説明

スラグ層の下での再溶解後のマルテンサイト系ステンレス鋼の均質化

本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造する方法に関し、該方法は、鋼のインゴットがスラグ層の下再溶解するステップと、続いてインゴットを冷却するステップとを含む。スラグ再溶解ステップから生じるインゴットの皮膜の温度が鋼のマルテンサイト形質転換温度Msを下回る前に、インゴットを炉内に配置して、次に鋼の冷却時のパーライト変換完了温度Ar1より高い初期温度Tにする。インゴットの最冷点の温度が均質化温度Tに達した後、インゴットが少なくとも保持時間tにわたって均質化処理を受け、前記保持時間tは少なくとも1時間に等しく、均質化温度Tはおよそ900℃から鋼の燃焼温度の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法に関し、該方法は、前記鋼のインゴットのエレクトロスラグ再溶解のステップと、続いて前記インゴットを冷却するステップとを備える。
【背景技術】
【0002】
本発明において、別途指摘しない限り、組成物のパーセンテージは、重量によるパーセンテージである。
【0003】
ステンレスマルテンサイト鋼は、10.5%を超えるクロム含有率を有し、本質的にマルテンサイトである構造の鋼である。
【0004】
このような鋼の疲労挙動は、このような鋼から産生される部品の耐用寿命が最長化されるように、可能な限り良好であることが重要である。
【0005】
この目的のために、鋼の包有特徴を改善すること、即ち鋼中に存在する所望でない包有物(ある合金、酸化物、炭化物、および金属間化合物の相)の量を減少させることが求められている。このような包有物は、サイクル載荷の下で鋼の早期破壊を生じる亀裂発生部位として作用する。
【0006】
実験的には、この鋼の試験片に行われた、即ち課された変形下での各レベルの疲労載荷での疲労試験の結果では、大きな分散が観察され、耐用寿命(この鋼の疲労試験片の破断を生じるサイクル数に相当)は広範囲で変動する。包有物は統計的な意味では、鋼の疲労耐用寿命の最小値(範囲のうち低い値)の原因である。
【0007】
疲労挙動における分散を低減するために、即ちこれらの低い値を上昇させるために、および平均疲労挙動値を上昇させるためにも、鋼の包有特徴を改善することが必要である。エレクトロスラグ再溶解技法、ESRが公知である。この技法では、鋼インゴットはるつぼに入れられ、るつぼにはスラグ(無機物、例えば石灰、フッ化物、マグネシア、アルミナ、方解石の混合物)が投入されて、インゴットの下端がスラグ中に浸漬される。次に電流をインゴットに流すと、インゴットは電極として作用する。この電流は、スラグを加熱および液化するのに、ならびに鋼電極の下端を加熱するのに十分な高さである。この電極の下端はスラグと接触しているので、これが溶解して細滴の形でスラグ中を通過し、次にスラグ層の下で固化し、これが浮揚して新たなインゴットを形成して、このインゴットは徐々に成長する。スラグはとりわけ、スラグ層の下に位置する新たなインゴットの鋼が最初のインゴット(電極)よりも少ない包有物を含有するように、鋼滴から包有物を抽出するフィルタとして作用する。この操作は、大気圧下および空気中で行う。
【0008】
ESR技法は、包有物を排除することによってステンレスマルテンサイト鋼の疲労挙動の分散を低下することができるが、この分散は部品の耐用寿命に関してはなお大きすぎる。
【0009】
発明者により行われた超音波を使用する非破壊試験は、前記鋼が公知の水素欠陥(フレーク)を実際には含まないことを示した。
【0010】
疲労挙動結果の分散、特に結果の範囲の下端値は、このため、鋼における亀裂の早期発生の別の所望でない機構によるものであり、早期疲労破断を生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、これらの低い値を上昇させて、ステンレスマルテンサイト鋼の疲労挙動の分散を減少させ、平均疲労挙動を上昇させることができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本目的は、前記インゴットの皮膜の温度が鋼のマルテンサイト形質転換温度Msを下回る前に、エレクトロスラグ再溶解からのインゴットを初期温度Tが次に前記鋼の冷却時のパーライト変換完了温度Ar1より高い炉内に配置して、前記インゴットが前記炉内で少なくとも保持時間にわたって均質化処理を受け、この後にインゴットの最冷点の温度が均質化温度Tに達することで達成され、前記保持時間は少なくとも1時間に等しく、均質化温度Tはおよそ900℃から鋼の燃焼温度の範囲内である。
【0013】
このような手段は、鋼内の軽量元素によって構成される(産業用非破壊試験手段によって検出できない)微視的寸法の気相の形成を減少させて、疲労した鋼の早期破壊を生じさせる前記微視的相からの亀裂の早期発生を回避する。
【0014】
本発明およびこれの利点は、非限定的な例によって示される実施の以下の詳細な説明からより良好に理解することができる。説明は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の鋼および従来技術の鋼の疲労耐用寿命曲線を比較する。
【図2】疲労載荷曲線を示す。
【図3】樹枝状晶および枝状晶間領域を示す図である。
【図4】破壊を発生させた気相を示す、疲労後の破壊表面の電子顕微鏡を使用して撮影した写真である。
【図5】アルファ生成元素がより豊富であり、ガンマ生成元素がより豊富でない領域の冷却曲線の時間−温度図である。
【図6】アルファ生成元素がより豊富でなく、ガンマ生成元素がより豊富である領域の冷却曲線の時間−温度図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ESR法の間に、スラグによって濾過された鋼は冷却され、徐々に固化してインゴットを形成する。この固化は冷却の間に起こり、図3に示すように樹枝状晶10の成長を伴う。ステンレスマルテンサイト鋼の状態図と一致して、最初の固化粒に相当する樹枝状晶10は、定義によりアルファ生成元素がより豊富であるが、樹枝状晶間領域20はガンマ生成元素がより豊富である(状態図への公知のてこの原理の応用)。アルファ生成元素は、フェライト型構造(低温でより安定である構造:ベイナイト、フェライト−パーライト、マルテンサイト)に有利な元素である。ガンマ生成元素は、オーステナイト構造(高温にて安定である構造)に有利な元素である。このため樹枝状晶10と樹枝状晶間領域20との間に偏析が起こる。
【0017】
化学組成物中のこの局所偏析は次に、製造中ずっと、続く高温形成操作の間でさえ保持される。このためこの偏析は、固化したままのインゴットおよび続いて変形されたインゴットの両方に見出される。
【0018】
発明者らは、結果がESRるつぼから直接、または高温変形後のインゴットから得られたインゴットの直径に依存することを示すことができた。この観察は、冷却速度が直径の拡大と共に低下するという事実によって説明できる。図5および6は、起こり得る異なるシナリオを示す。
【0019】
図5は、アルファ生成元素がより豊富であり、ガンマ生成元素がより豊富でない領域、例えば樹枝状晶10の公知の温度(T)−時間()図である。曲線DおよびFは、オーステナイト(領域A)からフェライト−パーライト構造(領域FP)への変換の開始および終了を示す。この変換は、インゴットが従う冷却曲線が曲線DとFとの間の領域中をまたは領域FP中をそれぞれ通過するときに、部分的にまたは完全に起こる。この変換は、冷却曲線が完全に領域A内に位置するときには起こらない。
【0020】
図6は、ガンマ生成元素がより豊富であり、アルファ生成元素がより豊富でない領域、例えば樹枝状晶間領域20の同等の図である。なお、図5と比較して、曲線DおよびFは右側に移動し、即ちインゴットはフェライト−パーライト構造を得るためにより緩速で冷却する必要がある。
【0021】
図5および6はそれぞれ、3つの冷却速度:高速(曲線C1)、中速(曲線C2)、緩速(曲線C3)に相当する、オーステナイト温度からの3本の冷却曲線を示す。
【0022】
冷却の間、温度はオーステナイト温度から低下を開始する。空気中では、対象である直径では、インゴットの表面およびコアの冷却速度は非常に近い。唯一の相違は、表面がコアより先に冷却するため、表面温度がコアの温度よりも低いという事実から生じる。
【0023】
高速冷却(曲線C1)よりも高速の冷却では(図5および6)、フェライト−パーライト変換は発生しない。
【0024】
曲線C1に従う高速冷却では、変換はもっぱら樹枝状晶(図5)において、部分的であるに過ぎない。
【0025】
曲線C2に従う中速冷却では、変換は樹枝状晶間スペース20において部分的に過ぎず(図6)、樹枝状晶10においては擬似的に完全である(図5)。
【0026】
曲線C3に従う緩速冷却およびなお緩速の冷却では、変換は樹枝状晶間スペース20および樹枝状晶10の両方においてほぼ完了している。
【0027】
高速(C1)または中速(C2)冷却では、フェライト領域とオーステナイト領域との間で共存が多かれ少なかれ発生する。
【0028】
材料がいったん固化すると、最初に樹枝状晶10が(図5の曲線DおよびFを通過することにより)冷却の間にフェライト構造に変換される。しかし樹枝状晶間領域20は、(曲線C1に従う高速冷却の場合には)変換されない、またはより低い温度において、一部もしくは全体が(曲線C2に従う中速冷却、もしくは曲線C3に従う緩速冷却の場合には)続いて変換される(図6を参照のこと。)。
【0029】
樹枝状晶間領域20はこのため、オーステナイト構造をより長期にわたって保持する。
【0030】
前記固体状態冷却の間に、局所性の構造的不均一性がオーステナイトおよびフェライト型微細構造の共存と共に存在する。このような条件下では、軽元素(H、N、O)は、フェライト構造よりもオーステナイト構造での溶解性が高く、樹枝状晶間領域20にて濃縮される傾向を有する。この濃度は、樹枝状晶間領域20における大量のガンマ生成元素によって上昇する。300℃未満の温度において、軽元素はきわめて低い速度で拡散するだけであり、これの領域に捕捉されたままである。樹枝状晶間区域20のフェライト構造への完全または部分変換の後、ある濃度条件下でこれらの気相の溶解限度に達すると、これらの気相は気体の(または高い展性および非圧縮性を提供する物理状態にある物質の)ポケットを形成する。
【0031】
冷却ステージの間、ESR終了時のインゴット(または続いて変形されたインゴット)の直径が大きいほど(もしくはより一般的には、インゴットの最大寸法が大きいほど)、またはインゴットの冷却速度が低いほど、軽元素がフェライト構造を有する樹枝状晶10から完全もしくは部分オーステナイト構造を有する樹枝状晶間領域20に向かって拡散する傾向が大きく、樹枝状晶間領域では軽元素は、フェライト構造およびオーステナイト構造の共存期間にわたって濃縮されるようになる。樹枝状晶間領域において、これらの軽元素の溶解度を局所的に超過するリスクが強まる。軽元素の濃度がこの溶解度を超過するときに、前記軽元素を含有する微視的な気体ポケットがここで鋼中に出現する。
【0032】
加えて冷却が終了する間に、樹枝状晶間領域のオーステナイトは、鋼の温度が周囲温度よりもやや高いマルテンサイト変換温度Msを下回ったときに、局所的にマルテンサイトに変換される傾向がある(図5および6)。しかしマルテンサイトは、他の金属構造およびオーステナイトよりもなお低い軽元素の溶解度閾値を有する。このためさらに微視的な気相がこのマルテンサイト変換の間に鋼中に出現する。
【0033】
鋼が熱間形成(例えば鍛造)の間に受ける、続いての変形の間に、これらの相は延伸されてシート形にされる。
【0034】
疲労載荷下では、これらのシートは、亀裂発生に必要なエネルギーを低下させることによって亀裂の早期発生の原因となる、応力集中部位として作用する。これは次に鋼の早期破壊を生じて、疲労挙動の結果で低い値を生じる。
【0035】
このような結論は、図4の電子顕微鏡写真に示されるように、発明者らの観察によって裏付けられている。
【0036】
ステンレスマルテンサイト鋼の破壊表面のこの写真では、実質的に球状の区域Pが見られ、ここから亀裂Fが広がっている。この区域Pは、これらの亀裂Fの形成の始点にある軽元素によって構成された気相のフットプリントであり、亀裂Fは伝播および凝集によって巨視的な破壊区域を生成する。
【0037】
発明者らはステンレスマルテンサイト鋼の試験を行い、ESRステップの直後にESRるつぼからのインゴットに特定の均質化処理を行ったときに、軽元素気相の形成が減少することを見出した。
【0038】
合金元素の高い濃度の区域から低い濃度の区域への拡散により、樹枝状晶10中のアルファ生成元素への偏析の強度が低下して、樹枝状晶間領域20中のガンマ生成元素への偏析の強度が低下する。これらのガンマ生成元素への偏析の強度の低下は、以下の結果:フェライト−パーライト構造への変換のための、曲線DおよびFの右への移動の減少(図6)、樹枝状晶10と樹枝状晶間領域20との間の構造差の縮小、および樹枝状晶と樹枝状晶間領域との間の軽元素(H、N、O)の溶解度差の縮小を有し、構造(オーステナイト構造およびフェライト構造の共存の減少)および軽元素を含む化学組成に関してより良好な均質性を生じる。
【0039】
さらに均質化処理は、マルテンサイト変換温度Msの均質化も含む。
【0040】
鋼温度が300℃を超える温度にあるとき、合金元素の拡散は決して無視できない。加えて、発明者が提案するピックアップ条件と同様に、温度勾配によりインゴットの中心よりも高温である表面を産生できる場合、軽元素は表面に向かって拡散して、鋼中の軽元素全体の含有率は低下する。
【0041】
均質化処理の特定の特徴に関して、発明者らは、インゴットが炉内で保持時間にわたって均質化処理を受け、保持時間の後に前記インゴットの最冷点の温度が均質化温度Tに達したときに満足な結果が得られ、この時間は少なくとも1時間に等しく、均質化温度Tは温度T最低とこの鋼の燃焼温度との間で変化することを見出した。
【0042】
温度T最低は900℃にほぼ等しい。鋼の燃焼温度は、固体状態のままで、鋼中の粒界が変換される(または液化さえされる)温度として定義され、T最低よりも高い。炉内の鋼の保持時間はこのため、前記均質化温度Tと反比例して変動する。
【0043】
一例として、発明者らが試験で使用したZ12CNDV12ステンレスマルテンサイト鋼(AFNOR規格)では、均質化温度Tは950℃であり、対応する保持時間は70時間に等しい。均質化温度Tが燃焼温度をやや下回る1250℃であるとき、ここで対応する保持時間は10時間に等しい。
【0044】
一例として、均質化温度Tは以下の範囲:950℃から1270℃、980℃から1250℃および1000℃から1200℃からなる群より選択される範囲より選択される。
【0045】
一例として、最小保持時間は、以下の範囲:1時間から70時間、10時間から30時間および30時間から150時間からなる群より選択される範囲になるように選択される。
【0046】
さらに発明者らは、ESRるつぼからのインゴットが、この鋼の冷却時のパーライト変換完了温度Ar1よりも高い初期温度Tを有する炉に配置されるときに、およびこのインゴットの皮膜温度がこの鋼のマルテンサイト変換温度よりも高温で維持されるときに、満足な結果が得られることを見出した。
【0047】
インゴットが前記炉に配置された後に、炉の初期温度Tが均質化温度Tより低いとき、炉の温度は少なくとも均質化温度に等しい温度まで上昇される。このためこの温度上昇の間に、均質なオーステナイト構造は水素含有率を均質化するために生じる傾向があり、部品の中心から表面に向かって上昇する温度勾配も生じる傾向がある。このためインゴットの中心の温度は、温度上昇期間全体にわたってインゴットの皮膜の温度よりも低いままである。これにより、インゴットの全体的でより効果的な脱気が可能となる。
【0048】
または、炉の初期温度Tは均質化温度よりも高いことがあり、このような状況の下では炉の温度はこの均質化温度より上で単に保持される。
【0049】
発明者らは:
インゴットの最大寸法がおよそ910mm[ミリメートル]未満であり、およびエレクトロスラグ再溶解前のインゴットのH含有率が10ppm[百万分率]を超えるとき;ならびに
インゴットの最大寸法がおよそ910mmを超え、およびインゴットの最小寸法がおよそ1500mm未満であり、およびエレクトロスラグ再溶解前のインゴットのH含有率が3ppmを超えるとき;ならびに
インゴットの最小寸法が1500mmを超え、およびエレクトロスラグ再溶解前のインゴットのH含有率が10ppmを超えるとき;
に、特に均質化処置が必要であることを確証した。
【0050】
インゴットの最大寸法は、最もかさ高い部分の測定値の寸法であり、インゴットの最小寸法は、最もかさ高くない部分の測定値の寸法である:
インゴットが続いての冷却前に高温形成を受けないときには、エレクトロスラグ再溶解の直後;
インゴットがエレクトロスラグ再溶解後に高温形成を受けるときは、続いての冷却の直前。
【0051】
上で指摘したように、発明者は、インゴットのまたは変形インゴットの最小寸法が大きい寸法閾値(実際には1500mm)を超えるときに、軽元素の濃度がより高くなり得る(10ppm超)ことを確証した。インゴットの最小寸法の大きい閾値(1500mm)の存在についての説明は、次の通りである:インゴットの最小寸法がこの閾値より大きいとき、状況は、冷却中に樹枝状晶と樹枝状晶間領域との間に構造差がほとんどない曲線C3の緩速冷却に近づく。加えて冷却速度は、インゴットの皮膜とコアとの間で温度が実質的に均質となり、このため軽元素の表面への拡散が促進されて、さらなる脱気を可能にするように十分に低い。対照的に、インゴットの最小寸法はこの閾値を下回り、次に冷却中にインゴットのコアは、これの表面よりも実質的に高温であり、このことは軽元素のコアへの拡散を促進し、脱気を遅延させる。
【0052】
さらに、スラグがESRるつぼ内での使用前に脱水されることが好ましいのは、このことがスラグ中に存在する水素の量を最小化して、このためESR方法の間にスラグからインゴットまで通過できる水素の量を最小化するためである。
【0053】
発明者らは、本発明の方法を使用して、即ちインゴットをESRるつぼから取り出した直後に均質化を行って産生されたZ12CNDV12鋼に、以下のパラメータを用いて試験を行った:
試験No1:インゴット皮膜温度250℃、400℃の炉に配置、炉の温度を1250℃の均質化温度まで上昇、(インゴットの最冷温度が均質化温度に達した時間からの)金属保持75h[時間]、周囲温度まで冷却;
試験No2:インゴット皮膜温度600℃、450℃の炉に配置、炉の温度を1000℃の均質化温度まで上昇、(インゴットの最冷温度が均質化温度に達した時間からの)金属保持120h[時間]、周囲温度まで冷却。
【0054】
これらの試験結果を下に示す。
【0055】
Z12CNDV12鋼の組成は次の通りであり(DMD0242−20規格、インデックスE):
C(0.10%から0.17%)−Si(<0.30%)−Mn(0.5%から0.9%)−Cr(11%から12.5%)−Ni(2%から3%)−Mo(1.50%から2.00%)−V(0.25%から0.40%)−N(0.010%から0.050%)−Cu(<0.5%)−S(<0.015%)−P(<0.025%)、および基準:
4.5≦(Cr−40.C−2.Mn−4.Ni+6.Si+4.Mo+11.V−30.N)<9
を満足した。
【0056】
測定したマルテンサイト変換温度Msは220℃であった。
【0057】
エレクトロスラグ再溶解前にインゴット中で測定された水素の量は、3.5ppmから8.5ppmの範囲で変動した。
【0058】
図1は、本発明の方法によってもたらされた改善を定性的に示す。実験的に、サイクル引張り載荷を受ける鋼試験片を破断するために必要な破断までのサイクル数Nの値は、偽交番応力C(これらの試験に使用されるSnecma規格DMC0401に従って、課された変形下での試験片に対する負荷)の関数として得られた。
【0059】
このようなサイクル載荷を図2に図示する。期間Tは1サイクルを表す。応力は、最大値C最大と最小値C最小との間で変化する。
【0060】
統計的に十分な数の試験片に疲労試験を行うことによって、発明者らは点N=f(C)を得て、これから平均統計C−N曲線を引いた(疲労サイクルの回数Nの関数としての応力C)。次に負荷の標準偏差を所与の回数のサイクルについて計算した。
【0061】
図1において、第1の曲線15(細線)は、従来技術に従って産生された鋼について得られた(図式的な)平均曲線である。この第1の平均C−N曲線は、細点線で示された2本の曲線16および14の間にある。これらの曲線16および14は第1の曲線15から+3σおよび−3σの距離にそれぞれ位置して、σはこれらの疲労試験の間に得られた実験点の分布の標準偏差である。±3σは統計学では、99.7%の信頼区間に相当する。これらの2本の点線の曲線14および16の間の距離はこのため、結果の分散の測定値である。曲線14は、部品の寸法の制限因子である。
【0062】
図1において、第2の曲線25(太線)は、図2による載荷の下で本発明に従って産生された鋼に対して行った疲労試験結果から得られた(図式的な)平均曲線である。この第2の平均C−N曲線は、第2の曲線から+3σおよび−3σの距離にそれぞれ位置する、太点線として示された2本の曲線26と24の間に存在し、σは、これらの疲労試験の間に得られた実験点の標準偏差である。曲線24は、部品の寸法の制限因子である。
【0063】
なお、第2の曲線25は第1の曲線15の上に位置し、これは、載荷レベルCの疲労載荷の下で、本発明に従って産生された鋼試験片が平均で、従来技術の鋼試験片が破断するサイクル数よりも大きいサイクル数Nにて破断することを意味する。
【0064】
加えて、太点線で示された2本の曲線26と24との間の距離は、細点線で示された2本の曲線16と14との間の距離よりも小さく、これは本発明に従って産生された鋼の疲労挙動分散が、従来技術の鋼の疲労挙動分散よりも小さいことを意味する。
【0065】
図1は、下の表1にまとめた実験結果を示す。
【0066】
表1は、温度250°Cにおけるゼロ最小応力C最小、N=20000サイクル、およびN=50000サイクルでの、図2によるオリゴサイクル疲労載荷の結果を示す。「オリゴサイクル疲労」は、載荷周波数が約1Hzのオーダーであることを意味する(周波数は1秒当りの周期数Tとして定義される。)。
【0067】
【表1】

【0068】
なお、所与の値のサイクル数Nでは、本発明の鋼を破断するのに必要な最小疲労載荷値は、従来技術の鋼を破断するのに必要な疲労載荷の最小値M(100%に固定)よりも高い。本発明の鋼のこのサイクル数Nにおける結果の分散(=6σ)は、従来技術の鋼の結果の分散(最小値Mのパーセンテージとして表される分散)よりも小さい。
【0069】
有利には、ステンレスマルテンサイト鋼の炭素含有率は、鋼が亜共析である炭素含有率、例えば0.49%の含有率よりも低い。実際に、低い炭素含有率によって、合金元素のより良好な拡散および1次または貴炭化物の溶解温度の低下が可能となり、より良好な均質化がもたらされる。
【0070】
エレクトロスラグ再溶解の前に、例えばマルテンサイト鋼は空気中で産生される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、前記鋼のインゴットのエレクトロスラグ再溶解のステップと、続いて前記インゴットを冷却するステップとを備え、前記インゴットの皮膜の温度が鋼のマルテンサイト変換温度Msを下回る前に、エレクトロスラグ再溶解からのインゴットが、次に冷却時に前記鋼のパーライト変換完了温度Ar1よりも初期温度Tが高い炉に配置され、前記インゴットが前記炉内で少なくとも保持時間にわたって均質化処理を受け、この後に前記インゴットの最冷点の温度が均質化温度Tに達し、前記保持時間が少なくとも1時間に等しく、均質化温度Tがおよそ900℃から前記鋼の燃焼温度の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、炉の前記初期温度Tが前記均質化温度Tよりも低く、炉の温度が初期温度Tから少なくとも均質化温度Tに等しい温度まで上昇することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、均質化温度Tが950℃から1270℃、980℃から1250℃、1000℃から1200℃からなる群より選択される範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、最小保持時間が1時間から70時間、10時間から30時間および30時間から150時間より選択される範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、前記再溶解ステップで使用したスラグが事前に脱水されていることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、前記保持時間が前記均質化温度Tの変動と反比例して変動することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、該方法が前記鋼に対して以下の状況:
冷却前の前記インゴットの最大寸法がおよそ910mm未満であり、およびエレクトロスラグ再溶解前のインゴットのH含有率が10ppmを超える状況;
冷却前の前記インゴットの最大寸法がおよそ910mmを超え、およびこれの最小寸法がおよそ1500mm未満であり、およびエレクトロスラグ再溶解前のインゴットのH含有率が3ppmを超える状況;
インゴットの最小寸法が1500mmを超え、およびエレクトロスラグ再溶解前のインゴットのH含有率が10ppmを超える状況;
の1つで行われることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のステンレスマルテンサイト鋼を製造する方法であって、前記鋼の炭素含有率が、鋼がこれより下で亜共析である炭素含有率より低いことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−507530(P2013−507530A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533671(P2012−533671)
【出願日】平成22年10月11日(2010.10.11)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052140
【国際公開番号】WO2011/045513
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】