説明

スピーカアレーシステム

【課題】 特定の方向に高い指向特性で音波を放射することができる音響再生信号を生成するスピーカアレーシステムの周波数特性を向上させる。
【解決手段】 音源から入力された音響信号をN個のスピーカ10(1)〜10(N)からなるスピーカアレー11によって再生するスピーカアレーシステム100であって、隣接するスピーカ10間の間隔D(1)〜D(N−1)のうち、スピーカ10(1)とスピーカ10(2)の間隔D(1)およびスピーカ10(N)とスピーカ10(N−1)の間隔D(N−1)が他のスピーカ10の間隔D(2)〜D(N−2)よりも大きく、間隔D(2)〜D(N−1)が等しくなるように、スピーカ10(1)〜10(N)が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスピーカを配列したスピーカアレーによって、特定の方向に高い指向性で音波を放射することができるスピーカアレーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
2次元ディジタルフィルタを用いたスピーカアレーシステムの基本的な回路システムは図10に示す通りで、まず、音源ソース1がフィルタ部(LPF)2を介して、ADC部3でディジタル信号に変換され、この後、2次元ディジタルフィルタ24にて、スピーカアレー8から指向性音響ビームが放出されるための演算処理が行われる。演算後、DAC部5でアナログ信号に変換され、その出力信号はフィルタ部6を介して、アンプ部7で所定の電力増幅がなされ、スピーカアレー部8から指向性音響ビームとして放射されるものである。
このスピーカアレーシステムは、高い指向性を有することから、横断歩道を渡る人への案内放送、駅のホームでの通過列車などの案内放送、駐車場出口などでの車注意の案内放送、エスカレータの乗降注意の案内放送、展示場などでの展示物の説明放送、限定された空間での音楽・TV視聴、銀行ATM、券売機、自動販売機等の案内放送、追尾する様に違反者に警告音を発生させるパトカー、臨場感溢れるアミューズメント機器等への応用が考えられ、実用化が望まれているものである。
このようなスピーカアレーシステムとして、例えば、高音質のサラウンド音場を生成することを目的としたスピーカアレーシステムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−238155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11は、説明の便宜上、N個の1次元ディジタルフィルタH(Z)〜H(Z)からなる2次元ディジタルフィルタ24とそれに対応するスピーカアレー部8のみを、図10に示す回路システムから取り出したものである。図11に示すスピーカアレーシステムにおいては、音響ビームに指向性を付与するスピーカアレーシステム200のスピーカアレー8は、スピーカ10(1)〜スピーカ10(N)の間隔D(1)〜D(N−1)が全て等しいものとして構成されている。
ここで、各1次元ディジタルフィルタH(Z)〜H(Z)は、図12に示すようになっており、同図はN個のうちのn番目の1次元ディジタルフィルタH(Z)を示している。同図において、Z−1は、Z=exp(jωT)なる関係があり(ω:時間角周波数、T:サンプリング間隔)、遅延回路の一要素を表している。
従って、n番目の1次元ディジタルフィルタは次の様に示される。
【数1】



このため、2次元ディジタルフィルタ24は次の様に示される。
【数2】


ここで、Z、Z=exp(jωD)なる関係があり(ω:空間角周波数、D:スピーカユニット間隔)、図11において、各スピーカと隣接スピーカとの位置の関係を表している。
空間周波数を離散的に評価したものである。
以上に示したスピーカアレーシステムの指向特性および周波数特性を変化させるための手段としては、2次元ディジタルフィルタ24の時間周波数と空間周波数とによって表される2次元周波数平面での振幅特性と位相特性の設計、スピーカの数、間隔、およびアレー長Lが用いられていた。しかしながら、今までは、スピーカ間の間隔Dを全て均等にして検証を行ってきた。すなわち、スピーカ間隔を不均等にした場合に於ける指向特性および周波数特性の変化については未検証であった。
そこで、本発明は、スピーカアレーを構成するスピーカの間隔を改善することにより、スピーカアレーシステムの指向特性および周波数特性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者は、スピーカアレーを構成するスピーカの配置とスピーカアレーシステムの指向特性および周波数特性との関係について検討した結果、スピーカアレーを構成するスピーカを部分的に不等間隔に配置することによりスピーカアレーシステムの指向特性および周波数特性が向上することを見いだして本発明に至ったものである。
請求項1の本発明のスピーカアレーシステムは、音源から入力された音響信号を複数のスピーカからなるスピーカアレーによって再生するスピーカアレーシステムであって、隣接する前記スピーカ間のスピーカ間隔のうち、末端スピーカとそれに隣接するスピーカ間の末端スピーカ間隔がそれ以外のスピーカ間隔よりも大きく、末端スピーカ間隔以外のスピーカ間隔が等しいことを特徴とする。
請求項2の本発明は、請求項1に記載のスピーカアレーシステムにおいて、音源から入力されたディジタル音響信号の指向特性を2次元ディジタルフィルタによって制御するものであって、前記2次元ディジタルフィルタが、仮想音源点Pを中心とする波面形状になるように、位相特性を設定するものであることを特徴とする。
請求項3の本発明は、請求項1または2に記載のスピーカアレーシステムにおいて、前記末端スピーカが低音域のみ増音量されているものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のスピーカアレーシステムは、末端スピーカとそれに隣接するスピーカの間の末端スピーカ間隔がそれ以外のスピーカ間隔より大きくなるようにスピーカを配置することにより、帯域上端周波数および、音響ビームの指向特性、特に人の聴覚に大きく影響する4kHz以下の低音域における指向特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態に係るスピーカアレーシステムの構成の概略を示すブロック図
【図2】本発明の実施形態に係るスピーカアレーシステムの2次元ディジタルフィルタにより振幅特性を設定する方法を説明するための模式図
【図3】2次元ディジタルフィルタの形成する音響ビームの目標振幅特性を示しており、(a)規格化された時間周波数f1^と規格化された空間周波数f2^による2次元周波数平面における目標振幅特性を示すグラフ、(b)(a)中にA-A線で示した部分の音圧レベルを示すグラフ
【図4】本発明の実施形態に係るスピーカアレーシステムにより、仮想音源点としての点Pに音響ビームの焦点を形成する構成を説明する模式図
【図5】本発明の実施例のスピーカアレーシステムの周波数特性を示すグラフ
【図6】比較例のスピーカアレーシステムの周波数特性を示すグラフ
【図7】本発明の実施例のスピーカアレーシステムの焦点位置における指向特性を示すグラフ
【図8】比較例のスピーカアレーシステムの焦点位置における指向特性を示すグラフ
【図9】アレー長Lの等しいスピーカアレーを示しており、(a)末端スピーカ間隔がその他のスピーカ間隔の2倍となるように配置された7個のスピーカにより構成されたスピーカアレーのブロック図、(b)全てのスピーカ間隔が等しくなるように配置された7個のスピーカにより構成されたスピーカアレーのブロック図、(c)全てのスピーカ間隔が等しくなるように配置された5個のスピーカにより構成されたスピーカアレーのブロック図
【図10】従来の2次元ディジタルフィルタを用いたスピーカアレーシステムの基本的な回路システムを示すブロック図
【図11】図10に示す回路システムから2次元ディジタルフィルタとそれに対応するスピーカアレー部のみを取り出したブロック図
【図12】従来の各1次元ディジタルフィルタの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のスピーカアレーシステムの実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るスピーカアレーシステムの構成の概略を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態のスピーカアレーシステム100は、スピーカ10(1)〜10(N)からなるスピーカアレー11および1次元ディジタルフィルタ20(1)〜20(N)からなる2次元ディジタルフィルタ4を備えている。2次元ディジタルフィルタ4は、両端から1つ内側のディジタルフィルタを備えていないという点において図10、図11に示した2次元ディジタルフィルタ24と相違しているが、その他の構成は2次元ディジタルフィルタ24と同じである。
なお、以下では、スピーカ10(1)〜10(N)を区別しないときには、単にスピーカ10と記し、フィルタ20(1)〜20(N)を区別しないときには、単にフィルタ20と記す。
【0009】
(2次元ディジタルフィルタ)
図1に示したスピーカアレー11を構成するスピーカ10は、それぞれ1次元ディジタルフィルタ20に接続されている。そして、外部音源(図示せず)からアナログ信号として供給された音声信号が、A/D変換器(図示せず)によりディジタルデータに変換されて、1次元ディジタルフィルタ20のそれぞれに供給される。
1次元ディジタルフィルタ20は、スピーカアレーシステム100に特徴的な構成要素である遅延要素Z−1と各フィルタ係数h(m,n)(図12参照)とが予め設定されており、1次元ディジタルフィルタ20のそれぞれが供給されたディジタルデータに応じたフィルタ処理を行って出力する。このようにして出力される1次元ディジタルフィルタ20からのフィルタ処理後の出力は、D/A変換器(図示せず)により音声信号へと変換されて、スピーカ10に供給される。このように、本実施形態のスピーカアレーシステム100では、スピーカアレー11を構成するスピーカ10に接続されている1次元ディジタルフィルタ20のそれぞれに特徴的なフィルタ係数を予め設定しておくことにより、スピーカアレー11に特徴的な振幅特性を付与することができる。
より具体的には、スピーカアレー11と2次元ディジタルフィルタ4とによって構成されたスピーカアレーシステム100に2次元ディジタルフィルタ4の振幅特性と位相特性とを設定することにより、図4に示すように、スピーカアレー11の中心点0から、スピーカアレー11の正面方向(スピーカアレー11におけるスピーカ10の配列方向と直交する方向)との角度φ、距離rの点Pに音響ビームの焦点を仮想音源点Pとして形成することができる。
【0010】
(振幅特性の設定)
図2に示すような等間隔Dで直線配置のスピーカアレーから、角度φで放射される音響波のスペクトルは、2次元周波数平面では下記の式で表される直線上に分布する。
【数3】


ただし、上記の式中fは時間周波数を示しており、fは空間周波数を示している。信号の時間サンプリング間隔をT(秒)とし、fとfとをそれぞれ、1/Tと1/Dで規格化すると上記の式は、下記の式に書き直される。
【数4】


ビーム中心をφ=φ、ビーム広がりをφ=φS+〜φS−とする音響ビームを形成するための2次元ディジタルフィルタ4の目標振幅特性として、図3に示すようなくさび形過渡域の特性を用いる(西川清、大野広祥、唐新華、金森丈郎、直野博之、「広帯域ビーム形成用2次元FIRファンフィルタの2次元フーリエ級数近似による設計法」、電子通信学会論文誌、vol.J83−A、No.12、pp.1357−1367、2000年12月)。
図3(a)は、規格化された時間周波数f1^と規格化された空間周波数f2^による2次元周波数平面での目標振幅特性を示すグラフであり、(b)は(a)中にA-A線で示した部分の音圧レベルを示すグラフである。また、図中において、φS+およびφS−は音響ビームのビーム端角度を、φC+およびφC−は音響ビームの音圧レベルが半分となる半値遮断角度を、φP+およびφP−は音響ビームの音圧レベルがφ=φと同じレベルである範囲の両端の角度をそれぞれ示している。なお、φ=0の場合は、φS+=φ、φS−=−φ、φC+=φ、φC−=−φ、φP+=φ、φP−=−φとおく。
末端スピーカ間隔である間隔D(1)・D(N−1)を他のスピーカの間隔Dの2倍とする場合、上述した振幅特性および位相特性の設定では、図1において二点鎖線を用いて示したように、末端スピーカ10(1)・10(N)の内側に仮想のスピーカが配置されていると想定して設定すれば良い。
【0011】
(位相特性の設定)
2次元ディジタルフィルタ4による位相特性の設定について、以下に説明する。2次元ディジタルフィルタ4は、図4に細い実線で示したスピーカアレー11の中心点0を中心とする音波を示す円の波面を、より小さい同図中に太い実線で示した仮想音源点Pを中心とする音波を示す円の波面に変形するものである。なお、細い実線で示した円と太い実線で示した円とは、中心点0と仮想音源点Pとを結ぶ直線との交点において接している。具体的には、図4に太い実線で示した仮想音源点Pを中心とする波面形状になるように、下記の式で示される伝搬遅延τ(φ)すなわち角度φ方向の伝搬時間差を設定する(西川清、志村智、横山哲哉、宮岸美貴子、「2次元ディジタルフィルタを用いた音像移動と集束ビーム形成」AES東京コンベンション ’99予稿集、pp.166−169、1999−07)。
【数5】


また、2次元ディジタルフィルタ4の位相特性θ(ω,ω)は、τ(φ)と時間角周波数ωにより、下記の式で表される。
【数6】


また、ビームの広がりを示すビーム端角度φS+、φS−は、前記の角度φ、スピーカアレー11を構成するスピーカ10の仮想音源点Pから遠い方の一端のスピーカの中心と仮想音源点Pとを結ぶ直線、およびスピーカアレー11の中心点0と仮想音源点Pとを結ぶ直線により形成される角度φe+、ならびに、スピーカアレー11を構成するスピーカ10の仮想音源点Pに近い方の他端のスピーカの中心と仮想音源点Pとを結ぶ直線、およびスピーカアレー11の中心点0と仮想音源点Pとを結ぶ直線により形成される角度φe−を用いて、下記の式により表される。
φS+=φ+φe+
φS−=φ−φe−
【0012】
上述したように、スピーカアレーシステム100では、周波数と方向のパラメータを用いるのではなく、時間周波数と空間周波数とによって表わされる2次元周波数平面での2次元ディジタルフィルタ4を所望の周波数および指向特性に近似して設計する。
焦点位置を遠くに設定する超指向性ビーム形成の場合、低域での位相設定の範囲が狭く、その効果が出にくいことから、低域での位相設定範囲を拡大し、振幅の設定が行われるすべての領域に、すなわちスペクトルの分布する領域だけでなく、スペクトルの分布しない非物理領域にも位相設定することによって、高い指向性を得ることができる。
このような位相設定方法としては、特開2010−28591号公報、「超指向性音響ビーム形成法」(西川清、西川元気、電子情報通信学会技術研究報告、EA2007−101、2008年1月)などに記載の方法を用いることができる。
【実施例】
【0013】
本発明のスピーカアレーシステムの実施例について、以下、図面を参照しながら説明する。
(実施例)
本発明の実施例として、音源から入力された音響信号を複数のスピーカからなるスピーカアレーによって再生するスピーカアレーシステムであって、隣接する前記スピーカ間のスピーカ間隔のうち、末端スピーカとそれに隣接する末端スピーカ間隔がそれ以外のスピーカ間隔の2倍であり、末端スピーカ間隔以外のスピーカ間隔が等しいスピーカアレーシステムとして、下記の特性を備えたものを設計した。
アレー長(L)=41.6cm(2.6cm×12+5.2cm×2)
ユニット数(N)=15、スピーカ間隔=2.6cm、末端スピーカ間隔=5.2cm
焦点距離(r)=40[cm]
過渡域幅φps=10度
φ=0度、φ=27.5度、φ=22.5度、φ=18.6度
フィルタ次数(M,N+1)=(60,16)
サンプリング周波数fs=45[kHz]
帯域上端周波数fH=8949[Hz]
帯域下端周波数fL= 1117[Hz]
焦点先鋭度shp=32.2、ピーク値ph=2.44
(比較例)
また、比較例として、実施例と同じスピーカを用いて、スピーカアレーを構成する隣接するスピーカ間の間隔が全て等しいスピーカアレーシステムであって、スピーカアレー長、ユニット数、焦点距離および過渡域幅において実施例と等しい特性を備えたものを設計した(図11参照)。
アレー長(L)=41.58cm
ユニット数(N)=15、間隔D=2.97cm
焦点距離(r)=40[cm]
過渡域幅φps=10度
φ=0度、φ=27.5度、φ=22.5度、φ=18.7度
フィルタ次数(M,N−1)=(60,14)
サンプリング周波数fs=45[kHz]
帯域上端周波数fH=7834[Hz]
帯域下端周波数fL= 1109[Hz]
焦点先鋭度shp=31.3、ピーク値ph=2.39
【0014】
上記の実施例および比較例のスピーカシステムについて、その周波数特性および指向特性を評価した。
(周波数特性)
図5は本発明の実施例のスピーカアレーシステムの周波数特性を示すグラフであり、図6は比較例のスピーカアレーシステムの周波数特性を示すグラフである。両グラフの比較により(1)実施例のスピーカアレーシステムの帯域上端周波数が比較例のそれよりも高くなっていること、(2)実施例のスピーカアレーシステムの4kHz以下の低音域における指向特性が向上していることが分かる。
すなわち、(1)実施例のスピーカアレーシステムの帯域上端周波数(fH)は、8949kHzであり、比較例の7834kHzよりも高くなっている。これは、末端スピーカ間隔を他の間隔の2倍とすることにより、他のスピーカ間の間隔を小さくすることができることによるものである。
また、(2)図5と図6の比較により、実施例の結果を示すグラフのほうが比較例の結果を示すグラフよりも、φ=40度(deg)、φ=70度(deg)およびφ=90度(deg)のビーム域外において、振幅(amplitude)が1.5kHzから3.5kHzの間で小さくなっていることが分かる。このように、実施例のスピーカアレーシステムでは、特に人の聴覚に対する影響の大きい4kHz以下の低音域における指向特性が向上している。
【0015】
(指向特性)
図7は本発明の実施例のスピーカアレーシステムの焦点位置における指向特性を示すグラフであり、図8は比較例のスピーカアレーシステムの焦点位置における指向特性を示すグラフである。両グラフでは、いずれも主ビームは周波数に比例してピークレベルが高く、かつ、ビーム幅が狭くなる傾向を示すが、これは音響の焦点としての特徴を示す。両グラフの主ビーム以外の領域を比較すると、実施例のスピーカアレーシステムの4kHz以下の低音域では、比較例よりも音の指向特性が向上していることが分かる。
さらに、f=1.5kHz、f=2.5kHz、f=3.5kHzの指向特性を比較すると、図7に示した実施例のスピーカアレーシステムでは音のレベルが−20dBを下まわっているのに対し、図8に示した比較例のスピーカアレーシステムでは音のレベルが−20dBを超えているところがある。すなわち、実施例のスピーカアレーシステムの4kHz以下の低音域では、音響ビームの主ビーム以外の領域のレベル低下が大きくなっているため、音の指向特性が良いことが分かる。
【0016】
以上のように、隣接する前記スピーカ間のスピーカ間隔のうち、末端スピーカとそれに隣接する末端スピーカ間隔がそれ以外のスピーカ間隔よりも大きく、末端スピーカ間隔以外のスピーカ間隔が等しい構成、より具体的には、等間隔配置のユニット数(N+2)のスピーカアレーの両端のそれぞれ1つ内側のユニットを外したユニット数Nのスピーカアレーとそれに接続される構成の実施例のスピーカアレーシステム(図1参照)により、等間隔配置のN個のスピーカアレーよりなる比較例のスピーカアレーシステム(図11参照)よりも音域が広く、主ビーム域外で音のレベルの低下した集束形あるいは超指向性の音響ビームを形成することができる。
上記の結果が得られた理由として、実施例のスピーカアレーシステムは、17個のスピーカを等間隔に配置したものから、2つのスピーカを取り除いた15個のスピーカの構成であるものの、2つのスピーカを取り除く前の次数N=16の性能を保持していることが一因として考えられる。
【0017】
図1に示したように、実施例のスピーカアレーシステムを構成するスピーカアレー11は、N個のスピーカ10が直線状に配列されてなるものである。そして、スピーカ10(1)〜(N)のうち隣接するスピーカ10間の間隔D(1)〜D(N−1)は、末端スピーカ10(1)・10(N)とそれに隣接するスピーカ10(2)・10(N−1)との間隔、すなわち末端スピーカ間隔である間隔D(1)とD(N−1)とが等しく、その他のスピーカの間隔である間隔D(2)〜D(N−2)が等しいものとして構成されている。そして、間隔D(1)・間隔D(N−1)が、間隔D(2)〜D(N−2)よりも大きくなるように配置されている。
【0018】
また、実施例のスピーカアレーシステムを構成するスピーカアレー11は、一旦、N+2個のスピーカ10を等間隔に配置してスピーカアレー11を構成し、図1において二点鎖線を用いて示した両端から2個目のスピーカを取り除いた状態に相当する配置とされている。より具体的には、末端スピーカ間隔である間隔D(1)および間隔D(N−1)が5.2cmであって、他の間隔D(2)〜D(N−2)の2.6cmの2倍の長さとなるように配置されている。
【0019】
以上のように、間隔D(1)および間隔D(N−1)が、他のスピーカ10の間隔D(2)〜D(N−2)よりも大きくなるようにスピーカ10を配置することにより、図5〜8に示したとおり、スピーカアレーシステム100の帯域上端周波数および人の聴覚に大きく影響する4kHz以下の低音域における周波数特性及び指向特性を向上させることができる。
【0020】
以下、実施例のスピーカアレーシステムが、比較例との比較において、帯域上端周波数が高く指向特性の良好なものとなった理由について考察する。
図9は、アレー長Lの等しいスピーカアレーを示しており、(a)は末端スピーカ間隔がその他のスピーカ間隔の2倍となるように配置された7個のスピーカ10により構成されたスピーカアレー13、(b)は全てのスピーカ間隔が等しくなるように配置された7個のスピーカ10により構成されたスピーカアレー12b、(c)は全てのスピーカ間隔が等しくなるように配置された5個のスピーカ10により構成されたスピーカアレー12cを示している。
図9(a)に示すように、スピーカアレー13を構成するスピーカ10(2)〜10(6)のスピーカ間隔Sは、同図(b)に示すスピーカアレー12bを構成するスピーカ10(1)〜10(7)のスピーカ間隔S’よりも狭くなる。指向特性が同じスピーカアレーシステムの場合、スピーカ間隔と帯域上端周波数の間には互いに反比例の関係があることから、これにより、図9(a)のスピーカアレーシステムの帯域上端周波数を高くすることができる。
【0021】
スピーカ10が等間隔に配置された、図9(b)に示すスピーカアレー12bと、同図(c)に示すスピーカアレー12cは、アレー長Lが等しいことから、低音域ではほぼ同じ指向特性を示すことができる。また、図9(a)のスピーカアレー13は、図9(c)のスピーカアレー12cのスピーカ10(2)とスピーカ10(3)、スピーカ10(3)とスピーカ10(4)の中間にそれぞれスピーカ10を配置した構成と一致する。したがって、低音域での指向特性は、スピーカアレー12c、したがってスピーカアレー12bの指向特性に比べて、加わったスピーカ10の分だけ向上したと考えられる。
なお、スピーカアレー13の中心のスピーカから両側に間隔2Sでスピーカ10を配置した場合に、スピーカアレー13の両端にスピーカ10を位置させるには、図9(a)に示したものから、スピーカ10の数を4個ずつ増やす必要がある。したがって、スピーカ10の数は4n−1(nは2以上の整数)であることが好ましいといえる。
【0022】
図5に示した実施例の周波数特性は、2kHz以下の下部低音領域では指向特性が十分に形成されないので、振幅の低下した特性となるが、末端のスピーカ10(1)・10(7)を下部低音域のみ音量を高めた構成とすることにより、スピーカアレー13の上部低音域と高音域の指向性に影響を与えることなく、低音の付与された指向性の高い音とすることができ、特に、この低音にステレオ音源を用いると、より効果的な音にできる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、複数のスピーカを配列したスピーカアレーによって、特定の方向に高い指向特性で音波を放射させることができるスピーカアレーシステムに利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
4 2次元ディジタルフィルタ
10 スピーカ
10(1)、10(N) 末端スピーカ
D 間隔(スピーカ間隔)
D(1)、D(N−1) 間隔(末端スピーカ間隔)
11、13 スピーカアレー
20 1次元ディジタルフィルタ
100 スピーカアレーシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源から入力された音響信号を複数のスピーカからなるスピーカアレーによって再生するスピーカアレーシステムであって、
隣接する前記スピーカ間のスピーカ間隔のうち、末端スピーカとそれに隣接するスピーカ間の末端スピーカ間隔がそれ以外のスピーカ間隔よりも大きく、末端スピーカ間隔以外のスピーカ間隔が等しいことを特徴とするスピーカアレーシステム。
【請求項2】
音源から入力されたディジタル音響信号の指向特性を2次元ディジタルフィルタによって制御するものであって、前記2次元ディジタルフィルタが、仮想音源点Pを中心とする波面形状になるように、位相特性を設定するものであることを特徴とする請求項1に記載のスピーカアレーシステム。
【請求項3】
前記末端スピーカが低音域のみ増音量されているものであることを特徴とする請求項1または2に記載のスピーカアレーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−54670(P2012−54670A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193957(P2010−193957)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業 フィージビリティスタディ 可能性発掘タイプ(シーズ顕在化)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】