の方向に選択的に磁化されサーボ情報が記録される。磁気転写用スタンパを用いれば短時間で磁気記録媒体にサーボ情報を磁気転写することができるので、サーボ情報の記録効率の大幅な向上が期待されている。
【0004】
又、記録密度の大幅な向上が可能である次世代のハードディスクとして記録層がトラックや記録ビットに対応する凹凸パターンで形成されたディスクリートトラックメディアやパターンドメディアが提案されている。ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアでは、記録層のサーボ領域をサーボ情報に相当する凹凸パターンで形成することも提案されている。このようなトラックや記録ビット、サーボ情報に対応する凹凸パターンを形成するためにもスタンパを利用することが提案されている。例えば、トラックや記録ビット、サーボ情報に対応する凹凸パターンが形成されたスタンパを用意し、連続膜の記録層の上に樹脂層を形成し、上記のスタンパで樹脂層に凹凸パターンを転写し、樹脂層に基いて記録層をエッチングすることによりトラックや記録ビット、サーボ情報に対応する凹凸パターンの記録層を形成することができる。尚、記録層と樹脂層との間に1層又は2層以上のマスク層を形成し、樹脂層に基いてマスク層、記録層を順次エッチングすることも提案されている。
【0005】
このようなスタンパによる磁気情報や凹凸パターンの良好な転写を実現するためにはスタンパの凹凸パターンの精度が良好であることが好ましい。又、スタンパと被転写物とが密着した状態で磁気情報の転写や凹凸パターンの転写が行われることが好ましい。一方、スタンパと被転写物との間に異物や空気が混入することがあり、このような異物や空気の混入は、磁気情報や凹凸パターンが正確に転写されない原因となりうる。又、スタンパの凹凸パターンが異物により変形することがあり、このような変形のために後続の被転写物にも磁気情報や凹凸パターンが正確に転写されない可能性がある。従って、このような異物の混入や空気の混入、スタンパの凹凸パターンの微細な変形等の異常要素を確実に検出したいというニーズがあり様々な手法が提案されている。
【0006】
例えば、磁気情報が転写される前、又は磁気情報が転写された後に磁気記録媒体の表面を光学的に検査する手法が知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。又、磁気転写用のスタンパの表面を磁気ヘッドにより電磁気的に検査する手法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4536097号公報
【特許文献2】特開2001−249080号公報
【特許文献3】特許第3488881号公報
【特許文献4】特開2002−342922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、微細な異物や変形等の異常要素を光学的に(直接的に)検出するためには複雑で高価な検査装置が必要であった。又、光学的に検査する手法でも電磁気的に検査する手法でも従来の検査手法では微細な異常要素を検出するためには微細な領域の検査をスタンパや被転写物の全面に亘って行うことになるため検査のために長い時間を要するという問題があった。又、光学的に検査する手法でも電磁気的に検査する手法でも従来の検査手法では空気の混入を検出することはできなかった。
【0009】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、微細な異物や空気の混入、変形等のスタンパの転写面の側の異常要素を短時間で容易に検出できるスタンパによる転写の検査方法、該検査方法を利用する転写方法及び転写システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパが転写面において被転写物に接するように設置された状態でスタンパを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するスタンパによる転写の検査方法により上記目的を達成したものである。
【0011】
又、本発明は、透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパと、スタンパが転写面において被転写物に接するように設置された状態でスタンパを転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置及び転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置を有する検査装置と、を含む転写システムにより上記目的を達成したものである。
【0012】
発明者らは、透光性及び可撓性を有するスタンパと被転写物との間に微細な異物が混入した場合、スタンパの背面の側に異物よりも著しく大きく周囲と光学的に異なって見える光学的変化部分が生じることを見出した。例えば、スタンパと被転写物との間に数十〜数百μmの微細な異物が混入した場合、スタンパの背面の側に干渉縞が観察される数mm〜数十mmの光学的変化部分が生じる。異物の混入によって可撓性のスタンパが撓みスタンパと被転写物との間に隙間が生じるため、このような光学的変化部分が生じると考えられる。スタンパと被転写物との間に生じる隙間が僅かであっても、スタンパの背面からスタンパに入射してスタンパの転写面で反射されスタンパの背面から出射される光と、スタンパの背面からスタンパ及び隙間に入射して被転写物の表面で反射されスタンパの背面から出射される光と、の干渉によって干渉縞のような光学的変化部分が生じると考えられる。又、異物が微小であっても異物の混入によってスタンパと被転写物との間に隙間が生じる部分は異物よりも著しく大きいため、異物よりも著しく大きい光学的変化部分が観察されると考えられる。尚、スタンパと被転写物との間に空気が混入してスタンパと被転写物との間に隙間が生じる場合も同様の光学的変化部分が観察される。又、スタンパの凹凸パターンの微細な変形等によりスタンパと被転写物との間に隙間が生じる場合も同様の光学的変化部分が観察される。
【0013】
このように透光性及び可撓性を有し転写面において被転写物に接するスタンパを背面の側から観察し、光学的変化部分の有無を判別することにより異物や空気の混入、スタンパの凹凸パターンの微細な変形等の転写面の側の異常要素の有無を判別することができる。
【0014】
即ち、次のような本発明により、上記目的を達成することができる。
【0015】
(1)透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察することにより、前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別することを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【0016】
(2) (1)において、前記光学的変化部分は干渉縞が観察される部分であることを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【0017】
(3) (1)又は(2)に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含むことを特徴とする転写方法。
【0018】
(4) (1)又は(2)に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有することを特徴とする転写方法。
【0019】
(5)透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパと、前記スタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置及び前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置を有する検査装置と、を含むことを特徴とする転写システム。
【0020】
(6) (5)において、前記判別装置は、前記光学的変化部分として干渉縞の有無を判別することを特徴とする転写システム。
【0021】
(7) (5)又は(6)において、前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加するための外部磁場印加装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【0022】
(8) (5)又は(6)において、前記転写面が被前記転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するためのエネルギー線照射装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、微細な異物や変形等のスタンパの転写面の側の異常要素を短時間で容易に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転写システムの構造を模式的に示す側面図
【図2】同転写システムの検査装置で検査されるスタンパ及び被転写物を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図3】同転写システムを用いた転写方法の概要を示すフローチャート
【図4】同転写システムの検査装置で観察される光学的変化部分を模式的に示す平面図
【図5】本発明の第2実施形態に係る転写システムの構造を模式的に示す側面図
【図6】同転写システムの検査装置で検査されるスタンパ及び被転写物を拡大して模式的に示す断面図を含む側面図
【図7】同転写システムを用いた転写方法の概要を示すフローチャート
【図8】同転写システムの検査装置で観察される光学的変化部分を模式的に示す平面図
【図9】本発明の実施例に係る光学的変化部分が観察されたスタンパ及び被転写物の写真
【図10】図9の複数の光学的変化部分の1つを拡大して示す写真
【図11】図9の複数の光学的変化部分の他の1つを拡大して示す写真
【図12】図9の複数の光学的変化部分の他の1つを拡大して示す写真
【図13】図10に示される光学的変化部分で観察された異物を拡大して示す顕微鏡写真
【図14】図11に示される光学的変化部分で観察された異物を拡大して示す顕微鏡写真
【図15】図12に示される光学的変化部分で観察された異物を拡大して示す顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の第1実施形態は、図1に示されるような転写システム10に関する。転写システム10は、透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパ12A、12Bと、転写面が被転写物14に接するようにスタンパ12A、12Bを設置するための設置装置20と、検査装置30と、外部磁場印加装置40と、を備えている。
【0026】
スタンパ12A、12Bは円板形状である。図2に示されるように、スタンパ12A、12Bの転写面にはハードディスクのサーボパターンに対応する凹凸パターンが形成されている。スタンパ12A、12Bの厚さは例えば0.2〜10mmである。又、スタンパ12A、12Bの直径は例えば20〜200mmである。転写面の凹凸の段差は40〜120nmである。尚、図2では本第1実施形態の理解のためスタンパ12A、12Bの凹凸パターンを実際よりも著しく大きく描いている。後述する図6でも同様である。スタンパ12A、12Bは、凹凸パターンが形成された基板と基板の凹凸形状に倣って凹凸の面の上に形成された磁性膜(図示省略)とを有している。基板の材料はポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン等の透光性の樹脂である。磁性膜の材料は、CoPt合金、CoFe合金等である。尚、基板と磁性膜との間にPt等の下地膜を形成してもよい。磁性膜及び下地膜の合計の厚さは例えば5〜80nmであり、10〜40nmであることが好ましい。磁性膜及び下地膜の合計の厚さがこのような範囲であれば、スタンパ12A、12Bは充分な透光性を有する。又、磁性膜の上にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の保護膜及び/又はパーフルオロポリエーテルの潤滑膜を形成してもよい。
【0027】
被転写物14は連続膜の記録層を有するハードディスクであり実質的に剛体である。被転写物14は円板形状であり、被転写物14の直径はスタンパ12A、12Bの直径と同じくらい又はスタンパ12A、12Bの直径よりも小さい。被転写物14は基板を有し、更に基板の両面に対称的に形成された下地層、反強磁性層、軟磁性層、配向層、記録層、保護層、潤滑層等を有している。
【0028】
設置装置20は、テーブル22と保持器24とを有している。保持器24がスタンパ12B、被転写物14、スタンパ12Aをバキュームにより吸引して保持し、テーブル22の上に順次載置するようになっている。尚、テーブル22もバキュームによりスタンパ12Bを保持する構成としてもよい。
【0029】
検査装置30は、スタンパ12A、12Bが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12A、12Bを転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置32A、32Bと、転写面の側の異物(異常要素)16に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置34と、を有している。光学観察装置32A、32Bは、例えばCCDカメラ、CMOSセンサを利用したラインスキャンカメラ等である。尚、光学観察装置32Aがスタンパ12Aを観察し、光学観察装置32Bがスタンパ12Bを観察するように光学観察装置32A、32Bは対向して設置されている。判別装置34は、パーソナルコンピューター、マイクロコンピューター等のコンピューターであり、光学観察装置32A、32Bで得られるスタンパ12A、12B及び被転写物14の画像情報に基いて干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別するように構成されている。例えばスタンパ12A、12Bを介して観察される被転写物14の画像を多数の微小領域に分割して解析し、各微小領域の明るさや色を比較し、周囲の微小領域と明るさや色が著しく異なる微小領域の有無やそのような微小領域の分布を所定の基準と対比することにより、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別するように構成されたプログラム(ソフトウェア)を備えている。
【0030】
外部磁場印加装置40は、一対の電磁石42A、42Bを有している。一対の電磁石42A、42Bは、スタンパ12A、被転写物14、スタンパ12Bを挟むように配置され、スタンパ12A、12Bを介して被転写物14に垂直方向(被転写物14の表面に垂直な方向)の外部磁場を印加するようになっている。尚、図1では被転写物14の全面に同時に外部磁場を印加できるようになっているが、例えば外部磁場印加装置40は被転写物14の周方向の一部にのみ外部磁場を印加できる電磁石を備え、被転写物14又は電磁石が回転することにより被転写物14の全面に外部磁場を印加するようにしてもよい。又、外部磁場印加装置40は、電磁石に代えて永久磁石を用いる構成としてもよい。
【0031】
次に、図3のフローチャートに沿って転写システム10を用いた転写方法について説明する。
【0032】
まず、被転写物14に垂直方向の充分に大きい外部磁場を印加し被転写物14を初期化する(S102:初期化工程)。これにより被転写物14の記録層は全面において垂直方向の一方の向きに磁化される。尚、この工程では上記の外部磁場印加装置40を用いてもよいし、外部磁場印加装置40とは別の外部磁場印加装置を用いてもよい。
【0033】
次に、設置装置20により転写面が被転写物14に接するようにスタンパ12A、12Bを設置する(S104:設置工程)。具体的には、保持器24がスタンパ12B、被転写物14、スタンパ12Aをバキュームにより吸引して保持し、テーブル22の上に順次載置する。又、必要に応じてスタンパ12A、12Bが被転写物14を挟んだ状態でこれらを厚さ方向に加圧する。
【0034】
次に、検査装置30により光学的変化部分の有無を判別する(S106:検査工程)。具体的には、光学観察装置32A、32Bにより、スタンパ12A、12Bが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12A、12Bを転写面と反対側の背面の側から観察する。判別装置34は、光学観察装置32A、32Bで得られるスタンパ12A、12B及び被転写物14の画像情報に基いて光学的変化部分の有無を判別する。
【0035】
図2に示されるように例えばスタンパ12Aと被転写物14との間に微細な異物16が混入した場合、図4に示されるようにスタンパ12Aの背面の側に異物16よりも著しく大きく周囲と光学的に異なって見える光学的変化部分18が観察される。例えば、スタンパ12Aと被転写物14との間に数十〜数百μmの微細な異物16が混入した場合、スタンパ12Aの背面の側に、干渉縞が観察される数mm〜数十mmの光学的変化部分18が観察される。異物16の混入によって可撓性のスタンパ12Aが撓みスタンパ12Aと被転写物14との間に隙間が生じるため、このような光学的変化部分18が生じると考えられる。尚、スタンパ12Aの転写面の側にスタンパ12Aと被転写物14との間に隙間を生じさせるような、異物以外の他の異常要素が存在する場合も同様の光学的変化部分が観察される。例えば、スタンパ12Aと被転写物14との間に隙間を生じさせるようにこれらの間に空気が混入していたり、スタンパ12Aと被転写物14との間に隙間を生じさせるようにスタンパ12Aの転写面の凹凸パターンが変形している場合も、同様の光学的変化部分が観察される。スタンパ12Aと被転写物14との間に生じる隙間が僅かであっても、例えば、スタンパ12Aの背面からスタンパ12Aに入射してスタンパ12Aの転写面で反射されスタンパ12Aの背面から出射される光と、スタンパ12Aの背面からスタンパ12A及び隙間に入射して被転写物14の表面で反射されスタンパ12Aの背面から出射される光と、の干渉によって干渉縞のような光学的変化がもたらされると考えられる。又、異物16が微小であっても異物16の混入によってスタンパ12Aと被転写物14との間に隙間が生じる部分は異物よりも著しく大きいため、異物16よりも著しく大きい光学的変化部分18が生じると考えられる。尚、本第1実施形態の理解のため図4には異物16も描かれているが、実際には肉眼でも光学観察装置32A、32Bでも異物16の存在を捉えることは困難である。後述する図8についても同様である。
【0036】
一方、スタンパ12A、12Bの転写面の側に異物や空気の混入、転写面の凹凸パターンの変形のような異常要素が存在しない場合、干渉縞のような光学的変化は観察されない。
【0037】
判別装置34は、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別する。例えば、スタンパ12A、12Bを介して観察される被転写物14の画像を多数の微小領域に分割して解析し、各微小領域の明るさや色を比較し、周囲の微小領域と明るさや色が著しく異なる微小領域の有無やそのような微小領域の分布を所定の基準と対比することにより、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別する。尚、被転写物14の外周の輪郭線の内側の領域と外側の領域とは明るさや色が異なるが、この光学的な差異は光学的変化部分と判別されないようにプログラムを構成しておく。
【0038】
このように透光性及び可撓性を有するスタンパ12Aが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12Aを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、例えば異物16やスタンパ12Aの転写面の凹凸パターンの変形に起因した光学的変化部分が観察され、光学的変化部分18の有無に基いて転写面側の異物16等の異常要素の有無を判別することができる。
【0039】
検査工程(S106)において光学的変化部分18があると判別された場合、被転写物14及び光学的変化部分18が観察された側のスタンパ12Aは廃棄し、他の新たなスタンパ12A、被転写物14を用意して上記初期化工程(S102)、設置工程(S104)、検査工程(S106)を再度実行する。光学的変化部分18が観察されていない側のスタンパ12Bは再度利用する。尚、光学的変化部分18が観察されていない側のスタンパ12Bも廃棄し、新たなスタンパ12A、12B、被転写物14を用意して上記初期化工程(S102)、設置工程(S104)、検査工程(S106)を再度実行してもよい。
【0040】
一方、検査工程(S106)において光学的変化部分18がないと判別された場合は、外部磁場印加装置40により被転写物14に垂直方向(被転写物14の表面に垂直な方向)の外部磁場を印加する(S108:外部磁場印加工程)。具体的には、一対の電磁石42A、42Bにより、スタンパ12A、12Bを介して被転写物14に上記初期化工程(S102)の直流外部磁場の向きと逆の向きの垂直方向の外部磁場を印加する。被転写物14にはスタンパ12A、12Bの凸部を介して直流外部磁場が印加され、被転写物14の両面の記録層におけるスタンパ12A、12Bの凸部に接する部分が直流外部磁場の方向に磁化される。これにより被転写物14の両面の記録層にサーボ情報が記録される。尚、直流外部磁場の大きさが過大であると、記録層の全部が直流外部磁場の方向に磁化されうるので、直流磁場の大きさは被転写物14にスタンパ12A、12Bの凹凸パターンに倣ったサーボ情報を磁化転写できる大きさに制限する。
【0041】
これにより転写システム10を用いたサーボ情報の磁気転写が完了する。尚、被転写物14の両面のスタンパ12A、12Bは被転写物14から剥離する。以後同様に、所定の数の被転写物14への磁気転写が完了するまで転写システム10を用いた転写を繰り返す。被転写物14から剥離されたスタンパ12A、12Bは後続の被転写物14への磁気転写に繰り返し利用してもよい。又、被転写物14から剥離されたスタンパ12A、12Bは廃棄してもよい。又、所定の回数の磁気転写を行った後にスタンパ12A、12Bを廃棄してもよい。
【0042】
このように光学的変化部分18が観察された場合、その被転写物14や光学的変化部分18が観察された側のスタンパは廃棄され、光学的変化部分が観察されない(異物の混入等の異常要素が存在しない)スタンパ12A、12B及び被転写物14に対してのみ磁気転写が行われるので不正確なサーボ情報の磁気転写を防止できる。又、異常要素が異物である場合、異物との接触によりスタンパの転写面の凹凸パターンが変形しうるが、光学的変化部分が観察された側のスタンパは廃棄されるので、転写面の凹凸パターンが変形したスタンパによる後続の被転写物への不正確なサーボ情報の磁気転写も防止できる。
【0043】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前記第1実施形態に係る転写システム10は基板に加え更に基板の凹凸の面の上に形成された磁性膜等を有するスタンパ12A、12Bを備えているのに対し、本第2実施形態係る転写システム50は凹凸パターンが形成された基板のみで構成されたスタンパ52A、52Bを備えている。スタンパ52A、52Bの転写面にはハードディスクのサーボ領域のサーボ情報に対応する凹凸パターンに加え更にハードディスクのデータ領域のトラック又は記録ビットに対応する凹凸パターンも形成されている。
【0044】
又、前記第1実施形態に係る被転写物14は連続膜の記録層を有するハードディスクであるのに対し、本第2実施形態係る被転写物54はディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアの製造工程における中間体である。尚、ディスクリートトラックメディアは記録層のデータ領域の部分がトラックに相当する凹凸パターンで形成される。又、パターンドメディアは記録層のデータ領域の部分が記録ビットに相当する凹凸パターンで形成される。又、ディスクリートトラックメディアもパターンドメディアも記録層のサーボ領域の部分はサーボ情報に相当する凹凸パターンで形成される。被転写物54はこのような凹凸パターンに加工される前の連続膜の記録層を有している。又、被転写物54の記録層の上には保護層や潤滑層は形成されていない。一方、被転写物54の記録層の上には図6に示されるように紫外線等の所定のエネルギー線が照射されることにより硬化する性質を有する樹脂層54A、54Bが塗布されている。樹脂層54A、54Bの厚さは例えば30〜100nmである。尚、記録層(図示省略)と樹脂層54A、54Bとの間に1層又は2層以上の金属や酸化物、炭素等の硬質のマスク層が形成されていてもよい。
【0045】
前記第1実施形態ではスタンパ12A、12Bにより被転写物14の記録層にサーボ情報を磁気的に転写しているのに対し、本第2実施形態ではスタンパ52A、52Bにより被転写物54の樹脂層54A、54Bにディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアの記録層の凹凸パターンに対応する凹凸パターンを転写する。
【0046】
又、前記第1実施形態に係る転写システム10は外部磁場印加装置40を備えるのに対し、図5に示されるように本第2実施形態係る転写システム50は外部磁場印加装置40に代えてエネルギー線照射装置60を備えている。
【0047】
エネルギー線照射装置60は、一対のエネルギー線照射源62A、62Bを有している。一対のエネルギー線照射源62A、62Bは、スタンパ52A、被転写物54、スタンパ52Bを挟むように配置され、スタンパ52A、52Bを介して被転写物54に紫外線等のエネルギー線を照射するようになっている。
【0048】
他の構成については前記第1実施形態と同じ又は前記第1実施形態と類似しているので前記第1実施形態と同じ又は類似している構成要素については図1〜4と同一符号を付することとして説明を省略する。
【0049】
図7のフローチャートに沿って転写システム50を用いた転写方法について説明する。まず、前記第1実施形態の設置工程(S104)と同じ要領で設置装置20により転写面が被転写物54に接するようにスタンパ52A、52Bを設置する(S202:設置工程)。更に、スタンパ52A、52Bが被転写物54を挟んだ状態でスタンパ52A、52Bを加圧する。これにより被転写物54の樹脂層54A、54Bにスタンパ52A、52Bの凹凸パターンが転写される。尚、この時点で樹脂層54A、54Bはまだ流動性を有している。
【0050】
次に、前記第1実施形態の検査工程(S106)と同じ要領で検査装置30により光学的変化部分の有無を判別する(S204:検査工程)。図6に示されるように例えばスタンパ52Aと被転写物54との間に微細な異物16が混入した場合、前記第1実施形態と同様に図8に示されるようにスタンパ52Aの背面の側に異物16よりも著しく大きく周囲と光学的に異なって見える光学的変化部分18が観察される。尚、スタンパ52Aの転写面の側に空気の混入や転写面の凹凸パターンの変形等の、異物以外の他の異常要素が存在する場合も同様の光学的変化部分が観察される。
【0051】
一方、スタンパ52A、52Bの転写面の側に異物や空気の混入、転写面の凹凸パターンの変形のような異常要素が存在しない場合、干渉縞のような光学的変化は観察されない。
【0052】
判別装置34は、干渉縞等の光学的変化部分の有無を判別する。本第2実施形態でも透光性及び可撓性を有するスタンパ52Aが転写面において被転写物54に接するように設置された状態でスタンパ52Aを転写面と反対側の背面の側から観察することにより、例えば異物16やスタンパ52Aの転写面の凹凸パターンの変形に起因した光学的変化部分が観察され、光学的変化部分18の有無に基いて転写面側の異物16等の異常要素の有無を判別することができる。
【0053】
検査工程(S204)において光学的変化部分18があると判別された場合、スタンパ52A、52B及び被転写物54は廃棄し、他の新たなスタンパ52A、52B及び被転写物54を用意して上記設置工程(S202)、検査工程(S204)を再度実行する。
【0054】
一方、検査工程(S204)において光学的変化部分18がないと判別された場合は、エネルギー線照射装置60により被転写物54に紫外線等のエネルギー線を照射する(S206:エネルギー線照射工程)。具体的には、一対のエネルギー線照射源62A、62Bにより、スタンパ52A、52Bを介して被転写物54にエネルギー線を照射する。これにより被転写物54の樹脂層54A、54Bが硬化し、転写システム50を用いた転写が完了する。尚、被転写物54の両面のスタンパ52A、52Bは被転写物54から剥離する。以後同様に、所定の数の被転写物54への凹凸パターンの転写が完了するまで転写システム50を用いた転写を繰り返す。被転写物54から剥離されたスタンパ52A、52Bは後続の被転写物54への凹凸パターンの転写に用いてもよい。又、被転写物54から剥離されたスタンパ52A、52Bは廃棄してもよい。又、所定の回数の凹凸パターンの転写を行った後にスタンパ52A、52Bを廃棄してもよい。
【0055】
被転写物54の両面の記録層はその後凹凸パターンの樹脂層54A、54Bに基いてエッチングされ凹凸パターンの記録層が形成される。又、記録層と樹脂層54A、54Bとの間にマスク層が形成される場合、凹凸パターンの樹脂層54A、54Bに基いてマスク層がエッチングされて凹凸パターンのマスク層が形成され、凹凸パターンのマスク層に基いて記録層がエッチングされる。
【0056】
このように本第2実施形態でも光学的変化部分18が観察された場合、その被転写物54やスタンパ52A、52Bは廃棄されるので不正確な凹凸パターンの転写を防止できる。又、異常要素が異物である場合、異物との接触によりスタンパの転写面の凹凸パターンが変形しうるが、光学的変化部分が観察された場合、スタンパは廃棄されるので、転写面の凹凸パターンが変形したスタンパによる後続の被転写物への不正確な凹凸パターンの転写も防止できる。
【0057】
尚、異常要素が異物である場合、本第2実施形態のような樹脂層54A、54Bへの凹凸パターンの転写よりも、前記第1実施形態のような磁気転写の方が光学的変化部分が観察されやすい。本第2実施形態のように樹脂層54A、54Bに凹凸パターンの転写を行う場合は異物が混入しても異物の一部が被転写物54の表面の樹脂層54A、54Bに埋まることがあるが、前記第1実施形態のように磁気転写を行う場合は異物が被転写物14の表面に埋まるような事態は生じにくいので被転写物14とスタンパ12A又は12Bとの間に隙間が生じやすく、それだけ光学的変化部分が観察されやすいと考えられる。従って、本発明は、磁気転写用のスタンパの検査により適していると考えられる。
【0058】
尚、前記第2実施形態において、検査工程(S204)において光学的変化部分18があると判別された場合、スタンパ52A、52B及び被転写物54は廃棄され、これらに対してエネルギー線照射工程(S206)は実行されないが、光学的変化部分18があると判別されたスタンパ52A、52B及び被転写物54に対してもエネルギー線照射工程(S206)を実行し、樹脂層54A、54Bが硬化した後に被転写物54から剥離されるスタンパ52A、52Bのうち光学的変化部分18がないと判別された方のスタンパを後続の他の被転写物への凹凸パターンの転写のために利用してもよい。
【0059】
又、前記第1及び第2実施形態において、外部磁場印加工程(S108)又はエネルギー線照射工程(S206)の前に検査工程(S106、S204)を実行しているが、外部磁場印加工程又はエネルギー線照射工程の後に検査工程を実行してもよい。
【0060】
又、前記第1及び第2実施形態において、設置装置20と検査装置30とが別体であるが、設置装置20と検査装置30とが一体である構成としてもよい。例えば、透光性を有する材料で設置装置20のテーブル22及び保持器24を構成し、転写面において被転写物に接するように設置されたスタンパを背面の側からテーブル22及び保持器24を介して観察してもよい。
【0061】
又、前記第1及び第2実施形態において、検査装置30は被転写物14(54)の両面のスタンパ12A、12B(52A、52B)を同時に観察するように構成されているが、被転写物の片面のみを観察する検査装置を用いて、一方のスタンパを観察した後に他方のスタンパを観察してもよい。
【0062】
又、前記第1及び第2実施形態において、光学的変化部分として干渉縞が観察される部分が例示されているが、干渉縞が観察されていなくても例えば周囲の他の領域と色や明るさが異なる領域を光学的変化部分として判別してもよい。
【0063】
又、前記第1及び第2実施形態において、検査装置30により光学的変化部分の有無を自動的に検出しているが、例えば作業者が目視により光学的変化部分の有無を検出してもよい。
【0064】
又、前記第1及び第2実施形態において、被転写物14、54の両面に磁気転写又は凹凸パターンの転写を行っているが、被転写物の片面だけに磁気転写又は凹凸パターンの転写を行う場合にも本発明を適用可能である。
【0065】
又、前記第1及び第2実施形態において、ハードディスクの製造のための転写が示されているが、例えばハードディスク以外の磁気記録媒体や光記録媒体等の他の情報記録媒体の製造にも本発明は適用可能である。
【実施例】
【0066】
前記第1実施形態のとおりサーボ情報の磁気転写を行った。スタンパ12A、12Bの仕様は以下のとおりであった。
直径:68mm
基板の厚さ:0.4mm
基板の材料:ポリオレフィン樹脂
磁性膜の厚さ:10nm
磁性膜の材料:Co−Pt合金
【0067】
又、被転写物14の仕様は以下のとおりであった。
直径:64mm
基板の厚さ:0.6mm
基板の材料:ガラス
記録層の厚さ:20nm
記録層の材料:Co−Cr−Pt合金
保護層の厚さ:4nm
保護層の材料:DLC
潤滑層の厚さ:2nm
潤滑層の材料:パーフルオロポリエーテル
【0068】
尚、記録層と基板との間には下地層、軟磁性層、配向層が形成されていたが、これらの層の厚さ、材料は本実施例の理解のために重要とは思われないため説明を省略する。
【0069】
初期化工程(S102)では被転写物14に被転写物14の記録層の飽和磁場以上の外部磁場を印加した。設置工程(S104)では被転写物14にスタンパ12Aのみを設置した。検査工程(S106)では光学観察装置32AとしてCCDカメラを用いて被転写物14に設置されたスタンパ12Aの全体を視野範囲として一括して撮像した。撮像時間は1秒以下であった。尚、光学的変化部分の有無の判別は撮像結果より目視にて行った。外部磁場印加工程(S108)では被転写物14に被転写物14の記録層の保磁力と同等の外部磁場を印加した。
【0070】
以上の転写作業を複数の被転写物14に対して繰り返し行ったところ、そのうちの1つのサンプルに図9〜12に示されるような複数の干渉縞(光学的変化部分)が観察された。光学的変化部分の幅(円周方向の幅)は、図10に示される干渉縞では6.4mm程度、図11に示される干渉縞では9.6mm程度、図12に示される干渉縞では16.2mm程度であった。スタンパ12Aの背面における各光学的変化部分の中心付近をマーキングした後に、スタンパ12Aを被転写物14から剥離した。その後、スタンパ12Aの転写面におけるマーキングした部分に相当する部分のあたりを光学顕微鏡で観察したところパーティクル(異物)が観察された。図10に示される光学的変化部分の中心付近で観察された異物の光学顕微鏡写真を図13に、図11に示される光学的変化部分の中心付近で観察された異物の光学顕微鏡写真を図14に、図12に示される光学的変化部分の中心付近で観察された異物の光学顕微鏡写真を図15に、それぞれ示す。図13に示される異物の大きさは約70μm、図14に示される異物の大きさは約380μm、図15に示される異物の大きさは約260μmであった。このように、異物の大きさに対し数十倍に拡大された光学的変化部分が観察され、簡便な光学観察装置で短時間で容易に異物の存在を検出することができた。
【0071】
[比較例1]
前記実施例で干渉縞(光学的変化部分)が観察されたサンプルのスタンパ12Aを被転写物14から剥離した後、スタンパ12Aの転写面及び被転写物14の両面をCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像した。撮像された画像中に異物を見つけることはできなかった。
【0072】
[比較例2]
前記実施例に対し、設置工程(S104)の前にもスタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面をCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像した。その他は前記実施例と同じ条件で複数の被転写物14に対して転写作業を行った。実施例と同じようにそのうちの1つのサンプルに図9〜12に示されるような干渉縞と同じような干渉縞が観察された。更に、実施例と同じように干渉縞が観察された部分を光学顕微鏡で観察したところパーティクル(異物)が観察された。一方、このサンプルのスタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面を設置工程(S104)の前にCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像した画像中に異物を見つけることはできなかった。
【0073】
比較例1、2に示されるように、設置工程(S104)の前にCCDカメラ(光学観察装置32A)で撮像されたスタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面の画像中にも、検査工程(S106)後にCCDカメラで撮像された(剥離された)スタンパ12Aの転写面及び被転写物14の表面の画像中にも存在するはずの異物を見つけることができなかった。
【0074】
これに対し、透光性及び可撓性を有するスタンパ12Aが転写面において被転写物14に接するように設置された状態でスタンパ12Aを転写面と反対側の背面の側から観察した実施例では、微小な異物よりも著しく大きい(異物に起因する)光学的変化部分が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば、ハードディスク等の情報記録媒体の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
10、50…転写システム
12A、12B、52A、52B…スタンパ
14、54…被転写物
16…異物(異常要素)
20…設置装置
30…検査装置
32A、32B…光学観察装置
34…判別装置
40…外部磁場印加装置
60…エネルギー線照射装置
S102…初期化工程
S104、S202…設置工程
S106、S204…検査工程
S108…外部磁場印加工程
S206…エネルギー線照射工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察することにより、前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別することを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学的変化部分は干渉縞が観察される部分であることを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含むことを特徴とする転写方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有することを特徴とする転写方法。
【請求項5】
透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパと、前記スタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置及び前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置を有する検査装置と、を含むことを特徴とする転写システム。
【請求項6】
請求項5において、
前記判別装置は、前記光学的変化部分として干渉縞の有無を判別することを特徴とする転写システム。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加するための外部磁場印加装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【請求項8】
請求項5又は6において、
前記転写面が被前記転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するためのエネルギー線照射装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【請求項1】
透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察することにより、前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別することを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学的変化部分は干渉縞が観察される部分であることを特徴とするスタンパによる転写の検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加する外部磁場印加工程と、を含むことを特徴とする転写方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のスタンパによる転写の検査方法を実行する検査工程と、前記検査工程の前に前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置する設置工程と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するエネルギー線照射工程と、を有することを特徴とする転写方法。
【請求項5】
透光性及び可撓性を有し片面が転写面であるスタンパと、前記スタンパが前記転写面において被転写物に接するように設置された状態で前記スタンパを前記転写面と反対側の背面の側から観察するための光学観察装置及び前記転写面の側の異常要素に起因して生じる光学的変化部分の有無を判別するための判別装置を有する検査装置と、を含むことを特徴とする転写システム。
【請求項6】
請求項5において、
前記判別装置は、前記光学的変化部分として干渉縞の有無を判別することを特徴とする転写システム。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記転写面が前記被転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物に外部磁場を印加するための外部磁場印加装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【請求項8】
請求項5又は6において、
前記転写面が被前記転写物に接するように前記スタンパを設置するための設置装置と、前記スタンパを介して前記被転写物にエネルギー線を照射するためのエネルギー線照射装置と、を更に含むことを特徴とする転写システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−146348(P2012−146348A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1455(P2011−1455)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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