説明

ステロイドまたはステロイド誘導体を含有する懸濁性医薬組成物

【課題】 安全性が高く、適用部位からの有効成分の吸収性に極めて優れ、光に対する安定性が良好であり、特に点眼剤については、眼球の底部にまで薬物を浸透可能なステロイド含有医薬組成物を提供すること。
【解決手段】 ステロイドまたはステロイド誘導体を有効成分として含有し、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下である水性懸濁液剤によって解決される。この水性懸濁液剤は、例えば点眼剤、点鼻剤、経口剤、ローション剤、及び軟膏剤等に応用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイドまたはステロイド誘導体を活性成分として含有する安定で薬理効果の高い懸濁性医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステロイドは、強力な坑炎症効果を示し、かつ他の非ステロイド系の薬剤に比べ速効性である等の利点を有することから、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、細粒剤といった経口剤や点眼剤等として医療の現場で用いられている。
一般的に、経口投与や皮膚投与された薬物が難溶性の場合は、吸収が低く、生物学的利用率は低下する。この点においては、ステロイドも例外ではなく、実際に市販されている製剤におけるステロイドやステロイド誘導体は水に極めて溶けにくい薬剤であることから、消化管、皮膚及び眼からの吸収が低い。このため、有効血中薬物濃度を維持するために多量の薬物が投与されており、患者に負担を与え、しばしば副作用を発現することがある。従って、消化管、皮膚や眼からの吸収性を向上した製剤の開発・研究が望まれている。
【0003】
また、製剤的にはステロイドは水に難溶性の薬物であり、経口、外用、点眼、点鼻および注射剤などに製剤化する場合、薬物を懸濁させた水性懸濁液剤として製剤化される。ところが、この水性懸濁液剤は、長時間放置すると、分散されたステロイド粒子が2次凝集し沈降する問題がありため、従来より種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、懸濁化剤に対して、懸濁化助剤、多価アルコール、又は糖類を組み合わせて用いると、薬物の沈降速度が遅く、かつ、再分散性に優れることを特徴とする点眼剤(特開平5−951)、セルロース系高分子および非イオン性界面活性剤を配合し、有効成分の再分散性を高めた懸濁型点眼剤(特開平11−279052)、懸濁化剤としてD−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、プロピレングリコール、及びクエン酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる懸濁化剤を含むことを特徴とする点眼剤(特開平10−36253)、難溶性薬物の水性液剤に、液剤の表面張力が低下をはじめる濃度から表面張力の低下が停止する濃度範囲内の水溶性高分子を配合すると、再分散が容易でかつ分散粒子の凝集やケーキングを生じない水性懸濁液剤(特開2003−55262)などである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全性が高く、適用部位からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、特に点眼剤については、眼球の底部にまで薬物を浸透可能なステロイド含有医薬組成物を提供することである。
【特許文献1】特開平5−951号公報
【特許文献2】特開平11−279052号公報
【特許文献3】特開平10−36253号公報
【特許文献4】特開2003−55262号公報
【課題を解決するための手段】
【0006】
薬物の粒子径を小さくすることによっても沈降速度を遅くすることができるが、そのようにすると再分散性が悪くなることも知られている(宮崎順一、高野正彦共著「点眼剤・その作り方と応用」、第 111〜113 頁、株式会社南山堂発行、1962年)。そこで、発明者らは、あえて粒子径を小さくする手段をもって、鋭意研究を重ねたところ、ステロイドの粒子径と再分散性との間に一定の関係が存在することを見いだした。
すなわち、ステロイドの粒子径分布の中心が0.005μm〜5μm(好ましくは、0.005μm〜2μm)の範囲にあり、その粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下とすることで、分散粒子の凝集やケーキングを起こさない再分散性の良い懸濁剤となることを見出した。また、この粒子径の領域において、光に対する安定性を増し、更に消化管や皮膚、特に眼球からの吸収を高めることを併せて見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安全性が高く、消化管や皮膚(眼を含む)からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、特に点眼剤の場合には眼球の底部にまで薬物を浸透可能なステロイド含有医薬組成物を提供することができる。本発明において、「皮膚」とは、「後生動物の体表をおおっている一層又は多層の組織」(大辞林(第二版)、三省堂(1995−11−3))を意味し、網膜、角膜等眼を構成する細胞をも含む概念である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記実施形態又は実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明で使用されるステロイドまたはステロイド誘導体は、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることが好ましい。但し、粒子径分布の中心は、0.005μm〜5μm、0.005μm〜2μm、0.005μm〜0.5μm、0.01μm〜5μm、0.01μm〜2μm、0.01μm〜0.5μm、0.05μm〜5μm、0.05μm〜2μm、0.05μm〜0.5μm、又は0.05μm〜0.1μmであることが好ましく、粒子径分布の90%メジアン径は、10μm以下、8μm以下、6μm以下、4μm以下、2μm以下であることが好ましい。上記粒子径分布の中心と、粒子径分布の90%メジアン径とに関する数値範囲に関しては、目的に応じて互いに矛盾しないものを任意に組み合わせて設定することができる。
ステロイドとしては、例えば、フルオロメトロン、デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾンが例示されるが、これらに限られない。また、上記例示のステロイドからなるグループから選択される一つまたは二つ以上のものであってもよい。
【0009】
紛体の粒子径分布は、一般的に横軸に粒子径の対数をとり、縦軸に頻度%をとるとき、正規分布に近似したある広がりを持った分布を示す。このため、粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであったとしても、分布に広がりがあるために5μm以上の粒子を含むことになる。本発明では、この粒度分布の広がりに対し、ステロイドの粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下(言い換えれば、10μmより大きな粒子径を示す粒子が全体に占める割合が、10%未満であること)とすることが重要である。このような条件とすることにより、ステロイド微細粒子がブラウン運動し、2次凝集による沈降を抑制する。更に、消化管や皮膚、粘膜への接触面積を増大し、かつ細胞間隙を通ることが出来るため、吸収が高まる。更に、本発明では、ステロイドの光に対する安定性が改善されることに加え、点眼後の眼内移行性を高くすることができる。
【0010】
吸収性が高まる事と、光に対する安定性が改善される事は粒子の大きさに相関がある。粒子径分布の中心が5μm以上の場合や90%メジアン径が10μmを超えた場合、消化管や皮膚からの吸収が低くなり、光に対して不安定になる。
本発明における水性懸濁液は、粒子径があまりに小さい為、微細粒子がブラウン運動するエネルギーだけで2次凝集を抑制する効果があるが、さらに界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、ステロイド粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲にすることにより、再分散性を良好にできる。ゼータ電位の調製に用いる界面活性剤の種類、水溶性高分子の種類、薬物の量は、pHによっても異なるが0.05%〜3%の範囲であることが好ましい。
【0011】
界面活性剤としては、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の4級アミン系界面活性剤やポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤類、などを挙げることができる。
【0012】
水溶性高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルメチルセルロース、プロピルセルロール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
本発明におけるステロイドの含有量は、特に制限はない。通常、0.01%〜1%の実際に使用されている製剤の含有量と同じ濃度であるが、更に高濃度のステロイド懸濁液を作り、使用濃度に合わせて希釈して製剤とする事も可能である。
また、さらに製剤学的に汎用されている賦形剤、基剤、安定剤、保存剤、pH調製剤、軟膏基剤等を添加し、経口剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、ローション剤等とすることができる。例えば、以下のような成分を挙げることができる。
賦形剤として、乳糖、白糖、しょ糖、デンプン、結晶セルロース等を挙げることができる。
【0013】
等張化剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、マンニトールなどを挙げることができる。
基剤成分として、グリセリン、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ブドウ糖、イプシロンアミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸塩、ヒアルロン酸ナトリウム、ステアリン酸グリセリン、ポリエチレングリコール類、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールやセチルアルコール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノールなどのアルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ドデカメチルポリシロキサン等のシリコーン油類、アボガド油、アルモンド油、オリーブ油、カカオ脂、牛脂、ゴマ油、小麦胚芽油、サフラワー油、タートル油、椿油、パーシック油、ひまし油、ブドウ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、黄卵油、紅花油、モクロウ、ヤシ油、ローズヒップ油等の油脂類、オレンジラフィー油、ホホバ油等の液状蝋類、流動パラフィン、液状ワセリン、スクワラン、スクワレン等の液状炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、リノール酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル等の脂肪酸エステル類を挙げることができる。
【0014】
安定剤としては、エデト酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールなどを挙げることができる。
清涼化剤としては、メントール、ハッカ油、カンフル、ユーカリ油などを挙げることができる。
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩基ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、アルキルポリアミノエチルグリシン類、ソルビン酸などを挙げることができる。
【0015】
pH調整剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、アンモニア及びこれらの塩類などを挙げることができる。
軟膏基剤として、ワセリン、パラフィン、プラスチベース、シリコーン、豚脂、ろう類、単軟膏、単鉛硬膏、親水軟膏、親水ワセリン、精製ラノリン、アクアホール、オイセリン、ネオセリン、吸水軟膏、加水ラノリン、親水プラスチベース、マクロゴール類、ソルベース、ゲル炭化水素、などを挙げることができる。
【0016】
本発明では、前述の水性懸濁液剤を脱水し、前述の製剤学的に汎用されている賦形剤、基剤、安定剤、保存剤、pH調製剤、軟膏基剤等を添加し、経口剤または外用剤とすることができる。これらの製剤を水に分散懸濁させて服用したり(ドライシロップ剤、散剤等)、水と同時に服用した(錠剤やカプセル剤等)場合には、ステロイドは胃や腸内で水に懸濁された状態となる。また、本発明の製剤は、用事分散懸濁させて皮膚に塗布することもできる。
次に、本発明製剤の製造方法の代表例を以下に述べるが、本発明の技術的範囲はこれらの例によって限定されるものではない。
【0017】
ステロイドは、粒子径分布の中心が30μm〜100μmのものを購入できる。これを各種の粉砕・分散機にかけることにより、所定の粒子径を備えたステロイドを得ることができる。粉砕機としては、例えばボールミル、振動ボールミル、遠心ボールミル、ロッドミル、ミクロンミル、ジェットミル、遠心流動ボールミル、ハンマーミル、ピンミル、アドマイザー、各種のホモジナイザー、ミキサー、超音波、高圧ホモジナイザー、超薄膜式高速回転粉砕機が例示でき、これらのうち1つあるいは2つ以上の粉砕、分散法を用いて、ステロイドを微細化することができる。これらのうち、特に超薄膜式高速回転粉砕機を好適に使用することができる。
【0018】
本実施品の製造方法として、ステロイドに必要な場合には、水(必要に応じてpH調整剤によりpHを調整した水)、及び/または界面活性剤、及び/または水溶性高分子を加え、ステロイドのゼータ電位の絶対値が20mV〜150mVの範囲とした後、超薄膜式高速回転粉砕機を用いて粉砕分散することにより、所望の粒度分布を持った微細化物を得る。
更に、エバポレーター、真空乾燥機あるいは凍結乾燥機を用いて脱水し、乳糖を加え練合した後、顆粒剤や散剤とする。また、打錠して錠剤とすることもできる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
ステロイドは、市販品を購入した。下表1中の成分量に従って、各成分を量り取り、ホモジナイザー(クリアミックス2.2S、エム・テクニック株式会社製)で9000rpm、30分間予備粉砕分散した。更に、実施例1〜3では、超薄膜式高速回転粉砕機(SS−5−100型、エム・テクニック株式会社製)にて微細化処理し粉砕分散した。一方、比較例1では、ホモジナイザー処理及び高速回転粉砕機処理のいずれも行わず、比較例2〜4では、ホモジナイザー処理のみを施し、高速回転粉砕機による処理は行わなかった。
【0020】
【表1】

実施例1〜3、又は比較例1〜4に従って得られた各試験液につき、中心粒子径(粒子径分布の中心)、及び90%メジアン径を測定した。中心粒子径、及び90%メジアン径は、粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所製)のフローセルを使用して求めた。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例1〜3については、中心粒子径が0.05μm〜4.5μm、90%メジアン径が1.5μm〜9μmであった。一方、ホモジナイザー処理及び高速回転粉砕機処理のいずれも行わなかった比較例1では、中心粒子径が50μm、90%メジアン径が120μmであった。また、ホモジナイザー処理のみを行った比較例2〜4では、中心粒子径は5μm〜6μm、90%メジアン径は11μm〜20μmであり、本発明の範囲よりも大きかった。
実施例1〜3、及び比較例1〜4の各検体について、吸収性に関する以下の試験を行った。
【0023】
<皮膚透過性試験>
縦形フランツセル(有効面積0.035cm、リザーバー容量15mL)に、ヒト人工培養皮膚(テストスキンHi、東洋紡製)を真皮層がドナー側になるよう固定した。リザーバー液は、20%ポリエチレングリコール溶液とした。ドナー側には、実施例1〜3、及び比較例1〜4の各溶液1.0mLを加えた。ドナー側に溶液を加えた時刻をゼロ時間目とし、経時的にリザーバー液をサンプリングした。サンプリング液中のステロイド濃度をHPLCにて測定し、真皮側からドナー側に皮膚を移行してきたステロイドを評価した。
【0024】
結果を図1に示した。図に示すように、比較例1〜4は、ステロイドの皮膚透過性が低く、4時間後でも最大値(比較例3)は200μg/mLを越えなかった。また、比較例1は皮膚透過性が最低であった。比較例1は、ホモジナイザー処理及び高速回転粉砕機処理のいずれも行わなかったため、粒子径が比較例2〜4と比較しても大きいことから、皮膚の透過性に劣るものと考えられた。
一方、実施例1〜3では、ステロイド濃度は、いずれも試験開始後から徐々に上昇し、2.5時間目以降に顕著に増加を示し、4時間後には全例で500μg/mL以上の高値を示した。
実施例1、比較例1、及び比較例2を比較すると、粒子径が小さいほど、ステロイドの皮膚透過性が向上することがわかった。また、同様のことは、実施例2と比較例3との比較、及び実施例3と比較例4との比較からも明らかとなった。
【0025】
<経口投与による吸収性の比較試験>
日本白色種雄性ウサギに胃内ゾンデを用いて、実施例1、比較例1、及び比較例2の各試験液を5mL(ステロイドとして50mg)投与した。投与開始を0時間目として、8時間目まで経時的に耳静脈より血液約1mLを採血し、血漿中のステロイドの未変化体濃度をHPLCにて測定した。
結果を表3及び図2に示した。
【0026】
【表3】

比較例1及び比較例2では、Cmax(血漿中ステロイド濃度の最大値)は、約40μg/mLであり、Tmax(最大濃度に達したときの時間)は、3時間〜4時間であった。また、AUC(曲線下面積)は、134μg/mL・hr〜168μg/mL・hrであった。
【0027】
一方、実施例1では、Cmaxは約90μg/mL、Tmaxは1.5時間、AUCは281μg/mL・hrであった。
これらの結果より、実施例1は、比較例1及び比較例2と比べると、Cmax及びAUCが約2倍程度と高いことから、消化管からの吸収率が向上していることが示された。また、実施例1では、Tmaxが短い時間に短縮されており、吸収速度が高くなることが示された。
【0028】
<光安定性試験>
実施例1〜3及び比較例1〜4の各試験液を10mLずつガラス透明バイアルに入れ、光照射試験機にて2000Lux・hrの光源より光を照射した。各バイアルの試験液を経時的にサンプリングし、ステロイド濃度をHPLCにて測定し、ステロイドの残存割合(%)を評価した。
結果を図3に示した。図より明らかなように、比較例1では、試験開始後から速やかにステロイドの分解が認められ、25日目では残存率は40%を下回った。比較例2〜4においても、試験開始後からステロイドの分解が認められ、25日目(1.2 × 10Lux・Hr)の残存率は、比較例2及び比較例4では約60%、比較例3では約65%であった。これらのことより、比較例1〜4では、いずれもステロイドは光に対して、顕著な分解性が認められた。
【0029】
一方、実施例1〜3では、いずれもステロイドの安定性は極めて高く、試験開始から25日目における残存率は、いずれも95%以上の高値であった。
実施例1、比較例1、及び比較例2を比較すると、粒子径が小さいほど、光に対する安定性が増加することがわかった。また、同様のことは、実施例2と比較例3との比較、及び実施例3と比較例4との比較からも明らかとなった。こうして、ステロイドの懸濁液では、その中心粒子径が5μm以下であり、90%メジアン径が10μm以下であることが、光に対する安定性が高いことが示された。
【0030】
<眼内移行性試験>
日本白色種雄性ウサギに対し、実施例1または比較例1の試験液0.5mL(ステロイドとして5mg)ずつを一回点眼した後、4時間経過後に眼球を摘出した。取り出した眼球を角膜、結膜、水晶体、強膜、及び網膜の各組織毎に切り離した。各組織の重量を精密に量ったのち、それぞれ組織内に存在しているステロイド濃度をHPLCを用いて測定した。
【0031】
結果を図4に示した。比較例1に比較すると、実施例1では角膜、結膜、水晶体、強膜、及び網膜の全ての組織内において、ステロイド濃度が高いことがわかった。特に、眼底部に位置する強膜及び網膜では、ステロイド濃度比(実施例1/比較例1)が高かった。これは、実施例1では、眼窩と眼球の隙間に、微細なステロイド懸濁液が入り込み、強膜を通して網膜まで薬剤が移行したものと考えられた。
これらのことから、本実施例品は、眼内移行性の高いステロイド製剤であることがわかった。
【0032】
以上の試験結果より、本発明品は、安全性が高く、消化管や皮膚(眼を含む)からの有効成分の吸収性に極めて優れ、光に対する安定性が良好であり、特に点眼剤については、眼球の底部にまで薬物を浸透可能なステロイド含有医薬組成物であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1〜3及び比較例1〜4のステロイド製剤を用いて皮膚透過試験を行ったときの結果を示すグラフである。
【図2】実施例1、比較例1、及び比較例2のステロイド製剤をウサギに経口投与したときの経時的なフルオロメトロン血漿中濃度変化を示すグラフである。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜4のステロイド製剤を光照射試験機にかけたときの経日的なステロイドの残存率変化を示すグラフである。
【図4】実施例1及び比較例1のステロイド製剤を用いて眼内移行性試験を行ったときの結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロイドまたはステロイド誘導体を有効成分とし、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることを特徴とする水性懸濁液剤。
【請求項2】
粒子径分布の中心が0.005μm〜2μmである請求項1記載の水性懸濁液剤。
【請求項3】
ステロイドが、フルオロメトロン、デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾンからなるグループから選択される一つまたは二つ以上のものであることを特徴とする請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項4】
点眼剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項5】
点鼻剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項6】
経口剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項7】
ローション剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項8】
軟膏剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項9】
脱水した請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤と、薬学的に許容される成分とを含有する医薬品組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−89386(P2006−89386A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273422(P2004−273422)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(391009523)株式会社日本点眼薬研究所 (13)
【出願人】(595111804)エム・テクニック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】