説明

ステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法及び該製造方法に使用する打抜きパンチ

【課題】薄くて、ねじ呼び径M1.6前後の通称マイクロねじと呼称される小寸法の溶接ナットをステンレス鋼板の打抜き加工により容易に製造することができるステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法及び該製造方法に使用する打抜きパンチを提供することを目的とする。
【解決手段】ナットの高さとほぼ等しい厚みを有するステンレス鋼板の素材20にねじ下穴22を打抜き加工する工程と、素材20にねじ下穴22を中心にナット外形を打抜き加工してナット本体23を成形すると同時に、ナット本体23の底部外周部位に複数の溶接突起24を成形する工程と、ナット本体23のねじ下穴22の内周部に雌ねじ25を加工する工程とを含むことを特徴とするステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法である。ナット外形を打抜き加工するのに使用する打抜きパンチ5は、下端外周部に溶接突起24を成形する複数の切欠き凹部8が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼板を打抜き加工して製造する薄くて、ねじ径の小さい(呼び径M1.6前後で、通称マイクロねじと呼ばれる)溶接ナットの製造方法及び該製造方法に使用する打抜きパンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、その他各種の小型電子機器の組み立てには、例えば厚みが約0.4mmのステンレス鋼の薄板からなる取付用基板に同じくステンレス鋼製のねじ径の小さい(呼び径M1.6前後)クリンチナットをかしめ結合し、該クリンチナットを使用して各種部品又は部材が前記取付用基板にねじ止めされている。しかし、クリンチナットでは、かしめ結合するための円筒部が前記取付用基板の裏側に僅かに突出することが避けられない。一方、近年の携帯電話機、その他の小型電子機器の薄型化に伴い、このような僅かな突出部分も許されない要望が高まってきた。このようなクリンチナットの突出円筒部を削減するには溶接ナットの採用が考えられる。
【0003】
溶接ナットについては、1982年制定のJIS B1196により六角、四角、T型の各種が定められているが、いずれもねじ呼び径M4以下の小寸法及びステンレス鋼製は除外されている。これは、製造上の困難に由来している。上記のJIS規格で、制定された溶接ナットのうち、冷間圧造によらない薄鋼板の絞り加工でナット形状が得られるT型や、短形断面のコイル材から剪断打抜きによるねじ下穴加工と、所定長さの切断によって得られた四角ナットを開放型により4カ所の角部のみ絞り加工して、溶接突起が得られる前記JISの付表2四角溶接ナットの中の「ID型」が、JIS規格の制定より以前から生産され使用されてきた歴史がある。
【0004】
しかし、上記のようにJIS規格に制定されている溶接ナットの製造方法では、前述した本発明の対象としている通称マイクロねじと呼ばれている呼び径M1.6前後で、ナット本体が薄い(高さが低い)ステンレス鋼製の溶接ナットを製造をすることは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、前述した薄くて、ねじ呼び径M1.6前後の通称マイクロねじと呼称される小寸法の溶接ナットをステンレス鋼板の打抜き加工により容易に製造することができるステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法及び該製造方法に使用する打抜きパンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法は、ナットの高さとほぼ等しい厚みを有するステンレス鋼板の素材にねじ下穴を打抜き加工する工程と、前記素材に前記ねじ下穴を中心にナット外形を打抜き加工してナット本体を成形すると同時に、前記ナット本体の底部外周部位に複数の溶接突起を成形する工程と、前記ナット本体の前記ねじ下穴の内周部に雌ねじを加工する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
請求項2ないし4に係る発明は、前記溶接突起を設ける部位を特定したものであり、打抜き加工された前記ナット本体の外形が六角形又は四角形の場合、その対角部位又は対辺部位とし、打抜き加工された前記ナット本体の外形が丸形の場合、周方向に所定間隔を隔てた複数箇所とする。
【0008】
また、請求項5に係る発明は、請求項1に係るステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法においてナット外形を打抜き加工するのに使用する打抜きパンチであって、該打抜きパンチの下端外周部に前記溶接突起を成形する複数の切欠き凹部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、ナットの高さとほぼ等しい厚みを有するステンレス鋼板の素材にナット外形を打抜き加工してナット本体を成形すると同時に、前記ナット本体の底部外周部位に複数の溶接突起を成形するから、ナット本体が薄くて、ねじ呼び径M1.6前後の通称マイクロねじと呼ばれる小寸法のステンレス鋼製溶接ナットを単純な打抜き加工によって容易に製造することができ、ステンレス鋼の薄板からなる携帯電話機や各種小型電子機器の取付用基板に、突出部を発生させることなく、小寸法のステンレス鋼製ナットを固着することが可能となる。
【0010】
また、請求項5に係る打抜きパンチを用いれば、本発明による溶接ナットの製造方法が簡単に実施可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明に係るステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法を実施する順送り型によるプレス加工装置の要部を示しており、図2は該プレス加工装置により溶接ナットの本体をなすナットブランクが加工されていく状態を示す説明図である。
【0013】
図1に示すプレス加工装置は、パンチホルダ1に、ねじ下穴の予備成形用パンチ2、後述する素材20の送りピッチを修正して正確なピッチとするパイロットピン3、ねじ下穴の穴抜きパンチ4及び六角ナットの外形を打ち抜くと同時に、溶接突起を成形する打抜きパンチ5が素材20の送り方向に所定の等ピッチで配列して装着されている。また、ダイスホルダ11には予備成形用パンチ2、パイロットピン3、穴抜きパンチ4及び打抜きパンチ5に対応する予備成形用ダイス12、パイロットピン用ダイス13、穴抜き用ダイス14及び打抜きダイス15がそれぞれ素材20の送り方向に所定の等ピッチで配列して装着されている。
【0014】
パイロットピン3は、パンチホルダ1を貫通して上下動自在に組み付けられていて、パンチホルダ1を取り付ける台盤6に内装した押しばね7により下方へ付勢されている。
【0015】
打抜きパンチ5は、図3ないし図5に示すように、横断面形状が六角ナットの輪郭形状に対応する六角形の角柱パンチ部5aを有し、該角柱パンチ部5aの下端外周部の対角部位3ケ所に後述する溶接突起24を成形するための切欠き凹部8が設けられている。該切欠き凹部8は、角柱パンチ部5aの下端面5bに所定の幅Aを有し、該幅Aの両端から対角部位の稜線5cに向けて所定高さBで収れんする三角錐形状に形成されていて、所定の溶接ナゲット面積と溶接強度を有する溶接突起が成形される。
【0016】
素材20は、製造するナットの高さとほぼ等しい厚み(約1.3mm)を有する帯板状のステンレス鋼板からなり、該素材20を図1のプレス加工装置に給送して順送り型によりプレス加工すると、図2に示すように、予備成形パンチ2によるねじ下穴の予備凹面21の成形加工と、穴抜きパンチ4によるねじ下穴22の打抜き加工と、ねじ下穴22を中心とする六角ナットの外形を打抜きパンチ5により打抜き加工してナット本体23を成形する加工と、該ナット本体23の対角部位3ケ所に切欠き凹部8により溶接突起24を成形する加工とが同時に、かつ等ピッチの間欠送りによって連続して行なわれる。このとき、素材20のピッチ送り時に、パイロットピン3が予備凹面21に係合して送りピッチの誤差を修正して、常に正確な送りピッチが確保されるようになっている。
【0017】
本発明の要部となる打抜きパンチ5によるナット本体23の打ち抜きと、溶接突起24の成形の同時加工は、図6に良く示されているように、角柱状パンチ部5aで六角のナット本体23の外形をせん断により打抜き加工すると同時に、切欠き凹部8でナット本体23の対角部位3ケ所をしごき加工して所定の幅Aと高さBを有する三角錐形状の溶接突起24がナット本体23の座面側外周部位に突出して成形される。
【0018】
このようにプレス加工されたナット本体23は、図7に示すねじ立て工程でねじ下穴22の内周部に雌ねじ25を加工して、図8に示す六角溶接ナット26が完成する。
【0019】
図7は、ベンドタップ40を用いた公知の自動ねじ立て盤の主要部を示しており、ベンドタップ40は、回転駆動軸41に連結された筒状回転体42に嵌着した支持筒43を貫通して配設されていて、シュート44を通じて供給されるナット本体23はナット押し棒45によりベンドタップ40のタップ部40aに給送され、ねじ下穴22にねじ立てされる。ねじ立てされた六角溶接ナット26は、ベンドタップ40の弯曲柄部40bを通って自動的に送り出され、筒状回転体42に設けた排出口46から排出されるようになっている。
【0020】
図9は、本発明の別の実施形態による溶接ナット27を示している。該溶接ナット27は、図8に示した実施形態と同様にナット本体23が六角形であるけれども、溶接突起24がナット本体23の対辺部位3ケ所に成形されている点が異なる。このような対辺部位に溶接突起24を設けた六角溶接ナット27は、取付用基板の制限されたスペースに溶接する場合等に有利である。例えば、図10に示すように、取付用基板30のエンボス加工部31の隅部に溶接ナットを取り付ける場合において、図8に示した対角部位に溶接突起24を設けた六角溶接ナット26では、図10(a)のように、溶接突起24が溶接スペースから離れるおそれがあるが、図9に示した対辺部位に溶接突起24を設けた六角溶接ナット27は、図10(b)に示すように、溶接突起24が溶接スペースから離れることがなく、良好に溶接することが可能である。
【0021】
図11は、本発明の更に別の実施形態よる溶接ナット28を示している。該溶接ナット28は、ナット本体の丸形であって、周方向に所定間隔を隔てて溶接突起24を成形したものである。
【0022】
図12は、本発明の更に別の実施形態よる溶接ナット29を示している。該溶接ナット29は、ナット本体の外形が四角形であって、角部4ケ所に溶接突起24を成形したものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る製造方法を実施するプレス加工装置の要部を示す縦断正面図である。
【図2】同上プレス加工装置によるナットブランクの加工工程を示す説明図である。
【図3】同上プレス加工装置の打抜きパンチ要部の正面図である。
【図4】同上打抜きパンチ要部の側面図である。
【図5】同上打抜きパンチ要部の底面図である。
【図6】同上打抜きパンチ要部によるナット本体と溶接突起を成形する加工工程を示す説明図であり、(a)はナット本体の外形をせん断加工により打抜く開始時、(b)は打抜き途中、(c)は打抜き完了と溶接突起の成形状態を示している。
【図7】同上ナット本体のねじ下穴に雌ねじを加工する公知の自動ねじ立て盤の主要部を示しており、(a)は要部横断平面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【図8】完成した六角溶接ナットを示しており、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図9】本発明の別の実施形態による六角溶接ナットを示しており、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図10】本発明に係る溶接ナットの使用状態における対比説明図であり、(a)は対角部位に溶接突起を設けた六角溶接ナット26の使用状態を示し、(b)は対辺部位に溶接突起を設けた六角溶接ナット27の使用状態を示している。
【図11】本発明の別の実施形態による丸形溶接ナットを示しており、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【図12】本発明の更に別の実施形態による四角溶接ナットを示しており、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 パンチホルダ
2 予備成形用パンチ
3 パイロットピン
4 穴抜きパンチ
5 打抜きパンチ
5a 角柱パンチ部
5b 角柱パンチ部5aの下端面
5c 角柱パンチ部5aの稜線
8 切欠き凹部
20 素材
21 予備凹面
22 ねじ下穴
23 ナット本体
24 溶接突起
25 雌ねじ
26 六角溶接ナット
27 六角溶接ナット
28 丸形溶接ナット
29 四角溶接ナット
30 取付用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットの高さとほぼ等しい厚みを有するステンレス鋼板の素材にねじ下穴を打抜き加工する工程と、
前記素材に前記ねじ下穴を中心にナット外形を打抜き加工してナット本体を成形すると同時に、前記ナット本体の底部外周部位に複数の溶接突起を成形する工程と、
前記ナット本体の前記ねじ下穴の内周部に雌ねじを加工する工程とを含むことを特徴とするステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法。
【請求項2】
打抜き加工された前記ナット本体の外形が六角形又は四角形であって、その対角部位に前記溶接突起を成形することを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法。
【請求項3】
打抜き加工された前記ナット本体の外形が六角形であって、その対辺部位に前記溶接突起を成形することを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼板製溶接ナットの製造。
【請求項4】
打抜き加工された前記ナット本体の外形が丸形であって、周方向に所定間隔を隔てて前記溶接突起を成形することを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法。
【請求項5】
請求項1に係るステンレス鋼板製溶接ナットの製造方法においてナット外形を打抜き加工するのに使用する打抜きパンチであって、該打抜きパンチの下端外周部に前記溶接突起を成形する複数の切欠き凹部が設けられていることを特徴とする打抜きパンチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−99772(P2010−99772A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272744(P2008−272744)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000248886)有限会社新城製作所 (9)
【Fターム(参考)】