説明

スライディングゲートの閉塞を低減するタンディッシュの予熱方法

【課題】 連続鋳造のタンディッシュのスライディングゲートが溶鋼の凝固によるノズル閉塞を低減するために予熱を簡便かつ安価に強化する方法を提供する。
【解決手段】 連続鋳造設備1のタンディッシュ3のスライディングゲート4の開度を22〜57%に絞った状態で予熱流をスライディングゲート4に通すものとし、予熱流量の単位体積当たりのスライディングプレート4aとの接触面積を増大せしめ、スライディングプレート4aの熱効率を良化する。この結果、スライディングゲート4の閉塞が低減でき、結果的に浸漬ノズルの閉塞が低減できる。ただし、この場合、タンディッシュ3内の内圧上昇に対応したタンディッシュ3のタンディッシュカバー3cの上壁面3dのシール強化を行う必要があるが、このシール強化が困難な場合は、スライディングゲート4の開度を望ましくは面積率で30〜57%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、連続鋳造においてタンディッシュ出口のスライディングゲートに地金が付着して閉塞することを防止するために、スライディングゲートを含むタンディッシュの予熱を強化することによりスライディングゲートの閉塞を低減して連続鋳造、特に連々鋳の回数の向上を図るタンディッシュの予熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造においては、溶鋼をタンディッシュからモールドへ注湯を開始する前に、スライディングゲートを含むタンディッシュ内全体をガスバーナーによって予備加熱し、鋳造開始時におけるタンディッシュ内で溶鋼が温度降下することを抑制する。
【0003】
ところで、タンディッシュ内では、タンディッシュの底面からモールドへ到る溶鋼の経路には、注湯用の浸漬ノズルに、3層のスライディングプレートから形成されるスライディングゲートが配置されている。これらの3層のスライディングプレートのうち中間に配置したスライディングプレートの位置をずらして変更することによって、モールドへ注湯する溶鋼の流量制御を行っている。ところで、連続鋳造方法において、連続鋳造を阻害する要因として、スライディングゲートで溶鋼が凝固して閉塞が生じることがある。この閉塞では、鋳造開始時のスライディングプレートの温度が鋳造初期におけるスライディングゲートの閉塞の程度に影響する。
【0004】
従来の連続鋳造におけるタンディッシュのスライディングゲートでは、タンディッシュにおける注湯用ストッパーの内部に燃焼用ガスの供給孔を設け、注湯用ストッパーの先端部に燃焼用ガス供給孔に通じるバーナー用ノズルを設け、このバーナー用ノズルで燃焼用ガスを燃焼させて火炎を発生させ、スライディングゲート付近を直接加熱し、その近傍の雰囲気を900℃以上に保つ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。ところで、この提案の装置による方法では、ガス燃料を使用するためにコストアップとなり、さらにストッパー先端部のバーナー用ノズルはタンディッシュの交換毎に取り替える必要があり、そのために保守のための工数が増える問題がある。また、加熱に重要な箇所の温度は、スライディングゲート付近の雰囲気温度ではなく、スライディングゲート部において溶鋼の凝固による付着が発生するスライディングプレートそのものの温度である。
【0005】
さらに、タンディッシュ〜注湯用の浸漬ノズルの開閉用のストッパーロッドに加熱ガスバーナーを内装し、この加熱ガスバーナーにてタンディッシュノズルとスライディングゲートおよび浸漬ノズルにおける溶鋼の流路を900〜1000℃に加熱保持してノズル詰まりを防止する方法および装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この装置および方法は、上記の特許文献1と同様に、ストッパーからのバーナーで予熱するもので、この予熱方法には多大なデメリットがあり、その上にスライディングゲート部へ加熱ヒーターを設置する必要があり、その分だけデメリットが大きくなる。
【0006】
【特許文献1】特開平8−71713号公報
【特許文献2】特開平9−52155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、連続鋳造におけるタンディッシュのスライディングゲートが溶鋼の凝固により閉塞することを低減するためにスライディングゲートの予熱を簡便かつ安価に強化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のスライディングゲート4を含むタンディッシュ3の予熱方法では、ストッパー先端部にバーナー加熱装置を設置し、さらにスライディングゲート4に電熱加熱装置を設置することで、はじめてスライディングゲート4の昇温を実現している。しかし、この従来の方法では、コストアップやメンテナンスの負荷の増加やあるいは鋳造トラブルの発生の原因となっていた。
【0009】
そこで、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、既設の設備のままで一切新しい設備を導入することなく実施する方法である。すなわち、連続鋳造設備1のタンディッシュ3の内部をタンディッシュカバー3cの上壁面3dに有する予熱バーナー入口3eから挿入した予熱バーナーで予熱する方法である。この予熱の際にスライディングゲート4の開度を面積率で22〜57%、望ましくは30〜57%、に絞ってスライディングゲート4に予熱バーナーからの予熱流量を通すことにより、スライディングプレート4aを予熱することを特徴とする連続鋳造用のタンディッシュ3の予熱方法である。
【0010】
請求項2の発明では、スライディングゲート4に予熱流量を通す際に、スライディングゲート4以外のタンディッシュカバー3cの上壁面3dに配設の排気口3aの開度の面積を調整する。この排気口3aの開度の面積を調整することによって、スライディングゲート4の全開時の比で2/3以上の予熱流量をスライディングゲート4に確保してスライドプレート4aの予熱を強化することを特徴とする請求項1の手段における連続鋳造用のタンディッシュの予熱方法である。
【0011】
本発明の上記の請求項1の発明の手段とする理由および原理を説明する。従来法では、スライディングゲート4を含むタンディッシュ3の予熱時に、スライディングゲート4を全開し、すなわち、面積率で100%に開口していた。これに対して、本発明の請求項1に係る発明の手段では、スライディングゲート4を、上記のように面積率で22〜57%に絞った状態で予熱流をスライディングゲート4に通すものとしている。したがって、予熱流と予熱流単位体積当たりのスライディングプレート4aとの接触面積が増大することとなり、スライディングプレート4aの熱効率が良化する。その結果、スライディングゲート4の閉塞が低減でき、結果的にノズル閉塞が低減できる。ただし、この場合、タンディッシュ3内の内圧が上昇するので、この内圧上昇に対応したタンディッシュ3のタンディッシュカバー3cの上壁面3dのシール強化を行う必要があるが、このシール強化が困難な場合は、スライディングゲート4の開度を望ましくは面積率で30〜57%とする。
【0012】
さらに、本発明の請求項2の発明の手段では、請求項1の発明の手段で、スライディングゲート4の開度を絞る方法では、予熱流量はその絞りによる開度の面積率に律速されることとなる。その結果、その絞り量に対応した量の予熱流量がスライディングゲート4に流れ、その余の差し引き分の予熱流量はタンディッシュカバー3cの上壁面3dに設けられた排気口3aの方へ回ることになる。そこで、排気口3aの開度も絞ることによってタンディッシュ3内の内圧を高めて、スライディングゲート4の絞り部を通過する予熱流量を確保するものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記の手段とすることで、連続鋳造におけるタンディッシュのスライディングゲートにおける溶鋼凝固による閉塞を低減するための予熱流量によるスライディングゲートの予熱が、既設の設備のままで、簡便かつ安価な方法により強化でき、特にスライディングゲートの全開時に対する比で2/3以上の予熱流量が確保でき、その結果、ノズル閉塞の低減による連続鋳造の向上、特に連々鋳数の向上ができ、本願発明は従来にない優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願の請求項1に係る発明の実施の形態について図面を参照して説明する。この実施の形態では、図1に示すように、連続鋳造設備1では、取鍋2からタンディッシュ3に溶鋼が出鋼され、さらにタンディッシュ3からスライディングゲート4を経て浸漬ノズル5によりモールド6に溶鋼が注湯されて連続鋳造される。次いで、連続鋳造された鋳片7はピンチロール8で引き抜かれて切断機9で適宜長さに切断される。次いで切断された鋳片7は搬送機10でブルームクーラー11で冷却される。さらに加熱炉12で鋳片7を分塊圧延温度に加熱して分塊圧延機13で分塊圧延される。
【0015】
上記の図1に示す連続鋳造設備1による一連の工程において、タンディッシュ3からモールド6への溶鋼の経路に、図2に示す、3枚のスライディングプレートからなるスライディングゲート4が配置され、モールド6への溶鋼の鋳込み量が調整されている。本発明では、鋳造前のタンディッシュ3の予熱バーナーによる予熱の際、図3に示すように、3枚の中の中間のスライディングプレート4aのストローク量を全ストローク量60mmの内の30mm、すなわちストローク率を30mm/60mmの50%とする。このとき、溶鋼を通すスライディングゲート4のスライディングプレート4aの開口部4bは径60mmの円孔であるので、図3の(b)に示すように、ストローク量を30mmとすると、その時のスライディングゲート4の溶鋼通過部4dの開口率は39%まで絞った状態となる。この状態としてタンディッシュ3内を図6に示すタンディッシュカバー3cの上壁面3dに開口の予熱バーナー入口3eに挿着した予熱バーナーにより予熱し、この予熱した溶鋼の予熱流をスライディングゲート4に流して溶鋼の予熱流とスライディングゲート4との接触面積を増加させた。ここで、スライディングプレート位置は油圧制御により変更可能で、その位置情報は、常に参照出来る状態にある。従って、ストローク量は、ストローク位置表示を参照しながら位置を変更することによって決定される。
【0016】
本願の請求項2に係る発明の実施の形態では、図3に示すように、スライディングゲート4を絞って予熱バーナーによるタンディッシュ3の予熱を実施するので、スライディングゲート4を通過する溶鋼の予熱流量がスライディングゲート4の絞りに応じて減少し、その減少した予熱流量の分が、図6に示す、タンディッシュ3のタンディッシュカバー3cの上壁面3dに設けられた排気口3aへ回って排出されることとなる。そこで、この排気口3aから排出される予熱流量の分の量を少なくなるように緩和するため、排気口3aの開度を絞り、タンディッシュ3内の内圧を高めるものとすることによって、スライディングゲート4の溶鋼の予熱流量をスライディングゲート4の全開時の2/3以上を確保するものとした。なお、図6に示すように、タンディッシュ3の下面には、3本のストランド出口3fが設けられている。
【0017】
スライディングゲート4の3枚のプレートの中間に位置するスライディングプレート4aへ埋め込んだ熱電対を利用して、タンディッシュ3の予熱時のスライディングゲート4の鋳造前のスライディングプレート4aの温度の測定結果を表1に示す。表1の条件1は、従来のタンディッシュ3の予熱方法によるもので、スライディングゲート4の全開とした予熱で、スライディングプレート4aのプレート温度は562℃であったが、温度が十分でなく閉塞を生じた。条件2は、本発明の請求項1の方法に係るもので、スライディングゲート4を絞った状態での予熱で、スライディングプレート4aのプレート温度は589℃であったが、やはり温度が十分でなく閉塞を生じた。条件3は本発明の請求項2の方法に係るもので、条件2に加えて、タンディッシュ3のタンディッシュカバー3cの上壁面3dの排気口3aの開口の面積を1/2まで絞ることによって、条件1におけるスライディングゲート4の通過予熱流量の2/3を確保したもので、スライディングプレート4aのプレート温度は705℃で、閉塞することはなかった。この場合、表1の如く、条件3では、従来の予熱方法の条件1のスライディングプレート4aのプレート温度より143℃高い温度を得ることができた。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1:本発明の請求項1の手段に係る方法で、スライディングゲート4の開口部4bの開度を49%(ストローク量は35mm/60mmであるので、ストローク率は58%)としたところ、得られたスライディングプレート4aのプレート温度は698℃であった。
【0020】
実施例2:本発明の請求項2の手段に係る方法で、スライディングゲート4の開口部4bの開度を30%(ストローク量は25mm/60mmであるので、ストローク率は42%)としたところ、スライディングゲート4を通過する溶鋼の予熱流量が通常の1/4程度まで下がり、所定の、タンディッシュカバー3cの上壁面3dの排気口3a以外からは予熱流が漏れない程度にその排気口3aの面積の開度を調整したところ、スライディングプレート4aのプレート温度で723℃を得た。
【0021】
実施例3:本発明の請求項2の手段に係る方法で、スライディングゲート4の開口部4bの開度を22%(ストローク量は20mm/60mmであるので、ストローク率は33%)としたところ、スライディングゲート4を通過する予熱流量が通常の1/5程度まで下がり、タンディッシュカバー3cの上壁面3dの排気口3aの面積の開度の調整を試みるものの、タンディッシュ3内の内圧上昇が過度となり、通常では口を開いていないタンディッシュ上面の数箇所から予熱流が吹き出す結果となった。ただし、その際のスライディングプレート4aのプレート温度は730℃であった。
【0022】
比較例1:上記の表1の条件1に示す従来の方法で、鋳造前のタンディッシュ3の予熱において、スライディングゲート4の開口部4bの開度を、図2に示すように全開状態として予熱を行った。この場合、十分にスライディングプレート4aのプレート温度は上昇できずプレート温度は562℃前後であった。
【0023】
比較例2:本発明の請求項1と同様の方法で、スライディングゲート4の開口部4bの開度を58%(ストロークは40mm/60mmであるので、ストローク率では67%)としたところ、得られたスライディングプレート4aのプレート温度は、表2に示すように、従来法(表1の条件1)に比して温度は上昇しているものの、676℃前後であった。なお、表2にスライディングプレート4aの温度と、操業上支障のあるレベルのノズル閉塞の有無を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
次いで、スライディングゲート4の開口部4bの開度を自動制御により行うものとする。図4はタンディッシュ3の底3bのレベルからモールド6までの側面図である。浸潰ノズル5からモールド6へ溶鋼を供給すると、モールド6内の湯面6aの位置を渦流センサー6bによって検知する。その場合、湯面6aの位置情報がスライディングゲート4へフィードバックされる。例えば、湯面6aが低下するとスライディングゲート4の開口部4bの開度が大きくなり、湯面6aが上昇する。このように湯面6aが上昇すると、スライディングゲート4が絞られる形で、常に同じ湯面6aの位置が保たれるよう制御される。つまり、図5に示すように、もし、スライディングゲート4の開口部4bにおいて閉塞物4cにより閉塞が発生した場合、溶鋼が通過可能な面積が減少していく。このため、スライディングゲート4の開度は大きくなっていく。そして、スライディングゲート4の開度が全開であっても、モールド6内の湯面6aの位置が低下してしまう程の閉塞が発生した場合には、鋳造の続行が不可能となる。つまり、閉塞の度合いは、連続記録されているスライディングゲート4の開度の変化によって評価することが可能である。
【0026】
ここで、表2の開度の有無における×、△、〇について説明する。×は鋳造中に自動制御で開度が面積率で100%まで達したもので、スライディングプレート4aの温度が562℃から589℃で、スライディングゲート4の閉塞を有したものである。△は開度が面積率で79%まで到達した場合で、この場合はスライディングプレート4aの温度が676℃で、スライディングゲート4の一部に閉塞を有したものである。○は開度が面積率で79%を超えなかった場合で、スライディングプレート4aの温度が698℃から730℃で、スライディングゲート4の閉塞は無かったものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】連続鋳造設備およびその付帯設備の模式的に示す側面図である。
【図2】全開状態のスライディングゲートの模式的に示す側面図である。
【図3】(a)は溶鋼通過部として絞った状態のスライディングゲートの模式的に示す側面図、(b)はスライディングゲートのゲート孔の平面図である。
【図4】タンディッシュの底のレベルからモールドまでの側面図である。
【図5】スライディングゲートの閉塞例を模式的に示す側面図である。
【図6】タンディッシュのタンディッシュカバーの上壁面の排気口および予熱バーナー入口を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 連続鋳造設備
2 取鍋
3 タンディッシュ
3a 排気口
3b 底
3c タンディッシュカバー
3d 上壁面
3e 予熱バーナー入口
3f ストランド出口
4 スライディングゲート
4a スライディングプレート
4b 開口部
4c 閉塞物
4d 溶鋼通過部
5 浸漬ノズル
6 モールド
6a 湯面
6b 渦流センサー
7 鋳片
8 ピンチロール
9 切断機
10 搬送機
11 ブルームクーラー
12 加熱炉
13 分塊圧延機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライディングゲートを備えた連続鋳造用タンディッシュを予熱する際に、スライディングゲートの開度を面積率で22〜57%に絞ってスライディングゲートに予熱流量を通すことによりスライディングプレートを予熱することを特徴とする連続鋳造用のタンディッシュの予熱方法。
【請求項2】
スライディングゲートに予熱流量を通す際に、スライディングゲート以外の排気口の開度の面積を調整することによって、スライディングゲートの全開時の比で2/3以上の予熱流量を確保してスライドプレートの予熱を強化することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用のタンディッシュの予熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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