説明

スパークプラグの製造方法

【課題】先端部を着脱可能な端子電極の先端部の締め付け性能を向上する。
【解決手段】軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、絶縁体のうちの、絶縁体の一部分を周方向に取り囲んで保持する主体金具と、軸孔の一端部に設けられた端子電極であって、絶縁体の外部に位置する部位に第1ねじ部が形成された第1端子と、軸線方向に貫通する貫通孔が形成されるとともに、貫通孔の側面に第1ねじ部に螺合される第2ねじ部が形成された第2端子とを備えた端子電極とを備えたスパークプラグの製造において、まず、治具を軸線方向に沿って第2端子に押し当てて、第2端子の一部分を変形させることにより、変形した第2端子と治具とを固定する。そして、治具および第1端子のうちの少なくとも一方を、軸線方向を軸として回転させて、第1ねじ部と第2ねじ部とを螺合して、第2端子を第1端子に締め付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるスパークプラグは、端子電極を備えている。端子電極は、点火装置から供給される高圧電圧を受け付ける部位である。かかる端子電極には、ねじ機構を有し、先端部を着脱可能な分離タイプが存在する。分離タイプの端子電極は、スパークプラグを接続する点火装置の仕様に応じて、先端部を装着して、あるいは、先端部を取り外して使用することができる。このため、スパークプラグの汎用性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−15975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の分離タイプの端子電極は、先端部をねじにより締め付ける際の締付トルクが安定していなかった。そのため、不十分な締め付けが行われた端子電極は、製造時や製品の運搬時に先端部の緩みや外れが生じることがある。また、過度に締め付けが行われた端子電極は、ねじ形状が破損し、先端部の取り外しが困難になることがある。そこで、先端部を着脱可能な端子電極の先端部の締め付け性能の向上が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
前記絶縁体のうちの、該絶縁体の一部分を周方向に取り囲んで保持する主体金具と、
前記軸孔の一端部に設けられた端子電極であって、前記絶縁体の外部に位置する部位に第1ねじ部が形成された第1端子と、前記軸線方向に貫通する貫通孔が形成されるとともに、該貫通孔の側面に前記第1ねじ部に螺合される第2ねじ部が形成された第2端子とを備えた端子電極と
を備えたスパークプラグの製造方法において、
治具を前記軸線方向に沿って前記第2端子に押し当てて、前記第2端子の一部分を変形させることにより、該変形した第2端子と前記治具とを固定する第1工程と、
前記治具および前記第1端子のうちの少なくとも一方を、前記軸線方向を軸として回転させて、前記第1ねじ部と前記第2ねじ部とを螺合して、前記第2端子を前記第1端子に締め付ける第2工程と
を備えたことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0007】
かかる製造方法によれば、第2端子を第1端子に締め付ける際に、治具と第2端子との間に滑りが生じることを抑制できる。したがって、第1端子と第2端子との締結力を好適に確保することができる。その結果、第2端子の締め付けが緩むことや、第2端子が第1端子から外れることを抑制できる。
【0008】
[適用例2]適用例1記載のスパークプラグの製造方法において、前記第1工程は、前記治具の一部分を前記貫通孔に挿入して、前記第2端子の第2ねじ部を変形させることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0009】
かかる製造方法によれば、第2端子と治具とを容易に固定することができる。
【0010】
[適用例3]適用例2記載のスパークプラグの製造方法において、前記第1工程は、前記第2端子に押し当てる側の端面の一部が突出した凸部を備えた治具を使用して、前記凸部を前記貫通孔に挿入することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0011】
かかる製造方法によれば、治具の一部分を貫通孔に挿入した際の挿入深さは、最大でも凸部の突出長さになる。したがって、挿入深さを好適に調節することができる。その結果、貫通孔に挿入した治具が第1端子と接触して、第1端子を傷つけることがない。
【0012】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、前記第1工程は、前記第2端子側に向かう前記軸線方向に沿って前記治具に押さえ荷重F1を作用させて、前記治具を前記第2端子に押し当て、前記押さえ荷重F1は、10(kgf)≦F1≦100(kgf)を満たすことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0013】
かかる製造方法によれば、押さえ荷重F1を10kgf以上とすることで、治具が第2端子から外れないように、第2端子と治具とを好適に固定することができる。また、押さえ荷重F1を100kgf以下とすることで、押さえ荷重F1によって絶縁体が損傷することを抑制できる。
【0014】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、前記第2工程は、前記第2端子側に向かう前記軸線方向に沿って前記治具に押さえ荷重F2を作用させつつ、前記治具および前記第1端子のうちの少なくとも一方を回転させ、前記押さえ荷重F2は、F2≦50(kgf)を満たすことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0015】
かかる製造方法によれば、押さえ荷重F2を50kgf以下とすることで、第1端子と第2端子との摩擦抵抗が過度に大きくなることを抑制できる。したがって、治具および第1端子のうちの少なくとも一方を回転させた際の回転力が好適に伝達される。その結果、第2端子の締付の程度のばらつきを抑制し、第2端子の締め付け精度を向上することができる。
【0016】
[適用例6]適用例1ないし適用例5のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、前記第2工程は、負荷トルクが所定値以上となると空転して、動力伝達を遮断するトルククラッチを用いて、前記治具および前記第1端子のうちの少なくとも一方を回転させて、前記第2端子を前記第1端子に締め付けることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0017】
かかる製造方法によれば、第2端子の締付の程度のばらつきを抑制できる。したがって、締め付け精度が向上し、締め付けの程度が不足すること、または、過剰になることを抑制できる。
【0018】
[適用例7]適用例6記載のスパークプラグの製造方法において、前記トルククラッチは、電磁クラッチ方式であることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0019】
かかる製造方法によれば、第2端子を精度良く締め付けることができる。
【0020】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、前記第2工程において、前記治具および前記第1端子のうちの前記治具のみを回転させることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【0021】
かかる製造方法によれば、治具のみを回転させるので、第2端子を締め付ける回転駆動力を伝達する機構を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】スパークプラグ100の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】端子電極60を構成する第1端子70および第2端子80の着脱機構を示す説明図である。
【図3】第2端子80を第1端子70に締め付ける際の装置構成を示す説明図である。
【図4】治具300の概略構成を示す説明図である。
【図5】第2端子80の締め付け手順を示す工程図である。
【図6】第2端子80の締め付けの様子を示す説明図である。
【図7】第2端子80と治具300とを固定する際の押さえ荷重F1に関する実験結果を示す図表である。
【図8】第2端子80の締め付け時の押さえ荷重F2と、締め付け後の第2端子80の戻しトルクのばらつきとの関係を示す図表である。
【図9】第2端子80の締め付け時に工具係合部51を固定する効果を示す図表である。
【図10】変形例としての第2端子80の締め付け方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.実施例:
A−1.スパークプラグ100の概略構成:
図1は、本発明のスパークプラグの製造方法によって製造されるスパークプラグ100の部分断面図である。図1において、一点鎖線で示す軸線OLの左側は、外観正面図を示し、軸線OLの右側は、スパークプラグ100の中心軸を通る断面でスパークプラグ100を切断した断面図を示している。以下では、図1におけるスパークプラグ100の軸線OL方向の下側をスパークプラグ100の先端側、上側を後端側として説明する。スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、主体金具50と、中心電極20と、接地電極30と、端子電極60とを備える。
【0024】
絶縁碍子10は、中心電極20および端子電極60を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の絶縁体である。絶縁碍子10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成される。絶縁碍子10の軸線OL方向の中央には、絶縁碍子10のうちで外径が最も大きい中央胴部19が形成されている。絶縁碍子10の中央胴部19よりも後端側には、端子電極60と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。絶縁碍子10の中央胴部19よりも先端側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成されている。絶縁碍子10の先端側胴部17の更に先端側には、先端側胴部17よりも小さい外径であって、中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。
【0025】
主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を周方向に包囲して保持する円筒状の金具である。主体金具50は低炭素鋼材より形成され、全体にニッケルメッキや亜鉛メッキ等のメッキ処理が施されている。主体金具50は、工具係合部51と、取付ねじ部52と、シール部54とを備える。これらは、後端から先端に向かって、工具係合部51と、取付ねじ部52と、シール部54の順に形成されている。工具係合部51は、スパークプラグ100をエンジンヘッド(図示省略)に取り付ける工具が嵌合する。本実施例では、工具係合部51は、軸線OLの直交する断面形状が六角形に形成されている。取付ねじ部52は、エンジンヘッドの取付ねじ孔に螺合するねじ山を有する。シール部54は、取付ねじ部52の根元に鍔状に形成されている。シール部54とエンジンヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。
【0026】
中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる芯材25を埋設した棒状の部材である。本実施例では、電極母材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金から成る。また、芯材25は、銅または銅を主成分とする合金から成る。中心電極20は、電極母材21の先端が絶縁碍子10の軸孔12から突出した状態で絶縁碍子10の軸孔12に挿入され、セラミック抵抗3およびシール体4を介して端子電極60に電気的に接続される。
【0027】
接地電極30は耐腐食性の高い金属から構成され、一例として、ニッケル合金が用いられる。この接地電極30の基端は、主体金具50の先端面に溶接されている。接地電極30の先端部は、軸線OL上で軸線方向に中心電極20の先端面と対向するように屈曲されている。この接地電極30の先端部と、前述した中心電極20の先端面との間に、火花放電が生じる火花ギャップSGが形成される。
【0028】
端子電極60は、軸孔12の後端側に設けられ、その後端側の一部は、絶縁碍子10の後端側から露出している。端子電極60には高圧ケーブル(図示外)がプラグキャップ(図示外)を介して接続され、高電圧が印加される。この端子電極60は、第1端子70と第2端子80とを備える。第1端子70は、その先端側が軸孔12に挿入された状態で固定され、後端側が絶縁碍子10から露出している。第2端子80は、第1端子70の後端側を周方向に覆うように、ねじ機構によって着脱可能に第1端子70に装着される。第2端子80は、例えば、アルミや真鍮を用いて形成することができる。
【0029】
図2は、端子電極60を構成する第1端子70および第2端子80の着脱機構を示す。図2(A)に示すように、第1端子70は、座部71と突出部72とを備える。座部71および突出部72は、絶縁碍子10から露出している。座部71は、円形平板形状を有し、その先端側の面は、絶縁碍子10の後端側の端面と接している。突出部72は、座部71の中央部から後端側に突出する円筒形の棒形状を有している。突出部72は、軸線OL方向に長さL1を有している。突出部72のうちの、座部71から軸線OL方向の長さL2の範囲の部位には、軸線OL方向に沿って、雄ねじとしての第1ねじ部73が形成されている。
【0030】
また、図2(A)に示すように、第2端子80は、略円筒形状を有している。第2端子80の内部には、軸線OL方向に貫通する貫通孔81が形成されている。第2端子80の軸線OL方向の長さL3は、突出部72の軸線OL方向の長さL1よりも長く形成されている。貫通孔81を形成する第2端子80の内径側面には、第1ねじ部73に螺合される、雌ねじとしての第2ねじ部83が形成されている。
【0031】
図2(B)に示すように、第2端子80は、第1端子70に装着される。具体的には、まず、第1端子70と第2端子80とを、第1ねじ部73が貫通孔81に挿入された状態に配置する。そして、第2端子80を回転させて、第1ねじ部73と第2ねじ部83とを螺合させることで、第2端子80は、第1端子70に装着される。第2端子80が第1端子70に装着された状態では、第2端子80の先端側の端面は、第1端子70の座部71と接した状態となる。
【0032】
かかるスパークプラグ100は、スパークプラグ100に接続するプラグキャップの仕様に応じて、第2端子80を装着して、あるいは、第2端子80を取り外して、使用することができる。このため、スパークプラグ100は、汎用性に優れている。
【0033】
A−2.スパークプラグ100の製造方法:
スパークプラグ100の製造工程について説明する。本実施例では、JIS B 8031のスパークプラグ100を製造するものとして説明する。スパークプラグ100の製造工程は、準備工程と組み付け工程とに分けられる。準備工程においては、まず、スパークプラグ100の構成部品をそれぞれ作製する。次に、作製された絶縁碍子10の内部に、中心電極20、セラミック抵抗3、シール体4、および、予め塑性加工等によって作製された第1端子70を所定の順序で挿入し(図1参照)、ガラスシールと呼ばれる加熱圧縮工程によってこれらを一体的に形成する。また、作成された主体金具50に対して、所要の形状になるように所定の加工、例えば、塑性加工、切削およびねじ山形成加工を施し、工具係合部51、シール部54等を形成する。
【0034】
組み付け工程では、まず、絶縁碍子10を組み付ける前の主体金具50の先端面に、接地電極30を抵抗溶接により接合する。なお、図1では、屈曲形状を有する接地電極30を示したが、この段階では、接地電極30は、軸線OLと平行な棒状の状態である。次に、主体金具50にメッキ処理を施す。次に、上述したように、第2端子80を第1端子70に締め付けて、第2端子80を第1端子70に装着する(図2(B)参照)。かかる工程を締め付け工程ともいう。
【0035】
次に、主体金具50の内側に、ガラスシールによって中心電極20と一体となった絶縁碍子10を差し込む(図1参照)。次に、主体金具50の後端側の端部を内側に折り曲げるようにして加締める。これによって、中心電極20の先端が主体金具50の先端側から突出した状態で、絶縁碍子10が主体金具50に一体的に保持される。
【0036】
次に、棒状の接地電極30を軸線OL側に曲げる曲げ加工を行う。こうして、スパークプラグ100は、完成する。なお、第2端子80を第1端子70に締め付ける締め付け工程を実施するタイミングは、上述の例に限られず、適宜設定すればよい。例えば、締め付け工程は、接地電極30の曲げ加工の前に実施してもよいし、当該曲げ加工の後で実施してもよい。
【0037】
図3は、上述した締め付け工程に使用する装置構成を示す。締め付け工程では、モータ210と電磁クラッチ220と治具300とを連結して使用する。モータ210は、第2端子80を締め付ける際の回転駆動力を提供する。電磁クラッチ220は、トルククラッチの一種であり、トルクリミッタを備えている。電磁クラッチ220は、モータ210の回転駆動力を治具300に伝達するが、負荷トルクが予め定められた設定値以上となると空転して、動力伝達を遮断する。なお、使用するトルククラッチは、電磁クラッチに限らず、種々の方式を採用することができる。例えば、トルククラッチは、ボールプランジャーを利用したタイプであってもよい。治具300は、第2端子80を保持した状態で、モータ210から電磁クラッチ220を介して提供される回転駆動力によって回転することで、保持する第2端子80を回転させ、第2端子80を第1端子70に締め付ける。治具300には、第2端子80よりも硬い材質が用いられる。ここでの「硬い」とは、後述する方法によって、治具300を第2端子80に押し当てた際に、第2端子80の方が変形することを意味している。
【0038】
図4は、治具300の形状を表す。図4の平面図に示すように、治具300は、電磁クラッチ220に連結される本体310と、第2端子80に押し当てる側の本体310の端面から一部分が突出した凸部320とを備える。本実施例では、治具300を第2端子80に押し当てて、凸部320を第2端子80の貫通孔81に挿入することによって、治具300が第2端子80を保持する。
【0039】
図4の平面図および底面図に示すように、本体310は、円柱形状を有している。かかる形状によって、本体310は、円滑に回転することができる。ただし、本体310の形状は、適宜設定すればよく、例えば、直方体形状であってもよい。また、図4の平面図および底面図に示すように、凸部320は、本実施例では、三角柱形状を有している。本実施例では、三角柱の三角形状は、一辺が4.0mmの正三角形である。この三角形状は、凸部320を第2端子80の貫通孔81に挿入する際、三角形状の3つの頂点が、JIS B 8031に規定されたM4×0.7の仕様で形成された第2ねじ部83のねじ山の頂よりもわずかに外側(第2ねじ部83の谷底側)に位置する形状に形成されている。つまり、凸部320の三角形状は、第2ねじ部83の内径寸法よりも大きく形成されている。
【0040】
凸部320の軸線OL方向の長さ(本体310から凸部320に向かう方向の突出長さ)L4は、第2端子80の長さL3(図2(A)参照)と、第1端子70の長さL1(図2(A)参照)との差分値D(L3−L1)よりも短く形成されている。
【0041】
図5は、締め付け工程の手順を示す。締め付け工程では、まず、工具係合部51をチャックする(ステップS410)。工具係合部51は、工具と嵌合する形状を有しているので、工具係合部51をチャックすることで、スパークプラグ100を確実に固定することができる。次に、第2端子80を第1端子70に挿入する(ステップS420)。つまり、第2端子80を、第1端子70の一部分である突出部72が第2端子80の貫通孔81に挿入された状態に配置する。
【0042】
次に、治具300を軸線OLに沿って第2端子80に押し当てて装着する(ステップS430)。具体的には、図6(A)に示すように、ステップS430では、上述した治具300の凸部320を軸線OL方向に沿って第2端子80側に押し当てて、凸部320を第2端子80の貫通孔81に挿入する。この際、治具300には、第2端子80に向かう軸線OL方向に沿って押さえ荷重F1を作用させる。これにより、第2ねじ部83のねじ山の一部分が押しつぶされて変形し、治具300と第2端子80とが固定される。つまり、治具300は、凸部320の三角形状の3つの頂点によって、第2端子80との位置関係を固定する。
【0043】
押さえ荷重F1は、10kgf(9.80665×101N)以上とすることが望ましい。こうすれば、第2端子80を第1端子70に締め付ける際に、第2端子80が治具300から外れることを抑制することができる。また、押さえ荷重F1は、100kgf(9.80665×102N)以下とすることが望ましい。こうすれば、治具300を第2端子80に装着する際に、絶縁碍子10の破損を抑制することができる。
【0044】
治具300を第2端子80に装着すると、次に、モータ210を駆動させて、軸線OLを軸として治具300を回転させ、第2端子80を第1端子70に締め付ける(ステップS440)。上記のステップS430において、治具300と第2端子80とは固定されている。したがって、図6(B)に示すように治具300を回転させると、第2端子80は、治具300の回転に追従して回転し、第1端子70に締め付けられる。しかも、本実施例では、治具300には、電磁クラッチ220が連結されており、負荷トルクが予め定められた設定値以上となると空転して、動力伝達を遮断する。したがって、第2端子80の締め付けの程度を所望の程度に精度良く調節することができる。
【0045】
本実施例では、ステップS440において、図6(B)に示すように、治具300には、第2端子80に向かう軸線OL方向に沿って押さえ荷重F2を作用させる。この押さえ荷重F2は、50kgf(49.03325×101N)以下とすることが望ましい。つまり、上記ステップS430において、押さえ荷重F1を50kfgよりも大きく設定した場合には、ステップS440において、押さえ荷重F2を50kgf以下まで除荷することが望ましい。上記ステップS430において、押さえ荷重F1を50kfg以下に設定した場合には、その押さえ荷重の値を維持したまま、ステップS440を実施してもよい。また、ステップS440において第2端子80が治具300から外れないように、上記ステップS430で治具300を第2端子80に装着できるのであれば、押さえ荷重F2は値0であってもよい。
【0046】
このように、押さえ荷重F2を50kgf以下とすることによって、第2端子80を締め付ける際に、第1端子70の第1ねじ部73と、第2端子80の第2ねじ部83との間のねじ面の摩擦抵抗を低減できる。また、第2端子80の先端面と、第1端子70の座部71の後端面との摩擦抵抗を低減できる。つまり、治具300を介して第2端子80に提供される回転力が摩擦抵抗によって低減されることを抑制できる。したがって、治具300の回転力が第2端子80に好適に伝達され、締め付けトルクのばらつきを抑制することができる。その結果、第2端子80の締め付け不足や、過剰な締め付けを抑制できる。
【0047】
第2端子80を第1端子70に締め付けると、第2端子80から治具300を取り外す。こうして、締め付け工程は終了となる。
【0048】
図7は、上記ステップS430における押さえ荷重F1についての実験結果を示す。この実験では、複数の試料を用意し、試料ごとに異なる押さえ荷重F1を作用させた。そして、押さえ荷重F1を作用させた際に、絶縁碍子10に割れや欠けが生じるか否かを確認した。また、後述するステップS440(第2端子80を締め付ける工程)において、第2端子80が治具300から外れるか否かを確認した。図7の「絶縁体割れ・欠け」の欄では、絶縁碍子10に割れや欠けが発生することがあった場合を「△」と表示し、割れや欠けが発生しなかった場合を「○」と表示している。また、図7の「治具保持力」の欄では、第2端子80が治具300から外れることがあった場合を「△」と表示し、外れが生じなかった場合を「○」と表示している。
【0049】
図7に示すように、押さえ荷重F1が5kgf〜100kgfの範囲では、絶縁碍子10に割れや欠けは生じなかった。一方、押さえ荷重F1が110,120kgfの場合には、絶縁碍子10に割れや欠けが発生することがあった。また、押さえ荷重F1が5kgfの場合には、第2端子80が治具300から外れることがあった。一方、押さえ荷重F1が10kgf〜120kgfの範囲では、外れは確認されなかった。
【0050】
図8は、上記ステップS440における押さえ荷重F2についての実験結果を示す。この実験では、まず、上記ステップS430において、押さえ荷重F1を60kgfに設定して、治具300と第2端子80とを固定した。次に、押さえ荷重F2の値を設定し、当該設定値で、第2端子80の締め付けを行った後、戻しトルクを測定した。かかる手順を、同一の設定値で複数回行うとともに、設定値を段階的に変更して繰り返した。そして、設定値ごとに、戻しトルク値のばらつきを示す3σ(N・m)を計算した。戻しトルク値のσは標準偏差を表す。
【0051】
図8に示すように、押さえ荷重F2が0kgf〜50kgfの範囲では、3σの値は、0.2N・m以下に抑えられ、ばらつきが非常に小さくなっていることが分かる。一方、押さえ荷重F2が50kgfよりも大きくなると、3σの値は、押さえ荷重F2の増加とともに急激に大きくなる。このことは、押さえ荷重F2を50kgf以下とすることの効果を顕著に示している。
【0052】
以上説明したスパークプラグ100の製造方法によれば、第2端子80を変形させることによって第2端子80と治具300とを固定して、治具300を回転させることにより、第2端子80を第1端子70に締め付ける。かかる方法では、第2端子80を第1端子70に締め付ける際に、治具300と第2端子80との間に滑りが生じることを抑制することができる。したがって、第1端子70と第2端子80との締結力を好適に確保し、第2端子80の緩みや第1端子70からの外れを抑制できる。
【0053】
また、上述したスパークプラグ100の製造方法によれば、治具300の一部分である凸部320を第2端子80の貫通孔81に挿入して、第2端子80の第2ねじ部83を変形させることで、第2端子80と治具300とを固定する。したがって、第2端子80と治具300とを容易に固定することができる。
【0054】
しかも、凸部320は、本体310から部分的に突出した部位であるから、凸部320を貫通孔81に挿入した際、凸部320が形成された側の本体310の端面のうちの、凸部320が形成されていない部位が、第2端子80の後端側の端面に接触することになる。つまり、治具300は、軸線OL方向の凸部320の長さ以上に、第2端子80の貫通孔81に挿入されることがない。ここで、凸部320の長さL4は、第2端子80の長さL3と、第1端子70の長さL1との差分値D(L3−L1)よりも短く形成されている。したがって、第2端子80を締め付けた際に、治具300が第1端子70に接触して、第1端子70を傷つけることがない。また、軸線OL方向の凸部320の長さは、第1端子70の第1ねじ部73と、第2端子80の第2ねじ部83とが螺合しない部位の長さ以内の長さとなるので、螺合する部位の第2ねじ部83を変形させることがない。その結果、第1ねじ部73と第2ねじ部83との螺合性能を低下させることがない。ただし、治具300の形状は、凸部320を有する形状に限るものではない。例えば、治具300は、軸線OLに直交する断面の形状が凸部320と同一の棒状の部材であってもよい。
【0055】
また、上述したスパークプラグ100の製造方法によれば、第2端子80を第1端子70に締め付ける際に、治具300のみを回転させる。したがって、治具300および第1端子70の両方を回転させる構成や、第1端子70のみを回転させる構成と比べて、第2端子80を第1端子70に締め付けるのに必要な回転駆動力を伝達する機構を簡略化することができる。ただし、治具300および第1端子70の両方を回転させる構成を採用してもよい。すなわち、治具300と、第1端子70を備えるスパークプラグ100とを相互に反対方向に回転させる構成を採用してもよい。あるいは、第1端子70のみを回転させる構成を採用してもよい。
【0056】
また、上述したスパークプラグ100の製造方法によれば、主体金具50の工具係合部51をチャックした状態で、第2端子80を回転させて、第2端子80を第1端子70に締め付ける。したがって、第2端子80の回転力が作用して、スパークプラグ100が一緒に回転してしまうことを抑制できる。その結果、締め付け不足が生じることを抑制することができる。
【0057】
図9は、工具係合部51をチャックする効果を確認する実験の結果を示す。この実験では、No.1〜No.5の試料を用意し、工具係合部51をチャックした状態と、チャックしない状態とで、それぞれ第2端子80の締め付けを行った。そして、締め付け後の第2端子80の戻しトルクをそれぞれ測定した。第2端子80の締め付けにおいて、戻しトルクの狙い値は、0.5N・mに設定した。図9に示すように、工具係合部51をチャックした場合、No1.〜No5の全ての試料について、狙い値に対して10%以内の変動の戻しトルクの値が得られた。一方、工具係合部51をチャックしなかった場合、No.1,4,5の試料では、十分な戻しトルクの値が得られなかった。このことは、第2端子80の締め付け不足が生じたことを示している。
【0058】
B.変形例:
B−1.変形例1:
上述した実施例においては、凸部320の軸線OLに直交する断面は、三角形状であったが、当該断面形状は、三角形状に限定されない。凸部320の断面形状は、凸部320を第2端子80の貫通孔81に挿入する際、断面形状の少なくとも2つの頂点が、第2ねじ部83のねじ山の頂よりもわずかに外側に位置するものであればよい。ただし、凸部320と第2端子80との固定関係を強固なものとするためには、断面形状の3つ以上の頂点が、第2ねじ部83のねじ山の頂よりもわずかに外側に位置することが望ましい。例えば、凸部320の断面形状は、矩形形状や五角形であってもよい。
【0059】
B−2.変形例2:
上述した実施例においては、治具300の一部分を第2端子80の貫通孔81に挿入することで、治具300と第2端子80とを固定したが、治具300と第2端子80とを固定する際の位置関係は、上述の例に限らない。当該位置関係の変形例を図10に示す。変形例としての治具500には、第2端子80に押し当てる側の端面の一部が凹んだ凹部520が形成されている。この凹部520の軸線OLと直交する断面は、第2端子80の外径の特定の位置の断面よりもわずかに小さく形成されている。本実施例では、特定の位置は、第2端子80の外径が最も大きくなる位置である。このため、治具500を第2端子80に押し当てると、凹部520の側面530によって、第2端子80の外径側が変形し、治具500と第2端子80とが固定される。かかる構成であっても、第2端子80と治具500とを好適に固定することができる。なお、上述した特定の位置は、第2端子80の外径が最も大きくなる位置に限らず、任意の位置とすることができる。ただし、特定の位置は、局所的に外径が大きくなる頂部とすることが望ましい。こうすれば、第2端子80と治具500とを固定しやすい。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、上述した各適用例の構成要素や、実施形態中の要素は、本願の課題の少なくとも一部を解決可能な態様、または、上述した各効果の少なくとも一部を奏する態様において、適宜、組み合わせ、省略、上位概念化を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
4…シール体
5…ガスケット
10…絶縁碍子
12…軸孔
13…脚長部
17…先端側胴部
18…後端側胴部
19…中央胴部
20…中心電極
21…電極母材
25…芯材
30…接地電極
50…主体金具
51…工具係合部
52…取付ねじ部
54…シール部
60…端子電極
70…第1端子
71…座部
72…突出部
73…第1ねじ部
80…第2端子
81…貫通孔
83…第2ねじ部
100…スパークプラグ
210…モータ
220…電磁クラッチ
300,500…治具
310…本体
320…凸部
520…凹部
530…側面
OL方向…軸線
F1,F2…押さえ荷重
OL…軸線
SG…火花ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
前記絶縁体のうちの、該絶縁体の一部分を周方向に取り囲んで保持する主体金具と、
前記軸孔の一端部に設けられた端子電極であって、前記絶縁体の外部に位置する部位に第1ねじ部が形成された第1端子と、前記軸線方向に貫通する貫通孔が形成されるとともに、該貫通孔の側面に前記第1ねじ部に螺合される第2ねじ部が形成された第2端子とを備えた端子電極と
を備えたスパークプラグの製造方法において、
治具を前記軸線方向に沿って前記第2端子に押し当てて、前記第2端子の一部分を変形させることにより、該変形した第2端子と前記治具とを固定する第1工程と、
前記治具および前記第1端子のうちの少なくとも一方を、前記軸線方向を軸として回転させて、前記第1ねじ部と前記第2ねじ部とを螺合して、前記第2端子を前記第1端子に締め付ける第2工程と
を備えたことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のスパークプラグの製造方法において、
前記第1工程は、前記治具の一部分を前記貫通孔に挿入して、前記第2端子の第2ねじ部を変形させることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のスパークプラグの製造方法において、
前記第1工程は、前記第2端子に押し当てる側の端面の一部が突出した凸部を備えた治具を使用して、前記凸部を前記貫通孔に挿入することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、
前記第1工程は、前記第2端子側に向かう前記軸線方向に沿って前記治具に押さえ荷重F1を作用させて、前記治具を前記第2端子に押し当て、
前記押さえ荷重F1は、10(kgf)≦F1≦100(kgf)を満たす
ことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、
前記第2工程は、前記第2端子側に向かう前記軸線方向に沿って前記治具に押さえ荷重F2を作用させつつ、前記治具および前記第1端子のうちの少なくとも一方を回転させ、
前記押さえ荷重F2は、F2≦50(kgf)を満たす
ことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、
前記第2工程は、負荷トルクが所定値以上となると空転して、動力伝達を遮断するトルククラッチを用いて、前記治具および前記第1端子のうちの少なくとも一方を回転させて、前記第2端子を前記第1端子に締め付けることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のスパークプラグの製造方法において、
前記トルククラッチは、電磁クラッチ方式であることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか記載のスパークプラグの製造方法において、
前記第2工程において、前記治具および前記第1端子のうちの前記治具のみを回転させることを特徴とするスパークプラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−89361(P2013−89361A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226996(P2011−226996)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】