説明

ステアリングシステム

【課題】転舵装置への水の侵入に対処可能なステアリングシステムを得る。
【解決手段】転舵装置60のハウジング62の左右の各々の端部120に水滴センサ150を配設する。ブーツ130が破れる等により、水がハウジングの端部120のスリーブ124の内周部に配設された水滴センサ150の表面に付着すると、水滴センサ150の1対の電極154,156間の電気抵抗値が小さくなるため、水が検出される。本ステアリングシステムは、異常処理装置を備えており、左右いずれかの水滴センサ150によって水が検出された場合には、その側の転舵モータ90等の作動を禁止することにより、転舵モータ90等が短絡等によって失陥することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを有する転舵装置を備えたステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、転舵装置は、ハウジングを車幅方向に貫通した転舵ロッドを有しており、その転舵ロッドを左右に駆動することによって車輪を転舵する。下記特許文献1には、ハウジング内に転舵ロッドを駆動する電動モータが配設された転舵装置が記載されている。
【特許文献1】特開2001−80530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ハウジングの両端部には転舵ロッドが貫通する穴が設けられており、その穴から水が浸入する虞がある。そのハウジングの両端部,およびその両端部の各々から延び出す転舵ロッドの先端部は、通常、ブーツと称するカバーによって覆われており、ハウジング内に水が入らないようにされているが、そのカバーが破れた場合等にハウジング内に水が浸入する可能性があるのである。ハウジング内に水が浸入すると転舵装置の劣化(錆等)が促進されるという問題がある。また、特に、転舵装置のハウジング内に電動モータが配設されている場合には、浸入した水により電動モータが失陥する虞があるという問題がある。上記特許文献1に記載された転舵装置は、ハウジング内への水の浸入に関して何ら対策がなされていない。そのような問題は従来の転舵装置の問題の一例であり、従来の転舵装置には種々の観点からの改良の余地がある。すなわち、転舵装置を備えたステアリングシステムに種々の改良を施すことによって、ステアリングシステムの実用性を向上させることができる。本発明は、そういった実情を鑑みてなされたものであり、より実用的なステアリングシステムを得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、転舵装置に配設されてハウジング内に浸入する水を検出する水センサを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のステアリングシステムは、水センサによってハウジング内に浸入する水を検出することにより、その浸入した水によって問題が生じないように素早く対処することができる。なお、本発明のステアリングシステムの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(5)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、それぞれ相当する。
【0008】
(1)ハウジングと、そのハウジングを車幅方向に貫通して自身の両端部の各々が前記ハウジングの車幅方向の両端部である左右のハウジング端部の各々から延び出して車輪に連結された転舵ロッドとを備えた転舵装置と、
その転舵装置に配設されて前記ハウジング内に浸入する水を検出する1以上の水センサと
を備えたことを特徴とするステアリングシステム。
【0009】
通常、転舵装置にはカバーが取り付けられて水の浸入が防止されているが、カバーが破れた場合等には、ハウジング内に水が浸入する虞がある。本項に記載のステアリングシステムは、水センサによってハウジング内に浸入する水を検出することにより、その浸入した水によって問題が生じないように素早く対処することができる。具体的には、例えば、早急にカバーを交換することにより転舵装置の劣化を抑制することができる。また、本項に記載のステアリングシステムは、例えば、ハウジング内に、転舵位置センサ等の電子機器,電動モータ(以後、「モータ」と称する場合がある)等が配設されている態様では、水センサによって水を検出することにより、例えば、モータ等を停止させることによって、ショート(短絡)等によるモータ等の失陥を防止することができる。
【0010】
左右のハウジング端部の各々には、転舵ロッドを通すための穴が設けられており、その穴から水が浸入する虞がある。従って、例えば、その穴,あるいはその穴の付近に水センサを設置することにより、ハウジング内に浸入する前に,あるいは浸入した後の比較的初期の段階で水を検出することができる。具体的には、例えば、ハウジング端部の穴の周囲,転舵ロッドの外周部等に水センサを配設することができる。また、例えば、水センサをハウジング内に配設することもできる。本項に記載の水センサの態様は、特に限定はされないが、例えば、吸水によって電気抵抗が変化する物質(例えば、繊維,木材等),吸水によって寸法が変化する物質(例えば、膨潤性のナイロン・フィルム等)等を利用するセンサ、あるいは水の付着による電極間の電気抵抗の変化を検出するセンサ等の態様とすることができる。
【0011】
(2)当該ステアリングシステムが、前記1以上の水センサとして2つの水センサを備え、
それら2つの水センサの各々が、前記左右のハウジング端部の各々に配設されたものである(1)項に記載のステアリングシステム。
【0012】
左右のハウジング端部の各々に水センサを配設すれば、左右いずれの側でも水を検出することができる。なお、ハウジング端部には、例えば、ハウジングの車幅方向の端面,転舵ロッドが通る穴を形成するハウジング端部の内周部等が含まれている。
【0013】
(3)前記1以上の水センサの各々が、前記転舵ロッドの外径よりも内径が大きな環状をなし、前記転舵ロッドの外周に位置するように前記左右のハウジング端部の各々に配設されたものである(2)項に記載のステアリングシステム。
【0014】
環状の水センサを、転舵ロッドの外周に位置するように、言い換えれば、ハウジング端部の穴の周に沿って配設すれば、穴の周囲のいずれの方向から水が伝ってきても、その水を検出することができる。
【0015】
(4)前記1以上の水センサの各々が、
それぞれが、互いに他方に向かって延び出す複数の検出片を有する1対の電極を備え、それら1対の電極が、互いに接触しないように、かつ、一方の前記電極の前記複数の検出片の各々と他方の前記複数の検出片の各々とが互いに近接して配置され、それら1対の電極間が水によって短絡された際の抵抗の変化に基づいて水を検出するものである(1)項ないし(3)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
【0016】
本項に記載の水センサは、自身に付着した水によって1対の電極間の電気抵抗が変化することを検出するものである。そのため、比較的シンプルな構造にすることができる。本項に記載の1対の電極の各々は、例えば、櫛状の形状とすることができる。具体的には、例えば、1対の櫛状の電極の櫛歯(検出片の一種である)が互いに噛み合うように配置すれば、広い範囲において、水を検出することができる。また、本項の1対の電極の各々は、環状とすることができ、例えば、互いに対向する1対の電極の各々の環状の部分から、他方の電極に向かって複数の検出片が延び出す形状とすることもできる。
【0017】
(5)当該ステアリングシステムが、
前記1以上の水センサによって水が検出された際に、設定された処理を行う異常処理装置を備えた(1)項ないし(4)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
【0018】
本項に記載の異常処理装置は、例えば、水が検出されたこと、すなわち、異常が発生したことを運転者に報知することができる。運転者に異常(水が検出されたこと)を報知するために、例えば、異常処理装置自身が異常を報知する機能を備えていてもよいし、ステアリングシステムに異常を報知する異常報知装置が設けられていてもよい。具体的には、異常処理装置自身,あるいは異常報知装置が、例えば、モニタやランプ,スピーカ,バイブレータ等を備え、視覚,聴覚,触覚等を通じて運転者に異常が発生したことを知らせるようにすることができる。また、ハウジング内に、転舵位置センサ等の電子機器,電動モータ等が配設されていた場合には、例えば、それらの作動を停止させることによって、それらがショート等により失陥することを防止することができる。
【0019】
(6)当該ステアリングシステムが、前記1以上の水センサとしての2つの水センサを備え、それら2つの水センサの各々が前記左右のハウジング端部の各々に配設され、
前記転舵装置が、前記ハウジング内に互いに軸方向に並んで配設されて前記転舵ロッドを車幅方向に駆動する2つの電動モータを備え、
前記異常処理装置が、前記2つの水センサの検出結果に基づいて、水が検出された前記水センサに近い方の前記電動モータの作動を禁止するものである(5)項に記載のステアリングシステム。
【0020】
本項に記載の転舵装置は、ハウジング内に2つのモータが配設された態様である。本項の転舵装置は、例えば、2つのモータのうちのいずれか一方を停止させても、他方のモータの駆動力によって転舵を行うことができる。そのため、異常処理装置によって、水が検出された側のモータの作動を禁止してモータの失陥を防止しても、他方のモータによって転舵を行うことができる。すなわち、本項の態様は、ステアリングシステムのフェールセーフ性が向上させられた態様である。
【0021】
(7)当該ステアリングシステムが、
操作部材に加えられた操作力によらずに前記転舵装置の駆動力によって転舵を行うとともに、操作部材になされた操舵操作の前記転舵装置への機械的な伝達の有無を切り換える操舵操作伝達切換装置を備えるシステムであって、
前記異常処理装置が、前記1以上の水センサの検出結果に基づいて、水が検出された後に、前記転舵装置の作動を禁止するとともに、前記操作力伝達切換機構によって操舵操作が前記転舵装置に伝達されるように切り換えるものである(5)項または(6)項に記載のステアリングシステム。
【0022】
本項に記載のステアリングシステムは、いわゆるステアバイワイヤと呼ばれる態様であり、通常時は、操作部材と転舵装置とは機械的に連結されておらず、操作力は転舵装置に伝達されない。本項に記載の転舵装置は、例えば、1以上の電動モータを備えており、操舵操作に応じて、モータに駆動力を発生させることにより車輪の転舵が行われる。本項に記載の異常処理装置は、モータの失陥を防止するためにモータの作動を禁止する際に、操舵操作伝達切換装置によって操舵操作が転舵装置に機械的に伝達されるようにすることができ、車両を走行可能な状態とすることができる。すなわち、本項の態様は、ステアリングシステムのフェールセーフ性が向上させられた態様である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の一実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0024】
1. ステアリングシステムの概要.
図1に、請求可能発明の一実施例であるステアリングシステムを概略的に示す。本システムは、操作部10と、転舵部12とが機械的に分離され、操作部材としてのステアリングホイール14に加えられる操作力によらずに、転舵部12に設けられた動力源の動力によって転舵車輪16(以下、単に「車輪16」という場合がある)を転舵するステアリングシステムである。また、本システムは、異常が発生した場合等に必要に応じて、操作部10と、転舵部12とを機械的に連結する連結部18を備えている。そのため、例えば、転舵部12の動力源を使用できない場合等には、連結部18によって操作力を転舵部12に伝達することができる。
【0025】
操作部10には、操作部材たるステアリングホイール14と、そのステアリングホイール14を操作可能に支持するステアリング操作装置20(以後、「操作装置」と略記する場合がある)とが設けられている。操作装置20は、後方端部(車両後方側、つまり運転者側の端部)にステアリングホイール14が取り付けられたシャフト22,そのシャフト22を回転可能に保持するとともに、圧縮コイルスプリングによってステアリングホイール14に中立位置に向かう向きの付勢力をシャフト22を介して付与するばね反力機構24,シャフト22の前方端部(車両前方側の端部)に相対回転不能に固定されたギヤを回転駆動することによりステアリングホイール14に反力を付与する反力モータ30,および,反力モータ30の回転角度を取得するための回転角センサ32を備えている。
【0026】
連結部18は、操作力が入力される操作部側軸40,操作力を転舵部12側に出力する転舵部側軸42,および,操作部側軸40と転舵部側軸42との間の操作力の伝達の有無を切り換え可能にそれらを連結する電磁クラッチ44(操舵操作伝達切換装置の一種である)を備えている。操作部側軸40は、シャフト22と接続されており、ステアリングホイール14になされた操舵操作に応じて回転させられるようにされている。電磁クラッチ44は、電力が供給されない消磁状態において操作部側軸40と転舵部側軸42とを連結し、励磁状態においてその連結を解除するものとなっている。転舵部側軸42は、ユニバーサルジョイント50およびインタミディエイトシャフト52を介して転舵部12の操作力入力軸54と接続されており、操作力を転舵部12に出力するようにされている。
【0027】
転舵部12には、車輪16を転舵させる転舵装置60が設けられている。その転舵装置60は、ハウジング62と、そのハウジング62を車幅方向に貫通した状態で支持された転舵ロッド64とを備えている。その転舵ロッド64は両端部の各々において、ボールジョイント66を介してタイロッド70と連結されている。そのタイロッド70は、車輪16を回転可能に保持するステアリングナックル72に固定されたナックルアーム74に連結されている。すなわち、転舵装置60は、転舵ロッド64を左右に駆動することによって、ステアリングナックル72を回転させ、車輪16の転舵を行うのである。
【0028】
2. 転舵装置.
図2に、転舵装置60の下から見た断面を示す。本実施例において、転舵装置60は、転舵モータ(以後、単に「モータ」と称する場合がある)によって転舵ロッド64を駆動する第1駆動部80と、操作力によって転舵ロッド64を駆動する第2駆動部82とを備えている。第2駆動部82は、操舵部10と連結部18を介して連結されたピニオンギヤ84と、そのピニオンギヤ84と噛み合うように転舵ロッド64に形成されたラックギヤ86とを含んで構成されている。そのピニオンギヤ84は、操作力入力軸54に相対回転不能に接続されており、電磁クラッチ44が消磁状態(連結状態)にされている場合には操舵操作に応じて回転させられるが、電磁クラッチ44が励磁状態(非連結状態)にされている場合には回転駆動力が作用しない状態にされている。すなわち、電磁クラッチ44が消磁状態にされている場合には、ピニオンギヤ84は操舵操作に応じて回転させられて転舵ロッド64を軸方向に駆動し、一方、電磁クラッチ44が励磁状態にされている場合には、ピニオンギヤ84は転舵ロッド64の軸方向の移動に伴い回転させられるのである。なお、通常時には、第1駆動部80によって転舵が行われるため、電磁クラッチ44が励磁状態とされて操舵操作が第2駆動部82に伝達されない状態とされている。
【0029】
なお、転舵装置60には、ピニオンギヤ84の回転位置を取得するためのセンサが転舵位置センサ88として設けられている。ピニオンギヤ84は、転舵ロッド64が軸方向に移動するのに伴い回転させられるため、そのピニオンギヤ84の回転位置を取得すれば転舵ロッド64の移動量、すなわち、転舵位置を取得することができるのである。
【0030】
第1駆動部80は、2つの転舵モータ90,92、すなわち、右側転舵モータ90(図において左側),左側転舵モータ92と、ハウジング62に軸受を介して回転可能に保持されて2つの転舵モータ90,92によって回転駆動される駆動軸94と、その駆動軸94の回転によって転舵ロッド64を軸方向に移動させるボールねじ機構96とを備えている。2つの転舵モータ90,92の各々は、互いに転舵ロッド64の軸線方向に並べて配設されている。また、2つの転舵モータ90,92の各々は、ハウジング62の内周面に固定されたステータコイル100と、駆動軸94の外周部に固定された永久磁石102とを含んで構成されている。駆動軸94は、中空状にされており、その中空状の部分を転舵ロッド64が相対移動可能な状態で貫通している。ボールねじ機構96は、駆動軸94の一端部に相対回転不能に固定されたボールナット104と、そのボールナット104とベアリングボールを介して螺合する転舵ロッド64に形成されたボールねじ106とを含んで構成されている。そのボールねじ機構96は、駆動軸94(詳しくは、ボールナット104)の回転を転舵ロッド64の軸線方向の移動に変換することにより、2つの転舵モータ90,92の駆動力を転舵力に変換するのである。
【0031】
また、2つの転舵モータ90,92の各々は、ステータコイル100に電力を供給するための電気配線110を備えている。その電気配線110は、本実施例において、2つの転舵モータ90,92の各々の、互いに他方のモータと反対側に位置するようにハウジング62に固定されている。さらに、それら電気配線110の各々は、ハウジング62を貫通して設けられて電力の供給を受ける外部端子112に接続されている。
【0032】
上述のように、本実施例において、ハウジング62内には、電動モータである2つの転舵モータ90,92、それらを駆動回路に接続するための電気配線110等が配設されている。そのため、電気配線110,ステータコイル100等が浸入した水に濡れると、転舵モータ90等が短絡して失陥する場合があるのである。なお、ハウジング62には、2つの転舵モータ90,92の各々のステータコイル100の間に、リング状の仕切壁114が設けられている。その仕切壁114によって、ハウジング62内に左右いずれかの側から浸入した水が、他方の側へ移動しないようにされている。また、右側転舵モータ90の右側に、駆動軸94の回転角度を取得するための回転角センサ116が設けられている。その回転角センサ116は、駆動軸94とともに回転するパルスロータ118の回転角度を電磁ピックアップによって検出するものとされている。
【0033】
図3に、転舵装置60の車両左側(図1において右側)の部分を拡大して示す。ハウジング62の車両左側の端部120には、ブラケット121が設けられており、転舵装置60はそのブラケット121において車体に取り付けられる。また、ハウジング62の端部120には、その内径が小さくされた小径部122が設けられており、その小径部122において、ハウジング62は、転舵ロッド64と相対移動可能に摺接している。さらに、ハウジング64の端部120は、小径部122の車両左側の位置に、左方に開口した筒状の部分であるスリーブ124を有している。そのスリーブ124の内径は、転舵ロッド64の先端に設けられたボールジョイント126の外径よりも大きくされている。
【0034】
転舵装置60には、スリーブ124の開口を覆うためのブーツ130が取り付けられている。そのブーツ130は、蛇腹状の形状をしており、それぞれ大径・小径の2つの開口を有している。ブーツ130は、その大径の開口部がスリーブ124の外周に嵌められるとともに、その開口部の外周側に環状留め具132が取り付けられて、ブーツ130とスリーブ124とが密着するように固定されている。また、小径の開口部がタイロッド70の外周に嵌められるとともに、その開口部の外周側に環状留め具134が取り付けられて、ブーツ130とタイロッド70とが密着するように固定されている。このように、ブーツ130によって、スリーブ124の開口からタイロッド70の転舵ロッド64側に位置する部分までが液密に覆われ、通常はブーツ130内に水が浸入しないようにされている。
【0035】
3. 水滴センサ.
本実施例において、スリーブ124の内周面に、水(例えば、水滴等の液体状態の水)を検出するための水滴センサ150(水センサの一種である)が配設されている。その水滴センサ150は、フィルム状をなした絶縁性の部材である樹脂フィルム152と、その樹脂フィルム152上に固定された1対の電極154,156とを含んで構成されている。1対の電極154,156の各々は、導電性材料である銅(金属の一種である)からなり、樹脂フィルム152上に貼り付けられている。図4に、1対の電極154,156の形状を模式的に示す。1対の電極154,156の各々は、環状の環状基部160,162と、その環状基部160,162の各々から中心軸線方向に延び出した複数の検出片164,166とを有している。それら1対の電極154,156の各々は、櫛状をなしており、その櫛歯となる検出片164,166が互いに噛み合うように配置させられている。また、1対の電極154,156の各々の検出片164,166が、互いに接触しないように、かつ、互いに近接するように、電極154,156が配置されている。図5に、水滴センサ150の断面を示す。本実施例において、1対の電極154,156の各々の検出片164,166が、周方向に並べられていることが分かる。以上のように、本実施例において、水滴センサ150は、厚みが薄くされており、スリーブ124の内周面に配設しやすいものとされている。また、本実施例において、水滴センサ150は、電極がシート状に配置されたもの、あるいは設定された曲面に沿って配置されたものと捉えることができる。なお、水滴センサ150は、円周の一部が切り取られた形状にされてスリーブ124の内周面に密着しやすくされているが、円周の一部が切り取られた形状であることは必要不可欠ではなく、全周にわたって連続した形状をなしていてもよい。
【0036】
1対の電極154,156の各々は、互いに接触しないように配置されており、通常それらの間の電気抵抗値は非常に大きいものとなる。しかし、例えば、検出片164,166の間に水(例えば、水滴)が存在する場合には、その水によってそれら検出片164,166の間に導通が生じて短絡するため、電気抵抗値が小さくなる。なお、ブーツ130内に入ってくる水は、例えば、雨水等であり、いくらかのイオンを含んでいるため、導電性を有しているのである。1対の電極154,156の各々は、スリーブ124に設けられたセンサ接続端子170を介して、後述するステアリング電子制御ユニットに接続されている。なお、図6に示す転舵装置60の車両右側(図において左側)の端部120については、左側の端部120とほぼ同様であるため説明を省略する。
【0037】
4. 電子制御ユニット.
本ステアリングシステムは、自身が備えるステアリング電子制御ユニット200(ステアリングECU、以下、単に「ECU200」という場合がある)によって制御される。ECU200は、コンピュータを主体として、各種モータ,各種装置等の駆動回路等を含んで構成されている。ECU200には、回転角センサ32,116、転舵位置センサ88、水滴センサ150等の各種センサが接続されている。また、ECU200には、運転者に対して各種の情報を表示するモニタ210が接続されている。さらに、ECU200には、駆動回路を介して、反力モータ30、2つの転舵モータ90,92、電磁クラッチ44等が接続されている。ECU200のコンピュータの記憶部には、操舵制御プログラム,異常時処理プログラム等の種々のプログラムおよびデータ等が記憶されている。
【0038】
ECU200は、操舵制御プログラムを実行することにより、操舵操作に応じて車輪16の転舵を行い、また、ステアリングホイール14に反力を付与すること等を行う。具体的には、回転角センサ32の検出信号に基づいて取得された操作角度から目標転舵位置を決定する。そして、転舵位置センサ88の検出信号に基づいて取得された実転舵位置と、目標転舵位置との偏差を減少させるように2つの転舵モータ90,92に電力を供給し、車輪16の転舵を行う。一方、実転舵位置と目標転舵位置との偏差に応じて反力モータ30に電力を供給し、その偏差を減少させる方向の操作反力をステアリングホイール14に付与する。なお、通常時は、電磁クラッチ44に励磁電力を供給して、操作部10と転舵部12とが非連結状態になるようにしている。
【0039】
5. 異常時処理プログラム
水滴センサ150が水を検出した場合には、異常時処理プログラムによって水の侵入に対処する処理が行われる。その異常時処理プログラムのフローチャートを図7に示し、そのフローチャートに沿って異常時処理プログラムを説明する。なお、上述のように転舵装置60等の制御は操舵制御プログラムによって行われ、その操舵制御プログラムは、水が検出された際に、異常時処理プログラムから指令を受け、その指令に従って転舵装置60等の作動の態様を変更する。
【0040】
ステップ1(以後、ステップ1を「S1」と略記し、他の符号についても同様とする)において、ハウジング62の右側の端部120に配設された水滴センサ150の電気抵抗値RRが、設定されたしきい抵抗値Sを下回っているか否かが判定される。電気抵抗値RRが、しきい抵抗値S以上であれば水滴センサ150に水が付着していないと判定され、カウンタCRの値が0にされる(S2)。一方、しきい抵抗値Sを下回っていた場合には水滴センサ150に水が付着したと判定されて、カウンタCRの値が1増加させられる(S3)。異常時処理プログラムは、短時間(T時間)毎に繰り返し実行され、水滴センサ150に水が付着したと連続して判定された場合に、カウンタCRの値が1ずつ増加してゆくようにされているのである。S4〜S6の処理において、左側の水滴センサ150の電気抵抗値RLに基づいて、S1〜S3の処理と同様な処理が行われる。
【0041】
S7において、カウンタCRの値が、設定値Nを超えているか否かが判定される。異常時処理プログラムは、時間T毎に繰り返し実行されており、カウンタCRの値が設定値Nになると、水滴センサ150に水が付着した状態が「T×(N−1)」時間継続したことになる。つまり、水滴センサ150に水が付着した状態が設定時間を超えて継続した場合に、水が検知されて異常時処理を行うようにされているのである。S8,S9において、S7と同様に、カウンタCLの値が、設定値Nを超えたか否かが判定される。
【0042】
(a)いずれのカウンタも設定値Nを超えていない場合は、異常はなく、通常通り、2つの転舵モータ90,92によって車輪16の転舵が行われる。(b)カウンタCRの値が設定値Nを超えておらず、カウンタCLの値が設定値Nを超えている場合には、異常時処理1が行われる(S10)。すなわち、異常時処理1において、ハウジング62の左側で水が検出されたことがインパネのモニタ210を通じて運転者に報知されて修理が促されるとともに、ハウジング62の左側からの水の浸入に対処するために、左側転舵モータ92への電源の供給を停止し、右側転舵モータ90だけで転舵を行うように操舵制御プログラムに指令を行うのである。なお、電源の供給が停止された左側転舵モータ92は、比較的小さい抵抗で回転するようにされている。(c)カウンタCLの値が設定値Nを超えておらず、カウンタCRの値が設定値Nを超えた場合には、異常時処理2が行われる(S11)。その異常時処理2は、上記異常時処理1と、電源の供給を停止する転舵モータの左右が異なるだけで、それ以外は同様である。(d)カウンタCRの値およびCLの値の両方が設定値Nを超えた場合には、異常時処理3が行われる(S12)。その異常時処理3では、左右2つの転舵モータ90,92の両方が停止させられるが、それに先だって、操作部10から転舵部12に操作力が機械的に伝達可能になるように、連結部18によって、それらが連結される。具体的には、電磁クラッチ44を消磁状態にした後、左右2つの転舵モータ90,92への電力の供給を停止するように操舵制御プログラムに指令を行うのである。なお、電磁クラッチ44の消磁の前に、ハウジング62の両側から水が浸入したこと、および操舵部10と転舵部12とが連結されることが、モニタ210を通じて運転者に報知される。
【0043】
以上のような処理を行うことにより、水滴センサ150によって水が検出された場合に、転舵モータを停止させ、転舵モータが短絡等によって失陥しないように対処することができるのである。そのため、転舵モータの失陥によって突発的に転舵不能になるといった事態が回避することができ、ステアリングシステムのフェール性が向上する。なお、本実施例において、電子制御ユニット200の異常時処理プログラムを実行する部分を含んで、異常処理装置が構成されている。また、本実施例において、水の検出、つまり異常の発生がモニタ210を通じて視覚的に運転者に報知されており、そのモニタ210を含んで異常報知装置が構成されている。
【0044】
6. 変形例.
上記実施例において、水滴センサ150は、1対の電極154,156の各々が軸方向に延びる検出片164,166を有していたが、1対の電極の各々が径方向に延びる検出片を有する水滴センサ250とすることもできる。図8に、水滴センサ250を示す。水滴センサ250は、環状の樹脂フィルム251と、その樹脂フィルム251上に貼り付けられた1対の電極としての内周側電極252と外周側電極254とを備えている。内周側電極252は、内周側環状基部260と、その内周側環状基部260から外周に向かって放射状に延び出す複数の内周側検出片262とによって構成されている。外周側電極254は、外周側環状基部264と、その外周側環状基部264から中心に向かって延び出す複数の外周側検出片266とによって構成されている。1対の電極である内周側電極252と外周側電極254とは、互いに接触しないように、かつ、互いに近接して配置されるとともに、ECU200に接続されている。また、1対の電極254,256の各々の検出片262,264が周方向に並ぶようにされている。水滴センサ250は、図9に示すように、ハウジング62の左右両側の各々の端部120のスリーブ124の内周部に配設されている。具体的には、水滴センサ250が、スリーブ124と小径部122との間に形成された環状の段差270に接着されている。この水滴センサ250は、軸方向の厚さ寸法が小さくされた態様である。この態様においても、水滴センサ250によってハウジング62内に浸入する水を検出して、上記実施例で述べた異常時処理を行う等、水の侵入に素早く対処することができる。
【0045】
さらに、図10,図11に示すように、水滴センサ300,302を、1対のリング状の電極310,312が径方向に,あるいは1対のリング状の電極320,322が軸方向に並んで配置された態様とすることもできる。水滴センサ300は、例えば、上記水滴センサ250と同様に段差270に配設することができる。水滴センサ302は、例えば、前記水滴センサ150と同様に、スリーブ124の内周部に配設することができる。なお、水滴センサ302の樹脂フィルムの図示を省略した。これらの水滴センサ300,302であっても、ハウジング62内に浸入する水を検出して、上記実施例で述べた異常時処理を行う等、水の侵入に素早く対処することができる。これらの水滴センサ300,302は、構造がシンプルであり、水のイオン濃度が比較的高い場合に好適である。
【0046】
なお、上記実施例,および変形例の水滴センサは、センサに付着した水によって1対の電極間の電気抵抗値が変化することを検出する。すなわち、設定された距離だけ隙間を保って少なくとも2つの電極が配置していれば水を検出することが可能である。なお、車体あるいは車両の構成要素(上記実施例では、ハウジング62,転舵ロッド64等)を2つの電極のうちの1つの電極として機能させることもできる。また、水滴センサに、3以上の電極を設けることもできる。また、水滴センサの形状が環状であることは不可欠ではない。例えば、ハウジング64が車両に設けられた状態で、スリーブ124の内周部の下部等に、矩形状,棒状形状,弓状形状の水滴センサを配設すること等ができる。
【0047】
上記実施例,および変形例において、水滴センサが小径部122よりもハウジング62の開口部側に配設されていたが、小径部122よりもハウジング62の中心に近い側(転舵モータ90,92に近い側)、あるいは転舵ロッド64のハウジング62から延び出した部分の外周部に配設することもできる。転舵ロッド64に配設された水滴センサによって水が検出された場合は、実際にハウジング62内に水が浸入するまで少し時間が掛かると考えられ、水の侵入への対処は比較的遅くすることができる。一方、水滴センサを小径部122よりもハウジング62の中心に近い側に配設された水滴センサによって水が検出された場合は、より素早く水の侵入に対処することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】請求可能発明の実施例であるステアリングシステムの概略を示す図である。
【図2】上記ステアリングシステムの転舵装置を概念的に示す断面図である。
【図3】上記転舵装置の車両右側の端部を示す図である。
【図4】水滴センサの1対の電極を模式的に示す図である。
【図5】水滴センサの断面を模式的に示す図である。
【図6】上記転舵装置の車両左側の端部を示す図である。
【図7】上記水滴センサの検出値に基づいて水の侵入に対処する異常時処理プログラムのフローチャートである。
【図8】上記とは別の水滴センサを示す図である。
【図9】上記とは別の水滴センサの配設場所を示す図である。
【図10】上記とはさらに別の水滴センサの1対の電極を模式的に示す図である。
【図11】上記とはさらに別の水滴センサの1対の電極を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10:操作部 12:転舵部 14:ステアリングホイール(操作部材) 16:転舵車輪 18:連結部 20:ステアリング操作装置 44:電磁クラッチ(操舵操作伝達切換装置) 60:転舵装置 62:ハウジング 64:転舵ロッド 90:右側転舵モータ(電動モータ) 92:左側転舵モータ(電動モータ) 110:電気配線 120:ハウジングの端部 122:小径部 124:スリーブ 150:水滴センサ(水センサ) 200:ステアリング電子制御ユニット[ECU] 210:モニタ(異常報知装置) 250:水滴センサ 252:内周側電極 254:外周側電極 260:内周側環状基部 262:内周側検出片 264:外周側環状基部 266:外周側検出片 270:段差 300,302:水滴センサ 310,312:1対のリング状の電極 320,322:1対のリング状の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、そのハウジングを車幅方向に貫通して自身の両端部の各々が前記ハウジングの車幅方向の両端部である左右のハウジング端部の各々から延び出して車輪に連結された転舵ロッドとを備えた転舵装置と、
その転舵装置に配設されて前記ハウジング内に浸入する水を検出する1以上の水センサと
を備えたことを特徴とするステアリングシステム。
【請求項2】
当該ステアリングシステムが、前記1以上の水センサとして2つの水センサを備え、
それら2つの水センサの各々が、前記左右のハウジング端部の各々に配設されたものである請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
当該ステアリングシステムが、
前記1以上の水センサによって水が検出された際に、設定された処理を行う異常処理装置を備えた請求項1または2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
当該ステアリングシステムが、前記1以上の水センサとしての2つの水センサを備え、それら2つの水センサの各々が前記左右のハウジング端部の各々に配設され、
前記転舵装置が、前記ハウジング内に互いに軸方向に並んで配設されて前記転舵ロッドを車幅方向に駆動する2つの電動モータを備え、
前記異常処理装置が、前記2つの水センサの検出結果に基づいて、水が検出された前記水センサに近い方の前記電動モータの作動を禁止するものである請求項3に記載のステアリングシステム。
【請求項5】
当該ステアリングシステムが、
操作部材に加えられた操作力によらずに前記転舵装置の駆動力によって転舵を行うとともに、操作部材になされた操舵操作の前記転舵装置への機械的な伝達の有無を切り換える操舵操作伝達切換装置を備えるシステムであって、
前記異常処理装置が、前記1以上の水センサの検出結果に基づいて、水が検出された後に、前記転舵装置の作動を禁止するとともに、前記操作力伝達切換機構によって操舵操作が前記転舵装置に伝達されるように切り換えるものである請求項3または4に記載のステアリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−111032(P2006−111032A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297180(P2004−297180)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】