スペクトラムセンサ
【課題】光スペクトラムを精度よく分析でき、低価格かつ小型化を実現できるスペクトラムセンサを提供する。
【解決手段】少なくとも1方向における幅が所定幅であるピンホール11を有する配線層10と、配線層10を透過した光の光強度を検出するフォトダイオード20とを備え、配線層10は、少なくとも1方向に振動する光において所定幅に対応する所定波長より短い波長の光を、ピンホール11において透過させる。
【解決手段】少なくとも1方向における幅が所定幅であるピンホール11を有する配線層10と、配線層10を透過した光の光強度を検出するフォトダイオード20とを備え、配線層10は、少なくとも1方向に振動する光において所定幅に対応する所定波長より短い波長の光を、ピンホール11において透過させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を分光してスペクトラムの分析を行うスペクトラムセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディジタルカメラはディスプレイの性能として映像の色再現性が進歩し、色再現性についての指標をアピールポイントにする製品が多く見られるようになっている。しかし、ディジタルカメラなどで撮像されディスプレイに再現される色は、実際の物体の色を忠実に再現しきれていない。一方で、医療、アーカイブなどの目的において色を忠実に再現するためにも光スペクトラムを精度よく分析することが求められている。
【0003】
光スペクトラムを分析する装置としては、特許文献1のような回折格子方式の光スペクトラムアナライザと、特許文献2のようなカラーフィルタ方式のスペクトラムセンサとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−198938号公報
【特許文献2】特開2008−160210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような、スペクトラムを高精度で測定する回折格子方式の光スペクトラムアナライザは、主に分析化学などで用いられている。このような機器は、高価であり、また、大型である。また、このような機器を利用してスペクトラムを高精度で測定するのには、多くの時間を要する。
【0006】
また、特許文献2のような一般によく知られるディジタルカメラに使われているカラーフィルタ方式では、RGBの光強度しか測定しておらず、本来の色を再現するためにはカラーフィルタを増やす必要がある。このため、カラーフィルタ方式においても、高精度なスペクトラムを測定しようとすると、高コストかつ大型になり易い。
【0007】
本発明の課題は、このような問題を解決するためになされたものであり、光スペクトラムを精度よく分析でき、低価格かつ小型化を実現できるスペクトラムセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係るスペクトラムセンサは、少なくとも1方向における幅が所定幅である開口部を有する分光部と、前記分光部を透過した光の光強度を検出する光強度検出部とを備え、前記分光部は、前記少なくとも1方向に振動する光のうちで前記所定幅に対応する所定波長より短い波長の光を、前記開口部において透過させる。
【0009】
光等の波はその波長より小さい間隔の間隙を通過できない性質を持つ。したがって、波長の広がりを有する光(つまり、所定の範囲の波長成分を有する光)を直径が所定幅の開口部に当てた場合に、例えばピンホールの直径やスリットの幅等に応じて、通り抜ける波長の限度(以下、「遮断波長」とする)が変化する。つまり、開口部は、所定幅に対応する所定波長より短い波長の光に濾波する。
【0010】
したがって、光強度検出部は、所定波長より短い波長の光に濾波された光の光強度を検出することができる。このため、例えば開口部の幅を変化させることにより、ある特定の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用することができる。これにより、分光部の構造をシンプルな構造とすることができ、小型化することができる。また、開口部の幅を変化させることのみで、それによって得られた結果を所定の範囲における波長の光の光強度の検出に利用することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。また、開口部を透過した光を光強度検出部が検出することになり、外部からの光の侵入を少なくできるため、SN比を増大させることができる。
【0011】
また、前記開口部は、直径が前記所定幅であるピンホールであることが好ましい。
【0012】
これによれば、開口部として直径が所定幅であるピンホールを採用することにより、ある特定の方向のみでなく、全方向において幅が所定幅である開口部とすることができる。このため、特定方向のみでなく全方向において振動する光を、所定波長より短い波長の光に濾波することができる。これにより、予め光を特定の方向に振動する光に偏向させなくとも、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【0013】
また、前記分光部は、前記開口部を複数有することが好ましい。
【0014】
これによれば、開口部を複数有するため、光強度検出部に到達する光の光強度を増加させることができる。このため、光強度検出部によるスペクトラムを検出するための感度を向上させることができる。
【0015】
また、前記複数の開口部は、直径が第一所定幅の第一開口部と、直径が前記第一所定幅よりも小さい第二所定幅の第二開口部であり、前記第一所定幅に対応する第一所定波長は、前記第二所定幅に対応する第二所定波長よりも長いことが好ましい。
【0016】
また、さらに、各々が前記光強度検出部で検出された、前記第一開口部を透過した光の第一光強度と、前記第二開口部を透過した光の第二光強度とに基づいて、前記第一所定波長から前記第二所定波長までの範囲を少なくとも含む範囲の波長の光の第三光強度を演算する演算部を備えることが好ましい。
【0017】
これによれば、直径が第一所定幅の第一開口部と、直径が第一所定幅よりも小さい第二所定幅の第二開口部とにより複数の開口部が形成されている。このため、第一開口部により濾波されて第一所定波長以下になった第一の光と、第二開口部により濾波されて第二所定波長以下になった第二の光との光の光強度を一度に検出することができる。このため、第一の光の光強度と第二の光の光強度とに基づいて演算を行うことにより、差し引くことにより、少なくとも第一所定波長から第二所定波長の範囲を含む範囲の波長のスペクトラムを検出することができる。これにより、一度に特定の範囲の波長のスペクトラムを検出することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低価格かつ小型のスペクトラムセンサにおいて、光スペクトラムを精度よく分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るスペクトラムセンサを表す図である。
【図2】スペクトラムセンサ1の1ユニットにおけるセンサの構造を示す斜視図である。
【図3A】ユニットセンサの断面図において、直径が第一所定幅のピンホールを透過する光を示す図である。
【図3B】ユニットセンサの断面図において、直径が第二所定幅のピンホールを透過する光を示す図である。
【図4A】図3Aのフォトダイオードが検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【図4B】図3Bのフォトダイオードが検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【図4C】図4Aと図4Bとの差分をとった場合の、光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【図5A】ピンホールの直径が400〔nm〕における透過係数特性を示す図である。
【図5B】ピンホールの直径が410〔nm〕における透過係数特性を示す図である。
【図5C】図5Aと図5Bとの差分をとった場合の透過係数特性を示す図である。
【図6】フォトダイオードの波長に対する応答特性P(λ)を示す図である。
【図7】フォトダイオード20においてピンホールの直径を250〔nm〕〜500〔nm〕と変化させた場合の分光感度特性S1(λ)〜S6(λ)を示す図である。
【図8】所定光の波長特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(スペクトラムセンサの構成)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るスペクトラムセンサ1は、一般的なCMOSイメージセンサに基づいている。図2は、スペクトラムセンサ1の1ユニットにおけるセンサユニット100の構造を示す斜視図である。
【0021】
スペクトラムセンサ1は、図1に示すように、複数のセンサユニットが行列上に配置されることによりアレイ化されて成る、いわゆるCMOSイメージセンサである。センサユニット100は、分光部として機能する配線層10と、光強度検出部として機能するフォトダイオード20と、フォトダイオード20により検出された信号(電位)を増幅する増幅部30とにより構成される。配線層10には、その中心付近に直径が所定幅である開口部としてのピンホール11を有する。フォトダイオード20は、ピンホール11を透過した光の光強度を検出し、検出した光の光強度に応じた大きさの電流を出力する。センサユニット100によって増幅部30は、フォトダイオード20により出力された電流を増幅させる。各センサユニット100によって検出された光強度は電流値として出力され、行選択回路および列選択回路を介して演算部40に対して出力される。演算部40は、入力された各電流値と、予め保持しているフォトダイオード20の応答特性P(λ)およびピンホール11の透過係数特性F(λ)とに基づいて入射された所定光の波長特性I(λ)の演算を行う。なお、フォトダイオード20の応答特性P(λ)、ピンホール11の透過係数特性F(λ)、および所定光の波長特性I(λ)についての詳細は後述する。
【0022】
(分光の原理)
光等の波はその波長より小さい間隔の間隙を通過できない性質を持つ。したがって、波長の広がりを有する光(つまり、所定の範囲の波長成分を有する光)では、ピンホール11の大きさに応じて通り抜ける波長の限度(以下、「遮断波長」とする)が変化する。つまり、ピンホール11は、直径(所定幅)に対応する所定波長より短い波長の光に濾波する。
【0023】
例えば図3Aに示すように、ピンホール11aに青色の光(図3Aの実線の矢印)、緑色の光(図3Aの破線の矢印)、および赤色の光(図3Aの一点鎖線の矢印)の3色の光(つまり、白色光)を当てた場合に、直径が第一所定幅d1のピンホール11aでは、第一所定幅d1に対応する第一所定波長よりも短い波長の青色の光および緑色の光の2色の光(第一の光)を透過させ、第一所定波長よりも長い波長の赤色の光を遮断する。また、図3Bに示すように、ピンホール11bに3色の光を当てた場合に、直径が第一所定幅d1よりも小さい第二所定幅d2のピンホール11bでは、第二所定幅d2に対応する第二所定波長よりも短い波長の青色の光(図3Bの実線の矢印)の1色の光(第二の光)を透過させ、第二所定波長より長い波長の緑色および赤色の光(図3Bの一点鎖線の矢印)を遮断する。なお、第一所定波長は第二所定波長よりも短い。
【0024】
図4Aは、図3Aのフォトダイオード20が検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。図4Bは、図3Bのフォトダイオード20が検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。図4Aおよび図4Bに示すように、ピンホールの直径の大きさを変化させることにより、光の波長特性は異なる。そこで、これらの2つの波長特性の差分をとると、図4Cに示すようなスペクトラムが得られる。なお、図4Cは、図4Aと図4Bとの差分をとった場合の、光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【0025】
このように、ピンホールの直径の大きさ(所定幅)を変化させて、それぞれのピンホールを透過した光の光強度に応じた電流を検出することにより、所定範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用できる。以上のことから、センサユニットに設けられるピンホールの大きさをそれぞれ変化させることにより、任意の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用できる。
【0026】
(ピンホールの大きさと透過した光の波長との関係)
特定の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出するためには、予め、ピンホール11の直径と、当該ピンホール11を透過する光の波長との両方を変化させつつ、当該直径と当該波長とに対応する当該ピンホール11を透過する光の波長に応じた光の光強度を調べる必要がある。このため、可視光の波長を均一に持つ光をスペクトラムセンサ1に当て、ピンホール11を透過した光の波長特性をFDTDシミュレーションにより調べた。FDTDシミュレーションの結果を以下に述べる。
【0027】
このシミュレーションでは、300〔nm〕〜900〔nm〕の波長の光(電磁波)を解像度1nmの精度で変化させた場合のピンホールを透過する光の透過係数(以下、「透過係数特性」とする)を導出した。なお、光の透過係数は、光強度に比例するため、ここでは光強度を求めるための指標としている。また、ピンホールの大きさについても250〔nm〕〜600〔nm〕の間で変化させた場合の結果をそれぞれ導出した。図5Aは、直径が400〔nm〕のピンホールP400における透過係数特性F9(λ)である。この場合に、透過係数が最大となる遮断波長は、577〔nm〕であった。また、図5Bは、直径が410〔nm〕のピンホールP410における透過係数特性F10(λ)である。この場合に、透過係数が最大となる遮断波長は、593〔nm〕であった。
【0028】
ここで、上述したように、直径が400〔nm〕のピンホールP400の透過係数特性F9(λ)と、直径が410〔nm〕のピンホールP410の透過係数特性F10(λ)との差分F10(λ)−F9(λ)をとると、図5Cに示すような641〔nm〕付近の波長において、透過係数が最大となるスペクトラムを求めることができる。なお、図5Cは、図5Aと図5Bとの差分をとった場合の透過係数特性を示す図である。
【0029】
同様にして、直径が260〔nm〕のピンホールP260の透過係数特性F2(λ)と直径が250〔nm〕のピンホールP250の透過係数特性F1(λ)との差分F2(λ)−F1(λ)と、直径が300〔nm〕のピンホールP300の透過係数特性F4(λ)と直径が290〔nm〕のピンホールP290の透過係数特性F3(λ)との差分F4(λ)−F3(λ)と、直径が330〔nm〕のピンホールP330の透過係数特性F6(λ)と直径が320〔nm〕のピンホールP320の透過係数特性F5(λ)との差分F6(λ)−F5(λ)と、直径が360〔nm〕のピンホールP360の透過係数特性F8(λ)と直径が350〔nm〕のピンホールP350の透過係数特性F7(λ)との差分F8(λ)−F7(λ)と、直径が500〔nm〕のピンホールP500の透過係数特性F12(λ)と直径が490〔nm〕のピンホールP490の透過係数特性F11(λ)との差分F12(λ)−F11(λ)とをそれぞれ求めた。
【0030】
(フォトダイオードの受光感度の考慮)
ところで、フォトダイオード20の受光感度は、図6に示すように、波長に対して応答が異なる。図6は、フォトダイオード20の波長に対する応答特性P(λ)を示す図である。したがって、フォトダイオード20によって出力される電流値を利用して、スペクトラムを分析するには、図5Cのように求めた波長ごとのスペクトラムに対して、図6に示すフォトダイオードの波長ごとの応答特性を考慮する必要がある。
【0031】
具体的には、フォトダイオードの波長ごとの応答特性P(λ)を上述で求めた各波長における差分に掛けあわせることにより、図7のようにスペクトラムセンサ1のピンホールの大きさに応じた分光感度を求めている。具体的には、図7における、S1(λ)は{F2(λ)−F1(λ)}・P(λ)であり、S2(λ)は{F4(λ)−F3(λ)}・P(λ)であり、S3(λ)は{F6(λ)−F5(λ)}・P(λ)であり、S4(λ)は{F8(λ)−F7(λ)}・P(λ)であり、S5(λ)は{F10(λ)−F9(λ)}・P(λ)であり、S6(λ)は{F12(λ)−F11(λ)}・P(λ)である。図7は、フォトダイオード20においてピンホールの直径を250〔nm〕〜500〔nm〕と変化させた場合の分光感度特性S1(λ)〜S6(λ)を示す図である。これにより、フォトダイオード20の感度が波長に応じて変化していることも考慮されることになる。つまり、例えば差分(μ410−μ400)は、なお、上述のように分光感度特性S(λ)として、フォトダイオード20の応答特性P(λ)を予め考慮しておく必要はない。
【0032】
(フォトダイオードによって検出される電流値に基づく波長特性の演算)
以下に説明する方法により、演算部40は、フォトダイオード20が検出する電流値から光のスペクトラムである波長特性I(λ)の演算を行う。演算部40は、第一開口部としてのピンホール11aを透過した光の第一光強度と、第二開口部としてのピンホール11bを透過した光の第二光強度とに基づいて、第一所定波長から第二所定波長までの範囲を少なくとも含む範囲の波長の光の第三光強度を演算する。
【0033】
フォトダイオード20によって検出される電流値は、一つの電流値として検出されるのみであり、図4Aおよび図4Bに示したような波長特性としては検出されない。したがって、ある波長特性を有する光のスペクトラムを導出するためには、以下に説明する分析を行う必要がある。例えば図8に示すような波長特性I(λ)を有する光(以下、「所定光」とする)を分析する方法について説明する。図8は、所定光の波長特性を示す図である。ただし、図8に示す波長特性は、分析前には未知のものであるとする。
【0034】
所定光は、上述したピンホールP250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500のそれぞれを透過し、各ピンホールP250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500においてフォトダイオード20により電流値が出力される。フォトダイオード20において出力される電流値は、上述したように、フォトダイオード20の応答特性P(λ)を考慮したものとなっている。電流値Iout9は、例えば、ピンホールP400の場合にフォトダイオード20により出力される電流値であって、所定光の波長特性I(λ)にピンホールP400における透過係数特性F9(λ)およびフォトダイオード20の応答特性P(λ)を掛け合わせたF9(λ)・P(λ)・I(λ)のλに関する畳み込み積分の値が検出される。
【0035】
以上同様にして、各ピンホールP250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500に関する畳み込み積分の値が、電流値として検出されることになり、以下のような式を得ることができる。
【0036】
【数1】
【0037】
これらの式のそれぞれを離散化して連立方程式を導出することにより、各波長におけるスペクトラムを求めることにより、図8に示すような波長特性I(λ)を導出することができる。
【0038】
本実施の形態に係るスペクトラムセンサ1では、光等の波はその波長より小さい間隔の間隙を通過できない性質を利用して分光している。波長の広がりを有する光(つまり、所定の範囲における複数の波長成分を有する光)を直径が所定幅の開口部に当てた場合に、ピンホール11の直径に応じて、通り抜ける波長の限度である遮断波長が変化する。つまり、ピンホール11は、その直径である所定幅に対応する所定波長より短い波長の光に入射光を濾波する。
【0039】
したがって、ピンホール11の下方(つまり入射光の下流側)に設けられたフォトダイオード20は、所定波長より短い波長の光に濾波された光の光強度を検出することができる。このため、ピンホール11の直径を変化させることにより、ある特定の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用することができる。配線層10に設けたピンホール11を分光部として機能させるため、分光部の構造をシンプルな構造とすることができ、小型化することができる。また、ピンホール11の直径を変化させることのみで、それによって得られた結果を所定の範囲における波長の光の光強度の検出に利用することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。さらに、ピンホール11を透過した光を光強度検出部が検出することになり、外部からの光の侵入を少なくできるため、SN比を増大させることができる。
【0040】
また、本実施の形態に係るスペクトラムセンサ1によれば、開口部として直径が所定幅であるピンホールを採用しているため、ある特定の方向のみでなく、全方向において幅が所定幅である開口部とすることができる。このため、特定方向のみでなく全方向において振動する光を、所定波長より短い波長の光に濾波することができる。これにより、予め光を特定の方向に振動する光に偏向させなくとも、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【0041】
また、本実施の形態に係るスペクトラムセンサ1によれば、直径が第一所定幅d1のピンホール11aと、直径が第一所定幅d1よりも小さい第二所定幅d2のピンホール11bとが形成されている。このため、ピンホール11aにより濾波されて第一所定波長以下になった第一の光(青色および緑色の光)と、ピンホール11bにより濾波されて第二所定波長以下になった第二の光(青色の光)との光の光強度を一度に検出することができる。このため、第一の光の光強度と第二の光の光強度とに基づいて演算を行うことにより、差し引くことにより、少なくとも第一所定波長から第二所定波長の範囲を含む範囲の波長のスペクトラムを検出することができる。これにより、一度に特定の範囲の波長のスペクトラムを検出することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【0042】
上記実施の形態では、分光部として配線層10にピンホール11を設けて、配線層10により分光を行っているがこれに限らない。例えば、配線層10ではない光を遮蔽する遮蔽層を設けて、当該遮蔽層にピンホール11と同じ開口を開けることにより分光を行ってもよい。ただし、配線層10を分光部として利用することにより、スペクトラムセンサ100を製造する際の工程における分光部を形成する工程として配線層を形成する工程を利用することに成るため、工程を削減することができより安価に製造することができるという点で有利である。
【0043】
上記実施の形態では、スペクトラムセンサ100はセンサユニットをアレイ化したCMOSイメージセンサを採用しているが、CCDイメージセンサであってもよい。また、アレイ化せずにセンサユニットのみを利用したものであってもよい。この場合には、光強度検出部として、フォトダイオード20を採用しているが、これに限らずに他の光検出器であってもよい。光検出器は、例えば、光電管であってもよいし、光電子倍増管であってもよい。
【0044】
上記実施の形態では、配線層10に開けられるピンホールは、センサユニットにつき一ずつであったが、これに限らずに、複数であってもよい。このように、センサユニットにピンホールを複数設けることにより、フォトダイオード20に到達する光の光強度を増加させることができる。このため、フォトダイオード20によるスペクトラムを検出するための感度を向上させることができる。
【0045】
上記実施の形態では、配線層10に開けられる開口部としてピンホールが採用されているが、これに限らずに例えば幅方向の間隔が所定幅のスリットを開口部としてもよい。なお、この場合には、予め光の振動方向をスリットの幅方向に偏光させる偏光板を利用することにより、ピンホールの場合と同様に光の各波長におけるスペクトラムを求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、低価格かつ小型のスペクトラムセンサにおいて、光スペクトラムを精度よく分析できるスペクトラムセンサとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 スペクトラムセンサ
10 配線層
11、11a、11b ピンホール
20 フォトダイオード
30 増幅部
40 演算部
100 センサユニット
P250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500 ピンホール
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を分光してスペクトラムの分析を行うスペクトラムセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディジタルカメラはディスプレイの性能として映像の色再現性が進歩し、色再現性についての指標をアピールポイントにする製品が多く見られるようになっている。しかし、ディジタルカメラなどで撮像されディスプレイに再現される色は、実際の物体の色を忠実に再現しきれていない。一方で、医療、アーカイブなどの目的において色を忠実に再現するためにも光スペクトラムを精度よく分析することが求められている。
【0003】
光スペクトラムを分析する装置としては、特許文献1のような回折格子方式の光スペクトラムアナライザと、特許文献2のようなカラーフィルタ方式のスペクトラムセンサとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−198938号公報
【特許文献2】特開2008−160210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような、スペクトラムを高精度で測定する回折格子方式の光スペクトラムアナライザは、主に分析化学などで用いられている。このような機器は、高価であり、また、大型である。また、このような機器を利用してスペクトラムを高精度で測定するのには、多くの時間を要する。
【0006】
また、特許文献2のような一般によく知られるディジタルカメラに使われているカラーフィルタ方式では、RGBの光強度しか測定しておらず、本来の色を再現するためにはカラーフィルタを増やす必要がある。このため、カラーフィルタ方式においても、高精度なスペクトラムを測定しようとすると、高コストかつ大型になり易い。
【0007】
本発明の課題は、このような問題を解決するためになされたものであり、光スペクトラムを精度よく分析でき、低価格かつ小型化を実現できるスペクトラムセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係るスペクトラムセンサは、少なくとも1方向における幅が所定幅である開口部を有する分光部と、前記分光部を透過した光の光強度を検出する光強度検出部とを備え、前記分光部は、前記少なくとも1方向に振動する光のうちで前記所定幅に対応する所定波長より短い波長の光を、前記開口部において透過させる。
【0009】
光等の波はその波長より小さい間隔の間隙を通過できない性質を持つ。したがって、波長の広がりを有する光(つまり、所定の範囲の波長成分を有する光)を直径が所定幅の開口部に当てた場合に、例えばピンホールの直径やスリットの幅等に応じて、通り抜ける波長の限度(以下、「遮断波長」とする)が変化する。つまり、開口部は、所定幅に対応する所定波長より短い波長の光に濾波する。
【0010】
したがって、光強度検出部は、所定波長より短い波長の光に濾波された光の光強度を検出することができる。このため、例えば開口部の幅を変化させることにより、ある特定の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用することができる。これにより、分光部の構造をシンプルな構造とすることができ、小型化することができる。また、開口部の幅を変化させることのみで、それによって得られた結果を所定の範囲における波長の光の光強度の検出に利用することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。また、開口部を透過した光を光強度検出部が検出することになり、外部からの光の侵入を少なくできるため、SN比を増大させることができる。
【0011】
また、前記開口部は、直径が前記所定幅であるピンホールであることが好ましい。
【0012】
これによれば、開口部として直径が所定幅であるピンホールを採用することにより、ある特定の方向のみでなく、全方向において幅が所定幅である開口部とすることができる。このため、特定方向のみでなく全方向において振動する光を、所定波長より短い波長の光に濾波することができる。これにより、予め光を特定の方向に振動する光に偏向させなくとも、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【0013】
また、前記分光部は、前記開口部を複数有することが好ましい。
【0014】
これによれば、開口部を複数有するため、光強度検出部に到達する光の光強度を増加させることができる。このため、光強度検出部によるスペクトラムを検出するための感度を向上させることができる。
【0015】
また、前記複数の開口部は、直径が第一所定幅の第一開口部と、直径が前記第一所定幅よりも小さい第二所定幅の第二開口部であり、前記第一所定幅に対応する第一所定波長は、前記第二所定幅に対応する第二所定波長よりも長いことが好ましい。
【0016】
また、さらに、各々が前記光強度検出部で検出された、前記第一開口部を透過した光の第一光強度と、前記第二開口部を透過した光の第二光強度とに基づいて、前記第一所定波長から前記第二所定波長までの範囲を少なくとも含む範囲の波長の光の第三光強度を演算する演算部を備えることが好ましい。
【0017】
これによれば、直径が第一所定幅の第一開口部と、直径が第一所定幅よりも小さい第二所定幅の第二開口部とにより複数の開口部が形成されている。このため、第一開口部により濾波されて第一所定波長以下になった第一の光と、第二開口部により濾波されて第二所定波長以下になった第二の光との光の光強度を一度に検出することができる。このため、第一の光の光強度と第二の光の光強度とに基づいて演算を行うことにより、差し引くことにより、少なくとも第一所定波長から第二所定波長の範囲を含む範囲の波長のスペクトラムを検出することができる。これにより、一度に特定の範囲の波長のスペクトラムを検出することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低価格かつ小型のスペクトラムセンサにおいて、光スペクトラムを精度よく分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るスペクトラムセンサを表す図である。
【図2】スペクトラムセンサ1の1ユニットにおけるセンサの構造を示す斜視図である。
【図3A】ユニットセンサの断面図において、直径が第一所定幅のピンホールを透過する光を示す図である。
【図3B】ユニットセンサの断面図において、直径が第二所定幅のピンホールを透過する光を示す図である。
【図4A】図3Aのフォトダイオードが検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【図4B】図3Bのフォトダイオードが検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【図4C】図4Aと図4Bとの差分をとった場合の、光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【図5A】ピンホールの直径が400〔nm〕における透過係数特性を示す図である。
【図5B】ピンホールの直径が410〔nm〕における透過係数特性を示す図である。
【図5C】図5Aと図5Bとの差分をとった場合の透過係数特性を示す図である。
【図6】フォトダイオードの波長に対する応答特性P(λ)を示す図である。
【図7】フォトダイオード20においてピンホールの直径を250〔nm〕〜500〔nm〕と変化させた場合の分光感度特性S1(λ)〜S6(λ)を示す図である。
【図8】所定光の波長特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(スペクトラムセンサの構成)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るスペクトラムセンサ1は、一般的なCMOSイメージセンサに基づいている。図2は、スペクトラムセンサ1の1ユニットにおけるセンサユニット100の構造を示す斜視図である。
【0021】
スペクトラムセンサ1は、図1に示すように、複数のセンサユニットが行列上に配置されることによりアレイ化されて成る、いわゆるCMOSイメージセンサである。センサユニット100は、分光部として機能する配線層10と、光強度検出部として機能するフォトダイオード20と、フォトダイオード20により検出された信号(電位)を増幅する増幅部30とにより構成される。配線層10には、その中心付近に直径が所定幅である開口部としてのピンホール11を有する。フォトダイオード20は、ピンホール11を透過した光の光強度を検出し、検出した光の光強度に応じた大きさの電流を出力する。センサユニット100によって増幅部30は、フォトダイオード20により出力された電流を増幅させる。各センサユニット100によって検出された光強度は電流値として出力され、行選択回路および列選択回路を介して演算部40に対して出力される。演算部40は、入力された各電流値と、予め保持しているフォトダイオード20の応答特性P(λ)およびピンホール11の透過係数特性F(λ)とに基づいて入射された所定光の波長特性I(λ)の演算を行う。なお、フォトダイオード20の応答特性P(λ)、ピンホール11の透過係数特性F(λ)、および所定光の波長特性I(λ)についての詳細は後述する。
【0022】
(分光の原理)
光等の波はその波長より小さい間隔の間隙を通過できない性質を持つ。したがって、波長の広がりを有する光(つまり、所定の範囲の波長成分を有する光)では、ピンホール11の大きさに応じて通り抜ける波長の限度(以下、「遮断波長」とする)が変化する。つまり、ピンホール11は、直径(所定幅)に対応する所定波長より短い波長の光に濾波する。
【0023】
例えば図3Aに示すように、ピンホール11aに青色の光(図3Aの実線の矢印)、緑色の光(図3Aの破線の矢印)、および赤色の光(図3Aの一点鎖線の矢印)の3色の光(つまり、白色光)を当てた場合に、直径が第一所定幅d1のピンホール11aでは、第一所定幅d1に対応する第一所定波長よりも短い波長の青色の光および緑色の光の2色の光(第一の光)を透過させ、第一所定波長よりも長い波長の赤色の光を遮断する。また、図3Bに示すように、ピンホール11bに3色の光を当てた場合に、直径が第一所定幅d1よりも小さい第二所定幅d2のピンホール11bでは、第二所定幅d2に対応する第二所定波長よりも短い波長の青色の光(図3Bの実線の矢印)の1色の光(第二の光)を透過させ、第二所定波長より長い波長の緑色および赤色の光(図3Bの一点鎖線の矢印)を遮断する。なお、第一所定波長は第二所定波長よりも短い。
【0024】
図4Aは、図3Aのフォトダイオード20が検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。図4Bは、図3Bのフォトダイオード20が検出する光の波長と光強度とを示すモデル図である。図4Aおよび図4Bに示すように、ピンホールの直径の大きさを変化させることにより、光の波長特性は異なる。そこで、これらの2つの波長特性の差分をとると、図4Cに示すようなスペクトラムが得られる。なお、図4Cは、図4Aと図4Bとの差分をとった場合の、光の波長と光強度とを示すモデル図である。
【0025】
このように、ピンホールの直径の大きさ(所定幅)を変化させて、それぞれのピンホールを透過した光の光強度に応じた電流を検出することにより、所定範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用できる。以上のことから、センサユニットに設けられるピンホールの大きさをそれぞれ変化させることにより、任意の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用できる。
【0026】
(ピンホールの大きさと透過した光の波長との関係)
特定の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出するためには、予め、ピンホール11の直径と、当該ピンホール11を透過する光の波長との両方を変化させつつ、当該直径と当該波長とに対応する当該ピンホール11を透過する光の波長に応じた光の光強度を調べる必要がある。このため、可視光の波長を均一に持つ光をスペクトラムセンサ1に当て、ピンホール11を透過した光の波長特性をFDTDシミュレーションにより調べた。FDTDシミュレーションの結果を以下に述べる。
【0027】
このシミュレーションでは、300〔nm〕〜900〔nm〕の波長の光(電磁波)を解像度1nmの精度で変化させた場合のピンホールを透過する光の透過係数(以下、「透過係数特性」とする)を導出した。なお、光の透過係数は、光強度に比例するため、ここでは光強度を求めるための指標としている。また、ピンホールの大きさについても250〔nm〕〜600〔nm〕の間で変化させた場合の結果をそれぞれ導出した。図5Aは、直径が400〔nm〕のピンホールP400における透過係数特性F9(λ)である。この場合に、透過係数が最大となる遮断波長は、577〔nm〕であった。また、図5Bは、直径が410〔nm〕のピンホールP410における透過係数特性F10(λ)である。この場合に、透過係数が最大となる遮断波長は、593〔nm〕であった。
【0028】
ここで、上述したように、直径が400〔nm〕のピンホールP400の透過係数特性F9(λ)と、直径が410〔nm〕のピンホールP410の透過係数特性F10(λ)との差分F10(λ)−F9(λ)をとると、図5Cに示すような641〔nm〕付近の波長において、透過係数が最大となるスペクトラムを求めることができる。なお、図5Cは、図5Aと図5Bとの差分をとった場合の透過係数特性を示す図である。
【0029】
同様にして、直径が260〔nm〕のピンホールP260の透過係数特性F2(λ)と直径が250〔nm〕のピンホールP250の透過係数特性F1(λ)との差分F2(λ)−F1(λ)と、直径が300〔nm〕のピンホールP300の透過係数特性F4(λ)と直径が290〔nm〕のピンホールP290の透過係数特性F3(λ)との差分F4(λ)−F3(λ)と、直径が330〔nm〕のピンホールP330の透過係数特性F6(λ)と直径が320〔nm〕のピンホールP320の透過係数特性F5(λ)との差分F6(λ)−F5(λ)と、直径が360〔nm〕のピンホールP360の透過係数特性F8(λ)と直径が350〔nm〕のピンホールP350の透過係数特性F7(λ)との差分F8(λ)−F7(λ)と、直径が500〔nm〕のピンホールP500の透過係数特性F12(λ)と直径が490〔nm〕のピンホールP490の透過係数特性F11(λ)との差分F12(λ)−F11(λ)とをそれぞれ求めた。
【0030】
(フォトダイオードの受光感度の考慮)
ところで、フォトダイオード20の受光感度は、図6に示すように、波長に対して応答が異なる。図6は、フォトダイオード20の波長に対する応答特性P(λ)を示す図である。したがって、フォトダイオード20によって出力される電流値を利用して、スペクトラムを分析するには、図5Cのように求めた波長ごとのスペクトラムに対して、図6に示すフォトダイオードの波長ごとの応答特性を考慮する必要がある。
【0031】
具体的には、フォトダイオードの波長ごとの応答特性P(λ)を上述で求めた各波長における差分に掛けあわせることにより、図7のようにスペクトラムセンサ1のピンホールの大きさに応じた分光感度を求めている。具体的には、図7における、S1(λ)は{F2(λ)−F1(λ)}・P(λ)であり、S2(λ)は{F4(λ)−F3(λ)}・P(λ)であり、S3(λ)は{F6(λ)−F5(λ)}・P(λ)であり、S4(λ)は{F8(λ)−F7(λ)}・P(λ)であり、S5(λ)は{F10(λ)−F9(λ)}・P(λ)であり、S6(λ)は{F12(λ)−F11(λ)}・P(λ)である。図7は、フォトダイオード20においてピンホールの直径を250〔nm〕〜500〔nm〕と変化させた場合の分光感度特性S1(λ)〜S6(λ)を示す図である。これにより、フォトダイオード20の感度が波長に応じて変化していることも考慮されることになる。つまり、例えば差分(μ410−μ400)は、なお、上述のように分光感度特性S(λ)として、フォトダイオード20の応答特性P(λ)を予め考慮しておく必要はない。
【0032】
(フォトダイオードによって検出される電流値に基づく波長特性の演算)
以下に説明する方法により、演算部40は、フォトダイオード20が検出する電流値から光のスペクトラムである波長特性I(λ)の演算を行う。演算部40は、第一開口部としてのピンホール11aを透過した光の第一光強度と、第二開口部としてのピンホール11bを透過した光の第二光強度とに基づいて、第一所定波長から第二所定波長までの範囲を少なくとも含む範囲の波長の光の第三光強度を演算する。
【0033】
フォトダイオード20によって検出される電流値は、一つの電流値として検出されるのみであり、図4Aおよび図4Bに示したような波長特性としては検出されない。したがって、ある波長特性を有する光のスペクトラムを導出するためには、以下に説明する分析を行う必要がある。例えば図8に示すような波長特性I(λ)を有する光(以下、「所定光」とする)を分析する方法について説明する。図8は、所定光の波長特性を示す図である。ただし、図8に示す波長特性は、分析前には未知のものであるとする。
【0034】
所定光は、上述したピンホールP250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500のそれぞれを透過し、各ピンホールP250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500においてフォトダイオード20により電流値が出力される。フォトダイオード20において出力される電流値は、上述したように、フォトダイオード20の応答特性P(λ)を考慮したものとなっている。電流値Iout9は、例えば、ピンホールP400の場合にフォトダイオード20により出力される電流値であって、所定光の波長特性I(λ)にピンホールP400における透過係数特性F9(λ)およびフォトダイオード20の応答特性P(λ)を掛け合わせたF9(λ)・P(λ)・I(λ)のλに関する畳み込み積分の値が検出される。
【0035】
以上同様にして、各ピンホールP250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500に関する畳み込み積分の値が、電流値として検出されることになり、以下のような式を得ることができる。
【0036】
【数1】
【0037】
これらの式のそれぞれを離散化して連立方程式を導出することにより、各波長におけるスペクトラムを求めることにより、図8に示すような波長特性I(λ)を導出することができる。
【0038】
本実施の形態に係るスペクトラムセンサ1では、光等の波はその波長より小さい間隔の間隙を通過できない性質を利用して分光している。波長の広がりを有する光(つまり、所定の範囲における複数の波長成分を有する光)を直径が所定幅の開口部に当てた場合に、ピンホール11の直径に応じて、通り抜ける波長の限度である遮断波長が変化する。つまり、ピンホール11は、その直径である所定幅に対応する所定波長より短い波長の光に入射光を濾波する。
【0039】
したがって、ピンホール11の下方(つまり入射光の下流側)に設けられたフォトダイオード20は、所定波長より短い波長の光に濾波された光の光強度を検出することができる。このため、ピンホール11の直径を変化させることにより、ある特定の範囲の波長に濾波した光の光強度を検出することに利用することができる。配線層10に設けたピンホール11を分光部として機能させるため、分光部の構造をシンプルな構造とすることができ、小型化することができる。また、ピンホール11の直径を変化させることのみで、それによって得られた結果を所定の範囲における波長の光の光強度の検出に利用することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。さらに、ピンホール11を透過した光を光強度検出部が検出することになり、外部からの光の侵入を少なくできるため、SN比を増大させることができる。
【0040】
また、本実施の形態に係るスペクトラムセンサ1によれば、開口部として直径が所定幅であるピンホールを採用しているため、ある特定の方向のみでなく、全方向において幅が所定幅である開口部とすることができる。このため、特定方向のみでなく全方向において振動する光を、所定波長より短い波長の光に濾波することができる。これにより、予め光を特定の方向に振動する光に偏向させなくとも、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【0041】
また、本実施の形態に係るスペクトラムセンサ1によれば、直径が第一所定幅d1のピンホール11aと、直径が第一所定幅d1よりも小さい第二所定幅d2のピンホール11bとが形成されている。このため、ピンホール11aにより濾波されて第一所定波長以下になった第一の光(青色および緑色の光)と、ピンホール11bにより濾波されて第二所定波長以下になった第二の光(青色の光)との光の光強度を一度に検出することができる。このため、第一の光の光強度と第二の光の光強度とに基づいて演算を行うことにより、差し引くことにより、少なくとも第一所定波長から第二所定波長の範囲を含む範囲の波長のスペクトラムを検出することができる。これにより、一度に特定の範囲の波長のスペクトラムを検出することができ、高精度なスペクトラムを検出することができる。
【0042】
上記実施の形態では、分光部として配線層10にピンホール11を設けて、配線層10により分光を行っているがこれに限らない。例えば、配線層10ではない光を遮蔽する遮蔽層を設けて、当該遮蔽層にピンホール11と同じ開口を開けることにより分光を行ってもよい。ただし、配線層10を分光部として利用することにより、スペクトラムセンサ100を製造する際の工程における分光部を形成する工程として配線層を形成する工程を利用することに成るため、工程を削減することができより安価に製造することができるという点で有利である。
【0043】
上記実施の形態では、スペクトラムセンサ100はセンサユニットをアレイ化したCMOSイメージセンサを採用しているが、CCDイメージセンサであってもよい。また、アレイ化せずにセンサユニットのみを利用したものであってもよい。この場合には、光強度検出部として、フォトダイオード20を採用しているが、これに限らずに他の光検出器であってもよい。光検出器は、例えば、光電管であってもよいし、光電子倍増管であってもよい。
【0044】
上記実施の形態では、配線層10に開けられるピンホールは、センサユニットにつき一ずつであったが、これに限らずに、複数であってもよい。このように、センサユニットにピンホールを複数設けることにより、フォトダイオード20に到達する光の光強度を増加させることができる。このため、フォトダイオード20によるスペクトラムを検出するための感度を向上させることができる。
【0045】
上記実施の形態では、配線層10に開けられる開口部としてピンホールが採用されているが、これに限らずに例えば幅方向の間隔が所定幅のスリットを開口部としてもよい。なお、この場合には、予め光の振動方向をスリットの幅方向に偏光させる偏光板を利用することにより、ピンホールの場合と同様に光の各波長におけるスペクトラムを求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、低価格かつ小型のスペクトラムセンサにおいて、光スペクトラムを精度よく分析できるスペクトラムセンサとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 スペクトラムセンサ
10 配線層
11、11a、11b ピンホール
20 フォトダイオード
30 増幅部
40 演算部
100 センサユニット
P250、P260、P290、P300、P320、P330、P350、P360、P400、P410、P490、P500 ピンホール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1方向における幅が所定幅である開口部を有する分光部と、
前記分光部を透過した光の光強度を検出する光強度検出部と
を備え、
前記分光部は、前記少なくとも1方向に振動する光のうちで前記所定幅に対応する所定波長より短い波長の光を、前記開口部において透過させる
スペクトラムセンサ。
【請求項2】
前記開口部は、直径が前記所定幅であるピンホールである
請求項1に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項3】
前記分光部は、前記開口部を複数有する
請求項1または2に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項4】
前記複数の開口部は、直径が第一所定幅の第一開口部と、直径が前記第一所定幅よりも小さい第二所定幅の第二開口部であり、
前記第一所定幅に対応する第一所定波長は、前記第二所定幅に対応する第二所定波長よりも長い
請求項3に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項5】
さらに、
各々が前記光強度検出部で検出された、前記第一開口部を透過した光の第一光強度と、前記第二開口部を透過した光の第二光強度とに基づいて、前記第一所定波長から前記第二所定波長までの範囲を少なくとも含む範囲の波長の光の第三光強度を演算する演算部を備える
請求項4に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項1】
少なくとも1方向における幅が所定幅である開口部を有する分光部と、
前記分光部を透過した光の光強度を検出する光強度検出部と
を備え、
前記分光部は、前記少なくとも1方向に振動する光のうちで前記所定幅に対応する所定波長より短い波長の光を、前記開口部において透過させる
スペクトラムセンサ。
【請求項2】
前記開口部は、直径が前記所定幅であるピンホールである
請求項1に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項3】
前記分光部は、前記開口部を複数有する
請求項1または2に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項4】
前記複数の開口部は、直径が第一所定幅の第一開口部と、直径が前記第一所定幅よりも小さい第二所定幅の第二開口部であり、
前記第一所定幅に対応する第一所定波長は、前記第二所定幅に対応する第二所定波長よりも長い
請求項3に記載のスペクトラムセンサ。
【請求項5】
さらに、
各々が前記光強度検出部で検出された、前記第一開口部を透過した光の第一光強度と、前記第二開口部を透過した光の第二光強度とに基づいて、前記第一所定波長から前記第二所定波長までの範囲を少なくとも含む範囲の波長の光の第三光強度を演算する演算部を備える
請求項4に記載のスペクトラムセンサ。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−247277(P2012−247277A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118526(P2011−118526)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】
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