説明

スチールコード及びその製造方法

【課題】複合体シートの平坦性を向上させることができるスチールコード及びその製造方法を提供する。
【解決手段】線状に接触する相互接触線2cがワイヤ軸線2aに沿うように引き揃えられた実質的に同径の2本の心ワイヤ2と、前記心ワイヤと実質的に同径であり、前記心ワイヤの周囲に巻き付けるように撚り合わされた2本の側ワイヤ3とを有し、前記心ワイヤ2は、その周囲に前記側ワイヤ3が撚り合される前に所望の波付けが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの補強に用いられるスチールコード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチールラジアルタイヤでは、部材の一部にスチールコードとゴムを複合して一体化させたシート(以下、複合体シートという)を使用している。最近では、埋め込まれるスチールコードが50〜100本と少なく、複合体シートの幅が従来よりも狭いものを使用する場合がある。その場合に使用されるスチールコードの直線性が悪いと、直ちにタイヤ製造工程中の複合体シートの平坦性が不良となり、製造工程の作業性を著しく阻害する要因となる。幅の狭い複合体シートの一部は、STEELASTIC社の複合体シート作製装置を用いて製造される。STEELASTIC社の複合体シート作製装置を用いれば、ダイスを通過するコード表面にエクストルーダー等で押し出されたゴムを被覆し、被覆コードを多数本引き揃えて密着させることができ、これにより所望のゴム複合体シートが作製される。
【0003】
ところで、2+2構成のスチールコードの心ワイヤに真直性の悪いワイヤを用いると、その影響を受けてコード全体の真直性も劣化する。通常、心ワイヤの真直性のバラツキが大きくなるに従って、コード全体の真直性のバラツキも大きくなる。そのような心ワイヤを複合体シートのなかに埋め込むと、シートの平坦性が悪化して、タイヤ成型工程での作業性が悪くなるとともに、タイヤの品質が不安定になる。このように2+2構造タイプのスチールコードにおいては、撚られていない2本の心ワイヤの真直性がコード全体の真直性を大きく左右するという問題点がある。
【0004】
2+2構造のスチールワイヤに関して従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1と特許文献2には、心ワイヤを波付けする2+2構造のスチールコードがそれぞれ提案されている。
【0005】
特許文献1は、心ワイヤに波付けを施すことにより、ワイヤの撚込率を高めてコードの構成ワイヤ全てに均等に負荷がかかるようにするとともに、波付けした心ワイヤと側ワイヤとの相互接触面積を減少させてワイヤ間のフレッティング磨耗の発生を抑制して、スチールコードの耐疲労性を向上させる技術を提案している。
【0006】
また、特許文献2は、心ワイヤに波付けを施して、コードの外接円が略直線状になるように、心ワイヤが適切な螺旋形状となることで、スチールコードの剛性を向上させる技術を提案している。
【特許文献1】特開平6−73672号公報
【特許文献2】特許3708379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の従来スチールコードをゴムシート中に埋め込み、複合体シートを作製すると、例えば図9に示すように複合体シートRSの隅角部40が反り上がるなどの変形を生じるため、その平坦性が保たれない。この原因は、スチールコードの真直性が複合体シートの平坦性に悪影響を及ぼしているからであると考えられている。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、複合体シートの平坦性を向上させることができるスチールコード及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記特許文献1,2のいずれも、スチールコードの真直性が複合体シートの平坦性に対してどのように影響するのかについては具体的に言及されておらず、また両者間の相関についても示唆されていない。そこで、本発明者らは、スチールコードの真直性が複合体シートの平坦性に対してどのように影響するのかについて鋭意研究した結果、以下に述べる本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明に係るスチールコードは、線状に接触する相互接触線がワイヤ軸線に沿うように引き揃えられた実質的に同径の2本の心ワイヤと、前記心ワイヤと実質的に同径であり、前記心ワイヤの周囲に巻き付けるように撚り合わされた2本の側ワイヤと、を有し、前記心ワイヤは、その周囲に前記側ワイヤが撚り合される前に所望の波付けが施されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るスチールコードの製造方法は、2+2構造のスチールコードを製造するためのスチールコードの製造方法において、(i)2本の心ワイヤを撚り線機に送給して撚り合せ、(ii)前記撚り線機に内蔵された波付け装置を用いて前記心ワイヤに所望の波付けを施し、(iii)前記工程(ii)で波付けされた2本の心ワイヤの周囲に2本の側ワイヤを前記工程(i)の撚り方向とは逆向きに撚り合わせ、これにより前記心ワイヤを前記工程(i)の撚り量と実質的に同じ量だけ撚り戻して、前記2本の心ワイヤを線状に接触する相互接触線(2c)がワイヤ軸線(2a)に沿うように引き揃え、(iv)最終的に相互接触線(2c)がワイヤ軸線(2a)に沿うように前記2本の心ワイヤを引き揃えた状態で、2+2構造のスチールコードを巻き取ることを特徴とする。
【0012】
ここで「波付け」とは、ワイヤに弾性限以上の応力を与えてワイヤを二次元または三次元の形状に成形することをいう。また、「二次元の波付け」とは、同一平面に属する曲線に沿う形状にワイヤを成形することをいう。同一平面に属する曲線には正弦曲線、円弧曲線、サイクロイド、カージオイドなどの二次元の形状の曲線が含まれる。なお、「クリンプ波付け」とは、1つの平面内で同じウェーブを繰り返す二次元の形状にワイヤを成形することをいう。このクリンプ波付けの代表的なものとして1対の歯車間にワイヤを噛み込ませて成形するギヤクリンプ波付加工がある。なお、クリンプ波付けは、三次元形状のスパイラルワイヤを側方から潰して二次元形状とする加工をも含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複合体シートの平坦性を向上させることができるスチールコード及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0015】
図1は本発明のスチールコードの製造方法に用いられる装置を模式的に示す概略構成図である。
【0016】
スチールコード製造装置1は、パスラインの上流側から順に2つの送給リール5、外部ガイドローラ6、In-Out型バンチャー撚り線機10、キャプスタン11および巻取ドラム12を備えている。第1の送給リール5は、撚り線機10の(a)側入口の前に配置され、各リール5から心ワイヤ2が1本ずつ引き出されるようになっている。外部ガイドローラ6は、主パスライン上を通過する2本の心ワイヤ2を束ねて位置合せし、これらが平行に引き揃えられて互いに寄り添うようにして主パスラインに沿って心ワイヤ2が撚り線機10に円滑に入っていくようにする案内の役割を有する。バンチャー撚り線機10は、クレードルタイプの筐体内に、複数のターンローラ7a〜7d、波付け装置8および2つの送給リール9を内蔵している。
【0017】
ターンローラ7a〜7dは、クレードル筐体とともに撚り線機10の軸心まわりに公転(軌道に沿って移動)し、これによりワイヤ2,3に所望の向き及びピッチの撚りを加える機能を備えている。
【0018】
波付け装置8のハウジング81内には、図2と図3に示すように上下1対の大ローラ82a,82bが収納されている。ハウジング81は入口ガイド85および出口ガイド86を備えている。ワイヤ2は入口ガイド85を介してハウジング81内に導入され、大ローラ82a,82b間を通過し、出口ガイド86を介してハウジング81から送り出されるようになっている。
【0019】
図4に示すように、大ローラ82a,82bの外周にはホルダ87a,87bが等ピッチ間隔に設けられ、各ホルダ87a,87bには小径のピンロール83a,83bがそれぞれ取り付けられている。互いに隣り合うピンロール83a(83b)とピンロール83a(83b)との間にはほとんど隙間が無いように取り付けられている。上ローラ82aは歯車84aと同軸に連結され、下ローラ82bは歯車84bと同軸に連結されている。上下の歯車84a,84bは互いに噛み合っている。両歯車84a,84bにより上下ローラ82a,82b間に滑りを生じることなく、上下ローラ82a,82bが確実に同期回転されるようになっている。
【0020】
ワイヤ2は、大ローラ82a,82b間に噛み込まれると、上下のピンロール83a,83bにより屈曲され、滑らかに連続する二次元形状に波付けされる。この場合に、ピンロール83a,83bの直径DRはワイヤ径dWより十分に大きくする必要がある。なお、ピンロール83a,83bの直径DRはワイヤ径dWの5〜50倍の範囲とすることが好ましい。なお、上記のピンロール方式の波付け装置8の代わりに特開平10−25680号公報に開示されたギヤクリンプ加工機を用いてワイヤ2を二次元のクリンプ波付加工するようにしてもよい。
【0021】
キャプスタン11と巻取ドラム12は、撚り線機10の(d)側出口の前に配置されている。キャプスタン11は、撚り線機10から出てきたスチールコード4を一定速度で引き取る機能を備えている。巻取ドラム12は、最終製品のスチールコード4を巻き取る役割を有するものである。
【0022】
巻取ドラム12の回転速度は、スチールコード4の巻き取り張力が一定となるように、ドラムに巻かれるスチールコード4の巻き量に合わせて調整される。また、第1及び第2の送給リール5,9に適度なブレーキ力を与えることにより各ワイヤ2,3に所望の張力が印加されるようになっている。
【0023】
(スチールコードの製造)
次に、上記の製造装置を用いて撚り方向がSで、撚りピッチがPである2+2構成のスチールコードを製造する場合について詳しく説明する。
【0024】
各リール5から撚り線機10に心ワイヤ2を送給すると、2本の心ワイヤ2は、ガイドローラ6から(a)側のターンローラ7aまでの区間でZ方向に撚られて撚りピッチ2P(Z方向)となり(1回目の撚り)、次いで(b)側のターンローラ7bから波付け装置8までの区間で同じ方向に撚られて撚りピッチP(Z方向)となる(2回目の撚り)。引き続き、心ワイヤ2は、波付け装置8から(c)側のターンローラ7cまでの区間で逆方向に撚られて撚りピッチ2P(Z方向)となり(1回目の撚り戻し)、(d)側のターンローラ7dからキャプスタン11までの区間でさらに逆向きに撚られて最終的に撚りの入らない状態に戻る(2回目の撚り戻し)。
【0025】
このようにして2本の心ワイヤ2は、撚られた量と同じ量だけ撚り戻され、その結果、相互接触線2c(部分的にワイヤが互いに離れる相互離間線2nを含む)がワイヤ軸線2aに沿うように引き揃えられる。この相互接触線2cは、くねくねと曲がりくねってはいるが、ワイヤ軸線2aに対してねじれた関係にはなく、図6の(b)に示すように、ワイヤ軸線2aに沿っている。すなわち、相互接触線2cは両ワイヤ軸線2aに対してほぼ平行に延び出しており、2本の心ワイヤ2はワイヤ軸線2aがほぼ平行になるように並んでいる。
【0026】
ところで、波付け装置8から(c)側のターンローラ7cまでの区間では、各リール9から側ワイヤ3がパスラインに送給され、波付けされた心ワイヤ2Aの周囲に2本の側ワイヤ3がS方向に撚り合せられる。この側ワイヤ3の撚り合わせと同時並行的に上記の心ワイヤ2の撚り戻しが行われる。
【0027】
さらに、1回目の撚り戻し区間である波付け装置8から(c)側のターンローラ7cまでの間においては、側ワイヤ3が心ワイヤ2の周囲に撚り合わされるよりも前に、波付け装置8により心ワイヤ2に所望の波付けが施される。波付けワイヤ2Aの波付けの形状は、同一平面内における正弦曲線、円弧曲線、サイクロイド、カージオイドなどの二次元の形状とする必要がある。その理由は、心ワイヤの波付け形状を、螺旋曲線や渦巻き曲線のような三次元の形状にすると、二次元の形状と比較して、波付け装置が複雑な構造で大型になり、撚り線機10の内部に配置するのが困難になるからである。
【0028】
波付け高さの最小値は0.04mmとすることが好ましい。アークハイトHを30mm以内(合格判定)に低減させるためには、最低でも0.04mm高さの波付けが必要となるからである。
【0029】
また、波付けピッチP1は2〜20mmとすることが望ましい。この範囲内が実用的な波付けピッチとなるからである。
【0030】
このようにして一体化された2+2構成のスチールコード4は、撚り線機10から出てくると、キャプスタン11によって一定速度で引き取られた後に、巻取ドラム12に巻き取られる。
【0031】
(複合体シートの製造)
複合体シートの製造には、一般にカレンダー装置が用いられる。スチールコードをすだれ状に引き揃え、薄いゴムシート2枚で挟み込んだ後、ロールで圧延して一体化することで複合体シートを得る。
【0032】
上述した幅の狭い複合体シートの製造工程について、図5を参照して説明する。複合体シートを製造するためのゴム被覆装置20は、図示しないゴム押出機(エクストルーダー)とコード引抜機を備えている。ゴム押出機は、溶融した液状のゴムをダイス23に連続的に供給するものである。コード引抜機は、複数本のスチールコード4を同時にダイス23の各孔から引き抜くとともに、固化した複合体シートをダイス23から引き抜くものである。
【0033】
溶融ゴムRは、ゴム押出機の圧力容器21の出口22から押出され、テーパー状の縮径入口24からダイス23内に入り、ダイス23を通過する間にスチールコード4の周囲に密着し、全体としての形状がシート状になるように押し出される。これによりゴムRとスチールコード4とが密着一体化した複合体シートが形成される。複合体シートにおいてスチールコード4はゴムRのなかに完全に埋没している。なお、隣り合うコード4相互間のピッチ間隔は例えば1.0〜2.0mmである。
【0034】
このような複合体シートを巻取機のリールに巻き取り、このリールを裁断ラインの供給側に取り付け、切断機(図示せず)により複合体シートを所定長に切断した。
【0035】
(タイヤの製造)
複合体シートは、タイヤ内部で埋め込みコード4が互いに所定角度で交差するように裁断される。裁断された複数枚のシートとトレッド等の部材を、タイヤ成型機上で生ゴムタイヤ(グリーンタイヤ)の適所にそれぞれ組み込み、所定の形状に成形する。このようにして組み立てたゴム成形品を所定の加硫温度に加熱してゴムを硬化させると、所望のタイヤ製品が得られる。
【0036】
(実施例)
次に、表1を参照しながら実施例、比較例および従来例の各サンプルコードを対比して説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。原料ワイヤとして、JIS G3502に規定されたピアノ線(高張力鋼線)を所望の線径まで伸線し、適切な加熱処理を施した後、ブラスめっきしたワイヤを伸線加工して0.25mmとしたものを用いた。製造条件として、波付け高さを0.041mm、原料ワイヤのフリーコイル径を614.8mm、コード外径を0.63mm、側ワイヤの撚りピッチを15.3mmとした。コードの切断荷重は571Nであった。
【0038】
(実施例2)
実施例2として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.093mm、原料ワイヤのフリーコイル径を415.3mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.5mmとした。コードの切断荷重は586Nであった。
【0039】
(実施例3)
実施例3として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.041mm、原料ワイヤのフリーコイル径を418.1mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.9mmとした。コードの切断荷重は575Nであった。
【0040】
(実施例4)
実施例4として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.093mm、原料ワイヤのフリーコイル径を763.5mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.9mmとした。コードの切断荷重は588Nであった。
【0041】
(実施例5)
実施例5として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.041mm、原料ワイヤのフリーコイル径を266.0mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.7mmとした。コードの切断荷重は581Nであった。
【0042】
(実施例6)
実施例6として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.093mm、原料ワイヤのフリーコイル径を244.0mm、コード外径を0.64mm、側ワイヤの撚りピッチを15.1mmとした。コードの切断荷重は588Nであった。
【0043】
(比較例1)
比較例1として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.223mm、原料ワイヤのフリーコイル径を186.0mm、コード外径を0.64mm、側ワイヤの撚りピッチを14.8mmとした。コードの切断荷重は576Nであった。
【0044】
(比較例2)
比較例2として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.223mm、原料ワイヤのフリーコイル径を198.2mm、コード外径を0.64mm、側ワイヤの撚りピッチを14.8mmとした。コードの切断荷重は584Nであった。
【0045】
(比較例3)
比較例3として、図1の装置1を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付け高さを0.223mm、原料ワイヤのフリーコイル径を143.0mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.8mmとした。コードの切断荷重は580Nであった。
【0046】
(従来例1)
従来例1として、図10の装置100を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。装置100は、波付け装置を備えていない点を除いて図1の装置1と実質的に同じ構成であり、パスラインの上流側から順に2つの送給リール105、外部ガイドローラ106、In-Out型バンチャー撚り線機110、キャプスタン111および巻取ドラム112を備えている。
【0047】
製造条件として、波付けなし、原料ワイヤのフリーコイル径を360.0mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.9mmとした。コードの切断荷重は606Nであった。
【0048】
(従来例2)
従来例2として、図10の装置100を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付けなし、原料ワイヤのフリーコイル径を227.0mm、コード外径を0.65mm、側ワイヤの撚りピッチを14.9mmとした。コードの切断荷重は614Nであった。
【0049】
(従来例3)
従来例3として、図10の装置100を用いて2+2構造のスチールコードを製造した。上記と同様の原料ワイヤを用いた。製造条件として、波付けなし、原料ワイヤのフリーコイル径を82.0mm、コード外径を0.64mm、側ワイヤの撚りピッチを15.0mmとした。コードの切断荷重は617Nであった。
【0050】
(コードの真直性の評価)
タイヤベルト部やタイヤカーカス部に使用されるスチールコードの性能を評価するために用いられる特性として「アークハイト」があげられる。「アークハイト」は、スチールコードの直線性の評価に用いられ、非拘束状態にあるコードの直線性の評価手段として重要である。アークハイトが大きすぎると、タイヤ製造プロセスの複合体シート裁断工程において、裁断された複合体シートに捩れや立ち上がりなどの不良が発生し、作業性を著しく損なうばかりでなく、タイヤの品質が均一でなくなるためタイヤ性能に悪影響を与える場合があるからである。上述の幅の狭い複合体シートを用いる工程においてもアークハイトが大きいと同様の問題を生じる。むしろ、複合体シートの幅が狭いためにシート端部の立ち上がりが発生したときの影響が大きくなる傾向がある。
【0051】
図7の(a)に示すように、長さL2(例えば400mm)に切断したコード4をアークハイトの測定に用いる。図7の(b)に示すように、コード4の両端を平坦な基台19に接触させた状態でコード4が形成する円弧の高さAHがアークハイトである。通常、アークハイトAHが30mm以下であれば良好であり、そのコードは実用上問題ないものといえる。一方、アークハイトAHが30mmを超えると不良であり、そのコードを用いた複合体シートでは端部の跳ね上がりが大きくなり、最終のタイヤ製品において支障を生じやすくなる。
【0052】
表1に示すように、実施例1,2,3,4,5,6のコードでは、アークハイト(直線性)がそれぞれ18.9mm,16.7mm,15.0mm,18.3mm,20.8mm,16.1mmと良好な結果が得られた。これに対して比較例1,2,3のコードでは、アークハイトがそれぞれ33.1mm,31.9mm,33.2mmと大きく、いずれも合格基準(30mm)を上回った。なお、従来例1,2,3のコードではアークハイトがそれぞれ13.6mm,16.9mm,34.5mmであった。
【0053】
(シートの平坦性の評価)
図8及び図9を参照して複合体シートの平坦性の評価方法について説明する。
【0054】
先ず複合体シートの平坦性の測定方法について説明する。図8の(a)に示すドラム30の外周に厚さ0.5mm×幅100mm×長さ1000mmのゴムシートRを巻き付け、その上に1本のコード4を図8の(b)に示すように所定の間隔で巻き付ける。さらにその上に、図8の(c)に示すように同じサイズのゴムシートRを重ねて、これを上側から押圧して圧着させる。巻き付けたコード4を横切るように幅方向にシートRSを切断し、幅100mm×長さ1000mmサイズの複合体シートRSを得る。
【0055】
得られた複合体シートRSを、図9に示すように、平坦な基台19上に十分長い時間静置した後、シート端部40の基台19の面からの立ち上がり量W1,W2を測定する。この測定した立ち上がり量W1,W2が複合体シートRSの平坦性の評価の指標となる。通常、端部の立ち上がり量の平均測定値が5mm以下であれば良好であり、その複合体シートは実用上問題ないものといえる。一方、端部の立ち上がり量の平均測定値が5mmを超えると不良である。
【0056】
表1に示すように、実施例1,2,3,4,5,6のコードでは、立ち上がり量の平均測定値がそれぞれ3mm,2mm,1mm,2mm,3mm,2mmと良好な結果が得られた。これに対して比較例1,2,3のコードでは、立ち上がり量の平均測定値がそれぞれ21mm,25mm,24mmと大きく、いずれも合格基準(5mm)を上回った。なお、従来例1,2,3のコードでは立ち上がり量の平均測定値がそれぞれ2mm,2mm,27mmであった。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、乗用車、トラック、バスなどのタイヤを補強するためのスチールコードの製造に利用可能である。特に、本発明のコードはタイヤベルト部の補強に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のスチールコードの製造方法に用いられる装置を模式的に示す概略構成図。
【図2】波付装置(ピンロール加工機)の概要を示す正面図。
【図3】波付装置(ピンロール加工機)の概要を示す側面図。
【図4】波付装置(ピンロール加工機)の主要部を示す部分拡大図。
【図5】スチールコードにゴムを被覆する複合体シートの作製方法を説明するための断面模式図。
【図6】(a)は本発明コードの1/4ピッチごとのワイヤ位置を示す断面模式図、(b)は本発明コードの外観を模式的に示す斜視図、(c)は従来コードの1/4ピッチごとのワイヤ位置を示す断面模式図、(d)は従来コードの外観を模式的に示す斜視図。
【図7】(a)は所定長に切断されたスチールコードを示す図、(b)はスチールコードのアークハイト測定方法を説明するための模式図。
【図8】(a)〜(c)は平坦性測定に用いられる複合体シートのテストピースを作製する手順を説明するための模式図。
【図9】複合体シートの平坦性を測定する方法を説明するための模式図。
【図10】従来のスチールコードの製造方法に用いられる装置を模式的に示す概略構成図。
【符号の説明】
【0060】
1…スチールコード製造装置、
2,3…ワイヤ、2A…波付けされたワイヤ、4…スチールコード、
5…送給リール、
6…外部ガイドローラ、
7a〜7d…ターンローラ、
8…クリンプ装置(ピンロール波付加工機)、81…ハウジング、
82a,82b…大ローラ、83a,83b…ピンロール、
85…入口ガイド、86…出口ガイド、87a,87b…ホルダ、
9…送給リール、
10…撚線機、11…キャプスタン、12…巻取ボビン、
19…基台、
20…ゴム被覆装置、
21…押出器の圧力室、22…出口、
23…ボイス、
24…テーパー入口、25…テーパー出口、
30…ドラム、
40…シート端部、
R…ゴム、RS…複合体シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状に接触する相互接触線がワイヤ軸線に沿うように引き揃えられた実質的に同径の2本の心ワイヤと、
前記心ワイヤと実質的に同径であり、前記心ワイヤの周囲に巻き付けるように撚り合わされた2本の側ワイヤと、を有し、
前記心ワイヤは、その周囲に前記側ワイヤが撚り合される前に所望の波付けが施されていることを特徴とするスチールコード。
【請求項2】
前記心ワイヤの波付けは、前記心ワイヤが撚り線機のなかを通過する間になされる二次元形状の波付けであることを特徴とする請求項1記載のスチールコード。
【請求項3】
2+2構造のスチールコードを製造するためのスチールコードの製造方法において、
(i)2本の心ワイヤを撚り線機に送給して撚り合せ、
(ii)前記撚り線機に内蔵された波付け装置を用いて前記心ワイヤに所望の波付けを施し、
(iii)前記工程(ii)で波付けされた2本の心ワイヤの周囲に2本の側ワイヤを前記工程(i)の撚り方向とは逆向きに撚り合わせ、これにより前記心ワイヤを前記工程(i)の撚り量と実質的に同じ量だけ撚り戻して、前記2本の心ワイヤを線状に接触する相互接触線がワイヤ軸線に沿うように引き揃え、
(iv)最終的に相互接触線がワイヤ軸線に沿うように前記2本の心ワイヤを引き揃えた状態で、2+2構造のスチールコードを巻き取ることを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項4】
前記工程(ii)の波付けは、前記2本の心ワイヤが撚り線機のなかを通過する間になされる二次元形状の波付けであることを特徴とする請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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