説明

ステアリング装置

【課題】ステアリング装置における振動の抑制と操舵感の向上とを高いレベルで両立し得る技術を提供する。
【解決手段】ステアリング装置は、ステアリングホイールの回転が伝達されるピニオン40と、ピニオン40と噛み合うラック42が形成されているラックバー52と、ラックバー52を収納する筒状のラックハウジング50と、ラックバー52をピニオン40に向けて付勢しつつ支持するラックガイド機構30と、を備える。ラックガイド機構30は、ラックバー52の振動をエネルギーに変換する圧電素子64と、エネルギーの大きさに応じてラックバー52をピニオン40に向けて変位させる駆動部26と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置が知られている。このような電動パワーステアリング装置は、車両が走行する路面状態によっては、路面から受ける外乱を受けてステアリングホイールに不快な振動を伝達することがある。そこで、このような問題を解消するために、外乱検出センサと、外乱検出センサで検出した値に基づいてステアリング系が受ける外乱の影響を抑制する外乱抑制手段と、を備えるパワーステアリング装置が考案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置においては、ラック軸のラックとピニオン軸のピニオンとの噛み合い部分で、ラック軸とピニオン軸との間に互いに離反する力が作用する。そのため、ラック軸にたわみが発生し、ラック軸の歯すじ方向へのガタつきが大きくなり、ラックとピニオンとの歯部間に打音が生じることがある。そこで、このような打音の発生を防止するために、ラックガイドがラック軸から大荷重を受けたときにラック軸がピニオン軸に向かうように構成されたラック軸支持装置が考案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−265648号公報
【特許文献2】特開2002−87290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ラックとピニオンの歯面同士を押し付けることでステアリング装置における振動や異音を低減することが可能となるが、一方で歯面同士の摩擦力が増えるためステアリングホイールの操舵感が悪化する場合がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ステアリング装置における振動の抑制と操舵感の向上とを高いレベルで両立し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のステアリング装置は、ステアリングホイールの回転が伝達されるピニオンと、ピニオンと噛み合うラックが形成されているラックバーと、前記ラックバーを収納する筒状のハウジングと、前記ラックバーを前記ピニオンに向けて付勢しつつ支持するラックガイド機構と、を備える。前記ラックガイド機構は、前記ラックバーの振動をエネルギーに変換する変換部と、前記エネルギーの大きさに応じて前記ラックバーを前記ピニオンに向けて変位させる駆動部と、を有する。
【0008】
この態様によると、ラックガイド機構は、ラックバーの振動によって生じるエネルギーの大きさに応じてラックバーをピニオンに向けて変位させることができる。そのため、ラックバーが大きく振動し、異音が発生しそうな状況においては、振動によって生じるエネルギーが増加するため、ラックバーをピニオンに付勢する力が増加し、振動や異音が抑制される。一方、ラックバーの振動が小さい場合、振動によって生じるエネルギーは減少するため、ラックバーをピニオンに付勢する力は減少し、ラックバーとピニオンとの間の摩擦力が小さくなる。その結果、操舵感の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステアリング装置における振動の抑制と操舵感の向上とを高いレベルで両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施の形態に係るステアリング装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すラックハウジングにおけるピニオンおよびラック付近の部分断面図である。
【図3】ステアリング装置における振動の時間変化と圧電素子の電圧波形との関係を示すグラフである。
【図4】第2の実施の形態に係るラックガイド機構およびその近傍の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0012】
(第1の実施の形態)
はじめに、本実施の形態に係るラックガイド機構を備えたステアリング装置の構造を説明する。図1は、第1の実施の形態に係るステアリング装置10の概略構成を示す図である。
【0013】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ステアリングホイール12、ステアリングシャフト14、ピニオン40、ラックハウジング50、ラックバー52などの部品から構成されている。
【0014】
ステアリングシャフト14は、運転者によって操作されるステアリングホイール12に連結されステアリングホイールの回転が入力される入力軸14aと、ピニオン40へ回転を伝達する中間軸14bとに分割されている。入力軸14aと中間軸14bとは自在継手16で接続される。
【0015】
ラックハウジング50内には、車両の左右方向、すなわち車幅方向に延びるラックバー52が移動可能に収納されている。ピニオン40の両端は、軸受44によって回転可能に軸支される。ピニオン40は、ラックバー52の一部に形成されたラック42と噛み合わされている。自在継手16に接続された中間軸14bが回転すると、図示しないギヤを介してピニオン40が回転する。
【0016】
ラックバー52の両端には、それぞれタイロッド54の一端が接続される。タイロッド54の他端は、左右の操舵輪58を支持するナックルアーム56に連結されている。ナックルアーム56はキングピン60を支点として回転する。ステアリングホイール12が操作されてステアリングシャフト14が回転すると、この回転がピニオン40およびラック42によってラックバー52の車両左右方向の直線運動に変換される。この直線運動は、ナックルアーム56のキングピン60回りの回動に変換され、操舵輪58の転舵が行われる。
【0017】
図2は、図1に示すラックハウジング50におけるピニオン40およびラック42付近の部分断面図である。図2では、ラックバー52の中心軸53を含む垂直断面図として示されている。
【0018】
ラックガイド機構30は、ラックバー52をピニオン40に向けて付勢しつつ支持する装置である。ラックガイド機構30は、ピストン20と、スプリング22と、スライド部24と、駆動部26と、を有する。ピストン20は、ラックバー52と直接当接する当接部62と、当接部62を介して伝達されたラックバー52の振動をエネルギーに変換する変換部としての圧電素子64と、を有する。圧電素子64は、ピストン20の本体に形成されている凹部20aに嵌め込まれている。ピストン20は、全体として略円柱形状であるが、ピストン20の上端にある当接部62は、ラックバー52の周面に当接するための断面円弧形状の凹面が形成されている。
【0019】
円筒状の導管36は、ラックハウジング50の壁面に形成され、ラックハウジング50の中心軸に対して垂直方向に延びている。ラックガイド機構30の少なくとも一部は、導管36内に配置されている。ラックガイド機構30と導管36の中心軸38は、ラックガイド機構30に力がかかっていない状態では同軸に配置される。
【0020】
ピストン20の底面にはスプリング22の一端を受け入れるための凹部20bが形成されている。スプリング22の他端は、スライド部24の一方の面に形成されている凹部24aに支持されている。このスプリング22によって、ピストン20は常にラックバー52をピニオン40に向けて付勢する。導管36は、その開口部がプラグ34で塞がれている。駆動部26は、プラグ34とスライド部24との間に挟まれた状態で固定されている。ここで、駆動部26は、圧電アクチュエータやソレノイドなど、外部からのエネルギーによって変形や変位するものが好適である。
【0021】
上述のように、ステアリング装置10は、ステアリングホイール12の回転が伝達されるピニオン40と、ピニオン40と噛み合うラック42が形成されているラックバー52と、ラックバー52を収納する筒状のラックハウジング50と、ラックバー52をピニオン40に向けて付勢しつつ支持するラックガイド機構30と、を備える。ラックガイド機構30は、ラックバー52の振動をエネルギーに変換する圧電素子64と、エネルギーの大きさに応じてラックバー52をピニオン40に向けて変位させる駆動部26と、を有する。
【0022】
次に、ラックガイド機構30の機能について説明する。図3は、ステアリング装置における振動の時間変化と圧電素子64の電圧波形との関係を示すグラフである。図3に示す期間Tおよび期間Tにおいては、ステアリング(ラックバー)に関する振動はない状態であり、圧電素子64の出力電圧に変動はない。つまり、この状態では、圧電素子64において、ラックバーの振動をエネルギーにほとんど変換できない。そのため、駆動部26は作動せず、ラックバー52はピニオン40に向けて変位しない。このように、ラックバー52の振動が小さい場合、振動によって圧電素子64で生じるエネルギーは減少するため、駆動部26によってラックバーをピニオンに付勢する力が減少し、ラックバー52とピニオン40との間の摩擦力が小さくなる。その結果、操舵感の低下が抑制される。
【0023】
一方、図3に示す期間Tにおいては、路面状態やブレーキ動作によってステアリング(ラックバー)に関する振動が発生している状態であり、圧電素子64の出力電圧は大きく変動している。つまり、この状態では、圧電素子64において、ラックバーの振動がエネルギーに変換される。そのため、駆動部26は作動し、ラックバー52をピニオン40に向けて変位させることができる。このように、ラックバー52の振動が大きい場合、振動によって圧電素子64で生じるエネルギーが増加するため、駆動部26によってラックバー52をピニオン40に付勢する力が増加し、振動や異音が抑制される。
【0024】
このように、ステアリング装置10は、ラックバー52の振動状態に応じてラックバー52をピニオン40に付勢するセット荷重を変えることができるラックガイド機構30を備えているため、振動や異音の抑制と操舵感の向上とを高いレベルで両立することができる。
【0025】
(第2の実施の携帯)
図4は、第2の実施の形態に係るラックガイド機構およびその近傍の部分断面図である。図4に示すラックガイド機構130は、第1の実施の形態に係るステアリング装置10におけるラックガイド機構30の代わりとして用いることができる。なお、第1の実施の形態に係るステアリング装置10と同様の構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
【0026】
ラックガイド機構130は、ラックバー52をピニオン40に向けて付勢しつつ支持する装置である。ラックガイド機構130は、ピストン66と、オイル収容部68と、ゴムセパレータ70と、を有する。ピストン66は、ラックバー52と直接当接する当接部67を有する。ピストン66は、円筒状の導管72の内部に収納されている。導管72は、ラックハウジング50の壁面に形成され、ラックハウジング50の中心軸に対して垂直方向に延びている。
【0027】
ピストン66は、全体として略円柱形状であるが、ピストン20の上端にある当接部67は、ラックバー52の周面に当接するための断面円弧形状の凹面が形成されている。ピストン66は、その外周部に2つの周溝66aが形成されている。それぞれの周溝66aには、ピストン66と導管72の内壁との隙間を封止するOリング74が装着されている。ピストン20の底面にはオイルを受け入れるための空間となる凹部76が形成されている。
【0028】
オイル収容部68は、一方が開いた有底の筒状部78と、筒状部78の底部に設けられているバルブ80と、バルブ80を筒状部78の底部に対して接離可能に係止し、かつ、バルブの移動を規制する規制部82と、を有する。オイル収容部68は、筒状部78の開口側の環状の縁部と導管72の内壁の段差部72aとの間にゴムセパレータ70を挟んだ状態で、導管72内に固定されている。内部空間84は、筒状部78とゴムセパレータ70とで囲まれた空間である。筒状部78の底部には、筒状部78の内部空間84とピストン66の凹部76の空間とを連通するオリフィス86が複数形成されている。また、バルブ80は、オリフィス86と対応する位置に、オリフィス86より小さい貫通孔88が形成されている。凹部76および内部空間84には、オイルが封入されている。
【0029】
また、導管72は、Nガスが封入されるガス室72bが形成されている。ガス室72bは、導管72の内壁に形成されている凹部72cをゴムセパレータ70で覆うことで区画された領域である。凹部72cは、Nガスをガス室72bに充填するための充填孔72dが形成されており、プラグ90で塞がれている。
【0030】
次に、ラックガイド機構130の機能について説明する。ステアリング(ラックバー)に関する振動が実質的に発生していない通常時、ガス室72bに充填されたNガスの圧力により内部空間84のオイルが加圧され、その圧力が凹部76に伝達され、ピストン66がラックバー52に押し付けられる。この場合、Nガスの圧力しか作用しないため、ラックバー52とピニオン40との間の摩擦力は小さくなる。その結果、操舵感の低下が抑制される。
【0031】
一方、路面状態やブレーキ動作によってステアリング(ラックバー)に関する振動が発生している場合、ラックバー52の振動によりピストン66が振動し、その振動に合わせてオイルがバルブ80を行き来する。バルブ80は、内部空間84から凹部76に向かってオイルが流れるときは、オリフィス86から流出するオイルによって筒状部78の底部から僅かに離間する。これにより、内部空間84から凹部76に向かって流れるオイルの量は多くなる。一方、バルブ80は、凹部76から内部空間84に向かってオイルが流れるときは、筒状部78に押し付けられるため、オイルはオリフィス86より小さな貫通孔88を通過することしかできない。これにより、凹部76から内部空間84に向かって流れるオイルの量は少なくなる。
【0032】
このようなラックガイド機構130の作用により、ラックバー52の振動時、ピストン66の凹部76の圧力が上昇する。つまり、ラックガイド機構130は、セルフポンピング作用によりラックバーなどの振動を減衰できる。その後、振動が収束すると、凹部76と内部空間84とのオイルの偏りが徐々に解消し、通常時のNガスの圧力しか作用しない状態に戻る。
【0033】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0034】
10 ステアリング装置、 20 ピストン、 22 スプリング、 24 スライド部、 26 駆動部、 30 ラックガイド機構、 36 導管、 40 ピニオン、 42 ラック、 50 ラックハウジング、 52 ラックバー、 62 当接部、 64 圧電素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの回転が伝達されるピニオンと、
ピニオンと噛み合うラックが形成されているラックバーと、
前記ラックバーを収納する筒状のハウジングと、
前記ラックバーを前記ピニオンに向けて付勢しつつ支持するラックガイド機構と、を備え、
前記ラックガイド機構は、
前記ラックバーの振動をエネルギーに変換する変換部と、
前記エネルギーの大きさに応じて前記ラックバーを前記ピニオンに向けて変位させる駆動部と、を有する、
ことを特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236565(P2012−236565A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108300(P2011−108300)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】