説明

スパッタ装置

【課題】複数のスパッタ蒸発源に、それぞれ、成膜速度を確保すべくベース電力として連続する電力と、緻密な皮膜を形成すべく、前記ベース電力に間欠的に重畳される直流パルス電力とを供給するに際し、前記各スパッタ蒸発源毎に直流パルス電源を設けることを不要とし、装置コストの低減を図ることができるスパッタ装置を提供すること。
【解決手段】複数のスパッタ蒸発源4に電力を供給する電源装置2を備えたスパッタ装置において、前記電源装置2は、1台の直流電圧発生機構20と、該直流電圧発生機構20の陰極側に接続され、直流電圧発生機構20からの電力を前記各スパッタ蒸発源4に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段21と、各スパッタ蒸発源4毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源4にベース電力として連続する電力を供給するベース電力用電源10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ法により皮膜を被処理物に形成するためのスパッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタ法は物理的蒸着法の一種であり、真空容器の中において、Arなどの不活性ガスを導入しながら、被膜材料(ターゲット)を取りつけた電極を陰極としてグロー放電を発生させ、放電中で生成したイオンを放電電圧に相当する数百eVのエネルギーで陰極に衝突させ、その際に反動で放出される粒子を基板上に堆積させて成膜を行う方法である。この成膜プロセスは、ターゲット表面付近に磁場を印加したマグネトロンスパッタ法により、さらに強いグロー放電を生成することが可能で、実用的な成膜プロセスとして使われている。
【0003】
このような、スパッタ法においてしばしば指摘される問題点は、基板上に堆積する粒子のエネルギーが小さいために、形成される皮膜が充分緻密ではないという点であった。
【0004】
一般的なスパッタのグロー放電では、イオン化されたターゲット粒子(スパッタ粒子)が少ないが、何らかの方法でスパッタ粒子をイオン化できれば、緻密な膜が得られる。イオン化されたスパッタ粒子は、皮膜を形成させる基板(被処理物)や、該基板を保持する基板ホルダに印加された負のバイアスで基板側に向かうエネルギーを与えられる。このエネルギーが膜の結合力の増加などの緻密化として働き、結果として緻密な膜を得ることができる。
【0005】
そこで、前記問題点を解決するための方法としては、各種の方法が提案されているが、その中のひとつの手段として成膜を行うための放電を非常に高い電力密度でパルス的に発生させる技術が提案されている。
【0006】
例えば、後記の特許文献1(発明者Kouznetsov)には、マグネトロンスパッタリングにおいて、ターゲットに負の電圧を印加するパルスの立上りエッジを急峻にすることにより、ターゲット前面のガスを非常に急速に完全電離状態にして実質的に均一なプラズマを形成するようにターゲットに対して直流パルスを印加ことが提案されている。そして、具体的なパルスの条件として、パルス中の電力: 0.1kW−1MW、パルス幅:50μs〜1ms,より好ましくは50〜200μs,特に好ましくは100μs、パルス間隔:10ms〜1000s,好ましくは10〜50ms、パルス電圧:0.5〜5kV、が好ましい条件として開示されている。
【0007】
また、同じくKouznetsovによる後記の文献(非特許文献1)によると、ピーク電力100〜500kW(ターゲット電力密度0.6〜2.8kW/cm相当)、Ar圧力0.06〜5Paにおいて、50〜100μsのパルス幅、50Hzの繰り返し周波数において行った成膜実験の結果が報告されており、成膜対象の基板上において1A/cmという高いイオン電流量と蒸発したターゲット蒸気の約70%がイオン化しているとの結果が得られている。成膜に使われる蒸気が高い割合でイオン化していることにより、皮膜と基板との高い密着性が得られるとともに、緻密な皮膜が形成可能であるということが期待できる。
【0008】
また、後記の特許文献2には、1kW/cm以上の電力をターゲットに与えて、クロムなどのターゲット材料をスパッタし、スパッタリングされたスパッタ粒子をイオン化して基板の前処理に用いるものが示されている。
【0009】
さらに、後記の特許文献3には、対向ターゲットスパッタ装置が提案されており、ターゲットに供給する直流の電力を対向させたターゲットに囲まれた領域の体積で除した体積あたりの最大体積電力密度が83W/cm以上で、スパッタリングされたスパッタ粒子のイオン化が認められることが示されている。この場合、対向するターゲットの間隔は1cm、1枚のターゲット面積は12cm(2cm×6cm)、トータルのターゲット面積は24cmとなる。したがって、ターゲット面積あたりの電力密度に換算すると、電力密度は41.5W/cmとなる。
【0010】
このように、前記の従来技術(特許文献1〜3、非特許文献1)を総合すると、カソードの形態によって異なるが、ターゲットに電力密度41.5W/cm以上の電力を与えることで、通常のスパッタでは得られないターゲット材料のイオン化(スパッタ粒子のイオン化)を利用したプロセスに有用となることがわかる。ターゲットに電力密度0.6kW/cm以上の電力を与えることで、平板型のマグネトロンスパッタ法においても、有用なプロセスになることがわかる。
【0011】
ところが、前述の、ターゲットに直流の高電力パルスを供給するハイパワーパルススパッタ法(大電力パルススパッタリング)では、ターゲット材料が大量にイオン化され、該イオン化されたターゲット粒子(スパッタ粒子)が正の電荷を帯びるため、負電位であるターゲットに回収される分、成膜速度が低下する。
【0012】
この成膜速度が低下するという問題を解決するため、1台の直流電源と、パルス回路と直流電源とからなる1台の直流パルス電源と、一対をなすカソード及びアノードを備え、前記カソードとアノード間に、通常の直流スパッタ法を行う直流電力にハイパワーパルススパッタ法を行う高電力の直流パルス電力を重畳して供給する装置が、特許文献4(特表2006−500473号公報)に開示されている。この装置では、ターゲットが装着されるカソードに対して連続して供給される前記直流電力によって被処理物への成膜速度を確保するとともに、これに間欠的に重畳される前記直流パルス電力の印加時にスパッタリングされたスパッタ粒子をイオン化することにより、緻密な皮膜を形成することができるようにしている。
【0013】
ところで、ターゲットが装着される電極であるスパッタ蒸発源に、連続する直流電力とこれに間欠的に重畳される高電力の直流パルス電力とを供給するようにしたスパッタ装置の場合、成膜面積の大きな被処理物への皮膜形成にあたり、ターゲットが装着される1つの大きなスパッタ蒸発源に対して、例えば電力密度が0.6kW/cm〜2.8kW/cmのような高電力の直流パルス電力を供給可能とするためには、極めて高出力の直流パルス電源が必要になることから、量産化を前提する場合、当該直流パルス電源を得ることが技術的に困難になる。
【0014】
一方、成膜面積の大きな被処理物への皮膜形成にあたり、量産可能とすべく、スパッタ蒸発源を複数配置し、各スパッタ蒸発源に対して、それぞれ、直流パルス電源を設けることで、個々の直流パルス電源の出力の低減を図ることが可能となる。しかしながら、各スパッタ蒸発源毎に直流パルス電源を必要とし、スパッタ装置が高価であるという欠点がある。
【特許文献1】国際公開番号:WO98/40532号,発明者:Kouznetsov,発明の名称:A method and apparatus for magnetically enhanced sputtering
【非特許文献1】Kouznetsov 他、"A novel pulsed magnetron sputter technique utilizing very high target power densities",Surface and Coatings Technology 122(1999)290-293)
【特許文献2】米国特許:第7081186号
【特許文献3】特開2008−156743号公報
【特許文献4】特表2006−500473号公報
【特許文献5】特開2003−129234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の課題は、複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、前記各スパッタ蒸発源に、成膜速度を確保するための連続する電力(ベース電力)と、緻密な皮膜を形成するための間欠的に重畳される直流パルス電力とを供給するに際し、前記各スパッタ蒸発源毎に直流パルス電源を設けることを不要とし、装置コストの低減を図ることができるスパッタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0017】
請求項1の発明は、複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、前記電源装置は、1台の直流電圧発生機構と、該直流電圧発生機構の陰極側に接続され、前記直流電圧発生機構からの電力を前記各スパッタ蒸発源に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段と、前記各スパッタ蒸発源毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源に連続する電力を供給する電源と、を備えていることを特徴とするスパッタ装置である。
【0018】
請求項2の発明は、複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、前記電源装置は、1台の直流電圧発生機構と、該直流電圧発生機構からの電力を蓄える1台の電力貯蔵部と、前記電力貯蔵部の陰極側に接続され、前記電力貯蔵部に蓄えた電力を前記各スパッタ蒸発源に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段と、前記各スパッタ蒸発源毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源に連続する直流電力を供給する直流電源と、を備えていることを特徴とするスパッタ装置である。
【0019】
請求項3の発明は、請求項2記載のスパッタ装置において、前記電力貯蔵部がコンデンサで構成され、前記パルス分配供給手段がスイッチ素子で構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4の発明は、複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、前記電源装置は、1台の直流電圧発生機構と、前記直流電圧発生機構に対して並列に接続され、前記直流電圧発生機構からの電力を蓄える第1、第2の電力貯蔵部と、前記各電力貯蔵部毎にそれぞれ設けられ、該各電力貯蔵部への充電電圧を所定値に調整する充電電圧調整手段と、いずれかのスパッタ蒸発源に前記第1の電力貯蔵部に蓄えた電力を時分割パルス状に供給し、それ以外の他のスパッタ蒸発源に前記第2の電力貯蔵部に蓄えた電力を時分割パルス状に供給するパルス分配供給手段と、前記各スパッタ蒸発源毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源に連続する直流電力を供給する直流電源と、を備えていることを特徴とするスパッタ装置である。
【0021】
請求項5の発明は、請求項4記載のスパッタ装置において、前記第1、第2の電力貯蔵部がコンデンサで構成され、前記パルス分配供給手段がスイッチ素子で構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1のスパッタ装置は、複数のスパッタ蒸発源毎に設けられた電源により、複数のスパッタ蒸発源のそれぞれに、ベース電力として連続する電力を供給する一方、1台の直流電圧発生機構及びパルス分配供給手段により、複数のスパッタ蒸発源のそれぞれに、前記連続する電力に時分割で重畳される直流パルス電力を供給するようにしている。
【0023】
したがって、各スパッタ蒸発源毎に直流パルス電源を設けることが不要で、装置コストの低減を図ることができるとともに、前記の連続する電力によって成膜速度を確保し、かつ、前記直流パルス電力によって緻密な皮膜を被処理物に形成することができる。
【0024】
請求項2,3のスパッタ装置は、複数のスパッタ蒸発源毎に設けられた直流電源により、複数のスパッタ蒸発源のそれぞれに、連続する直流電力を供給する一方、前記複数のスパッタ蒸発源のそれぞれに、前記連続する直流電力に時分割で重畳される直流パルス電力を供給し、その際、1台の直流電圧発生機構からの電力を1台の電力貯蔵部に蓄え、該電力貯蔵部に蓄えた電力をパルス分配供給手段により、前記直流パルス電力を供給するようにしている。
【0025】
したがって、前述の効果に加え、前記直流パルス電力の供給に際し、瞬間的な大電流を前記電力貯蔵部から出力することが可能で、前記直流電圧発生機構の電力容量を低減することができる。
【0026】
請求項4,5のスパッタ装置は、複数のスパッタ蒸発源毎に設けられた直流電源により、複数のスパッタ蒸発源のそれぞれに、連続する直流電力を供給する一方、複数のスパッタ蒸発源のそれぞれに、前記連続する直流電力に時分割で重畳される直流パルス電力を供給するようにしている。
【0027】
この直流パルス電力の供給に際し、1台の直流電圧発生機構からの電力を、充電電圧調整手段によって充電電圧が所定値に調整された第1、第2の電力貯蔵部にそれぞれ蓄え、パルス分配供給手段により、いずれかのスパッタ蒸発源に前記第1の電力貯蔵部に蓄えた電力を時分割パルス状に供給し、それ以外の他のスパッタ蒸発源に前記第2の電力貯蔵部に蓄えた電力を時分割パルス状に供給するようにしている。
【0028】
したがって、各スパッタ蒸発源毎に直流パルス電源を設けることが不要で、装置コストの低減を図ることができるとともに、成膜速度を確保し、かつ、緻密な皮膜を被処理物に形成することができるという前述の効果に加え、第1、第2の電力貯蔵部毎に充電電圧を調整可能としたので、各スパッタ蒸発源毎にパルス電力を設定可能とすることができ、これにより、材質の異なるターゲットでの同時スパッタリングの適応性を高めたり、被処理物に対する膜厚分布や膜質分布を精密に制御したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
図1は本発明の第1実施形態によるスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【0031】
図1に示すように、スパッタ装置1は、被処理物(図示せず)を収容し、該被処理物への成膜プロセスを行う真空チャンバー3と、この真空チャンバー3に設置された複数のスパッタ蒸発源(スパッタカソード)4と、これらのスパッタ蒸発源4にグロー放電用の電力を供給する電源装置2とを備えている。図1の例では4台のスパッタ蒸発源4が設置されている。なお、スパッタ装置1には、この他に真空排気システム、プロセスガス導入機構等、スパッタ成膜に必要な機構が設けられているが、これらは公知であるため、図1では省略されている。
【0032】
前記電源装置2は、皮膜材料(ターゲット)を取り付けた電極であるスパッタ蒸発源4に電力を供給し、スパッタ蒸発源4を一方の電極とし、真空チャンバー3を他方の電極として、これらの電極間にグロー放電を発生させるためのものである。
【0033】
この電源装置2は、1台の直流電圧発生機構としての直流電源20と、4台のスパッタ蒸発源4毎にそれぞれ設けられ、直流電源20からの電力を4台のスパッタ蒸発源4に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段としての4つのスイッチ素子21と、4台のスパッタ蒸発源4毎にそれぞれ設けられ、各スパッタ蒸発源4に成膜速度を確保するため、いわゆるベース電力として、連続する電力を供給する4台のベース電力用電源10とを備えている。
【0034】
前記直流電源20は、その出力端のうち陰極(−)側が4つのスイッチ素子21と接続されており、陽極(+)側が真空チャンバー3に接続されている。なお、前記各スイッチ素子21は、それぞれ、対応する1つのスパッタ蒸発源4に接続されている。また、前記4台のベース電力用電源10は、それぞれ、出力端のうち一方側がスパッタ蒸発源4の一つに接続され、他方側が真空チャンバー3に接続されている。このベース電力用電源10は、前述のように、スパッタ蒸発源4に成膜速度を確保するためのベース電力として連続する電力を供給する電源であり、直流電源、連続直流パルス電源、RF(高周波)電源などが挙げられる。
【0035】
前記スイッチ素子21としては、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、MOSFETなどの半導体スイッチ素子を使用できる。図示しない制御部により、4つのスイッチ素子21をON/OFF制御することにより、直流電源20からの電力を4台のスパッタ蒸発源4に時分割パルス状に順次分配供給するようになっているとともに、ターゲットに印加される直流パルス電圧のパルス幅、パルス周波数を可変とすることができるようになっている。
【0036】
第1実施形態によるスパッタ装置1は、前記のように構成されており、複数、この例では4台のスパッタ蒸発源4毎に設けられたベース電力用電源10により、各スパッタ蒸発源4のそれぞれに、ベース電力として連続する電力を供給する一方、1台の直流電源20及び各スパッタ蒸発源4毎に設けられたスイッチ素子21により、各スパッタ蒸発源4のそれぞれに、前記連続する電力に時分割で重畳される直流パルス電力を供給するようにしている。
【0037】
したがって、各スパッタ蒸発源4毎に直流パルス電源を設けることが不要で、装置コストの低減を図ることができるとともに、前記ベース電力によって成膜速度を確保し、かつ、前記直流パルス電力によって緻密な皮膜を被処理物に形成することができる。
【0038】
図2は本発明の第2実施形態によるスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。ここで、前記図1に示すスパッタ装置と同一の構成部分には、図1と同一の符号を付してある。前記第1実施形態との相違点は、前記ベース電力用電源10に代えてベース電力用直流電源11を備えている点、前記直流電源20からの電力を蓄える1台の電力貯蔵部22を備えている点にある。
【0039】
図2に示すように、スパッタ装置1’は、真空チャンバー3と、複数、この例では4台のスパッタ蒸発源4と、これらのスパッタ蒸発源4に電力を供給して、該スパッタ蒸発源4を陰極としてグロー放電を発生させるための電源装置2’とを備えている。
【0040】
前記電源装置2’は、1台の直流電圧発生機構としての直流電源20と、この直流電源20からの電力を蓄える1台の電力貯蔵部としてのコンデンサ22と、4台のスパッタ蒸発源4毎にそれぞれ設けられ、コンデンサ22に蓄えた電力を4台のスパッタ蒸発源4に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段としての4つのスイッチ素子21と、4台のスパッタ蒸発源4毎にそれぞれ設けられ、各スパッタ蒸発源4に成膜速度を確保するためのベース電力として連続する直流電力を供給する4台のベース電力用直流電源11とを備えている。
【0041】
前記直流電源20は、その陰極(−)側が4つのスイッチ素子21と接続されており、陽極(+)側が真空チャンバー3に接続されている。この直流電源20に、コンデンサ22が並列接続されている。なお、前記各スイッチ素子21は、それぞれ、ダイオード23を介して対応する1つのスパッタ蒸発源4に接続されている。また、前記4台のベース電力用直流電源11は、それぞれ、その陰極(−)側がダイオード12を介して対応する1つのスパッタ蒸発源4に接続され、その陽極(+)側が真空チャンバー3に接続されている。
【0042】
第2実施形態によるスパッタ装置1’は、前記のように構成されており、複数、この例では4台のスパッタ蒸発源4毎に設けられたベース電力用直流電源11により、各スパッタ蒸発源4のそれぞれに、ベース電力として連続する直流電力を供給する一方、各スパッタ蒸発源4のそれぞれに、前記連続する直流電力に時分割で重畳される直流パルス電力を供給し、その際、1台の直流電源20からの電力を1台のコンデンサ22に蓄え、該コンデンサ22に蓄えた電力を各スパッタ蒸発源4毎に設けられたスイッチ素子21により、前記直流パルス電力を供給するようにしている。
【0043】
したがって、各スパッタ蒸発源4毎に直流パルス電源を設けることが不要で、装置コストの低減を図ることができるとともに、前記ベース電力によって成膜速度を確保し、かつ、前記直流パルス電力によって緻密な皮膜を被処理物に形成することができる。また、前記直流パルス電力の供給に際し、瞬間的な大電流を前記コンデンサ22から出力することが可能で、前記直流電源20の電力容量を低減し、直流電源20の小形化を図ることができる。
【0044】
図3は本発明の第3実施形態によるスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。ここで、前記図2に示すスパッタ装置と同一の構成部分には、図2と同一の符号を付してある。前記第2実施形態との相違点は、前記コンデンサ22に代えて、充電電圧調整手段が設けられた第1、第2の2つのコンデンサ24,25を備えている点にある。
【0045】
図3に示すように、スパッタ装置1”は、真空チャンバー3と、複数、この例では4台のスパッタ蒸発源4と、これらのスパッタ蒸発源4に電力を供給して、該スパッタ蒸発源4を陰極としてグロー放電を発生させるための電源装置2”とを備えている。
【0046】
前記電源装置2”は、1台の直流電圧発生機構としての直流電源20と、この直流電源20に対して並列に接続され、直流電源20からの電力を蓄える電力貯蔵部としての、第1のコンデンサ24、第2のコンデンサ25と、これらのコンデンサ24,25にそれぞれ設けられ、該コンデンサ24,25への充電電圧を所定値に調整する充電電圧調整手段26,29と、2つのスパッタ蒸発源4に前記第1のコンデンサ24に蓄えた電力を時分割パルス状に供給するとともに、それ以外の他の2つのスパッタ蒸発源4に前記第2のコンデンサ25に蓄えた電力を時分割パルス状に供給する、4つのスイッチ素子(パルス分配供給手段)21と、各スパッタ蒸発源4毎にそれぞれ設けられ、各スパッタ蒸発源4にベース電力として連続する直流電力を供給する4台のベース電力用直流電源11とを備えている。
【0047】
直流電源20からの第1のコンデンサ24への充電電圧を所定値に制御調整する前記充電電圧調整手段26は、MOSFET、IGBTなどのスイッチ素子27と、第1のコンデンサ24の充電電圧検出用の抵抗と、該コンデンサ24の充電電圧検出値と所定の設定値とを比較し、その比較結果に基づいて第1のコンデンサ24の充電電圧が所定の設定値となるように前記スイッチ素子27をスイッチング制御する比較器28とを備えている。
【0048】
同様に、直流電源20からの第2のコンデンサ25への充電電圧を所定値に制御調整する前記充電電圧調整手段29は、スイッチ素子30と、第2のコンデンサ25の充電電圧検出用の抵抗と、該コンデンサ25の充電電圧検出値と所定の設定値とを比較し、その比較結果に基づいて第2のコンデンサ25の充電電圧が所定の設定値となるように前記スイッチ素子30をスイッチング制御する比較器31とを備えている。
【0049】
この実施形態では、第1のコンデンサ24の陰極側に、4つのスイッチ素子21のうち、2つのスイッチ素子21が接続されており、第2のコンデンサ25の陰極側に、それ以外の他の2つのスイッチ素子21が接続されている。
【0050】
そして、この実施形態の場合、各スパッタ蒸発源4毎にコンデンサ24,25の充電電圧を設定可能で、これにより、各スパッタ蒸発源4毎にパルス電力を設定可能とすることができる。
【0051】
第3実施形態によるスパッタ装置1”は、前記のように構成されており、複数、この例では4台のスパッタ蒸発源4毎に設けられたベース電力用直流電源11により、各スパッタ蒸発源4のそれぞれに、ベース電力として連続する直流電力を供給する一方、各スパッタ蒸発源4のそれぞれに、前記連続する直流電力に時分割で重畳される直流パルス電力を供給するようにしている。
【0052】
そして、この直流パルス電力の供給に際し、1台の直流電源20からの電力を、充電電圧調整手段26によって充電電圧が所定値に調整された第1のコンデンサ24、及び、充電電圧調整手段29によって充電電圧が所定値に調整された第2のコンデンサ25にそれぞれ蓄え、第1のコンデンサ24に接続された2つのスイッチ素子21により、4台のスパッタ蒸発源のうち、2台のスパッタ蒸発源4に前記第1のコンデンサ24に蓄えた電力を時分割パルス状に供給し、第2のコンデンサ25に接続された2つのスイッチ素子21により、それ以外の他の2台のスパッタ蒸発源4に前記第2のコンデンサ25に蓄えた電力を時分割パルス状に供給するようにしている。
【0053】
したがって、各スパッタ蒸発源4毎に直流パルス電源を設けることが不要で、装置コストの低減を図ることができるとともに、前記ベース電力によって成膜速度を確保し、かつ、前記直流パルス電力によって緻密な皮膜を被処理物に形成することができるという前述の効果に加え、第1、第2のコンデンサ24、25毎に充電電圧を調整可能としたので、各スパッタ蒸発源4毎にパルス電力を設定可能とすることができ、これにより、材質の異なるターゲットでの同時スパッタリングの適応性を高めたり、被処理物に対する膜厚分布や膜質分布を精密に制御したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態によるスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態によるスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図3】本発明の第3実施形態によるスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1,1’,1”…スパッタ装置
2,2’,2”…電源装置
3…真空チャンバー
4…スパッタ蒸発源
10…ベース電力用電源
11…ベース電力用直流電源
12…ダイオード
20…直流電源(直流電圧発生機構)
21…スイッチ素子(パルス分配供給手段)
22…コンデンサ(電力貯蔵部)
23…ダイオード
24…第1のコンデンサ(第1の電力貯蔵部)
25…第2のコンデンサ(第2の電力貯蔵部)
26,29…充電電圧調整手段
27,30…スイッチ素子
28,31…比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、
前記電源装置は、1台の直流電圧発生機構と、該直流電圧発生機構の陰極側に接続され、前記直流電圧発生機構からの電力を前記各スパッタ蒸発源に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段と、前記各スパッタ蒸発源毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源に連続する電力を供給する電源と、を備えていることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、
前記電源装置は、1台の直流電圧発生機構と、該直流電圧発生機構からの電力を蓄える1台の電力貯蔵部と、前記電力貯蔵部の陰極側に接続され、前記電力貯蔵部に蓄えた電力を前記各スパッタ蒸発源に時分割パルス状に順次分配供給するパルス分配供給手段と、前記各スパッタ蒸発源毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源に連続する直流電力を供給する直流電源と、を備えていることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項3】
前記電力貯蔵部がコンデンサで構成され、前記パルス分配供給手段がスイッチ素子で構成されていることを特徴とする請求項2記載のスパッタ装置。
【請求項4】
複数のスパッタ蒸発源に電力を供給する電源装置を備えたスパッタ装置において、
前記電源装置は、1台の直流電圧発生機構と、前記直流電圧発生機構に対して並列に接続され、前記直流電圧発生機構からの電力を蓄える第1、第2の電力貯蔵部と、前記各電力貯蔵部毎にそれぞれ設けられ、該各電力貯蔵部への充電電圧を所定値に調整する充電電圧調整手段と、いずれかのスパッタ蒸発源に前記第1の電力貯蔵部に蓄えた電力を時分割パルス状に供給し、それ以外の他のスパッタ蒸発源に前記第2の電力貯蔵部に蓄えた電力を時分割パルス状に供給するパルス分配供給手段と、前記各スパッタ蒸発源毎にそれぞれ設けられ、該各スパッタ蒸発源に連続する直流電力を供給する直流電源と、を備えていることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項5】
前記第1、第2の電力貯蔵部がコンデンサで構成され、前記パルス分配供給手段がスイッチ素子で構成されていることを特徴とする請求項4記載のスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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