説明

ステント送達カテーテル

【課題】病変部にステントを配置するためのシースを操作する際に、過剰な力を必要とせず、安定して操作することができ、屈曲した通路に対して優れた操作性を有し、且つステントを目的部位内に正確に配置できるステント送達カテーテルを提供する。
【解決手段】カテーテル本体101と、カテーテル本体101に形成されたルーメン104内に少なくとも一部が挿通された近位端及び遠位端を有するインナーカテーテル105とを備え、インナーカテーテル105が、ガイドワイヤルーメンを有する管状部材201と、管状部材201の外側、或いは壁面内にこれに対して並行に配置されたコアワイヤ203と、管状部材201及びコアワイヤ203の周囲を覆うように配置された柔軟な被覆部材204と、更にカテーテル本体101をインナーカテーテル105に対し相対的に近位側に移動する際にステント102が近位側に移動することを防止するストッパー106を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に管状のステントを血管内に配置するためのステント送達カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは一般に、血管あるいは他の生体内管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、その狭窄もしくは閉塞部位を拡張し、その管腔サイズを維持するために病変部位に留置する医療用具として用いられている。ステントには、1本の線状の金属もしくは高分子材料からなるコイル状のステントからなるもの、金属チューブをレーザーによって切り抜いて加工したもの、線状の部材をレーザーによって溶接して組み立てたもの、複数の線状金属を織って作ったもの等がある。一般的に、ステントは金属や高分子、あるいはそれらの複合体から構成され、最も一般的には、SUS316鋼、Co−Cr系合金、Ni−Ti系合金などの金属から構成される。
【0003】
ステントは管状構造であり、狭窄した血管を開いた状態に保つために半径方向に拡張できる。ステントの拡張機構は、ステント自体の形状記憶性や超弾性により拡張する自己拡張型ステント(self−expandable stent)とバルーンカテーテルにより拡張されるバルーン拡張型ステント(balloon−expandable stent)に大別される。
【0004】
この内、自己拡張型ステントは、一般に、管内カテーテルの先端付近に取り付けられ、その上からシース等を被せられて使用され、カテーテルを患者の体管腔内の治療部位へ進め、治療部位にてシース等を取り除き、これに伴ってステントが自己拡張することで留置する方法で用いられる。近年、尿管や胆管、下肢動脈の形成術に対してこれらのステントが多く用いられるようになってきている。
【0005】
ステント送達カテーテルで病変部まで搬送後、術者が手元側からシースを引くことでカテーテル内のステントを配置するが、この際に手元側からシースを引く力は、最初、シースとステントが静的に固定され、作動させるのに大きな抵抗を伴う。その後、ステントがシースと軸方向に相対的に移動した際に、動的に抵抗が減少する。
【0006】
ステントの配置のために、操作時に必要な力は、ステントとシースとの間、管内カテーテルとシースとの間、の両方における摩擦に打ち勝たなければならない。シースの外側に作用する張力は、管内カテーテルに作用する同等の圧縮力と対向する。管内カテーテルに圧縮が生じると、ステントに対してシースを引っ込めることができない可能性もある。或いは、シースは、カテーテルがある量だけ圧縮された状態となった後に、引き抜かれる可能性もある。その結果、ステントの軸位置は、体内ルーメン内においてずれるかもしれない。このことは、本来意図された箇所とは異なる箇所にステントが配置されることをもたらす。ステントが意図した場所に配置されないと、治療したい病変部を治療することができなくなってしまい、治療効果に大きな影響を及ぼすと共に、再度治療を行わなければならない等、患者の身体に大きな負担がかかってしまう。ステントの優れた配置を達成しステント送達に有益である、ステント送達カテーテルの先行技術が提案されている。これらは例えば、特許文献1〜特許文献4に開示されている。
【0007】
特許文献1に記述されているような、シャフト上にロッキングステーを有する構造では、ステントが放出する動作とステントを保持する機構は独立している複雑な構造のため、カテーテルをより小さくすることが困難となり、低侵襲治療を実現できなくなってしまう。
【0008】
また、特許文献2に記述されているような、ステント中央部とステント端部の拡張力を変化させるような構造では、中央部と端部でステントデザインを変化させているために、その変化部分において応力集中が発生してしまい、血管の拍動や様々な動きによってステントが破損してしまう可能性がある。
【0009】
また、特許文献3に記述されているような、カテーテルに安定化要素、可動部材を設け、操作部において制御するような構造では、カテーテル、操作部材の構造が複雑となってしまい、カテーテルをより小さくすることが困難となり、低侵襲治療を実現できなくなってしまう。
【0010】
また、特許文献4に記述されているような、外側チューブ内面に親水性被覆を塗布することで、放出荷重を低減することは、ステントとの接触で被覆を剥がし、体内に剥がれた被覆が残留してしまう可能性が否定できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3679466号公報
【特許文献2】特開2008−193号公報
【特許文献3】特表2002−525168号公報
【特許文献4】特表2003−510134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
病変部にステントを配置するためシースを操作する際に、操作抵抗が大き過ぎると、ステントが留置できないばかりか、留置できたとしても本来意図された箇所とは異なる箇所にステントが配置されることをもたらす。上記現象は治療効果に大きく影響を及ぼすと共に、患者の身体に大きな負担をかけてしまう。
【0013】
これらの状況を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、病変部にステントを配置するためシース(カテーテル本体)を操作する際に、過剰な力を必要とせず、安定して操作することができ、屈曲した通路に対して優れた操作性を有し、且つステントを目的部位内に正確に配置できるステント送達カテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、
(1)略管状体に形成され、かつ圧縮された第1の直径から拡大された第2の直径まで半径方向に拡張可能な自己拡張型のステントを血管内の目的部位へ配置するためのステント送達カテーテルであって、近位端及び遠位端と、内部にルーメンを備え、更にその遠位端近傍に前記ステントを保持するステント保持部を有する、血管内へ挿入可能な細長い可撓性のカテーテル本体と、前記カテーテル本体に形成されたルーメン内に少なくとも一部が挿通された近位端及び遠位端を有するインナーカテーテルとを備え、前記インナーカテーテルが、ガイドワイヤルーメンを有する管状部材と、該管状部材の外側、或いは壁面内にこれに対して並行に配置されたコアワイヤと、該管状部材及び該コアワイヤの周囲を覆うように配置された柔軟な被覆部材と、更にカテーテル本体をインナーカテーテルに対して相対的に近位側に移動する際にステントが近位側に移動することを防止するストッパーを有していることを特徴とする、ステント送達カテーテルを提供した。これによれば、ステントを配置するためカテーテル本体(以下、シースということがある。)を操作する際に、過剰な力を必要とせず、安定して、操作することができる。また、従来に比して、屈曲した通路に対して優れた操作性を有し、且つステントを目的部位内に正確に配置することが可能となる。
【0015】
(2)コアワイヤが、管状部材の外側これに対して並行に配置されていることを特徴とする、前記ステント送達カテーテルを提供した。
【0016】
(3)カテーテル本体が、樹脂からなる外層、金属材料からなる中間層、樹脂からなる内層である3層構造を有していることを特徴とする、前記ステント送達カテーテルを提供した。
【0017】
(4)被覆部材のショア硬度が55D以下であることを特徴とする、前記ステント送達カテーテルを提供した。
【0018】
(5)カテーテル軸に垂直な少なくとも一部の断面において、前記カテーテル本体に形成されたルーメンの内径と、前記インナーカテーテルの管状部材及びコアワイヤ及び被覆部材とから構成される最大外径との差が0.20mm以下であることを特徴とする、前記ステント送達カテーテルを提供した。
【0019】
(6)被覆部材及び/又は前記コアワイヤの少なくとも一部がコイル形状を有していることを特徴とする、前記ステント送達カテーテルを提供した。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、病変部にステントを配置するためシース(カテーテル本体)を操作する際に、過剰な力を必要とせず、安定して、操作することができる。また、従来に比して、屈曲した通路に対して優れた操作性を有し、且つステントを目的部位内に正確に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ステント及びステント送達カテーテルの全体図(側面断面図)である。
【図2】図2は、ステント送達カテーテルのカテーテル軸に垂直な断面の拡大図である。
【図3】図3は、下肢模擬血管を用いたステント放出荷重及びステント留置正確性の評価を行う方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るステント送達カテーテルについて、一例の図を用いて説明するが、本発明はこの特定の構造に制限されるものではない。
【0023】
図1は本発明のステント送達カテーテルの1実施例の全体図(側面断面図)を示したものである。101は管腔内に挿入可能な細長い可撓性のカテーテル本体であり、その遠位部にステントを保持するステント保持部103を有している。また、カテーテル本体101に形成されたルーメン104内にインナーカテーテル105が挿通されている。インナーカテーテル105は、内部にガイドワイヤルーメンを有する管状部材201と、該管状部材201の外側にこれに対して並行に配置されたコアワイヤ203と、該管状部材201及び該コアワイヤ203の周囲を覆うように配置された柔軟な被覆部材204を有して構成され、更にカテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に近位側に移動する際に同時にステントが近位側に移動することを防止するストッパー106を有している(好ましくは、ステント102の近位側に配置され、ステント102を近位側から支える。)。またインナーカテーテル105の遠位端は内部にガイドワイヤールーメンを備えてカテーテル本体101の遠位端より遠位側に延びて先端チップ107を構成している(従って、先端チップ107は、同時にガイドワイヤールーメンの遠位側開口部を構成している。)。更に、カテーテル本体101の近位端近傍にはカテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に移動する際に用いられる操作部材108を有している。以下、これらの各構成要素について順次説明する。
【0024】
ステント保持部103には、ステント102が縮径状態で保持されている(好ましくは収納されている。)。ステント102は血管の狭窄部を拡張させて治療する自己拡張型ステントであり、ステント保持部103による規制が解除されると、その内径がステント保持部103の外径以上となるように拡径し、拡張後の外径を形成する。ステント102は円周方向に伸張可能な略波形構成要素が構成する管状セクションを軸方向に対して垂直にその管を複数整列して構成したものであることが好ましい。また、略波形構成要素はストラットによって構成されていることが好ましい。ステント102の外径、及び軸方向長さは、病変部管腔の内径及び長さに合わせて選択されるもので、治療目的とする管腔により全く異なるが、例えば浅大腿動脈用のステントを例に挙げると、外径は6.0mm〜10.0mm、軸方向長さは30〜200mm程度に設定されていることが好ましい。また、このステントとしては、一般的にはニッケルチタン合金のパイプにレーザーカットを施したものを、拡径して熱処理したもの等が使用される。
【0025】
インナーカテーテル105はカテーテル本体101に形成されたルーメン104内に少なくとも一部が挿通されており、インナーカテーテル105が有する管状部材201に設けられたガイドワイヤルーメン202にはガイドワイヤーが挿入され、カテーテル本体101を病変部まで導く。また、インナーカテーテル105は挿入する管腔に追従可能な柔軟性、及び耐キンク性、カテーテルを手技中に引っ張った際に伸びない程度の引っ張り強度を有していることが好ましく、また、カテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に移動する際にカテーテル本体101の内周面との摺動抵抗が減少し、ステント保持部103の移動操作を容易に行うことができるように、インナーカテーテル105の外表面は低摩擦性を有している(低摩擦係数を有している)ことが望ましい。
【0026】
インナーカテーテル105は上記の特性を満たす観点から、例えば図1におけるA−A断面を表した図2に示すように、ガイドワイヤルーメン202を有する管状部材201、管状部材201の外側、或いは壁面内にこれに対して並行に配置されたコアワイヤ203(特に、加工し易さ、強度の点から、図2に示した様に、管状部材201の外側にこれに対して並行に配置されていることが好ましい。)、管状部材201及びコアワイヤ203の周囲を覆うように配置された被覆部材204とからなる構造を有していることが好ましく、更に管状部材201、被覆部材204が樹脂材料で、コアワイヤ203が金属材料で形成されていることが好ましい。また、被覆部材204が管状部材201及びコアワイヤ203の周囲を接着又は溶着されることは、本発明の有り得る実施形態の1つであり、コアワイヤ203を2本以上備えることは、本発明の有り得る実施形態の1つである。
【0027】
尚、図1で示したインナーカテーテル105は、ストッパー106の近位側周辺が管状部材201、コアワイヤ203、被覆部材204により構成され、更に近位側の操作部108周辺ではガイドワイヤールーメンを備える管状部材のみで構成されているが、この様な構造のほかに、ストッパー106の近位側全体を管状部材201、コアワイヤ203、被覆部材204により構成しても良いし、又はラピッド・エクスチェンジ・タイプ構造として、ガイドワイヤールーメンをその途中で外部に誘導しても良い。
【0028】
また、カテーテル本体101に形成されたルーメン104の内壁とインナーカテーテル105の外壁との距離は、ステント放出時の摺動抵抗に影響を与えるため、最適化されることが好ましい。そのため、カテーテル本体101に形成されたルーメン104の内径205と管状部材201およびコアワイヤ203及び被覆部材204からなる断面の最大外径206との差が0.20mm以下であることは、本発明を実施する上でさらに好ましい。
【0029】
インナーカテーテル105の被覆部材204の構成材料として、例えばポリエチレン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が挙げられる。また、病変部にステントを配置するためにシース(カテーテル本体)を操作する際に、過剰な力を必要とせず、安定して、操作することを可能とする上で(ステント留置時の操作性)、特にショア硬度が55D以下である柔軟な樹脂材料で被覆部材204を構成することが好ましい。更に、被覆部材204の形状は、屈曲した通路に対する優れた操作性(追随性)を得る上で、その一部にコイル形状を有していることが、好ましい。
【0030】
一方、インナーカテーテル105のコアワイヤ203の構成材料として、例えばステンレス鋼、ニッケルチタン合金、タングステン、金、白金等の各種金属材料が挙げられる。また、コアワイヤ203は、その一部にコイル形状を有していることが、屈曲した通路に対する優れた操作性(追随性)を得る上で、好ましい。
【0031】
ステント保持部103は挿入する管腔に追従可能な柔軟性、及び耐キンク性、カテーテルを手技中に引っ張った際に伸びない程度の引っ張り強度を有していることが好ましい。また、ステント保持部103のステント保持面(ステント保持部103がステント102を収納している場合はステント保持部103の内面)は、カテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に移動する際にステント保持部103と接触しているステント102との摺動抵抗が減少し、移動操作を容易に行うことができるよう、ステント保持面(ステント保持部103がステント102を収納している場合はステント保持部103の内面)は低摩擦性を有している(低摩擦係数を有している)ことが望ましい。また、ステント保持部103の一部はブラスト処理されることで、表面が粗面化され、更に低摩擦性を有していることが好ましい。
【0032】
ステント保持部103は上記の特性を満たす観点から、外層、内層が樹脂材料で形成されており、外層、内層の間に金属素線(補強層)を埋め込んだ3層の樹脂−金属複合チューブで形成されていることが好ましく、外層の構成材料として、例えばポリエチレン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が挙げられる。
【0033】
尚、上記金属素線の構成材料として、例えばステンレス鋼、ニッケルチタン合金、タングステン、金、白金等の各種金属材料が挙げられる。金属素線は編組構造若しくはコイル構造でステント保持部の近位端から遠位端まで形成されていることが好ましい。内層の構成材料として、例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、ポリエチレン等の低摩擦材料が挙げられる。一方、ステント保持部は1層のチューブで形成されていても良く、構成材料として、例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、ポリエチレン等の低摩擦材料が挙げられる。
【0034】
また、カテーテル本体101をインナーカテーテル105に対して相対的に近位側に移動する際にステント102が近位側に移動することを防止するストッパー106を有していることが好ましい。また、ストッパー106は、インナーカテーテル105に接着若しくは溶着されていることが好ましい。また、ストッパー106の外径は、ステント保持部103の内径より小さく、クリンプされ、ステント保持部103内に保持されているステント102の内径より大きいことが好ましい。これによって、ステント102の近位端の壁面を全周に渡って支える(押し込む)ことができるため、カテーテル本体101をインナーカテーテル105に対して相対的に移動した時に、より効率的にステント102を放出することが可能なステント送達カテーテルを提供することができる。
【0035】
ストッパー106の構成材料としては、金属、樹脂材料等が好適であり、例えばステンレス鋼、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金等の金属材料、ポリエチレン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が好ましい。
【0036】
また、ストッパー106はX線不透過性の材料から構成され、X線不透過性マーカーとして機能することが好ましい。これによって、X線透視下で体内管腔内の病変部までカテーテル本体101を進めることができ、また、ステント配置のときにステント102とカテーテル本体101の位置関係を確認することができるため、より安全で効率的にステントを搬送、放出することが可能なステント送達カテーテルを提供することができる。
【0037】
X線不透過性マーカーとしては、X線造影性物質、超音波造影性物質などの造影性物質などの造影性物質により形成される。マーカーの構成材料としては、例えば、金、白金、タングステン、タンタル、イリジウム、パラジウムあるいはそれらの合金、あるいは金−パラジウム合金、白金−イリジウム、NiTiPd、NiTiAu等が好適である。
【0038】
また、インナーカテーテル105の先端部には先端チップ107が、例えば接着、若しくは溶着されて配置されていることが好ましい。特に、図1に示した1実施例の様に、内部にガイドワイヤールーメンを備えてカテーテル本体101の遠位端より遠位側に延びて配置された先端チップ107を有していることが好ましい(従って、先端チップ107は、同時にガイドワイヤールーメンの遠位側開口部を構成している。)。先端チップ107によって、病変部(狭窄部)をカテーテル本体101が通過し易くなる。また、先端チップ107は造影性を有していることが好ましい。これによって、カテーテル本体101の先端部を把握することができ、また操作部108の操作により、ステント保持部103に対するステント102の相対的な位置を把握することができる。
【0039】
先端チップ107は挿入する管腔に追従することが可能な柔軟性と共に、狭窄部を通過することが可能な長軸方向の剛性を有していることが好ましく、先端チップ107の構成材料として、例えばポリエチレン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が挙げられる。更に造影性を付加する観点より、硫酸バリウム、ビスマス化合物、タングステン化合物等が含有していることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明に係るステント送達カテーテルを実施例に基づき説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0041】
(実施例1)
外層にポリアミドエラストマー、内層にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、その補強層として幅100μm、厚さ25μmのステンレス鋼の平線を用いた編組構造を有するチューブをカテーテル本体101として使用した。このカテーテル本体101に形成されたルーメン104の内径205は1.78mmであった。
【0042】
インナーカテーテル105は、ポリイミドからなる管状部材201の外側にこれに対して並行となる様にステンレス綱からなるコアワイヤ203を配置し、更にこれに対してショア硬度が55Dであるポリアミドエラストマーからなる被覆部材204で周囲を覆う様に巻いて作成した。尚、この管状部材201及びコアワイヤ203及び被覆部材204からなるインナーカテーテル105のカテーテル軸に垂直な断面の最大外径206は1.60mmであった。また、このインナーカテーテル105を上記カテーテル本体101のルーメン内に挿通してステント送達カテーテルを作成した(尚、カテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に移動させる為の操作部材108を、カテーテル本体101の近位端近傍に設けた。)。
【0043】
一方、このステント送達カテーテルにおけるカテーテル本体のルーメンの遠位端近傍をステント保持部103とし、自己拡張型のステント102を収納させて保持した。このステント102はφ2.2mmのニッケル・チタン(Ni−Ti)合金のパイプをレーザーカットし、φ6mmまで拡張させて熱処理を施したものである。ステント保持部103に保持する前の、ステント102の外径はφ6mm、軸方向の長さは45mmとした。
【0044】
(比較例1)
外層にポリアミドエラストマー、内層にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、その補強層として幅100μm、厚さ25μmのステンレス鋼の平線を用いた編組構造を有するチューブをカテーテル本体101として使用した。このカテーテル本体101に形成されたルーメン104の内径205は1.78mmであった。
【0045】
インナーカテーテル105は、ポリイミドからなる管状部材201の外側にこれに対して並行となる様にステンレス綱からなるコアワイヤ203を配置した。尚、この管状部材201及びコアワイヤ203からなるインナーカテーテル105のカテーテル軸に垂直な断面の最大外径206は1.22mmであった。また、このインナーカテーテル105を上記カテーテル本体101のルーメン内に挿通してステント送達カテーテルを作成した(尚、カテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に移動させる為の操作部材108を、カテーテル本体101の近位端近傍に設けた。)。
【0046】
一方、このステント送達カテーテルにおけるカテーテル本体のルーメンの遠位端近傍をステント保持部103とし、自己拡張型のステント102を収納させて保持した。このステント102はφ2.2mmのニッケル・チタン(Ni−Ti)合金のパイプをレーザーカットし、φ6mmまで拡張させて熱処理を施したものである。ステント保持部103に保持する前の、ステント102の外径はφ6mm、軸方向の長さは45mmとした。
【0047】
(比較例2)
外層にポリアミドエラストマー、内層にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、その補強層として幅100μm、厚さ25μmのステンレス鋼の平線を用いた編組構造を有するチューブをカテーテル本体101として使用した。このカテーテル本体101に形成されたルーメン104の内径205は1.78mmであった。
【0048】
インナーカテーテル105は、ポリイミドからなる管状部材201の外側にこれに対して並行となる様にステンレス綱からなるコアワイヤ203を配置し、更にこれに対してショア硬度が72Dであるポリアミドエラストマーからなる被覆部材204で周囲を覆う様に巻いて作成した。尚、この管状部材201及びコアワイヤ203及び被覆部材204からなるインナーカテーテル105のカテーテル軸に垂直な断面の最大外径206は1.60mmであった。また、このインナーカテーテル105を上記カテーテル本体101のルーメン内に挿通してステント送達カテーテルを作成した(尚、カテーテル本体をインナーカテーテルに対し相対的に移動させる為の操作部材108を、カテーテル本体101の近位端近傍に設けた。)。
【0049】
一方、このステント送達カテーテルにおけるカテーテル本体のルーメンの遠位端近傍をステント保持部103とし、自己拡張型のステント102を収納させて保持した。このステント102はφ2.2mmのニッケル・チタン(Ni−Ti)合金のパイプをレーザーカットし、φ6mmまで拡張させて熱処理を施したものである。ステント保持部103に保持する前の、ステント102の外径はφ6mm、軸方向の長さは45mmとした。
【0050】
(評価)上記実施例1及び比較例1、2に関して、以下の評価を実施した。
【0051】
(1)ステント放出荷重評価
図3に示した様に、37℃±2℃にコントロールされた温浴303内に下肢模擬血管304(模擬病変部位)を配置し、ステントを保持させたステント送達カテーテルを下肢模擬血管304まで挿通した。尚、下肢模擬血管304まで、ステント102が展開されることなくデリバリーできるかどうかを確認し(ステントデリバリー正否)、デリバリーできたものについて、カテーテル本体101の操作部材108を習動距離80mm、習動速度10mm/secで近位端側に引っ張り、その際に生じるステント放出荷重を20Nフォースゲージ306(日本電産シンポ株式会社)を用いて測定した。評価は実施例1、比較例1及び2のそれぞれにおいて、サンプル数を3本とし、インナーカテーテル105によって近位端側に移動することが抑制されたステント102に対しカテーテル本体101が動き始める際の荷重値の平均をステント放出荷重として評価した。
【0052】
(2)ステント留置ズレの評価
上記ステント放出荷重評価の際に、同時に、ステント102をカテーテルから放出する際に生じるステント留置ズレを評価した。具体的には、ステントを放出する前の状態でステント保持部103の遠位端の初期位置を下肢模擬血管304にマーキングしておき、カテーテル本体101を近位端側に引っ張り、留置されたステント102の遠位端からマーキングした位地までの距離を測定した。評価は実施例1、比較例1及び2のそれぞれにおいて、サンプル数を3本とし、留置ズレの平均を求めた。
【0053】
(評価結果)
【0054】
【表1】

【0055】
上記デリバリー正否、ステント放出荷重、ステント留置ズレの評価結果を表1に示した。表1に示した様に、実施例1、比較例1及び2共に、仮想病変部までデリバリーでき、ステント102を放出できた。実施例1では、比較例1及び2に対して、ステント放出荷重が大きく低下した。また、実施例1では、比較例1及び2に対して、ステント留置ズレが減少し、ステント留置正確性が向上した。
【符号の説明】
【0056】
101 カテーテル本体
102 ステント
103 ステント保持部
104 カテーテル本体ルーメン
105 インナーカテーテル
106 ストッパー
107 先端チップ
108 操作部
201 管状部材
202 ガイドワイヤルーメン
203 コアワイヤ
204 被覆部材
205 カテーテル本体ルーメン内径
206 インナーカテーテル断面(201、203、204)最大外径
301 ステント送達カテーテル
302 ステント
303 温浴
304 下肢血管を模擬したモデル
305 スライダー
306 フォースゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略管状体に形成され、かつ圧縮された第1の直径から拡大された第2の直径まで半径方向に拡張可能な自己拡張型のステントを血管内の目的部位へ配置するためのステント送達カテーテルであって、
近位端及び遠位端と、内部にルーメンを備え、更にその遠位端近傍に前記ステントを保持するステント保持部を有する、血管内へ挿入可能な細長い可撓性のカテーテル本体と、
前記カテーテル本体に形成されたルーメン内に少なくとも一部が挿通された近位端及び遠位端を有するインナーカテーテルとを備え、
前記インナーカテーテルが、ガイドワイヤルーメンを有する管状部材と、該管状部材の外側、或いは壁面内にこれに対して並行に配置されたコアワイヤと、該管状部材及び該コアワイヤの周囲を覆うように配置された柔軟な被覆部材と、更にカテーテル本体をインナーカテーテルに対して相対的に近位側に移動する際にステントが近位側に移動することを防止するストッパーを有していることを特徴とする、ステント送達カテーテル。
【請求項2】
前記コアワイヤが、管状部材の外側これに対して並行に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のステント送達カテーテル。
【請求項3】
前記カテーテル本体が、樹脂からなる外層、金属材料からなる中間層、樹脂からなる内層である3層構造を有していることを特徴とする、請求項1又は2の何れか1項に記載のステント送達カテーテル。
【請求項4】
前記被覆部材のショア硬度が55D以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のステント送達カテーテル。
【請求項5】
カテーテル軸に垂直な少なくとも一部の断面において、前記カテーテル本体に形成されたルーメンの内径と、前記インナーカテーテルの管状部材及びコアワイヤ及び被覆部材とから構成される最大外径との差が0.20mm以下であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のステント送達カテーテル。
【請求項6】
前記被覆部材及び/又は前記コアワイヤの少なくとも一部がコイル形状を有していることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のステント送達カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−65824(P2012−65824A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212792(P2010−212792)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】