説明

スペーサー・ファブリックの編成装置及び方法

【課題】シンプルな構造で、針への負担を小さくして、安定したタック接結が可能なスペーサー・ファブリックを得る装置及び方法を提供する。
【解決手段】 シリンダー針(5)によりシリンダー編地(17)を編成する工程と、ダイヤル針(13)によりダイヤル編地(16)を編成する工程と、前記シリンダー編地と前記ダイヤル編地とを接結糸で接合する工程を有するスペーサー・ファブリックの編成方法である。前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)のいずれかの一方の針に供給された前記接結糸を鉤付き編みツール(7)の鉤部(73)で捕捉して、この鉤付き編みツール(7)で前記接結糸を他方の針の開いたラッチの先端から外れた位置のステム上に引き込むことにより、前記ダイヤル編地と前記シリンダー編地を接結するのに必要な接結糸の長さを確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸編機を使用して行うスペーサー・ファブリックの編成装置及び方法に関する。本発明は、さらにこの方法において使用する鉤付き編みツール及びその方法で得られるスペーサー・ファブリックにも関する。
【背景技術】
【0002】
「スペーサー・ファブリック(spacer fabric)」は、シリンダー針により編成されるシリンダー編地と、ダイヤル針により編成されるダイヤル編地とが接結糸で接合されてなる編地で、別名「ダンボールニット」ともいう。
【0003】
スペーサー・ファブリックは、クッション性、保温性および吸水性に優れているので、産業資材、例えば車両用シートや寝装具のマット、椅子の上張り、また特殊衣料用として防寒肌着、介護衣料等への利用が進みつつある。このような状況下で、特に産業資材においては、厚手のスペーサー・ファブリックが求められている。
【0004】
スペーサー・ファブリックの厚みは、ニードルシリンダーとニードルダイヤルとの間の距離によって決定される。従来、丸編機で製造されているスペーサー・ファブリックは、ダブルニットのレースウェー編機で製造されており、接結糸はシリンダー針とダイヤル針の両方に挿入され、タック連結されている。その際、シリンダー針がダイヤル針の上で接結糸を取り込む必要があるが、シリンダー針はタック位置までしか持ち上げることが出来ないので、それに応じて、ニードルシリンダーとニードルダイヤルとの間の距離を短くせざるを得ない。
【0005】
従来のやり方のまま、厚手のスペーサー・ファブリックを製造しようとすると、針長を長くする必要がある。しかし、強度的な限界のために針長は一定以上に長くすることはできず、しかも針を長くすると、より長いカムを使用することになって生産性が落ちる。
【0006】
これらの問題点を解決するため、下記特許文献1では、針長や針ストロークに影響されないで、タック接結が可能なスペーサー・ファブリックを提案している。
【0007】
この先願発明によると、丸編機の2つの針床の間に、パイル糸転送機器が配置されている。この転送機器は、送り要素の2つのグループを有し、それらは、アイドル位置からタック位置までそれぞれ動くことができる。一方のグループの送り要素は、第一針床のニードルフックの方へ動き、他方のグループの送り要素は、他方の針床のニードルフックの方へ動いて、スペーサー・ファブリックを丸編機上に製造することができる。この発明によれば、針ストロークが14mm未満の標準寸法を有するラッチ針を用いても、14mm以上の厚さのスペーサー・ファブリックを得ることができるとされている。
【特許文献1】特開2007−169871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献1の先願発明は、機構的に複雑であることと、接結糸が斜めから供給されるため安定した給糸が困難であるという欠点を有する。
【0009】
本発明は、よりシンプルな構造で、針への負担が小さくして、安定したタック接結が可能なスペーサー・ファブリックを得る装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスペーサー・ファブリックの編成装置は、ニードルシリンダーと、前記ニードルシリンダーの溝に収容され上下方向にスライド可能なシリンダー針と、前記シリンダー針を制御するためのシリンダー針制御カムとを備えたシリンダー編地形成手段と、ダイヤルと、前記ダイヤルの溝に収容され水平方向にスライド可能なダイヤル針と、前記ダイヤル針を制御するためのダイヤル針制御カムとを備えたダイヤル編地形成手段と、前記シリンダー編地形成手段により形成されたシリンダー編地と、前記ダイヤル編地形成手段により形成されたダイヤル編地を接結する接結糸の制御手段と、からなるスペーサー・ファブリックの編成装置において、前記シリンダー編地と前記ダイヤル編地を接結する接結糸の制御手段が、前記シリンダー針及び前記ダイヤル針の何れか一方同士の間に配列された鉤付き編みツールであって、その鉤部が編み機の中心方向又は編み機の反中心方向に揺動可能で、しかも前記鉤部が前記ダイヤル針及び前記シリンダー針の他方の針のステムより上まで長手方向に上昇又は前進可能であることを特徴とする。
【0011】
本発明のスペーサー・ファブリックの編成方法は、シリンダー針によりシリンダー編地を編成する工程と、ダイヤル針によりダイヤル編地を編成する工程と、前記シリンダー編地と前記ダイヤル編地とを接結糸で接合する工程を有するスペーサー・ファブリックの編成方法において、前記シリンダー針及び前記ダイヤル針のいずれかの一方の針にタック状態あるいはニット状態で供給された前記接結糸を鉤付き編みツールの鉤部で捕捉して、この鉤付き編みツールで前記接結糸を他方の針の開いたラッチの先端から外れた位置のステム上まで引き込むことにより、前記ダイヤル編地と前記シリンダー編地を接結するのに必要な接結糸の長さを確保することを特徴とする。
【0012】
本発明方法で使用する鉤付き編みツールは、全体が板状であって、首部と胴部からなり、前記首部の最先端には、編機の中心方向に向けられたL字型の鉤が設けられ、前記胴部には、編機の反中心方向に向けられた揺動用バット及び上下動用バットが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の装置では、シリンダー針及びダイヤル針の何れか同士の間に鉤付き編みツールが配列されている。シリンダー針側に配列されているとき、この鉤付き編みツールの先端にある鉤部がシリンダー針で形成された編地を保持するように鉤部が編み機の中心方向に、また鉤部で保持されていた編地の保持を解除するように鉤部が編み機の反中心方向に揺動する。さらに、鉤付き編みツールはその先端の鉤部がダイヤル針のステムより上まで長手方向に上昇する。上昇位置においても接結糸を鉤部で捕捉するために鉤付き編みツールは揺動する。ニードルシリンダーとニードルダイヤルの間隔はスペーサー・ファブリックの厚みが十分に取れるまで、ニードルダイヤルを上昇させることができる。
【0014】
すなわち、本発明では、前記鉤付き編みツールを設けることでシリンダー針の上昇位置がタック位置であっても前後方向に揺動可能な前記鉤付き編みツールを高く上昇させることで、高く設定されたダイヤル針の上に位置する接結糸を取り込むことが可能となる。
【0015】
その結果、本発明では針長及び針ストロークの影響を受けないで、タック接結の、厚手のスペーサー・ファブリックを得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の装置において、鉤付き編みツールは、ニードルシリンダー又はニードルダイヤルに設けた溝の中に設定される。シリンダー針又はダイヤル針と鉤付き編みツール用の溝は次のように配置することができる。
【0017】
(1)鉤付き編みツールを収容する溝がインサートピースを介在して交互に隣接して前記ニードルシリンダーに配設され、シリンダー針は前記インサートピースの外周面に、鉤付き編みツールを両側に隣接して配設される。
【0018】
(2)前記鉤付き編みツールを収容する溝がインサートピースを介在して交互に隣接して前記ニードルダイヤルに配設され、ダイヤル針は前記インサートピースの上面に、鉤付き編みツールを両側に隣接して配設される。
【0019】
(3)前記シリンダー針を収容する溝がインサートピースを介在してニードルシリンダー多数設けられ、各溝内に前記シリンダー針と共にその両隣に前記鉤付き編みツールが配設される。
【0020】
(4)前記ダイヤル針を収容する溝がインサートピースを介在してニードルダイヤル多数設けられ、各溝内に前記ダイヤル針と共にその両隣に前記鉤付き編みツールが配設される。
【0021】
さらに本発明の装置では、ニードルシリンダーの内周上部に、鉤付き編みツールと鉤付き編みツールの溝の間にループが落ち込むのを防止するリング状の部材を設けることが好ましい。
【0022】
本発明の方法において、前記接結糸を前記シリンダー針及び前記ダイヤル針のいずれか一方の針に供給される方法としては、開いたラッチの先端から外れた位置のステム上に供給する方法、と針のニット領域に供給する方法がある。これらの方法によれば、シリンダー編地とダイヤル編地を接合する接結糸の接合が一方の編地とはタック接結で、他方の編地とは前者の方法ではタック接結、後者の方法では天竺ループと接結糸のダブルループの接合であるスペーサー・ファブリックが得られる。
【0023】
さらに本発明の方法では、前記シリンダー針及び前記ダイヤル針として高バット針(H針)と低バット針(L針)の2種類を使用すると共に、複数の色糸を使用して、前記シリンダー針及び前記ダイヤル針のいずれか一方の針を柄に応じてニット・ウエルトさせ、他方の針は全てウエルトさせて、前記シリンダー編地と前記ダイヤル編地の一方をジャガード編成する工程をさらに付加させることができる。それにより、シリンダー編地とダイヤル編地の一方がジャガード編成されているスペーサー・ファブリックが得られる。
【0024】
以下、添付の図面に基づき、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は本発明のスペーサー・ファブリック製造装置であるダブルニット丸編機の編成部の要部を示した断面図であり、複数のレッグ(図示せず)によって支持されたベッド1の上方に編成部2が設置されている。
【0026】
ニードルシリンダー3の外周に形成された針溝41の上部には垂直方向に滑動自在なシリンダー針5が収容されている。図3に示すように、シリンダー針5は、板状で、先端に頭部51、後部にバット52を備えた細長いステム53を有する。頭部51には、フック54と開閉するラッチ55が設けられている。ニードルシリンダー3に対向して、シリンダー針5を制御するシリンダーカムホルダー6が配置され、シリンダーカムホルダー6に収容された制御カム61によりシリンダー針5は上下往復運動している(図1、図2参照)。さらに、好ましくは、ニードルシリンダー3の内周上部に、鉤付き編みツール7と鉤付き編みツールの溝の間にループが落ち込むのを防止するリング状の部材31が配置されている。
【0027】
図2に示すように、シリンダーの針溝41において、隣接するシリンダー針5とシリンダー針5の間に鉤付き編みツール7が1本ずつ配置されている。この鉤付き編みツール7は、図3に示すように、全体が板状であって、細長い首部71と太く長い胴部72を有する。首部71の最先端には、編機の中心方向に向けられたL字型の鉤部73が設けられている。胴部72の先端及び後端にはそれぞれ1つずつ編機の反中心方向に向けられた揺動用バット74、75及び上下動用バット75が形成されている。
【0028】
この鉤付き編みツール7の胴部72に対向してカムホルダー68及び9が配置されている。カムホルダー6に収容された押圧カム81と鉤付き編みツール7の揺動用バット74が係合して、鉤付き編みツール7に揺動運動をさせる。また、カムホルダー6に収容された制御カム91と鉤付き編みツール7の上下動用バット75が係合して、鉤付き編みツール7に上下往復運動をさせる(図2、図3参照)。
【0029】
図6(a)に示すように、鉤付き編みツール7を収容するニードルシリンダー3の溝42は、その両隣に介在物であるインサートピース44で介在されて鉤付き編みツール7は溝42内に収納されている。鉤付き編みツール7は揺動させるので、リンダー針用の溝41よりも深く形成する必要がある。シリンダー針5の溝底はインサートピースの外周面となっている。
【0030】
別の構成では、図6(b)に示すように、鉤付き編みツール7を収容するために、特別のニードルシリンダーの溝42を設けない。この場合、インサートピース44を介在させてシリンダー針溝41を多数ニードルシリンダーに設け、各溝41の中にシリンダー針5と共に、その両隣に鉤付き編みツール7を設定する。図7は、図6(b)の断面図を示している。シリンダー針5および鉤付き編みツール7を収納するニードルシリンダーの溝42の深さは同一となるように、シリンダー針5および鉤付き編みツール7の深さ方向の寸法を決定する。
【0031】
図1に戻ると、本発明のダブルニット丸編機は、さらにニードルダイヤル10及びダイヤルカムホルダー11を有する。ニードルダイヤル10の上面に形成された針溝12にダイヤル針13が水平方向に摺動自在に収容されている(図2参照)。図3に示すように、ダイヤル針13は、板状で、先端に頭部131、後部にバット132(図1参照)を備えた細長いステム133を有する。頭部131には、フック134と、開閉するラッチ135が設けられている。ダイヤルカムホルダー11に収容されたカム111によりダイヤル針13は水平往復運動している。ダイヤルカムホルダー11上にはヤーンキャリア14(図1)が設置され、編糸を編針に給糸する。
【0032】
前記ニードルシリンダー3の下側部には、これと一体的に取り付けられた駆動ギア15があり、編機に配置されている駆動源から駆動されるときニードルシリンダー3と共に同速的に回転する。
【0033】
次に、シリンダー編地とダイヤル編地を接合する接結糸の接合が両面ともタック接結である第1実施例について説明する。
【0034】
図4(a−2)は第1実施例で編成される編み組織図を示す。第1フィーダでは前記シリンダー針及び前記ダイヤル針の低バット針(L針)でタック接結し、第2フィーダでは前記シリンダー針及び前記ダイヤル針の高バット針(H針)でタック接結している。図4(a−1)は当該編地を編成するためのシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【0035】
各部材の動作を図5(a)のA〜Mに基づいて説明する。図5(a)のA〜Mは、図2に付した記号の位置におけるシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の関係を示す側面図であり、下記説明のA〜Mとも対応する。なお、各部材の動作についての説明がない項では、その部材は前項の位置を維持していることとする。
【0036】
A. シリンダー針5はその先端がニードルシリンダー3の上部とほぼ一致するウエルト位置を維持している。シリンダー針5で形成された編地17に対して鉤付き編みツール7の鉤部73は係合しない位置になるように、鉤付き編みツール7は編み機の反中心方向に揺動する。ダイヤル針13はその先端がニードルダイヤル10の外部とほぼ一致するウエルト位置を維持する。
【0037】
B. 上昇しようとするシリンダー針5のオールドループが上昇に伴いシリンダー針5と共に持ち上がらないように、鉤付き編みツール7の鉤部73がシリンダー針5で形成された編地17(オールドループ)を保持するように鉤部73が編み機の中心方向に揺動する。ダイヤル針13はその先端がニードルダイヤル10の外部とほぼ一致するウエルト位置を維持する。
【0038】
C. シリンダー針5はオールドループがラッチ55からクリヤするニット位置まで上昇する。
【0039】
D. 鉤付き編みツール7はその先端がダイヤル針13とほぼ一致する高さまで上昇する。ダイヤル針13は前進を始める。
【0040】
E. 鉤付き編みツール7は、その先端の鉤部73がダイヤル針13のステムより上まで上昇する。ダイヤル針13は前進を続ける。
【0041】
F. 鉤付き編みツール7はその先端が編み機の反中心方向に揺動する。ダイヤル針13はオールドループがラッチ135からクリヤするニット位置まで前進する。
【0042】
G. 鉤付き編みツール7はその先端が編み機の中心方向に揺動することで、鉤付き編みツールの鉤部73でダイヤル針13のステム部133に跨ったように給糸されている接結糸18を捕捉する。
【0043】
H. 接結糸18を鉤部73で捕捉した状態で、鉤付き編みツール7はその先端がニードルシリンダー3の上部とほぼ一致するまで下降する。ここでスペーサー・ファブリックのダイヤル編地16とシリンダー編地17を接結するのに必要な接結糸18を確保する(図1参照)。シリンダー針5に供給された接結糸18はシリンダー針5の開いたラッチ55の先端から外れた位置のステム上にタック状態で供給される。また、ダイヤル針13に供給された接結糸18はダイヤル針13の開いたラッチ135の先端から外れた位置のステム上にタック状態で供給する。
【0044】
I. 下降していたダイヤル針13のフック134にダイヤル編地用の糸が供給され、Hで供給された接結糸と図示しないダイヤルオールドループによってダイヤル針13のラッチ135が閉じる。Jとの間でダイヤル針13のステッチ部で接結糸とオールドループはノックオーバーする。その後ダイヤル針13はその先端がニードルダイヤル10の外部とほぼ一致する位置まで前進する。シリンダー針5は下降を始める。
【0045】
J. 下降していたシリンダー針5のフック54にシリンダー編地用の糸が供給され、Hで供給された接結糸と図示しないシリンダーオールドループによってシリンダー針5のラッチ55が閉じる。オールドループがシリンダー針5からノックオーバーする手前で、接結糸18の緊張を解くように鉤付き編みツール7が上昇する。
【0046】
K. 鉤部73によってシリンダー編地17の形成の妨げにならないように、鉤付き編みツール7は編み機の反中心方向に揺動する。
【0047】
L. 鉤付き編みツール7はその先端がニードルシリンダー3より若干低い高さまで下降する。その後、鉤付き編みツール7の鉤部73がシリンダー針5で形成されたシリンダー編地17の下に位置するように鉤付き編みツール7が編み機の中心方向に揺動する。
【0048】
M. シリンダー針5のステッチ部で鉤付き編みツール7はニードルシリンダー3とほぼ同じ高さまで上昇し、接結糸18とオールドループはノックオーバーする。
【実施例2】
【0049】
次に、シリンダー編地とダイヤル編地を接合する接結糸の接合がシリンダー編地とはタック接結、ダイヤル編地とはダイヤル天竺ループと接結糸のダブルループの接合である第2実施例について説明する。
【0050】
図4(b−2)は第2実施例で編成される編み組織図を示す。第1フィーダでは前記シリンダー針及び前記ダイヤル針の低バット針(L針)で接結し、第2フィーダでは前記シリンダー針及び前記ダイヤル針の高バット針(H針)で接結している。図4(b−1)は当該編地を編成するためのシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。各部材の動作を図5(b)のF’〜I’に基づいて説明する。図5(a)のA〜E,J〜Mは、第1実施例と同様であるので説明を省略する。
【0051】
F’. 鉤付き編みツール7はその先端が編み機の反中心方向に揺動する。ダイヤル針13はオールドループがラッチ135からクリヤするニット位置まで前進した後、タック位置まで下降する。
【0052】
G’. 鉤付き編みツール7はその先端が編み機の中心方向に揺動することで、鉤付き編みツールの鉤部73でダイヤル針13のニット領域に給糸されている接結糸18を捕捉する。
【0053】
H’. 接結糸18を鉤部73で捕捉した状態で、鉤付き編みツール7はその先端がニードルシリンダー3の上部とほぼ一致するまで下降する。ここでスペーサー・ファブリックのダイヤル編地16とシリンダー編地17を接結するのに必要な接結糸18を確保する。シリンダー針5に供給された接結糸18はシリンダー針5の開いたラッチ55の先端から外れた位置のステム上にタック状態で供給される。また、下降していたダイヤル針13のフック134に供給された接結糸18はダイヤル編地用の糸と共にニット状態で供給される。ダイヤルオールドループによってダイヤル針13のラッチ135が閉じる。
【0054】
I’. ダイヤル針13のステッチ部で接結糸とオールドループはノックオーバーする。その後ダイヤル針13はその先端がニードルダイヤル10の外部とほぼ一致する位置まで前進する。シリンダー針5は下降を始める。
【実施例3】
【0055】
次に、第1実施例を変形してシリンダー編地をジャガード編成した第3実施例について説明する。この実施例では、シリンダー針及びダイヤル針として高バット針(H針)と低バット針(L針)の2種類を使用する。
【0056】
図4(c−1)は当該編地を編成するためのシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【0057】
第1フィーダでは第1実施例と同様にシリンダージャガード編地とダイヤル編地を接結糸でシリンダーとダイヤルのL針によってタック状態で接結する。また、ダイヤルのL針によってニット状態でダイヤルの編地を形成する。
【0058】
第2フィーダでは、第1色糸を使用して、シリンダー針を柄に応じてニット・ウエルトさせ、ダイヤル針は全てウエルトさせる。
【0059】
第3フィーダでは、第2色糸を使用して、シリンダー針を柄に応じてニット・ウエルトさせ、ダイヤル針は全てウエルトさせる。
【0060】
第4フィーダでは第1フィーダと同様にシリンダー編地とダイヤル編地を接結糸でシリンダーとダイヤルのH針によってタック状態で接結する。また、ダイヤルのH針によってニット状態でダイヤルの編地を形成する。
【0061】
第5フィーダ、第6フィーダは、第2フィーダ、第3フィーダと同様である。
【0062】
図4(c−2)は第3実施例で編成される編み組織図を示す。
【実施例4】
【0063】
次に、第3実施例を変形してシリンダー編地をジャガード編成した第4実施例について説明する。この実施例でも、シリンダー針及びダイヤル針として高バット針(H針)と低バット針(L針)の2種類を使用する。
【0064】
図4(d−1)は当該編地を編成するためのシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【0065】
第4実施例の第1フィーダから第3フィーダおよび第5フィーダから第7フィーダは、第3実施例の第1フィーダから第3フィーダおよび第4フィーダから第6フィーダと同様で、第4、第8フィーダが新たに追加された。
【0066】
第4フィーダではダイヤルのL針によってニット状態でダイヤルの編地を形成する。また、第8フィーダではダイヤルのH針によってニット状態でダイヤルの編地を形成する。
【0067】
図4(d−2)は第4実施例で編成される編み組織図を示す。
【0068】
第3実施例と比べて、第4実施例はシリンダーとダイヤルの編目の目数が同じで、表裏バランスのとれた編地が得られる。
【0069】
上記各編成工程により、ラッチレングスの影響を受けないタック接結で厚手のスペーサー・ファブリックを得ることが可能である。しかも、特許文献1の先願発明と比較すると、さらに次のような優れた効果を有する。
【0070】
(1)本願発明では、特許文献1の先願発明と異なり、編成部において、接結糸を案内するための案内プレートを必要としない。すなわち、先願発明で案内プレートが必要なのは、タック接結糸をシリンダー針からクリヤさせるためタック接結糸をシリンダー針背面から抑えるのが目的であるが、本願発明では、その時点で既にループを形成しているためである(前記I.参照)。
【0071】
(2)特許文献1の先願発明では、ダイヤル編地とシリンダー編地を別々に編成した後で接結糸により接結しているが、本願発明では、ダイヤル編地とシリンダー編地の編成と接結糸による接結をほぼ同時に進行させることができるので、給糸口数を増やすことができる。
【0072】
図示しないが、鉤付き編みツールをニードルシリンダー側ではなく、ニードルダイヤル側に設けることにより、同様のスペーサー・ファブリックを得ることができる。その場合、上記実施例において、ニードルシリンダーとニードルダイヤルを読み替える必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明のスペーサー・ファブリック製造装置であるダブルニット丸編機の編成部の要部を示した断面図である。
【図2】編成部の要部の拡大斜視図である。
【図3】編成部の要部の拡大断面図である。
【図4(a−1)】は実施例1に係るシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【図4(a−2)】実施例1で編成される編み組織図を示している。
【図4(b−1)】は実施例2に係るシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【図4(b−2)】実施例2で編成される編み組織図を示している。
【図4(c−1)】は実施例3に係るシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【図4(c−2)】実施例3で編成される編み組織図を示している。
【図4(d−1)】は実施例4に係るシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の先端移動ラインの形状を示している。
【図4(d−2)】実施例4で編成される編み組織図を示している。
【図5(a)】A〜Mは、実施例1における図2に付した記号の位置におけるシリンダー針5、ダイヤル針13及び鉤付き編みツール7の関係を示す側面図である。
【図5(b)】実施例2における実施例1からの変更部分(F’〜I’)を示している。
【図6(a)】シリンダー針及び鉤付き編みツールの配置状態を示す正面図である。
【図6(b)】シリンダー針及び鉤付き編みツールの別の配置状態を示す正面図である。
【図7】図6(b)の状態における編成部の要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 ベッド
2 編成部
3 ニードルシリンダー
41 シリンダー針溝
42 鉤付き編みツール溝
5 シリンダー針
51 頭部
52 バット
53 ステム
54 フック
55 ラッチ
6 シリンダーカムホルダー
61 制御カム
7 鉤付き編みツール
71 首部
72 胴部
73 鉤部
74、75 揺動用バット
75 上下動用バット
81 押圧カム
91 制御カム
10 ニードルダイヤル
11 ダイヤルカムホルダー
111 制御カム
12 針溝
13 ダイヤル針
131 頭部
132 バット
133 ステム
134 フック
135 ラッチ
14 ヤーンキャリア
15 駆動ギア
16 ダイヤル編地
17 シリンダー編地
18 接結糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードルシリンダー(3)と、前記ニードルシリンダー(3)の溝(41)に収容され上下方向にスライド可能なシリンダー針(5)と、前記シリンダー針(5)を制御するためのシリンダー針制御カム(61)とを備えたシリンダー編地形成手段と、
ニードルダイヤル(10)と、前記ニードルダイヤル(10)の溝(12)に収容され水平方向にスライド可能なダイヤル針(13)と、前記ダイヤル針(13)を制御するためのダイヤル針制御カム(111)とを備えたダイヤル編地形成手段と、
前記シリンダー編地形成手段により形成されたシリンダー編地(17)と、前記ダイヤル編地形成手段により形成されたダイヤル編地(16)を接結する接結糸(18)の制御手段と、
からなるスペーサー・ファブリックの編成装置において、
前記シリンダー編地(17)と前記ダイヤル編地(16)を接結する接結糸(18)の制御手段が、前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)の何れか一方(5又は13)同士の間に配列された鉤付き編みツール(7)であって、その鉤部(73)が編み機の中心方向又は編み機の反中心方向に揺動可能で、しかも前記鉤部(73)が前記ダイヤル針(13)及び前記シリンダー針(5)の他方の針(13又は5)のステムより上まで長手方向に上昇又は前進可能である
ことを特徴とするスペーサー・ファブリックの編成装置。
【請求項2】
前記鉤付き編みツール(7)は、
全体が板状であって、首部(71)と胴部(72)からなり、
前記首部の最先端には、編機の反中心方向に向けられたL字型の鉤部(73)が設けられ、
前記胴部(72)には、編機の中心方向に向けられた揺動用バット(74、75)及び上下動用バット(75)が形成されているものである請求項1記載の装置。
【請求項3】
付き編みツール(7)を収容する溝(42)がインサートピース(44)を介在して交互に隣接して前記ニードルシリンダー(3)に配設され、シリンダー針は前記インサートピースの外周面に、鉤付き編みツール(7)を両側に隣接して配設されている請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記鉤付き編みツール(7)を収容する溝(42)がインサートピース(44)を介在して交互に隣接して前記ニードルダイヤル(10)に配設され、ダイヤル針は前記インサートピースの上面に、鉤付き編みツール(7)を両側に隣接して配設されている請求項1又は2記載の装置。
【請求項5】
前記シリンダー針を収容する溝(41)がインサートピース(44)を介在してニードルシリンダー(3)に多数設けられ、各溝(41)内には前記シリンダー針(5)と共にその両隣に前記鉤付き編みツール(7)が配設されている請求項1又は2記載の装置。
【請求項6】
前記ダイヤル針を収容する溝(12)がインサートピース(44)を介在してニードルダイヤル(10)に多数設けられ、各溝(12)内には前記ダイヤル針(5)と共にその両隣に前記鉤付き編みツール(7)が配設されている請求項1又は2記載の装置。
【請求項7】
前記ニードルシリンダー(3)又はニードルダイヤル(10)の内周上部に、前記鉤付き編みツール(7)と前記鉤付き編みツールの溝(42)の間にループが落ち込むのを防止するリング状の部材(31)を設けた請求項1ないし6の何れかに記載の装置。
【請求項8】
シリンダー針(5)によりシリンダー編地(17)を編成する工程と、
ダイヤル針(13)によりダイヤル編地(16)を編成する工程と、
前記シリンダー編地(17)と前記ダイヤル編地(16)とを接結糸(18)で接合する工程を有するスペーサー・ファブリックの編成方法において、
前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)のいずれか一方の針に供給された前記接結糸を鉤付き編みツール(7)の鉤部(73)で捕捉して、この鉤付き編みツール(7)で前記接結糸(18)を他方の針の開いたラッチの先端から外れた位置のステム上まで引き込むことにより、前記ダイヤル編地(16)と前記シリンダー編地(17)を接結するのに必要な接結糸(18)の長さを確保することを特徴とするスペーサー・ファブリックの編成方法。
【請求項9】
前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)のいずれか一方の針に供給される前記接結糸が、開いたラッチの先端から外れた位置のステム上に供給される請求項8記載のスペーサー・ファブリックの編成方法。
【請求項10】
前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)のいずれか一方の針に供給される前記接結糸が、針のニット領域に供給される請求項8記載のスペーサー・ファブリックの編成方法。
【請求項11】
前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)として高バット針(H針)と低バット針(L針)の2種類を使用すると共に、
複数の色糸を使用して、前記シリンダー針(5)及び前記ダイヤル針(13)のいずれか一方の針を柄に応じてニット・ウエルトさせ、他方の針は全てウエルトさせて、前記シリンダー編地(17)と前記ダイヤル編地(16)の一方をジャガード編成する工程をさらに有する
請求項8記載のスペーサー・ファブリックの編成方法。
【請求項12】
請求項10記載の方法によって得られるスペーサー・ファブリックであって、シリンダー編地(17)とダイヤル編地(16)を接合する接結糸(18)の接合が一方の編地とはタック接結、他方の編地とは天竺ループと接結糸のダブルループの接合であることを特徴とするスペーサー・ファブリック。
【請求項13】
請求項11記載の方法によって得られるスペーサー・ファブリックであって、シリンダー編地(17)とダイヤル編地(16)の一方がジャガード編成されていることを特徴とするスペーサー・ファブリック。
【請求項14】
請求項8ないし10の何れかに記載のスペーサー・ファブリックの編成方法において使用する鉤付き編みツール(7)であって、
全体が板状であって、首部(71)と胴部(72)からなり、
前記首部(71)の最先端には、編機の中心方向に向けられたL字型の鉤部(73)が設けられ、
前記胴部(72)には、編機の反中心方向に向けられた揺動用バット(74、75)及び上下動用バット(75)が形成されている
ことを特徴とする鉤付き編みツール(7)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a−1)】
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【図4(a−2)】
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【図4(b−1)】
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【図4(b−2)】
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【図4(c−1)】
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【図4(c−2)】
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【図4(d−1)】
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【図4(d−2)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−17090(P2011−17090A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288000(P2007−288000)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000154510)株式会社福原精機製作所 (14)
【Fターム(参考)】