説明

ステアリング装置

【課題】ハウジング内に挿入されるブッシュの、挿入方向および反挿入方向での位置決めが容易なステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置は、ラック軸22を摺動可能に支持するブッシュ61と軸方向でのブッシュ61の位置を規定するストッパ手段とを備える。該ストッパ手段は、ハウジングの保持部60内に設けられて挿入方向でのブッシュ61の移動を規制する段部60cと、保持部60内に挿入方向に挿入されて反挿入方向でのブッシュ61の移動を規制するリング62とから構成される。リング62は、ブッシュ61に当接可能な本体部63と、反挿入方向でのリング62の移動を規制する係止部64と、保持部60の内周面60eに接触することによりリング62の倒れを防止する案内部65とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のラック・ピニオン型のステアリング装置、より詳細にはステアリング装置におけるラック軸の支持構造に関するものであり、該ステアリング装置は、例えばパワーステアリング装置である。
【背景技術】
【0002】
ラック・ピニオン型のステアリング装置において、路面や縁石からの反力などの外力がラック軸に作用したときに、該外力が大きいとラック軸が撓むことにより、ピニオンとラックと噛合部における歯の噛合状態が変化して歯打ち音が発生する。このため、この歯打ち音を低減するためのラック軸の支持構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置では、ラックハウジング内に配設されるラック軸は、軸方向に間隔をおいて配置される第1,第2,第3支持手段により支持される。第1支持手段は、ラック軸の一端側に設けられたラック歯とピニオンとの噛合いにより形成され、第2支持手段は、ラック軸の他端側に設けられた支持軸受により構成され、第3支持手段は、軸方向で第1,第2支持手段の間でラック軸に設けられた支持軸受により構成される。また、特許文献2に開示された電動パワーステアリング装置では、ピニオンとラックガイドとが、ステアリングギヤボックス内に収納されたラック軸の一端部を支持し、ボールねじのナットがラック軸の他端部を支持し、平軸受(ブッシュ)がラック軸の中間部を支持する。
【特許文献1】特開2002−321632号公報
【特許文献2】特開平11−20717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラック軸を支持する軸受またはブッシュは、ラック軸の撓み抑制の観点から設定された所定位置またはその近傍に保持されていないと、歯打ち音の低減効果が低下する。しかしながら、閉断面を有するブッシュの挿入方向および反挿入方向での移動を規制すべく、ハウジングの内周面に設けられた環状溝にブッシュを装着するには、ブッシュを縮径する必要があることからその組付性が低下する。そこで、ブッシュの組付性を向上させるために、ブッシュにスリットを形成すると、支持剛性が低下して、ラック軸の撓み抑制効果が低下する。一方、ブッシュがハウジングに設けられた段部に当接するように挿入される場合、ハウジング内へのブッシュの挿入は容易であるものの、反挿入方向へのブッシュの移動を規制することができない。また、挿入方向および反挿入方向への移動をブッシュの径方向での押圧力により行う場合は、ラック軸に対するブッシュによる押圧力も大きくなるので、ラック軸の摺動抵抗が大きくなって操舵フィーリングが低下する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、請求項1〜5記載の発明は、ハウジング内に挿入されるブッシュの、挿入方向および反挿入方向での位置決めが容易なステアリング装置を提供することを目的とする。そして、請求項2〜4記載の発明は、さらに、反挿入方向でのブッシュの移動を規制するストッパ手段の移動規制機能の向上およびハウジング内への組付性の向上を図ることを目的とし、請求項5記載の発明は、さらに、ラック軸が3つの支持部材で支持されるステアリング装置における中間の支持部材の位置決めを容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、操舵力が入力されるピニオンに噛合するラック部が設けられたラック軸を収納するハウジングと、前記ラック軸を軸方向に移動可能に支持する支持手段とを備え、前記支持手段は、前記ハウジング内に軸方向に挿入されて前記ハウジングに保持されると共に前記ラック軸を摺動可能に支持するブッシュから構成されるステアリング装置において、軸方向での前記ブッシュの位置を規定するストッパ手段を備え、前記ストッパ手段は、前記ハウジング内に設けられて挿入方向での前記ブッシュの移動を規制する段部と、前記ハウジング内に挿入方向に挿入されて反挿入方向での前記ブッシュの移動を規制するリングとから構成され、前記リングは、前記ラック軸が挿通する挿通口を形成すると共に前記ブッシュに当接可能な本体部と、前記本体部に一体に設けられて反挿入方向での前記リングの移動を規制する係止部と、前記本体部に一体に設けられると共に前記本体部から軸方向に突出して前記ハウジングの内周面に接触することにより前記リングの倒れを防止する案内部とを有するステアリング装置である。
【0007】
これによれば、ブッシュの挿入時は、段部により挿入方向での位置決めが行われ、ブッシュの挿入後は、段部により挿入方向での移動が規制され、リングにより反挿入方向での移動が規制されて、ブッシュが軸方向での所定位置またはその近傍に保持される。また、リングは、係止部により反挿入方向での移動が規制されるうえ、ハウジングへの挿入時には、案内部により倒れが防止されるので、その挿入が円滑になって、ハウジングへのリングの組付が容易になる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のステアリング装置において、前記係止部は、周方向で前記本体部の一部に径方向外方に向かって反挿入方向に屈曲して設けられると共に、前記本体部に反挿入方向の力が作用するとき先端部において前記ハウジングの内周面を径方向に押圧するように弾性的に変形可能であり、前記案内部は、前記係止部から周方向に離隔して前記本体部に設けられると共に前記本体部から反挿入方向に突出し、前記ハウジングの前記内周面との接触により弾性的に変形可能であるものである。
【0009】
これによれば、係止部は、反挿入方向に屈曲し、しかも内周面と接触すると弾性的に変形するので、挿入方向へのリングの移動を妨げない一方、反挿入方向の力が本体部に作用するとき、本体部に対して反挿入方向に屈曲している係止部が突っ張るようにしてハウジングの内周面を押圧するので、反挿入方向へのブッシュの移動が規制される。また、案内部は、本体部から反挿入方向に突出しているうえ、内周面と接触すると弾性的に変形するので、リングの挿入時に、案内部がハウジングに引っかかることがない。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のステアリング装置において、軸方向での前記案内部の長さは、軸方向での前記係止部の長さよりも長いものである。
【0011】
これによれば、案内部が係止部よりも長いことにより、リング挿入時に、リングの倒れの程度を小さくすることができる。また、係止部が短いことにより、屈曲角度を小さくすることができるので、径方向外方への押圧力を大きくすることができて、反挿入方向へのリングの移動が規制される。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項2または請求項3記載のステアリング装置において、複数の前記係止部および複数の前記案内部が周方向で交互に設けられるものである。
【0013】
これによれば、係止部および案内部が周方向に交互にあるので、周方向での偏りが少ない状態で、リングが係止および案内される。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項記載のステアリング装置において、前記支持手段は、第1,第2支持部材と、軸方向で前記第1、第2支持部材の間に配置される前記ブッシュとから構成されるものである。
【0015】
これによれば、ラック軸が軸方向に配置された3つの支持部材により支持されるので、ラック軸の撓みが抑制されるうえ、軸方向で第1,第2支持部材の間に配置されるブッシュの組付が容易になり、位置決めが容易になる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、次の効果が奏される。すなわち、段部およびリングによりブッシュの位置決めが行われ、リングは、案内部によりハウジング内への組付性が向上して、ブッシュの、挿入方向および反挿入方向での位置決めが容易なステアリング装置が得られる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、係止部および案内部が、反挿入方向に屈曲していて、弾性的に変形するので、リングによるブッシュの移動規制機能が向上し、ハウジング内へのリングの組付性が向上する。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、係止部による押圧力を大きくでき、案内部によりリングの倒れの程度を小さくできるので、リングによるブッシュの移動規制機能が向上し、ハウジング内へのリングの組付性が向上する。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、周方向での偏りが少ない状態で、リングが係止および案内されるので、リングによるブッシュの移動規制機能が向上し、ハウジング内へのリングの組付性が向上する。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、ラック軸の撓みが抑制されて、ピニオンとラック部との噛合に起因する歯打ち音が低減し、さらに第1,第2支持部材の間に配置されるブッシュの、挿入方向および反挿入方向での位置決めが容易なステアリング装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図1〜図5を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明が適用されたステアリング装置1は、運転者がハンドル2に加える操舵力が連動機構(図示されず)を介して入力されるギヤボックス3と、ギヤボックス3から出力される操舵力を操舵輪に伝達する1対のタイロッド4a,4bを備える伝達機構と、運転者による操舵力を軽減する補助操舵力を発生する電動モータ25を有する補助操舵力発生機構5とを備えるラック・ピニオン型の電動パワーステアリング装置である。
【0022】
ギヤボックス3は、車体に取り付けられるハウジング6と、ハンドル2からの操舵力が伝達される入力軸11を備える入力部10と、ハウジング6内に収納されて入力部10からの操舵力を前記伝達機構に出力するラック軸22を備えるラック・ピニオン機構とを備える。
【0023】
ハウジング6は、入力軸11を回転可能に支持する第1ハウジングとしての第1端部ハウジング7と、軸方向において、第1端部ハウジング7の端部7bに結合される端部9aを有する筒状の第2ハウジングとしての中間ハウジング9と、中間ハウジング9の別の端部9bに結合される端部8aを有する筒状の第3ハウジングとしての第2端部ハウジング8とから構成される。そして、3つのハウジング7〜9に跨ってラック軸22が収納される。
【0024】
図2を併せて参照すると、第1端部ハウジング7は、ラック軸22に沿って延びる筒状部7eを有する第1ハウジング部7cと、第1ハウジング部7cにボルトB1により結合されて第1ハウジング部7cと共同してギヤ室Gを形成する第2ハウジング部7dとから構成される。円筒状の筒状部7eは、端部7bと、ラック軸22の端部22aとタイロッド4aとの結合部を覆う防塵ブーツDが取り付けられる別の端部7aとを有する。第2端部ハウジング8は、端部8aと、ラック軸22の別の端部22bとタイロッド4bとの間を覆う防塵ブーツDが取り付けられる別の端部8bとを有する。また、中間ハウジング9は、筒状部7eおよび円筒状の第2端部ハウジング8に比べて薄肉の円筒状部材により構成され、端部9aを有するほぼ均一な径の径小部9cと、端部9bを有すると共に小径部9cよりも内径および外径が大径でほぼ均一な径の大径部9dとを有する。
【0025】
第1ハウジング部7c、中間ハウジング9および第2端部ハウジング8により、ラック軸22が挿通する挿通孔Hが形成される。そして、挿通孔Hの1対の端部開口Ha,Hbが、両端部7a,8bにそれぞれ形成される。
【0026】
なお、明細書または特許請求の範囲において、軸方向、径方向および周方向とは、それぞれ、ラック軸22の中心軸線L2が延びる方向、中心軸線L2を中心とする径方向および中心軸線L2を中心とする周方向であり、また断面とは、中心軸線L2に直交する平面での断面である。
【0027】
入力部10は、後述するトルクセンサ14に保持される軸受15を介して第2ハウジング部7dに回転可能に支持される入力軸11と、入力軸11に同軸にかつトーションバー13を介して相対回転可能に結合される出力軸12と、トーションバー13の捩れ量に基づいて操舵トルクを検出するトルクセンサ14とを備える。トーションバー13がその結合部としてのセレーション部13aにおいて結合される出力軸12は、ギヤ室Gで1対の玉軸受からなる軸受16,17を介して第1ハウジング部7cに回転可能に支持される。
【0028】
ギヤ室Gの外部で第2ハウジング部7dに取り付けられるトルクセンサ14は、トーションバー13の捩れ量に比例して入力軸11の回転中心線L1の方向A1(以下、「回転中心線方向A1」という。)に移動する被検出部としての円環状のコア14aと、該コア14aの位置を検出する検出部としての1対のコイル14b,14cとを備える。なお、トルクセンサ14は、車両の走行中に異物との衝突を防止するための保護カバー19により部分的に覆われる。
【0029】
前記ラック・ピニオン機構は、出力軸12に形成されて出力軸12と一体に回転するピニオン21と、ピニオン21と噛合するラック部23が形成されたラック軸22とを備える。1対の軸受16,17は、出力軸12において、回転中心線方向A1でピニオン21を挟んで位置する両端部12a,12bにそれぞれ設けられる1対のジャーナル部12c,12dをそれぞれ支持する。そして、出力軸12およびピニオン21の回転中心線は、回転中心線L1に一致する。
【0030】
ステアリング装置1が車両に搭載された状態で左右方向に延びて配置されるラック軸22は、ラック部23を除いてほぼ円柱面からなる外周面を有し、ステアリング装置1に備えられる後述する支持構造によりハウジング6に軸方向に往復運動可能に支持される。ラック軸22の一部が軸方向での所定範囲に渡って中心軸線L2に平行に切り欠かれた切欠き部に形成された歯部23aを有するラック部23は、ラック軸22の前記外周面の一部である背面23bを有し、ラック部23を該背面23bにおいて押圧するラックガイド31によりピニオン21に押し付けられている。
【0031】
前記伝達機構は、ラック軸22の両端部22a,22bに、それぞれ結合部としてのボールジョイント24a,24bを介して連結される1対のタイロッド4a,4bと、各タイロッド4a,4bと操舵輪とを連結するリンク機構(図示されず)とを備える。
【0032】
転舵時にラック軸22に補助操舵力を付加する補助操舵力発生機構5は、トルクセンサ14で検出された操舵トルクが入力される電子制御ユニット(図示されず)により制御されるアクチュエータとしての電動モータ25と、電動モータ25の回転力をラック軸22に伝達する伝動機構としてのウォームギヤ26とを備える。ギヤ室G内に収納されるウォームギヤ26は、第1ハウジング部7cに取り付けらる電動モータ25の回転軸と一体に回転するウォーム26aと、出力軸12に結合されて出力軸12と一体に回転するウォームホイール26bとから構成される。
【0033】
それゆえ、ステアリング装置1において、転舵すべく運転者がハンドル2に加えた操舵力が入力軸11に伝達されると、入力軸11はトーションバー13に捩りを生じさせつつ出力軸12およびピニオン21を回転させ、ピニオン21により駆動されたラック軸22が軸方向に移動する。同時に、トルクセンサ14により検出される操舵トルクに比例して作動する電動モータ25が、ウォームギヤ26、出力軸12およびピニオン21を介してラック軸22を軸方向に移動させる。このため、電動モータ25で発生した補助操舵力がラック軸22に伝達されて、運転者の操舵力が軽減される。
【0034】
図1を参照して、ラック軸22の前記支持構造について説明する。
この支持構造は、ハウジング6に保持されてラック軸22を軸方向に移動可能に支持する支持手段と、ハウジング6に対する前記支持手段の移動を規制するストッパ手段とから構成される。
【0035】
前記支持手段は、第1ハウジング部7cに保持されるラックガイド31および第1支持部材としての第1端部ブッシュ41と、第2端部ハウジング8に保持される第2支持部材としての第2端部ブッシュ51と、中間ハウジング9に保持されると共に軸方向で両端部ブッシュ41,51の間に配置される第3支持部材としての中間ブッシュ61とから構成される。各ブッシュ41,51,61が対応するハウジング7,8,9に保持された後、ラック軸22が環状の各ブッシュ41,51,61に挿入される。
【0036】
併せて図2,図3を参照すると、第1ハウジング部7cに形成されて筒状部7eから突出する保持部30の挿入孔30aに挿入される円柱状のラックガイド31は、ラック部23の背面23bに面接触する低摩擦部材からなるシート部材31aを有する。そして、ラックガイド31は、保持部30に螺着されるキャップ32との間に配置されたバネ33の弾発力によりラック部23をピニオン21に押し付けることにより、ラック軸22を軸方向に摺動可能に支持する。
【0037】
合成樹脂製の円環状のブッシュ41は、軸方向で、ピニオン21とラック部23との噛合部またはラックガイド31を挟んでブッシュ61とは反対側に配置され、ブッシュ41にはラック部23が挿通されている。そして、ブッシュ41は、ラックガイド31と端部開口Haとの間で筒状部7eの一部である保持部40に保持されて、ラック軸22を背面23bにおいて摺動可能に支持する。
【0038】
図3を参照すると、保持部40には、挿通孔Hの一部であって筒状部7eに設けられる挿通孔部分H1よりも大径の第1挿入孔40aと、第1挿入孔40aよりも大径の第2挿入孔40bとが設けられる。これら挿入孔40a,40bはいずれも挿通孔Hの一部である。挿通孔部分H1は第1挿入孔40aに対して径方向内方に、第1挿入孔40aは第2挿入孔40bに対して径方向内方に、第2挿入孔40bは第3挿入孔H2に対して径方向内方に、それぞれ位置する。端部7aに設けられて端部開口Haを有する第3挿入孔H2は、挿通孔Hにおいて、軸方向での一方向のラックストロークを規定するラック軸22に設けられる当接部としてのボールジョイント24a(図1参照)が進入可能な部分である。端部開口Haから第3,第2挿入孔H2,40bを経て第1挿入孔40aに軽圧入の状態で挿入されるブッシュ41は、保持部40において、挿通孔部分H1と第1挿入孔40aとにより形成される段部40cに当接して、挿入方向での移動が規制され、第2挿入孔40bに圧入されて固定されるストッパとしての金属製の円環状のリング49により、反挿入方向(すなわち、挿入方向とは反対方向)への移動が規制されて、保持部40からの抜止がなされる。保持部40において、第1挿入孔40aと第2挿入孔40bとにより形成される段部40dに当接して挿入方向での移動が規制されるリング49は、該リング49にボールジョイント24aが当接することから、ラックストロークを規定するストッパを兼ねる。それゆえ、ブッシュ41については、段部40cおよびリング49により前記ストッパ手段が構成される。
【0039】
図1を参照すると、合成樹脂製の円環状のブッシュ51は、軸方向での他方向のラックストロークを規定すべくラック軸22に設けられる当接部としてのボールジョイント24bと当接するストッパとしての端部8bの一部である保持部50に保持される。ブッシュ51は、その内周面の全周で、ラック軸22を摺動可能に支持する。保持部50には、端部開口Hbとの間に挿通孔Hの一部であって第2端部ハウジング8に設けられる挿通孔部分H3を挟んで該挿通孔部分H3よりも大径の挿入孔50aが設けられる。縮径されて端部開口Hbから挿通孔部分H3を経て挿入孔50aに挿入されたブッシュ51は、保持部50において、挿通孔Hと挿入孔50aとにより形成される1対の段部50b,50cに当接して、挿入方向および反挿入方向での移動がそれぞれ規制される。それゆえ、ブッシュ51については、両段部50b,50cにより前記ストッパ手段が構成される。なお、ブッシュ51には、縮径を容易にするためにスリットが設けられもよい。
【0040】
図1,図4を参照すると、合成樹脂製の円環状のブッシュ61は、ラックストロークの範囲においてラック部23が挿通しない位置で、両保持部40,50の間または両保持部30,50の間に位置する大径部9dの一部である保持部60に保持されて、径方向内方に凸状の湾曲部61cにおいてラック軸22を摺動可能に支持する。それゆえ、ブッシュ61は、軸方向で、両ブッシュ41,51の間、またはラックガイド31とブッシュ51との間に位置する。そして、ブッシュ61の軸方向での移動を規制する前記ストッパ手段は、段部60cとリング62とから構成される。
【0041】
ブッシュ61およびリング62は、中間ハウジング9が第2端部ハウジング8と結合される前に、挿通孔Hの一部であって端部9bに設けられる挿通孔部分H4の開口H4a(図1参照)から、軸方向に挿通孔部分H4に挿入される。そして、保持部60において、段部60cは、中間ハウジング9に設けられると共に挿入方向でのブッシュ61の端部61aで、挿入方向でのブッシュ61の移動を規制し、リング62は、保持部60内にブッシュ61と同じ挿入方向で挿入されて反挿入方向でのブッシュ61の端部61bで、反挿入方向でのブッシュ61の移動を規制する。
【0042】
図4,図5を参照すると、段部60cは、小径部9cと大径部9dとの段差部により構成される。一方、リング62は、金属製、例えば鋼製の薄肉の板材からプレス加工により形成される。そして、ブッシュ61およびリング62は、保持部60において、挿通孔Hの一部であって小径部9cに設けられる挿通孔部分H5よりも大径の挿通孔部分H4の一部である挿入孔60aに挿入されて保持される。
【0043】
参照すると、リング62は、ラック軸22が挿通する挿通口63aを形成すると共に軸方向でブッシュ61が当接可能な本体部63と、本体部63に一体に設けられて反挿入方向でのリング62の移動を規制する係止部64と、本体部63に一体に設けられると共に本体部63から軸方向に突出して保持部60の内周面60eに接触することによりリング62の倒れを防止する案内部65とを有する。
【0044】
本体部63において、円形の挿通口63aを規定する内周縁63bは、全周に渡って反挿入方向に突出する円環状の環状壁により構成される。内周縁63bは、無負荷時のラック軸22との間に全周に渡って径方向での隙間を形成し、ラック軸22に前記外力の作用によりラック軸22が撓んで内周縁63bに接するとき、その撓みを抑制する。
【0045】
複数、この実施形態では6つの係止部64は、周方向で本体部63の一部に周方向に等しい間隔をおいて設けられる。各係止部64は、本体部63の外周縁63cから径方向外方に向かって反挿入方向に屈曲角度θで屈曲すると共に径方向での先端部64aにおいて挿入孔60aを規定する内周面60eを径方向に押圧する。そして、各係止部64は弾性的に変形可能な突出片により構成され、ブッシュ61が本体部63に反挿入方向の力を作用させるとき、該力は先端部64aが内周面60eに接触している各係止部64を径方向外方に押し広げようとするため、各係止部64は内周面60eに作用させる押圧力を増加させるように弾性変形する。
【0046】
複数、この実施形態では6つの案内部65は、係止部64から周方向に離隔して本体部63に周方向に等しい間隔をおいて設けられる。各案内部65は、本体部63から反挿入方向に突出し、軸方向での案内部65の長さは、軸方向での係止部64の長さよりも長い。そして、係止部64および案内部65は、この実施形態では1つずつ周方向で交互に設けられるが、1または複数ずつが混在した状態で、またはすべて複数ずつ、交互に設けられてもよい。
【0047】
そして、リング62を成形するには、まず、平板状の板材を打抜き加工を施すことにより、円環状の本体部63、係止部64および案内部65が平板状に延びた状態の素材が成形される。次いで、該素材に、反挿入方向と同じ方向からのプレス加工による曲げ加工を施すことにより、本体部63に対して屈曲した内周縁63a、案内部65および係止部64が成形されて、図4に示されるリング62が得られる。
【0048】
それゆえ、ラック軸22は、ハウジング6(図1参照)に対して3つのブッシュ41,51,61により3点支持され、さらにラックガイド31により支持されることで、前記外力が作用したときのラック軸22の撓みが抑制され、歯打ち音が低減したステアリング装置1が得られる。
【0049】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
ステアリング装置1において、軸方向でのブッシュ61の位置を規定する前記ストッパ手段は、保持部60内に設けられた段部60cと、保持部60内に挿入されたリング62とから構成され、リング62は、ブッシュ61に当接可能な本体部63と、反挿入方向でのリング62の移動を規制する係止部64と、リング62の倒れを防止する案内部65とを有することにより、ブッシュ61の挿入時は、段部60cにより挿入方向での位置決めが行われ、ブッシュ61の挿入後は、段部60cにより挿入方向での移動が規制され、リング62により反挿入方向での移動が規制されて、ブッシュ61が軸方向での所定位置またはその近傍に保持される。また、リング62は、係止部64により反挿入方向での移動が規制されるうえ、中間ハウジング9への挿入時には、案内部65により倒れが防止されるので、その挿入が円滑になって、中間ハウジング9へのリング62の組付が容易になる。この結果、段部60cおよびリング62によりブッシュ61の位置決めが行われ、リング62は案内部65により中間ハウジング9内に円滑に挿入されるので、ブッシュ61の、挿入方向および反挿入方向での位置決めが容易なステアリング装置1が得られる。
【0050】
係止部64は、本体部63から径方向外方に向かって反挿入方向に屈曲して設けられ、かつ本体部63に反挿入方向の力が作用するとき先端部64aにおいて保持部60の内周面60eを径方向外方に押圧するように弾性的に変形可能であり、案内部65は、係止部64から周方向に離隔すると共に本体部63から反挿入方向に突出し、かつ内周面60eとの接触により弾性的に変形可能であることにより、係止部64は、反挿入方向に屈曲していて内周面60eと接触すると弾性的に変形するので、挿入方向へのリング62の移動を妨げない一方、反挿入方向の力が本体部63に作用するとき、係止部64が突っ張るようにして内周面60eを押圧するので、反挿入方向へのブッシュ61の移動が規制される。また、案内部65は、本体部63から反挿入方向に突出しているうえ、内周面60eと接触すると弾性的に変形するので、リング62の挿入時に、案内部65が中間ハウジング9に引っかかることがない。この結果、リング62によるブッシュ61の移動規制機能が向上し、中間ハウジング9内へのリング62の組付性が向上する。
【0051】
軸方向での案内部65の長さは、軸方向での係止部64の長さよりも長いことにより、リング62の挿入時に、リング62の倒れの程度を小さくすることができる。また、係止部64が短いことにより、屈曲角度θを小さくすることができるので、径方向外方への押圧力を大きくすることができて、反挿入方向へのリング62の移動が規制される。この結果、挿入時のリング62の倒れの程度を小さくできるので、リング62によるブッシュ61の移動規制機能が向上し、中間ハウジング9内へのリング62の組付性が向上する。
【0052】
複数の係止部64および複数の案内部65が周方向で交互に設けられることにより、係止部64および案内部65が周方向に交互にあるので、周方向での偏りが少ない状態で、リング62が係止および案内されて、リング62によるブッシュ61の移動規制機能が向上し、中間ハウジング9内へのリング62の組付性が向上する。さらに、複数の係止部64および複数の案内部65が、周方向で等間隔に、しかも1つずつ交互に設けられることにより、周方向での偏りが一層少なくなるので、係止部64による移動の規制および案内部65による倒れの防止が、一層効果的になされる。
【0053】
ラック軸22が、ラックガイド31による支持に加えて、第1,第2端部ハウジング7,8にそれぞれ保持されるブッシュ41,51と、軸方向でブッシュ41,51の間に配置されて中間ハウジング9に保持されるブッシュ61とから構成されることにより、ラック軸22が軸方向に配置された3つの支持部材により支持されるので、前記外力が加わることによるラック軸22の撓みが抑制さるうえ、軸方向でブッシュ41,51の間に配置されるブッシュ61の組付が容易になり、位置決めが容易になる。この結果、ラック軸22の撓みが抑制されて、ピニオン21とラック部23との噛合に起因する歯打ち音が低減し、さらにブッシュ41,51の間に配置されるブッシュ61の、挿入方向および反挿入方向での位置決めが容易なステアリング装置1が得られる。
【0054】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
案内部65の、径方向での先端部が内周面60eを径方向外方に押圧することにより、案内部65が係止部を兼ねるリング62であってもよい。
ブッシュ41を省くことが可能である。
本発明が適用されるステアリング装置は、補助操舵力発生機構が電動モータ以外のアクチュエータを備えるパワーステアリング装置であってもよく、また補助操舵力発生機構は補助操舵力をラック軸に加えるものであってもよい。さらに、本発明が適用されるステアリング装置は、補助操舵力発生機構を備えないものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明が適用されたステアリング装置の、一部を断面で示す概略全体図である。
【図2】図1のステアリング装置において、入力軸の回転中心線を含む断面での断面図である。
【図3】ラック軸が移動したときの図1のIII−III線断面図である。
【図4】(A)は、リングが外観で示される図1の要部拡大図であり、(B)は、(A)のB−B線断面図である。
【図5】図4(B)のV−V線断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1…ステアリング装置、2…ハンドル、3…ギヤボックス、5…補助操舵力発生機構、6〜9ハウジング、10…入力部、11…入力軸、12…出力軸、13…トーションバー、14…トルクセンサ、15〜17…軸受、18…ピン、19…保護カバー、21…ピニオン、22…ラック軸、23…ラック部、25…電動モータ、26…ウォームギヤ、30…保持部、31…ラックガイド、32…キャップ、33…バネ、40…保持部、41…ブッシュ、49…リング、50…保持部、51…ブッシュ、60…保持部、60c…段部、61…ブッシュ、62…リング、63…本体部、64…係止部、65…案内部、
B1,B2…ボルト、G…ギヤ室、D…防塵ブーツ、H…挿通孔、θ…屈曲角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵力が入力されるピニオンに噛合するラック部が設けられたラック軸を収納するハウジングと、前記ラック軸を軸方向に移動可能に支持する支持手段とを備え、前記支持手段は、前記ハウジング内に軸方向に挿入されて前記ハウジングに保持されると共に前記ラック軸を摺動可能に支持するブッシュから構成されるステアリング装置において、
軸方向での前記ブッシュの位置を規定するストッパ手段を備え、前記ストッパ手段は、前記ハウジング内に設けられて挿入方向での前記ブッシュの移動を規制する段部と、前記ハウジング内に挿入方向に挿入されて反挿入方向での前記ブッシュの移動を規制するリングとから構成され、前記リングは、前記ラック軸が挿通する挿通口を形成すると共に前記ブッシュに当接可能な本体部と、前記本体部に一体に設けられて反挿入方向での前記リングの移動を規制する係止部と、前記本体部に一体に設けられると共に前記本体部から軸方向に突出して前記ハウジングの内周面に接触することにより前記リングの倒れを防止する案内部とを有することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記係止部は、周方向で前記本体部の一部に径方向外方に向かって反挿入方向に屈曲して設けられると共に、前記本体部に反挿入方向の力が作用するとき先端部において前記ハウジングの内周面を径方向に押圧するように弾性的に変形可能であり、前記案内部は、前記係止部から周方向に離隔して前記本体部に設けられると共に前記本体部から反挿入方向に突出し、前記ハウジングの前記内周面との接触により弾性的に変形可能であることを特徴とする請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
軸方向での前記案内部の長さは、軸方向での前記係止部の長さよりも長いことを特徴とする請求項2記載のステアリング装置。
【請求項4】
複数の前記係止部および複数の前記案内部が周方向で交互に設けられることを特徴とする請求項2または請求項3記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記支持手段は、第1,第2支持部材と、軸方向で前記第1、第2支持部材の間に配置される前記ブッシュとから構成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載のステアリング装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−256483(P2006−256483A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76776(P2005−76776)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】