説明

スタンプによる柄の定着方法及びこれに用いる噴霧剤並びにスタンプ及び噴霧剤

【課題】 簡素な工程で効果的に柄を定着させることの可能なスタンプによる柄の定着方法及びこれに用いる噴霧剤並びにスタンプ及び噴霧剤を提供すること。
【解決手段】 多孔質でインク101を含有すると共に柄を備えた弾性体2を有するスタンプ1を用いて布地100へスタンプ柄102を転写する。スタンプ柄102の布地100への転写後に、布地100へ浸透する顔料固着用樹脂液をスタンプ柄102の転写面からスタンプ柄102上へ噴霧する。固化させることによりスタンプ柄102を布地100へ定着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンプによる柄の定着方法及びこれに用いる噴霧剤並びにスタンプ及び噴霧剤に関する。さらに詳しくは、多孔質でインクを含有すると共に柄を備えた弾性体を有するスタンプを用いて布地へスタンプ柄を転写するスタンプによるスタンプ柄の定着方法及びこれに用いる噴霧剤並びにスタンプ及び噴霧剤に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の如き多孔質インク含有スタンプを用いて布地に捺印を行えば、被服に所有者等を記入することが可能である。この種のスタンプによる捺印は、洗濯によっても退色しないことが求められる。衣類にはのり付けが行われることもあり、この種の洗濯のりを噴霧することによる退色防止も試みられた。しかし、洗濯のり自身が洗濯で洗い落とされるため、当然のことながら有効な退色対策とはなっていない。
【0003】
また、衣類に柄を転写する方法として、次の特許文献1の技術が知られている。
【特許文献1】特表平9−512595号
【0004】
同文献によれば、レーザーコピーされたコピー紙上にトナーを吸収する織物用定着基剤を噴霧し、織物の上に載置してアイロンによる転写が行われるが、作業が繁雑である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、簡素な工程で効果的に柄を定着させることの可能なスタンプによる柄の定着方法及びこれに用いる噴霧剤並びにスタンプ及び噴霧剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るスタンプによる柄の定着方法の特徴は、多孔質でインクを含有すると共に柄を備えた弾性体を有するスタンプを用いて布地へスタンプ柄を転写する方法であって、前記スタンプ柄の布地への転写後に、布地へ浸透する顔料固着用樹脂液をスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧し、固化させることにより前記スタンプ柄を布地へ定着させることにある。
【0007】
通常、衣類への柄の印刷は、布地へ浸透する顔料固着用樹脂液よりなるメジウムに対し顔料や染料を分散させたインクを作成し、これをシルク印刷等により布地へ転写させる。したがって、極自然な発想によれば、同メジウムを用いたインクを前記多孔質の弾性体に含有させたスタンプを用いることとなる。しかし、この方法ではメジウムが固化してスタンプが目詰まりを起こし、複数回の使用に耐えることができない。また、通常は印刷メジウム等は噴霧するものではない。
【0008】
発明者らの実験によれば、顔料固着用樹脂液をスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧すると、上記スタンプに含有させたインク上から布地に浸透し、このインクを布地に定着させることが判明した。後述の実験により、耐退色性が非常に優れている旨が確認されている。しかも、全工程は捺印と噴霧とよりなる極めて簡素なものである。
【0009】
前記顔料固着用樹脂液としては水系ポリマーや顔料固着用樹脂を水で希釈したものが好適に用いられる。さらに、これらとしては、アクリルエマルジョンが好適に用いられる。
【0010】
前記インクとしては油性インクが好適に用いられる。油性インクは洗濯時の耐退色性が強く、特に水系の顔料固着用樹脂液を噴霧した場合にも、スタンプ柄のにみじを防止することができる。
【0011】
一方、上記いずれかに記載のスタンプによる柄の定着方法に用いる噴霧剤の特徴は、布地へ浸透する顔料固着用樹脂液を含有し、前記スタンプ柄の布地への転写後にスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧され、固化させることにより前記スタンプ柄を布地へ定着させることにある。
【0012】
また、本発明に係るスタンプによる柄の定着方法に用いるスタンプ及び噴霧剤の特徴は、多孔質で油性インクを含有すると共に柄を備えた弾性体を有するスタンプを用いて布地へスタンプ柄を転写するスタンプと、布地へ浸透する水系ポリマーよりなる顔料固着用樹脂液を含有し、前記スタンプ柄の布地への転写後にスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧され、固化させることにより前記スタンプ柄を布地へ定着させる噴霧剤とをよりなることにある。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明に係るスタンプによる柄の定着方法及びこれに用いる噴霧剤並びにスタンプ及び噴霧剤の特徴によれば、簡素な工程で効果的にスタンプ柄を布地に定着させることが可能となった。
【0014】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に係るスタンプによる柄の定着方法には、図1,2に示すスタンプ1及びスプレー5が用いられる。
【0016】
スタンプ1は、図1(a)に示すように、インク101を吸収させた弾性体2及びフレーム3よりなる。弾性体2は多孔質材料より形成され、下面には柄面2aが形成されている。柄面2aは、例えば、図1(b)に示す如きスタンプ柄102となるよう形成されている。なお、柄面2aは、スタンプ柄102の形態に限られず、文字、図形、模様等又はそれらの組み合わせにより適宜形成すればよい。
【0017】
弾性体2に使用する多孔質材料は、スタンプ1の押圧によりインク101を流出させるものであればよく、例えば、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム系材料や塩化ビニル、ポリプロピレン等の合成樹脂材料よりなる。顔料固着用樹脂液(メジウム)をインク101に配合せずに、別途スタンプ柄102上に噴霧させることで弾性体2の目づまりを防止し、スタンプ1を永続的に使用することができる。
【0018】
スプレー5は、図2(a)に示すように、内部に充填された噴霧剤105及びその噴霧剤105を霧106として噴霧するノズル6よりなる。スプレー5より噴霧された霧106はスタンプ柄102を覆うように噴霧部107を形成する。この噴霧部107は噴霧剤105に含まれる顔料固着用樹脂液がスタンプ柄102を覆うように布地100に浸透すると共にインク102と一体化し、乾燥して固化する。
【0019】
弾性体2に吸収されたインク101は油性インクであり、適宜有機溶剤、着色剤、浸透剤、乾燥防止剤等が適宜配合されている。着色剤には、顔料又は染料を用いることができる。しかし、染料は水・溶剤に溶ける性質を有するため、噴霧部107にてスタンプ柄105が滲むおそれがある。よって、顔料を着色剤として使用することが好適である。顔料には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料又はアゾ系顔料、縮合ポリアゾ系顔料等の有機顔料を用いる。
【0020】
噴霧剤105は、水性ポリマー又は顔料固着用樹脂を水で希釈させ界面活性剤(乳化剤)により乳化させたエマルションである。顔料固着用樹脂液にはアクリル樹脂を用いることが好適である。具体的にはアクリル酸系共重合体が挙げられる。例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸エチル等のアクリル酸エステルを含む共重合体である。アクリル樹脂は、乾燥すると樹脂被膜を形成して水に溶けにくくなり、また布地に強固に定着し、さらに、熱を加えることで架橋反応が進行しより強固にする定着する。
【0021】
次にスタンプ1及びスプレー5を用いた布地100への定着について説明する。
スタンプ1を布地100上に載置して捺印する。捺印の押圧により弾性体2に吸収されていたインク101が流出し、スタンプ柄105が布地100に転写される。次に、布地100に転写されたスタンプ柄102を覆うように噴霧剤105を噴霧して、噴霧部107を形成させる。噴霧後、噴霧部107を2、3時間放置して自然乾燥させて布地100に定着させる。また、ドライヤーやアイロン等により加熱乾燥させてもよく、係る場合、アクリル樹脂の架橋反応により、より強固に噴霧部107を布地100に定着させることができる。これにより、布地100のスタンプ柄102は噴霧部107により保護され、洗濯等によっても落ちることはない。また、油性インクを用いているので、スタンプ柄105が滲むこともない。なお、布地100は天然繊維、化学繊維、合成繊維のいずれであってもよい。
【実施例】
【0022】
下記インクを布地に捺印して転写させたスタンプ柄上に下記噴霧剤を噴霧すると共にヘアドライヤーにて160℃で乾燥させたものについて下記のJIS試験を行った。
・インク組成
不溶性モノアゾ赤色顔料 7.5%
アクリル樹脂 3.5%
ポリオキシアルキレン系溶剤 89%
・噴霧剤組成
アクリル酸エステル共重合体、界面活性剤、水のエマルション
固形分38.5±1% PH=6±1
1.洗濯堅牢度 JIS−L−0844 A−2号
2.水堅牢度 JIS−L−0846
3.摩擦堅牢度 JIS−L−0849 II型 乾燥、湿潤
4.色泣き 0.05%非イオン界面活性剤
5.ドライクリーニング堅牢度 JIS−L−0860 パークロルエチレンA法
【0023】
図3〜5に示すように、上記各試験において、噴霧剤により形成される噴霧部が固化し強固に布地に定着し、洗濯等からスタンプ柄を保護していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、衣類等の布地への柄付与とその定着を行うために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は本発明に係るスタンプの断面図、(b)はその捺印後の布地の平面図である。
【図2】(a)は本発明に係る噴霧時の断面図、(b)はその噴霧後の布地の平面図である。
【図3】試験証明書及びサンプルを示す図である。
【図4】染色堅ろう度試験結果である。
【図5】染色堅ろう度試験結果である。
【符号の説明】
【0026】
1:スタンプ、2:弾性体、2a:柄面、3:フレーム、5:スプレー、6:ノズル、100:布地、101:インク、102:スタンプ柄、105:噴霧剤、106:霧、107:噴霧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質でインクを含有すると共に柄を備えた弾性体を有するスタンプを用いて布地へスタンプ柄を転写するスタンプによる柄の定着方法であって、前記スタンプ柄の布地への転写後に、布地へ浸透する顔料固着用樹脂液をスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧し、固化させることにより前記スタンプ柄を布地へ定着させることを特徴とするスタンプによる柄の定着方法。
【請求項2】
前記顔料固着用樹脂液が水系ポリマーであることを特徴とする請求項1記載のスタンプによる柄の定着方法。
【請求項3】
前記顔料固着用樹脂液が顔料固着用樹脂を水で希釈したものであることを特徴とする請求項1記載のスタンプによる柄の定着方法。
【請求項4】
前記顔料固着用樹脂液がアクリルエマルジョンであることを特徴とする請求項2又は3のいずれかに記載のスタンプによる柄の定着方法。
【請求項5】
前記インクが油性インクであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスタンプによる柄の定着方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のスタンプによる柄の定着方法に用いる噴霧剤であって、布地へ浸透する顔料固着用樹脂液を含有し、前記スタンプ柄の布地への転写後にスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧され、固化させることにより前記スタンプ柄を布地へ定着させることを特徴とする噴霧剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のスタンプによる柄の定着方法に用いるスタンプ及び噴霧剤であって、多孔質で油性インクを含有すると共に柄を備えた弾性体を有するスタンプを用いて布地へスタンプ柄を転写するスタンプと、布地へ浸透する水系ポリマーよりなる顔料固着用樹脂液を含有し、前記スタンプ柄の布地への転写後にスタンプ柄の転写面から前記スタンプ柄上へ噴霧され、固化させることにより前記スタンプ柄を布地へ定着させる噴霧剤とをよりなることを特徴とするスタンプ及び噴霧剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−107113(P2007−107113A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296927(P2005−296927)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(505344432)
【Fターム(参考)】