説明

ステアリング装置

【課題】異音の発生を抑制することができるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置の舵角比可変機構は、カム溝22を有するカム部材21と、カム溝22内を移動可能に設けられたコマ部材23と、コマ部材23が回転可能に設けられる偏心ピン24とを備えた。また、カム溝22の一対の側面51と、コマ部材23の各側面51との各対向面52との間に、金属材料により構成されたばね部61を有するダンパ53をそれぞれ設けた。そして、ばね部61を幅方向に弾性変形可能に構成し、ダンパ53を側面51と対向面52との間でばね部61が圧縮状態となるように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のステアリング装置には、例えばステアリングに連結された第1軸と、転舵輪に連結された第2軸とを互いに所定量偏心して配置し、これら各軸を舵角比可変機構によって回転伝達可能に連結することにより、操舵角変化と転舵輪の舵角(転舵角)変化との関係が非線形となるように構成したものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このような舵角比可変機構は、各軸の軸線方向と直交する方向に延びた断面コ字状のカム溝を有するカム部材と、カム溝内を摺動可能に設けられた円筒形状のコマ部材と、コマ部材がニードルベアリング等の軸受を介して回転可能に設けられる偏心ピンとを備えてなる。そして、例えばカム部材が第1軸と一体回転可能に連結されるとともに、偏心ピンが第2軸に対して上記所定量よりも大きく偏心した位置において一体回転可能に連結される。こうした舵角比可変機構を備えたステアリング装置では、ステアリング操作により生じる第1軸の回転は、カム溝内におけるコマ部材の摺動及び偏心ピンを中心としたコマ部材の回転を伴って該偏心ピン(コマ部材)が第2軸の同心円上を移動することにより、第2軸に伝達される。これにより、偏心ピンのカム溝内における位置に応じて、ステアリング操作により生じる第1軸の回転角変化と、転舵輪の転舵角変化を規定する第2軸の回転角変化との関係、すなわち操舵角変化と転舵角変化との関係を非線形なものとすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−143429号公報
【特許文献2】特開平5−178222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コマ部材はカム溝内に摺動可能に挿入されるものであり、各構成部品の製造公差を許容すべく、コマ部材の外形寸法はカム溝の幅(各軸の軸線方向及びカム溝の長手方向と直交する方向の長さ)よりも僅かに小さく設定される。従って、カム溝におけるその長手方向に延びた一対の側面と、コマ部材における各側面と対向する対向面との間には、カム溝の幅方向に隙間が形成される。
【0006】
そのため、例えばステアリング操作に伴うカム部材の回転開始時、或いは車両の転舵輪が縁石に衝突した場合等に生じる逆入力の印加時等に、カム溝の側面とコマ部材の対向面とが衝突し、異音が発生する虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、異音の発生を抑制することができるステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、互いに所定量偏心して配置された第1軸及び第2軸と、これら前記第1軸及び前記第2軸を回転伝達可能に連結する舵角比可変機構とを備え、前記舵角比可変機構は、前記第1軸に連結されるとともに前記各軸の軸線方向と直交する方向に延びたカム溝を有するカム部材と、前記カム溝内を移動可能に設けられたコマ部材と、前記コマ部材が回転可能に設けられる偏心ピンとを備えてなり、前記偏心ピンは、前記第2軸から前記所定量よりも大きく偏心した位置において該第2軸と一体回転可能に連結されたステアリング装置において、前記カム溝における該カム溝の長手方向に延びた一対の側面と、前記コマ部材の前記各側面と対向する対向面との間の少なくとも一方には、金属材料により構成されたばね部を有するダンパが設けられ、前記ばね部は、前記軸線方向及び前記長手方向と直交する幅方向に弾性変形可能に構成され、前記ダンパは、前記側面と前記対向面との間で前記ばね部が圧縮状態となるように設けられたことを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、カム溝の一対の側面とコマ部材の対向面との間の少なくとも一方に、ダンパが圧縮状態で設けられることにより、これらの間の隙間が埋められる。従って、例えばステアリング操作に伴うカム部材の回転開始時或いは逆入力の印加時等に、側面と対向面とが互いに衝突することを防ぎ、異音が発生することを抑制できる。そして、ダンパのばね部は、金属材料により構成されるため、例えば側面と対向面との間にばね部がゴムにより構成されたダンパを設ける場合に比べ、同ばね部が熱等によって劣化し難く、長期間に亘って安定的に異音の発生を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステアリング装置において、前記ダンパは、前記ばね部の先端部に設けられる接触部を備え、該接触部は前記側面及び前記対向面のいずれか一方に摺動可能に接触するものであり、前記ダンパは、前記側面と前記対向面とに挟まれた状態で、前記ばね部の基端部が前記側面及び前記対向面のいずれか他方に固定されることを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、ダンパは側面及び対向面のいずれか一方に接触する接触部を備え、ばね部の基端部が側面及び対向面のいずれか他方に固定される。そのため、例えば側面と対向面との間に、同側面又は対向面に対してばね部の基端部がそれぞれ固定される2つのダンパを設け、これらダンパ同士が互いに摺動可能に接触する場合に比べ、部品点数の増大を抑制できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のステアリング装置において、前記接触部は、前記側面及び前記対向面のいずれか一方に面接触するように形成されたことを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、ダンパの接触部は、側面及び対向面のいずれか一方に対して面接触するため、線接触又は点接触する場合に比べ、例えば第1軸から第2軸に回転を伝達する際に、側面及び対向面のいずれか一方と接触部と接触圧を小さくすることができ、装置の長寿命化を図ることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載のステアリング装置において、前記接触部の前記側面及び前記対向面のいずれか一方側の表面は、低摩擦係数を有する材料により構成されたことを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、接触部の側面及び対向面のいずれか一方側の表面は、低摩擦係数を有する材料により構成されるため、同表面と側面及び対向面のいずれか一方との摺動抵抗を小さくすることができ、コマ部材をカム溝内で円滑に移動させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載のステアリング装置において、前記側面及び前記対向面のいずれか他方には、凹部が形成され、前記ばね部の基端部は、前記凹部に圧入可能に形成されたことを要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、ダンパは、ばね部の基端部が凹部に圧入可能に構成されているため、コマ部材をカム溝に挿入する前の状態、すなわちダンパが側面と対向面との間に挟まれていない状態で、容易にダンパをカム部材又はコマ部材に固定することができ、組み付け性の向上を図ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のステアリング装置において、前記コマ部材は、潤滑油が含浸された焼結材料により構成され、前記コマ部材には、前記偏心ピンが摺動可能に挿入される挿入孔が形成されたことを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、潤滑油が含浸された焼結材料によりコマ部材が構成されるため、同コマ部材からしみ出る潤滑油によって、コマ部材と偏心ピンとの間の回転抵抗を小さくすることが可能になり、軸受を用いずとも偏心ピンを中心としてコマ部材を安定的に回転させることができる。従って、従来(例えば特許文献2参照)のようにコマ部材と偏心ピンとの間に軸受を介在させる場合に比べ、部品点数を削減できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、異音の発生を抑制することが可能なステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ステアリング装置のステアリングコラム付近の断面図。
【図2】舵角比可変機構近傍の拡大断面図。
【図3】偏心ピンを用いた舵角比可変機構の作用説明図。
【図4】本実施形態の偏心ピン近傍の軸線方向と直交する断面図。
【図5】A−A断面図。
【図6】別の偏心ピン近傍の軸線方向と直交する断面図。
【図7】(a)別のダンパの斜視図、(b)B−B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1において、一端(同図中、右側の端部)にステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト3を構成するコラムシャフト4は、その両端部が軸受5a,5bに軸支されることによりステアリングコラム6内において回転可能に収容されている。このコラムシャフト4の他端(同図中、左側の端部)は、舵角比可変機構7を介して、同コラムシャフト4の軸線L1からその径方向に所定量偏心して配置された出力軸8の一端に回転伝達可能に連結されている。そして、出力軸8の他端は、自在継手(図示略)を介してインターミディエイトシャフト(図示略)に連結されることにより、そのステアリング操作に伴う回転(操舵トルク)が、ステアリングギヤ(ラック&ピニオン機構)等の図示しない転舵輪の舵角を変更する転舵機構へと伝達されるように構成されている。
【0023】
また、ステアリング装置1は、軸線方向におけるステアリングホイール2の位置(ステアリング位置)の調整を可能とする所謂テレスコ機能を有している。詳述すると、本実施形態のコラムシャフト4は、ステアリングホイール2が固定される中空状のアッパーシャフト11と、該アッパーシャフト11にスプライン嵌合されることにより同アッパーシャフト11に対して軸線方向への摺動が許容されるロアシャフト12とを備えている。また、ステアリングコラム6は、軸受5aを介してアッパーシャフト11を収容支持するアウタチューブ13と、軸受5bを介してロアシャフト12を収容支持するインナチューブ14とを備えており、アウタチューブ13は、その内周にインナチューブ14が挿入されることにより同インナチューブ14に対して軸線方向に摺動可能に設けられている。そして、インナチューブ14及びロアシャフト12に対してアウタチューブ13及びアッパーシャフト11を相対移動させることにより、その軸線方向におけるステアリング位置の調整可能な構成となっている。
【0024】
なお、本実施形態のステアリングコラム6は、図示しないブラケットにより上下方向に傾動可能に支持されており、当該ステアリングコラム6とともにコラムシャフト4を傾動させることにより、上下方向におけるステアリング位置の調整を可能とする所謂チルト機能を有している。
【0025】
図2に示すように、舵角比可変機構7は、コラムシャフト4(ロアシャフト12)の他端に一体回転可能に連結された略直方体状のカム部材21を備えている。このカム部材21には、コラムシャフト4及び出力軸8の軸線方向と直交する方向に延びるとともに出力軸8側に開口した略直線状のカム溝22が形成されている。また、舵角比可変機構7は、カム部材21に形成されたカム溝22内をその長手方向に移動可能に設けられたコマ部材23と、同コマ部材23が回転可能に設けられる偏心ピン24とを備えている。なお、カム溝22内には、コマ部材23が円滑に移動できように潤滑用のグリス(図示略)が所定の充填率で充填されている。この偏心ピン24は、上記所定量(コラムシャフト4と出力軸8との偏心量)よりも大きく偏心した位置において、その軸線L2を中心として出力軸8と一体回転可能に連結されている。つまり、本実施形態では、コラムシャフト4が第1軸に相当し、出力軸8が第2軸に相当する。
【0026】
詳述すると、ロアシャフト12の他端には嵌合穴31が形成されるとともに、カム部材21には軸線方向のロアシャフト12側に突出する突出部32が形成されており、同突出部32が嵌合穴31に嵌合することにより、カム部材21はロアシャフト12(コラムシャフト4)と一体回転可能に連結されている。また、出力軸8の一端側には、略円環状の連結部材34が該出力軸8と同軸状に固定されている。この連結部材34には、その中心(出力軸8の軸線L2)から上記所定量よりも大きく離れた位置に、偏心ピン24が固定される取付孔35が形成されている。なお、偏心ピン24は、その軸線L3がコラムシャフト4の軸線L1及び出力軸8の軸線L2と平行になるように設けられている。なお、本実施形態では、カム部材21には、カム溝22と連続する収容部36が形成されており、出力軸8の先端は同収容部36内に挿入されている。この収容部36は、出力軸8と干渉してカム部材21の回転を妨げないような断面略円形状に形成されている(図3参照)。
【0027】
従って、コラムシャフト4に連結されたカム部材21の回転は、カム溝22内におけるコマ部材23の移動、及び偏心ピン24を中心とした同コマ部材23の回転により許容される。そして、舵角比可変機構7は、図3に示すように、コマ部材23に連結された偏心ピン24がカム部材21の回転に伴い出力軸8の同心円上を移動することにより、コラムシャフト4の回転が出力軸8に伝達される構成となっている。
【0028】
ここで、同図において、破線で示す円は上記カム部材21の回転に伴い移動する偏心ピン24(の軸心)の軌跡を示す。また、二点鎖線で示す各四角形及び各円は、実線で示すステアリング中立位置(操舵角ゼロ)にあるコマ部材23及び偏心ピン24の位置(P0)から、カム部材21の回転(60°間隔)に応じた同コマ部材23及び偏心ピン24の位置(P1,P2,P1´,P2´,P3)を示している。そして、同図に示されるように、偏心ピン24の位置が「P0」に近いほど、カム部材21の回転角変化に対する同偏心ピン24の位置変化が小さく、また同偏心ピン24の位置が「P3」に近いほど、カム部材21の回転角変化に対する同偏心ピン24の位置変化が大きくなる。
【0029】
このように舵角比可変機構7は、互いに偏心配置されたコラムシャフト4及び出力軸8を回転伝達可能に連結し、且つステアリング操作により生じるコラムシャフト4の回転角変化と出力軸8の回転角変化との関係、すなわち操舵角変化と転舵輪の舵角(転舵角)変化との関係を非線形なものとすることが可能となっている。
【0030】
また、ステアリング装置1は、所謂コラム式の電動パワーステアリング装置として構成されている。詳述すると、図1及び図2に示すように、出力軸8は、軸受41a〜41cに軸支されることにより、ステアリングコラム6の他端に固定されたセンサハウジング42及びウォームハウジング43内において回転自在に収容されている。また、出力軸8の外周には、ウォームホイール44が固定されている。そして、このウォームホイール44及び図示しないウォームギヤにより構成される変速機構によりモータ(図示略)の回転を減速してその出力軸8に伝達することにより、操舵系に対してアシスト力を付与することが可能な構成となっている。
【0031】
ここで、ステアリング装置1には、コラムシャフト4を介して伝達される操舵トルクを検出するためのトルクセンサ46が内蔵されている。具体的には、出力軸8は、上記連結部材34に連結される上側軸47と、上記ウォームホイール44が設けられた下側軸48とをトーションバー49を介して連結することにより構成されている。そして、トルクセンサ46は、そのトーションバー49の捻れ角を測定することにより、操舵系に入力される操舵トルクを検出するように構成されている。そして、図示しない制御装置がトルクセンサ46により検出される操舵トルクに基づいて、操舵系に対して付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0032】
(舵角比可変機構の異音抑制構造)
次に、本実施形態における舵角比可変機構の異音抑制構造について説明する。
上述のように、カム溝22の長手方向に沿った一対の側面と、コマ部材23における各側面と対向する一対の対向面との間に隙間が存在すると、同隙間に起因して異音が発生するといった問題が生じる。
【0033】
この点を踏まえ、図4及び図5に示すように、カム溝22の各側面51と、コマ部材23の各対向面52との間には、それぞれダンパ53が設けられている。このダンパ53は、金属材料により構成されるとともに軸線方向及び長手方向と直交する幅方向(図4における左右方向)に弾性変形可能なばね部61を有している。そして、この各ダンパ53は、側面51と対向面52との間でばね部61が圧縮状態となるように設けられており、これら側面51と対向面52との間の隙間を埋めている(除去している)。換言すれば、本実施形態では、ダンパ53はコマ部材23の幅方向両側に設けられており、コマ部材23はカム溝22内において各ダンパ53により幅方向両側から弾性的に挟圧されている。
【0034】
詳述すると、ダンパ53は、上記ばね部61と、同ばね部61の先端部61aに設けられて同側面51に接触する接触部62を備えており、側面51と対向面52とに挟まれた状態で、ばね部61の基端部61bが対向面52(コマ部材23)に固定されている。
【0035】
ばね部61は、接触部62の長手方向両端にそれぞれ形成されている。具体的には、接触部62におけるカム溝22の長手方向端部からその中央側に折り返された後、同接触部62の中央付近で再び長手方向端部側に折り返されたジグザグ形状に形成されている。
【0036】
接触部62は、側面51と平行な四角形平板状に形成されており、同側面51に対して面接触するようになっている。そして、接触部62の側面51側の表面63は、低摩擦係数を有する材料により構成されている。具体的には、本実施形態の接触部62は、ばね部61と一体に形成された金属材料からなる基部65と、基部65の側面51側に設けられた低摩擦部66とを有しており、同低摩擦部66に表面63が設けられている。この低摩擦部66は基部65を構成する金属材料よりも低摩擦係数を有する樹脂材料(例えば、四フッ化エチレン樹脂等)が同基部65にコーティングされることにより形成されている。なお、ばね部61及び基部65は金属材料からなる板材(鋼板)を折曲することにより形成されている。
【0037】
一方、コマ部材23は、略直方体状に形成されており、各対向面52は、側面51と平行な平面状に形成されている。この対向面52には、四角形状の凹部67が形成されている。そして、ばね部61の基端部61bが凹部67に圧入可能に形成されている。具体的には、ばね部61の軸線方向(図5における上下方向)の長さが、凹部67の軸線方向における長さよりも長く形成されることにより、基端部61bは凹部67に圧入される構成となっている。従って、本実施形態では、ダンパ53は側面51と対向面52とに挟持されるとともにばね部61の基端部61bが凹部67に圧入されることにより、ばね部61の基端部61bが対向面52に固定され、コマ部材23と同ダンパ53とが一体でカム溝22内をその長手方向に移動するようになっている。
【0038】
また、コマ部材23は、潤滑油を含浸させた多孔質の焼結金属により構成されており、同コマ部材23の略中央には、軸線方向に貫通した挿入孔68が形成されている。この挿入孔68内には、偏心ピン24が挿入されている。そして、偏心ピン24の外周面が挿入孔68の内周面に対して摺動することにより、コマ部材23が偏心ピン24を中心として回転可能に構成されている。なお、図5に示すように、偏心ピン24には、径方向外側に延出された円環状のフランジ部24aが形成されている。そして、コマ部材23は、カム溝22の底部22a又はフランジ部24aに当接することにより、軸線方向への移動が規制されるようになっている。
【0039】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)ステアリング装置1の舵角比可変機構7は、カム溝22を有するカム部材21と、カム溝22内を移動可能に設けられたコマ部材23と、コマ部材23が回転可能に設けられる偏心ピン24とを備えた。また、カム溝22の一対の側面51と、コマ部材23の各側面51と対向する一対の対向面52との間に、金属材料により構成されたばね部61を有するダンパ53をそれぞれ設けた。そして、ばね部61を幅方向に弾性変形可能に構成し、ダンパ53を側面51と対向面52との間でばね部61が圧縮状態となるように設けた。
【0040】
上記構成によれば、カム溝22の各側面51とコマ部材23の各対向面52との間に、ダンパ53が圧縮状態で設けられることにより、これらの間の隙間が埋められる。従って、例えばステアリング操作に伴うカム部材21の回転開始時或いは逆入力の印加時等に、側面51と対向面52とが互いに衝突することを防ぎ、異音が発生することを抑制できる。そして、ダンパ53のばね部61は、金属材料により構成されるため、例えば側面51と対向面52との間にばね部がゴムにより構成されたダンパを設ける場合に比べ、同ばね部61が熱等によって劣化し難い。また、ばね部61が金属材料により構成されるため、カム溝22内に潤滑用のグリスが充填されていても、ゴムのように同グリスを吸収して膨潤しないため、そのばね特性が変化し難い。従って、ダンパ53により、長期間に亘って安定的に異音の発生を抑制することができる。
【0041】
(2)ダンパ53は、ばね部61の先端部61aに設けられるとともに側面51に摺動可能に接触する接触部62を備え、側面51と対向面52との間に挟まれた状態で、基端部61bが対向面52に固定されるようにした。そのため、例えば側面51と対向面52との間に、同側面51又は対向面52に対してばね部61の基端部61bがそれぞれ固定される2つのダンパ53を設け、これらダンパ53の接触部同士が互いに摺動可能に接触する場合に比べ、部品点数の増大を抑制できる。
【0042】
(3)接触部62を側面51に対して面接触するように形成したため、線接触又は点接触する場合に比べ、ステアリングシャフト3から出力軸8に回転を伝達する際に、側面51とダンパ53の接触部62と接触圧を小さくすることができ、装置の長寿命化を図ることができる。
【0043】
(4)接触部62の表面63は、低摩擦係数を有する樹脂材料により構成されるため、表面63と側面51との摺動抵抗を小さくすることができ、コマ部材23をカム溝22内で円滑に移動させることができる。
【0044】
(5)対向面52に凹部67を形成し、ばね部61の基端部61bを、同凹部67に圧入可能に形成したため、コマ部材23をカム溝22に挿入する前の状態、すなわちダンパ53が側面51と対向面52との間に挟まれていない状態で、容易にダンパ53をコマ部材23に固定することができ、組み付け性の向上を図ることができる。
【0045】
(6)コマ部材23を、潤滑油が含浸された焼結材料により構成し、コマ部材23に偏心ピン24が摺動可能に挿入される挿入孔68を形成した。そのため、同コマ部材23からしみ出る潤滑油によって、コマ部材23と偏心ピン24との間の回転抵抗を小さくすることが可能になり、軸受を用いずとも偏心ピン24を中心としてコマ部材を安定的に回転させることができる。従って、従来(例えば特許文献2参照)のようにコマ部材23と偏心ピン24との間に軸受を介在させる場合に比べ、部品点数を削減できる。
【0046】
(7)ばね部61及び接触部62を構成する基部65を、鋼板を折曲することにより形成したため、例えば接触部62(基部65)とばね部61とを別体で構成し溶接等により一体とする場合に比べ、容易にダンパ53を製造することができる。
【0047】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、コマ部材23を、焼結含油金属により構成し、同コマ部材23の挿入孔68に偏心ピン24を摺動可能に挿入したが、これに限らず、コマ部材23を焼結含油金属以外の材料で構成し、偏心ピン24との間にニードルベアリング等の軸受を介在させる構成としてもよい。
【0048】
・上記実施形態において、偏心ピン24の外周面を低摩擦とすべく、同外周面に例えば低摩擦係数を有する樹脂材料をコーティングするようにしてもよい。
・上記実施形態では、対向面52に凹部67を形成し、ばね部61の基端部61bを、同凹部67に圧入可能に形成したが、これに限らず、ばね部61の基端部61bが凹部67に圧入されない構成としてもよい。なお、この場合には、ダンパ53は側面51と対向面52とに挟持されることにより、ばね部61の基端部61bが対向面52に固定され、コマ部材23と同ダンパ53とが一体でカム溝22内をその長手方向に移動するようになる。
【0049】
・上記実施形態では、ダンパ53をコマ部材23の対向面52に固定するとともに、その接触部62がカム溝22の側面51に接触するようにした。しかし、これに限らず、図6に示すように、ばね部61の基端部61bを各側面51に形成された略直方体状の凹部71に圧入してダンパ53をカム溝22の側面51に固定し、接触部62がコマ部材23の対向面52に接触するようしてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、側面51と対向面52との間に、1つのダンパ53を設け、同ダンパ53の接触部62が側面51に接触するとともに、ばね部61の基端部61bが対向面52に固定されるようした。しかし、これに限らず、例えば側面51と対向面52との間に同側面51又は対向面52に対してばね部61の基端部61bがそれぞれ固定される2つのダンパ53を設け、これらダンパ53の接触部62同士が互いに接触するようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、接触部62の表面63(低摩擦部66)を、低摩擦係数を有する樹脂材料により構成したが、これに限らず、例えば金属材料(二硫化モリブデン等)からなる固体潤滑剤により低摩擦部66を構成してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、ダンパ53の接触部62を側面51と平行な平板状に形成し、接触部62が側面51に対して面接触するようにしたが、これに限らず、線接触又は点接触するようにしてもよい。例えば、上記実施形態において、接触部62を軸線方向視で円弧状に形成することにより、側面51に線接触するようにしてもよい。また、図6において、コマ部材23を円環状に形成することにより、接触部62が対向面52に線接触するようにしてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、鋼板を折曲することにより、ダンパ53のばね部61を形成したが、これに限らず、例えば図7に示すように、接触部62(基部65)の一部を切り起こすことにより幅方向に弾性変形可能なばね部72を形成するようにしてもよい。具体的には、基部65は、長方形板状に形成されており、ばね部72は、基部65の中央付近が切り起こされることにより、その長手方向(図7における上下方向)両端が基部65に接続された状態で形成されている。なお、ばね部72は、長手方向一端のみが接触部62に接続される態様でもよい。この構成では、上記実施形態の(1)〜(7)に準じた作用効果に加え、ばね部72を形成する前のダンパ53の外形が、基部65と同じ長方形板状であるため、ダンパ53の材料となる鋼板の歩留まりを向上させることができる。
【0054】
また、接触部62と、ばね部61とを別部材により構成し、溶接等により互いに連結するようにしてもよい。この場合において、ばね部61をコイルスプリング等により構成してもよい。
【0055】
・上記実施形態では、接触部62は、金属材料からなる基部65と、樹脂材料からなる低摩擦部66とを備えたが、これに限らず、接触部62に低摩擦部66を設けず、基部65が側面51に接触するようにしてもよい。また、例えば接触部62全体を樹脂材料からなる平板により構成し、別途ばね部61の先端部61aに接触部62を固定するようにしてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、カム溝22の各側面51とコマ部材23の各対向面52との間の両方に、それぞれダンパ53を設けた、すなわちコマ部材23の幅方向両側にダンパ53を設けたが、これに限らず、コマ部材23の幅方向におけるいずれか一方にのみダンパ53を設けるようにしてもよい。
【0057】
・上記実施形態では、コラムシャフト4を第1軸として構成し、出力軸8を第2軸として構成した。しかし、これに限らず、出力軸8を第1軸として構成して該出力軸8にカム部材21を設けるとともに、コラムシャフト4を第2軸として構成して該コラムシャフト4に偏心ピン24を設けるようにしてもよい。
【0058】
・上記実施形態では、本発明をチルト機能及びテレスコ機能を有するステアリング装置に適用したが、これに限らず、テレスコ機能のみ、あるいはチルト機能のみを有するステアリング装置に適用してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、本発明をコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されたステアリング装置1に具体化した。しかし、これに限らず、例えば所謂ラックアシスト式等、コラムアシスト以外のEPSや油圧式のパワーステアリング装置、或いはノンアシスト型のステアリング装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…ステアリング装置、3…ステアリングシャフト、4…コラムシャフト、7…舵角比可変機構、8…出力軸、21…カム部材、22…カム溝、23…コマ部材、24…偏心ピン、51…側面、52…対向面、53…ダンパ、61,72…ばね部、61a…先端部、61b…基端部、62…接触部、63…表面、65…基部、66…低摩擦部、67,71…凹部、68…挿入孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに所定量偏心して配置された第1軸及び第2軸と、これら前記第1軸及び前記第2軸を回転伝達可能に連結する舵角比可変機構とを備え、
前記舵角比可変機構は、前記第1軸に連結されるとともに前記各軸の軸線方向と直交する方向に延びたカム溝を有するカム部材と、前記カム溝内を移動可能に設けられたコマ部材と、前記コマ部材が回転可能に設けられる偏心ピンとを備えてなり、
前記偏心ピンは、前記第2軸から前記所定量よりも大きく偏心した位置において該第2軸と一体回転可能に連結されたステアリング装置において、
前記カム溝における該カム溝の長手方向に延びた一対の側面と、前記コマ部材の前記各側面と対向する対向面との間の少なくとも一方には、金属材料により構成されたばね部を有するダンパが設けられ、
前記ばね部は、前記軸線方向及び前記長手方向と直交する幅方向に弾性変形可能に構成され、
前記ダンパは、前記側面と前記対向面との間で前記ばね部が圧縮状態となるように設けられたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記ダンパは、前記ばね部の先端部に設けられる接触部を備え、該接触部は前記側面及び前記対向面のいずれか一方に摺動可能に接触するものであり、
前記ダンパは、前記側面と前記対向面とに挟まれた状態で、前記ばね部の基端部が前記側面及び前記対向面のいずれか他方に固定されることを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のステアリング装置において、
前記接触部は、前記側面及び前記対向面のいずれか一方に面接触するように形成されたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のステアリング装置において、
前記接触部の前記側面及び前記対向面のいずれか一方側の表面は、低摩擦係数を有する材料により構成されたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載のステアリング装置において、
前記側面及び前記対向面のいずれか他方には、凹部が形成され、
前記ばね部の基端部は、前記凹部に圧入可能に形成されたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のステアリング装置において、
前記コマ部材は、潤滑油が含浸された焼結材料により構成され、
前記コマ部材には、前記偏心ピンが摺動可能に挿入される挿入孔が形成されたことを特徴とするステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−230554(P2011−230554A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100161(P2010−100161)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】