説明

ステロイドの高感度測定法

【課題】生体由来試料中に微量に含まれる水酸基を有するステロイドをLC−MSで測定する方法を提供すること。
【解決手段】生体由来試料中のステロイドの水酸基に下記式(I)で示される化合物を反応させてエステル誘導体とし、得られたエステル誘導体をLC−MSで測定する。



〔式中、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリルアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ニトロ基等を表し、COXはカルボン酸又はその反応性官能基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるステロイドを液体クロマトグラフィー−質量分析計(Liquid Chromatography−Mass Spectrometry:LC−MS)を用いて測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイドは生体内において極微量で強力な生理作用を示すため、その量を正確に把握することは、臨床診断及び病態解析の上で重要である。しかしながら、その量は微量(数pg/mL)である上、構造類似化合物も存在することから、測定には高感度、高特異性などが必要となる。
【0003】
ステロイドの測定には、通常、ラジオイムノアッセイ(Radio Immunoassay:RIA)、酵素免疫反応(Enzyme Immunoassay:EIA)、ガスクロマトグラフィー−質量分析計(Gas Chromatography−Mass Spectrometry:GC−MS)、LC−MS等が用いられる。このうち、RIA及びEIAについては、それら免疫法の一般的な定量限界は10pg/mLであり、それに加えて試料中には測定対象化合物の構造類似体や性ホルモン結合蛋白も存在しているため、定量値が大きく変動する可能性がある。最近になって、シーアイエス ダイアグノスティックス社から、検出感度が1.4pg/mLと極めて高感度のエストラジオールRIA測定キットが発売されたが、この測定キットはエストラジオール−17β グルクロナイドとの交差性にあまり優れておらず、エストラジオール特異性に問題が残っている。
【0004】
LC−MSについては、測定対象を誘導体化して検出感度を高め、微量測定を行う方法が種々試みられている。例えば、非特許文献1〜4には、ステロイド化合物に電子親和性原子団を導入し、LCと正イオンモードの大気圧化学イオン化MS(Atmospheric Pressure Chemical Ionization based Mass Spectrometry:APCI/MS)を組み合わせて測定する方法(LC−APCI/MS)が示されている。また、ステロイドのカルボニル基をp−トルエンスルホンヒドラゾン化してLC−MS測定する方法(非特許文献5参照)、ステロイドのアルコール性水酸基をN−アルキルピリジニウム化してLCとエレクトロスプレーイオン化MS(Electrospray Ionization based Mass Spectrometry:ESI/MS)を組み合わせて測定する方法(特許文献1参照)も提案されている。しかし、これらの方法における測定限界は数10〜100pg/mLである。
【0005】
非特許文献6には、種々の化合物をペンタフルオロベンジル化すると、LC−APCI/MSによりエストロン等を数pgのレベルで測定できることが記載されている。しかし、この文献においては、アンドロゲン、エストラジオール等の測定は行われておらず、この方法でステロイド類全般が同様のレベルで測定できるかどうか不明である。また、特許文献2には、ステロイドのフェノール性水酸基をペンタフルオロベンゾイル化し、LC−MS/MSにより測定する方法が記載されているが、この誘導体は安定性に欠けるという欠点があり、またこの文献には測定感度が記載されていない。
【0006】
非特許文献7には、ステロイドのフェノール性水酸基をダンシル化(5−ジメチルアミノナフタレン−1−イルスルホン化)し、これをLC−MS/MSで測定することにより、例えばエストラジオールの測定限界として6.3pgを達成できたことが記載されている。しかし、この方法においては特異性があまり優れておらず、またダンシル化した後の化合物の安定性に欠けるという欠点がある。
【0007】
特許文献3には、ステロイドをフェニルヒドラゾン化又はフェニルアミノフェニルボロネート化した後、LC−負イオンAPCI/MSで測定することにより、ステロイドを数pgのレベルで測定できることが記載されている。また、このときの測定感度は、ペンタフルオロベンジル化のときと比べて最大で7倍上昇することも示されている。しかしながら、この方法は、オキソ基又はビシナルジオール基を有するステロイドに対してのみ使用可能である。
【特許文献1】特開2003−161726号公報
【特許文献2】特開2000−88834号公報
【特許文献3】特開2004−257949号公報
【非特許文献1】Rapid Comm.Mass Spectrom.,16,1590,2002
【非特許文献2】Biomed.Chromatogr.,15,133,2001
【非特許文献3】J.Chromatogr.,B,772,229,2002
【非特許文献4】J.Chromatogr.,B,714,153,1998
【非特許文献5】J.Chromatogr.,B,780,315,2002
【非特許文献6】Anal.Chem.,72,3007,2000
【非特許文献7】Clin.Chem.,50(2),373,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、試料中に含まれるステロイドをLC−MSにより測定する方法を提供することである。
【0009】
また、本発明の別の目的は、LC−MSを用いるステロイド測定用の試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ステロイドの水酸基をピリジルカルボニル化してピリジルカルボン酸エステル誘導体とすることにより、ステロイドをLC−MSにより数pgのレベルで測定できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、試料中に含まれるステロイドをLC−MSを用いて測定する方法であって、
1)試料中のステロイドの水酸基に下記式

【0012】
〔式中、Rはハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1−4アルキルアミノ基、ジ(C1−4アルキル)アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を表し、COXはカルボン酸又はその反応性官能基を表す。〕
で示される化合物を反応させてエステル誘導体とする工程、
2)上記エステル誘導体をLC−MSを用いて測定する工程、
を含むことを特徴とする測定方法に関するものである。
【0013】
また、本発明は、上記式(I)で示される化合物を含むことを特徴とする、LC−MSを用いるステロイド測定用試薬に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の測定方法におけるエステル誘導体化操作は、試料をろ過、カラムろ過、遠心分離等の簡易な精製手段に付した後、エステル誘導体化試薬を添加するというもので極めて容易に行うことができ、その反応成績体である該エステル誘導体も安定である。また、水酸基を複数有するステロイドに対して同一の試薬により複数箇所エステル誘導体化する場合は、1箇所のみ誘導体化する場合に比べて測定感度が低下することも多いが、本発明の方法においては、ステロイドの複数箇所の水酸基をエステル誘導体化する場合であっても1箇所のみ誘導体化する場合と同等の測定感度を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において、「ステロイド」とは、ステロイド化合物及びビタミンD類縁体を意味し、水酸基を含有するものであれば特に制限されず、例えば、テストステロン、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、プレグネノロン、アロプレグネノロン、エストロン、エストラジオール、エストリオール、カテコールエストロゲン、コルチゾール、コルチゾン等のステロイド化合物及び24,25−(ジヒドロキシ)ビタミンD、1,24,25−(トリヒドロキシ)ビタミンD等のビタミンD類縁体を挙げることができる。この中、テストステロン、ジヒドロテストステロン及びエストラジオールが好ましい。
【0016】
本明細書において、「水酸基」は、アルコール性でもフェノール性でもよく、また、一級でも二級でもよい。更に、「水酸基」は、ステロイド骨格上にあっても、ステロイド骨格の側鎖上にあってもよい。
【0017】
本明細書において、「LC−MS」とは、例えば、LC−MS/MS、LC−ESI/MS及びLC−APCI/MSを挙げることができ、中でも、LC−ESI/MSが好ましい。
【0018】
本発明の測定方法においては、使用する下記式

【0019】
〔式中、Rはハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1−4アルキルアミノ基、ジ(C1−4アルキル)アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を表し、COXはカルボン酸又はその反応性官能基を表す。〕
で示される化合物におけるRがハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基又はジ(C1−4アルキル)アミノ基を表す場合が好ましく、中でも、RがC1−4アルキル基を表す場合が好適である。
【0020】
また、本発明の測定方法において、上記式(I)で示される化合物におけるCOXはカルボン酸の反応性官能基を表す場合が好ましく、その「反応性官能基」としては、例えば、酸ハライド、酸無水物、混合酸無水物、活性アミド、活性エステル等を挙げることができる。この中、COXが酸ハライドを表す場合がより好ましく、特にCOXが酸クロライドを表す場合が好適である。
【0021】
さらに、本発明の測定方法において、前記式(I)で示される化合物における−COXの置換位置は、特に制限されることはないが、より好ましくはピリジン環の2位である。
【0022】
なお、前記式(I)の化合物はその殆んどが既知であり、たとえ新規であったとしても、既知化合物から既知の方法により容易に合成することができる。
【0023】
本明細書において、「試料」とは、生物、環境又は工業製品いずれの由来のものであってもよい。生物由来の試料としては、例えば、ヒトを含む動物の血清、唾液、涙液、尿、糞、培養細胞、又は臓器から得られる調製物、あるいは植物からの抽出物等を挙げることができる。また、環境由来の試料としては、例えば、土壌、汚水、廃水、排水、河川水、湖沼水、海水等が挙げられる。更に、工業製品由来の試料としては、例えば、食料品等が挙げられる。
【0024】
本発明の測定方法について、以下に具体的に説明する。
試料の調製
試料は、必要に応じて有機溶媒による抽出を行った後、簡易カラムクロマトグラフィー、例えば、ウォーターズ社製OASIS HLB(登録商標)カートリッジ、バリアン社製Bond ELUT C18(登録商標)カートリッジ等による分離精製等の一般的な調製方法を適宜選択して調製し、次のエステル誘導体化反応に供することができる。
エステル誘導体化
上記で調製した試料に対し、前記式(I)の化合物を反応させて、ステロイドをエステル誘導体に変換する。
【0025】
この反応は、一般に、不活性有機溶媒、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド等の不活性有機溶媒もしくはそれと水との混合溶媒に溶解又は懸濁した状態にて、適当な塩基、例えば、水素化ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等の存在下にて行うことができる。反応温度は、通常、−5℃乃至80℃の範囲内の温度とすることができ、好ましくは10℃乃至30℃の範囲内の温度が適している。また、反応時間は、通常5〜240分の範囲内の時間とすることができ、好ましくは30〜90分の範囲内の時間が適している。
【0026】
上記エステル誘導体化反応において、試料の量に対する前記式(I)の化合物の使用割合は、特に制限されるものではないが、一般に、試料1mLあたり前記式(I)の化合物を少なくとも0.2mg、好ましくは1〜5mgの範囲内で用いることができる。
【0027】
また、上記エステル誘導体化反応において使用する塩基の量は、特に制限されるものではないが、一般に、試料1mLあたり塩基を少なくとも0.1ミリモル、好ましくは0.1〜0.5ミリモルの範囲内とすることができる。
【0028】
なお、上記エステル誘導体化反応において、前記式(I)の化合物におけるCOXがカルボン酸を表す場合は、この式(I)の化合物を予め、例えば、1,1−カルボニルジイミダゾール、1,1−チオニルジイミダゾール等で処理して、該カルボン酸を活性アミド等の反応性官能基に変換しておくことが望ましい。また、反応性官能基が酸ハライドの場合、式(I)の化合物を予め、例えばイミダゾール及びDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)等で処理して、該酸ハライドをイミダゾリド等の他の反応性官能基に変換しておくこともできる。
【0029】
以上のようにエステル誘導体化反応を行った後、常法により後処理を行い、LC−MSにより測定する。
LC−MS測定
上記エステル誘導体化反応において調製したエステル誘導体のLC−MSによる測定は、一般的なLC、例えば、ヒューレット・パッカード社製HP1100、ウォーターズ社製2795等のLC、及び一般的なMS、例えば、マイクロマス社製QUATTRO II(登録商標)、QUATTRO MICRO(登録商標)、アプライド・バイオシステムズ社製API4000等のMSを用いて行うことができる。
実験例1:各種エステル誘導体の合成及びLC−ESI/MS測定
1)各種エステル誘導体の合成
下記表Aに示す化合物を、以下に述べる方法により合成した。
【0030】
表A:各種ステロイドの各種エステル誘導体


【0031】
(1)酸ハライド法
ステロイド(化合物1、3及び4については0.37mmol、化合物2については0.18mmol)のピリジン2mL溶液にピコリノイルクロライド塩酸塩1.5mmolを加え、室温にて1〜6時間放置した。反応後、5%重曹水10mLを加え、酢酸エチル(20mL×2回)で抽出し、油層を飽和食塩水、5%塩酸及びもう一度飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下にて溶媒を留去した。得られた粗生成物を酢酸エチル、酢酸エチル−ヘキサン混合溶媒等の適当な溶媒で再結晶し、目的化合物を得た。
(2)混合酸無水物法
ピコリン酸0.52mmol及び4−ジメチルアミノピリジン0.37mmolのTHF1mL溶液に2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物0.52mmolを加え、室温にて5分放置した。次いで、ステロイド(化合物1、3及び4については0.37mmol、化合物2については0.18mmol)のTHF1mL溶液及びトリエチルアミン0.1mLを順次加え、室温にて30分放置した。反応後、上記(1)と同様に操作し、目的化合物を得た。なお、ニコチン酸、2−メトキシニコチン酸、イソニコチン酸、6−メチルピコリン酸誘導体については、混合酸無水物法にて合成した。
【0032】
得られた化合物の融点及びNMRデータを下記表Bに示す。
【0033】
表B:各種ステロイドの各種エステル誘導体の融点及びNMRデータ

【0034】

【0035】
2)LC−ESI/MS測定
上記で得た化合物1a−e、2a−e、3a−e及び4a−eについて、LC−ESI/MS測定を行った。測定条件を下記表Cに、また、その結果を後記表Dに示す。
【0036】
表C:実験例1におけるLC−ESI/MSの測定条件

【0037】
表D:各種ステロイドの各種エステル誘導体のLC−ESI/MS測定結果

【0038】
実験例2:LC−ESI/MSでの検出感度の比較
上記化合物のうちの2a及び4aの化合物と、先行技術文献に記載の下記(1)〜(3)の誘導体について、LC−ESI/MSでの検出感度を比較した。
(1)テストステロン−17−O−N−メチルピリジニウム−2−エーテル誘導体(特許文献1に記載のN−メチルピリジニウム化試薬を用いて合成)、
(2)テストステロン−17−O−N−メチルピリジニウム−2−エーテル−3−エトオキシム誘導体(特許文献1に記載のN−メチルピリジニウム化試薬及び非特許文献2に記載のエトオキシム化試薬を用いて合成)、
(3)エストラジオール−3−ペンタフルオロベンジル−17−O−N−メチルピリジニウム−2−エーテル誘導体(特許文献1に記載のN−メチルピリジニウム化試薬及び非特許文献7に記載のペンタフルオロベンジル化試薬を用いて合成)。
【0039】
上記(1)〜(3)の化合物の構造式を、下記表Eに示す。
【0040】
表E:先行技術文献に記載の誘導体

【0041】
次に、化合物2a及び4a並びに上記(1)〜(3)の化合物それぞれ0.05pgを含有するアセトニトリル溶液20μLを調製し、これらをLC−ESI/MSで測定した。そして、得られたクロマトグラムより、S/N(シグナル/ノイズ)比を算出した。その結果を下記表Fに示す。
【0042】
表F:各エステル誘導体のS/N比

【0043】
上記測定結果より、ピコリノイルエステル誘導体は、これまでのN−メチルピリジン−2−イル誘導体、エトオキシム誘導体又はペンタフルオロベンジル誘導体よりもS/N比が大きく、より高感度で測定できることが確認された。
実験例3:エストロン及びエストラジオールの定量限界の比較
1箇所をピコリノイルエステル誘導体化した場合と、複数箇所をピコリノイルエステル誘導体化した場合の測定感度を比較するため、エストロン及びエストラジオールの定量限界を求めた。なお、エストロンは3位にフェノール性水酸基を有し、エストラジオールは3位にフェノール性水酸基及び17位にアルコール性水酸基を有する。
【0044】
エストロン及びエストラジオールそれぞれについて、0.2、0.5及び20pgを含む溶液を調製し、上記実験例1と同様にしてピコリノイルエステル誘導体化及びジピコリノイルエステル誘導体化を行って化合物1a及び2aを合成し、LC−ESI/MS測定を行った。結果を下記表Gに示す。
【0045】
表G:エストロン及びエストラジオールの定量限界

【0046】
注1):測定値=平均値±標準偏差
注2):真度=(測定値/添加量)×100
注3):精度=(標準偏差/平均値)×100
上記測定におけるエストロン及びエストラジオールそれぞれの定量限界は、真度及び精度より0.5pg及び0.2pgであり、複数箇所の水酸基がエステル誘導体化された場合であっても、測定感度の低下が生ずることはなかった。
【0047】

以下、参考例及び実施例により本発明をより詳細に説明する。
<参考例>
参考例1:健常女性血清中のエストロン及びエストラジオールの同時測定
1−1):試料の調製
健常女性10例より血清0.5mLを採取し、これに内部標準物質として13−エストロン及び13−エストラジオールそれぞれ100pgを加え、ジエチルエーテル4mLを加えて振とうし、ジエチルエーテル層を分取し、窒素気流下で留去した。
1−2):ピコリノイルエステル誘導体化
上記1−1)で得た残留物にピコリノイルクロライド塩酸塩のアセトニトリル溶液(1→20)0.1mL及びピリジン30μLを加えて振り混ぜた後、室温で1時間放置した。反応後、1%塩酸1mLを加え、ジエチルエーテル4mLを加えて振とうし、エーテル層を分取後、窒素気流下で留去した。残留物をアセトニトリル0.25mLに溶解し、水1mLを加えて希釈後、Bond Elut C18に負荷し、アセトニトリル−水混合液(3→10)3mLで洗浄し、更にアセトニトリル−水混合液(4→5)2.5mLで溶出した。溶出液を遠心エバポレーターで留去した後、アセトニトリル−水混合液(2→5)100μLに溶解し、LC−ESI/MSに供した。
1−3):LC−ESI/MS測定
上記1−2)で得たアセトニトリル溶液100μLのうち、その20μLをLC−ESI/MS測定し、血清中のエストロン及びエストラジオール濃度を求めた。その結果を下記表Hに示す。
【0048】

表H:健常女性血清中のエストロン及びエストラジオールの濃度

【0049】
ところで、従来はエストロン及びエストラジオールをそれぞれ別個に測定していたが、この方法によれば、1度の測定でエストロン及びエストラジオールを0.5〜500pg/mLの範囲で同時定量することができる。
参考例2:健常男性の血清中及び唾液中のテストステロン及びジヒドロテストステロンの同時測定
健常男性の血清200μLに内部標準物質(16,16,17−d−テストステロン及び16,16,17−d−ジヒドロテストステロン)並びにジエチルエーテル4mLを加えて室温で10分間振とうした後、窒素気流中で留去した。また、唾液の場合は1mLを採取し、同様に調製した。
【0050】
上記で得られた残留物にピコリノイルクロライド塩酸塩のアセトニトリル−水混合液(1→40)200μL及びピリジン50μLを加えて振り混ぜた後、室温で90分間放置した。反応後、水750μL及びジエチルエーテル5mLを加えて10分間振り混ぜた後、エーテル層を分取し、水750μLで洗浄し、窒素気流下で留去した。残留物をアセトニトリル250μLに溶解し、Bond Elut C18カラムに負荷し、水1mL、次いでアセトニトリル−水混合液(2→5)4mLで洗浄し、アセトニトリル−水混合液(7→10)3mLで溶出した。溶媒を遠心エバポレーターにより留去した後、残留物をアセトニトリル−0.1%ギ酸混合液(7:3)100μLに溶解した。
【0051】
上記で得られた溶液100μLのうち20μLを用い、テストステロン−17−O−ピコリノイルエステル誘導体についてはm/z:394.4を前駆イオン、m/z:253.4を検出イオンとし、また、ジヒドロテストステロン−17−O−ピコリノイルエステル誘導体についてはm/z:396.4を前駆イオン、m/z:255.4を検出イオンとしてLC−ESI/MSで測定し、試料中のテストステロン及びジヒドロテストステロンの濃度を求めた。その結果を下記表Kに示す。
【0052】
表K:健常男性の血清中及び唾液中のテストステロン及びジヒドロテストステロンの濃度

【0053】
参考例3:ヒト前立腺組織中のテストステロン及びジヒドロテストステロンの測定
前立腺組織約50mgを精密に量った後、液体窒素により凍結、粉砕し、水4mLを加えてホモジナイズした。この懸濁液を500μL量り、これに内部標準物質として16,16,17−d−テストステロン及び16,16,17−d−ジヒドロテストステロンを500pgずつ加え、更にエタノール4mLを加えて55℃で3時間振とうした後、冷却遠心分離した。
【0054】
遠心分離後、上清を分取し遠心エバポレーターにより溶媒を留去し、得られた残留物をメタノール250μLに溶解後、水1mLで希釈した。この液を、あらかじめメタノール6mL及び水6mLで調製したBondElut C18カラムに負荷し、アセトニトリル−水混合液(3→10)2mLで洗浄した後、アセトニトリル−水混合液(7→10)2.5mLで溶出した。そして、窒素気流下にて溶媒を留去した。
【0055】
得られた残留物について、上記実施例2と同様にして、ピコリノイルエステル誘導体化及びLC−MS/MS測定を行い、前立腺組織中のテストステロン及びジヒドロテストステロンの濃度を求めた。その結果を下記表Mに示す。
【0056】
表M:ヒト前立腺組織中のテストステロン及びジヒドロテストステロンの濃度

【実施例】
【0057】
実施例1:ラット及びマウス臓器中のエストラジオールの測定
ウイスター系雌性ラット(11週令)、去勢ウイスター系雌性ラット(正常雌性ラットを去勢し、2日後に使用)及びC57BL/6J系雌性マウス(11週令)の血清、脳及び卵巣を採取し、試料中のエストラジオールを6−メチルピコリノイルエステル誘導体化して、それぞれの試料に含まれるエストラジオールの量をLC−ESI/MSで測定した。その結果を下記表Nに示す。
【0058】
表N:ラット及びマウス臓器中のエストラジオールの量

【0059】
(−):定量下限値以下
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の方法によれば、試料中のステロイドの有無を検出したり、ステロイドの量を測定したりすることができる。
【0061】
本発明は、例えば、医学、生化学、公衆衛生、食品検査などの分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれるステロイドをLC−MSを用いて測定する方法であって、
1)試料中のステロイドの水酸基に下記式


〔式中、Rはハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1−4アルキルアミノ基、ジ(C1−4アルキル)アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を表し、COXはカルボン酸又はその反応性官能基を表す。〕
で示される化合物を反応させてエステル誘導体とする工程、
2)上記エステル誘導体をLC−MSを用いて測定する工程、
を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
Rがハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基又はジ(C1−4アルキル)アミノ基を表す、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
RがC1−4アルキル基を表す、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
COXの置換位置がピリジン環の2位である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
請求項1の式(I)で示される化合物を含むことを特徴とする、LC−MSを用いるステロイド測定用試薬。


【公開番号】特開2008−275425(P2008−275425A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118964(P2007−118964)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504125458)株式会社帝国臓器製薬メディカル (6)
【Fターム(参考)】