説明

スチレンポリマーおよびその製品用の結合層接着剤組成物

スチレンポリマー樹脂用の結合層接着剤を提供する。多層フィルムおよびシート構造物での使用に適した接着剤組成物は、エチレン−ブテン−1LLDPE樹脂、スチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマー、グラフト改質ポリエチレンおよび所望により用いられるエチレン−プロピレンエラストマーを含むブレンドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された結合層接着剤ブレンド組成物、ならびに1以上のスチレンポリマー層を有する共押し出し多層フィルムおよびシートのためのその使用に関する。改良された接着剤組成物は、特定のエチレンコポリマーおよび特定のスチレントリブロックコポリマーを、官能化ポリエチレンおよび所望により用いられるエチレン−プロピレンゴムとブレンドしたものである。
【背景技術】
【0002】
多層フィルムおよびシートは食品包装用に広く用いられている。目的とする最終用途に応じて、樹脂層の数や配置および使用する樹脂の種類は変わる。
【0003】
その食品との接触および密封特性のため、ポリエチレン(PE)樹脂が、その層の1つとしてしばしば含まれる。エチレン−ビニルアルコール(EVOH)コポリマーおよびポリアミド(ナイロン)は、酸素や香味のバリア層として広く用いられる。スチレンポリマーは一般に構造的な層として含まれる。耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などのゴムを含むスチレンポリマーはこの目的に特に有用である。
【0004】
多層構造物の中で異なる樹脂層をどのようにして接着させるかということが、工業界で依然として課題である。改質された、すなわち官能化されたポリオレフィンを含む多くの結合層接着剤組成物は、ポリオレフィンやバリア樹脂に効果的に接着されることが知られているが、スチレン樹脂への接着は解決されていない。
【0005】
したがって、多層構造物に用いられる他の種類のポリマーへの接着性を犠牲にすることなくスチレンポリマーへ良好に接着する接着剤ブレンドが入手できれば非常に有利である。本発明の接着剤ブレンド組成物により上記および他の利点が得られる。
【0006】
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、接着剤ブレンドの配合のための様々な官能化および非官能化成分を有するベース樹脂として広く用いられている。例えば、米国特許第4,087,588号、同第4,139,485号、同第4,426,498号、同第4,440,911号、同第4,460,646号、同第4,460,745号、同第4,472,555号、同第4,487,885号、同第4,684,576号、同第4,906,690号、同第4,966,810号、同第5,066,542号、同第5,277,988号および同第5,434,217号を参照されたい。
【0007】
様々なスチレン成分を含む接着剤配合物も多く知られている。接着剤ブレンドに使用するためのエチレン性不飽和カルボン酸誘導体、好ましくは無水マレイン酸でグラフト化されたスチレン−エチレン/ブテン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマーが米国特許第5,597,865号に開示されている。グラフト化「ABA」型ブロックコポリマー(Aはポリスチレンであり、Bはブタジエンまたはイソプレンのポリマーであってよい)を含む接着剤ブレンドが米国特許第5,070,143号に開示されている。ポリスチレン末端ブロック、および脂肪族中間ブロックを有するグラフト重合ブロックコポリマーを含む接着剤ブレンドも米国特許第5,070,143号に開示されている。
【0008】
未改質のスチレンホモポリマーおよびコポリマー、ならびにスチレン−エラストマーブロックコポリマーは、接着剤ブレンドの有用な成分であることが米国特許第5,225,482に開示されている。
【0009】
米国特許第4,861,676号は、ポリスチレンおよび耐衝撃性改質ポリスチレンを、グラフト化エチレンコポリマーおよび非グラフト化エチレンコポリマー、ならびに飽和脂環式の炭化水素樹脂改質剤と共に用いることを開示している。この文献には、ポリマー中のスチレンの量が少な過ぎることがなければ、スチレン−ブタジエントリブロックコポリマーも用いることができることも開示されている。80〜90%のスチレンを有するポリマーが適しているが、約30%のコポリマーでは適切ではないとしている。
【0010】
米国特許第5,709,953号は、35〜65重量%のエチレンポリマー画分と35〜65重量%のスチレン/脂肪族/スチレントリブロックエラストマー画分を含む接着剤組成物を開示している。この文献は、エチレンポリマー画分のすべてまたは一部が、不飽和カルボン酸または無水物でグラフト化されていてよいことを開示している。比較的低い密度を有するエチレンポリマー画分が望ましい1つの実施形態として、この文献では、相当な量の無水マレイン酸(MAH)でグラフト化された比較的少量の高密度ポリエチレン(HDPE)と、比較的多量のLLDPEを混合することを提案している。
【0011】
上記文献は、エチレンポリマー、スチレントリブロックエラストマーおよび無水マレイン酸グラフトを含む、スチレンポリマー用の接着剤ブレンドを全般的に開示しているが、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)トリブロックエラストマーが好ましいと指摘している。特にそのエチレンポリマーがLLDPEである場合、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)トリブロックポリマーを用いて配合された米国特許第5,709,953号に開示のタイプの接着剤ブレンドではそれと合致しない結果が観察されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
1以上のスチレン層を含む共押し出し多層フィルムおよびシートにおける、スチレンポリマー層への改良された接着性を提供する接着剤組成物が依然として必要である。スチレンポリマーへの優れた接着性を備えたLLDPEおよびSISから誘導された接着剤ブレンドが得られればさらに有利である。上記および他の目的は、特定のLLDPEおよびSIS成分を、官能化エチレンポリマーと一緒に用いて予想外に高い接着性を具現化する本発明の接着剤ブレンドによって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、結合層接着剤ブレンド組成物に関する。より具体的には、本発明は、スチレンポリマーへの改良された接着性を有する結合層接着剤に関する。本発明の改良された組成物は、組成物の全重量に対して35〜75重量%のエチレン−ブテン−1直鎖状低密度コポリマー、35重量%を超えるスチレン含量、25g/10分を超えるメルトフローレートを有し、ジブロックを1重量%未満で含む、全重量に対して15〜45重量%のスチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマー、および全重量に対して1〜25重量%のエチレン性不飽和カルボン酸若しくは酸誘導体でグラフト化されたポリエチレンを含む。
【0014】
特に有用な本発明の接着剤ブレンド組成物は、エチレン−ブテン−1コポリマーが0.916〜0.919g/cm3の密度を有し、かつ全重量に対して45〜65重量%の量で存在し、スチレン−イソプレンスチレントリブロックコポリマーが40重量%を超えるスチレン含量および30g/10分を超えるメルトフローレートを有し、かつ全重量に対して20〜40重量%の量で存在し、グラフト化ポリエチレンが0.5〜5重量%の無水マレイン酸でグラフト化されており、かつ全重量に対して5〜17.5重量%の量で存在するものである。接着剤ブレンドはまた、1〜20重量%、最も好ましくは5〜15重量%のエチレン−プロピレンエラストマーを有利に含むこともできる。エチレン−プロピレンゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエンゴムは特に有用な任意選択の成分である。
【0015】
スチレンポリマー層、およびそれに接着結合された結合層を含む共押し出し多層フィルムおよびシートも開示する。スチレンポリマー層は、好ましくはポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ならびにポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレンの混合物である。多層のフィルムおよびシートは追加の層、例えばポリオレフィンおよびエチレン−ビニルアルコールコポリマーの層をさらに含むことができる。ただし、上記結合層はスチレンポリマー層と追加の層の間に配置されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1以上のスチレンポリマー層を含む多層構造物のための結合層としての使用に適した、改良された接着剤ブレンドを提供する。一般的な用語では、接着剤ブレンド組成物は、エチレンコポリマー成分、スチレントリブロックコポリマー成分およびグラフト改質ポリエチレン成分を含む。
【0017】
エチレンコポリマー成分およびスチレントリブロックコポリマー成分を慎重に選択することによって、予想外にも、スチレンポリマー基材への接着性の著しくかつ予想外の改善が得られることをここに見出した。より具体的には、本発明は、以下により詳細に説明する特定のLLDPEコポリマーおよび特定のスチレン−イソプレン−スチレン(SIS)トリブロックコポリマーと、グラフト改質エチレンポリマーの組合せの使用を含む。
【0018】
本明細書でベース樹脂とも称するLLDPE成分は、35〜75重量%の接着剤ブレンド組成物を含む。より好ましくは、LLDPEは接着剤ブレンドの40〜70重量%を構成し、本発明の特に有利な実施形態では、LLDPEベース樹脂は45〜65重量%存在する。接着剤ブレンド成分について本明細書で示すすべての重量%は、組成物の全重量に対するものである。
【0019】
本発明で用いるLLDPE樹脂は、従来の重合技術を用いて得られるエチレンとブテン−1のコポリマーである。コモノマー、すなわちブテン−1の含量は2.5〜18重量%である。エチレン−ブテン−1コポリマーは0.912〜0.925g/cm3、より好ましくは0.915〜0.92g/cm3の密度を有する。メルトインデックス(MI)は0.5〜15g/10分、より好ましくは1〜10g/10分である。本発明の特に有利な実施形態では、エチレン−ブテン−1コポリマーは1.5〜5g/10分のMIと0.916〜0.919g/cm3の密度を有する。LLDPEおよびグラフト改質エチレンポリマー成分について本明細書で示す密度とMIは、それぞれ、ASTM試験手順1505および1238(条項190/2.16)に従って測定される。
【0020】
スチレン系ポリマーに対して著しく優れた接着性を示す接着剤ブレンドを得るためには、上記のエチレン−ブテン−1LLDPEコポリマーと合わせて、特定のSISトリブロックコポリマーが含まれることが必要である。具体的には、高いメルトフローレート(MFR)を有する高スチレン含量/高トリブロック含量のSISコポリマーを用いる。
【0021】
本発明に用いるSISコポリマーは35重量%を超える、より好ましくは40重量%を超えるスチレン含量を有する。さらに本発明に有用なSISコポリマーはジブロックを1重量%未満で含む。SISコポリマーが、25g/10分を超える、より好ましくは30g/10分を超えるMFRを有することがさらなる要件である。SISトリブロックコポリマーのMFRはASTM 1238(条項200/5)によって測定する。
【0022】
SISトリブロックコポリマーは、接着剤ブレンド組成物の15〜45重量%、より好ましくは20〜40重量%を構成する。特に有利な接着剤ブレンドは、35重量%未満、最も好ましくは20〜34.5重量%のSIS成分を用いて得られる。
【0023】
上記範囲内のスチレン含量、トリブロック含量およびMFRを有するSISコポリマーを、エチレン−ブテン−1LLDPEコポリマーおよび官能化ポリオレフィン、好ましくは無水マレイン酸グラフト化PE樹脂と共に用いると、スチレン系ポリマーへの接着性を、他のLLDPEコポリマーおよび/または他のSISトリブロックコポリマーを用いて同様に調製した接着剤ブレンド配合物を用いて得られる接着性の最大で10倍とすることができる。
【0024】
本発明の改良された接着剤ブレンドを得るために上記のLLDPEおよびSIS成分とブレンドされる官能化ポリオレフィンは、ポリエチレン樹脂、より具体的にはエチレン性不飽和カルボン酸若しくは酸誘導体でグラフト化されたエチレンホモポリマーおよびコポリマーである。接着剤ブレンドの調製のために2つ以上の改変エチレンポリマーの混合物を用いることができる。メタロセン重合法やシングルサイト重合法を含む既知の重合法を用いて得られる、エチレンとC48α−オレフィン、特にブテン−1、ヘキセン−1またはオクテン−1とのコポリマーで無水マレイン酸(MAH)でグラフト化されたものが最も一般に用いられる。
【0025】
グラフト化は周知の手順に従って、溶媒を用いるかまたは用いないで、一般にポリエチレンとグラフトモノマーの混合物を加熱することによって実施される。より一般的には、グラフト化生成物は、せん断付与型押出機/反応器中で、溶媒が実質的に存在しない条件下で、ポリエチレンをグラフト化モノマーと溶融ブレンドすることによって調製される。ZSK−53、ZSK−83、ZSK−90およびZSK−92の型番でコペリオン(旧ワーナープフライデラー)から販売されているものなどの2軸型押出機は、グラフト化の操作を行うのに特に有用である。有機過酸化物などのフリーラジカル生成触媒を用いることができるが、これは必須ではない。
【0026】
グラフト化モノマーとして用いられるカルボン酸およびカルボン酸誘導体としては、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、4−メチルシクロヘキサ−4−エン−1,2−ジカルボン酸または無水物、ビシクロ(2.2.2)オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸または無水物、ビシクロ(2.2.1)ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸または無水物、テトラヒドロフタル酸または無水物、メチルビシクロ(2.2.1)ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸または無水物などの化合物が挙げられる。ポリエチレンにグラフト化させるのに用いられる酸および酸無水物誘導体としては、マレインジアルキル、フマル酸ジアルキル、イタコン酸ジアルキル、メサコン酸ジアルキル、シトラコン酸ジアルキル、クロトン酸アルキルなどが挙げられる。2つ以上のグラフト化モノマーを用いて改変ポリオレフィン生成物の物理特性を変えることも望ましい。MAHは特に有用なグラフト化モノマーである。
【0027】
改良された接着剤ブレンド組成物を得るために、0.905〜0.965g/cm3の密度を有し、0.5〜5重量%のMAHでグラフト化されたエチレンホモポリマーおよびエチレン−α−オレフィンコポリマーから誘導された改変PEを、LLDPEおよびSIS成分と一緒に用いることが最も有利である。特に有用な1つの実施形態では、グラフト化エチレンポリマーは約0.945〜0.965g/cm3の密度を有するHDPE樹脂である。他の特に有用な実施形態では、グラフト化エチレンコポリマーは約0.910〜0.930g/cm3の密度を有するLLDPE樹脂である。グラフト化されるLLDPEはベース樹脂と同じであってよい。特に有用な接着剤ブレンドは、0.75〜2.5重量%の無水マレイン酸でグラフト化されたHDPEおよびLLDPE樹脂を用いて得られる。グラフト化HDPEまたはLLDPE成分のMIは概ね約0.5〜約20g/10分の範囲である。
【0028】
グラフト改質PE成分は接着剤ブレンドの1〜約25重量%を構成する。グラフト改質PEは、接着剤ブレンドの2.5〜20重量%を構成する量で存在することがより好ましい。特に有用な実施形態では、グラフト化成分はブレンドの5〜17.5重量%を構成し、それは無水マレイン酸グラフト化HDPEまたはLLDPEである。
【0029】
結合される具体的な樹脂に応じて、接着剤ブレンド中にエチレン−プロピレンエラストマー成分を含むことが有利である。このためには、エチレン−プロピレンゴム(EPR)および/またはエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)が特に有利である。これらのエラストマーは一般に50重量%を超えるエチレンを含む。60重量%以上のエチレンを含むEPRまたはEPDMが特に有利である。このタイプのエラストマー生成物は、当業界で知られている従来の重合方法によって得られ、いわゆるメタロセンゴムを含む。商業的供給ソースから得られる上記のタイプのエラストマーの例には、ブナEPT2070(22ムーニーML(1+4)125℃、69%エチレン)、ブナEPT2370(16ムーニー、3%エチレンノルボルネン、72%エチレン)、ブナ2460(21ムーニー、4%エチレンノルボルネン、62%エチレン)、ケルタンEPDM DE244(ムーニー55、71%エチレン、0.2%エチレンノルボルネン)およびノーデルIP3720P(20ムーニー;69%エチレン;0.5%エチレンノルボルネン)が含まれる。
【0030】
ブレンド中に含める場合、エラストマー成分は接着剤組成物の1〜20重量%を構成することができる。EPRおよびEPDMは3〜18重量%の量で用いることが好ましく、最も好ましくは5〜15重量%である。
【0031】
1種以上の安定化添加剤も、一般に、全組成物に対して約250〜5000ppm、より好ましくは500〜3000ppmのレベルでブレンド中に含まれる。酸素、熱および光の悪影響に対してポリオレフィンを安定化させるために一般に用いられる慣用の添加剤または添加剤パッケージ(例えばヒンダードフェノール)のどれも用いることができる。
【0032】
本発明の接着剤ブレンドは、LLDPE、SISトリブロックコポリマーおよび官能化成分、および任意選択の成分または添加剤を、慣用的な任意の手段で物理的に混合し、溶融ブレンドすることによって得られる。バンバリーミキサーまたは押出機を用いた溶融ブレンドが特に好ましい。
【0033】
本発明の接着剤ブレンド組成物は、好都合な任意の手段、特に共押し出しによって接着剤の層を1以上の基材層に施用する複合構造物、例えばフィルムやシートを製造するのに有用である。特に興味のある多層複合材には、ホモポリマーおよびコポリマーを含む広範囲のスチレンポリマーのいずれかと合わせて、ポリエチレンなどのポリオレフィン、EVOHなどの極性基材およびポリアミドの層を含むものが含まれる。スチレンポリマーには、エラストマーを含有させて改変させることができる。多層の積層構造物の構造層としてのその有用性のため、耐衝撃性改質ポリスチレンは特に興味のあるものである。
【0034】
本発明の接着剤ブレンドは多層積層物共押し出しのための接着剤として特に有用である。そのスチレン層は耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)またはHIPSとポリスチレンのブレンドであり、そのHIPSは最大で約30重量%、より一般的には約10〜約15重量%エラストマーを含む。HIPS樹脂のための耐衝撃性改良剤として用いるのに適したエラストマーとしては、天然ゴム、およびスチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴムが挙げられる。耐衝撃性ポリスチレン樹脂組成物においては、エラストマーは、スチレンポリマー中に分散相として存在する。
【0035】
本発明の接着剤ブレンドは、様々な条件下で、非極性ポリオレフィン、極性ポリマーおよびスチレン系基材への優れた接着性を示す。さらに、得られる複合構造物は簡単に形成され、熱成形後、これを容易にダイカットすることができる。上記タイプの複合構造物、特にポリオレフィン/接着剤/EVOH/接着剤/スチレン樹脂構造のものは、冷蔵庫内張りの製造や、熱成形コップ、柔軟性シート、キャストフィルムまたはブローフィルム、キャストシートなどの食品包装に有用である。
【0036】
特に有利な構造物は、ポリオレフィンがHDPE、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、LLDPEおよびその混合物などのPEであり、スチレン樹脂がポリスチレン、HIPSまたはポリスチレンとHIPSの混合物である構造物である。上記に指定したLLDPE、SISおよびグラフト改質ポリエチレン成分を混合し、溶融ブレンドして配合した本発明の接着剤組成物を用いると、スチレンポリマー界面での接着性を著しく増大させることが可能である。改良されたこのスチレンポリマーへの接着性は、ポリオレフィンおよびバリア樹脂層などの構造物を含む他のポリマー基材の接着性を犠牲にすることなく達成される。
【実施例】
【0037】
以下の実施例により本発明を説明するが、当業者は本発明の技術的思想および特許請求の範囲の技術範囲内での多くの変更形態を理解されよう。
【0038】
実施例において調製し使用した結合層接着剤ブレンド組成物は、使用する前にペレット化したものであった。これは、すべての成分をドライブレンドし、次いでストランドカッターに連結した多孔型ダイ(直径1/8インチ)を備えたワーナープフライデラーZSK−30型の2軸押出機の中でその混合物を溶融ブレンドすることによって実施した。押出機スクリュー速度は250rpmであった。押出機内の温度は180℃〜200℃の範囲であった。押出機ダイでの溶融温度は209℃であった。
【0039】
結合層組成物の接着性を評価するために、24ミルの多層キャストシートを共押し出しにより作製した。5層共押し出しシートはA/B/C/B/A型の層構造を有していた。ここで、Bは結合層組成物層を表し、CはEVOH層を表し、Aはポリスチレン層を表す。シートは、A/B/C/B/Aフィードブロックの構成で、3つの1インチ押出機を用いたキリオン実験室規模フィルムラインで作製した。シートを、10インチ平型ダイを用いて押し出して、連続した8インチ幅の試料を作製した。
【0040】
本明細書で報告する接着力の値はASTM D1876−93によって測定した。この方法で作製した24ミルのキャストシートについて、冷却ロールに接触していない側への接着力より冷却ロールに接触している側への接着力が一貫して高いことが観察されたので、接着力の値は、結合層/スチレン界面の両方について報告する。平均値も報告する。EVOH/結合層の接着力は、スチレンポリマー層を分離し、取り除いた後に測定した。後に残る構造物が薄いため、1つだけのEVOH/結合層界面での分離が可能であった。
実施例1
本発明の結合層接着剤組成物は、59.83重量%のLLDPEベース樹脂(エチレン−ブテン−1コポリマー;密度0.918g/cm3;MI2g/10分)、30重量%のSISトリブロックコポリマー(44重量%スチレン;MI40g/10分;<1%ジブロック)および1.9重量%無水マレイン酸でグラフト化された10重量%のHDPEを溶融ブレンドして作製した。接着剤ブレンドは0.17重量%の市販ヒンダードフェノール安定剤も含有した。接着剤ブレンドを、スチレンおよびEVOH樹脂と共押し出して、以下の構成と各成分の重量割合を有する多層共押し出しシートを作製した。
【0041】
【表1】

【0042】
用いたEVOHは日本合成化学工業製の市販の樹脂であり、32モル%のエチレンを含んでいた。スチレンポリマーはポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)の50:50混合物であった。
【0043】
3つの加熱域内の温度と、5層シートを共押し出しするのに用いた3つの押出機のそれぞれのダイの温度は以下の通りである。
【0044】
ポリスチレン 360°F/405°F/420°F/425°F
EVOH 380°F/380°F/400°F/455°F
結合層 355°F/400°F/410°F/455°F
結合層のスチレンポリマー層への優れた接着性が得られた。接着試験結果を表1に示した。
比較例2
本発明の結合層接着剤組成物について得られる予想外でかつ優れた結果を実証するために、比較用接着剤ブレンドを作製し評価した。結合層接着剤配合物は、異なるLLDPEベース樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同じものとした。この比較用接着剤ブレンドについて、用いたLLDPEコポリマーは、0.918g/cm3の密度と7g/10分のMIを有する市販のエチレン−ヘキセン−1−コポリマーであった。他の成分および各成分量は実施例1で報告したものと同じであった。スチレンポリマー/結合層界面での接着力は、実施例1で説明したようにして作製した5層シートで測定した。結果を表1に示した。
比較例3
エチレン−ブテン−1ベース樹脂を用いた、本発明の結合層接着剤で得られた結果の予想外の特徴をさらに実証するために、比較例2は、その混合物の密度およびMIが、実施例1で用いたエチレン−ブテン−1コポリマーの密度およびMIと同じである、すなわちそれぞれ約0.918g/cm3および2g/10分になるような比で混合したエチレン−ヘキセン−1LLDPEコポリマーの混合物を用いて繰り返した。結合層接着剤組成物は59.83重量%のLLDPE混合物を含んだ。この比較用ブレンドのための、その他のすべての成分および量は実施例1でも用いたのと同じであった。接着結果を表1に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
表1に示したデータから、エチレン−ブテン−1LLDPE樹脂をSISコポリマーおよびMAHグラフト成分と共に用いる本発明の接着剤組成物を用いたスチレンポリマー/結合層界面で得られた接着力は、ベース樹脂としてエチレン−ヘキセン−1LLDPEコポリマーを有する比較用配合物のいずれより著しく高いことが明らかである。さらに、バリア樹脂/結合層界面での接着性を犠牲にすることなく、スチレンポリマー/結合層界面での接着性に著しい改善がもたらされたことを挙げておかなければならない。実施例1、比較例2および比較例3の接着剤ブレンドを用いて得られたバリア樹脂/結合層界面での接着力の値はすべて約0.8〜1ポンド/インチの範囲であった。
実施例4ならびに比較例5および6
本発明の接着剤ブレンド中にエラストマー成分を包含させる能力と、それによって得られた、本発明の範囲外のLLDPEを用いて得られた接着剤ブレンドと比較した改善結果を実証するために、実施例4ならびに比較例5および6を示す。接着剤ブレンドの組成ならびにスチレンポリマー/結合層界面での接着結果を表2に示す。実施例4に用いたLLDPEは実施例1に用いたのと同じエチレン−ブテン−1コポリマーであり、比較例5に用いたLLDPEは比較例2に用いたのと同じエチレン−ヘキセン−1コポリマーであり、比較例6に用いたLLDPEは比較例3に用いたのと同じエチレン−ヘキセン−1コポリマーの混合物であることを挙げておかなければならない。SIS成分、MAHグラフト成分および安定剤は先に用いたものと同じものであった。用いたエラストマーは市販のエチレン−プロピレン−ジエンゴム(ムーニー粘度20;60重量%エチレン;0.5重量%エチリデンノルボルネン)であった。
【0047】
【表3】

【0048】
本発明の接着剤ブレンドで得られたスチレンポリマー層への接着性の大幅な向上はデータから容易に明らかである。エチレン−ヘキセン−1LLDPEベース樹脂を用いて配合した比較用ブレンドにエラストマーを加えると、接着性は改善されるが(比較例5対比較例2および比較例6対比較例3を参照されたい)、接着結果は、エチレン−ブテン−1LLDPEベース樹脂を用いて配合した本発明の接着剤ブレンドで達成された結果より依然として大幅に低いことを指摘しておかなければならない。
比較例7
実施例1と類似した接着剤ブレンドを作製した。この配合物は、64.83重量%のLLDPE、25重量%のSISトリブロックコポリマー、10重量%のMAHグラフトおよび0.17重量%の安定剤を含んだ。用いた成分は、SISコポリマーが低いスチレン含量(18重量%)と低いMI(12g/10分)を有していたこと以外は実施例1とすべて同じであった。SISコポリマーは1重量%の未満のジブロックを有していた。この比較用接着剤ブレンドで得られたスチレンポリマー/結合層界面での接着力は、冷却ロールに最も近い界面で0.04ポンド/インチ、冷却ロールから離れた界面で0.01ポンド/インチしかなかった。これは実施例1のブレンドで得られた値より著しく低いものである。
比較例8
30重量%のスチレン含量および13g/10分のMIを有するさらに別のSISコポリマーを用いて接着剤ブレンドを作製し、比較例7の手順に従って評価した。このSISコポリマーも1重量%未満のジブロックを含有した。接着力の値は、比較例7より幾分改善されたが(冷却ロールに最も近い界面での接着力は0.29ポンド/インチであり、冷却ロールから離れた界面では0.23ポンド/インチであった)、結果は高いスチレン含量、高いMIのSISコポリマーを用いて配合した実施例1の接着剤ブレンドで得られた値よりさらに桁が違って低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)組成物の全重量に対して35〜75重量%のエチレン−ブテン−1直鎖低密度コポリマー、
(b)35重量%を超えるスチレン含量および25g/10分を超えるメルトフローレートを有し、ジブロックを1重量%未満で含む、全重量に対して15〜45重量%のスチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマー、および
(c)エチレン性不飽和カルボン酸若しくは酸誘導体でグラフト化された、全重量に対して1〜25重量%のポリエチレン
を含む接着剤組成物。
【請求項2】
前記エチレン−ブテン−1コポリマーが、0.912〜0.925g/cm3の密度および0.5〜15g/10分のメルトインデックスを有し、全重量に対して40〜70重量%の量で存在する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記エチレン−ブテン−1コポリマーが、0.915〜0.92g/cm3の密度および0.5〜5g/10分のメルトインデックスを有する、請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記エチレン−ブテン−1コポリマーが、0.916〜0.919g/cm3の密度を有し、全重量に対して45〜65重量%の量で存在する、請求項3に記載の接着剤ブレンド。
【請求項5】
前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマーが40重量%を超えるスチレン含量および30g/10分を超えるメルトフローレートを有し、全重量に対して20〜40重量%の量で存在する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマーが全重量に対して20〜34.5重量%の量で存在する、請求項5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記グラフト化されたポリエチレンが、0.5〜5重量%の無水マレイン酸でグラフト化されたエチレンホモポリマーまたはエチレン−C48α−オレフィンコポリマーであり、全重量に対して2.5〜20重量%の量で存在する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記ポリエチレンが、0.945〜0.965g/cm3の密度を有する高密度ポリエチレン樹脂であり、全重量に対して5〜17.5重量%の量で存在する、請求項7に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
前記エチレン−α−オレフィンコポリマーが、0.910〜0.930g/cm3の密度を有する直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であり、全重量に対して5〜17.5重量%の量で存在する、請求項7に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
全重量に対して1〜20重量%のエチレン−プロピレンゴムまたはエチレン−プロピレン−ジエンゴムをさらに含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
(a)0.916〜0.919g/cm3の密度および0.5〜5g/10分のメルトインデックスを有する、全重量に対して45〜65重量%のエチレン−ブテン−1直鎖状低密度コポリマー、
(b)40重量%を超えるスチレン含量および30g/10分を超えるメルトフローレートを有し、ジブロックを1重量%未満で含む、全重量に対して20〜34.5重量%のスチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマー、
(c)0.5〜20g/10分のメルトインデックスを有する、0.5〜5重量%の無水マレイン酸でグラフト化された、全重量に対して5〜17.5重量%のエチレンホモポリマーまたはエチレン−C48α−オレフィンコポリマー、および
(d)所望によりエチレン−プロピレンゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選択される、全重量に対して1〜20重量%のエチレン−プロピレンエラストマー
を含む接着剤組成物。
【請求項12】
スチレンポリマー層、およびそれに接着結合した結合層を含む多層フィルムまたはシートであって、前記結合層が、全重量に対して35〜75重量%のエチレン−ブテン−1直鎖状低密度コポリマー、35重量%を超えるスチレン含量および25g/10分を超えるメルトフローレートを有し、ジブロックを1重量%未満で含む、全重量に対して15〜45重量%のスチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマー、エチレン性不飽和カルボン酸若しくは酸誘導体でグラフト化された、全重量に対して1〜25重量%のポリエチレン、ならびに所望により全重量に対して1〜20重量%のエチレン−プロピレンエラストマーを含む接着剤組成物を含む多層フィルムまたはシート。
【請求項13】
前記スチレンポリマーが、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、およびポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレンの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項14】
前記エチレン−ブテン−1コポリマーが0.912〜0.92g/cm3の密度および0.5〜15g/10分のメルトインデックスを有し、前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマーが40重量%を超えるスチレン含量および30g/10分を超えるメルトフローレートを有し、前記グラフト化されたポリエチレンが0.5〜5重量%の無水マレイン酸でグラフト化されたエチレンホモポリマーまたはエチレン−C48α−オレフィンコポリマーである、請求項13に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項15】
前記エチレン−ブテン−1コポリマーが接着剤組成物の45〜65重量%を構成し、前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロックコポリマーが接着剤組成物の20〜34.5重量%を構成し、前記グラフト化されたコポリマーが接着剤組成物の5〜17.5重量%を構成し、前記エチレン−プロピレンエラストマーが全重量に対して5〜15重量%の量で存在し、かつエチレン−プロピレンゴムまたはエチレン−プロピレン−ジエンゴムである、請求項14に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項16】
ポリオレフィン層をさらに含み、前記結合層がポリオレフィン層とスチレンポリマー層の間に配置されている、請求項13に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項17】
前記ポリオレフィン層がポリエチレンである、請求項16に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項18】
エチレン−ビニルアルコールコポリマーのバリア層をさらに含み、前記結合層がバリア層とスチレンポリマー層の間に配置されている、請求項13に記載の多層フィルムまたはシート。

【公表番号】特表2009−523886(P2009−523886A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551260(P2008−551260)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/046322
【国際公開番号】WO2007/084216
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(501391331)エクイスター ケミカルズ、 エルピー (30)
【氏名又は名称原語表記】Equistar Chemicals,LP
【Fターム(参考)】