説明

スチレン系樹脂シート及びエンボスキャリアテープ

【課題】 透明性、耐衝撃性、耐熱性、剛性、耐折強度、及びエンボス成形や打ち抜き加工時の成形性が良好であるスチレン系樹脂シート。
【解決手段】 スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、(A)以外のスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)、ポリスチレン樹脂(C)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)を含有し、(A)は、スチレン系単量体の含有量が65〜85%、共役ジエンブロックが共役ジエン単独重合体又は共役ジエンを75%以上100%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体、(B)は、スチレン系単量体の含有量が65〜85%、共役ジエンブロックが共役ジエンを50%以上75%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体、(A)(B)のスチレンブロックは、ピーク分子量が3万〜8万、分子量分布曲線の半値幅が1.3〜3.0、A/Bが95/5〜25/75、であるスチレン系樹脂組成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレン系樹脂組成物からなるシート及びエンボスキャリアテープに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にスチレン系樹脂は成形加工性、剛性、透明性などに優れ、かつ安価で比重が低く経済的にも優れており、スチレン系樹脂で構成されたシートは多岐の分野で利用されている。特に、エンボスキャリアテープ等の電子部品包装・搬送容器としても用いられており、この場合シートに求められる特性として、透明性、耐衝撃性、耐熱性、剛性、耐折強度(折り曲げ性)、エンボス成形や打ち抜き加工時の成形性などがあり、更に各特性のバランスが好適であることも望まれる。
スチレン系樹脂からなる種々のエンボスキャリアテープ用シートが提案されている。例えば特許文献1では、シートの耐折強度を改良することを目的としてスチレン−ジエン系エラストマーを添加することが提案されている。また、特許文献2にはシートの透明性や剛性を改良するためにスチレン−共役ジエンブロック共重合体を使用することが開示されている。
【特許文献1】特開平10−236576号公報
【特許文献2】特開2002−331621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、耐折強度は向上するものの剛性が低下してしまうためエンボス成形品の強度が十分でない。また、特許文献2に記載の技術では、耐折強度が向上しない。このように、エンボスキャリアテープ用としての各特性を十分に満足するスチレン系樹脂からなるシートは得られていない。
また、従来のスチレン系樹脂からなるシートやエンボスキャリアテープにおいては、物性の経時変化について考慮されていない為、例えば、夏場の輸送時や保管時の高い温度条件によって、寸法や外観は変化しないまでも、耐折強度が極端に低下してしまうという問題があった。このように耐折強度が低下すると割れ易くなり、エンボス成形工程や部品装填及び取り出し工程で突発的に折れ曲がったときに、クラックや割れが発生し作業性を著しく低下させてしまうという問題が生じる。
エンボスキャリアテープの成形方法としては圧空成形、真空成形、プレス成形などがあり、シートを加熱軟化させて、金型で所定のポケット部(エンボス)が形成される。従来のスチレン系樹脂シートにおいては、加熱部分のドローダウンが過度であることによる、ポケット部の偏肉や穴空き、またフランジ部分の型くずれを生じ、所定の形状及び寸法を満足せず、駆動(送り)不良や部品装填及び取り出し不良などのトラブルが発生するという問題もあった。
【0004】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、透明性、耐衝撃性、耐熱性、剛性、耐折強度、及びエンボス成形や打ち抜き加工時の成形性が良好であるスチレン系樹脂シート及びエンボスキャリアテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシートは、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)以外のスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)、ポリスチレン樹脂(C)、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)を含有し、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)は、スチレン系単量体の含有量が65〜85質量%であり、共役ジエンブロックが共役ジエン単独重合体又は共役ジエンを75質量%以上100質量%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体であり、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)は、スチレン系単量体の含有量が65〜85質量%であり、共役ジエンブロックが共役ジエンを50質量%以上75質量%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体であり、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)及びスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)のスチレンブロックのピーク分子量は3万〜8万の範囲内で、該スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅が1.3〜3.0の範囲であり、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の質量比(A/B)が95/5〜25/75の範囲であり、
前記ポリスチレン樹脂(C)の含有量がスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して20〜110質量部であり、
前記耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)の含有量がスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して5〜35質量部であるスチレン系樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
本発明のエンボスキャリアテープは、上記シートを成形してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐熱性、耐衝撃性、透明性、及び剛性の各特性に優れており、保管時や輸送時における貯蔵温度の上昇が生じても耐折強度の低下が生じ難く、良好な成形性を有するシート及びエンボスキャリアテープを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)以外のスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)、ポリスチレン樹脂(C)、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)を含有する。
(A)成分及び(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体とは、ブロック共重合体中にスチレン系単量体を主体とするスチレン重合体ブロック(スチレンブロック)を1個以上有し、共役ジエン単量体を主体とする共役ジエン重合体ブロックを1個以上有するブロック共重合体である。
前記スチレン系単量体としてはスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどがあるが、特に一般的なものとしてはスチレンが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上併用してもよい。
前記共役ジエン単量体としては、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどがあるが、特に一般的なものとしては1,3−ブタジエン、イソプレンが挙げられる。
(A)成分及び(B)成分のいずれにおいてもスチレン−共役ジエンブロック共重合体中のスチレン系単量体の含有量は65〜85質量%、好ましくは70〜80質量%である。65質量%未満は剛性や耐熱性が劣り、85質量%を越えると耐衝撃性が劣る傾向がある。
【0008】
(A)成分及び(B)成分のいずれにおいてもスチレンブロックのピーク分子量は3万〜8万、好ましくは3.2万〜7.5万、更に好ましくは3.5万〜7万である。
スチレンブロックのピーク分子量が上記範囲であるとエンボス成形性が優れる。
尚、スチレン−共役ジエンブロック共重合体中のスチレンブロックのピーク分子量は、スチレン−共役ジエンブロック共重合体を四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.sci.1,429(1946)に記載の方法、以下、四酸化オスミウム酸法とも呼ぶ)により得たスチレンブロック成分をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、分子量を特定するものである。分子量はGPC用の単分散ポリスチレンをGPC測定して、そのピークカウント数と単分散ポリスチレンの数平均分子量との検量線を作成し、常法(例えば「ゲルクロマトグラフィー<基礎編>」講談社発行)に従って算出する。
【0009】
(A)成分及び(B)成分のいずれにおいてもスチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅は1.3〜3.0、好ましくは1.5〜2.8、更に好ましくは1.7〜2.6の範囲である。スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅が上記範囲であるとエンボス成形性が優れる。
尚、スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅は、前述したスチレンブロックのピーク分子量を求めた分子量分布チャートから求めることができる。具体的には、分子量を対数表示で横軸の1000〜1000000の範囲を15cmとして、縦軸に濃度(質量比)を任意の高さで表示し、ピークトップ高さの50%でのピークの横軸の幅(cm)を半値幅とする。この場合、ピークトップの高さは横軸に垂直であり、高さの50%でのピークの幅は横軸に水平であることが必要である。
【0010】
(A)成分及び(B)成分のいずれにおいてもスチレン−共役ジエンブロック共重合体の構造としては線状、星型、テーパー型など挙げられるが、これらのうち線状や星型のものが好ましく使用される。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)及びスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)のいずれも、MFRの値は2〜35g/10分が好ましく、3〜25g/10分がより好ましい。
尚、MFR(メルトフローレート)の値は、JIS K7210(A法)に規定される方法により、200℃、荷重5kgfの条件で測定して得られる値とする。
【0011】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)及びスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)のいずれも、ガラス転移温度が83℃以上であることが好ましく、85℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が83℃未満であるとシートやエンボスキャリアテープの耐熱性の低下が大きくなる。
尚、ガラス転移温度の値はDSC測定(示差走査熱量測定)により、昇温温度10℃/分、温度範囲20〜200℃の条件で測定して得られる値とする。
【0012】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)の曲げ弾性率は1300〜1900Mpaの範囲が好ましく、1400〜1800MPaの範囲がより好ましい。スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)の曲げ弾性率が上記の範囲であれば、シートの剛性が優れ、エンボスキャリアテープのポケット部が潰れにくく、比較的深絞り状に成形したポケットでも高い強度を得ることができる。曲げ弾性率が1300MPa未満であるとエンボス成形体の強度が損なわれるため使用に適さず、1900MPaを越えるとシートの耐衝撃性や耐折強度が低下する。
尚、曲げ弾性率の値はJIS K7171に準拠して得られる値とする。
【0013】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)中の共役ジエンブロックは、共役ジエン単独重合体又は共役ジエンを75質量%以上100質量%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体である。スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)の形態は共役ジエン重合体(共役ジエンブロック)が0.1μm以下の大きさとなって、スチレン系重合体からなる海相に微分散する、いわゆるミクロ相分離構造を形成している。
このようなミクロ相分離構造を有するスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)にあっては、押出機やバンバリーミキサなどで溶融混練し吐出物を冷却した直後は、スチレン系重合体と共役ジエン重合体が混在する相(界面相)が多く存在する。かかる界面相が多く存在する相状態のシートやキャリアテープ等の成形品は折り曲げても割れ難く延性的である。しかし、スチレン系重合体と共役ジエン重合体は非相溶であるため、経時的に界面相が減少し、特に高温環境下(常温以上、ガラス転移温度未満の温度)では顕著な減少を示す。界面相が少なくなるとシートの耐折強度が低くなり、キャリアテープ等の成形品も折り曲げると簡単に割れてしまう。
かかる界面相の減少は例えばシートの動的粘弾性測定で確認できる。具体的には、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)からなるシートを、常温(23℃)で保管したもの、及び60℃で72時間、加熱保管したものそれぞれについて、動的粘弾性の温度依存性の測定を行う。
シートの動的粘弾性の温度依存性の測定は、JIS K7244-4-1999に規定されている温度依存性の測定方法に準拠して、温度範囲20〜200℃、周波数1Hz、昇温速度5℃/分の条件で行う。そして、得られた動的粘弾性温度依存性曲線から主分散温度領域における損失係数tanδのピーク値を読み取る。ここでの主分散温度領域とはガラス転移温度領域のことであり、高分子鎖がミクロブラウン運動開始することによって貯蔵弾性率E’が著しく減少し、分散と呼ばれる屈曲点を示し、温度−損失弾性率E”曲線や温度−損失係数tanδ曲線はα-peakと呼ばれる極大を示す。
得られた動的粘弾性温度依存性曲線における50〜90℃付近の損失弾性率E”及び損失係数tanδを比べると、常温保管したものより、加熱保管したものの方の値が低下する。これは、高温環境下でスチレン系重合体と共役ジエン重合体の混在部分が減少し相分離したことを示唆するものである。
【0014】
本発明では、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とは異なるポリマー構造を有するスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)を併用したことにより、加熱保管したシートやキャリアテープの割れ易さが改善される。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)は、ブロック共重合体中の共役ジエンブロックが、共役ジエンを50質量%以上75質量%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体である。この共役ジエンブロックの共重合体はランダム共重合体であることが望ましい。スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)において、共役ジエンブロックからなる微小な分散相はスチレン単量体成分と共役ジエン単量体成分が共重合化によって予め混在した状態となっているため、この分散相自身がスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)で言うところの界面相に相当する。かかるスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の分散相は共重合体からなるので、シートやキャリアテープにおいて高温環境下に曝されても、延性的な挙動を保ち、クラックや割れが発生しないという利点を有する。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の曲げ弾性率は、900〜1500Mpaが好ましく、1000〜1400Mpaがより好ましい。900MPa未満であるとシートの剛性の低下が著しくなり、1500MPaを越えると加熱保管後の割れ抑制効果が得られにくい。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の含有量の質量比(A/Bで表す)は95/5〜25/75、好ましくは90/10〜30/70の範囲であることが好ましい。スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の質量比が上記範囲より少ないと加熱保管後の耐折強度が十分に改善されず、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の質量比が上記範囲を越えると、耐熱性やシートの剛性が低下し、エンボスポケット部の強度が損なわれ易くなる。
【0015】
ポリスチレン樹脂(C)としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどの芳香族ビニル単量体を主体とする重合体を用いることができる。これらの中でスチレンが好適に用いられる。
ポリスチレン樹脂(C)のMFRは0.3〜35g/10分、好ましくは0.8〜25g/10分であり、曲げ弾性率は2500〜3800MPa、好ましくは2800〜3500MPaである。
ポリスチレン樹脂(C)は市販のものを使用することができる。
ポリスチレン樹脂(C)の含有量はスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)のブロック共重合体の合計100質量部に対して20〜110質量部、好ましくは30〜100質量部である。ポリスチレン樹脂(C)が上記範囲より少ないと耐熱性が低下し、シートの剛性低下によりポケット部の強度が損なわれる。ポリスチレン樹脂(C)が上記範囲より多いと耐折強度や耐衝撃性の低下する。また、シートの動的粘弾性の温度依存性測定において、主分散温度領域での損失係数のピーク値が所望の値を満たさず、エンボス成形性が損なわれる。
【0016】
本発明で使用する耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)とは、芳香族ビニル重合体からなる海相中にゴム重合体がサラミ状粒子となって島状に分散した樹脂であり、芳香族ビニル重合体とゴム重合体のグラフト共重合体である。
耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)のMFRは0.5〜35g/10分、好ましくは1.0〜25g/10分であり、曲げ弾性率は1300〜2800MPa、好ましくは1500〜2600MPaである。
耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)は市販のものを使用することができる。
耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)の含有量はスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して5〜35質量部、好ましくは10〜30質量部である。耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)が上記範囲より少ないと耐衝撃性が低下する。耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)が上記範囲より多いと透明性が低下し、またエンボスキャリアテープの打ち抜き加工孔(位置決めのための送り孔)にバリが発生するため、駆動や位置決め不良の原因となり、更にバリが電子部品に混入する恐れがある。
【0017】
本発明のシートは、上記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)、ポリスチレン樹脂(C)、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)を含有するスチレン系樹脂組成物をシート状に成形して得られる。
シートの使用目的に応じて、スチレン系樹脂組成物に、帯電防止剤、カーボンブラック等の導電性フィラー、イオン導電性ポリマー、有機導電性ポリマー、耐候性剤、耐光性剤、酸化防止剤、離型剤、ブロッキング防止剤、顔料、難燃剤などを添加混合することができ、シート表面に塗工することもできる。
シートの成形方法は特に限定されないが、例えば、カレンダ成形、単層Tダイ押出成形、フィードブロックやマルチマニーホルドダイを用いた製造方法などを用いることができる。
シート製造時に発生するシート端材(端部や不良品等)を上記のスチレン系樹脂組成物に添加して再利用することもできる。
シートの層構成は特に限定されず、単層、2層以上の多層としても構わない。
本発明のスチレン系樹脂シートの厚さは特に限定されないが、エンボスキャリアテープ用シートとして用いる場合は、0.1mm〜1.0mmの範囲が好ましく、0.2mm〜0.5mmがより好ましい。
一般的に、樹脂シートの厚みの大きいものほど折り曲げ外周部の変形量が大きくなるので耐折強度は劣化する傾向がある。従来の、延伸に劣るエンボスキャリアテープ用シートは、シートが厚いほど折り曲げた時に変形に追従できず、折り曲げ外周部にクラックが生じ易かった。特に厚さが0.3mmを超えると耐折強度の低下が著しくなる傾向あり、エンボスキャリアテープの折り曲げ破損を生じる可能性が高かった。
これに対して、本発明のスチレン系樹脂シートはいずれのシート厚みでも耐折強度が改善され、優れた耐折強度を有している。
具体的には、本発明のシートは、常温保管時のシート縦方向の耐折強度の値が30回以上、好ましくは80回以上を達成することができる。耐折強度が30回未満ではエンボスキャリアテープとしたときに割れ易くなる。
また本発明のシートは、60℃×72時間の条件で加熱保管した後のシート縦方向の耐折強度は30回以上、好ましくは80回以上を達成することができる。従って、シートやエンボスキャリアテープの夏場の保管や輸送などの貯蔵条件による特定の不安定化が抑えられる。
尚、シートの耐折強度の値はJIS P8115-2001に準拠し、荷重1.0kgf、折り曲げ角度135°の条件で測定された耐折回数の値(単位:回)である。
【0018】
本発明のシートは、動的粘弾性の温度依存性測定結果における、主分散温度領域での損失係数tanδのピーク値が3.0以下を達成することができる。
通常、シートをエンボス成形する際には、シートはガラス転移温度以上に加熱される。シートの主分散温度領域における損失係数のピーク値が3.0を越えるものでは加熱された部分のドローダウンが大きくなりすぎて、ポケット部に偏肉や穴空きが発生したり、フランジ部分が伸縮による型くずれを生じ易く、その結果、所定のエンボス形状及び寸法を満足しない。良好なエンボス成形を効果的に発揮するうえで、該損失係数のピーク値は1.8〜3.0が好ましい。
本発明のシートの引張弾性率は1500MPa以上、好ましくは1800MPa以上とすることができる。引張降伏点強度は、好ましくは20MPa以上、より好ましくは30MPa以上である。引張弾性率が1500MPa未満、又は降伏点強度が20MPa未満ではエンボスキャリアテープのポケット部強度が不足し、潰れ易くなる。
本発明のエンボスキャリアテープ用シートの引張衝撃強度は、好ましくは50KJ/m2以上、より好ましくは70KJ/m2以上である。50KJ/m2未満であると、エンボスキャリアテープ製造工程、部品装填や取り出し工程などの送り駆動の際に突発的なテンションがかかった時に、破断を生じ易くなるため作業上不利である。
本発明のエンボスキャリアテープ用シートの柔軟温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である。60℃未満であると、保管輸送時に温度上昇が生じた場合に、シートやエンボスキャリアテープが変形し易い。
本発明のエンボスキャリアテープ用シートのヘイズ値は30%以下が好ましく、より好ましくは25%以下である。また本発明のエンボスキャリアテープ用シートは、全光線透過率は88%以上であることが好ましい。ヘイズが30%を越える場合、また全光線透過率が88%未満である場合には、エンボスキャリアテープに装填された部品を目視又はカメラ等で検査確認することが困難となる。
尚、上記の引張弾性率、引張降伏点強度、引張衝撃強度、柔軟温度、ヘイズ、及び全光線透過率の各値は、後述の実施例における測定方法により得られる値である。
本発明のエンボスキャリアテープは、本発明のエンボスキャリアテープ用シートを所望の形状のポケット部を有する形状に成形して得られる。
エンボスキャリアテープの製造方法は特に限定されず、例えば真空成形、圧空成形、プレス成形、ロータリー成形(高速、低速)などを用いることができる。
また、エンボスキャリアテープ用シートの少なくとも一方の表面に、シリコーンオイルや、シリコーンオイルに乳化剤や界面活性剤などを添加し水溶液としたものをグラビアロールコーター方式や噴霧方式で塗布し、熱風乾燥したものを使用してもよい。このようなシリコーンオイルを含有する表面層を有するシートは、エンボス成形機の金型との離型性が良好であるため、エンボス成形性が向上し、またエンボスキャリアテープと、その蓋材であるカバーテープとのシール性が安定する。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
(実施例1〜7、及び比較例1〜7)
下記表1、2に示した組成の樹脂組成物を押出機で溶融混練し、Tダイから吐出した後、ロール冷却し、幅640mm、厚さ0.4mmのシートを得た。使用した樹脂の詳細は下記の通りである。
・スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂(A):スチレン含有量77wt%、共役ジエンブロックの共役ジエン含有量が95質量%、スチレンブロックのピーク分子量3.6万、スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅1.9、MFR10g/10分、ガラス転移温度89℃、曲げ弾性率1600MPa
・スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂(B):スチレン含有量75wt%、共役ジエンブロックの共役ジエン含有量65質量%、スチレンブロックのピーク分子量3.7万と5.4万、スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅2.5、MFR6g/10分、ガラス転移温度87℃、曲げ弾性率1200MPa
・ポリスチレン樹脂(C):SGP10(PSジャパン社製、MFR1.9g/10分、曲げ弾性率3300MPa)
・耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D):HT478(PSジャパン社製、MFR3.3g/10分、曲げ弾性率3300 MPa)
・スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂(E):スチレン含有量75wt%、共役ジエンブロックの共役ジエン含有量が65質量%、スチレンブロックのピーク分子量1.0万と8.5万、スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅1.2と3.1、MFR5g/10分、ガラス転移温度88℃、曲げ弾性率1500MPa
【0020】
製造したシートの特性評価を以下のように行った。評価結果を表3、4に示す。
[シートの耐折性]
温度23℃、湿度50%RHの恒温室で72時間保管(常温保管)したシートの縦方向について耐折強度を測定した。
またシートを60℃の熱風乾燥機中で72時間保管した後、温度23℃、湿度50%RHの恒温室で3時間放置したシートの耐折強度についても同様に測定した。
[損失係数tanδピーク値]
シートの縦方向と横方向それぞれについて動的粘弾性の温度依存性を測定した。得られた動的粘弾性温度依存性曲線から主分散温度領域における損失係数tanδのピーク値を読み取った。
[シートの剛性]
JIS K6734-1995に準拠し、1号ダンベル形試験片を使用し、試験速度50mm/分として、シートの縦方向と横方向それぞれの引張弾性率を測定した。
また、上記と同様な試験方法でシートの縦方向と横方向の引張降伏点強度を測定した。
[耐衝撃性]
JIS K7160(A法)に準拠し、3形試験片を使用し、クロスヘッド質量30g、ストライカを振り下ろす前の位置エネルギーを4Jとして、シートの縦方向と横方向の引張衝撃強度を測定した。
[耐熱性]
上記のシートを厚さ1mmの板状に成形し、JIS K6773-1999に準拠して柔軟温度を測定した。
[透明性]
JIS K7105-1981に準拠し、シートのヘイズを測定した。
また上記と同様な試験方法でシートの全光線透過率を測定した。
【0021】
上記で製造したシートを成形してエンボスキャリアテープを製造した。成形性及び得られたエンボスキャリアテープの特性評価を以下のように行った。評価結果を表3、4に示す。
[エンボス成形性]
プレス成形機を用いて、幅24mm×厚さ0.4mmの長尺帯状のスリットシートを表面温度110〜150℃に熱し、縦13mm×横13mm×高さ10mmの、底部が正方形である有底中空状のポケット部を、長さ方向に沿って3mmピッチで成形した。またφ1.5mmの位置決めのための送り孔を打ち抜き加工した。
このようにして得られたエンボスキャリアテープのポケット部及びフランジ部が、所定の寸法及び形状を満たしている場合を“○”、ポケット部の穴空きや偏肉、フランジ部分の伸縮や型くずれによって所定の寸法形状を満たしていない場合を“×”と評価した。
[ポケット部強度]
得られたエンボスキャリアテープのポケット部を1つずつ切り離し、ポケット開口部を下向きにして圧縮試験機のテーブルに水平に配置し、円形冶具でポケット底面全体を20mm/分の速度で垂直方向に1mm押し、その時の最大荷重点をポケット部強度とした。ポケット部強度が2.0kgf以上を“○”、2.0kgf以下を“×”と評価した。ポケット部強度が2.0kgf以上であればポケット部が潰れ難いため実用に適する。
[打ち抜き性]
得られたエンボスキャリアテープのφ1.5mm打ち抜き孔(位置決めのための送り孔)を目視で確認し、バリが発生していない場合を“○”、バリが発生している場合を“×”と評価した。
[キャリアテープの耐折性]
得られたエンボスキャリアテープを温度23℃、湿度50%RHの恒温室で72時間保管(常温保管)し、隣接するポケットの開口部同士を向かい合わせるようにしてポケットの間のフランジ部分を180°に折り曲げ、フランジ部が割れない場合を“○”、割れた場合を“×”と評価した。
また60℃の熱風乾燥機中で72時間保管した後、温度23℃、湿度50%RHの恒温室で3時間放置したエンボスキャリアテープについても同様に評価した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
表1〜4から明らかなように、本実施例のシート並びにエンボスキャリアテープであれば、諸物性をバランス良く高次元で実現していることがわかる。
しかしながら、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)が少ない比較例1であると耐折強度が劣り、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)が少ない比較例2であると剛性、耐熱温度等に劣り、これらスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)(B)がない比較例3は耐折強度、成形性等に劣っている。ポリスチレン樹脂(C)の少ない比較例4は耐熱性、強度等が劣る反面、過多の比較例5では耐折強度、耐衝撃性等に劣っている。耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)がない比較例6は耐衝撃性が劣る反面、過多の比較例7では透明性、強度等が劣っているものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)以外のスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)、ポリスチレン樹脂(C)、及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)を含有し、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)は、スチレン系単量体の含有量が65〜85質量%であり、共役ジエンブロックが共役ジエン単独重合体又は共役ジエンを75質量%以上100質量%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体であり、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)は、スチレン系単量体の含有量が65〜85質量%であり、共役ジエンブロックが共役ジエンを50質量%以上75質量%未満含有する共役ジエンとスチレン系単量体とからなる共重合体であり、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)及びスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)のスチレンブロックのピーク分子量は3万〜8万の範囲内で、該スチレンブロックの分子量分布曲線の半値幅が1.3〜3.0の範囲であり、
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の質量比(A/B)が95/5〜25/75の範囲であり、
前記ポリスチレン樹脂(C)の含有量がスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して20〜110質量部であり、
前記耐衝撃性ポリスチレン樹脂(D)の含有量がスチレン−共役ジエンブロック共重合体(A)とスチレン−共役ジエンブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して5〜35質量部であるスチレン系樹脂組成物からなることを特徴とするシート。
【請求項2】
請求項1に記載のシートを成形してなることを特徴とするエンボスキャリアテープ。

【公開番号】特開2006−232914(P2006−232914A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46987(P2005−46987)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】