説明

スプロケットのクッション構造

【課題】 ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットのクッション構造において、運転時の騒音を低減させるとともに、耐久性を一層向上させる。
【解決手段】 スプロケット1の溝10aに沿って各々環状の第1、第2のクッションリング2、3を互いに摺接可能に設ける。第1のクッションリング2は、単一のワイヤから構成され、複数の凸状部2aからなる波形状を有している。第2のクッションリング3は、単一のワイヤから構成され、スプロケット1の外周に沿った円形状を有している。ローラチェーン5と噛み合う際には、ローラ50が第2のクッションリング3に当接して、第2のクッションリング3を弾性変形させ、続いて、第1のクッションリング2を弾性変形させる。また、このとき、第1、第2のクッションリング2、3が互いに摺接する。これにより、ローラ50とスプロケット歯10との衝突音が効果的に低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットのクッション構造に関し、詳細には、クッションリングを用いたものにおいてその構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ローラチェーンまたはブシュチェーンがスプロケットと噛み合う際には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケットの歯面に係合する。このとき、ローラまたはブシュがスプロケットの歯面に衝突することで、騒音が発生する。
【0003】
このような騒音を低減させるために、これまで種々の改良が行われてきた。
例えば、実開昭52−163661号公報に記載されたものでは、同公報の第1図に示すように、スプロケットの歯面に沿って全周に形成した溝に緩衝ゴムを多角形状に張設している。スプロケットがローラチェーンと噛み合う際には、ローラチェーンのローラが緩衝ゴムに当接し、このとき、ローラは緩衝ゴムの弾性により支持された状態でスプロケットの歯底に係合する。これにより、ローラとスプロケット歯との衝突音が軽減される。
【0004】
また、実開昭57−137856号公報に記載されたものでは、同公報の第1図ないし第4図に示すように、スプロケットの歯底部に形成した周溝に弾性リング(Oリング)を環状に装着している。チェーンがスプロケットと噛み合う際には、チェーンのピンが弾性リングに当接し、このとき、ピンは弾性リングに弾性支持された状態でスプロケットの歯底に係合する。これにより、ピンとスプロケット歯との衝突音が軽減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記各公報に記載されたものは、いずれも、金属製のローラまたはピンがゴム製の弾性体に衝突することで、噛合時の騒音の低減を図っている。
【0006】
しかしながら、これらの場合には、弾性体の弾性変形のみで衝撃を吸収緩和しようとしているため、長時間の運転中に弾性体が摩耗し、その結果、弾性体による衝撃吸収性が低下するおそれがある。したがって、従来の構造では、耐久性に問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットにおいて、運転時の騒音を低減でき、しかも耐久性を一層向上させることができるクッション構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットのクッション構造であって、スプロケットは、その外周に沿って配設された複数の歯と、各歯の歯面に周方向に形成された溝とを有している。クッション構造は、溝に沿って配設された各々環状の第1および第2のクッションリングを有している。第1のクッションリングは、単一のワイヤから構成されるとともに、間隔を隔てて配置された複数の凸状部からなる波形状を有している。第2のクッションリングは、単一のワイヤから構成されるとともに、スプロケットの外周に沿った円形状を有している。第1および第2のクッションリングは、互いに摺接可能に設けられている。
【0009】
請求項1の発明によれば、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケット歯と噛み合う際には、ローラまたはブシュが第1または第2のクッションリングに当接し、そのとき、第1のクッションリングに続いて第2のクッションリングが弾性変形し、または、第2のクッションリングに続いて第1のクッションリングが弾性変形し、その結果、第1および第2のクッションリングが互いに摺接する。
【0010】
すなわち、この場合には、チェーンとの噛合時に、第1および第2のクッションリングが弾性変形するのみならず、第1および第2のクッションリングが互いに摺動するので、ローラまたはブシュがスプロケット歯に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、これにより、運転時の騒音を低減できる。
【0011】
しかも、この場合には、第1および第2のクッションリングがいずれもワイヤ製なので、ローラまたはブシュの衝突によっても、また互いの摺動によっても摩耗しにくく、これにより、運転時の耐久性を一層向上できる。
【0012】
請求項2の発明では、請求項1において、第1のクッションリングの始端および終端が連結されている。
【0013】
この場合には、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時には、第1のクッションリングの凸状部が弾性変形することにより、衝突音を低減できる。
【0014】
請求項3の発明では、請求項1において、第1のクッションリングの始端および終端が連結されておらず、互いに摺動可能にオーバラップしている。
【0015】
この場合には、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時には、第1のクッションリングの凸状部が弾性変形するのみならず、第1のクッションリングの始端および終端が互いに摺動するので、より効果的に衝突音を低減できる。
【0016】
請求項4の発明では、請求項1において、第2のクッションリングの始端および終端が連結されている。
【0017】
この場合には、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時には、第2のクッションリングの凸状部が弾性変形することにより、衝突音を低減できる。
【0018】
請求項5の発明では、請求項1において、第2のクッションリングの始端および終端が連結されておらず、互いに摺動可能にオーバラップしている。
【0019】
この場合には、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時には、第2のクッションリングの凸状部が弾性変形するのみならず、第2のクッションリングの始端および終端が互いに摺動するので、より効果的に衝突音を低減できる。
【0020】
請求項6の発明では、請求項1において、第1のクッションリングの各凸状部がスプロケットの各歯に対応して設けられている。
【0021】
この場合には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケットのいずれの歯と噛み合う際でも、第1のクッションリングのいずれかの凸状部が弾性変形するので、衝突音をより効果的に低減できる。
【0022】
請求項7の発明では、請求項1において、第1のクッションリングが第2のクッションリングの内側に配置されている。
【0023】
この場合には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケット歯と噛み合う際には、ローラまたはブシュが、まず、第2のクッションリングに当接して、第2のクッションリングを弾性変形させ、続いて第1のクッションリングを弾性変形させる。また、このとき、第2のクッションリングが第1のクッションリングの上を摺動する。これにより、ローラまたはブシュがスプロケット歯に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、運転時の騒音を低減できる。
【0024】
請求項8の発明では、請求項7において、第2のクッションリングが、第1のクッションリングの各凸状部に外接している。
【0025】
この場合には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケット歯と噛み合う際には、ローラまたはブシュが、まず、第2のクッションリングに当接して、第2のクッションリングを弾性変形させ、続いて第1のクッションリングの凸状部を弾性変形させる。また、このとき、第2のクッションリングが第1のクッションリングの凸状部の上を摺動する。これにより、ローラまたはブシュがスプロケット歯に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、運転時の騒音を低減できる。
【0026】
請求項9の発明では、請求項7において、第2のクッションリングの内径が第1のクッションリングの外径よりも大きくなっており、第2のクッションリングの中心が第1のクッションリングの中心に対して偏倚している。
【0027】
この場合には、第2のクッションリングの内径が第1のクッションリングの外径よりも大きく、第2のクッションリングが第1のクッションリングに対して偏心していることにより、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時に、第2のクッションリングが弾性変形する際には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュが当接する第2のクッションリングの被当接部位が局部的に弾性変形すると同時に、第2のクッションリング全体が長円状に弾性変形する。これらの相乗効果により、衝突音を効果的に軽減できるばかりでなく、第2のクッションリングの局部摩耗を低減して、耐久性を向上できる。
【0028】
請求項10の発明では、請求項1において、第1のクッションリングが第2のクッションリングの外側に配置されている。
【0029】
この場合には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケット歯と噛み合う際には、ローラまたはブシュが、まず、第1のクッションリングに当接して、第1のクッションリングを弾性変形させ、続いて第2のクッションリングを弾性変形させる。また、このとき、第1のクッションリングが第2のクッションリングの上を摺動する。これにより、ローラまたはブシュがスプロケット歯に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、運転時の騒音を低減できる。
【0030】
請求項11の発明では、請求項10において、第2のクッションリングが、第1のクッションリングの隣り合う各凸状部の間に形成された各凹状部に内接している。
【0031】
この場合には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケット歯と噛み合う際には、ローラまたはブシュが、まず、第1のクッションリングに当接して、第1のクッションリングを弾性変形させ、続いて第2のクッションリングを弾性変形させる。また、このとき、第1のクッションリングの凹状部が第2のクッションリングの上を摺動する。これにより、ローラまたはブシュがスプロケット歯に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、運転時の騒音を低減できる。
【0032】
請求項12の発明では、請求項10において、第1のクッションリングの内径が第2のクッションリングの外径よりも大きくなっており、第1のクッションリングの中心が前記第2のクッションリングの中心に対して偏倚している。
【0033】
この場合には、第1のクッションリングの内径が第2のクッションリングの外径よりも大きく、第1のクッションリングが第2のクッションリングに対して偏心していることにより、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時に、第1のクッションリングが弾性変形する際には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュが当接する第1のクッションリングの被当接部位が局部的に弾性変形すると同時に、第1のクッションリング全体が長円状に弾性変形する。これらの相乗効果により、衝突音を効果的に軽減できるばかりでなく、第1のクッションリングの局部摩耗を低減して、耐久性を向上できる。
【0034】
請求項13の発明では、請求項1において、第1、第2のクッションリングが鋼製である。
【0035】
この場合には、第1、第2のクッションリングの繰返し変形にともなう第1、第2のクッションリングのへたりを防止できるばかりでなく、第1、第2のクッションリングの摺接にともなう第1、第2のクッションリングの摩耗を低減でき、耐久性をさらに向上できる。
【0036】
請求項14の発明は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットのクッション構造であって、スプロケットは、その外周に沿って配設された複数の歯と、各歯の歯面に周方向に形成された溝とを有している。クッション構造は、溝に沿って配設された各々環状の第1および第2のクッションリングを有している。第1のクッションリングは、単一のワイヤから構成されるとともに、間隔を隔てて配置された複数の凸状部からなる波形状を有している。第2のクッションリングは、単一のワイヤから構成されるとともに、スプロケットの外周に沿った円形状を有している。第1および第2のクッションリングは、互いに摺接可能に設けられている。
【0037】
この場合、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュがスプロケット歯と噛み合う際には、ローラまたはブシュが第1または第2のクッションリングに当接し、そのとき、第1または第2のクッションリングに続いて第2または第1のクッションリングが弾性変形するとともに、第1および第2のクッションリングが互いに摺接する。これにより、ローラまたはブシュとスプロケット歯との衝突音が低減される。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明に係るクッション構造によれば、互いに摺接可能なワイヤ製の第1、第2のクッションリングを設けたので、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時には、第1および第2のクッションリングが弾性変形するのみならず、第1および第2のクッションリングが互いに摺動する。これにより、ローラまたはブシュがスプロケット歯に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、運転時の騒音を低減できるとともに、耐久性を一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施例によるクッション構造を備えたスプロケットの一部切欠き正面図である。
【図2】前記クッション構造(図1)の正面図である。
【図3】図1の切欠き部分の拡大図である。
【図4】図1のIV-IV線断面図である。
【図5】前記クッション構造(図1)を構成する第1のクッションリングの始端および終端部分の拡大図であって、(a)は始端および終端が突合せ溶接により連結されている状態を示し、(b)は始端および終端部分がオーバラップした状態で互いに摺接可能に設けられている状態を示している。
【図6】前記クッション構造(図1)を構成する第2のクッションリングの始端および終端部分の拡大図であって、(a)は始端および終端が突合せ溶接により連結されている状態を示し、(b)は始端および終端部分がオーバラップした状態で互いに摺接可能に設けられている状態を示している。
【図7】前記スプロケット(図1)がローラチェーンまたはブシュチェーンと噛み合っている状態を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例によるクッション構造を備えたスプロケットの一部切欠き正面図である。
【図9】前記クッション構造(図8)の正面図である。
【図10】図8の切欠き部分の拡大図である。
【図11】図8のXI-XI線断面図である。
【図12】前記スプロケット(図8)がローラチェーンまたはブシュチェーンと噛み合っている状態を示す図である。
【図13】本発明の第3の実施例によるクッション構造の正面図である。
【図14】本発明の第4の実施例によるクッション構造の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
〔第1の実施例〕
図1ないし図7は、本発明の第1の実施例によるクッション構造を説明するための図であって、これらの図において、同等符号は同一または相等部分を示している。
【0041】
図1に示すように、スプロケット1は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットであって、外周に沿って配設された複数の歯10を有している。周方向に隣り合う各歯10の間には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュが係合する円弧状の歯底部11が形成されている。
【0042】
各歯10の歯面には、周方向に溝10aが形成されている。溝10aは、図1のIV-IV線断面である図4に示すように、歯厚方向(同図左右方向)の略中央部において、歯先からスプロケット中心に向かって歯部に切り込まれたスリット状の溝である。
【0043】
溝10a内には、本発明の第1の実施例によるクッション構造を構成する第1のクッションリング2および第2のクッションリング3が設けられている。第1のクッションリング2は、第2のクッションリング3の内側(つまり内周側)に配置されている。第1、第2のクッションリング2、3はいずれも環状の部材であって、溝10aに沿って配設されている(図3参照)。
【0044】
図2に示すように、第1のクッションリング2は、単一のワイヤから構成されており、間隔を隔てて配置された複数の凸状部(凸状湾曲部)2aからなる波形状を有している。周方向に隣り合う各凸状部2aの間には、凹状部(凹状湾曲部)2bが形成されている。各凸状部2aは、スプロケット1の各歯10に対応する位置に配置されている。
【0045】
第2のクッションリング3は、同様に、単一のワイヤから構成されており、スプロケット外周に沿った円形状を有している。ここでは、第2のクッションリング3が第1のクッションリング2に外接しており、第2のクッションリング3は、第1のクッションリング2の各凸状部2aに摺接可能に設けられている。
【0046】
第1、第2のクッションリング2、3は、金属製であり、好ましくは鋼製である。より具体的には、第1、第2のクッションリング2、3は、ばね鋼やステンレス鋼等から構成されている。
【0047】
第1のクッションリング2の始端20および終端21は、図5(a)に示すように、例えば突合せ溶接されることにより、固着されて連結されている。同様に、第2のクッションリング3の始端30および終端31は、図6(a)に示すように、例えば突合せ溶接されることにより、固着されて連結されている。
【0048】
次に、ローラチェーンがスプロケット1と噛み合う際のクッション構造の挙動について図7を用いて説明する。
なお、同図において、参照符号5はローラチェーンを模式的に示しており、参照符号50は、ローラチェーン5のローラを示している。また、矢印Aはスプロケット1の回転方向を、矢印Bはローラチェーン5の走行方向をそれぞれ示している。
【0049】
スプロケット1がローラチェーン5のローラ50と噛み合う際には、ローラチェーン5のローラ50が、スプロケット1の歯底部11において、クッション構造の外周側に配置された第2のクッションリング3に当接する。すると、第2のクッションリング3が歯底部11の側に向かって弾性変形し、その結果、クッション構造の内周側に配置された第1のクッションリング2も歯底部11の側に向かって弾性変形して、ローラ50が歯底部11に係合する。このとき、第1、第2のクッションリング2、3は、ローラ50と歯底部11の間で挟持されている。
【0050】
この場合には、ローラ50との噛合時に、ローラ50はまず第2のクッションリング3によって弾性支持され、続いて第1のクッションリング2によっても(したがって第1および第2のクッションリング2、3の双方によって)弾性支持される。すなわち、この場合には、ローラ50の弾性支持が2段階で行われる、別の言い方をすれば、ローラ50から受けた衝突エネルギが第1、第2のクッションリング2、3による2段階の弾性変形で段階的に消費されるので、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を効果的に低減できる。
【0051】
また、このクッション構造においては、第2のクッションリング3が第1のクッションリング2の凸状部2aに外接しているので、第2のクッションリング3の弾性変形時には、第1、第2のクッションリング2、3が互いに摺動する。すなわち、この場合には、ローラ50から受けた衝突エネルギが第1、第2のクッションリング2、3間の摺動による摩擦熱で消費されるので、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を効果的に低減できる。
【0052】
以上説明したように、ローラチェーン5のローラ50と噛み合う際には、第1、第2のクッションリング2、3が弾性変形すると同時に、第1、第2のクッションリング2、3が互いに摺動するので、これらの相乗効果により、ローラ50がスプロケット歯10の歯底部11に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、これにより、運転時の騒音を低減できる。
【0053】
しかも、この場合には、第1、第2のクッションリング2、3がいずれもワイヤ製なので、ローラ50の衝突によっても、また互いの摺動によっても摩耗しにくく、これにより、運転時の耐久性を一層向上できる。
【0054】
なお、前記第1の実施例では、第1のクッションリング2の始端20および終端21が互いに固着されるとともに、第2のクッションリング3の始端30および終端31が互いに固着された例を示したが、図5(b)に示すように、第1のクッションリング2の始端20および終端21は、オーバラップした状態で互いに摺接可能に設けられていてもよい。同様に、第2のクッションリング3の始端30および終端31は、図6(b)に示すように、オーバラップした状態で互いに摺接可能に設けられていてもよい。
【0055】
この場合、ローラ50の衝突によって、第1のクッションリング2が弾性変形する際には、第1のクッションリング2の始端20および終端21が互いに摺動し得るので、ローラ50から受けた衝突エネルギをこれら始端20および終端21間の摺動による摩擦熱によっても消費でき、これにより、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を一層効果的に低減できる。
【0056】
同様に、ローラ50の衝突によって、第2のクッションリング3が弾性変形する際には、第2のクッションリング3の始端30および終端31が互いに摺動し得るので、ローラ50から受けた衝突エネルギをこれら始端30および終端31間の摺動による摩擦熱によっても消費でき、これにより、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を一層効果的に低減できる。
【0057】
〔第2の実施例〕
図8ないし図12は、本発明の第2の実施例によるクッション構造を説明するための図であって、これらの図において、前記第1の実施例と同等符号は同一または相等部分を示している。
【0058】
図8に示すように、スプロケット1は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットであって、外周に沿って配設された複数の歯10を有している。周方向に隣り合う各歯10の間には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュが係合する円弧状の歯底部11が形成されている。
【0059】
各歯10の歯面には、周方向に溝10aが形成されている。溝10aは、図8のXI-XI線断面である図11に示すように、歯厚方向(同図左右方向)の略中央部において、歯先からスプロケット中心に向かって歯部に切り込まれたスリット状の溝である。
【0060】
溝10a内には、本発明の第2の実施例によるクッション構造を構成する第1のクッションリング2および第2のクッションリング3が設けられている。第1のクッションリング2は、第2のクッションリング3の外側(つまり外周側)に配置されている。第1、第2のクッションリング2、3はいずれも環状の部材であって、溝10aに沿って配設されている(図10参照)。
【0061】
図9に示すように、第1のクッションリング2は、単一のワイヤから構成されており、間隔を隔てて配置された複数の凸状部(凸状湾曲部)2aからなる波形状を有している。周方向に隣り合う各凸状部2aの間には、凹状部(凹状湾曲部)2bが形成されている。各凸状部2aは、スプロケット1の各歯10に対応する位置に配置されている。
【0062】
第2のクッションリング3は、同様に、単一のワイヤから構成されており、スプロケット外周に沿った円形状を有している。ここでは、第2のクッションリング3が第1のクッションリング2に内接しており、第2のクッションリング3は、第1のクッションリング2の周方向に隣り合う各凸状部2aの間の各凹状部2bに摺接可能に設けられている。
【0063】
第1、第2のクッションリング2、3は、金属製であり、好ましくは鋼製である。より具体的には、第1、第2のクッションリング2、3は、ばね鋼やステンレス鋼等から構成されている。
【0064】
第1のクッションリング2の始端20および終端21は、前記第1の実施例の図5(a)に示すように、例えば突合せ溶接されることにより、固着されて連結されている。同様に、第2のクッションリング3の始端30および終端31は、前記第1の実施例の図6(a)に示すように、例えば突合せ溶接されることにより、固着されて連結されている。
【0065】
次に、ローラチェーンがスプロケット1と噛み合う際のクッション構造の挙動について図12を用いて説明する。
なお、同図において、参照符号5はローラチェーンを模式的に示しており、参照符号50は、ローラチェーン5のローラを示している。また、矢印Aはスプロケット1の回転方向を、矢印Bはローラチェーン5の走行方向をそれぞれ示している。
【0066】
スプロケット1がローラチェーン5のローラ50と噛み合う際には、ローラチェーン5のローラ50が、スプロケット1の歯底部11において、クッション構造の外周側に配置された第1のクッションリング2に当接する。すると、第1のクッションリング2が歯底部11の側に向かって弾性変形し、その結果、クッション構造の内周側に配置された第2のクッションリング3も歯底部11の側に向かって弾性変形して、ローラ50が歯底部11に係合する。このとき、第1、第2のクッションリング2、3は、ローラ50と歯底部11の間で挟持されている。
【0067】
この場合には、ローラ50との噛合時に、ローラ50はまず第1のクッションリング2によって弾性支持され、続いて第2のクッションリング3によっても(したがって第1および第2のクッションリング2、3の双方によって)弾性支持される。すなわち、この場合には、ローラ50の弾性支持が2段階で行われる、別の言い方をすれば、ローラ50から受けた衝突エネルギが第1、第2のクッションリング2、3による2段階の弾性変形で段階的に消費されるので、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を効果的に低減できる。
【0068】
また、このクッション構造においては、第2のクッションリング3が第1のクッションリング2の凹状部2bに内接しているので、第1のクッションリング2の弾性変形時には、第1、第2のクッションリング2、3が互いに摺動する。すなわち、この場合には、ローラ50から受けた衝突エネルギが第1、第2のクッションリング2、3間の摺動による摩擦熱で消費されるので、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を効果的に低減できる。
【0069】
以上説明したように、ローラチェーン5のローラ50と噛み合う際には、第1、第2のクッションリング2、3が弾性変形すると同時に、第1、第2のクッションリング2、3が互いに摺動するので、これらの相乗効果により、ローラ50がスプロケット歯10の歯底部11に衝突する際の衝突音を効果的に低減でき、これにより、運転時の騒音を低減できる。
【0070】
しかも、この場合には、第1、第2のクッションリング2、3がいずれもワイヤ製なので、ローラ50の衝突によっても、また互いの摺動によっても摩耗しにくく、これにより、運転時の耐久性を一層向上できる。
【0071】
なお、前記第2の実施例では、第1のクッションリング2の始端20および終端21が互いに固着されるとともに、第2のクッションリング3の始端30および終端31が互いに固着された例を示したが、前記第1の実施例の図5(b)に示すように、第1のクッションリング2の始端20および終端21は、オーバラップした状態で互いに摺接可能に設けられていてもよい。同様に、第2のクッションリング3の始端30および終端31は、前記第1の実施例の図6(b)に示すように、オーバラップした状態で互いに摺接可能に設けられていてもよい。
【0072】
この場合、ローラ50の衝突によって、第1のクッションリング2が弾性変形する際には、第1のクッションリング2の始端20および終端21が互いに摺動し得るので、ローラ50から受けた衝突エネルギをこれら始端20および終端21間の摺動による摩擦熱によっても消費でき、これにより、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を一層効果的に低減できる。
【0073】
同様に、ローラ50の衝突によって、第2のクッションリング3が弾性変形する際には、第2のクッションリング3の始端30および終端31が互いに摺動し得るので、ローラ50から受けた衝突エネルギをこれら始端30および終端31間の摺動による摩擦熱によっても消費でき、これにより、ローラ50がスプロケット1の歯底部11と衝突する際の衝突音を一層効果的に低減できる。
【0074】
前記第1、第2の実施例では、スプロケットがローラチェーンと噛み合う場合を例にとって説明したが、本発明は、スプロケットがブシュチェーンと噛み合う場合についても同様に適用可能である。この場合には、図7、図12において、参照符号50がブシュチェーンのブシュを示している。
【0075】
〔第3の実施例〕
前記第1の実施例では、図2に示すように、第1、第2のクッションリング2、3が同芯に配置された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。図13は、本発明の第3の実施例によるクッション構造を示している。同図において、前記第1の実施例と同等符号は、同一または相等部分を示している。
【0076】
図13に示すように、この第3の実施例では、第2のクッションリング3の内径が第1のクッションリング2の外径よりも大きくなっている。すなわち、第1のクッションリング2の中心をCとし、第2のクッションリング3の中心をCとすると、中心Cは中心Cに対してeだけ偏倚している。
【0077】
この場合には、第2のクッションリング3の内径が第1のクッションリング2の外径よりも大きく、第2のクッションリング3が第1のクッションリング2に対して偏心していることにより、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時に、第2のクッションリング3が弾性変形する際には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュが当接する第2のクッションリング3の被当接部位が局部的に弾性変形するのみならず、第2のクッションリング3全体が長円状に弾性変形する。これらの相乗効果により、衝突音を効果的に軽減できるばかりでなく、第2のクッションリング3の局部摩耗を低減して、耐久性を向上できる。
【0078】
〔第4の実施例〕
前記第2の実施例では、図9に示すように、第1、第2のクッションリング2、3が同芯に配置された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。図14は、本発明の第4の実施例によるクッション構造を示している。同図において、前記第2の実施例と同等符号は、同一または相等部分を示している。
【0079】
図14に示すように、この第3の実施例では、第1のクッションリング2の内径が第2のクッションリング3の外径よりも大きくなっている。すなわち、第2のクッションリング3の中心をC’とし、第1のクッションリング2の中心をC’とすると、中心C’は中心C’に対してe’だけ偏倚している。
【0080】
この場合には、第1のクッションリング2の内径が第2のクッションリング3の外径よりも大きく、第1のクッションリング2が第2のクッションリング3に対して偏心していることにより、ローラチェーンまたはブシュチェーンとの噛合時に、第1のクッションリング2が弾性変形する際には、ローラチェーンのローラまたはブシュチェーンのブシュが当接する第1のクッションリング2の被当接部位が局部的に弾性変形するのみならず、第1のクッションリング2全体が長円状に弾性変形する。これらの相乗効果により、衝突音を効果的に軽減できるばかりでなく、第1のクッションリング2の局部摩耗を低減して、耐久性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットに好適であり、とくに運転時の騒音の低減および耐久性の向上が要求されるものに適している。
【符号の説明】
【0082】
1: スプロケット
10: 歯
10a: 溝
11: 歯底部

2: 第1のクッションリング
2a: 凸状部
2b: 凹状部
20: 始端
21: 終端

3: 第2のクッションリング
30: 始端
31: 終端

5: ローラチェーン
50: ローラ

、C’: 第1のクッションリングの中心
、C’: 第2のクッションリングの中心
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】実開昭52−163661号公報(第1図参照)
【特許文献2】実開昭57−137856号公報(第1図ないし第4図参照)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラチェーンまたはブシュチェーン用のスプロケットのクッション構造であって、
当該スプロケットが、その外周に沿って配設された複数の歯と、前記各歯の歯面に周方向に形成された溝とを有しており、
前記クッション構造が、
前記溝に沿って配設された各々環状の第1および第2のクッションリングを有し、
前記第1のクッションリングが、単一のワイヤから構成されるとともに、間隔を隔てて配置された複数の凸状部からなる波形状を有しており、
前記第2のクッションリングが、単一のワイヤから構成されるとともに、前記スプロケットの外周に沿った円形状を有しており、
前記第1および第2のクッションリングが互いに摺接可能に設けられている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のクッションリングの始端および終端が連結されている、
ことを特徴とするスクッション構造。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1のクッションリングの始端および終端が連結されておらず、互いに摺動可能にオーバラップしている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項4】
請求項1において、
前記第2のクッションリングの始端および終端が連結されている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項5】
請求項1において、
前記第2のクッションリングの始端および終端が連結されておらず、互いに摺動可能にオーバラップしている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1のクッションリングの前記各凸状部が前記スプロケットの前記各歯に対応して設けられている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項7】
請求項1において、
前記第1のクッションリングが前記第2のクッションリングの内側に配置されている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項8】
請求項7において、
前記第2のクッションリングが、前記第1のクッションリングの前記各凸状部に外接している、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項9】
請求項7において、
前記第2のクッションリングの内径が前記第1のクッションリングの外径よりも大きくなっており、前記第2のクッションリングの中心が前記第1のクッションリングの中心に対して偏倚している、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項10】
請求項1において、
前記第1のクッションリングが前記第2のクッションリングの外側に配置されている、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項11】
請求項10において、
前記第2のクッションリングが、前記第1のクッションリングの隣り合う前記各凸状部の間に形成された各凹状部に内接している、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項12】
請求項10において、
前記第1のクッションリングの内径が前記第2のクッションリングの外径よりも大きくなっており、前記第1のクッションリングの中心が前記第2のクッションリングの中心に対して偏倚している、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項13】
請求項1において、
前記第1、第2のクッションリングが鋼製である、
ことを特徴とするクッション構造。
【請求項14】
ローラチェーン(5)用またはブシュチェーン用のスプロケット(1)のクッション構造であって、
スプロケット(1)が、その外周に沿って配設された複数の歯(10)と、各歯(10)の歯面に周方向に形成された溝(10a)とを有しており、
クッション構造が、
溝(10a)に沿って配設された各々環状の第1および第2のクッションリング(2、3)を有し、
第1のクッションリング(2)が、単一のワイヤから構成されるとともに、間隔を隔てて配置された複数の凸状部(2a)からなる波形状を有しており、
第2のクッションリング(3)が、単一のワイヤから構成されるとともに、スプロケット(1)の外周に沿った円形状を有しており、
第1および第2のクッションリング(2、3)が互いに摺接可能に設けられており、
ローラチェーン(5)のローラ(50)またはブシュチェーンのブシュがスプロケット(1)と噛み合う際には、ローラ(50)またはブシュが第1または第2のクッションリング(2、3)に当接して第1または第2のクッションリング(2、3)を弾性変形させ、続いて第2または第1のクッションリング(3、2)を弾性変形させ、そのとき、第1および第2のクッションリング(2、3)が互いに摺接することにより、ローラ(50)またはブシュとスプロケット歯(10)との衝突音が低減されている、
ことを特徴とするクッション構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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