説明

ステンレス箔およびその箔を用いた排ガス浄化装置用触媒担体

【課題】高温での強度が高く、高温での耐酸化性に優れ、かつ耐塩害腐食性にも優れるステンレス箔およびその箔を用いた排ガス浄化装置用触媒担体を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05%以下、Si:2.0%以下、Mn:1.0%以下、S:0.003%以下、P:0.05%以下、Cr:25.0〜35.0%、Ni:0.05〜0.30%、Al:3.0〜10.0%、N:0.10%以下、Ti:0.02%以下、Nb:0.02%以下、Ta:0.02%以下、Zr:0.005〜0.20%、Ce:0.02%以下、Ceを除くREM:0.03〜0.20%、MoおよびWのうち少なくとも一種を合計で0.5〜6.0%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とするステンレス箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、オートバイ、マリンバイク、スノーモービルなどの排気ガス浄化装置用触媒担体などに用いられ、高温での強度(特に、ヤング率、破断応力、耐変形性)が高く、高温での耐酸化性に優れ、かつ耐塩害腐食性に優れるステンレス箔およびその箔を用いた排ガス浄化装置用触媒担体に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe-Cr-Al合金からなるフェライト系ステンレス鋼は、高温での耐酸化性に優れているため、自動車、オートバイ、マリンバイク、モーターボートなどの排気ガス浄化装置用部材(例えば、触媒担体、各種センサーなど)に使用されているほか、ストーブ、ガスバーナ、加熱炉の部材、あるいは電気抵抗率が高い特性を活かして、ヒータの発熱体などにも使用されている。例えば、特許文献1には、自動車の排気ガス浄化装置用触媒担体の小型化やエンジン性能の向上を目的に、従来のセラミックス製に代わり、高温での耐酸化性に優れる箔厚20〜100μmのFe-Cr-Al系ステンレス箔を用いた金属製ハニカムが開示されている。この金属製ハニカムは、例えば、平坦なステンレス箔(平板)と波状に加工されたステンレス箔(波板)とを交互に積み重ねてハニカム構造とし、さらにこのステンレス箔の表面に触媒物質を塗布して排気ガス浄化装置に用いられる。図1に金属製ハニカムの一例を示すが、これは平板1と波板2を積み重ねたものをロール状に巻き加工し、その外周を外筒3で固定することで作製した金属製ハニカム4である。
【0003】
こうしたステンレス箔の使用により触媒担体の壁厚を薄くすると、その熱容量が減少するので、エンジン始動から短時間で触媒を活性化できたり、排気抵抗を小さくでき、触媒担体の小型化やエンジン性能の向上に効果的である。
【0004】
一方、自動車排ガス規制は、地球環境保護の立場から今後さらに強化されることが予想され、ガソリン車などから排出される窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素を低減させるため、排気ガス浄化装置用触媒担体を実際の燃焼環境に近いエンジン直下位置に載置し、高温の排ガスで触媒反応を起こさせて排ガス中の有害物質を低減させる技術などが開発されている。また、燃費向上のため、エンジンの燃焼効率が高められ、排ガス自体の温度も上昇していることから、排気ガス浄化装置用触媒担体は、エンジンの激しい振動を従来よりも苛酷な環境で受けるようになりつつある。
【0005】
このような状況に対応するため、排気ガス浄化装置用触媒担体に対して種々の特性を有するステンレス箔が提案されている。例えば、特許文献2には、Zr、Hf、希土類元素を含有したFe‐20Cr‐5Al合金に、MoおよびWを含有させ、さらにNiを1〜15%含有させることでNiAlを析出させて、高温での耐力(強度)を高めて耐久性を向上させた耐熱ステンレス箔が開示されている。また、特許文献3には、高温強度に優れる低熱容量、低排気圧用の素材として、箔厚が40μm未満で、箔厚に対応させてAl量、Cr量を変化させ、さらにNb、Mo、Ta、Wなどを含有させたステンレス箔が、特許文献4には、Yミッシュメタルを含有したFe‐20Cr‐5Al合金に、Nb、Ta、Mo、Wを含有させ、高温での耐力と耐酸化性を向上させたメタル担体用合金箔が開示されている。さらに、特許文献5には、La、Ce、Pr、Ndを含有したFe‐20Cr‐5Al合金に、C+Nに対して所定量のTaと、Mo、W、Nbとを含有させることによって、高温での耐力を高めて耐久性を向上させた耐熱ステンレス箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56-96726号公報
【特許文献2】特表2005-504176号公報
【特許文献3】特許第3210535号公報
【特許文献4】特開平05-277380号公報
【特許文献5】特公平06-104879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のステンレス箔では、オーステナイト安定化元素であるNiを多量に含むため、箔の酸化の過程でフェライト安定化元素である鋼中の固溶Alが減少し、フェライトの一部がオーステナイト化するため、熱膨張係数が大きく変化し、触媒担体の高温での強度、特に耐変形性が低下するといった問題がある。その結果、担持した触媒が剥がれたり、波板のつぶれなどの不具合を起こす場合がある。
【0008】
また、特許文献3から5に記載のステンレス箔では、NbやTaの含有によって高温での強度を向上させるが、高温での耐酸化性を著しく低下させるという問題がある。さらに、NbやTaはFeやAlと酸化物を作りやすく、これら酸化物は昇温および降温過程での箔形状を変形させる(高温での強度低下)原因となる。
【0009】
さらに、特許文献2から5に記載のステンレス箔を、マリンバイクやモーターボートの排気ガス浄化装置用触媒担体に適用すると、海水などとの接触により塩害腐食が発生しやすいといった問題もある。
【0010】
本発明は、高温での強度が高く、高温での耐酸化性に優れ、かつ耐塩害腐食性にも優れるステンレス箔およびその箔を用いた排ガス浄化装置用触媒担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、Fe-Cr-Al系ステンレス箔において、Ni、Nb、Taの含有量を低減し、Crを25質量%以上、MoおよびWのうち少なくとも一種を0.5〜6.0質量%を含有させることが効果的であることを見出した。
【0012】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、質量%で、C:0.05%以下、Si:2.0%以下、Mn:1.0%以下、S:0.003%以下、P:0.05%以下、Cr:25.0〜35.0%、Ni:0.05〜0.30%、Al:3.0〜10.0%、N:0.10%以下、Ti:0.02%以下、Nb:0.02%以下、Ta:0.02%以下、Zr:0.005〜0.20%、Ceを除くREM:0.03〜0.20%、MoおよびWのうち少なくとも一種を合計で0.5〜6.0%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とするステンレス箔を提供する。
【0013】
本発明のステンレス箔では、質量%で、MoおよびWのうち少なくとも一種が合計で2.5〜5.0%であることが好ましい。また、さらに、質量%で、Hf:0.01〜0.20%、質量ppmで、Ca:10〜300ppmおよびMg:15〜300ppmのうち少なくとも一種、あるいはCu:0.03〜1.0%が、個別にあるいは同時に含有されることが好ましい。
【0014】
本発明のステンレス箔では、箔厚が40μm以上であることが好ましい。
【0015】
本発明は、また、上記の成分組成や箔厚からなるステンレス箔を用いたことを特徴とする排ガス浄化装置用触媒担体を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高温での強度が高く、高温での耐酸化性に優れ、かつ耐塩害腐食性にも優れるステンレス箔が得られた。本発明のステンレス箔は、自動車、オートバイ、マリンバイク、スノーモービルなどの排気ガス浄化装置用触媒担体のみならず、その他の燃焼ガス排気系装置の部材にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】金属製ハニカムの一例を示す図である。
【図2】Cr含有量とヤング率および孔食電位との関係を示す図。
【図3】Cu含有量と孔食電位との関係を示す図。
【図4】実施例の高温引張試験で用いた試験片形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明であるステンレス箔の成分組成の限定理由について詳述する。
【0019】
以下に示す成分元素の含有量の単位である「%」、「ppm」は、それぞれ「質量%」、「質量ppm」を意味するものとする。
【0020】
C:0.05%以下
C含有量が0.05%を超えると、高温での強度が低下し、高温での耐酸化性も低下する。また、靭性の低下も招く。よって、C含有量は0.05%以下、好ましくは0.02%以下とするが、極力低減することがより好ましい。但し、鋼の強度をより向上させる場合には、0.001%以上含有させのが好ましく、より好ましくは0.003%以上含有させる。
【0021】
Si:2.0%以下
Si含有量が2.0%を超えると、靭性が低下するとともに、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、Si含有量は2.0%以下、好ましくは1.0%以下とする。但し、耐酸化性をより向上させる場合には、0.05%以上含有させるのが好ましく、より好ましくは0.1%以上含有させる。
【0022】
Mn:1.0%以下
Mn含有量が1.0%を超えると、高温での耐酸化性が低下する。また、耐塩害腐食性の低下も招く。よって、Mn含有量は1.0%以下、好ましくは0.5%以下とする。但し、鋼中のSを更に固定する必要がある場合には、0.05%以上含有させるのが好ましく、より好ましくは0.01%以上含有させる。
【0023】
S:0.003%以下
S含有量が0.003%を超えると、触媒担体におけるAl2O3皮膜の密着性や高温での耐酸化性が低下する。よって、S含有量は0.003%以下、好ましくは0.001%以下とするが、極力低減することがより好ましい。
【0024】
P:0.05%以下
P含有量が0.05%を超えると、加工性が低下して箔の製造を困難にするだけでなく、触媒担体におけるAl2O3皮膜の密着性や高温での耐酸化性が低下する。よって、P含有量は0.05%以下、好ましくは0.03%以下とするが、極力低減することがより好ましい。
【0025】
Cr:25.0〜35.0%
Crは本発明において最も重要な元素の一つであり、高温での強度および耐塩害腐食性を確保する上で必要不可欠な元素である。本発明者らによる検討の結果、十分な高温での強度および耐塩害腐食性を確保するためには、1000℃におけるヤング率が110GPa以上、30℃の3.5%NaCl溶液中における孔食電位が300mV vs SCE以上であることが望ましいことがわかった。
【0026】
次に、Crを本発明の範囲に含有させることでこれら目的を達成することができることを説明する。図2に、C:0.004〜0.007%、Si:0.15〜0.17%、Mn:0.13〜0.16%、S:0.0007〜0.0008%、P:0.023〜0.025%、Ni:0.10〜0.16%、Al:5.2〜5.8%、N:0.005〜0.008%、Ti:0.004〜0.006%、Nb:0.008〜0.012%、Ta:0.005〜0.009%、Zr:0.031〜0.036%、Ce:0.007〜0.008%、La:0.062〜0.092%、Mo:2.83〜3.12%、Ca:19〜30ppm、Mg:13〜30ppmを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる合金のCr含有量を20.2〜34.8%の範囲に変えて、後述する方法により測定した1000℃におけるヤング率および30℃の3.5%NaCl溶液中における孔食電位の結果を示したが、Cr含有量を25.0%以上にすることにより、特許文献2〜5に記載のCr含有量が20%のFe‐20Cr‐5Al合金に比べ、ヤング率が110GPa以上で1.1〜1.2倍、孔食電位が300mV vs SCE以上で2〜4倍向上することがわかる。なお、マリンバイクやモーターボートのように、より過酷な塩害腐食環境下で用いられる場合には、孔食電位が400mV vs SCE以上であることが望ましく、その場合はCr含有量を26.0%以上とすることが好ましい。しかし、Cr含有量が35.0%を超えると、靭性が低下するとともに、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、Cr含有量は25.0〜35.0%、好ましくは26.0〜32.0%とする。さらに好ましくは28.0〜32.0%とする。
【0027】
Ni:0.05〜0.30%
Niは触媒担体成形時のロウ付け性を向上する効果があるため、その含有量は0.05%以上とする。しかし、オーステナイト安定化元素であるNiの含有量が0.30%を超える場合は、高温での酸化進行時に箔中の固溶Alが減少し、Crが酸化され始めると、オーステナイトが生成して箔の熱膨張係数を変化させ、箔の括れや破断(セル切れ)などの不具合が発生する。よって、Ni含有量は0.05〜0.30%、好ましくは0.08〜0.20%とする。
【0028】
Al:3.0〜10.0%
Alは箔表面に保護性の高いAl2O3皮膜を形成し、高温での耐酸化性を向上させる元素である。しかし、Al含有量が3.0%未満では、十分な耐酸化性が得られない。一方、Al含有量が10.0%を超えると、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、Al含有量は3.0〜10.0%とする。好ましくは4.5〜6.5%とする。
【0029】
N:0.10%以下
N含有量が0.10%を超えると、靱性が低下するとともに、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、N含有量は0.10%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0030】
Ti:0.02%以下
Tiは酸化されやすい元素である。その含有量が0.02%を超えると、Ti酸化物がAl2O3皮膜中に多量に混入し、ロウ付け性が著しく低下するとともに、高温での耐酸化性も低下する。よって、Ti含有量は0.02%以下、好ましくは0.01%以下とするが、極力低減することがより好ましい。
【0031】
Nb:0.02%以下
Nb含有量が0.02%を超えると、(Fe,Al)NbO4の保護性のない酸化皮膜が生成し、高温での耐酸化性が著しく低下する。また、(Fe,Al)NbO4は熱膨張率が大きいため、箔の変形を助長し、触媒の剥離を引き起こす。よって、Nb含有量は0.02%以下、好ましくは0.01%以下とするが、極力低減することがより好ましい。
【0032】
Ta:0.02%以下
Nbと同様、Ta含有量が0.02%を超えると、(Fe,Al)TaO4の保護性がなく、熱膨張率が大きい酸化皮膜が生成し、高温での耐酸化性が著しく低下するとともに、箔の変形を助長し、触媒の剥離を引き起こす。よって、Ta含有量は0.02%以下、好ましくは0.01%以下とするが、極力低減することがより好ましい。
【0033】
なお、NbとTaの総含有量は0.03%以下とすることがより好ましく、0.02%以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
Zr:0.005〜0.20%
Zrは中のC、Nと結合し、クリープ特性を改善する。また、同時に靭性が向上するとともに、加工性が向上して箔の製造を容易にする。さらに、Al2O3皮膜中においてAl2O3粒界に濃化して高温での耐酸化性や、高温での強度、特に耐変形性を向上させる。このような効果を得るには、Zr含有量は0.005%以上とする必要がある。一方、Zr含有量が0.20%を超えると、Feなどと金属間化合物をつくり、靭性を低下させる。よって、Zr含有量は0.005〜0.20%、好ましくは0.01〜0.05%とする。
【0035】
Ce:0.02%以下
Ce含有量が0.02%を超えると、Al2O3皮膜と母材鋼表面との界面にCeO型の酸化物が生成し、高温での強度、特に耐変形性を著しく劣化させ、形状不良を引き起こす。よって、Ce含有量は0.02%以下とするが、極力低減することがより好ましい。
【0036】
Ceを除くREM:0.03〜0.20%
Ceを除くREMとは、La、Nd、Smなど原子番号57〜71までのCeを除く14種の元素とする。一般に、REMはAl2O3皮膜の密着性を改善し、繰り返し酸化される環境下においてAl2O3皮膜の耐剥離性向上に極めて顕著な効果を有する。また、生成するAl2O3の柱状晶を大きくするので、酸素の拡散経路である酸化物粒界の密度が小さくなり、高温での耐酸化性や高温での強度、特に耐変形性を向上させる。このような効果を得るには、Ceを除くREM含有量は0.03%以上とする必要がある。一方、Ceを除くREM含有量が0.20%を超えると、靭性が低下するとともに、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、Ceを除くREM含有量は0.03〜0.20%、好ましくは0.05〜0.10%とする。
【0037】
MoおよびWのうち少なくとも一種:合計で0.5〜6.0%
MoおよびWは高温での強度、特にヤング率と破断応力を増大し、触媒担体の寿命が良好となる。また、これらの元素は、同時に、Al2O3皮膜を安定化させ、耐塩害腐食性を向上させる。このような効果を得るには、MoおよびWのうち少なくとも一種の含有量は合計で0.5%以上とする必要がある。一方、MoおよびWのうち少なくとも一種の含有量が合計で6.0%を超えると、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、MoおよびWのうち少なくとも一種の含有量は合計で0.5〜6.0%、好ましくは2.5〜5.0%とする。
【0038】
上記した成分元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物であるが、以下の理由で、さらに、Hf:0.01〜0.20%、Ca:10〜300ppmおよびMg:15〜300ppmのうち少なくとも一種、あるいはCu:0.03〜1.0%を、個別にあるいは同時に含有されることができる。
【0039】
Hf:0.01〜0.20%、Ca:10〜300ppmおよびMg:15〜300ppmのうち少なくとも一種
HfはAl2O3皮膜と地鉄の密着性を良好にし、さらに固溶Alの減少を抑制するため、高温での耐酸化性を向上させる効果がある。このような効果を得るには、Hf含有量は0.01%とすることが好ましい。一方、Hf含有量が0.20%を超えると、Al2O3皮膜中にHfO2として混入して、酸素の拡散経路となり、かえって酸化により固溶Alの減少を早める。また、Feと金属間化合物を形成し、靭性を低下させる。よって、Hf含有量は0.01〜0.20%とすることが好ましく、0.02〜0.10%とすることがより好ましい。
【0040】
また、CaやMgは、Hfと同様に、Al2O3皮膜の密着性を向上する働きがある。このような効果を得るには、Ca含有量は10ppm以上、Mg含有量は15ppm以上とすることが好ましい。一方、Ca含有量やMg含有量が300ppmを超えると、靭性が低下し、高温での耐酸化性も低下する。よって、Ca含有量は10〜300ppm、Mg含有量は15〜300ppとすることが好ましく、Ca含有量、Mg含有量ともに20〜100ppmとすることがより好ましい。
【0041】
Cu:0.03〜1.0%
Cuは、本発明のようなCr含有量が25.0%以上、Al含有量が3.0%以上のFe-Cr-Al系ステンレス箔において、高温での耐酸化性の向上および耐塩害腐食性の改善に効果的な元素である。図3に、C:0.004〜0.008%、Si:0.15〜0.17%、Mn:0.12〜0.15%、S:0.0004〜0.0009%、P:0.023〜0.025%、Cr:30.2〜30.7%、Ni:0.11〜0.15%、Al:5.1〜5.8%、N:0.004〜0.007%、Ti:0.004〜0.005%、Nb:0.005〜0.009%、Ta:0.005〜0.009%、Zr:0.032〜0.036%、Ce:0.006〜0.008%、La:0.051〜0.082%、Mo:2.85〜3.11%、Ca:15〜25ppm、Mg:15〜31ppmを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる合金のCu含有量を0(但し、この0%は検出限界以下であることを示す。具体的には、0.01%未満であることを示す。)〜1.00%の範囲に変えて、後述する方法により測定した30℃の3.5%NaCl溶液中における孔食電位の結果を示したが、Cu含有量を0.03%以上にすることにより、耐塩害腐食性の指標である孔食電位が向上することがわかる。
【0042】
しかし、Cu含有量が1.0%を超えると、加工性の低下により箔の製造を困難にする。よって、Cu含有量は0.03〜1.0%とする。耐塩害腐食性および低コストを考慮すると、0.1〜0.5%とすることが好ましい。
【0043】
こうした成分組成を有する本発明のステンレス箔を排気ガス浄化装置用触媒担体に適用する場合は、排気抵抗を低下するため、箔厚は薄いほど有利である。しかし、冒頭に述べたように、排気ガス浄化装置用触媒担体はより苛酷な環境で使用されるようになっており、セル切れなどが起こる恐れがあるため、箔厚は40μm以上とすることが好ましい。なお、排気抵抗の観点から、110μm以下とすることがより好ましい。
【0044】
本発明であるステンレス箔は、例えば、次のような製造方法で製造できる。
【0045】
まず、上記の成分組成を含有する鋼を、転炉や電気炉などで溶製し、VODやAODで二次精錬した後、造塊-分塊圧延法や連続鋳造法で鋼スラブとし、1050〜1250℃に加熱後、熱間圧延して熱延鋼板とする。次いで、熱延鋼板表面のスケールを酸洗やショットブラスト、研削などで除去し、焼鈍と冷問圧延を複数回繰り返し、所定の箔厚、例えば40〜110μmのステンレス箔とする。
【実施例】
【0046】
真空溶解によって溶製した表1に示す化学組成の鋼を、1200℃に加熱後900〜1200℃の温度域で熱間圧延して板厚4mmの熱延鋼板とした。次いで、これらの熱延鋼板を大気中で1000℃の焼鈍を行い、酸洗後、冷間圧延を行って、板厚1.0mmの冷延鋼板とした。このとき、Cr含有量が40.0%の本発明範囲を超える表1の鋼No.21は、熱間圧延時に割れが発生し、熱延鋼板とすることができなかった。そして、鋼No.21を除く冷延鋼板を大気中で950〜1050℃×1分の焼鈍を行った後、酸洗し、クラスターミルによる冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返し、幅100mm、箔厚40μmの箔を得た。
【0047】
このようにして得た熱延鋼板、冷延鋼板および箔について、下記の方法により、高温での強度(ヤング率、破断応力、耐変形性)、高温での耐酸化性、耐塩害腐食性を評価した。
ヤング率:まず、板厚4mmの熱延鋼板に、前処理として1200℃×30分の熱処理を行った。これは、通常ハニカム担体では、ハニカム状に組み立て後、波板(コルゲート加工板)と平板の接点を拡散接合あるいはロウ付け接合を行う際に、1150〜1250℃×30分程度の熱処理が行われるためである。次に、JIS Z 2280「金属材料の高温ヤング率試験方法」に準じて、熱処理後の熱延鋼板より2mm厚×10mm幅×60mm長の試験片を切り出し、端面を平滑面に仕上げた後、曲げ共振法を用いて、1000℃におけるヤング率を測定した。ヤング率の測定結果は、110GPa未満を×、110GPa以上120GPa未満を○、120GPa以上を◎とし、○あるいは◎であれば本発明の目的を満足するとした。
破断応力:まず、板厚1mmの冷延鋼板に、拡散接合あるいはロウ付け接合時の熱処理に相当する1200℃×30分の熱処理を行った。次に、熱処理後の冷延鋼板より図4に示す試験片を切り出し、900℃にて高温引張試験を実施して破断応力を測定した。このとき、引張速度は、最初は0.2mm/minで、耐力を超えた後は5mm/minとした。破断応力の測定結果は、40MPa未満を×、40MPa以上60MPa未満を○、60MPa以上を◎とし、○あるいは◎であれば本発明の目的を満足するとした。
耐変形性:まず、箔厚40μmの箔に、拡散接合あるいはロウ付け接合時の熱処理に相当する1200℃×30分の熱処理を4×10-5Torr(5.3×10-3Pa)以下の真空中で行った。次に、熱処理後の箔より100mm幅×50mm長さの試験片を長さ方向に直径5mmの円筒状に丸め、端部をスポット溶接により留めたものを、各箔からそれぞれ3ヶ作製し、大気雰囲気炉中で1150℃×400時間加熱して、3ヶの平均の寸法変形量(加熱前の円筒長さに対する加熱後の円筒長さの増分の割合)を測定した。平均の寸法変形量の測定結果は、5%超えを×、3%超え5%以下を○、3%以下を◎とし、○あるいは◎であれば本発明の目的を満足するとした。
高温での耐酸化性:まず、箔厚40μmの箔に、拡散接合あるいはロウ付け接合時の熱処理に相当する1200℃×30分の熱処理を4×10-5 Torr(5.3×10-3Pa)以下の真空中で行った。次に、熱処理後の箔より20mm幅×30mm長さの試験片を3ヶ採取し、大気雰囲気炉中で1150℃×400時間加熱して、3ヶの平均の酸化増量(加熱前後重量変化を初期の表面積で除した量)を測定した。このとき、酸化増量には、加熱後に試験片から剥離したスケールも回収し、加えた。平均の酸化増量の測定結果は、15g/m2超えを×、10g/m2超え15g/m2以下を○、10g/m2以下を◎とし、○あるいは◎であれば本発明の目的を満足するとした。
耐塩害腐食性:まず、板厚1mmの冷延鋼板より20mm角の試験片を切り出し、表面11×11mmを残して樹脂でシールした後、10%濃度の硝酸に浸漬して不動態化処理を行い、さらに表面10×10mmの部分を研磨した。次に、JIS G0577「ステンレス鋼の孔食電位測定方法」をベースに、30℃の3.5%NaCl溶液中に浸漬後10分放置し、電位走査を開始して孔食電位を測定した。孔食電位の測定結果は、300(mV vs SCE)未満を×、300(mV vs SCE)以上700(mV vs SCE)未満を○、700(mV vs SCE)以上を◎とし、○あるいは◎であれば本発明の目的を満足するとした。
【0048】
結果を表2に示す。本発明である鋼No.1〜16および23〜28は、高温での強度(ヤング率、破断応力、耐変形性)が高く、高温での耐酸化性に優れ、耐塩害腐食性に優れていることがわかる。これに対して、比較例である鋼No.17〜22および29は、高温での強度、高温での耐酸化性、耐塩害腐食性の少なくとも一つの特性に劣る。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【符号の説明】
【0051】
1 平板
2 波板
3 外筒
4 金属製ハニカム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05%以下、Si:2.0%以下、Mn:1.0%以下、S:0.003%以下、P:0.05%以下、Cr:25.0〜35.0%、Ni:0.05〜0.30%、Al:3.0〜10.0%、N:0.10%以下、Ti:0.02%以下、Nb:0.02%以下、Ta:0.02%以下、Zr:0.005〜0.20%、Ce:0.02%以下、Ceを除くREM:0.03〜0.20%、MoおよびWのうち少なくとも一種を合計で0.5〜6.0%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とするステンレス箔。
【請求項2】
質量%で、MoおよびWのうち少なくとも一種が合計で2.5〜5.0%であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス箔。
【請求項3】
さらに、質量%で、Hf:0.01〜0.20%と、質量ppmで、Ca:10〜300ppmおよびMg:15〜300ppmのうち少なくとも一種とを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス箔。
【請求項4】
さらに、質量%で、Cu:0.03〜1.0%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のステンレス箔。
【請求項5】
箔厚が40μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のステンレス箔。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のステンレス箔を用いたことを特徴とする排ガス浄化装置用触媒担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−225971(P2011−225971A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51279(P2011−51279)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】