説明

スポット画像認識方法及びスポット画像認識システム

【課題】認識が正確に行なわれていないスポットを簡便に見つけ出すことができ、さらにそのようなスポットに対する画像認識の補正をユーザが行うことができ、また、認識が正確に行なわれていないスポットの補正を自動的に行なうことができるスポット画像認識方法及びスポット画像認識システムを提供する。
【解決手段】 スポット認識領域のサイズを変化させながら画素のシグナル強度を取得し、シグナル強度分布の中央値及び平均値からスポット認識パラメータを計算し、スポット認識領域のサイズの変化に従がって前記スポット認識パラメータが変化するパターンを用いて、スポット画像を認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイを用いた分子生物学的実験などで得られるスポット画像において、個々のスポットを精確に認識するための画像認識方法及び画像認識システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分子生物学における実験手法の進歩により、DNAマイクロアレイ等の網羅的な遺伝子解析手法が生み出された。これらの実験結果はコンピュータを利用して解析されるため、蛍光シグナルなどの形で得られる実験結果をアナログデータからデジタルデータに変換する作業が行なわれる。例えば、実験後にDNAマイクロアレイ上のスポットを撮像した画像を解析することにより、スポットのサイズや蛍光シグナル強度などのデータが取得される。
【0003】
特許文献1には、蛍光シグナルが発生しうる領域を物理的な孔を利用するなどして固定し、該当領域内の外れ値をもつピクセルを除外することで、有効なデータのみを抽出することを特徴とするバイオチップ読み取り装置が記載されている。また、特許文献2には、反復実験結果の誤差推定値を平均して1つの試料における誤差を推定することにより、変換されたデジタルデータの信頼度・信頼限界を確定することを特徴とする化学的及び生物学的アッセイの評価方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−101376号公報。
【特許文献2】特表2002−512367号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在では、DNAマイクロアレイ技術の進歩により、かつては数千個程度であったものが、数万個以上という大量の遺伝子断片DNAを1枚のスライドガラス上に固定化することが可能となっている。画像解析処理能力にともない、各スポットの認識処理をある程度自動化することが可能となってきたが、人間が一切介在しないで完全自動で精確にスポットを認識できるレベルまでには至っていない。画像解析を行った後のデータは数値となってしまうため、正確なスポット認識が行なわれたか否かは判別が困難であるうえに、不正確なスポット認識のデータは解析対象データ内にノイズとして紛れ込み、解析結果に大きな影響を与えてしまう。また、スポット認識のための画像解析に時間がかかるため、同時に解析可能な遺伝子数が大幅に増加したといっても、ハイスループットな解析を行うことはできないという問題点があった。
【0006】
特許文献2に記載の方法では、物理的な孔のなかにある蛍光強度データの中から外れ値となるピクセルデータを除去する、もしくは、反復実験によりデータ信頼性を高めるといったアプローチをとっているが、1つの試料を用いた1回の実験画像データにおいて不定サイズのスポットをより正確に認識し、数値データにする場合には、この技術を応用することはできない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、マイクロアレイなどのスポット画像を認識する方法及びシステムであって、認識が正確に行なわれていないスポットを簡便に見つけ出すことができ、さらにそのようなスポットに対する画像認識の補正をユーザが行うことができ、また、認識が正確に行なわれていないスポットの補正を自動的に行なうことができるスポット画像認識方法及びスポット画像認識システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、スポット認識用のパラメータとして、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値に着目し、これらの値の相関関係がスポット認識領域のサイズの変化に従って一定のパターンを有していることを発見し、これを利用してスポット認識領域の設定の適切さを判定することに想到した。
【0009】
すなわち、本発明は、スポット画像を自動的に認識する方法であって、スポット認識領域をサイズを変化させながらスポット画像に適用して、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布を取得し、取得したシグナル強度分布の中央値及び平均値からスポット認識パラメータを計算し、スポット認識領域のサイズの変化に従って前記スポット認識パラメータが変化するパターンが、所定の上方閾値及び下方閾値との間で一定の関係を満たす場合には、前記スポット認識パラメータの変化パターンにおける所定位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定し、前記最適サイズのスポット認識領域を適用してスポット画像を認識する方法を提供するものである。
【0010】
本発明のスポット画像認識方法は、前記スポット認識領域の最適サイズの判定において、スポット認識領域のサイズを最小サイズから最大サイズまで一方向に増加させたときに、スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上であり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、その後下方閾値よりも小さくなる場合には、スポット認識パラメータの値が最初に上方閾値より大きくなる直前の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする。
【0011】
本発明のスポット画像認識方法は、前記スポット認識領域の最適サイズの判定において、スポット認識領域のサイズを最大サイズから最小サイズまで一方向に減少させたときに、スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最大サイズの時には下方閾値よりも小さく、その後下方閾値以上となり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上である場合には、スポット認識パラメータの値が上方閾値より大きくなった後再度上方閾値以下となった直後の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする。
【0012】
本発明のスポット画像認識方法は、前記スポット認識パラメータは、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、また、スポット認識領域のサイズ設定を補正する方法であって、設定されたスポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比が一定の閾値を超える場合には、上記したスポット画像認識方法を用いて得られる最適サイズにスポット認識領域を設定し直すことを特徴とする方法を提供するものである。
【0014】
本発明は、また、上記したスポット画像認識方法をコンピュータシステムにおいて実行するためのプログラムを提供するものである。
【0015】
本発明は、また、スポット画像を自動的に認識するシステムであって、スポット認識領域をサイズを変化させながらスポット画像に適用して、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布を取得する手段と、取得したシグナル強度分布の中央値及び平均値からスポット認識パラメータを計算する手段と、スポット認識領域のサイズの変化に従って前記スポット認識パラメータが変化するパターンが、所定の上方閾値及び下方閾値との間で一定の関係を満たす場合には、前記スポット認識パラメータの変化パターンにおける所定位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定する手段と、前記最適サイズのスポット認識領域を適用してスポット画像を認識する手段とを備えたスポット画像認識システムを提供するものである。
【0016】
本発明のスポット画像認識システムにおいて、前記スポット認識領域の最適サイズを判定する手段は、スポット認識領域のサイズを最小サイズから最大サイズまで一方向に増加させたときに、スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上であり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、その後下方閾値よりも小さくなる場合には、スポット認識パラメータの値が最初に上方閾値より大きくなる直前の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする。
【0017】
本発明のスポット画像認識システムにおいて、前記スポット認識領域の最適サイズを判定する手段は、スポット認識領域のサイズを最大サイズから最小サイズまで一方向に減少させたときに、スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最大サイズの時には下方閾値よりも小さく、その後下方閾値以上となり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上である場合には、スポット認識パラメータの値が上方閾値より大きくなった後再度上方閾値以下となった直後の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする。
【0018】
本発明のスポット画像認識システムにおいて、前記スポット認識パラメータは、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比であることを特徴とする。
【0019】
本発明のスポット画像認識システムは、また、既にサイズ設定されているスポット認識領域について、当該スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比を計算し、その値が一定の閾値を超える場合には、スポット認識領域のサイズを設定し直すスポット認識領域再設定手段をさらに備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のスポット画像認識方法及びスポット画像認識システムによれば、DNAマイクロアレイなどの実験結果として得られるスポット画像に対してスポット認識を精確に行うことが可能となる。本発明のスポット認識領域の最適サイズの自動設定機能を利用すれば、ユーザが手動でスポット認識領域を設定した場合にも、設定に誤りがある可能性が高いものから順に、ユーザに設定の補正を促すことが可能である。あるいは、ユーザが手動でスポット認識領域を設定したもののうち、設定に誤りがあると認められるもののみを、上記自動設定機能によって自動的に補正することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のスポット画像認識方法及びスポット画像認識システムを実施するための最良の形態を詳細に説明する。図1〜図8は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0022】
スポット画像認識システムの構成
図1は、本実施形態のスポット画像認識システムの内部構成を概略的に示す図である。図1において、スポット画像認識システムは、プログラムからの指示に従って演算処理等を行う中央処理装置101と、スポット画像認識処理を行うための各種プログラムを格納するプログラムメモリ102と、処理対象となるデータや設定情報などを記憶する外部記憶装置103と、プログラムの作業領域として一時的にデータを保持するデータメモリ104と、ユーザからの操作入力を受け付けるための入力デバイス105と、処理結果や必要な情報を表示する表示装置106とを備えている。
【0023】
プログラムメモリ102は、処理対象とするデータを取得するスポット画像データ取得プログラム121、スポット画像に所定サイズのスポット認識領域を適用するスポット認識領域適用プログラム122、スポット認識用パラメータ計算プログラム123、スポット自動認識プログラム124、ユーザにスポット認識の修正等を手動で行わせるスポット認識問合せプログラム125及びスポット認識状態表示プログラム126を格納している。外部記憶装置103は、実験結果として得られたスポット画像データ131及びスポットの認識結果であるスポット認識結果データ132を記憶している。データメモリ104は、本システムによるスポット画像認識処理の対象として外部記憶装置103のスポット画像データ131から取得された所定のデータ(スポット輝度データ141及びスポット認識データ142)を格納している。入力デバイス105は、ポインティングデバイス151やキーボード152等を含んでいる。
【0024】
図2は、データメモリ104に格納されているスポット輝度データ141及びスポット認識データ142のデータ構成を概略的に示す図である。スポット輝度データテーブル201は、各スポットの位置情報とスポット画像のシグナル強度値(輝度値)とを格納している。スポット認識データテーブル202は、スポットごとにスポット認識領域、スポット認識領域内の画像のシグナル強度値の中央値及び平均値、さらにそれらの値の差と比を格納している。尚、中央値、平均値等の値は、スポット輝度データから計算されるものであり、スポット認識領域の設定範囲によって値が変化する。
【0025】
スポット画像認識システムにおけるスポット画像認識の原理
次に、本実施形態のスポット画像認識システムによるスポット画像認識の原理ついて説明する。図3は、あるスポット画像に対して4種類のサイズが異なるスポット認識領域を適用した場合に認識されるシグナル強度の分布を示したグラフである。円形のスポット認識領域301〜304を適用したときのシグナル強度分布は、それぞれ、プロット305〜308で表されている。スポット認識領域301は、その設定範囲がスポット画像のスポット部分よりも大幅に広く、シグナル強度が非常に低いバックグラウンドのピクセルが認識対象に多く含まれるため、そのシグナル強度分布305は低シグナル強度に大きく偏っている。スポット認識領域302も、その設定範囲がスポット画像のスポット部分よりもやや広いので、そのシグナル強度分布306は低シグナル強度にやや偏っている。スポット認識領域303は、その設定範囲がスポット画像のスポット部分の輪郭とほぼ一致しているので、そのシグナル強度分布307は低シグナル強度側にノイズを持たず、大部分がスポット部分のシグナルをしたものとなっている。スポット認識領域304は、その設定範囲がスポット画像のスポット部分よりも狭く、ほぼスポット画像のスポット部分のみを含んでいるので、そのシグナル強度分布308は低シグナル強度側にノイズを持たず、大部分がスポット部分のシグナルをしたものとなっている。
【0026】
図4は、図3に示したスポット認識領域301〜304とそれらを適用したときのシグナル強度分布をそれぞれ別個に示すグラフである。それぞれのグラフにおいて、シグナル強度の中央値401〜404と平均値411〜414とを表示している。以下において、各グラフにおける中央値及び平均値の関係について考慮する。
【0027】
設定範囲がスポット画像のスポット部分よりも大幅に広いスポット認識領域301については、シグナル強度の低いバックグラウンドピクセルが大量に認識されているため、中央値401が低シグナル強度側に引きずられて平均値411よりも大幅に低い値となる。設定範囲がスポット画像のスポット部分よりもやや広いスポット認識領域302については、シグナル強度の低いバックグラウンドピクセルがある程度認識されているが、スポット部分からのシグナル強度も広く分布しているため、スポット認識領域301の場合に比べると中央値402がより中央に近くなり、平均値412が中央値402よりも低い値となる。設定範囲がスポット画像のスポット部分とほぼ一致するスポット認識領域303については、低シグナル強度に側にノイズを持たず、スポット部分からのシグナル強度が広く分布しているため、中央値403と平均値413はほぼ同じ値となる。同様に、設定範囲がスポット画像のスポット部分よりも狭いスポット認識領域304についても、中央値404と平均値414はほぼ同じ値となる。
【0028】
そこで、このようなスポット認識領域のサイズ変化によるシグナル強度分布の平均値及び中央値の推移を観察してみる。図5は、スポット認識領域の設定範囲(サイズ)の変化に対するシグナル強度分布の中央値、平均値などの指標値の推移を示すグラフである。図5に示すグラフでは、横軸にスポット認識領域の設定範囲(サイズ)をとり、縦軸にシグナル強度又は比をとっている。スポット認識領域の設定範囲については、27段階のサイズを設定し、各サイズのスポット認識領域を設定してスポット画像を認識したときのシグナル強度の中央値及び平均値を測定した。グラフには、中央値のプロット501、平均値のプロット502、中央値と平均値との差のプロット503、並びに中央値と平均値との比のプロット504を表している。中央値、平均値及び中央値と平均値との差についてはグラフ左側のシグナル強度の目盛りに従い、中央値と平均値との比についてはグラフ右側の比の目盛りに従うものとする。尚、図3のスポット認識領域301,302,303,304は、それぞれ、サイズの小さい方から数えて22段階目、13段階目、9段階目、1段階目に相当している。
【0029】
図5のグラフにおいて、中央値のプロット501は、スポット認識領域のサイズを大きくしていくと、スポット認識領域がスポット部分よりもやや大きくなるあたりまでは値があまり変動しないが、スポット認識領域がスポット部分の2倍程度の大きさになるあたりで急激に低下し、その後下げ止まっている。一方、平均値のプロット502は、スポット認識領域のサイズを大きくしていくと、スポット認識領域がスポット部分の内側に収まっている間は値があまり変動しないが、スポット認識領域がスポット部分よりも大きくなるあたりから一定割合で低下している。この中央値と平均値との関係から、以下に説明するように中央値と平均値との差や比の値は共に特徴的な推移をすることになる。
【0030】
中央値と平均値との差(中央値−平均値)のプロット503は、スポット認識領域のサイズを大きくしていくと、スポット認識領域とスポット部分とがほぼ同じ大きさになるまでは0付近で推移し、スポット認識領域がスポット部分よりも大きくなると平均値の低下により正の値となり、スポット認識領域がさらに大きくなると中央値の急落により負の値に転じている。一方、中央値と平均値との比(中央値/平均値)のプロット504は、スポット認識領域のサイズを大きくしていくと、スポット認識領域とスポット部分とがほぼ同じ大きさになるまでは1付近で推移し、スポット認識領域がスポット部分よりも大きくなると平均値の低下により1より大きな値となり、スポット認識領域がさらに大きくなると中央値の急落により1よりも小さい値に転じている。
【0031】
そこで、本実施形態のスポット画像認識システムでは、スポット認識領域のサイズ変化に従うシグナル強度の中央値及び平均値の差又は比の特徴的な推移に着目して、スポット認識領域を適切な範囲に設定することにより、適切なスポット画像認識を行うことが可能となっている。図5のグラフによれば、スポット認識領域が最適なサイズとなる位置、すなわちスポット認識領域303あたりの位置に注目すると、中央値と平均値との差及び比の値が一定である領域(サイズがより小さい側)と値が上昇する領域(サイズがより大きい側)との境目となっていることが分かる。したがって、スポット認識領域のサイズ変化に従うシグナル強度の中央値及び平均値の差又は比の変化を分析してこの境目が特定されれば、スポット認識領域の適切な設定サイズが割り出されることになる。以下に、その具体的な処理手順について説明する。
【0032】
スポット画像認識システムの処理手順
図6は、本実施形態のスポット画像認識システムにおいて、スポット認識領域の最適サイズを自動的に設定する処理の流れを示すフローチャートである。これらの処理は、プログラムメモリ102の各プログラム121〜125が単独であるいは協働して実行するものである。
【0033】
図6において、まず、外部記憶装置103のスポット画像データ131から処理対象とするスポット画像データを取得する(ステップ600)。これにより1つのスポット画像の輝度データがデータメモリ104に読み出される。続いて、スポット認識領域のとり得るサイズの範囲(最小サイズ及び最大サイズ)、スポット認識に用いるパラメータの種類(「中央値−平均値」の値を使うか「中央値/平均値」の値を使うか)、同パラメータの閾値(上限値及び下限値)を取得する(ステップ601)。これらの値は、予め設定されている値として取得してもよいし、あるいはユーザに問い合わせて取得してもよい。取得されたスポット画像に対して各サイズのスポット認識領域を順に適用し、その際の輝度の平均値・中央値を取得する(ステップ602)。スポット認識領域のサイズは、ステップ601で取得した最小サイズから最大サイズまでの間で連続的あるいは段階的に変化させる。適用したスポット認識領域のサイズごとに、スポット認識用パラメータを計算する(ステップ603)。すなわち、スポット認識領域の各サイズにつき、スポット画像の輝度の「中央値−平均値」又は「中央値/平均値」の値が計算されることになる。
【0034】
続いて、最小サイズのスポット認識領域を適用したときのスポット認識用パラメータの値が閾値により設定される範囲(上限値から下限値までの範囲)を超えているかどうかを判定し(ステップ604)、超えている場合にはスポット認識処理ができないとして処理を終了する(ステップ605)。最小サイズのスポット認識領域を適用したときには、バックグラウンドノイズがほとんど含まれず、中央値と平均値の差又は比が最も小さくなると考えられるので、このときのスポット認識用パラメータが閾値の範囲内になければ、異常な値であると判定することとしている。スポット認識領域のサイズを最小サイズから漸進的に大きくしていくに従って、スポット認識用パラメータが閾値の上限値を超える点があるかどうかを判定する(ステップ606)。そのようなスポット認識用パラメータの値が存在しない場合にはスポット認識処理ができないとして処理を終了する(ステップ607)。スポット認識領域のサイズの変化に従って、輝度値の中央値と平均値との関係が図4及び図5に示すような推移をしないのでは、上記したスポット画像認識の原理が当てはまらなくなるからである。
【0035】
続いて、ステップ606で検出した点からさらにスポット認識領域のサイズを漸進的に大きくしていったときに、スポット認識用パラメータの値が閾値の上限値以下となる点があるかどうかを判定する(ステップ608)。そのようなスポット認識用パラメータの値が存在しない場合にはスポット認識処理ができないとして処理を終了する(ステップ609)。スポット認識領域のサイズの変化に従って、輝度値の中央値と平均値との関係が図4及び図5に示すような推移をしないのでは、上記したスポット画像認識の原理が当てはまらなくなるからである。ステップ608で検出した点からさらにスポット認識領域のサイズを漸進的に大きくしていき、スポット認識用パラメータの値が閾値の下限値以下となる点があるかどうかを判定する(ステップ610)。そのようなスポット認識用パラメータの値が存在しない場合にはスポット認識処理ができないとして処理を終了する(ステップ611)。スポット認識領域のサイズの変化に従って、輝度値の中央値と平均値との関係が図4及び図5に示すような推移をしないのでは、上記したスポット画像認識の原理が当てはまらなくなるからである。
【0036】
上記のステップ604,606,608,610における条件をクリアしたスポット画像データについては、スポット認識領域サイズを最小サイズから大きくしてゆきスポット認識用パラメータが閾値の上限を超える直前の点を検出し、そのときのスポット認識領域のサイズを最適なスポット認識領域のサイズと判定する(ステップ612)。尚、スポット認識用パラメータの閾値については、多くのスポット画像を認識した結果、経験的に決定されるものであるが、例えば、スポット画像の輝度の「中央値/平均値」の値を用いる場合には、1±0.05程度の範囲に設定するとよい。
【0037】
図7は、以上に説明したスポット認識領域の最適サイズを自動的に設定する処理を、グラフを用いて模式的に説明する図である。このグラフにおいて、スポット認識領域のサイズが最小の位置Aでのスポット認識用パラメータが閾値の上限から下限までの範囲内にあり(ステップ604における判定)、Aより右に行くとスポット認識用パラメータが閾値の上限を超える点Bがあり(ステップ606における判定)、Bより右に行くとスポット認識用パラメータが閾値の上限を再度下回る点Cがあり(ステップ608における判定)、Cより右に行くとスポット認識用パラメータが閾値の下限を下回る点Dがある(ステップ610における判定)ことが確認されれば、このスポット画像データに対しては上記したスポット画像認識の原理が適用できるので、B付近にスポット認識領域の最適サイズをとることができる。尚、本実施形態では、スポット認識領域のサイズが小さい側から順にスポット認識用パラメータの値を追って判定処理を行っているが、スポット認識領域のサイズが大きい側から順にスポット認識用パラメータの値を追っても同様の判定処理を行うことができるのは明らかである。
【0038】
また、本実施形態のスポット画像認識システムでは、スポット認識領域の最適サイズを自動的に設定する処理以外にも、様々な形態の処理が可能である。例えば、ユーザが手動によりスポット認識領域の最適サイズを設定した後に、スポット認識領域がうまく当てはまっていないスポット画像についてユーザに補正を促す機能を追加することができる。一般的にスポット内部の輝度に大きなムラが存在しない場合、最適なサイズのスポット認識領域を設定すると、その領域内の輝度の中央値と平均値はほぼ一致する。そうすると、スポット認識領域内の輝度の中央値と平均値の乖離が大きい場合には、スポット認識領域の設定が誤っている可能性がある。例えば、スポット認識領域を実際のスポット画像より非常に大きな範囲に設定した場合には中央値が平均値を下回り、スポット認識領域を実際のスポットよりやや大きな範囲に設定した場合には平均値が中央値を下回ることになる。また、スポット画像に大きなムラがある場合にも平均値と中央値が大きく乖離する。そこで、このように中央値と平均値の乖離が大きいものから順に、ユーザに補正を促すような機能を追加することができる。あるいは、中央値と平均値の乖離が一定以上であるものは全て上記した自動設定処理により、スポット認識領域のサイズを自動的に設定するようにしてもよい。
【0039】
スポット画像認識システムの表示画面
図8は、本実施形態のスポット画像認識システムにおいて表示装置106に表示される画面の例を示す図である。この画面を表示する処理は、スポット認識状態表示プログラム126によって実行される。
【0040】
図8に示す画面において、801はスポット認識領域のサイズごとにスポット画像の中央値、平均値、「中央値−平均値」、「中央値/平均値」などの値を示すリストである。各項目はヘッダ行をダブルクリックすることなどにより昇順・降順に並べ替えることが可能である。802は処理対象のスポット画像である。DNAマイクロアレイの実験は2色蛍光法を用いて行なわれる場合があるため、それぞれの蛍光色素からのシグナルを読み取ったスポット画像と、両方のシグナルを重ね合わせたスポット画像とを表示している。803は上記2種類の蛍光色素(チャンネル)のうちいずれを処理対象とするかを選択するためのラジオボタンである。804はスポット認識領域のサイズ順にリスト801の値をプロットした結果を示すプロットウィンドウである。805は現在スポット認識領域の最適サイズと判定している位置を示すバーである。このバーはマウス等のポインティングデバイスを利用したドラッグ操作などによりユーザが任意に移動することが可能である。806はスポット認識用パラメータの種類(「中央値−平均値」か「中央値/平均値」か)を選択するためのラジオボタンである。807は1つ前のスポット画像データの表示に切り替えるSmallボタン、808は1つ後のスポット画像データの表示に切り替えるLargeボタンである。809は処理対象のスポット画像にムラがある場合などの理由で、実験データとして相応しくないとユーザが判断した場合にフラグを立てるためのBad Spotチェックボックスである。810は処理対象のスポット画像に現在選択しているスポット認識用パラメータを用いて、スポット認識領域の最適サイズを自動判定するためのAutoボタンである。811はこの自動判定処理を全てのスポット画像データに対して行うためのAuto Allボタンである。812は現在表示されているスポット認識領域のサイズを最適サイズとして決定するためのOKボタンである。
【0041】
以上、本発明のスポット画像認識方法及びスポット画像認識システムについて、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態又は他の実施形態にかかる発明の構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のスポット画像認識方法及びスポット画像認識システムは、マイクロアレイなどを読み取る解析装置において、スポット画像を精確に認識するための画像認識モジュールとして組み込んで利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のスポット画像認識システムの内部構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示すスポット画像認識システムのデータメモリに格納されているスポット認識データ及びスポット輝度データのデータ構成を概略的に示す図である。
【図3】あるスポット画像に対して4種類の異なるスポット認識領域を適用した場合に認識されるピクセルシグナル強度の分布を示したグラフである。
【図4】図3に示すスポット認識領域とそれらを適用したときのピクセルシグナル強度分布をそれぞれ別個に示すグラフである。
【図5】スポット認識領域の設定範囲(サイズ)の変化に対するシグナル強度分布の中央値、平均値などの指標値の推移を示すグラフである。
【図6】図1に示すスポット画像認識システムにおいて、スポット認識領域の最適サイズを自動的に設定する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図6に示すスポット認識領域の最適サイズを自動的に設定する処理を、グラフを用いて模式的に説明する図である。
【図8】図1に示すスポット画像認識システムにおいて表示装置に表示される画面の例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
101 中央処理装置
102 プログラムメモリ
103 外部記憶装置
104 データメモリ
105 入力デバイス
106 表示装置
121 スポット画像データ取得プログラム
122 スポット認識領域適用プログラム
123 スポット認識用パラメータ計算プログラム
124 スポット自動認識プログラム
125 スポット認識問合せプログラム
126 スポット認識状態表示プログラム
131 スポット画像データ
132 スポット認識結果データ
141 スポット輝度データ
142 スポット認識データ
151 ポインティングデバイス
152 キーボード
201 スポット輝度データテーブル
202 スポット認識データテーブル
301,302,303,304 スポット認識領域
305,306,307,308 スポット認識領域301〜304に対応するシグナル強度分布のプロット
401,402,403,404 中央値
411,412,413,414 平均値
501 中央値のプロット
502 平均値のプロット
503 中央値と平均値との差のプロット
504 中央値と平均値との比のプロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット画像を自動的に認識する方法であって、
スポット認識領域をサイズを変化させながらスポット画像に適用して、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布を取得し、
取得したシグナル強度分布の中央値及び平均値からスポット認識パラメータを計算し、
スポット認識領域のサイズの変化に従って前記スポット認識パラメータが変化するパターンが、所定の上方閾値及び下方閾値との間で一定の関係を満たす場合には、前記スポット認識パラメータの変化パターンにおける所定位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定し、
前記最適サイズのスポット認識領域を適用してスポット画像を認識する方法。
【請求項2】
前記スポット認識領域の最適サイズの判定において、
スポット認識領域のサイズを最小サイズから最大サイズまで一方向に増加させたときに、
スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上であり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、その後下方閾値よりも小さくなる場合には、スポット認識パラメータの値が最初に上方閾値より大きくなる直前の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スポット認識領域の最適サイズの判定において、
スポット認識領域のサイズを最大サイズから最小サイズまで一方向に減少させたときに、
スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最大サイズの時には下方閾値よりも小さく、その後下方閾値以上となり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上である場合には、スポット認識パラメータの値が上方閾値より大きくなった後再度上方閾値以下となった直後の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スポット認識パラメータは、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
スポット認識領域のサイズ設定を補正する方法であって、
設定されたスポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比が一定の閾値を超える場合には、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法を用いて得られる最適サイズにスポット認識領域を設定し直すことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法をスポット画像認識システムにおいて実行するためのプログラム。
【請求項7】
スポット画像を自動的に認識するシステムであって、
スポット認識領域をサイズを変化させながらスポット画像に適用して、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布を取得する手段と、
取得したシグナル強度分布の中央値及び平均値からスポット認識パラメータを計算する手段と、
スポット認識領域のサイズの変化に従って前記スポット認識パラメータが変化するパターンが、所定の上方閾値及び下方閾値との間で一定の関係を満たす場合には、前記スポット認識パラメータの変化パターンにおける所定位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定する手段と、
前記最適サイズのスポット認識領域を適用してスポット画像を認識する手段とを備えたスポット画像認識システム。
【請求項8】
前記スポット認識領域の最適サイズを判定する手段は、
スポット認識領域のサイズを最小サイズから最大サイズまで一方向に増加させたときに、
スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上であり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、その後下方閾値よりも小さくなる場合には、スポット認識パラメータの値が最初に上方閾値より大きくなる直前の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする請求項7に記載のスポット画像認識システム。
【請求項9】
前記スポット認識領域の最適サイズを判定する手段は、
スポット認識領域のサイズを最大サイズから最小サイズまで一方向に減少させたときに、
スポット認識パラメータの値が、スポット認識領域が最大サイズの時には下方閾値よりも小さく、その後下方閾値以上となり、その後上方閾値より大きくなり、その後上方閾値以下となり、スポット認識領域が最小サイズの時には上方閾値以下かつ下方閾値以上である場合には、スポット認識パラメータの値が上方閾値より大きくなった後再度上方閾値以下となった直後の位置に相当するスポット認識領域のサイズを最適サイズと判定することを特徴とする請求項7に記載のスポット画像認識システム。
【請求項10】
前記スポット認識パラメータは、スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載のスポット画像認識システム。
【請求項11】
既にサイズ設定されているスポット認識領域について、当該スポット認識領域内の画素のシグナル強度分布の中央値及び平均値の差又は比を計算し、その値が一定の閾値を超える場合には、スポット認識領域のサイズを設定し直すスポット認識領域再設定手段をさらに備えていることを特徴とするスポット画像認識システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−84281(P2006−84281A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268237(P2004−268237)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【出願人】(501002172)株式会社DNAチップ研究所 (33)
【Fターム(参考)】