説明

ステンシルマスクおよびステンシルマスク製造方法

【課題】ステンシルマスクにおいて、少なくとも貫通パターンの表面における析出物の発生を予防し、経時的に安定してパターン転写を行うことができるようにする。
【解決手段】パターン形成層2、中間層3、および支持層4からなる基材と、パターン形成層2の厚さ方向に貫通して形成され、荷電粒子線が透過可能な貫通パターン5と、少なくとも貫通パターン5を含む前記基材の表面に形成された有機汚染防止膜1と、を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子ビームやイオンビームを用いて実施される超微細な回路パターン転写の際に用いられるステンシルマスクおよびステンシルマスク製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの回路パターン等ナノレベルの微細加工には光を用いたリソグラフィー技術が用いられている。近年高集積化に伴い、より微細なパターンを作製するための技術が要求されており、露光光源の短波長化が進められている。例えば、露光光源は、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと移行されている。また、さらに短波長の軟X線(波長13.5nm)を露光光源とする開発も行われているが、量産用の技術としては光源やレジスト等まだ多くの課題が残されている。
【0003】
このように従来から行われている光リソグラフィー技術では、光の解像限界が懸念されるようになってきており、これに代わる方法として、電子線やイオンビームを用いたリソグラフィーが提案されている。
【0004】
電子線やイオンビームを用いたリソグラフィー装置において使用されるマスクとしては、SOI基板に代表されるような3層構造(Si層、中間層、Si層)から成る基板を用い、Si層には転写すべきパターンに対応する貫通パターンが形成されたステンシルマスクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記ステンシルマスクを用い、電子線等を用いてパターンを転写することで、従来の光を用いたリソグラフィーよりもはるかに高解像度のパターンが作製できると期待される。
【0006】
上記電子線リソグラフィーに使用される描画装置は内部を高真空状態に保つ必要がある。高真空環境下では、微量な有機成分や水分によっても内部部品等の汚染が引き起こされ、露光装置では光学系ミラー等の透過率が低下すること等が大きな問題となっている。ステンシルマスクについても有機成分等が析出成分となって貫通パターンの側壁等に付着し、正確なパターンを転写できないといった問題が発生している。
【0007】
有機成分の発生源は、レジストや装置部材、クリーンルームの建築資材等様々であり、クリーンルーム環境からそれらを完全に排除することは困難であり、水分についても同様である。
【0008】
高真空装置内の汚染を防止する方法として、特許文献2では汚染ガス、あるいは汚染ガスと電子線等が反応して内壁等に付着した汚染物質と反応して表面から脱離するCOやCO等になるようなガス種を描画装置のような密閉空間に導入することが提案されている。
【0009】
ステンシルマスク自体に機能を持たせる例として、特許文献3ではステンシルマスクの貫通パターン形成部以外の外枠部表面にアルミノケイ酸塩等の多孔質セラミック触媒を設け、そこに付着する有機成分を化学的に分解除去し、ステンシルマスク周辺の環境を清浄にすることでパターンへの汚染を低減させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−135103号公報
【特許文献2】特表2004−537157公報
【特許文献3】特開2003−257839公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2に記載の技術では、汚染度が低いうちにこまめに実施することができれば効果的であると考えられるが、実際の電子線描画装置等は長期間連続して描画を行うことが一般的であり、現実的でない。年に数回程度、この方法を行うとしても、電子線により焼き付けられ析出物となった汚染物質に対しては、効果が期待できないと考えられる。
仮に焼き付けられた析出物を精密洗浄により除去するとしても、ステンシルマスクの場合、貫通パターンのアスペクト比が高いため、パターンの内部に洗浄用の薬液が入りにくく、完全に析出物を除去することは難しいという問題がある。
【0012】
特許文献3に記載の技術では、ステンシルマスクで一番重要なパターン形成部に対する汚染防止は行うことができない。なぜならば、雰囲気中の有機成分は選択的に外枠部表面へ付着するとは限らず、パターン形成部へ付着する場合も起こるためである。
このため、パターン形成部へ有機成分が付着するとそのまま残存し、析出物となって転写パターンへ悪影響を及ぼしてしまうという問題がある。
【0013】
そこで本発明は、少なくとも貫通パターンの表面における析出物の発生を予防し、経時的に安定してパターン転写を行うことができるステンシルマスクおよびステンシルマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、ステンシルマスクにおいて、基材と、前記基材の厚さ方向に貫通して形成され、荷電粒子線が透過可能な貫通パターンと、少なくとも前記貫通パターンを含む前記基材の表面に形成された有機汚染防止膜と、を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のステンシルマスクにおいて、前記有機汚染防止膜は、水分子が吸着した場合に、前記水分子が二次元凝縮を起こす膜であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のステンシルマスクにおいて、前記有機汚染防止膜は、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、およびストロンチウム(Sr)から成る金属群より選ばれた少なくとも1つ以上の金属、または、前記金属群より選ばれた少なくとも1つ以上の金属を含む合金、または、前記金属群より選ばれた金属の酸化物、または、前記合金の酸化物、または、前記金属群より選ばれた金属の窒化物、または、前記合金の窒化物、または、フッ化ストロンチウム(SrF)を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明では、ステンシルマスク製造方法において、基材に、荷電粒子線が透過可能であって、前記基材の厚さ方向に貫通する貫通パターンを形成する貫通パターン形成工程と、少なくとも前記貫通パターンを含む前記基材の表面に有機汚染防止膜を形成する有機汚染防止膜形成工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のステンシルマスクおよびステンシルマスク製造方法によれば、少なくとも貫通パターンを含む基材の表面に有機汚染防止膜を形成するため、少なくとも貫通パターンの表面における析出物の発生を予防し、経時的に安定してパターン転写を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るステンシルマスクの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るステンシルマスクの製造方法の一例を示す断面工程図である。
【図3】本発明の実施形態に係るステンシルマスクの製造方法の他例を示す断面工程図である。
【図4】比較例のシリコンウェーハ表面のガスクロマト質量分析結果を示すグラフである。
【図5】本実施形態の有機汚染防止膜を形成したシリコンウェーハ表面のガスクロマト質量分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のステンシルマスクについて実施形態の一例を、図1を参照しつつ、説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るステンシルマスクの一例を示す概略構成図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るステンシルマスク10は、例えば電子線やイオンビームを荷電粒子線として用いるリソグラフィー装置において、パターン転写を行うために用いるものである。
ステンシルマスク10の概略構成は、層厚方向に貫通する1以上の貫通孔5aからなる貫通パターン5を設けたパターン形成層2と、パターン形成層2を支持する支持層4と、エッチングにより貫通パターン5を形成する際にエッチングストッパーとして機能する中間層3と、これらの表面に形成された有機汚染防止膜1とを備える。
本実施形態では、基材を構成する支持層4、中間層3、およびパターン形成層2がこの順に積層されている。
ただし、支持層4および中間層3には、貫通パターン5の開口を支持層4側に向かって露出させる開口部4a、3aが設けられている。このため、パターン形成層2の層厚方向に貫通する貫通パターン5は、開口部4a、3aを通して、ステンシルマスク10の厚さ方向にも貫通している。
貫通パターン5の平面視の形状は、図示を省略するが、転写すべきパターンの必要に応じて適宜のパターンを採用することができる。
例えば、幅1μm、長さ数十μmの孤立ラインパターンを採用することができる。
【0022】
パターン形成層2と支持層4との材料は、所望の貫通パターン5と開口部4aとを、一般的なエッチング技術を用いて形成でき、形成した貫通パターン5の形状を維持できる程度の強度のある材料であれば、特に限定されず、適宜の材料を採用することができる。
例えば、パターン形成層2、支持層4に好適な材料としては、シリコン(Si)が挙げられる。
【0023】
パターン形成層2がSiの場合、パターン形成層2の厚さは0.5μm〜60μmが望ましい。0.5μm未満であると貫通パターン5の破損が起こりやすくなり、60μmを越えると貫通パターン5の寸法及び形状の精度が悪化しやすくなる。
【0024】
中間層3は、エッチングにより貫通パターンを形成する際に、エッチングストッパーの役割をする材料であれば、特に限定されず、パターン形成層2や支持層4に用いられる材料、及び、エッチングに用いるガス成分に応じて適宜の材料を採用することができる。
例えば、パターン形成層2と支持層4とがSiからなる場合であって、エッチングをフッ素ガスにより行うとすると、中間層3としては、膜厚が1μm程度の二酸化珪素(SiO)が好適である。
【0025】
有機汚染防止膜1は、有機成分が付着しにくい性質を有する膜であればよいが、表面に水分子が吸着した場合、二次元凝縮を起こす膜であることが好ましい。
有機汚染防止膜1の材料の例としては、(1)Cr、Zn、Sn、Mg、およびSrから成る金属群より選ばれた少なくとも1つ以上の金属、または、(2)前記金属群より選ばれた少なくとも1つ以上の金属を含む合金、または、(3)前記金属群より選ばれた金属の酸化物、または、(4)前記合金の酸化物、または、(5)前記金属群より選ばれた金属の窒化物、または、(6)前記合金の窒化物、(7)フッ化ストロンチウム(SrF)を含む材料が挙げられる。
ここで、(4)、(6)における「合金の酸化物」、「合金の窒化物」とは、それぞれ合金を酸化、窒化して形成された酸化物、窒化物を意味する。例えば、合金の表面に形成される酸化物、窒化物が該当する。これらの酸化物、窒化物を個々に見れば、合金を構成する金属元素の酸化物、窒化物になっている。
【0026】
また、本実施形態では、有機汚染防止膜1は、図1に示すように、貫通パターン5の貫通孔5aの内周面を含むステンシルマスク10の表面全体に形成されている。
【0027】
このような構成のステンシルマスク10を製造する本実施形態のステンシルマスク製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るステンシルマスクの製造方法の一例を示す断面工程図である。図3は、本発明の実施形態に係るステンシルマスクの製造方法の他例を示す断面工程図である。
【0028】
まず、ステンシルマスク10の製造方法の一例について説明する。
図2(a)に示すように、パターン形成層2、中間層3、支持層4とそれぞれ同一の層厚、材料からなる、パターン形成層110、中間層120、支持層130がこの順に積層された基板100(基材)を用意する。
そして、本実施形態のステンシルマスク製造方法では、基板100に対して、貫通パターン形成工程と、有機汚染防止膜形成工程とを行う。
【0029】
<貫通パターン形成工程>
貫通パターン形成工程は、基材に、荷電粒子線が透過可能であって、前記基材の厚さ方向に貫通する貫通パターンを形成する工程である。
本工程は、適宜公知のエッチング技術を用いて行うことができる。
例えば、パターン形成層110の表面にレジストを塗布し、貫通パターン5の平面視形状を露光して、図示略のレジストマスクを形成する。
次に、パターン形成層110の材料に応じて適宜のガスを選択し、ドライエッチングすることにより、図2(b)に示すように、貫通パターンを形成する。その際、中間層120は、エッチングストッパーとなる材料を採用することで、貫通パターン5は、パターン形成層110のみを貫通するように形成される。
例えば、パターン形成層110の材料がSiの場合は、本工程のエッチングガスとして、フッ素系ガスを選択することが好ましい。また、中間層120の材料はSiOが好適である。
このようにして、パターン形成層110から、貫通パターン5を有するパターン形成層2が形成される。
【0030】
次に、支持層130の表面にレジストを塗布し、開口部4aの平面視形状を露光して、図示略のレジストマスクを形成する。次に、支持層130の材料に応じて適宜のガスを選択し、ドライエッチングすることにより、図2(d)に示すように、貫通パターンを形成する。その際、中間層120は、エッチングストッパーとなる材料を採用することで、開口部4aは、支持層130のみを貫通するように形成される。
例えば、支持層130の材料がSiの場合は、フッ素系ガスが好適である。
このようにして、支持層130から、開口部4aを有する支持層4が形成される。
【0031】
次に、適宜の薬液によって、開口部4aの範囲内に残存する中間層120を除去する。例えば、中間層120がSiOの場合には、フッ酸などによって、中間層120を除去することができる。
このようにして、中間層120から、開口部3aを有する中間層3が形成される。
以上で、貫通パターン形成工程が終了し、図2(d)に示すように、開口部3a、4aに面する範囲内に、パターン形成層2を厚さ方向に貫通する貫通パターン5が形成される。
【0032】
<膜形成工程>
次に、膜形成工程を行う。本工程は、少なくとも貫通パターンを含む基材の表面に有機汚染防止膜を形成する工程である。
本実施形態では、一例として、図2(e)に示すように、貫通孔5a、開口部3a、4aの内周面を含む、パターン形成層2、中間層3、および支持層4の表面全体に有機汚染防止膜1を形成する。
有機汚染防止膜1を形成する手段は、適宜の薄膜形成方法を用いることができる。例えば、スパッタリング法、化学蒸着法、真空蒸着法などが挙げられる。特に、スパッタリング法は、ターゲット原子の運動エネルギーが大きいため、強くて剥がれにくい膜を作製することができる点で好ましい。
このようにして、膜形成工程が終了し、ステンシルマスク10が製造される。
【0033】
次に、ステンシルマスク10の製造方法の他例について説明する。
本例は、上記に説明した一例のステンシルマスク10の製造方法において、開口部4aを形成した後に、貫通パターン5を形成するようにした方法であり、開口部4aと貫通パターン5との形成順序のみが異なる。
【0034】
まず、図3(a)に示すように、上記と同様に、基材として基板100を用意する。
次に、貫通パターン形成工程では、図3(b)に示すように、上記と同様にして、支持層130側からエッチングを行って、開口部4aを形成する。
次に、図3(c)に示すように、上記と同様にして、パターン形成層110側からエッチングを行って、貫通パターン5を形成する。
次に、図3(d)に示すように、上記と同様にして、開口部4a内の中間層3を除去する。以上で、貫通パターン形成工程が終了する。
次に、図3(e)に示すように、上記と同様の膜形成工程を行って、有機汚染防止膜1を形成する。このようにして、ステンシルマスク10が製造される。
【0035】
次に、このようなステンシルマスク10の作用について、本実施形態の有機汚染防止膜1の作用を中心に説明する。
図4は、比較例のシリコンウェーハ表面のガスクロマト質量分析結果を示すグラフである。図5は、本実施形態の有機汚染防止膜を形成したシリコンウェーハ表面のガスクロマト質量分析結果を示すグラフである。各グラフとも、横軸は保持時間(分)、縦軸はアバンダンスを示す。
【0036】
図4に示すグラフは、表面に有機汚染防止膜1が形成されていないSiウェーハを比較例の供試サンプルとして、クリーンルーム雰囲気に20時間曝露した後、Siウェーハ表面に付着する有機成分をTD−GC/MS(加熱脱離ガスクロマト質量分析装置)により調査した結果のTIC(Total Ion Chromatogram)である。
また、図5に示すグラフは、本実施形態の有機汚染防止膜1の一例として、厚さ50nmのCr膜を、スパッタリング法を用いて表面に形成したSiウェーハを供試サンプルとして、クリーンルーム雰囲気に20時間曝露した後、Cr膜表面に付着する有機成分をTD−GC/MSにより調査した結果のTICである。
【0037】
Siウェーハ表面に付着する成分(図4)とCr膜表面に付着する成分(図5)を比較すると、明らかにSiウェーハ表面の方が有機成分の付着が多いことが分かる。また、図4で保持時間25分以降に検出されている大きなピークはDBP(Dibutyl phthalate)やDOP(Bis(2−ethylhexyl)phthalate)といったフタル酸エステル類であり、一度付着すると除去されにくい成分であることが知られている(竹田菊男、坂本保子、平敏和、藤本武利、「クリーンルーム空気およびウェーハ表面の有機物汚染挙動」、クリーンテクノロジー、1999年1月号、p.38−41参照(以下、参考文献1と称する))。このような付着すると除去されにくい有機成分が不良の原因となるケースが多い。
【0038】
通常、Siウェーハの最表面には自然酸化膜が形成されており、そこに環境中の水分が付着してシラノール基を形成した状態で存在している。フタル酸エステルのような極性のある酸素原子をもった有機成分は、シラノール基の水素原子と水素結合することで、吸着すると考えられている。
よって、有機成分の吸着には、基材の最表面に付着する水分の吸着状態が重要な役割を担っている。
【0039】
図5を図4と比較すると、Cr膜表面はSiウェーハ表面に比べて有機成分が格段に付着しにくいことが分かる。
クリーンルーム雰囲気中に放置されたCr膜の最表面は、空気中の酸素と反応して自然酸化膜を形成していると考えられる。一方、Crの表面では、表面に吸着した水分子が一層に並び、その水分子同士が凝集する二次元凝縮という現象が起こり、それは表面の結晶性や均一性が高いことに起因するものであると報告されている(長尾、「吸着熱および分光学的測定による粉体表面上の吸着現象の解明」、熱測定、1999年、第26巻、第1号、p.9−20、参照(以下、参考文献2と称する))。
このような水分子の二次元凝縮が起こる表面はエネルギー的に安定であり、二次元凝縮が起こらない表面と比較すると、二次吸着が起こりにくい。
こうした理由で、上記のCr膜表面には、有機成分が付着しにくくなったと考察される。
【0040】
以上より、有機汚染防止膜1としては、表面に付着した水分子が二次元凝縮を起こすような成分であることが好ましく、そのような膜をステンシルマスク10の表面に備えることで有機成分による汚染を防止することができる。
このような膜を形成する材料としては、Crの他にも、Zn、Sn、Mg、およびSrのいずれかの酸化物、窒化物、SrFを挙げることができる(参考文献2参照)。
また、上記の説明から分かるように、空気中で自然酸化膜に覆われた状態にあるZn、Sn、Mg、およびSrの金属単体も同様の作用を有する。
また、これらCr、Zn、Sn、Mg、およびSrからなる金属群は、2以上が混合していたり、合金を形成していても、個々に同様の酸化物、窒化物、自然酸化膜を形成するため、同様の作用を有する。
したがって、有機汚染防止膜1の好ましい材料としては、上記に(1)〜(7)として記載の材料を挙げることができる。
【0041】
有機汚染防止膜1の膜厚については、吸着した水分子が基材の影響を受けず二次元凝縮を起こす程度の厚さであればよいが、2nm〜500nm程度が好ましい。
【0042】
以上に説明したように、本実施形態のステンシルマスク10によれば、貫通パターン5を含む基材の表面の全体に有機汚染防止膜1を形成するため、有機汚染防止膜1が形成された貫通パターン5の表面および基材の表面における析出物の発生を予防することができる。
このため、ステンシルマスク10を連続して使用しても、経時的に有機成分に起因する析出物の発生により、貫通パターン5の開口形状が変化することを防止できるため、安定してパターン転写を行うことが可能となる。
【0043】
なお、上記の実施形態の説明では、貫通パターン5を含むステンシルマスク10の表面の全体に、有機汚染防止膜1を形成した場合の例で説明したが、パターン転写の精度に影響する貫通パターン5の貫通孔5aの内周面に有機汚染防止膜1が形成されているだけでも、安定したパターン転写が可能になる。したがって、有機汚染防止膜1を形成する範囲は、少なくとも貫通パターン5が含まれていればよい。
【0044】
また、上記実施形態に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせを代えたり、削除したりして実施することができる。
【実施例】
【0045】
本発明のステンシルマスクおよびステンシルマスク製造方法の実施例を以下に示す。しかし、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
実施例1は、上記実施形態に図2(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に基づいて説明した一例の製造方法、およびこれにより製造したステンシルマスクの一実施例である。
基板100(図2(a)参照)は、SOI基板を採用した。パターン形成層110及び支持層130の材料はSiであり、中間層120の材料はSiOである。各膜厚は、パターン形成層が20μm、支持層が500μm、中間層が1μmである。
【0047】
次に、スピンナーを用いて、基板100のパターン形成層110側に、膜厚1μmになるようにレジストを塗布し、電子線描画後、現像処理を行い、貫通パターン5の形状に対応するレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとし、中間層120をエッチングストッパーとして、フロロカーボン系の混合ガスを用いたドライエッチングを行った。そして、残ったレジストパターンを酸素プラズマで除去することで、パターン形成層110に貫通パターン5を形成した(図2(b)参照)。
【0048】
次に、スピンナーを用いて、基板100の支持層4側に、膜厚40μmになるようにレジストを塗布し、開口部4aに対応するパターンを露光後、現像処理することでレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとし、中間層120をエッチングストッパーとして、フロロカーボン系の混合ガスによるドライエッチングを行った。そして、残ったレジストを硫酸と過酸化水素水の混合液により除去することで、開口部4aを形成した(図2(c)参照)。
【0049】
次に、フッ酸により、開口部4a内の中間層120を除去し、開口部3aを有する中間層3を形成するとともに、貫通パターン5の貫通孔5aを開口部4a側に開通させた(図2(d)参照)。
【0050】
次に、貫通パターン5を含む図2(d)に示すような有機汚染防止膜1が成膜されていない未成膜構造体6Aの全体にCr膜を膜厚50nmで形成し、ステンシルマスク10Aを得た。Cr膜の形成にはスパッタリング法を用いた。
【0051】
<実施例2>
実施例2は、上記実施形態に図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に基づいて説明した他例の製造方法、およびこれにより製造したステンシルマスクの一実施例である。
基板100としては、上記実施例1と同材料、同膜厚のSOI基板を用意した(図3(a)参照)。
【0052】
次に、スピンナーを用いて、基板100の支持層130側に、膜厚40μmになるようにレジストを塗布し、開口部4aに対応するパターンを露光後、現像処理することでレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとし、中間層120をエッチングストッパーとして、フロロカーボン系の混合ガスによるドライエッチングを行った。そして、残ったレジストを酸素プラズマによるアッシングで除去し、開口部4aを形成した(図3(b)参照)。
【0053】
次に、スピンナーを用いて、基板100のパターン形成層110側に、膜厚1μmになるようにレジストを塗布し、電子線描画後、現像処理を行い、貫通パターン5に対応するレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとし、中間層120をエッチングストッパーとして、フロロカーボン系の混合ガスを用いたドライエッチングを行い、残ったレジストパターンを酸素プラズマで除去することで、パターン形成層110に貫通パターン5を形成した(図3(c)参照)。
【0054】
次に、フッ酸により、開口部4a内の中間層を除去し、開口部3aを有する中間層3を形成するとともに、貫通パターン5の貫通孔5aを開口部4a側に開通させた(図3(d)参照)。
【0055】
次に、貫通パターン5を含む図3(d)に示すような有機汚染防止膜1が成膜されていない未成膜構造体6Bの全体にCr膜を膜厚50nmで形成し、ステンシルマスク10Bを得た。Cr膜の形成にはスパッタリング法を用いた。
【0056】
未成膜構造体6A、6Bをステンシルマスクとして使用した場合と、実施例1、2のステンシルマスク10A、10Bを使用した場合とにおけるそれぞれの寿命を比べると、未成膜構造体6A、6Bを用いたステンシルマスクは出荷後半年程度で貫通パターン5の側壁にカーボン系の析出物が発生した。一方、ステンシルマスク10A、10Bは、出荷後半年を過ぎても析出物が発生せず、良好な状態を維持することができた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のステンシルマスクは、電子ビームやイオンビームを用いて実施される超微細な回路パターン転写の際に用いられるステンシルマスクとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 有機汚染防止膜
2、110 パターン形成層(基材)
3、120 中間層(基材)
3a、4a 開口部
4、130 支持層(基材)
5 貫通パターン
5a 貫通孔
10、10A、10B ステンシルマスク
100 基板(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の厚さ方向に貫通して形成され、荷電粒子線が透過可能な貫通パターンと、
少なくとも前記貫通パターンを含む前記基材の表面に形成された有機汚染防止膜と、
を備えることを特徴とするステンシルマスク。
【請求項2】
前記有機汚染防止膜は、
水分子が吸着した場合に、前記水分子が二次元凝縮を起こす膜であること
を特徴とする請求項1に記載のステンシルマスク。
【請求項3】
前記有機汚染防止膜は、
クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、およびストロンチウム(Sr)から成る金属群より選ばれた少なくとも1つ以上の金属、
または、前記金属群より選ばれた少なくとも1つ以上の金属を含む合金、
または、前記金属群より選ばれた金属の酸化物、
または、前記合金の酸化物、
または、前記金属群より選ばれた金属の窒化物、
または、前記合金の窒化物、
または、フッ化ストロンチウム(SrF
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のステンシルマスク。
【請求項4】
基材に、荷電粒子線が透過可能であって、前記基材の厚さ方向に貫通する貫通パターンを形成する貫通パターン形成工程と、
少なくとも前記貫通パターンを含む前記基材の表面に有機汚染防止膜を形成する有機汚染防止膜形成工程と、
を備えることを特徴とするステンシルマスク製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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