説明

ステアリング装置

【課題】より良好な操舵フィーリングを実現しつつ、高い静粛性を実現することのできるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置は、ラックハウジング17内において軸方向に往復動可能に設けられるラック軸5と、エンドハウジング27とラック軸5との間に介装されて該ラック軸5を摺動可能に支持する筒状のラックブッシュ23と、エンドハウジング27とラックブッシュ23との間に設けられる円筒状の弾性支持体31とを備えた。弾性支持体31の内周面に、ラックブッシュ23を弾性支持する環状の第1凸部36、及びラックブッシュ23が径方向へ変位することによりラックブッシュ23を弾性支持する環状の第2凸部37を形成した。そして、ラックブッシュ23を、第1凸部36を弾性変形させることにより、ラックハウジング17に対して軸方向に移動可能に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のステアリング装置には、ピニオン軸とラック軸とを噛合させることにより、そのステアリング操作に伴うピニオン軸の回転をラック軸の往復動に変換するものがある。通常、このようなラックアンドピニオン式のステアリング装置おいて、ラック軸は、筒状のラックハウジングとの間に介装された1又は2以上のラックブッシュにより径方向に支持されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ラック軸はラックブッシュに対して摺接するため、操舵開始時(ラック軸の移動開始時)においては、ラック軸とラックブッシュとの間に作用する摩擦力(静止摩擦力)を超える操舵力で操舵しなければならず、これが所謂引っ掛かり感となって操舵フィーリングの悪化を招いていた。特に、車両の進行方向を僅かに変更したい場合においては、上記引っ掛かりが原因となってラック軸を僅かに移動させるような微妙な操舵がしづらいことがあった。
【0004】
そこで、例えば特許文献2には、ラックブッシュの軸方向両側に隙間が形成されるようにして同ラックブッシュをハウジング内に軸方向に移動可能に設けるとともに、外周にOリング等の弾性部材を装着してラックブッシュを弾性支持するようにしたステアリング装置が開示されている。このステアリング装置では、操舵開始時において、ラックブッシュが弾性部材を弾性変形させてラック軸と一体的に軸方向に移動することで、操舵開始時に生じる引っ掛かり感を低減して良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−131025号公報
【特許文献2】特許4192626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記引っ掛かり感を低減する観点からは、弾性部材の弾性係数を低くし、ラックブッシュの軸方向の支持剛性を下げることが望ましい。しかし、上記従来の構成では、弾性部材の弾性係数を低くすると、ラックブッシュの径方向の支持剛性も併せて低くなるため、同ラックブッシュが径方向に大きく変位し易くなる。その結果、例えば悪路走行時における路面反力等の外力を受けてラック軸が揺動し、ラックブッシュやラック軸がラックハウジングに接触(衝突)することで、異音が発生する虞がある。そのため、異音の発生を抑制する観点からは、弾性部材の弾性係数を高くすることが望ましく、これら背反する二つの要請を充足することが極めて困難なものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、より良好な操舵フィーリングを実現しつつ、高い静粛性を実現することのできるステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ラックハウジング内において軸方向に往復動可能に設けられるラック軸と、前記ラックハウジングと前記ラック軸との間に介装されて該ラック軸を摺動可能に支持する筒状のラックブッシュとを備えたステアリング装置において、前記ラックブッシュの周方向に延びる環状に形成されるとともに、該ラックブッシュを弾性支持する第1弾性支持手段と、前記ラックブッシュの周方向に延びる環状に形成されるとともに、前記ラックブッシュが径方向に変位することにより該ラックブッシュを弾性支持する第2弾性支持手段とを備え、前記ラックブッシュは、前記第1弾性支持手段を弾性変形させることにより、前記ラックハウジングに対して軸方向に移動可能に設けられたことを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、例えば悪路走行時における路面反力等の外力を受けてラックブッシュが径方向に変位したときに、同ラックブッシュは、第1弾性支持手段に加えて、第2弾性支持手段よっても弾性支持されるようになる。そのため、第1弾性支持手段の弾性係数を低くして同第1弾性支持手段の径方向の支持剛性が低くなっても、ラックブッシュが径方向に大きく変位することが抑制される。したがって、第1弾性支持手段の弾性係数を低くすることにより、操舵開始時においてラックブッシュがラック軸と一体的に軸方向に移動し易くするとともに、ラックブッシュの径方向の支持剛性を確保することが可能となり、より良好な操舵フィーリングを実現しつつ、高い静粛性を実現することができる。また、上記構成では、第1及び第2弾性支持手段が環状に形成されるため、ラックブッシュの径方向への変位が大きくなることをその全方位に亘って抑制できるようになる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステアリング装置において、前記ラックハウジングと前記ラックブッシュとの間に設けられる筒状の弾性支持体を備え、前記弾性支持体の内周面及び外周面の少なくとも一方には、環状の第1凸部、及び該第1凸部よりも突出量の小さな環状の第2凸部が設けられ、前記第1凸部により前記第1弾性支持手段が構成され、前記第2凸部により前記第2弾性支持手段構成されることを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、ラックハウジングとラックブッシュとの間に筒状の弾性支持体が設けられるため、ラックブッシュがラックハウジングに接触することをより確実に防止できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のステアリング装置において、前記ラックハウジングと前記ラックブッシュとの間に設けられ、前記ラックブッシュを弾性支持する環状の第1弾性部材と、前記ラックハウジングと前記ラックブッシュとの間に設けられ、前記ラックブッシュが径方向に変位することにより該ラックブッシュを弾性支持する環状の第2弾性部材とを備え、前記第1弾性部材により前記第1弾性支持手段が構成され、前記第2弾性部材により前記第2弾性支持手段が構成されることを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、第1及び第2弾性支持手段をそれぞれ簡易な形状とすることができるため、コストの低減等を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より良好な操舵フィーリングを実現しつつ、高い静粛性を実現することのできるステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成を示す断面図。
【図2】第1実施形態のラックブッシュ近傍の拡大断面図。
【図3】第1実施形態のラック軸が軸方向一端側に移動し始めた状態を示す模式図。
【図4】第1実施形態のラックブッシュが径方向へ変位した状態を示す模式図。
【図5】ラックブッシュの径方向への変位量と、同ラックブッシュを変位させるために必要なラジアル荷重との関係を示すグラフ。
【図6】第2実施形態のラックブッシュ近傍の拡大断面図。
【図7】第2実施形態のラック軸が軸方向一端側に移動し始めた状態を示す模式図。
【図8】第2実施形態のラックブッシュが径方向へ変位した状態を示す模式図。
【図9】別例のラックブッシュ近傍の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1において、ステアリング(ステアリングホイール)2が固定されたステアリングシャフト3にはピニオン軸4に連結されるとともに、ピニオン軸4はラック軸5に噛合されている。すなわち、ステアリングシャフト3は、周知のラック&ピニオン機構を介してラック軸5と連結されている。また、ラック軸5の軸端部5aには、ボールジョイント11を介してタイロッド12がそれぞれ回動自在に連結されるとともに、タイロッド12の先端には、転舵輪が組付けられたナックル(ともに図示略)が連結されている。なお、ラック軸5とタイロッド12との接続部分は、蛇腹状に形成された樹脂製のブーツ13により包囲されている。そして、ステアリング装置1は、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転がラック軸5の往復直線運動に変換され、この往復直線運動がラック軸5の両端に連結されたタイロッド12を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪の舵角、すなわち車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0017】
なお、本実施形態のステアリング装置1は、ラック軸5と同軸配置されたモータ15を駆動源とする所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されている。具体的には、モータ15は、ラック軸5が挿通される中空状のモータシャフト16を有しており、ラック軸5を収容するラックハウジング17には、モータシャフト16の回転をラック軸5の往復動に変換するボール螺子機構18が設けられている。そして、ステアリング装置1では、ボール螺子機構18によって変換されたモータトルクに基づく軸方向の押圧力がステアリング操作を補助するためのアシスト力として操舵系に付与されるようになっている。
【0018】
次に、ラック軸の支持構造について説明する。
ラック軸5は、ラックハウジング17内において、その一端側(図1における右側)がラックガイド装置22により支持されるとともに、他端側(図1における左側)がラックブッシュ23により支持されることにより軸方向に往復動可能に収容されている。
【0019】
具体的には、ラックハウジング17は、ピニオン軸4が収容されるギアハウジング25と、ギアハウジング25の他端側に設けられるとともにモータ15を収容するセンターハウジング26と、センターハウジング26の他端側に設けられるエンドハウジング27とにより構成されている。ギアハウジング25には、ラックガイド装置22が設けられており、ラック軸5はラックガイド装置22によりピニオン軸4に押し付けられた状態で支持されている。また、エンドハウジング27内には、筒状のラックブッシュ23がラック軸5と同軸上に設けられており、ラック軸5はラックブッシュ23により径方向に支持されている。
【0020】
次に、ラックブッシュ及びその周辺構成について詳細に説明する。
図2に示すように、ラックブッシュ23は、エンドハウジング27(ラックハウジング17)内においてゴム等の弾性材料からなる弾性支持体31により弾性支持されており、弾性支持体31の一部を弾性変形させることにより、エンドハウジング27に対して軸方向に移動可能に設けられている。
【0021】
詳述すると、エンドハウジング27は略円筒状に形成されるとともに、その内径を部分的に小さくした収容部32が軸方向他端部近傍に形成されている(図1参照)。そして、収容部32の内周面には円環状の環状溝33が形成されており、環状溝33にラックブッシュ23及び弾性支持体31が設けられている。
【0022】
ラックブッシュ23は、その肉厚が全周に亘って略一定となる円筒状に形成されるとともに、ラックブッシュ23の軸方向に沿った長さは、環状溝33の軸方向に沿った長さよりも短く形成されている。また、ラックブッシュ23の外径は、収容部32の内径よりも僅かに小さく形成されている。一方、ラックブッシュ23の内径は、ラック軸5の外径よりも僅かに小さく形成されており、ラックブッシュ23内には、ラック軸5が軽圧入されて滑らかに摺動可能となっている。なお、本実施形態のラックブッシュ23は、樹脂材料からなり、潤滑油が含浸されることにより構成されている。
【0023】
弾性支持体31は、円筒状の本体部35を備えており、本体部35の内周面には、径方向内側に突出する第1弾性支持手段としての複数の第1凸部36、及び径方向内側に突出するとともに第1凸部36との間に軸方向に隙間を空けて配置される第2弾性支持手段としての複数の第2凸部37が一体に形成されている。
【0024】
第1凸部36は、本体部35の軸方向両端部にそれぞれ形成されている。また、第1凸部36は、本体部35(ラックブッシュ23)の周方向に延びる円環状に形成されている。なお、第1凸部36の断面形状は、径方向内側に向かうにつれて先細となる略三角形状に形成されている。そして、第1凸部36は、その内径がラックブッシュ23の外径よりも小さくなるように形成されており、自由状態から径方向に圧縮された状態でラックブッシュ23に接触して同ラックブッシュ23を弾性支持している。
【0025】
一方、第2凸部37は、第1凸部36の間に軸方向に並んで形成されるとともに、本体部35の周方向に延びる円環状に形成されている。なお、第2凸部37の断面形状は、径方向内側に向かうにつれて先細となる略三角形状に形成されている。そして、第2凸部37は、その先端での内径がラックブッシュ23の外径よりも大きくなるように形成されている。すなわち、第2凸部37の前記内周面からの突出量は、第1凸部36の突出量よりも小さく形成されており、例えば悪路走行時における路面反力等の外力を受けてラックブッシュ23が径方向に変位していない状態では、第2凸部37は、ラックブッシュ23の外周面に接触しないように形成されている。
【0026】
また、本体部35の内周面には、径方向内側に突出する抜け止め部38が各第1凸部36の軸方向外方に隣接して本体部35と一体に形成されている。抜け止め部38は、本体部35の周方向に延びる円環状に形成されるとともに、その内径がラックブッシュ23の外径よりも小さく、且つラックブッシュ23の内径よりも大きく形成されている。そして、抜け止め部38は、ラックブッシュ23の軸方向端面にそれぞれ当接している。なお、抜け止め部38の断面形状は、軸方向に沿った幅が略一定の四角形状に形成されている。したがって、ラックブッシュ23は、各第2凸部37は弾性変形させず、第1凸部36及び抜け止め部38を弾性変形させることにより、エンドハウジング27に対して軸方向に移動可能に設けられている。
【0027】
このように構成されたステアリング装置1では、操舵開始時において、第1凸部36及び抜け止め部38が弾性変形することにより、ラックブッシュ23がラック軸5と一体で軸方向に移動する。具体的には、ラック軸5が軸方向一端側に移動する場合には、図3に示すように、各第2凸部37は弾性変形させず、各第1凸部36及び軸方向一端側に配置された抜け止め部38の内周縁を軸方向一端側に折り曲げるように弾性変形させることで、ラックブッシュ23がラック軸5と一体で軸方向に移動する。同様に、ラックブッシュ23が軸方向他端側へ移動する場合には、各第1凸部36及び軸方向他端側に配置された抜け止め部38の内周縁を軸方向他端側に折り曲げるように弾性変形させることで、ラックブッシュ23がラック軸5と一体で軸方向に移動する。そして、各第1凸部36及び抜け止め部38で発生する弾性力がラックブッシュ23とラック軸5との間に作用する摩擦力(静止摩擦力)よりも大きくなると、ラックブッシュ23のエンドハウジング27に対する移動が規制されてラック軸5がラックブッシュ23に対して摺動する。
【0028】
また、外力を受けてラックブッシュ23が径方向に変位すると、図4に示すように、各第1凸部36がラックブッシュ23によってさらに径方向に圧縮されるとともに、各第2凸部37がラックブッシュ23によって径方向に圧縮されるようになる。そして、ラックブッシュ23は、このように第1及び第2凸部36,37の双方に弾性支持されることで、径方向へ変位し難くなる。すなわち、弾性支持体31によるラックブッシュ23の径方向の支持剛性が高くなる。したがって、ラックブッシュ23を径方向に変位させるために必要なラジアル荷重は、図5に示すように変化し、同ラジアル荷重の増加率は、ラックブッシュ23が各第2凸部37に弾性支持されるようになる変位量A未満の範囲よりも、変位量A以上の範囲で大きくなる。なお、同図に示す変位量Bは、第1及び第2凸部36,37の双方が略完全に潰れるような変位量である。これにより、第1凸部36(弾性支持体31)の弾性係数を低くして第1凸部36によるラックブッシュ23の径方向の支持剛性が低くなっても、ラックブッシュ23が径方向に大きく変位することが抑制される。
【0029】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)第1凸部36(第1弾性支持手段)及び第2凸部37(第2弾性支持手段)を有する弾性支持体31を設けることで、ラックブッシュ23が径方向に大きく変位することが抑制されるため、第1凸部36の弾性係数を低くすることにより、操舵開始時においてラックブッシュ23がラック軸5と一体的に軸方向に移動し易くするとともに、ラックブッシュ23の径方向の支持剛性を確保することが可能となる。これにより、より良好な操舵フィーリングを実現しつつ、高い静粛性を実現することができる。また、上記構成では、第1及び第2凸部36,37が円環状に形成されるため、径方向の全方位に亘って同じ支持剛性にすることができ、ラックブッシュ23の径方向への変位が大きくなることをその全方位に亘って等しく抑制できるようになる。
【0030】
(2)エンドハウジング27とラックブッシュ23との間に円筒状の弾性支持体31を設けたため、ラックブッシュ23がラックハウジング17に接触することをより確実に防止できる。また、弾性支持体31の内周面に、環状の第1凸部36及び第1凸部36よりも突出量の小さな環状の第2凸部37を一体に形成したため、部品点数の増加を抑制することができる。
【0031】
(3)第1凸部36を本体部35(弾性支持体31)の軸方向両端部にそれぞれ設けたため、第2凸部37によってラックブッシュ23を弾性支持する前の状態でも、安定してラックブッシュ23を径方向に支持することができる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
図6に示すように、ラックブッシュ23は、エンドハウジング27(ラックハウジング17)内において第1弾性支持手段としての第1弾性部材41及び第2弾性支持手段としての複数の第2弾性部材42により弾性支持されている。
【0034】
詳述すると、エンドハウジング27の環状溝33は、軸方向他端側に開口して形成されるとともに、環状溝33の軸方向中央部には、その周方向に延びる円環状の装着溝43が形成されている。収容部32の他端側には、収容部32の内径と略等しい内径を有する円環状の固定部材44が固定されている。
【0035】
ラックブッシュ23は、その外径が収容部32の内径よりも大きく、且つ環状溝33の内径よりも小さく形成されており、収容部32及び固定部材44との間に軸方向の隙間を空けて環状溝33内に配置されている。そして、ラックブッシュ23の外周面には、軸方向中央部に周方向に延びる円環状の第1装着溝45が形成されるとともに、第1装着溝45の軸方向両側に周方向に延びる円環状の第2装着溝46がそれぞれ形成されている。
【0036】
第1及び第2弾性部材41,42は、ゴム等の弾性材料からなり、それぞれ円環状に形成されている。第1弾性部材41は、装着溝43及び第1装着溝45の双方に係合するように装着され、第2弾性部材42は第2装着溝46に係合するように装着されている。そして、第1弾性部材41は、その外径が環状溝33の内径よりも大きく形成されている。これにより、第1弾性部材41は、ラックブッシュ23と環状溝33との間で自由状態から径方向に圧縮された状態となり、ラックブッシュ23を弾性支持している。一方、第2弾性部材42は、その外径が環状溝33の内径よりも小さく、すなわち第1弾性部材41の外径よりも小さく形成されている。これにより、外力を受けてラックブッシュ23が径方向に変位していない状態では、第2弾性部材42は、収容部32の内周面に接触しないようになっている。なお、本実施形態の第1及び第2弾性部材41,42は、Oリングにより構成されており、第1弾性部材41の弾性係数と第2弾性部材42の弾性係数とが互いに等しく設定されている。
【0037】
このように構成されたステアリング装置1では、操舵開始時において、図7に示すように、各第2弾性部材42は弾性変形させず、第1弾性部材41を弾性変形させることにより、ラックブッシュ23がラック軸5と一体で軸方向に移動する。そして、第1弾性部材41で発生する弾性力がラックブッシュ23とラック軸5との間に作用する摩擦力よりも大きくなると、ラックブッシュ23のエンドハウジング27に対する移動が規制されてラック軸5がラックブッシュ23に対して摺動する。
【0038】
また、図8に示すように、外力を受けてラックブッシュ23が径方向に変位すると、第1弾性部材41がラックブッシュ23によってさらに径方向に圧縮されるとともに、各第2弾性部材42がラックブッシュ23と環状溝33との間で圧縮されるようになる。そして、ラックブッシュ23は、このように第1及び第2弾性部材41,42の双方に弾性支持されることで、径方向に変位し難くなる。これにより、第1弾性部材41(弾性支持体31)の弾性係数を低くして第1弾性部材41によるラックブッシュ23の径方向の支持剛性が低くなっても、ラックブッシュ23が径方向に大きく変位することが抑制される。
【0039】
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(4)ラックブッシュ23を弾性支持する第1及び第2弾性部材41,42を円環状に形成して簡易な形状としたため、コストの低減等を図ることができる。
【0040】
(5)第1弾性部材41を1つだけ設けたため、操舵開始時において、容易にラックブッシュ23をラック軸5と一体で軸方向に移動させることができ、より一層、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0041】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記第1実施形態では、本体部35の内周面に第1及び第2凸部36,37を形成したが、これに限らず、例えば図9に示すように、本体部35の外周面に第1及び第2凸部36,37を形成してもよい。また、本体部35の内周面及び外周面に第1及び第2凸部36,37をそれぞれ形成してもよい。
【0042】
・上記第1実施形態では、第1凸部36を本体部35の軸方向両端部に設けるとともに、第1凸部36の間に複数の第2凸部37を設けた。しかし、これに限らず、例えば第1凸部36を本体部35の軸方向中央部に設けたり、第1凸部36の間に第2凸部37を1つだけ設けたりしてもよく、これら第1及び第2凸部36,37の配置や数は適宜変更可能である。また、第1及び第2凸部36,37の断面形状も適宜変更可能である。同様に、上記第2実施形態において、第1及び第2弾性部材41,42の配置、数、断面形状は適宜変更可能である。
【0043】
・上記第1実施形態では、弾性支持体31に第1及び第2凸部36,37を一体に形成したが、これに限らず、第1及び第2凸部36,37と本体部35とを別部材により構成してもよい。
【0044】
・上記第1実施形態では、ラックブッシュ23の外径を収容部32の内径よりも僅かに小さく形成したが、これに限らず、ラックブッシュ23の外径を収容部32の内径よりも大きく形成し、例えばラックブッシュ23と収容部32との間で弾性支持体31の抜け止め部38を軸方向に挟み込むようにしてもよい。なお、この場合において、抜け止め部38を弾性支持体31に形成しなくともよい。
【0045】
・上記第1実施形態では、各抜け止め部38をラックブッシュ23の軸方向端面に当接させたが、これに限らず、ラックブッシュ23の軸方向端面と抜け止め部38との間に軸方向の隙間が形成されるようにしてもよい。
【0046】
・上記第1実施形態では、第2凸部37の内径をラックブッシュ23の外径よりも大きく形成し、外力を受けてラックブッシュ23が径方向に変位していない状態で第2凸部37がラックブッシュ23に非接触となるようにした。しかし、これに限らず、第2凸部37の内径をラックブッシュ23の外径と等しく形成し、第2凸部37がラックブッシュ23を弾性支持せずに接触するようにしてもよい。同様に、上記第2実施形態において、第2弾性部材42の外径を収容部32の内径と等しく形成し、第2弾性部材がラックブッシュ23を弾性支持せずに収容部32に接触するようにしてもよい。
【0047】
・上記第2実施形態では、第1弾性部材41の弾性係数と第2弾性部材42の弾性係数とを等しくしたが、これに限らず、第1弾性部材41の弾性係数と第2弾性部材42の弾性係数とを互いに異ならせてもよい。同様に、上記第1実施形成において、第1凸部36の弾性係数と第2凸部37の弾性係数とを互いに異ならせてもよい。
【0048】
・上記第2実施形態では、第2弾性部材42をラックブッシュ23に装着したが、これに限らず、例えば収容部32の内周面に第2弾性部材42を装着する装着溝を形成し、第2弾性部材42がラックブッシュ23に非接触となるようにしてもよい。
【0049】
・上記各実施形態では、ステアリング装置1は、ラックブッシュ23を1つのみ備える構成としたが、これに限らず、2以上のラックブッシュ23を備える構成としてもよい。この場合、例えばラックハウジング17の両端、すなわちエンドハウジング27とギアハウジング25の各外方端近傍に、計2つのラックブッシュ23を設けることができる。
【0050】
・上記各実施形態では、本発明をラックアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されたステアリング装置に具体化した。しかし、これに限らず、例えば所謂コラムアシスト型等、ラックアシスト型以外のEPSや油圧式のパワーステアリング装置、あるいはノンアシスト型のステアリング装置に適用してもよい。
【0051】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記第1弾性支持手段は、前記ラックブッシュの軸方向両端部にそれぞれ配置されたことを特徴とするステアリング装置。上記構成によれば、第2弾性支持手段によってラックブッシュを弾性支持する前の状態においても、安定してラックブッシュを支持することができる。
【0052】
(ロ)前記第1弾性支持手段が1つであることを特徴とするステアリング装置。上記構成によれば、操舵開始時において、容易にラックブッシュをラック軸と一体で軸方向に移動させることができ、より一層、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…ステアリング装置、5…ラック軸、17…ラックハウジング、23…ラックブッシュ、27…エンドハウジング、31…弾性支持体、32…収容部、33…環状溝、35…本体部、36…第1凸部、37…第2凸部、38…抜け止め部、41…第1弾性部材、42…第2弾性部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックハウジング内において軸方向に往復動可能に設けられるラック軸と、前記ラックハウジングと前記ラック軸との間に介装されて該ラック軸を摺動可能に支持する筒状のラックブッシュとを備えたステアリング装置において、
前記ラックブッシュの周方向に延びる環状に形成されるとともに、該ラックブッシュを弾性支持する第1弾性支持手段と、
前記ラックブッシュの周方向に延びる環状に形成されるとともに、前記ラックブッシュが径方向に変位することにより該ラックブッシュを弾性支持する第2弾性支持手段とを備え、
前記ラックブッシュは、前記第1弾性支持手段を弾性変形させることにより、前記ラックハウジングに対して軸方向に移動可能に設けられたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記ラックハウジングと前記ラックブッシュとの間に設けられる筒状の弾性支持体を備え、
前記弾性支持体の内周面及び外周面の少なくとも一方には、環状の第1凸部、及び該第1凸部よりも突出量の小さな環状の第2凸部が設けられ、
前記第1凸部により前記第1弾性支持手段が構成され、前記第2凸部により前記第2弾性支持手段構成されることを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記ラックハウジングと前記ラックブッシュとの間に設けられ、前記ラックブッシュを弾性支持する環状の第1弾性部材と、
前記ラックハウジングと前記ラックブッシュとの間に設けられ、前記ラックブッシュが径方向に変位することにより該ラックブッシュを弾性支持する環状の第2弾性部材とを備え、
前記第1弾性部材により前記第1弾性支持手段が構成され、前記第2弾性部材により前記第2弾性支持手段が構成されることを特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−107505(P2013−107505A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254120(P2011−254120)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】