説明

スプライン付きボールねじ装置及びこれを用いた摩擦攪拌接合装置

【課題】何らかの異常により、スプライン付きボールねじ装置の両ナット間に回転差が発生しようとしてもボールねじ軸の軸方向移動を抑制させる。
【解決手段】一つの軸の同一部位外周に軸方向直線状のスプライン溝とらせん状のボールねじ溝とを有するボールねじ軸と、ボールねじ軸のスプライン溝と対向して内周に軸方向直線状のスプライン溝を有するスプラインナットと、ボールねじ軸のボールねじ溝と対向して内周にらせん状のボールねじ溝を有するボールねじナットと、ボールねじ軸及びスプラインナットのスプライン溝間とボールねじ軸及びボールねじナットのボールねじ溝間とに多数の転動体が並んで配設されるスプライン付きボールねじ装置であり、スプラインナットとボールねじナットが軸方向に近接して配置され、異常発生時にスプラインナットとボールねじナット間の相対回転を抑制するブレーキ機構を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被操作物の回転と軸方向移動をコンパクトな構成で可能にするスプライン付きボールねじ装置、及び、該スプライン付きボールねじ装置と、そのボールねじ軸の駆動機構とを備え、前記ボールねじ軸の回転及び押圧によって摩擦熱を発生させワークの接合部を攪拌して前記ワーク同士を接合する摩擦攪拌接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、産業用ロボット等に用いられ回転運動および直線運動を行わせるアクチュエータにおいては、それ自身が別のアクチュエータの駆動対象となることから、軽量、コンパクトな構成で被操作物の回転と軸方向移動を可能にすることが要求されている。この部分の改善の先行技術としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。
この特許文献1には、ボールねじ軸と、このボールねじ軸の外周面に形成されたボールねじ溝と、このボールねじ溝に対向するボールねじ溝を内周面に有するボールねじナットと、ボールねじ軸の外周面に形成されたボールスプライン溝と、このボールスプライン溝に対向するボールスプライン溝を内周面に有するボールスプラインナットとを備えており、ボールねじ軸及びボールねじナットのボールねじ溝間とボールねじ軸及びボールスプラインナットのボールスプライン溝間とに多数のボールが並んで配設されたスプライン付きボールねじ装置が記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された従来例のスプライン付きボールねじ装置のボールねじナット及びボールスプラインナットは、外周に軸受を設けることで、ナット回転で用いることができる。このような構造をもつ機構としては例えば、特許文献2に記載されているものが知られている。この特許文献2の従来例には、入力側回転軸に増速比Zを有する回転伝達機構を介して増速結合される出力軸を連結し、前記入力側回転軸の回転角αを360度未満に規制しつつ前記出力軸の回転角βをα×Zとして360度以上の回転角度を許容する回転伝達制御機構が記載されている。
【0004】
このようなスプライン付きボールねじ装置は、例えば所定位置にあるボールねじナットがボールねじ軸に対して相対回転するとボールねじ軸が軸方向に移動し、ボールスプラインナットが回転するとボールねじ軸が回転するので、従来スカラー型ロボットのZ−θ軸アクチュエータとして用いられている。ここで、スプライン付きボールねじ装置は、図6に示すように、ボールねじ軸100の外周面に回転駆動可能なボールねじナット101及びボールスプラインナット102を備えている。そして、ボールねじナット101は、回転伝達手段103を介して図示しない電動モータによって回転駆動されている。また、ボールスプラインナット102は、回転伝達手段104を介して図示しない電動モータによって回転駆動されている。
【0005】
ここで、ボールねじ軸100の軸方向移動速度vは、ボールねじナット101の単位時間当たりの回転数をN1とし、ボールスプラインナット102の単位時間当たりの回転数をN2とし、ボールねじ軸100のボールねじ溝のリードをLとすると、
v=|N1−N2|×L
で表すことができ、両ナット101及び102の回転差が発生するとその分だけ軸方向移動する。ボールねじ軸100の単位時間当たりの回転数は、ボールスプラインナット102の単位時間当たりの回転数と同じN2となる。即ち、両ナット101及び102を同一回転させてボールねじ軸100を回転させ、両ナット101及び102に回転差を発生させることで軸方向移動(直線運動)も行わせることができる。
【0006】
次に、摩擦攪拌接合装置であるが、これは従来より鉄道車両、自動車等輸送手段のアルミニウム合金車体の接合等に用いられている。この摩擦攪拌接合装置においても、他のアクチュエータによって頻繁に接合駆動部自体の移動が行われるため、接合駆動部の軽量、コンパクト化が要求されている。この部分の改善の先行技術としては、例えば特許文献3及び特許文献4に記載されているものが知られている。
これらの従来例には、高速回転する回転子を回転軸線方向に移動させ、回転子の回転子本体に連なる先端部を被接合物に押圧し、回転により前記先端部と前記被接合物との接触部で発生する摩擦熱で前記接触部を軟化させ、攪拌して被接合物を接合する摩擦攪拌接合装置が記載されている。さらに、回転子の直進移動時に回転駆動源の移動を伴わなくとも回転子の駆動を可能とした摩擦攪拌接合装置が記載されており、回転子の直進移動をより軽快にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−165057号公報
【特許文献2】特開2000−346150号公報
【特許文献3】特許第3291491号公報
【特許文献4】特許第3471308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載されたスプライン付きボールねじ装置の従来例にあっては、ボールねじ軸を高速で回転し、ボールねじ軸の軸方向移動を1mm/sec等の低速で制御するといった用途の場合は、ボールねじナットとボールスプラインナットとを別々の駆動源で制御すると、一方の駆動源が異常停止した際に、N1=0又はN2=0となり、ボールねじ軸が高速なN1×L又はN2×Lで軸方向に移動してしまう。さらに、N1及びN2の一方が制御を失い回転が不確定になった際、軸方向移動が生じないようにもう一方の回転数を合わせ|N1−N2|=0となるよう制御することは、実質困難である。こうなると、ボールねじ軸は急激に移動し機械の構造によって定まるストローク端に衝突するので、頑丈な保護カバーを要するなど、安全面に配慮する必要があるという課題がある。
そこで、本発明は、スプライン付きボールねじ装置における上記従来例の課題に着目してなされたものであり、例えば動力伝達用のベルトが切れるなどして、ボールねじナットとボールスプラインナットの何れかが何らかの回転異常を起こし、両ナット間に異常な回転差が発生するような場合でも、ボールねじ軸が極端に軸方向に移動することを防ぎ、軸端がストローク端へ衝突するようなことを防止できるスプライン付きボールねじ装置を提供することを第一の目的としている。
【0009】
また、特許文献3及び4に記載された摩擦攪拌接合装置の従来例にあっては、軸方向移動の伝達手段であるボールねじ軸と接合ツールを回転させる回転軸とを同軸上に構成することで、回転軸を保持する移動体にモーメントがかからないようにしている。しかし、これら従来例は、ボールねじ溝とボールスプライン溝とが夫々異なる軸に形成されている。すなわち、例えば中空形状のボールねじ軸の外周面にボールねじ溝を形成し、ボールねじ軸内に回転軸が挿通されている。そして、その回転軸は、スプラインによって回転が伝達されている。この場合の回転軸は、危険速度の観点からある程度の外径が必要となり、ボールねじ軸の内径がさらに大きくなり、ボールねじ軸の外径を大きくせざる得ないことから、結果的に外径の大きいボールねじ軸を採用することになり、装置が大型化してしまうという課題がある。
【0010】
さらに、特許文献3及び4に記載された従来例にあっては、接合ツールを容易に交換できるように工具脱着機構によって保持しているが、この工具脱着機構によって重量が増加してしまうという課題がある。
さらにまた、特許文献3及び4に記載された従来例には、ボールねじ軸に接合ツールを装着する際に、ボールねじ軸に接合ツールをきちんと同軸上に装着しないと接合ツールが偏心回転を引き起こし、ボールねじナット、ボールスプラインナット及びこれらを回転自在に保持する軸受に接合時の加圧によるモーメントが伴う負荷がかかる。このため、ボールねじ軸の一端の質量が大きいほどその影響が大きくなり、騒音の低減や装置の寿命延長等のためにボールねじナット、ボールスプラインナット及びこれらを回転自在に保持する軸受の剛性を上げなくてはならないという課題がある。
【0011】
さらにまた、特許文献3及び4に記載された従来例は、ボールねじ軸と別体である接合ツールが消耗品であることから、接合ツールを交換して用いるものであり、接合駆動部は何本もの接合ツールの寿命に合わせて寿命計算するため、ボールねじ軸が負荷容量の大きいものでなければならないという課題がある。
そこで、本発明は、摩擦攪拌接合装置における上記従来例の課題に着目してなされたものであり、装置の大型化、重量増加、剛性増加及び負荷容量増加を改善しながら、例えば動力伝達用のベルトが切れるなどして、ボールねじナットとボールスプラインナットの何れかが何らかの回転異常を起こし、両ナット間に異常な回転差が発生するような場合でも、ボールねじ軸が極端に軸方向に移動することを防ぎ、軸端がストローク端へ衝突するようなことを防止できる摩擦攪拌接合装置を提供することを第二の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係るスプライン付きボールねじ装置は、一つの軸の同一部位外周に軸方向直線状のスプライン溝とらせん状のボールねじ溝とを有するボールねじ軸と、前記ボールねじ軸のスプライン溝と対向して内周に軸方向直線状のスプライン溝を有するスプラインナットと、前記ボールねじ軸のボールねじ溝と対向して内周にらせん状のボールねじ溝を有するボールねじナットと、前記ボールねじ軸及び前記スプラインナットのスプライン溝間と前記ボールねじ軸及び前記ボールねじナットのボールねじ溝間とに多数の転動体が並んで配設されるスプライン付きボールねじ装置であり、前記スプラインナットと前記ボールねじナットが軸方向に近接して配置され、異常発生時に前記スプラインナットと前記ボールねじナット間の相対回転を抑制するブレーキ機構を備えていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項2に係るスプライン付きボールねじ装置は、前記スプラインナットと前記ボールねじナットにはそれぞれ外周にブレーキロータを備え、この内一方は軸線方向に移動可能となっている。
【0014】
さらに、請求項3に係るスプライン付きボールねじ装置は、前記ブレーキ機構は電気制御可能な電磁ブレーキで構成されていることを特徴としている。
さらにまた、請求項4に係るスプライン付きボールねじ装置は、前記電磁ブレーキは無通電時に弾性体の力によって作動する無励磁作動型ブレーキで構成されていることを特徴としている。
なおさらに、請求項5に係るスプライン付きボールねじ装置は、前記ボールねじナットを回転可能に支持する転がり軸受と、前記スプラインナットを回転可能に支持する転がり軸受と、それぞれの前記転がり軸受の回転速度を検出する回転センサと、前記両転がり軸受間の回転速度差を演算しその回転速度差の値と設定値との差がある閾値を越えると外部にエラー信号を出す異常判定部とを備え、前記エラー信号によって前記ブレーキ機構が作動することを特徴としている。
【0015】
また、請求項6に係る摩擦攪拌接合装置は、接合ツールとワークとを接触させた状態で、前記接合ツールの回転及び押圧によって前記接合ツールと前記ワークとの接合部で発生する摩擦熱で前記接合部を軟化させ、攪拌して前記ワークを接合する摩擦攪拌接合装置において、前記接合ツールに軸方向移動及び回転を付与する駆動機構に請求項1から5に記載のスプライン付きボールねじ装置を備えていることを特徴としている。
【0016】
さらに、請求項7に係る摩擦攪拌接合装置は、前記ボールねじ軸と前記接合ツールとが一体に形成されていることを特徴としている。
さらにまた、請求項8に係る摩擦攪拌接合装置は、前記接合ツールが前記ボールねじ軸と同一素材から削り出しにより形成されることを特徴としている。
なおさらに、請求項9に係る摩擦攪拌接合装置は、前記接合ツールが摩擦圧接で前記ボールねじに接合された素材を後加工して形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スプライン付きボールねじ装置において、スプラインナットとボールねじナットの何れかが、何らかの回転異常を起こして、両ナット間に異常な回転差が発生しようとしても、ブレーキ機構により両ナット間の相対回転が抑制され、ボールねじ軸が所定値以上に軸方向に移動することはなくなり、装置の故障の拡大を防止することができる。
また、摩擦攪拌接合装置において、装置の大型化、重量増加、剛性増加及び負荷容量増加を改善しながら、例えば動力伝達用のベルトが切れるなどして、ボールねじナットとスプラインナットの何れかが何らかの回転異常を起こし、両ナット間に異常な回転差が発生するような場合でも、ボールねじ軸が極端に軸方向に移動することを防ぎ、軸端がストローク端へ衝突するようなことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるスプライン付きボールねじ装置及び摩擦攪拌接合装置をロボットアームの先端部の接合ガンに適用した状態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態を側面から見た一部断面図である。
【図3】スプライン付きボールねじ装置の説明に供する拡大した一部断面図である。
【図4】摩擦攪拌接合装置の接合ツールの説明に供する拡大側面図である。
【図5】第1実施形態の変形例を示す側面図である。
【図6】スプライン付きボールねじ装置のボールスプラインナット及びボールねじナットの回転数の説明に供する側面図である。
【図7】第1実施形態の変形例の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明によるスプライン付きボールねじ装置及び摩擦攪拌接合装置をロボットアームの先端部の接合ガンに適用した状態を示す概略構成図であって、図中、接合ガン1はロボットアーム2の先端部に装着され、摩擦攪拌接合装置4を備えた本体3と、この本体3の下面のロボットアーム2側の端部に連設されたL字状のアーム部5とによって構成されている。ここで、後述する接合ツール23の小径部23b(図4参照)と対向するアーム部5の先端部には、図示しない上下方向に重なった2枚のワークのうち下方のワークの下面への裏当て材となる裏当て部材5a及び図示しない荷重検出器が備わっている。
【0020】
摩擦攪拌接合装置4は、図2に示すように、ボールねじ軸20が本体3(図1参照)の固定部材3aに対し回転自在且つ軸方向に移動自在に支持されたスプライン付きボールねじ装置6を有する。
このスプライン付きボールねじ装置6は、図2〜4に示すように、外周面にボールねじ溝20a及び複数のボールスプライン溝20bが形成されたボールねじ軸20と、そのボールねじ軸20の外周面に固定部材3aに対し回転可能に支持されたボールねじナット21と、ボールねじ軸20の外周面のボールねじナット21の下方に並んで近接されて固定部材3aに対し回転可能に支持されたボールスプラインナット22と、ボールねじ軸20の下端面に中心軸に沿って下方に突出するようにボールねじ軸20と同一素材から削り出しにより形成された接合ツール23を備えている。
【0021】
ボールねじ軸20の材質は、高クロム鋼や軸受鋼でもよいが、焼入れ性及び研削性に優れた例えばクロムモリブデン鋼を用いることもでき、熱処理としては、通常の調質でもよいが、浸炭焼入れや高周波焼入れを行い、焼き戻しを行って表面硬化を図ってもよい。これらの熱処理は、接合ツール23に対しても同様に行ってもよいが、この部分について、局所的に高周波焼入れ、焼き戻しを行いこの部分に必要な硬度を調整してもよい。
ボールねじナット21は、図3に示すように、ボールねじ軸20の外周面に所定間隔を保って対向する円筒部21aと、その円筒部21aの内周面の上下両端部に形成されたエンドキャップ21b及び21cと、円筒部21aのエンドキャップ21b及び21c間の内周面に形成されボールねじ溝20aに対向して転動体転動路25を構成するボールねじ溝21dとを備え、転動体転動路25内に多数の転動体としてのボール21eが転動自在に充填されている。そして、円筒部21aとエンドキャップ21b及び21cとには、転動体転動路25の両端部に連設することで転動体転動路25内を転動したボール21eを初期位置に戻すボール循環路21fが形成されている。
【0022】
ボールスプラインナット22は、図3に示すように、ボールねじ軸20の外周面に所定間隔を保って対向する円筒部22aと、その円筒部22aの内周面の上下両端部に形成されたエンドキャップ22b及び22cと、円筒部22aのエンドキャップ22b及び22c間の内周面に形成され複数のボールスプライン溝20bに対向して転動体転動路26を構成する複数のボールスプライン溝22dとを備え、転動体転動路26内に多数の転動体としてのボール22eが転動自在に充填されている。そして、円筒部22aとエンドキャップ22b及び22cとには、転動体転動路26の両端部に連設することで転動体転動路26内を転動したボール22eを初期位置に戻すボール循環路22fが形成されている。
【0023】
そして、ボールねじナット21及びボールスプラインナット22は、図2に示すように、円筒部21a及び22aの外周面の上下両端部寄り位置に内輪が固定された転がり軸受30と、その転がり軸受30の外輪を内周面に固定し外周面が固定部材3aによって固定されたナットホルダ31及び32とによって回転自在に保持されている。ここで、ボールねじ軸20は、ボールねじナット21が相対回転駆動されることによって軸方向に移動し、ボールスプラインナット22が回転駆動されることによってボールねじ軸20も回転駆動する。
【0024】
ナットホルダ31及び32は、図2に示すように、内周面に転がり軸受30を固定する円筒部31a及び32aと、この円筒部31aの上端部及び円筒部32aの下端部に連設されたフランジ部31b及び32bとを備えている。そして、ナットホルダ31及び32は、円筒部31a及び32aのフランジ部31b及び32bとは反対側の面が互いに対向するように固定部材3aに固定されている。
そして、円筒部21aの上端部及び円筒部22aの下端部には、図2に示すように、従動プーリ35及び36が固定されている。ここで、従動プーリ35及び36は、例えばタイミングプーリを適用することができる。
【0025】
そして、ボールねじナット21は、回転伝達手段としての回転伝達機構7を介して回転軸9aを下側にして固定部材3aに固定された電動モータ9に連結されて回転駆動される。回転伝達機構7は、電動モータ9の回転軸9aに装着された駆動プーリ11と、ボールねじナット21に装着された従動プーリ35と、駆動プーリ11及び従動プーリ35間に張設されたタイミングベルト37とで構成されている。
また、ボールスプラインナット22は、回転伝達手段としての回転伝達機構8を介して回転軸10aを下側にして固定部材3aに固定された電動モータ10に連結されて回転駆動される。回転伝達機構8は、電動モータ10の回転軸10aに装着された駆動プーリ12と、ボールスプラインナット22に装着された従動プーリ36と、駆動プーリ12及び従動プーリ36間に張設されたタイミングベルト38とで構成されている。
【0026】
本発明は、電動モータや制御装置等の異常発生時にボールねじナット21及びボールスプラインナット22の回転数を一致させることでボールねじ軸20の軸方向移動を防止するようにしたものである。この実施の形態について以下に説明する。
【0027】
図2において、ナットホルダ31及び32に固定されたハウジング40内に、ボールねじナット21の下端部に例えばスプライン結合されてボールねじナット21と一体となって回転し異常発生時に下方に移動可能な第1のブレーキロータ41と、ボールスプラインナット22の上端部に固定されこのボールスプラインナット22と一体となって回転する第2のブレーキロータ42と、ハウジング40の上面板に固定されて第1のブレーキロータ41の上面に摺接する圧縮コイルばね43と、ハウジング40の上面板に固定され、通常の通電時には、第1のブレーキロータ41の上面に固定された永久磁石を前記圧縮コイルばね43に抗して吸引する電磁ソレノイド44とを有する電磁ブレーキとしての無励磁作動型ブレーキ45を備えている。
ここで、第1のブレーキロータ41は、下方に開口した有底円筒部の内周面にすり鉢状の凹部が形成されている。また、第2のブレーキロータ42は、外周面が第1のブレーキロータ41の凹部と係合可能な裁頭円錐形外周面を有する。
【0028】
また、接合ツール23は、図4に拡大して示すように、ボールねじ軸20の下端面に連設されボールねじ軸20の外径より小さい外径の円柱状の大径部23aと、この大径部23aの下端面に連設され大径部23aの外径より小さい外径の小径部23bとを備えている。ここで、小径部23bの外周面には、螺旋溝が形成されている。そして、小径部23bは、図示しない上下方向に重なった2枚のワークのうち上方のワークの上面に回転駆動させながら下降させることで押圧し、図1に示したアーム部5の裏当て部材5aとの間で上記2枚のワークを挟んで対向するように配置されている。
【0029】
次に上記実施形態の動作について説明する。
図示しない上下方向に重なった2枚のワークを接合するには、先ず、下方のワークの下面にアーム部5の裏当て部材5aを当接させた状態で、電動モータ10を高速回転駆動することによって回転伝達手段8を介してボールスプラインナット22を高速回転させ、ボールねじ軸20を高速回転させる。
これと同時に、電動モータ9を電動モータ10よりやや高回転速度で駆動することによって、回転伝達機構7を介してボールねじナット21をボールねじ軸20と相対回転させ、ボールねじ軸20を徐々に下降させる。
【0030】
そして、ボールねじ軸20の先端部に一体形成された接合ツール23の小径部23bの先端面を図示しない上下方向に重なった2枚のワークの裏当て部材5aとは反対側の上面に押圧させる。
この状態を持続し、小径部23bの高速回転によって発生する摩擦熱で図示しない上下方向に重なった2枚のワークのうち上方のワークの接触部が軟化され、徐々に図示しない下方のワーク内に挿入され、裏当て部材5a近傍まで挿入され、ワークの接触部近傍を攪拌する。そして、電動モータ9を電動モータ10よりやや低回転速度で駆動することによって、ボールねじ軸20の軸方向移動方向を反転させて上昇させることにより、図示しないワークの軟化部が固化されて両者が接合される。
【0031】
ここで正常状態では、無励磁作動型ブレーキ45の電磁ソレノイド44を図示しない制御装置によって通電状態として、第1のブレーキロータ41を圧縮コイルばね43に抗して第2ブレーキロータ42とは離間する方向の上方に吸引しており、第1のブレーキロータ41及び第2のブレーキロータ42間に制動力が作用しない状態としておく。
【0032】
この状態で、電動モータ9を電動モータ10よりやや高回転速度で駆動することによって、回転伝達機構7を介してボールねじナット21をボールねじ軸20と相対回転させ、ボールねじ軸20を下降させることにより、前述のように図示しない上下方向に重なった2枚のワークを摩擦攪拌接合することができる。
この摩擦攪拌接合状態で、ボールねじナット21を回転伝達機構7を介して回転駆動させる電動モータ9やその駆動回路等に異常が発生し、電動モータ9の回転数が電動モータ10の回転数より低回転となる異常が検出された場合には、図示しない制御装置によって、第1のブレーキロータ41を固定していた電磁ソレノイド44への通電を停止し、第1のブレーキロータ41を圧縮コイルばね43の弾性力によって下降させる。
【0033】
このように、第1のブレーキロータ41が下降することによって、第1のブレーキロータ41の内周面が第2のブレーキロータ42の外周面に圧接されて、第1のブレーキロータ41と第2のブレーキロータ42とが一体となって回転駆動することで、ボールねじナット21及びボールスプラインナット22の回転数を一致させることができ、ボールねじ軸20の軸方向移動を防止することができる。
もし、異常が停電によるものである場合においても上述のように、無励磁作動型ブレーキ45であるのでブレーキが作動し、ボールねじ軸20の軸方向移動を防止することができる。
【0034】
以上のように、上記実施形態では一つのボールねじ軸20にボールねじ溝20aとボールスプライン溝20bとが形成されているので、ボールねじ軸20の外径を大きくする必要がなくなり、摩擦攪拌接合装置4を小型化及び軽量化することができる。
さらに、図4に示すように、接合ツール23がボールねじ軸20の中心軸と同軸上に一体形成されているので、偏心回転を引き起こすことなくボールねじナット21、ボールスプラインナット22及び転がり軸受30に接合時の加圧によるモーメント負荷に伴う負担がかかることがない。このため、ボールねじナット21、ボールスプラインナット22及びこれらを回転自在に保持する転がり軸受30の剛性を上げる必要がなくなり、摩擦攪拌接合装置4を軽量化することができる。
【0035】
さらにまた、上記実施形態では、ボールねじ軸20の下端面に中心軸に沿って下方に突出するようにボールねじ軸20と同一素材から削り出しにより形成された接合ツール23を備えている。これは、加工性、焼入れ性の良いクロムモリブデン鋼等からボールスプライン溝20b、ボールねじ溝20a及び接合ツール23等を切削加工し、その後熱処理として、浸炭焼入れ、焼き戻し処理等を行い、最後に研削加工で仕上げたものである。これに対し、接合ツール23が耐摩耗性に優れた例えば工具鋼が摩擦圧接で前記ボールねじ軸20に接合され、後加工して形成されてもよい。この摩擦圧接によって一体形成された接合ツール23は、用途の違うボールねじ軸20及び接合ツール23にそれぞれの用途に適した材料を用い適切な熱処理を行うことができ、ボールねじ軸20の寿命を何本もの接合ツール23の寿命に合わせる必要がなく、ボールねじ軸20の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0036】
さらに、上記実施形態においては、ボールねじ軸20の下端面に接合ツール23が一体形成されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図5に示すように、ボールねじ軸20の下端部に形成された接合ツール着脱機構90によって接合ツール23を保持することもできる。ここで、接合ツール着脱機構90は、本体部90aと、この本体部90aの下面にボールねじ軸20と同軸上に沿って内方に延長する嵌合部90bと、嵌合部90bに着脱自在に固定された基部90cと、この基部90cに連設された接合ツール23を把持する把持部90dとを備えている。そして、接合ツール23は、把持部90dによって把持された状態で、基部90cを嵌合部90bに嵌合させることでボールねじ軸20と同軸上に固定することができる。
【0037】
なお、上記実施形態においては、ボールねじ軸20の外周面に、ボールねじナット21の下方に所定間隔を保ってボールスプラインナット22を配設した場合について説明したが、これに限定されるものではなくボールねじナット21とボールスプラインナット22との上下関係を逆として、ボールねじ軸20の外周面に、ボールスプラインナット22の下方に所定間隔を保ってボールねじナット21を配設することもできる。これは、図2のように上記実施形態では、下側からの主荷重に対してナットホルダ31のフランジ部31bを取り付けるボルト(不図示)で荷重を受けることになるが、ボールねじナット21を下側にして下側からボルトで固定することで、ナットホルダ31のフランジ部31bを介して本体3の固定部材3aが主荷重を受けることができるので耐荷重性、信頼性が増す。
【0038】
また、上記実施形態においては、図2において、ハウジング40の上面板に固定された圧縮コイルばね43は、第1のブレーキロータ41の上面に摺接するようになっているが、圧縮コイルばね43と第1のブレーキロータ41の上面との間にスラスト軸受を設けて、摩擦によるエネルギーのロスを避けるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、何れも電源、電動モータ、制御装置及び回転伝達手段等の異常発生時にのみブレーキを作動させ、ボールねじナット21とボールスプラインナット22の回転数を一致させ、ボールねじ軸20の軸方向移動を防止するようにしたものである。これに対し、通常はブレーキを作動させておいて、両ナット21及び22間の回転数を一致させ、軸方向移動させる時のみブレーキを外してから、両ナット21及び22間の回転数に差を設けて軸方向移動させるようにブレーキ及びスプライン付ボールねじ装置を制御してもよい。
【0039】
また、電磁ブレーキとして無励磁作動型ブレーキ45を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく無励磁作動型ブレーキ45に代えて励磁作動型ブレーキを用いることもできる。励磁作動型ブレーキは、通電時に作動するタイプの電磁ブレーキである。異常が発生した場合に励磁作動型ブレーキを作動させることにより、ボールねじナット21の回転数とボールスプラインナット22の回転数とを互いに一致させる。これにより、ボールねじ軸20の軸方向移動を防止することができる。この場合、停電時にもブレーキを作動させるために、自家発電源や装置内で蓄電した電源等装置本体とは別系統の電源でも励磁作動型ブレーキを作動可能としておくことが好ましい。
また、電動モータ9及び10の配置について、回転軸9a及び10aを下側にした場合について説明したが、これに限定されるものではなく周辺装置とのスペースの関係で適宜変更可能である。特に電動モータ9については、回転軸9aを上側にして配置することで、電動モータ9の軸方向位置が、電動モータ10、ボールねじナット21及びボールスプラインナット22の軸方向位置と略一致し、よりコンパクトな装置構成になる。
図7は、第1実施例の変形例であり、センサ付き軸受50,50を備えたスプライン付きボールねじ装置6を示した図である。この図に示すように、ボールねじナット21を回転可能に支持する転がり軸受の一つと、ボールスプラインナット22を回転可能に支持する転がり軸受の一つは、回転センサ51,51を有するセンサ付き軸受50,50である。回転センサ51,51は、転がり軸受の回転速度を検出することができ、このセンサ付き軸受50,50については、例えば、特開2004−211841号に記載のあるセンサ付き軸受が適用できる。即ち、軸受の固定側軌道輪には磁気センサを取り付け、回転側軌道輪には周方向に多極着磁された略円環状の磁石(エンコーダ)を取り付けている。そして、本変形例では、異常判定部を備えている。これは前記両センサ付き軸受50,50間の回転速度差を演算し、その回転速度差の値と設定値との差がある閾値を越えると外部にエラー信号を出すというものである。このエラー信号によって、ブレーキ機構が作動するようにしている。
ボールねじ軸は回転しながら直進移動するため、ボールねじ軸の移動速度から異常を判断しようとすると、非接触の直線方向速度センサが必要になるなど、高価で大掛かりな検出器が必要となってしまい、従来、ボールねじの移動速度を検出することは困難であった。本変形例によると、ボールねじ軸の移動速度を転がり軸受の回転速度差から検出するので、より安価でコンパクトな構成で異常を判定することができる。
上記の異常判定を行う変形例では、センサ付き軸受50,50を用いたが、ここでは、ボールねじナット21とボールスプラインナット22との間の相対回転差が得られればよく、センサの取り付け部やセンサの検出原理は上記のものに限定されるものではない。即ち、ボールねじナット21とボールスプラインナット22とに直接エンコーダを設け、固定部材に磁気センサを設けてもよい。また、ボールねじナット21とボールスプラインナット22とのいずれか一方にエンコーダを設け、他方に無線信号を送信できる磁気センサを設けて相対回転差を得てもよい。また、本変形例では検出した回転速度差の値と設定値との差がある閾値を超えると外部にエラー信号を出すようにしているが、異常と判断される一定の回転速度差を検知した場合にエラー信号を出すようにしてもよい。即ち、上記設定値は、固定値としてもよいし、制御指令値から推定される回転速度差により変動する変動値としてもよい。
また、上述した全ての実施形態では、スプライン付きボールねじ装置における転動体は、スプラインにおいてもボールねじにおいてもボール(球)である場合について説明した。しかし、本発明は、ブレーキ機構を有することに特徴があり、スプライン付きボールねじ装置における転動体は、とくに限定されるものではなく、ボールの代わりにローラ(ころ)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
4…摩擦攪拌接合装置、6…スプライン付きボールねじ装置、7,8…回転伝達機構、9,10…電動モータ、9a,10a…回転軸、11,12…駆動プーリ、20…ボールねじ軸、20a…ボールねじ溝、20b…ボールスプライン溝、21…ボールねじナット、22…ボールスプラインナット、23…接合ツール、23a…大径部、23b…小径部、31,32…ナットホルダ、35,36…従動プーリ、37,38…タイミングベルト、40…ハウジング、41…第1のブレーキロータ、42…第2のブレーキロータ、43…圧縮コイルばね、44…電磁ソレノイド、45…無励磁作動型ブレーキ、50…センサ付き軸受、51…回転センサ、90…接合ツール着脱機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの軸の同一部位外周に軸方向直線状のスプライン溝とらせん状のボールねじ溝とを有するボールねじ軸と、前記ボールねじ軸のスプライン溝と対向して内周に軸方向直線状のスプライン溝を有するスプラインナットと、前記ボールねじ軸のボールねじ溝と対向して内周にらせん状のボールねじ溝を有するボールねじナットと、前記ボールねじ軸及び前記スプラインナットのスプライン溝間とボールねじ軸及び前記ボールねじナットのボールねじ溝間とに多数の転動体が並んで配設されるスプライン付きボールねじ装置であり、前記スプラインナットと前記ボールねじナットが軸方向に近接して配置され、異常発生時に前記スプラインナットと前記ボールねじナット間の相対回転を抑制するブレーキ機構を備えていることを特徴とするスプライン付きボールねじ装置。
【請求項2】
前記スプラインナットと前記ボールねじナットにはそれぞれ外周にブレーキロータを備え、この内一方は軸線方向に移動可能となっている請求項1記載のスプライン付きボールねじ装置。
【請求項3】
前記ブレーキ機構は電気制御可能な電磁ブレーキで構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスプライン付きボールねじ装置。
【請求項4】
前記電磁ブレーキは無通電時に弾性体の力によって作動する無励磁作動型ブレーキで構成されていることを特徴とする請求項3記載のスプライン付きボールねじ装置。
【請求項5】
前記ボールねじナットを回転可能に支持する転がり軸受と、前記スプラインナットを回転可能に支持する転がり軸受と、それぞれの前記転がり軸受の回転速度を検出する回転センサと、前記両転がり軸受間の回転速度差を演算しその回転速度差の値と設定値との差がある閾値を越えると外部にエラー信号を出す異常判定部とを備え、前記エラー信号によって前記ブレーキ機構が作動することを特徴とする請求項1から4に記載のスプライン付きボールねじ装置。
【請求項6】
接合ツールとワークとを接触させた状態で、前記接合ツールの回転及び押圧によって前記接合ツールと前記ワークとの接合部で発生する摩擦熱で前記接合部を軟化させ、攪拌して前記ワークを接合する摩擦攪拌接合装置において、前記接合ツールに軸方向移動及び回転を付与する駆動機構に請求項1から5に記載のスプライン付きボールねじ装置を備えていることを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
前記ボールねじ軸と前記接合ツールとが一体に形成されていることを特徴とする請求項6記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項8】
前記接合ツールが前記ボールねじ軸と同一素材から削り出しにより形成されることを特徴とする請求項7記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項9】
前記接合ツールが摩擦圧接で前記ボールねじに接合された素材を後加工して形成されることを特徴とする請求項8記載の摩擦攪拌接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174601(P2011−174601A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101662(P2010−101662)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】