説明

スパークプラグ及びその製造方法

【課題】 この発明は、貴金属部と接地電極及び/又は中心電極の電極母材とが耐消耗性を有することにより耐久性に優れたスパークプラグを提供すること、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 この発明のスパークプラグは、中心電極及び/又は接地電極が貴金属部を有し、貴金属部は中心電極及び/又は接地電極の表面から突出する突出部と埋設部とを有し、貴金属部を所定の平面で切断したときの切断面において前記表面から突出部の先端までの距離を突出高さA、前記表面から0.05mmの距離における突出部の幅を長さD1、前記表面から0.7×Aの距離における突出部の幅を長さD2とすると、0.1mm≦A≦0.3mm、0.7mm≦D1、0.5mm≦D2を満たし、前記スパークプラグの製造方法は中心電極及び/又は接地電極に配置された貴金属材料に、埋設部が形成されるようにレーザを照射して貴金属材料を接合し、接合された貴金属材料を加熱しつつ押圧することにより貴金属部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スパークプラグ及びその製造方法に関し、特に、接地電極及び中心電極の少なくとも一方に貴金属部が設けられたスパークプラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関の点火用に使用されるスパークプラグは、一般に、筒状の主体金具と、この主体金具の内孔に配置される筒状の絶縁体と、この絶縁体の先端側内孔に配置される中心電極と、一端が主体金具の先端側に接合され、他端が中心電極との間に火花放電間隙を有する接地電極とを備える。そして、スパークプラグは、内燃機関の燃焼室内で、中心電極の先端部と接地電極の先端部との間に形成される火花放電間隙に火花放電され、燃焼室内に充填された燃料を燃焼させる。
【0003】
ところで、従来、耐久性を向上させる目的で、接地電極及び中心電極との対向するそれぞれの発火面に、貴金属合金からなる貴金属チップを設けることが行われてきた。貴金属チップを接地電極や中心電極に接合する方法としては、抵抗溶接により溶接する方法がある。しかし、近年、燃焼室内の高圧縮化や希薄燃焼が主流となり、より厳しい条件でスパークプラグが使用されるようになってくると、貴金属チップの耐剥離性を確保するのが困難になってきた。そこで、抵抗溶接による溶接方法に代わってレーザ照射により貴金属チップを溶接する方法が開発された。
【0004】
例えば、特許文献1には、「電極母材の発火面の凹部に貴金属を嵌め込んで、レーザービームのみで溶融しために、貴金属が発火面から突出せず、安価で、長寿命のスパークプラグの製造方法を提供」(特許文献1の段落番号0005参照。)することを課題とし、この課題を解決するための手段として「電極母材の発火部となる部分に貴金属を接合したスパークプラグの製造方法において、前記電極母材の発火面に凹部を設け、該凹部に円板状または線の貴金属部材を配し、該貴金属部材にレーザービームを照射して、前記貴金属部材の70重量%以上を溶融させ、溶融貴金属中に電極母材成分が0.5重量%以上、80重量%以下含ませることを特徴とするスパークプラグの製造方法。」(特許文献1の請求項1参照。)が記載されている。この製造方法では、「前記溶融貴金属は、前記電極母材の前記発火面と同一面状」(特許文献1の請求項2参照。)となっており、「このため、この貴金属と対向する電極との火花放電間隙が均一のスパークプラグが量産でき、貴金属と対向する電極とで確実に火花放電することができる。また、電極母材の発火面の凹部に、貴金属をレーザービームのみで溶融したために、電気抵抗溶接による電極母材への貴金属の埋設をする必要がなく、低コストで製造することができる。」(特許文献1の段落番号0007参照。)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3344737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年の内燃機関においては、燃焼室内の気流が激しくなり、火花が吹き流されることにより、火花放電が生じることを想定していた貴金属合金部分ではなく電極母材に飛火して、貴金属合金部分より電極母材が先に消耗してしまう現象が起きることがあった。そのため、電極母材が細くなり、熱引きが低下することによる耐久性の低下及び振動による貴金属合金部分の折損が生じることがあった。
【0007】
この発明は、接地電極及び中心電極の少なくとも一方に貴金属を含有する貴金属部を備えたスパークプラグにおいて、貴金属部と接地電極及び/又は中心電極の電極母材とが耐消耗性を有することにより、耐久性に優れたスパークプラグを提供すること、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 中心電極及び前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極を備え、前記中心電極及び前記接地電極のうち少なくとも前記接地電極は、前記中心電極の先端面に対向する対向面を有する、前記接地電極の第1電極母材のその対向面に設けられた、貴金属を含有する貴金属部を有するスパークプラグであって、
前記貴金属部は、前記対向面から突出する突出部と、前記対向面から前記突出部とは反対側に垂直方向に延びる埋設部とを有し、
前記対向面を含む平面で前記貴金属部を切断したときの切断面の輪郭線上にある任意の2点を結ぶ線分のうち、前記対向面の長手方向に直交する線分であって、最大の長さを有する線分の垂直二等分線のうち、前記長手方向に延びる垂直二等分線を通り、かつ前記対向面に直交する平面で切断した切断面S1において、
前記対向面から前記突出部の先端までの距離を突出高さAg、前記対向面から0.05mmの距離における前記突出部の幅を長さDg1、前記対向面から0.7×Agの距離における前記突出部の幅を長さDg2とすると、
0.1mm≦Ag≦0.3mm、0.7mm≦Dg1、0.5mm≦Dg2を満たすことを特徴とするスパークプラグである。
【0009】
前記(1)の好ましい態様は、
(2) 前記切断面S1において、前記対向面から前記埋設部の先端までの距離を埋設深さBgとすると、1.5Ag≦Bg≦7Agを満たし、
(3) 前記接地電極は、前記切断面S1において、前記第1電極母材の厚みが少なくとも2.5mmにわたって変化しない部分における前記厚みの垂直二等分線から前記対向面までの距離が、前記長手方向の先端側に向かって小さくなるように形成されており、
前記貴金属部は、前記切断面S1において、前記対向面から前記突出部の先端までの距離を厚さhとすると、前記対向面の位置における幅Dg0の中心より前記長手方向の先端側で前記厚さhが最大値をとることを特徴とする。
【0010】
前記課題を解決するための他の手段は、
(4) 中心電極及び前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極を備え、前記中心電極及び前記接地電極のうち少なくとも前記中心電極は、前記中心電極の第2電極母材の先端面に設けられた、貴金属を含有する貴金属部を有するスパークプラグであって、
前記貴金属部は、前記先端面から突出する突出部と、前記先端面から前記突出部とは反対側に垂直方向に延びる埋設部とを有し、
前記先端面を含む平面で前記貴金属部を切断したときの切断面の輪郭線上にある任意の2点を結ぶ線分のうち、最大の長さを有する線分を通り、かつ前記先端面に直交する平面で切断した切断面S2において、
前記先端面から前記突出部の先端までの距離を突出高さAc、前記先端面から0.05mmの距離における前記突出部の幅を長さDc1、前記先端面から0.7×Acの距離における前記突出部の幅を長さDc2とすると、
0.1mm≦Ac≦0.3mm、0.7mm≦Dc1、0.5mm≦Dc2を満たすことを特徴とするスパークプラグである。
【0011】
前記(4)の好ましい態様は、
(5) 前記切断面S2において、前記先端面から前記埋設部の先端までの距離を埋設深さBcとすると、1.5Ac≦Bc≦7Acを満たすことを特徴とする。
【0012】
前記(1)及び(4)の好ましい態様は、
(6) 前記第1電極母材及び/又は前記第2電極母材は、Niを主成分とし、Siを0.4質量%以上5質量%以下、Alを0.4質量%以上5質量%以下、及びCrを1質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする。
【0013】
前記他の課題を解決するための手段は、
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記第1電極母材及び/又は前記第2電極母材に配置された貴金属材料に、前記埋設部が形成されるようにレーザを照射して前記貴金属材料を接合し、
接合された貴金属材料を加熱しつつ、押圧することにより前記貴金属部を形成することを特徴とするスパークプラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
この発明のスパークプラグは、前記第1電極母材及び/又は前記第2電極母材に設けられた貴金属部が突出部と埋設部とを有し、突出部が所定の寸法を有することから、突出部が先端面及び/又は対向面からほどよく突き出し、またその先端が細くなり過ぎていない。したがって、火花放電が吹き流されて第1電極母材及び/又は第2電極母材で火花が発生し、貴金属部より先に第1電極母材及び/又は第2電極母材が消耗してしまうのを抑制することができる。また、突出部の先端が細くなりすぎることにより、先端の温度が高くなり、消耗が進むのを抑制することができる。よって、この発明によると、貴金属部と第1電極母材及び/又は第2電極母材とが耐消耗性を有することにより、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0015】
この発明のスパークプラグは、埋設部の埋設深さが所定の範囲内にあるので、耐剥離性が確保され、ひいては耐消耗性に優れる。
【0016】
この発明のスパークプラグは、接地電極がその先端に向かって細くなる形状を有している場合には、貴金属部の厚みが接地電極の先端側で最大となるので、火花放電間隙の増加を抑制することができる。
【0017】
この発明のスパークプラグは、第1電極母材及び/又は第2電極母材がSi、Al、Crを所定量含有するので、第1電極母材及び/又は第2電極母材の耐酸化性を向上させることができ、その結果耐消耗性を確保することができる。
【0018】
この発明のスパークプラグの製造方法は、接合された貴金属材料を加熱しつつ、押圧することにより前記スパークプラグを製造するので、押圧する際に接合された貴金属材料にクラックが形成されるのを抑制することができ、また容易に前記スパークプラグを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグの一部断面全体説明図である。
【図2】図2は、図1に示すスパークプラグの要部を示す要部断面説明図である。
【図3】図3(a)は、図2に示すスパークプラグにおいて、対向面を含む平面で貴金属部を切断したときの切断面を示す説明図である。図3(b)は、図3(a)に示す貴金属部を垂直二等分線を通りかつ対向面に直交する平面で切断したときの切断面を示す要部断面説明図である。
【図4】図4(a)は、図2に示すスパークプラグにおいて、先端面を含む平面で貴金属部を切断したときの切断面を示す説明図である。図4(b)は、図4(a)に示す貴金属部を所定の平面で切断したときの切断面を示す要部断面説明図である。
【図5】図5は、この発明のスパークプラグの他の実施例であるスパークプラグの要部断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係るスパークプラグは、中心電極及び前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極を備え、前記中心電極及び前記接地電極の少なくとも一方は貴金属を含有する貴金属部を有し、前記貴金属部は前記中心電極の第2電極母材の先端面、及び/又は前記先端面に対向する対向面を有する、前記接地電極の第1電極母材のその対向面に、設けられる。この発明に係るスパークプラグは、このような構成を有するスパークプラグであれば、その他の構成は特に限定されず、公知の種々の構成を採ることができる。
【0021】
この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを図1及び図2に示す。図1はこの発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグ1の一部断面全体説明図である。図2は、図1に示すスパークプラグの要部を示す要部断面説明図である。なお、図1及び図2では紙面下方を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0022】
このスパークプラグ1は、図1及び図2に示されるように、軸線O方向に延在する軸孔2を有する略円筒状の絶縁体3と、前記軸孔2内の先端側に設けられた略棒状の中心電極4と、前記軸孔2内の後端側に設けられた端子金具5と、前記絶縁体3を保持する略円筒状の主体金具6と、一端が主体金具6の先端に接合されると共に他端が中心電極4の先端面30に対向するように配置された接地電極7と、前記先端面30と前記先端面30に対向する対向面31とに設けられた貴金属部32,33と、を備え、前記貴金属部32,33は火花放電間隙Gを介して配置されている。
【0023】
前記絶縁体3は、軸線O方向に延在する軸孔2を有し、該軸孔2内の先端側に中心電極4、後端側に端子金具5、中心電極4と端子金具5との間には中心電極4及び端子金具5を軸孔2内に固定するためのシール体10,11及び電波雑音を低減するための抵抗体12が設けられている。絶縁体3の軸線O方向の中央付近には径方向に突出した鍔部13が形成され、該鍔部13の後端側には端子金具5を収容し、端子金具5と主体金具6とを絶縁する後端側胴部14が形成されている。該鍔部13の先端側には抵抗体12を収容する先端側胴部15、この先端側胴部15の先端側には中心電極4を収容し、先端側胴部15より外径の小さい脚長部16が形成されている。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具6の先端面から突出した状態で、主体金具6に固着されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度を有する材料で形成されることが望ましく、このような材料として、例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
【0024】
前記主体金具6は、円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。主体金具6における先端方向の外周面にはネジ部17が形成されており、このネジ部17を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。ネジ部17の後端側にはフランジ状のガスシール部18が形成され、このガスシール部18とネジ部17との間にはガスケット19がはめ込まれている。ガスシール部18の後端側にはスパナやレンチ等の工具を係合させるための工具係合部20、工具係合部20の後端側には加締め部21が形成されている。加締め部21及び工具係合部20の内周面と絶縁体3の外周面との間に形成される環状の空間にはリング状のパッキン22,23及び滑石24が配置され、絶縁体3が主体金具6に対して固定されている。主体金具6は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
【0025】
端子金具5は、中心電極4と接地電極7との間で火花放電を行うための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子である。端子金具5は、軸孔2の内径よりも外径が大きく、軸孔2から露出して、軸線O方向の後端側端面にその鍔型部の一部が当接する露出部25と、該露出部25の軸線O方向の先端側から先端方向に延在し、軸孔2内に収容される略円柱状の柱状部26とを有する。端子金具5は、低炭素鋼等の金属材料により形成されることができる。
【0026】
前記中心電極4は、略棒状であり、第2電極母材39と貴金属部32とにより形成されている。第2電極母材39は、外層27と該外層27の内部の軸心部に同心に埋め込まれるように形成されてなる芯部28とにより形成されている。中心電極4は、その先端が絶縁体3の先端から突出した状態で絶縁体3の軸孔2内に固定されており、主体金具6に対して絶縁保持されている。芯部28は外層27よりも熱伝導率の高い材料により形成され、例えば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、純Ni等を挙げることができる。外層27は、中心電極に使用される公知の材料で形成されることができ、後述するNi合金で形成されるのが好ましい。
【0027】
前記接地電極7は、例えば、略角柱体に形成されてなり、第1電極母材36と貴金属部33とにより形成されている。第1電極母材36は、一端部が主体金具6の先端に接合され、途中で略L字状に屈曲され、他端部が中心電極4との間に間隙を設けて配置されている。第1電極母材36は、図2に示すように、第2電極母材39の先端面30に対向する対向面31を有し、この対向面31に貴金属部33が設けられている。第1電極母材36は、接地電極に使用される公知の材料で形成されることができ、後述するNi合金で形成されるのが好ましい。
【0028】
前記貴金属部32,33は、前記先端面30と前記対向面31とに設けられ、火花放電間隙Gを介して対向するように配置されている。この実施形態のスパークプラグ1における火花放電間隙Gは、前記先端面30に設けられた貴金属部32と対向面31に設けられた貴金属部33との間の最短距離であり、この火花放電間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。前記貴金属部32,33は、前記先端面30と前記対向面31との少なくとも一方に設けられていればよく、例えば、より高温になり易い前記対向面31に貴金属部33が設けられ、前記先端面30に貴金属部32が設けられていない場合には、前記対向面31に設けられた貴金属部33と前記先端面30との間の最短距離が火花放電間隙Gとなる。
【0029】
図3(a)は、図2に示すスパークプラグにおいて、対向面を含む平面で貴金属部を切断したときの切断面を示す説明図である。図3(b)は、図3(a)に示す貴金属部を所定の平面で切断したときの切断面を示す要部断面説明図である。図3(a)及び図3(b)に示すように、前記第1電極母材36に設けられた前記貴金属部33は、前記対向面31から突出する突出部34と、前記対向面31に対して前記対向面31から前記突出部34とは反対側に垂直方向に延びる埋設部35とを有する。前記対向面31を含む平面で前記貴金属部33を切断したときの切断面の輪郭線M上にある任意の2点を結ぶ線分のうち、前記対向面31の長手方向X1に直交する線分であって、最大の長さを有する線分abの垂直二等分線のうち、前記長手方向X1に延びる垂直二等分線L1を通り、かつ前記対向面31に直交する平面で切断した切断面S1において、
前記対向面31から前記突出部34の先端までの距離を突出高さAg、前記対向面31から0.05mmの距離における前記突出部34の幅を長さDg1、前記対向面31から0.7×Agの距離における前記突出部34の幅を長さDg2とすると、前記突出部34は次の3つの関係を満たす形状を有する。
(1)0.1mm≦Ag≦0.3mm
(2)0.7mm≦Dg1
(3)0.5mm≦Dg2
【0030】
前記埋設部35は、前記切断面S1において、前記対向面31から前記埋設部35の先端までの距離を埋設深さBgとすると、
(4)1.5Ag≦Bg≦7Ag
を満たすのが好ましい。
【0031】
図4(a)は、図2に示すスパークプラグにおいて、先端面を含む平面で貴金属部を切断したときの切断面を示す説明図である。図4(b)は、図4(a)に示す貴金属部を所定の平面で切断したときの切断面を示す要部断面説明図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、前記第2電極母材39に設けられた前記貴金属部32は、前記先端面30から突出する突出部37と、前記先端面30に対して前記先端面30から前記突出部37とは反対側に垂直方向に延びる埋設部38とを有し、前記先端面30を含む平面で前記貴金属部32を切断したときの切断面の輪郭線N上にある任意の2点を結ぶ線分のうち、最大の長さを有する線分cdを通り、かつ前記先端面30に直交する平面で切断した切断面S2において、
前記先端面30から前記突出部37の先端までの距離を突出高さAc、前記先端面30から0.05mmの距離における前記突出部37の幅を長さDc1、前記先端面30から0.7×Acの距離における前記突出部37の幅を長さDc2とすると、前記突出部37は次の3つの関係を満たす形状を有する。
(5)0.1mm≦Ac≦0.3mm
(6)0.7mm≦Dc1
(7)0.5mm≦Dc2
【0032】
前記埋設部38は、前記切断面S2において、前記先端面30から前記埋設部38の先端までの距離を埋設深さBcとすると、
(8)1.5Ac≦Bc≦7Ac
を満たすのが好ましい。
【0033】
前記突出部34,37が前記(1)〜(3)及び(5)〜(7)の関係を満たすとき、突出部34,37は、前記対向面31及び前記先端面30からほどよく突き出し、またその先端が細くなり過ぎない形状を有し、例えば前記切断面S1,S2では、台形状、略台形状であって台形における平行でない2つの辺が外側に向かって膨らむ曲線を有する形状、矩形、又は半円形等の外形を有する。前記貴金属部33,32が、前記(1)〜(3)及び(5)〜(7)の関係を満たす形状を有することにより、耐消耗性に優れた貴金属部33,32及び電極母材36,39を有するスパークプラグを提供することができる。
【0034】
前記突出高さAg,Acが0.1mm未満であると、気流の激しい燃焼室内では、火花が吹き流されて第1電極母材36及び/又は第2電極母材39(以下において、電極母材36,39と称することがある。)で火花放電が発生し、貴金属部33,32より先に電極母材36,39が消耗してしまうことがある。電極母材36,39が消耗すると、電極母材36,39が細くなるので、火花放電により生じた熱や高温の燃焼室内から受熱した熱を、電極母材36,39を介して逃がす(以下において、熱引きと称することがある。)効果が下がり、耐久性に劣ってしまう。前記突出高さAg,Acが0.3mmを超えると、貴金属部33,32の先端の温度が高くなり、貴金属部33,32が消耗し易くなる。また、貴金属部33,32が受熱した熱を電極母材36,39に逃がし難くなるので、貴金属部33,32が消耗し易くなり、耐久性に劣ってしまう。前記長さDg1が0.7mm未満であると、突出部34,37の体積が小さくなるため、所望の耐消耗性が得られない。前記対向面31及び前記先端面30の位置における前記貴金属部33,32の幅を長さDg0,Dc0としたとき、長さDg1,Dc1は、長さDg0,Dc0の長さと同じか、それよりも小さい。長さDg0は、通常、0.7mm以上2mm以下、長さDc0は、通常、0.7mm以上1.6mm以下である。前記長さDg2が0.5mm未満であると、突出部34,37の先端が細くなった形状となるので、突出部34,37の先端の温度が高くなり易くなり、耐消耗性に劣ってしまう。長さDg2,Dc2は、長さDg1,Dc2の長さと同じか、それより小さい。
【0035】
前記埋設深さBg,Bcが前記(4)及び(8)の関係を満たすと、貴金属部33,32の耐剥離性が確保され、耐消耗性に優れた貴金属部33,32を有するスパークプラグ1を提供することができる。前記埋設深さBg,Bcが1.5Ag未満及び1.5Ac未満であると、埋設部35,38にクラックが生じ易くなり、また埋設部35,38と電極母材36,39との界面に酸化スケールが形成され易くなる。その結果、貴金属部33,32が剥離し易くなり、熱引きが低下することで貴金属部33,32の耐消耗性が劣ってしてしまうことがある。後述するように、貴金属部33,32は、例えば電極母材36,39上に貴金属合金を設置してレーザを照射することにより、貴金属合金と電極母材36,39を形成する合金とが溶け合って形成されることから、前記埋設深さBg,Bcが大きいほど、貴金属合金に比べて電極母材36,39の方が多く溶けて形成されることになる。このように形成された貴金属部33,32は電極母材36,39を形成する合金の含有量が多く、貴金属合金の含有量が少なくなるので、貴金属の含有量が少なくなる。よって、前記埋設深さBg,Bcが7Ag,7Acを超える場合には、貴金属部33,32の耐消耗性が劣ってしまうことがある。
【0036】
図5は、この発明のスパークプラグの他の実施例であるスパークプラグの要部断面説明図である。図5に示すように、前記接地電極107は、前記切断面S1において、前記第1電極母材136の厚みが少なくとも2.5mmにわたって変化しない部分における前記厚みTの垂直二等分線L2から前記対向面131までの距離tが、前記接地電極107の長手方向X2の先端側に向かって小さくなるように形成されており、前記貴金属部133は、前記切断面S1において、前記対向面131から前記突出部134の先端までの距離を厚さhとすると、前記対向面131の位置における前記貴金属部133の幅である前記長さDg0の中心Qより前記長手方向X2の先端側で前記厚さhが最大値をとるのが好ましい。
【0037】
図5に示すように、接地電極107が先端に向かって細くなる形状を有している場合には、接地電極107の先端の熱引きが劣る傾向にある。また、その細くなっている部分に貴金属部133が設けられていると、熱伝導率の良好なNi合金により形成された電極母材136より熱伝導率に劣る埋設部135が存在するので、さらに熱引きに劣る傾向にある。よって、接地電極107の先端に向かって細くなる形状を有する接地電極107のその細くなっている部分に貴金属部133が設けられていると、接地電極107の先端側の熱を逃がし難く、貴金属部133が消耗し易くなる。したがって、接地電極107の先端側に配置されている貴金属部133の厚みhを厚くする、すなわち前記長さDg0の中心Qより前記長手方向X2の先端側で厚みhが最大値をとるようにすることで、火花放電間隙Gの増加を抑制することができる。
【0038】
前記貴金属部33,32は、後述するように、例えば前記対向面31及び前記先端面30に貴金属材料を配置して、前記対向面31及び前記先端面30を望む方向から貴金属材料に対してレーザを照射することにより形成される。前記貴金属部32,33は、貴金属材料と電極母材36,39とが溶融することにより形成されるので、貴金属部32,33の組成は、貴金属材料と電極母材36,39との組成により、また、レーザの照射方法による貴金属材料と電極母材36,39との溶融の程度等により変化する。貴金属部36,39は、常に均質に形成されるとは限らず、組成の異なる部分がマーブル状に観察される場合、貴金属部33,32と電極母材36,39との界面から貴金属部33,32の内部に向かって次第に組成が変化するように形成される場合等がある。貴金属部33,32が上記いずれの形態で形成されたとしても、後述するように貴金属部33,32に含まれる各成分の含有率を測定した場合に、貴金属部33,32は貴金属成分が少なくとも5質量%であるのが好ましい。貴金属成分としては、例えばPt、Ir、Pd、Rh、Ru、Re等を挙げることができる。貴金属部33,32が貴金属成分を少なくとも5質量%含有していると、所望の耐消耗性を維持することができる。
【0039】
前記電極母材36,39,136は、接地電極及び中心電極に使用される公知の材料で形成されることができるが、電極母材36,39,136は、Niを主成分とし、Siを0.4質量%以上5質量%以下、Alを0.4質量%以上5質量%以下、Crを1質量%以上10質量%以下含有するのが好ましい。
【0040】
Si、Al、及びCrの含有量が前記範囲内であると、電極母材36,39,136の耐酸化性を向上させることができ、ひいては耐消耗性を向上させることができる。Si、Al、及びCrの含有量が少なすぎると耐酸化性が低下するおそれがあり、耐酸化性が確保されない場合には、電極母材36,39,136が崩れ易くなり、振動によって脱落することがあり、その結果耐消耗性を確保し難くなることがある。Si、Al、及びCrの含有量が多すぎると、電極母材36,39,136の熱伝導率の低下及び加工性が悪くなることによるクラックの発生により、熱引きが低下し、貴金属部32,33,133及び電極母材36,39,136の耐火花消耗性を確保し難くなることがある。
【0041】
前記貴金属部33,32及び前記電極母材36,39に含まれる各成分の含有率は、次のようにして測定することができる。すなわち、まず貴金属部33,32及び前記電極母材36,39を切断して断面を露出させ、この貴金属部33,32及び前記電極母材36,39の断面において任意の複数箇所(たとえば、10箇所)を選択し、EPMA(例えば、JEOL社 JXA−8500F)を利用して、WDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)分析を行うことにより、各々の箇所の質量組成を測定する。次に、測定した複数箇所の値の平均値を算出して、この平均値を貴金属部33,32及び前記電極母材36,39の組成とする。なお、測定場所としては、貴金属部33,32と前記電極母材36,39との境界付近を除く。
【0042】
前記スパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。まず、貴金属材料に関しては、所望の組成となるように配合及び溶解して得られる溶解材を、例えば圧延により板材に加工し、その板材を打ち抜き加工により所定のチップ形状に打ち抜いて形成する方法、合金を圧延、鍛造又は伸線により線状又はロッド状の素材に加工した後に、これを長さ方向に所定長に切断して形成する方法等を採用することにより、所望の形状及び組成を有する貴金属材料を形成することができる。貴金属材料の形状は特に限定されず、円盤状、多角盤状、円柱状、多角柱状、粒状等の適宜の形状でよい。貴金属材料の組成は、50〜100質量%の貴金属を含有するのがよく、貴金属としては、例えばPt、Ir、Pd、Rh、Ru、Re等を挙げることができる。
【0043】
電極母材36,39は、例えば、真空溶解炉を用いて、所望の組成を有する合金の溶湯を調製し、真空鋳造にて各溶湯から鋳塊を調製した後、この鋳塊を、熱間加工、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して、作製することができる。中心電極4を形成する電極母材39はカップ状に形成したNi合金等からなる外材に、外材より熱伝導率の高いCu合金等からなる内材を挿入し、押し出し加工等の塑性加工にて、外層の内部に芯部を有する電極母材39を形成する。なお、この実施形態のスパークプラグ1の接地電極7は一種類の材料により形成されて成るが、接地電極7が中心電極4と同様に外層とこの外層の軸心部に埋め込まれるように設けられた芯部とにより形成されてもよく、この場合には中心電極4の場合と同様にしてカップ状に形成した外材に内材を挿入し、押し出し加工等の塑性加工した後、略角柱状に塑性加工したものを、接地電極7を形成する電極母材36にすることができる。
【0044】
次いで、所定の形状に塑性加工等によって形成した主体金具6の端面に、電極母材36の一端部を電気抵抗溶接又はレーザ溶接等によって接合する。次いで、電極母材36が接合された主体金具6にZnめっき又はNiめっきを施す。Znめっき又はNiめっきの後に3価クロメート処理を行ってもよい。
【0045】
次いで、上述のように作製した貴金属材料を電極母材36,39にレーザ溶接により溶融固着する。まず、貴金属材料を対向面31及び/又は先端面30における所望の位置に設置して、貴金属材料に対して対向面31及び/又は先端面30に臨む方向から貴金属材料にレーザを照射することにより、貴金属材料と電極母材36,39とを溶融して、貴金属材料と電極母材36,39とを接合する。次いで、接合された貴金属材料を加熱しつつ、前記貴金属材料の先端を押圧することにより、前述した形状を有する貴金属部33,32を形成する。このとき、対向面31及び/又は先端面30に、貴金属材料を設置するための窪みを形成しておいても良い。
【0046】
レーザを照射する際の、レーザの種類、出力、照射方向及びスポット径等は特に限定されず、貴金属部33,32が突出部34,37と埋設部35,38とを有し、突出部34,37が前記(1)〜(3)及び/又は(5)〜(7)の関係を満たすように形成されればよい。例えば、貴金属材料全体にレーザを照射可能なスポット径で、前記対向面31及び/又は前記先端面30に対して垂直な方向からレーザを数秒間照射することにより、貴金属材料と電極母材36,39とを溶融して、突出部34,37と埋設部35,38とを形成するようにしてもよいし、貴金属材料の一部にレーザを照射できる程度のスポット径で、前記対向面31及び/又は前記先端面30に対して垂直な方向や斜め方向からレーザを数秒間にわたって数十回照射することにより、貴金属材料と電極母材36,39とを溶融して、突出部34,37と埋設部35,38とを形成するようにしてもよい。
【0047】
接合された貴金属材料を加熱する方法は、特に限定されず、電流を流す方法、高周波誘導加熱による方法、レーザを照射する方法等を挙げることができる。接合された貴金属材料を適宜の方法で、加熱しつつ押圧することにより、押圧する際に貴金属材料にクラックが形成されるのを抑制することができる。このようにして、前述した形状を有する貴金属部33,32が形成される。
【0048】
一方、セラミック等を所定の形状に焼成することによって絶縁体3を作製し、この絶縁体3の軸孔2内に貴金属部32が設けられた中心電極4を挿設し、シール体10,11を形成するガラス粉末、抵抗体12を形成する抵抗体組成物、前記ガラス粉末をこの順に前記軸孔2内に予備圧縮しつつ充填する。次いで前記軸孔2内の端部から端子金具5を圧入しつつ抵抗体組成物及びガラス粉末を圧縮加熱する。こうして抵抗体組成物及びガラス粉末が焼結して抵抗体12及びシール体10,11が形成される。次いで接地電極7が接合された主体金具6にこの中心電極4等が固定された絶縁体3を組み付ける。最後に接地電極7の先端部を中心電極4側に折り曲げて、接地電極7の一端が中心電極4の先端部と対向するようにして、スパークプラグ1が製造される。
【0049】
本発明に係るスパークプラグは、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用され、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るスパークプラグは、如何なる内燃機関にも使用することができるが、貴金属部と電極母材とが耐消耗性を有することにより、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができるので、近年の燃焼室内の高圧縮化や希薄燃料を用いた内燃機関に好適に使用されることができる。
【0050】
この発明に係るスパークプラグ1,101は、前述した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記スパークプラグ1は、対向面31に設けられた貴金属部33と先端面30に設けられた貴金属32とが、軸線O方向で、火花放電間隙Gを介して対向するように配置されているが、この発明において、先端面30に受けられた貴金属部32の側面とこの側面に対向するように配置された接地電極の先端部に設けられた貴金属部の先端面とが、中心電極の半径方向で、火花放電間隙を介して対向するように配置されていてもよい。この場合に、貴金属部32の側面に対向する貴金属部33が設けられた接地電極7は、単数が設けられても、複数が設けられてもよい。
【実施例】
【0051】
<スパークプラグ試験体の作製>
貴金属成分としてPt−Ir合金の板材を打ち抜き加工により円柱状のチップ形状に打ち抜いて、直径0.6〜1.6mm、高さ0.2〜0.6mmの数種の大きさを有する貴金属材料を形成した。中心電極及び接地電極になる電極母材は、前述したように、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して作製し、Ni合金からなる外層とCu合金からなる芯部とにより形成される中心電極用の電極母材と、Ni合金からなる接地電極用の電極母材とを形成した。
【0052】
次いで、所定の形状に形成した主体金具の端面に、接地電極となる電極母材を接合し、電極母材の主体金具が接合されていない端部に貴金属材料をレーザ溶接により接合した。レーザ溶接は、貴金属材料を配置した電極母材の対向面に対して略直交する方向から貴金属材料に照射して、1回の照射で貴金属材料がほぼ完全に溶融するようにして、貴金属材料と電極母材とが溶融してなる溶融部を形成し、この溶融部を通電により加熱しつつ、溶融部の先端を押圧して、表1〜表3に示す数種の形状を有する貴金属部を形成した。
【0053】
一方、中心電極の先端面に直径0.6mm、高さ0.8mmの円柱状の貴金属材料を抵抗溶接及びレーザ溶接により接合した。レーザ溶接は、貴金属材料と電極母材との境界を一周するように斜め方向から照射して、貴金属材料と電極母材とを一部溶融することにより接合した。
【0054】
一方、セラミックスを所定の形状に焼成することによって絶縁体を作製し、この絶縁体の軸孔内に貴金属材料が接合された中心電極を挿入し、ガラス粉末、抵抗体組成物、ガラス粉末の順に軸孔内に充填し、最後に端子金具を挿入して封着固定した。次いで、接地電極が接合された主体金具に、中心電極が固定された絶縁体を組み付けて、最後に接地電極の先端部を中心電極側に折り曲げて、接地電極に接合された貴金属部と中心電極の先端面に接合された貴金属材料とが対向するようにして、スパークプラグ試験体を製造した。
【0055】
なお、製造されたスパークプラグ試験体のネジ径はM14であり、火花放電間隙Gは1.1mmであった。
【0056】
<机上耐久試験>
製造したスパークプラグ試験体を圧力0.4MPa、窒素雰囲気の高圧チャンバに取り付け、周波数100Hzで250時間放電を行った。この試験前後の接地電極に設けられた貴金属部と中心電極に設けられた貴金属材料との間のギャップ(最短距離)を測定し、ギャップ増加量により、貴金属部の耐消耗性の評価をした。ギャップ増加量が0.3mm以下のときを「○」、0.3mmを超えるときを「×」として評価した。また、この試験前後の接地電極の電極母材の体積をCT(東芝製 TOSCANER−32250μhd)で測定し、試験前の電極母材の体積に対する試験後の電極母材の体積の減少割合を算出して、この算出値を消耗体積割合として電極母材の耐消耗性の評価をした。消耗体積割合が10%以下のときを「○」、10%を超えたときを「×」として評価した。ギャップ増加量と消耗体積割合のいずれか一方の評価が「×」のときは、総合評価を「×」とした。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示されるように、本願発明の範囲に含まれる貴金属部を備えたスパークプラグは、ギャップ増加量及び電極母材の消耗体積割合の評価のいずれもが良好だった。したがって、本願発明の範囲に含まれる貴金属部を備えたスパークプラグは、貴金属部と電極母材とが耐消耗性を有していた。一方、本願発明の範囲外にある貴金属部を備えたスパークプラグは、表1に示されるように、ギャップ増加量及び電極母材の消耗体積割合の評価の少なくとも一方が劣っていた。
【0059】
高圧チャンバ内の圧力をより厳しい条件である0.6MPaにしたこと以外は上記机上耐久試験と同様にして試験を行った。ギャップ増加量が0.3mm以下のときを「○」、0.3mmを超えるときを「×」として評価した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示されるように、埋設深さBgが大きくなるほどギャップ増加量が大きくなり、貴金属部の消耗量が多くなった。
【0062】
<机上冷熱試験>
製造したスパークプラグ試験体を加熱1分間、冷却1分間を1サイクルとして、3000サイクル行った。加熱に関しては、高周波誘導により1100℃に加熱した。この冷熱試験後に貴金属部を接地電極の長手方向に沿って切断して断面を露出させ、この貴金属部の断面において、クラック及び酸化スケールの前記長手方向の長さを合計して、この合計長さの貴金属部の幅に対する割合を算出した。この算出値が50%未満のときを「○」、50%以上のときを「×」として評価した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すように、埋設深さBgが大きいほど机上冷熱試験の評価結果が良好であり、耐酸化性に優れていた。
【0065】
電極母材の組成を表4に示すように変化させ、貴金属部における寸法が、突出高さAgが0.1mm、長さDg1が0.7mm、長さDg2が0.5mm、埋設深さBgが1.0mmであること以外は、表1〜3に結果を示す試験と同様のスパークプラグ試験体を用いて、以下の試験を行った。
<実機冷熱試験>
製造したスパークプラグ試験体を、エンジン(排気量2000cc、6気筒)に取り付け、スロットル全開(5500rpm)で1分間、アイドリング状態(750rpm)で1分間を1サイクルとする運転を300時間繰り返す実機冷熱試験を行った。試験後の接地電極を長手方向に切断して断面を露出させ、電極母材の断面において、電極母材の表面に形成された酸化物が電極母材の厚みの5分の1以上である場合、または貴金属部に欠陥が観察された場合を「×」として評価した。結果を表4に示す。
【0066】
<机上耐久試験>
周波数60Hzで100時間放電を行ったこと以外は、上記机上耐久試験と同様にして試験を行った。試験前後における接地電極の電極母材の厚みを測定し、厚みの減少量が0.1mm未満の場合を「○」、0.1mm以上の場合を「×」として評価した。結果を表4に示す。
【0067】
<加工性の評価>
電極母材を形成する過程において、1.4×2.5mmの線材へ加工する際に、線材の表面若しくは内部に傷又はクラックが観察されない場合を「○」、傷又はクラックが観察された場合を「×」として評価した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表4に示されるように、電極母材におけるSi、Al、Crの含有量が所定量より多いと実機冷熱試験の評価結果が良好であり、電極母材の耐酸化性に優れていた。Alの含有量が所定量より多いと加工性の評価結果に劣り、線材の表面若しくは内部に傷又はクラックが観察された。一方、電極母材におけるSi、Al、Crの含有量が所定の範囲内であると、加工性の評価結果が良好であった。Crの含有量が所定量より多いと机上耐久試験の評価結果に劣り、電極母材の耐消耗性に劣っていた。一方、電極母材におけるSi、Al、Crの含有量が所定の範囲内であると、机上耐久試験の評価結果が良好であった。
【符号の説明】
【0070】
1,101 スパークプラグ
2 軸孔
3 絶縁体
4,104 中心電極
5 端子金具
6 主体金具
7,107 接地電極
10,11 シール体
12 抵抗体
13 鍔部
14 後端側胴部
15 先端側胴部
16 脚長部
17 ネジ部
18 ガスシール部
19 ガスケット
20 工具係合部
21 加締め部
22,23 パッキン
24 滑石
25 露出部
26 柱状部
27 外層
28 芯部
30,130 先端面
31,131 対向面
32,33,132,133 貴金属部
34,37,134,137 突出部
35,38,135,138 埋設部
36,136 第1電極母材
39,139 第2電極母材
G 火花放電間隙
M,N 輪郭線
S1,S2 切断面
X1,X2 長手方向
L1,L2 垂直二等分線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極及び前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極を備え、前記中心電極及び前記接地電極のうち少なくとも前記接地電極は、前記中心電極の先端面に対向する対向面を有する、前記接地電極の第1電極母材のその対向面に設けられた、貴金属を含有する貴金属部を有するスパークプラグであって、
前記貴金属部は、前記対向面から突出する突出部と、前記対向面から前記突出部とは反対側に垂直方向に延びる埋設部とを有し、
前記対向面を含む平面で前記貴金属部を切断したときの切断面の輪郭線上にある任意の2点を結ぶ線分のうち、前記対向面の長手方向に直交する線分であって、最大の長さを有する線分の垂直二等分線のうち、前記長手方向に延びる垂直二等分線を通り、かつ前記対向面に直交する平面で切断した切断面S1において、
前記対向面から前記突出部の先端までの距離を突出高さAg、前記対向面から0.05mmの距離における前記突出部の幅を長さDg1、前記対向面から0.7×Agの距離における前記突出部の幅を長さDg2とすると、
0.1mm≦Ag≦0.3mm、0.7mm≦Dg1、0.5mm≦Dg2(≦Dg1)を満たすことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
前記切断面S1において、前記対向面から前記埋設部の先端までの距離を埋設深さBgとすると、1.5Ag≦Bg≦7Agを満たすことを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記接地電極は、前記切断面S1において、前記第1電極母材の厚みが少なくとも2.5mmにわたって変化しない部分における前記厚みの垂直二等分線から前記対向面までの距離が、前記長手方向の先端側に向かって小さくなるように形成されており、
前記貴金属部は、前記切断面S1において、前記対向面から前記突出部の先端までの距離を厚さhとすると、対向面の位置における)幅Dg0の中心より前記長手方向の先端側で厚さhが最大値をとることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
中心電極及び前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極を備え、前記中心電極及び前記接地電極のうち少なくとも前記中心電極は、前記中心電極の第2電極母材の先端面に設けられた、貴金属を含有する貴金属部を有するスパークプラグであって、
前記貴金属部は、前記先端面から突出する突出部と、前記先端面から前記突出部とは反対側に垂直方向に延びる埋設部とを有し、
前記先端面を含む平面で前記貴金属部を切断したときの切断面の輪郭線上にある任意の2点を結ぶ線分のうち、最大の長さを有する線分を通り、かつ前記先端面に直交する平面で切断した切断面S2において、
前記先端面から前記突出部の先端までの距離を突出高さAc、前記先端面から0.05mmの距離における前記突出部の幅を長さDc1、前記先端面から0.7×Acの距離における前記突出部の幅を長さDc2とすると、
0.1mm≦Ac≦0.3mm、0.7mm≦Dc1、0.5mm≦Dc2を満たすことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項5】
前記切断面S2において、前記先端面から前記埋設部の先端までの距離を埋設深さBcとすると、1.5Ac≦Bc≦7Acを満たすことを特徴とする請求項4に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記第1電極母材及び/又は前記第2電極母材は、Niを主成分とし、Siを0.4質量%以上5質量%以下、Alを0.4質量%以上5質量%以下、及びCrを1質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜5に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記第1電極母材及び/又は前記第2電極母材に配置された貴金属材料に、前記埋設部が形成されるようにレーザを照射して前記貴金属材料を接合し、
接合された貴金属材料を加熱しつつ、押圧することにより前記貴金属部を形成することを特徴とするスパークプラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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