説明

スフェロイドの製造方法、およびスフェロイドアレイ

【課題】均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドを、一度に大量に形成することが可能なスフェロイドの製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、胚性幹細胞を播種することと、播種された胚性幹細胞を培養することと、培養された胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させることと、を含むスフェロイドの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフェロイドの製造方法、およびスフェロイドアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の組織細胞に分化する潜在的能力を保持した胚性幹細胞を用いて、人工的に各種組織細胞への分化誘導を行い、再生医療等へ応用することが検討されている。胚性幹細胞をin vitroで、種々の組織細胞へ分化誘導する方法としては、サイトカインや成長因子を作用させる方法、遺伝子を導入する方法等が知られている。
例えば、胚性幹細胞から形成した胚様体に、ウイルスベクターを用いて特定の遺伝子を導入することで、特定の組織細胞への分化を促進させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、胚性幹細胞から胚葉体を形成する方法としては、ハンギングドロップ中で胚性幹細胞を培養する方法や、ペトリディッシュに播種する方法等が一般に知られている。さらに特定の形状を有する培養容器中で胚性幹細胞を培養することで質的に安定した胚葉体を効率的に形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−254872号公報
【特許文献2】特開2006−254622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、形成される胚様体の大きさが不揃いとなりやすいため、分化誘導の効率が十分とは言い難く、また安定的に分化誘導を行うことが困難であった。また、特許文献2に記載の方法では、形成される肺様体の大きさを均一に制御することが困難であり、また一度に形成できる肺様体の数も十分であるとは言い難かった。
【0005】
本発明は、均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドを、一度に大量に形成することが可能なスフェロイドの製造方法を提供することを課題とする。また本発明は均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドが、アレイ状に配置されたスフェロイドアレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、胚性幹細胞を播種することと、播種された胚性幹細胞を培養することと、培養された胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させることと、を含むスフェロイドの製造方法である。
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体は重合度が5〜1000のポリアルキレングリコール基を4以上有することが好ましい。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記スフェロイドの製造方法で製造され、内胚葉系マーカーであるAFPの発現量が、中胚葉系マーカーであるFlK−1及び外胚葉系マーカーであるNCAMの少なくとも一方の発現量よりも大きいスフェロイドである。
【0008】
本発明の第3の態様は、基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて、アレイ状に形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板と、前記疎水性領域に配置された胚性幹細胞由来の複数のスフェロイドと、を含むスフェロイドアレイである。
【0009】
本発明の第4の態様は、前記スフェロイドアレイを用いる薬物スクリーニング方法である。前記薬物スクリーニング方法は、高分子ミセルに内包された薬物を前記スフェロイドに接触させることを含むことが好ましい。
【0010】
本発明の第5の態様は、基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、胚性幹細胞を播種することと、分化誘導因子の存在下に播種された胚性幹細胞を培養することと、培養された胚性幹細胞から分化誘導された細胞を得ることと、を含む胚性幹細胞の分化誘導方法である。また前記分化誘導因子は高分子ミセルに内包された状態で添加されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドを、一度に大量に形成することが可能なスフェロイドの製造方法を提供することができる。また本発明によれば、均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドが、アレイ状に配置されたスフェロイドアレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のスフェロイドの製造方法は、基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、胚性幹細胞を播種することと、播種された胚性幹細胞を培養することと、培養された胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させることと、を含むことを特徴とする。
かかる基板を用いることで、均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドを、一度に大量に形成することができる。
【0013】
本発明における基板は、基材と、後述する特定構造の分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含む感光性組成物を用いて、基材上に形成された複数の親水性領域および疎水性領域とを含む。前記親水性領域は、前記感光性組成物が硬化した架橋体が形成された領域であり、また前記疎水性領域は、前記親水性領域以外の領域であって基材が露出した領域である。
【0014】
本発明における基板は、複数の前記親水性領域と複数の疎水性領域とが区画化されて形成された基板であることが好ましい。また前記親水性領域および疎水性領域の数、大きさおよびその形状には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。尚、本発明における基板およびその作製方法の詳細については後述する。
【0015】
本発明においては、均一な大きさのスフェロイドを形成する観点から、前記複数の疎水性領域が均一な大きさおよび形状を有していることが好ましい。
また、大量の均質なスフェロイドを効率的に形成する観点から、前記疎水性領域を例えば円状に形成した場合の大きさとして、直径が50〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。
【0016】
本発明のスフェロイドの作製方法は、前記基板上に、胚性幹細胞を播種することと、播種された胚性幹細胞を培養することと、培養された胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させることを含む。
前記基板上に胚性幹細胞を播種し、培養することで、前記基板上の疎水性領域に胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成することができる。すなわち、前記基板上の疎水性領域にのみ胚性幹細胞が配置され、親水性領域には胚性幹細胞が接着しないことにより、疎水性領域の数、大きさ、およびその形状に応じた胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成することができる。
【0017】
前記胚性幹細胞は、異なる機能を持つ種々の細胞に分化可能な細胞である。このような胚性幹細胞の由来は、哺乳動物であれば特に制限はなく、霊長類(例えば、ヒト、サルなど)、有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマなど)、小型哺乳類のげっ歯類(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)の種々の動物から、使用目的に応じて適宜選択することができる。
胚性幹細胞の調製方法は、当該技術分野において周知の方法を用いて行うことができる。例えば、胚性幹細胞のみを選択的に生育させることができるような培養条件下で細胞を培養することで得ることができる。
【0018】
胚性幹細胞の培養には、通常使用される培地を使用することができる。培養に用いられる培地としては、一般に動物細胞の培養に用いられる培地であればよく、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等を挙げることができる。
この培地には、細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子やトランスフェリン等の既知血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常5容量%〜10容量%とすることができる。また、適宜、各種ビタミンやストレプトマイシン等の抗生物質(AB)を添加したものであってもよい。さらに培地には、胚性幹細胞の自己複製能を維持しつつ、種々の組織細胞への分化を抑制する因子(例えば、白血病抑制因子(LIF)等)が含まれていてもよい。
【0019】
胚性幹細胞の培養には、通常の培養条件、例えば37℃の温度で5%CO濃度のインキュベーター内での培養が適用される。
また胚性幹細胞由来のスフェロイドの形成においては、通常の培養条件で2時間〜2日程度培養を行うことでスフェロイドを形成することができる。
【0020】
本発明における胚性幹細胞の培養に用いる培地としては、効率的なスフェロイド形成の観点から、LIFを含まない培地を用いることが好ましく、LIFを含まずレチノイン酸を含む培地を用いることがより好ましい。
【0021】
前記基板上に、胚性幹細胞を播種する方法に特に制限はなく通常の方法を適宜用いることができる。また播種する胚性幹細胞の密度については、スフェロイドが形成可能であれば特に制限はなく、基板の大きさ、疎水性領域の数及び大きさ等に応じて適宜選択することができる。例えば、1×10〜1×10cells/mLとすることができ、1×10〜1×10cells/mLであることが好ましい。
【0022】
本発明において胚性幹細胞由来のスフェロイドの形成は、形態観察に基づいて判断することができる。すなわち、播種された胚性幹細胞は、培養期間の経過に伴って、疎水性領域上に集合し、細胞凝集塊(スフェロイド)の形成をする
またスフェロイド形成の他の指標として、培養期間の経過に伴うアルカリホスファターゼ(ALP)活性が低下を用いてもよい。
【0023】
本発明のスフェロイドの製造方法によれば、均一な大きさで且つ大量のスフェロイドを基板上に形成することができる。このようなスフェロイドは、細胞の性質もほぼ均質なものであるため、種々の挙動において同様の傾向を示すことができる。
したがって本発明のスフェロイドの製造方法で形成されたスフェロイドを、例えば、薬物スクリーニングに適用することで、より高感度かつ高精度な薬物スクリーニングが可能となる。また、かかるスフェロイドは、所定の刺激に対応して同程度の分化を誘導することができる。
【0024】
本発明のスフェロイドの製造方法で形成された胚性幹細胞由来のスフェロイドにおいては、内胚葉系マーカーであるAFPの発現量が、中胚葉系マーカーであるFlk−1の発現量および外胚葉系マーカーであるNCAMの発現量の少なくとも一方よりも大きいことを特徴とするが、さらに未分化性マーカーであるOct4の発現量が低下していることが好ましい。
これにより本発明のスフェロイドを、内胚葉系の組織細胞への分化誘導に好適に適用することができる。
【0025】
また前記AFPの発現量は、Flk−1の発現量およびNCAMの発現量の少なくとも一方の50倍以上であることが好ましく、200倍以上であることがより好ましい。
本発明においてAFP等のマーカーの発現量は、RT−PCRを用いて通常の方法で測定した発現量を意味する。
【0026】
本発明のスフェロイドアレイは、基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて、アレイ状に形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板と、前記疎水性領域に配置された胚性幹細胞由来の複数のスフェロイドと、を含むことを特徴とする。
本発明における基板および胚性幹細胞については、前記スフェロイドの製造方法における基板および胚性幹細胞と同様である。
【0027】
本発明のスフェロイドアレイにおけるスフェロイドの配置及び個数は、基板上に形成された疎水性領域の配置及び個数に応じたものである。ここで疎水性領域の配置は基板上にアレイ状に配置されていれば特に制限はなく、疎水性領域の個数と共に、スフェロイドアレイの目的等に応じて適宜変更することができる。
【0028】
本発明のスフェロイドアレイにおいては、アレイ状に配置された各スフェロイドを、その大きさが均一になるように、また基板上に大量にかつ効率よく形成することができる。かかるスフェロイドアレイにおいては、各スフェロイドの薬物感受性等の性質を均質に揃えることができる。これを例えば、薬物スクリーニングに用いる場合には、高精度かつ良好な再現性の薬物スクリーニングが実現できる。また例えば、組織細胞への分化誘導に用いる場合には、大量の組織細胞凝集塊を良好な再現性で得ることができる。
【0029】
本発明のスフェロイドアレイにおいては、基材上に形成された複数の親水性領域および疎水性領域が区画化されて形成され、親水性領域に囲まれた疎水性領域がアレイ状に配置されている。かかる形状に疎水性領域を形成する方法としては、後述の本発明における基板の作製方法を好適に挙げることができる。
本発明において前記疎水性領域は、形成されるスフェロイドの均一性の観点から、均一な大きさおよび形状であることが好ましい。
本発明のスフェロイドアレイは、例えば、前記スフェロイドの製造方法を用いて製造することができる。
【0030】
本発明の薬物スクリーニング方法は、前記スフェロイドアレイを用いることを特徴とする。これにより高精度かつ良好な再現性の薬物スクリーニングが実現できる。
また本発明の薬物スクリーニング方法は、スフェロイドアレイを構成するスフェロイドに、高分子ミセルに内包された薬物を接触させることを含むことが好ましい。これにより、より効率的にスフェロイドと薬物を接触させることができ、より高感度に薬物スクリーニングを行うことができる。
【0031】
本発明の薬物スクリーニングにおけるスフェロイドアレイは、胚性幹細胞由来のスフェロイドがアレイ状に配置されて構成される。スフェロイド(細胞凝集塊)を用いてスクリーニングを行うことにより、薬物に対する細胞応答をより明確かつ高感度に判定することができる。例えば、薬物に対する細胞応答を発色、発光、蛍光等で検出する場合には、凝集した複数の細胞からの応答として検出できるため、明確かつ高感度に判定することができる。
またスフェロイドがアレイ状に配置されていることにより、薬物に対する細胞応答を再現性よくかつ高感度に判定することができ、また複数の薬物に対する細胞応答を同時に判定することができる。
【0032】
本発明においてスクリーニング対象となる薬物には特に制限はなく、胚性幹細胞由来のスフェロイドに何らかの応答変化を生じさせる薬物であればよい。具体的には、分化誘導因子、成長因子等を挙げることができる。本発明においては、スクリーニング感度の観点から、分化誘導因子であることが好ましい。
また前記薬物は、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。前記高分子化合物としては、例えば、蛋白質、ポリヌクレオチド等を挙げることができる。
【0033】
本発明の薬物スクリーニング方法において、薬物とスフェロイドとを接触させる方法には特に制限はなく、通常用いられる方法を適用することができる。
例えばスクリーニング対象となる薬物がポリヌクレオチドの場合、薬物とスフェロイドを接触させる方法としては、ウイルスベクターを用いる方法(例えば、特開2006−254872号公報参照)が一般的に用いられている。本発明においてはポリヌクレオチドが高分子ミセルに内包された状態でスフェロイドと接触することが好ましい。これにより、ウイルスベクターに由来する細胞毒性の発現を回避することができ、薬物とスフェロイドの接触をより効率的に行うことができる。
【0034】
本発明において用いられることがある高分子ミセルは、親水性構成単位と疎水性構成単位とを含むブロックコポリマーから構成することができる。前記親水性構成単位としては非イオン性の親水性構成単位であることが好ましく、ポリアルキレングリコールであることがより好ましい。また疎水性構成単位は、内包する薬物に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリアスパラギン酸などの金属錯体と相互作用しうる構成単位、カチオン性蛋白質と相互作用しうるアニオン性の構成単位、ポリヌクレオチドと相互作用しうるカチオン性の構成単位等を挙げることができる。
【0035】
本発明においてスクリーニング対象の薬物が、例えばポリヌクレオチドの場合、高分子ミセルを構成するブロックコポリマーは疎水性構成単位としてカチオン性の構成単位を含むことが好ましい。かかるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、特開2004−352972号公報に記載のポリエチレングリコール−ポリカチオンブロック共重合体を好適に挙げることができる。
【0036】
本発明において前記胚性幹細胞は、スクリーニング目的に応じた応答遺伝子を含むことが好ましい。これにより、より高精度かつ高感度に薬物スクリーニングを行うことができる。前記応答遺伝子はスクリーニング目的に応じて適宜選択される。例えば、特定の組織細胞への分化誘導因子のスクリーニングに用いる場合、その組織細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターを応答遺伝子として好適に用いることができる。
具体的には、例えば、骨芽様細胞への分化誘導因子のスクリーニングに適用する場合、I型またはII型のコラーゲンプロモーターを応答遺伝子として用いることができる。
【0037】
本発明において前記応答遺伝子は、それによって発現制御されるレポーター遺伝子を、その下流に連結していることが好ましい。レポーター遺伝子としては通常使用されるものを特に制限なく用いることができ、例えば、緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードする遺伝子を好適に用いることができる。
【0038】
本発明の薬物スクリーニング方法を、骨芽様細胞への分化誘導因子のスクリーニングに適用する場合、前記スフェロイドを形成する胚性幹細胞はI型またはII型のコラーゲンプロモーターとこれに発現制御されるレポーター遺伝子とを含むことが好ましい。
【0039】
本発明の胚性幹細胞の分化誘導方法は、基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、胚性幹細胞を播種することと、分化誘導因子の存在下に播種された胚性幹細胞を培養することと、培養された胚性幹細胞から分化誘導された細胞を得ることと、を含むことを特徴とする。
本発明における基板および胚性幹細胞については、前記スフェロイドの製造方法における基板および胚性幹細胞と同様である。
【0040】
本発明においては前記基板上で胚性幹細胞の分化誘導を行うことで、胚性幹細胞から分化誘導された細胞が基板の疎水性領域においてスフェロイド(細胞凝集塊)を形成する。そのため、分化誘導された細胞を高い均一性で効率よく得ることができる。
【0041】
本発明における分化誘導としては、胚性幹細胞から、胚性幹細胞とは異なる性質を有する細胞への分化誘導であれば特に制限はなく、例えば、胚様体を構成する細胞、体性幹細胞、組織細胞等への分化誘導を挙げることができる。
本発明における分化誘導因子としては、胚性幹細胞を分化誘導可能な化合物であれば、特に制限なく、目的に応じて適宜選択して用いることができる。また前記分化誘導因子は低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。ここで高分子化合物には蛋白質やポリヌクレオチド等が含まれる。
【0042】
本発明の分化誘導方法においては、基板上に胚性幹細胞を播種した後に、基板の疎水性領域に胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させ、その後、分化誘導因子の存在下に胚性幹細胞由来のスフェロイド培養することが好ましい。胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させることにより、より効率的に分化誘導を行うことができる。
基板の疎水性領域に胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させる方法としては、前記スフェロイドの製造方法を好適に適用することができる。
【0043】
本発明において分化誘導因子の存在下に播種された胚性幹細胞を培養する方法としては、分化誘導因子を添加した培地中で胚性幹細胞を培養する方法を挙げることができる。前記分化誘導因子の添加方法としては特に制限なく、通常用いられる方法を用いることができる。
本発明においては、分化誘導効率の観点から、高分子ミセルに内包された状態の分化誘導因子を添加することが好ましい。尚、高分子ミセルについては前記薬物スクリーニング方法で説明した高分子ミセルを本発明においても好適に適用することができる。
【0044】
本発明の分化誘導方法においては、用いる分化誘導因子に応じて分化誘導された細胞を得ることができる。
本発明の分化誘導方法によって、例えば骨芽様細胞を得る場合、用いることができる分化誘導因子としては、TH(例えば、Biochem. Biophys. Res. Commun., 357(4),854-860 (2007)参照)ような低分子化合物や、caALK6、Runx2、caSmo、caLEF−1、IRS−1等の遺伝子(ポリヌクレオチド)を挙げることができる。中でも骨芽様細胞への分化誘導効率の観点から、caALK6およびRunx2の少なくとも一方であることが好ましい。
また例えば、軟骨様細胞への分化誘導因子として、Sox5、Sox6、Sox9等の遺伝子(ポリヌクレオチド)を挙げることができる。
尚、前記遺伝子の詳細については、例えば、FASEB J., 21, 1777-1787 (2007)、特開2004−267052号公報等に記載されている。
【0045】
本発明の分化誘導方法によって得られる分化誘導された細胞は、高い均一性を有する細胞凝集塊であることから、種々の用途、例えば再生医療等に好適に用いることができる。
【0046】
以下、本発明における基板について詳細に説明する。
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と、前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有することを特徴とする。
かかる構成の分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、親水性の架橋体を形成することができる。かかる親水性の架橋体は、細胞非接着性の経時安定性が良好であり、例えば、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いて基材上に親水性領域と疎水性領域とが高精度に形成された基板は、該基板上で細胞を培養した場合に、疎水性領域にのみ特異的に細胞が接着するため、高精度に区画化された細胞集合体を形成することができる。また、前記親水性領域は細胞非接着性の経時安定性が良好であり、長期に渡って区画化された細胞集合体を維持することができる。更に前記細胞集合体は、例えば、単層の細胞集合体とすることもできるし、細胞が3次元的凝集状態を形成した細胞凝集塊(スフェロイド)とすることもできる。
【0047】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体において、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の含有数は3以上である。前記ポリアルキレングリコール基の含有数が2以下では、これによって形成された親水性領域の細胞非接着性の経時安定性が不十分であり、区画化された細胞集合体を長期間維持することができない。
また前記ポリアルキレングリコール基の含有数は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の点から、4以上であることが好ましく、4以上64以下であることがより好ましく、4以上16以下であることが更に好ましい。
【0048】
本発明における前記ポリアルキレングリコール基は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。
また前記重合性置換基としては重合性の官能基を有する置換基であってポリアルキレングリコールの末端に結合可能なものであれば特に制限はない。重合性置換基のポリアルキレングリコールの末端への結合態様としては、ポリアルキレングリコールに由来する酸素原子を介した結合態様であっても、ポリアルキレングリコールの末端水酸基が他の元素に置換された結合態様であってもよい。
【0049】
前記重合性置換基は、重合性の官能基そのものであっても、重合性の官能基と連結基とを含んで構成された置換基であってもよい。
本発明における重合性の官能基としては、通常用いられる重合性官能基を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレン性不飽和結合を有する基、アジド基等を挙げることができる。本発明においては、親水性領域のパターン形成性の観点から、エチレン性不飽和結合を有する基及びアジド基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アジド基であることがより好ましい。
【0050】
また前記重合性置換基における連結基としては重合性の官能基とポリアルキレングリコール基とを連結可能な基であれば特に制限はなく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ジスルフィド及び水素原子から選ばれる少なくとも1種を含んで構成することができる。
具体的には例えば、カルボニル基、アリーレン基、アルキレンカルボニル基、カルボニルアリーレン基、カルバモイルアリーレン基等を挙げることができる。
更に連結基の価数としては少なくとも2価であればよく、3価以上の連結基であってポリアルキレングリコールと2以上の重合性官能基とを連結する連結基であってもよい。
【0051】
末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を構成するポリアルキレングリコール基は、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体に親水性を付与可能なポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。例えば、炭素数2〜4のアルキレングリコール構造単位(例えば、エチレンオキシ、n−プロピレンオキシ、イソプロピレンオキシ、ブチレンオキシ、イソブチレンオキシ等)を含むポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができる。
【0052】
前記ポリアルキレングリコール基におけるアルキレングリコール構造単位は、1種のアルキレングリコール構造単位からなるものであっても、2種以上アルキレングリコール構造単位の組合せからなるものであってもよい。ポリアルキレングリコール基が2種以上のアルキレングリコール構造単位の組合せからなる場合、ブロックポリマーであってもランダムポリマーであってもよい。
また、ポリアルキレングリコール基の重合度としては、親水性の観点から5以上であればよく、5〜1000の重合度を有するポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができ、より好ましくは10〜500である。
【0053】
本発明における、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基は、少なくとも3つの前記ポリアルキレングリコール基における重合性置換基が結合していない方の末端と結合し、前記ポリアルキレングリコール基を互いに連結可能なものであれば特に制限はない。結合様式としては共有結合、配位結合、イオン結合のいずれであってもよい。
具体的には例えば、糖類に由来する連結基、多価アルコールに由来する連結基、多価カルボン酸に由来する連結基、配位結合を介して前記ポリアルキレングリコール基を含む基を結合可能な金属原子等を挙げることができる。
【0054】
前記糖類としては、例えば、グリセルアルデヒド、エリトロース、リボース、グルコース等を挙げることができる。また、多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール等を挙げることができる。更に、多価カルボン酸としては、プロパントリカルボン酸、クエン酸、ベンゼントリカルボン酸等を挙げることができる。また、前記金属原子としては、金、銀、白金、ニッケル、銅等を挙げることができる。
【0055】
本発明においては、親水性と経時安定性の観点から、多価アルコールに由来する連結基であることが好ましく、グリセリンに由来する連結基又はペンタエリスリトールに由来する連結基がより好ましく、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、及びポリペンタエリスリトールから選ばれる化合物に由来する連結基であることが特に好ましい。
【0056】
本発明における末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の観点から、下記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることが好ましい。
【0057】
【化1】

【0058】
一般式(1)中、mは2〜4の整数を表すが、2又は3であることが好ましく、2であることがより好ましい。またnは5〜1000の整数を表すが、10〜500であることが好ましく、10〜300であることがより好ましい。
【0059】
一般式(1)中、Xは重合性置換基を表す。本発明において前記重合性置換基は、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋硬化性の観点から、下記一般式(3)及び一般式(4)の少なくとも1種で表される重合性置換基であることが好ましい。
【0060】
【化2】

【0061】
一般式(3)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としてはエチレン性不飽和基とポリアルキレングリコール基とを連結可能であれば特に制限はない。例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、イミノ基、及び水素原子の少なくとも1種を含んで構成される2価の連結基を挙げることができ、カルボニル基、エステル基、アミド基、フェニレン基、炭素数2〜4のアルキレン基、から選ばれる2価の連結基又はこれらの組合せからなる2価の連結基であることが好ましい。
本発明においてLは、単結合、又は、カルボニル基、カルボニルフェニレン基、カルバモイルフェニレン基から選ばれる2価の連結基であることがより好ましい。
【0062】
また、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。炭素数1〜3のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。本発明においては、分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋反応性の観点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0063】
一般式(4)におけるLは2価の連結基を表すが、その定義及びその好ましい範囲は前記Lにおける2価の連結基と同様である。
【0064】
また本発明においては、前記重合性置換基の少なくとも1つは下記一般式(5)で表される置換基であることが好ましい。これにより、重合性置換基の反応開始がより長波長の光照射によって可能となる。
【0065】
【化3】

【0066】
一般式(5)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。Lで表される2価の連結基は、前記Lにおける2価の連結基と同様である。
また、iは1又は2を表す。
【0067】
一般式(5)中、Rは置換基を表すが、一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を変化させることができる置換基であれば特に制限はない。中でも一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を長波長側にシフト可能な置換基であることが好ましい。具体的には例えば、ニトロ基、水酸基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロソ基等を好適に挙げることができる。
iが2の場合、2つのRは同一でも異なっていてもよい。
【0068】
また、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、親水性と架橋反応性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0069】
【化4】

【0070】
一般式(2)中、Lは単結合又はメチレン基を表し、pは1又は2を表す。pが1のときLは単結合であることが好ましく、pが2のときLはメチレン基であることが好ましい。
qは1〜70の整数を表す。本発明においては、親水性と架橋反応性の観点から、pが1のとき、qは1〜64であることが好ましく、2〜10であることがより好ましい。またpが2のとき、qは1〜32であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
【0071】
一般式(2)中、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基又は末端に水酸基を有するポリアルキレングリコール基を表す。中でも架橋反応性の観点から、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であることが好ましく、前記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることがより好ましい。
【0072】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、経時安定性とスフェロイド形成性の観点から、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を4以上16以下有し、前記ポリアルキレングリコール基が前記一般式(1)で表されるものであって、前記重合性置換基が前記一般式(3)、一般式(4)及び一般式(5)の少なくとも1種で表されるものであることが好ましい。
【0073】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、下記具体例中のポリアルキレングリコールの重合度(n)は分岐ポリアルキレングリコール誘導体の重量平均分子量から算出される平均重合度を意味する。また、分岐ポリアルキレングリコール誘導体の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0074】
【化5】

【0075】
【化6】

【0076】
【化7】

【0077】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、例えば、3以上のポリエチレングリコール基を有する化合物(以下、「マルチアームPEG」ということがある。例えば、日油(株)製、SUNBRIGHT(登録商標)PTEシリーズ、HGEOシリーズ等)の末端水酸基に対して、重合性置換基を、通常用いられる方法を用いてエステル結合、エーテル結合等で結合することによって合成することができる。例えば、エステル結合の形成は酸塩化物法、活性エステル法等で行うことができる。
【0078】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、例えば、後述の感光性組成物の成分とすることができる。また、架橋反応により親水性の架橋体を形成することができる。
【0079】
本発明における感光性組成物は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体の少なくとも1種を含有することを特徴とする。かかる感光性組成物を用いることで、例えば、基材上に高精度に区画化された親水性領域と疎水性領域とを形成することができる。
前記感光性組成物においては、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を1種単独で含有することもできるし、2種以上を含有することもできる。
また前記感光性組成物は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体に加えて、光重合開始剤、溶剤、細胞培養液、界面活性剤、緩衝液、消泡剤、防腐剤等の各種の添加剤等を含んで構成することができる。
【0080】
前記光重合開始剤としては、光照射によって重合反応を開始可能なものであれば特に制限はないが、生細胞に対する障害性が低いものであることが好ましい。具体的には、例えば、IRGACURE 2959、IRGACURE 184(いずれもチバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)等を挙げることができ、細胞毒性と水溶性の点からIRGACURE 2959が好ましい。
【0081】
前記溶剤としては、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を溶解可能であれば特に制限はない。ここでいう溶解可能とは前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を質量基準で0.1%以上溶解できることをいう。
前記溶剤として具体的には、ベンゼン、トルエン、THF、DMF、クロロホルム等の有機溶媒、及び水を好ましく用いることができる。また、溶剤は1種単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
前記感光性組成物における前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体の含有率としては、例えば0.1〜50質量%とすることができ、0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0083】
本発明における架橋体は、前記感光性組成物を架橋硬化させて形成されたものである。前記架橋硬化は光照射による重合反応に起因するものであれば特に制限はなく、感光性組成物に応じて適宜架橋硬化条件を選択することができる。
【0084】
本発明における架橋体は、例えば、基材上に形成された前記感光性組成物からなる観光性組成物層を硬化させたものであっても、媒体中で分散状態とした前記感光性組成物を硬化させたものであってもよい。基材上に形成された前記感光性組成物層を硬化させることで、基材上に架橋体からなる親水性領域を形成することができる。また、媒体中で分散状態とした前記感光性組成物を硬化させることで、親水性表面を有する粒子状の架橋体を形成することができる。
【0085】
本発明における基板は、基材と、前記基材上に配置された前記架橋体とを含むことを特徴とする。本発明における基材としては、通常用いられる基材を特に制限なく用いることができる。基材の材質としては、例えば、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコーン、ダイヤモンド、金属、及びセラミックス等を挙げることができる。本発明においては、基材と架橋体との接着性の観点から、ガラス又は熱可塑性樹脂であることが好ましく、ガラスであることがより好ましい。
【0086】
また本発明における基材は、アミノ基を有するシランカップリング剤、エチレン性不飽和基を有するシランカップリング剤、及びポリリジンから選ばれる少なくとも1種で表面処理された基材であることが好ましい。これにより、基材とその上に形成された架橋体との結合安定性を向上させることができる。
また、前記基材は、細胞接着性タンパク質の少なくとも1種で表面処理された基材であることもまた好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤、エチレン性不飽和基を有するシランカップリング剤、及びポリリジンから選ばれる少なくとも1種で表面処理された基材を、細胞接着性タンパク質の少なくとも1種で更に表面処理した基材であることがより好ましい。
表面処理された基材を用いて、基板を構成することにより、例えば、基板上で細胞を培養する場合に、より効率的に細胞集合体を形成することができる。
ここで、細胞接着性タンパク質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テイネシン及びエラスチン等を挙げることができ、中でも、細胞集合体の形成性の観点から、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチンが好ましく、コラーゲン、ゼラチンがより好ましい。
【0087】
本発明における基板を作製する方法は、例えば、基材上に前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含む感光性組成物を付与して感光性組成物層を形成する工程と、前記感光性組成物層を、露光処理する硬化工程とを含むことができる。これにより、基材上に、前記架橋体が形成された基板を作製することができる。
前記基板を作製する方法は、必要に応じて、前記硬化工程後に加熱工程、洗浄工程、乾燥工程、滅菌工程等を更に含むことができる。
【0088】
本発明において、基材上に感光性組成物層を形成する工程には、特に制限なく通常の薄膜形成方法を適用することができ、例えば、塗布法、ディップコート法、スピンコート法等を好適に適用することができる。
基材上に形成された感光性組成物層の層厚としては、特に制限はなく基板の使用目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5nm〜1000μmとすることができる。特に、本発明の基板を後述の細胞培養基板として使用する場合には、10nm〜1000nmとすることが好ましく、10nm〜500nmであることがより好ましい。
【0089】
前記基材上に感光性組成物層を形成する工程は、必要に応じて、感光性組成物中の溶剤を除去する工程を含むことができる。前記溶剤を除去する工程としては、前記溶剤に応じて適宜その条件を選択することができ、常温乾燥であっても、加熱乾燥であってもよい。例えば、30〜150℃で1分〜10時間とすることができ、好ましくは35〜120℃で3分〜1時間である。
【0090】
前記硬化工程における露光処理は、前記感光性組成物層を全面露光する工程であっても、所望のパターン様に部分露光する工程であってもよい。本発明においては、所望のパターン様に部分露光する工程であることが好ましく、前記部分露光する工程後に更に現像工程を含むことがより好ましい。これにより、前記架橋体からなる親水性領域と架橋体が形成されていない疎水性領域とが、パターン様に基材上に形成された基板を作製することができる。
【0091】
前記所望のパターン様に部分露光する工程は、所望のパターン様に光透過性を有するマスク(フォトマスク)を介して、部分露光する工程であることが好ましい。また、前記マスクを感光性組成物層に密着させて部分露光を行うことにより、より高精度でパターン様に露光することができる。
【0092】
露光に用いる光源としては、前記感光性組成物層を硬化可能な光源であれば特に制限はない。光源として例えば、X線、電子線、エキシマレーザー、キセノンランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプ等を挙げることができる。中でも低圧又は高圧水銀ランプを好適に用いることができ、10〜2000Wの高圧水銀ランプであることが好ましい。
また露光波長及び露光量についても特に制限はなく、前記感光性組成物に応じて適宜選択することができる。露光波長としては、例えば200〜400nmとすることができ、280〜400nmであることが好ましい。露光量としては、例えば、0.1〜1000mJ/cmとすることができ、1〜200mJ/cmであることが好ましく、10〜20mJ/cmであることがより好ましい。
【0093】
前記現像工程は、前記感光性組成物層における未露光領域を基材上から除去できる方法であれば特に制限はなく、例えば、溶剤を用いた洗浄、及び溶剤への浸漬等を挙げることができ、本発明においては、溶剤として水を用いる洗浄及び水への浸漬であることが好ましい。
【0094】
本発明における基板は、例えば、架橋体からなる親水性領域と、基材が露出した疎水性領域とが区画化(パターニング)されて基材上に形成された基板として作製することにより、細胞培養基板として好適に用いることができる。すなわち、前記疎水性領域にのみ細胞が配置され、前記親水性領域には細胞が接着しないことにより、所望のパターン様に細胞が配置可能な細胞培養基板とすることができる。
【0095】
本発明における基板を胚性幹細胞の培養用基板として用いる方法としては、通常の胚性幹細胞の培養方法を制限なく適用することができる。例えば、本発明の基板上に細胞培養培地を配置し、前記細胞培養培地へ所望の胚性幹細胞を播種した後、所望の胚性幹細胞に応じて選択される培養条件を適用することで、基板上の疎水性領域に所望の胚性幹細胞を選択的に配置することができる。
【0096】
本発明における親水性領域及び疎水性領域の形状には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、疎水性領域を円状、三角形をはじめとする多角形状、楕円状、ストライプ状等に形成することができる。また親水性領域及び疎水性領域の大きさについても特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0097】
本発明における基板を胚性幹細胞の培養基板として使用する場合、疎水性領域を円状に形成した場合の大きさとしては、直径として5〜1000μmとすることが好ましく、50〜500μmとすることがより好ましい。また、隣接する疎水性領域を隔てる親水性領域の幅としては、50〜500μmであることが好ましく、100〜200μmであることがより好ましい。更に前記親水性領域における層の厚みとしては、10nm〜1000nmであることが好ましく10nm〜500nmであることがより好ましい。
本発明における親水性領域及び疎水性領域の形状及び大きさは、上述の硬化工程における露光処理を、マスクを介した露光処理とすることで、容易にかつ高い精度で制御することができる。
【0098】
本発明における基板は、特に胚性幹細胞由来のスフェロイド形成用の細胞培養用基板として好適に用いることができる。本発明における基板は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体からなる親水性領域を有するため、高精度にパターニングされた疎水性領域を形成することができる。また、前記親水性領域は細胞非接着性の経時安定性が極めて良好であり、長期間にわたって良好な機能性を示すスフェロイドを維持することが可能となる。すなわち、スフェロイドを形成する各実質細胞に特異的な機能が維持されうる。例えば、肝細胞にあっては高レベルの肝細胞機能(例えば、高レベルのアルブミン産生能、薬物代謝活性)、膵β細胞にあってはインスリン分泌機能、心筋細胞にあっては拍動運動機能等が長期間にわたって維持される。
このようなスフェロイドが形成された基板は、例えば、各種細胞に影響を及ぼし得る環境又は物質のスクリーニングに用いることができる。各種細胞に対する影響は、スフェロイドの形態の変化や産生物(例えば、肝細胞におけるアルブミン、モデル薬物の代謝生成物等)の産生能の変化をモニターすることで評価することができる。
【0099】
本発明における基板においては、前記親水性領域を、分岐ポリアルキレングリコール誘導体として、末端に重合性置換基を有する重合度が5〜1000のポリアルキレングリコール基を4以上有する化合物を用いて形成することで、形成されたスフェロイドの経時安定性が顕著に向上する。
【0100】
本発明における基板をスフェロイド形成用基板として使用する場合、疎水性領域を例えば、円状に形成した場合の大きさとしては、直径として5〜1000μmとすることができる。好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは100〜300μmである。また、隣接する疎水性領域を隔てる親水性領域の幅としては、50〜500μmであることが好ましく、100〜200μmであることがより好ましい。また親水性領域における層の厚みとしては10nm〜1000nmであることが好ましく10nm〜500nmがより好ましい。
親水性領域と疎水性領域とを前記大きさで構成することにより、機能性の高いスフェロイドをより効率的に作成することができ、更により長期に渡って維持することが可能となる。
【0101】
本発明における基板をスフェロイド形成用基板として用いる場合、必要に応じて前記疎水性領域に予めフィーダー細胞を配置することができる。すなわち本発明においては、本発明の基板上の疎水性領域にフィーダー細胞層を形成し、形成されたフィーダー細胞層上で、胚性幹細胞を培養することができる。
予めフィーダー細胞層を形成することで、胚性幹細胞由来のスフェロイド形成がより効率的に進行し、スフェロイドの安定性が向上する。前記フィーダー細胞としては、例えば、COS−1細胞、血管内皮細胞(例えば、大日本製薬製「ヒト臍帯静脈血管内皮細胞」)、繊維芽細胞等を挙げることができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、特に断りのない限り「%」は質量基準であり、平均分子量は重量平均分子量である。
【0103】
まず、本発明に用いられる分岐ポリアルキレングリコール誘導体、および該ポリアルキレングリコールを含む感光性組成物を用いて作製された基板について具体的に説明する。
(参考例1)
〜分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)の合成〜
4−アジド−安息香酸12g(93.6mmol)を40mLの塩化チオニルに溶解し、1.5時間、加熱還流した。反応混合物を減圧で濃縮、少量のヘキサンを加えて再度減圧で濃縮した後、真空下で乾燥し、白色固体として目的物の4−アジド−安息香酸クロリド9.3g(51.2mmol、収率70%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.11-8.15 (2H, m), 7.11-7.16 (2H, m).
【0104】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、4−ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた4−アジド−安息香酸クロリド363mg(2.0mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有するペンタエリスリトール誘導体)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0105】
マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりに下記表1に示したマルチアームPEGを用いた以外は、参考例1と同様にして分岐ポリアルキレングリコール誘導体を合成した。収率、性状等を表1に示した。
【0106】
【表1】

【0107】
(参考例2)
5−アミノ−サリチル酸15.3g(0.1mol)を蒸留水80mLと濃塩酸20mLの混合溶液に懸濁させ、室温で30分攪拌した。混合溶液を氷浴中で冷却した後、亜硝酸ナトリウム6.9g(0.1mol)の水溶液10mLを溶液の反応液の液温が5℃を超えないような速度で滴下し、そのまま1時間攪拌した。続いて、アジ化ナトリウム7.15 g(0.11mol)の水溶液30mLを反応液の液温が10℃を超えない速度で滴下した。氷浴を外して室温に戻しつつ、気泡が発生しなくなるまで激しく攪拌した。生成した沈殿を濾取し、さらに沈殿を蒸留水で洗浄した。得られた固体は、暗所で風乾した後、減圧下で完全に乾燥し、5−アジド−サリチル酸を白色固体として12.0g(67.0mmol、収率=67%)得た。
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 11.14(1H, bs), 7.41 (1H, d, J = 3.0 Hz), 6.88 (1H, dd, J = 8.5, 3.0 Hz), 6.68 (1H, d, J = 8.4 Hz).
【0108】
得られた5−アジド−サリチル酸5g(27.9mmol)を塩化チオニル50mLに懸濁し、70℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷し、過剰の塩化チオニルを減圧で除き、5−アジド−サリチル酸クロリドの赤色固体を定量的に得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 7.39 (1H, d, J = 2.9 Hz), 7.26 (1H, dd, J = 8.8, 2.9 Hz), 7.00 (1H, d, J = 8.8 Hz).
【0109】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた5−アジド−サリチル酸クロリド358mg(2mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有する化合物)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PB20K)1.77g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0110】
(参考例3)
参考例2において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりにHGEO−20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は実施例4と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PB20K)1.72g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0111】
(参考例4)
5−アミノ−2−ニトロ安息香酸18.1g(0.1mol)を蒸留水80mLと濃塩酸20mLの混合溶液に懸濁させ、室温で30分攪拌した。混合溶液を氷浴中で冷却した後、亜硝酸ナトリウム6.9g(0.1mol)の水溶液10mLを溶液の反応液の液温が5℃を超えないような速度で滴下し、そのまま1時間攪拌した。続いて、アジ化ナトリウム7.15 g(0.11mol)の水溶液30mLを反応液の液温が10℃を超えない速度で滴下した。氷浴を外して室温に戻しつつ、気泡が発生しなくなるまで激しく攪拌した。生成した沈殿を濾取し、さらに沈殿を蒸留水で洗浄した。得られた固体は、暗所で風乾した後、減圧下で完全に乾燥し、5−アジド−2−ニトロ安息香酸を白色固体として19.2g(92.4mmol、収率=92%)を得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 13.99(1H, bs), 8.09-8.06 (1H, m), 7.45-7.42 (2H, m).
【0112】
得られた5−アジド−2−ニトロ安息香酸1.0g(4.8mmol)を塩化チオニル10mLに懸濁し、70℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷し、過剰の塩化チオニルを減圧で除き、5−アジド−サリチル酸クロリドの赤色固体を定量的に得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 8.10-8.07 (1H, m), 7.46-7.42 (2H, m).
【0113】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた5−アジド−2−ニトロ安息香酸クロリド417mg(2mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有する化合物)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)1.81(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0114】
(参考例5)
参考例4において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりにHGEO−20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は参考例4と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PC20K)1.71g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0115】
(参考例6)
アクリロイルクロリド181mg(2.0mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のベンゼン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE−20000、4つのポリエチレングリコール基を有するペンタエリスリトール誘導体)2g(0.1mmol)のベンゼン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PD20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0116】
(参考例7)
参考例6において、マルチアームPEGとしてPTE−20000の代わりに、HGEO−20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は、参考例6と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0117】
(参考例8)
〜基板の作製〜
以下の作業は、すべてイエロールーム内で行った。
参考例1で作製した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(マルチアームPEG−アジド:4PA20K)をトルエンに溶解し、感光性組成物Aとして4PA20Kのトルエン溶液(1%)を調製した。基材としてポリ−L−リジンコートスライドガラス(松浪硝子工業(株)製。白切放NO.1スライドガラス丸型21mmΦ。以下「PLLコートガラス」と略す)を使用し、PLLコートガラス上に、感光性組成物Aを110μL滴下後、スピンコート法(500rpm×5秒+3000rpm×20秒+6000rpm×1秒)により成膜し、常温で放置して乾燥させた。これに、石英ガラス製フォトマスク(直径200μmの円形パターンが多数配置されたもの)を密着させ、高圧水銀灯(200W)を用いて40秒間露光を行った後、脱イオン水で洗浄(現像工程:流水15秒間+浸漬20分間)した。常温で乾燥し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0118】
(参考例9)
参考例8において、基材としてPLLコートガラスに代えて、アミノプロピルシランコートガラス(松浪硝子工業(株)製。APSコートNO.1カバーガラス丸型21mmΦ。以下「APSコートガラス」と略す)を用いた以外は、参考例8と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0119】
(参考例10)
参考例8において、基材としてPLLコートガラスに代えて、MASコートガラス(松浪硝子工業(株)製)を用いた以外は、参考例8と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0120】
(参考例11)
参考例8において、基材としてPLLコートガラスに代えて、PLLコート上にコラーゲンをさらにコーティングした「コラーゲンコートガラス」を用いた以外は、参考例8と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
尚、コラーゲンコートガラスは、PLLコートガラス上にブタI型コラーゲン(日本ハム(株)製)の0.1%水溶液を400μL滴下し、スピンコート法(350rpm×5秒+500rpm×5秒+1000rpm×10秒+1500rpm×10秒+6000rpm×1秒)にて成膜した後、室温で乾燥する工程を2回繰り返して作製した。
【0121】
(参考例12)
参考例8において、基材としてPLLコートガラスに代えて、PLLコート上にゼラチンをさらにコーティングした「ゼラチンコートガラス」を用いた以外は、参考例8と同様にして基板を作製し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
尚、ゼラチンコートガラスは、PLLコートガラスを用い、ゼラチン(新田ゼラチン社製)の0.1%溶液を400μL滴下し、スピンコート法(350rpm×5秒+500rpm×5秒+1000rpm×10秒+1500rpm×10秒+6000rpm×1秒)にて成膜した後、室温で乾燥して作製した。
【0122】
(参考例13)
参考例11において、コラーゲンコートガラスの作製方法を、PLLコートガラスをブタI型コラーゲン(日本ハム(株)製)の0.02%水溶液に3時間浸漬後、脱イオン水の流水で洗浄、乾燥させる方法に変更した以外は、参考例11と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0123】
(参考例14)
参考例8において、感光性組成物Aに代えて、マルチアームPEG−アジド(4PA20K)の濃度を0.5%とした感光性組成物Bを用いた以外は、参考例8と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0124】
(参考例15)
参考例8において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体として4PA20Kに代えて、参考例2〜5で合成した各種の分岐ポリアルキレングリコール誘導体をそれぞれ用いた以外は参考例8と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0125】
(実施例16)
参考例8において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)に代えて、参考例4で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)を用い、露光条件として高圧水銀灯(200W)で3秒間とした以外は、参考例8と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0126】
(参考例17)
参考例8において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)に代えて、参考例4で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)を用い、露光条件をフォトマスク上にフィルター(シグマ光機(株)製、UTVAF36U)を配置して、高圧水銀灯(200W)で10秒間の露光とした以外は、実施例10と同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0127】
(参考例18)
参考例9〜13において、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)に代えて、参考例2で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PB20K)又は参考例4で合成した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)を用い、露光条件をフォトマスク上にフィルター(シグマ光機(株)製、UTVAF36U)を配置して、高圧水銀灯(200W)で10秒間の露光とした以外は、参考例9〜13とそれぞれ同様の方法で基板を作製した。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0128】
(参考例19)
参考例6及び参考例7で作製した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PD20K、8PD20K)の濃度が1%であって、光重合開始剤としてIRGACURE2959の濃度が0.05%となるようにトルエンに溶解して、感光性組成物Dを調製した。基材としてポリ−L−リジンコートスライドガラス(松浪硝子工業(株)製。白切放NO.1スライドガラス丸型21mmΦ。以下「PLLコートガラス」と略す)を使用し、PLLコートガラス上に、感光性組成物Dを110μL滴下後、スピンコート法(500rpm×5秒+3000rpm×20秒+6000rpm×1秒)により成膜し、常温で放置して乾燥させた。これに、石英ガラス製フォトマスク(直径100μmの円形パターンが多数配置されたもの)を密着させ、高圧水銀灯(200W)を用いて40秒間露光を行った後、脱イオン水で洗浄(現像工程:流水15秒間+浸漬20分間)した。常温で乾燥し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有する基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、いずれの分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いた場合にも、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0129】
(実施例1)
〜胚性幹細胞の調製〜
I型コラーゲンαプロモーターで発現制御されたGFP遺伝子を組み換えたトランスジェニックマウス由来の胚性幹細胞(COL1−GFP)を、FASEB J.,21,1777-1787(2007)に記載された方法に従って作製し、下記LIF(+)培地を用いて継代培養を行った。
LIF(+)培地:DMEM(シグマ・アルドリッチ社製)500mL、FBS 75mL、AB 5mL、GlutaMAX 5mL、非必須アミノ酸溶液 5mL、α−LIF 50μL、2−メルカプトエタノール 3.8μL。
また、同様にしてII型コラーゲンプロモーターで発現制御されたGFP遺伝子を組み換えたWTマウス由来の胚性幹細胞(COL2−GFP)を作製し、同様にLIF(+)培地を用いて継代培養を行った。
【0130】
〜スフェロイド形成〜
LIF(+)培地で継代培養してきた胚性幹細胞(COL1−GFP)をトリプシン(1X)処理し、遠心分離後、LIF(+)培地に細胞を分散させた。
参考例8において作製した後、滅菌作業を行った基板を、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットし、培地としてLIF(+)培地を添加し、LIF(+)培地に分散させた胚性幹細胞(COL1−GFP)を細胞濃度1.5×10cells/mLで播種した。次いで培地を下記LIF(−)ATRA(+)培地に交換し、培養条件5%CO、37℃で6日間培養した。
LIF(−)ATRA(+)培地:上記LIF(+)培地において、α−LIF 50μLの代わりに、レチノイン酸(ATRA) 50μLを添加した。
【0131】
1日以内に基材上に形成した疎水性領域に対応してアレイ状に並んだ、均一な大きさを有する多数の胚性幹細胞由来のスフェロイド(細胞凝集塊)が得られた。培養開始1日後の顕微鏡写真(倍率×400)を図1に、6日後の顕微鏡写真(倍率×400)を図2に示した。
【0132】
(実施例2)
実施例1において、基板として直径200μmの円形パターンの代わりに、直径100μmおよび500μmの円形パターンの疎水性領域がそれぞれ形成された基板を用いた以外は実施例1と同様にして、胚性幹細胞(COL1−GFP)を培養した。
直径100μmの円形パターンを形成した基板を用いた場合には、実施例1と同様に均一な大きさを有し、アレイ状に配置された胚性幹細胞由来のスフェロイドが得られた。また、500μmの円形パターンを用いた場合には、基板中央部分の疎水性領域では胚性幹細胞由来のスフェロイドが形成されていた。
【0133】
(実施例3)
実施例1において、参考例8で作製した基板の代わりに、参考例9〜19で作製した基板を用いた以外は実施例1と同様にして、胚性幹細胞(COL1−GFP)を培養した。
いずれの基板を用いた場合でも、実施例1と同様に、均一な大きさを有しアレイ状に配置された多数の胚性幹細胞由来のスフェロイドが得られた。
【0134】
(比較例1)
実施例1において、参考例8で作製した基板の代わりにペトリディッシュを用いた以外は実施例1と同様にして、胚性幹細胞(COL1−GFP)を培養した。
形成された肺様体(EB)の培養6日後の顕微鏡写真(倍率×400)を図3に示した。
【0135】
(実施例4)
LIF(+)培地で継代培養した胚性幹細胞(COL1−GFP)を参考例1で作製した基板に播種した。培地は基板に播種時にLIF(-)ATRA(+)に交換した。基板に播種する直前の細胞を0dayとし、播種後1日後および6日後にそれぞれ培養細胞を回収し、常法によりアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した。
培養細胞はすべてトリプシン処理により回収し、PBS(-)洗浄後(このとき細胞数をカウント)、1%SDSを加えて5分静置し、これをサンプルとした。96wellプレート中に基質溶液100μLをあらかじめ加えておき、ここにサンプル溶液を20μL加えた。この時点から37℃で、15分間インキュベートし、反応停止液を80μL加えて反応を停止した。この後、405nmにおける吸光度をプレートリーダーにより測定し、あらかじめ作成しておいた検量線よりp−ニトロフェノール濃度を算出し、ALP活性を求めた。結果を図4に示した。
【0136】
図4から、本発明にかかる基板上で胚性幹細胞を培養することにより、経時的にALP活性が低下することがわかる。
【0137】
(実施例5)
〜RT−PCRによるマーカー遺伝子発現量評価〜
LIF(+)培地で継代培養した胚性幹細胞(COL1−GFP)を参考例1で作製した基板に播種した。培地は基板に播種時にLIF(-)ATRA(+)培地に交換した。基板に播種する直前の細胞を0dayとし、播種後1日後、5日後および7日後にそれぞれ培養細胞を回収した。RT−PCRを用いた常法により、未分化性マーカーOct4、外胚葉系マーカーNCAM、中胚葉系マーカーFlk−1、および内胚葉系マーカーAFPの発現量を、以下のプロトコールに従って、それぞれ評価した。結果を図5〜図8に示した。
【0138】
RNA抽出:基板上の培地を取り除き、PBS(-)で2回洗浄した後、TRIzolを500μL添加し、5分間室温にて静置した。よくピペッティングした後、エッペンチューブに移し、−80℃にて保存した。
RNA精製:TRIzol 500μLに対し、クロロホルム 100μLを添加し、手でよく攪拌後、12000rpm、5分間、4℃で遠心分離を行った。ついで、IPA 400μLの入った別のエッペンチューブに遠心分離後の上清から200μLを添加し、転倒混和を行い、15000rpm、10分間、4℃で遠心分離を行った。デカンテーションにより上清を取り除き、さらにキムワイプの上に伏せておき、完全に上清を除去した。75%EtOH 500μLを添加し、VORTEXにより攪拌後、15000rpm、5分間、4℃で遠心分離を行った。再びデカンテーションにより上清を取り除き、さらにエッペンで上清を完全に除去し、RNA Free Waterを20μL加えて溶解した。
RT:Takara ExScript RT reagent Kitを用い、添付のプロトコルに従って操作を行った。
PCR:設定条件は以下のとおりである。94℃、5min;94℃、30sec;58℃、30sec;72℃、30sec;72℃、7min;4℃、∞;Cycle数 35。
【0139】
図5〜図8より、胚性幹細胞の経時培養により、Oct4の発現量が減少し、三胚葉系のマーカーの発現量が増加していることわかる。更に内胚葉系マーカーの発現量が突出して増加していることがわかる。
【0140】
(実施例6)
〜高分子ミセルを用いた分化誘導〜
非ウイルス系遺伝子ベクターとして、特開2004−352972号公報に記載されたポリエチレングリコール−ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)−Ac共重合体のジエチレントリアミン付加体(以下「PEG−DET」という)を用いて、Runx2およびcaALK6遺伝子を内包する高分子ミセルを調製した。
尚、Runx2およびcaALK6遺伝子は、FASEB J.,21,1777−1787(2007)に記載の方法に準じて調製した。また、これらの遺伝子はヒト皮膚繊維芽細胞に対する軟骨分化誘導能を有することが知られている。
また高分子ミセルの調製、培養細胞への添加条件は、Mol.Ther.,15(9),1655-1662(2007)に記載の方法に準じて行った。
【0141】
実施例1と同様にして胚性幹細胞由来のスフェロイドがアレイ状に配置された基板(スフェロイドアレイ)を作製し、これにRunx2およびcaALK6遺伝子を内包する高分子ミセルを添加して、5%CO、37℃で5日間培養したところ、GFP由来の蛍光を観察することができた。
【0142】
(実施例7)
〜高分子ミセルを用いた分化誘導〜
非ウイルス系遺伝子ベクターとして、特開2004−352972号公報に記載されたポリエチレングリコール−ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)−Ac共重合体のジエチレントリアミン付加体(以下「PEG−DET」という)を用いて、Sox5、Sox6、およびSox9遺伝子を内包する高分子ミセルを調製した。
尚、Sox5、Sox6、およびSox9遺伝子は、特開2004−267052号公報に記載の方法に準じて調製した。また、これらの遺伝子はヒト皮膚繊維芽細胞に対する軟骨分化誘導能を有することが知られている。
また高分子ミセルの調製、培養細胞への添加条件は、Mol.Ther.,15(9),1655-1662(2007)に記載の方法に準じて行った。
【0143】
実施例1において、胚性幹細胞(COL1−GFP)の代わりに胚性幹細胞(COL2−GFP)を用いた以外は、実施例1と同様にして胚性幹細胞由来のスフェロイドがアレイ状に配置された基板(スフェロイドアレイ)を作製した。
これにSox5、Sox6、およびSox9遺伝子を内包する高分子ミセルを添加して、5%CO、37℃で5日間培養したところ、GFP由来の蛍光を観察することができた。
【0144】
(実施例8)
〜低分子化合物による分化誘導〜
実施例1において、胚性幹細胞(COL1−GFP)の代わりに胚性幹細胞(COL2−GFP)を用いた以外は、実施例1と同様にして胚性幹細胞由来のスフェロイドがアレイ状に配置された基板(スフェロイドアレイ)を作製した。
これに、低分子化合物TH(Biochem. Biophys. Res. Com., 357(4), 854-860 (2007)参照)を添加して、5%CO、37℃で5日間培養したところ、GFP由来の蛍光を観察することができた。
【0145】
上記の結果から、本発明における基板上で胚性幹細胞を培養することにより、均一な大きさを有する胚性幹細胞由来のスフェロイドを大量に製造することができた。
また、本発明における基板上にアレイ状に配置された疎水性領域を形成することにより、疎水性領域に胚性幹細胞由来のスフェロイドが形成されたスフェロイドアレイが得られた。
さらに本発明のスフェロイドアレイを用いることで、薬物スクリーニングおよび胚性幹細胞の分化誘導が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】培養1日後の胚性幹細胞の拡大写真である。
【図2】培養6日後の胚性幹細胞の拡大写真である。
【図3】培養6日後の胚様体の拡大写真である。
【図4】ALP活性の変化を示す図である。
【図5】Oct4遺伝子の発現量変化を示す図である。
【図6】NCAM遺伝子の発現量変化を示す図である。
【図7】Flk−1遺伝子の発現量変化を示す図である。
【図8】AFP遺伝子の発現量変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、
胚性幹細胞を播種することと、
播種された胚性幹細胞を培養することと、
培養された胚性幹細胞由来のスフェロイドを形成させることと、
を含むスフェロイドの製造方法。
【請求項2】
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、重合度が5〜1000のポリアルキレングリコール基を4以上有する、請求項1に記載のスフェロイドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスフェロイドの製造方法で製造され、内胚葉系マーカーであるAFPの発現量が、中胚葉系マーカーであるFlk−1及び外胚葉系マーカーであるNCAMの少なくとも一方の発現量よりも大きいスフェロイド。
【請求項4】
基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて、アレイ状に形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板と、
前記疎水性領域に配置された胚性幹細胞由来の複数のスフェロイドと、
を含むスフェロイドアレイ。
【請求項5】
請求項4に記載のスフェロイドアレイを用いる薬物スクリーニング方法。
【請求項6】
高分子ミセルに内包された薬物を前記スフェロイドに接触させることを含む、請求項5に記載の薬物スクリーニング方法。
【請求項7】
基材と、前記基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、
胚性幹細胞を播種することと、
分化誘導因子の存在下で胚性幹細胞を培養することと、
培養された胚性幹細胞から分化誘導された細胞を得ることと、
を含む胚性幹細胞の分化誘導方法。
【請求項8】
前記分化誘導因子を高分子ミセルに内包した状態で添加することを更に含む、請求項7に記載の胚性幹細胞の分化誘導方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−278960(P2009−278960A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137224(P2008−137224)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月26日 日本バイオマテリアル化学会発行の「第29回日本バイオマテリアル学会大会講演予稿集」に発表
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】