説明

スラリ流体用ロータリジョイント

【課題】スラリ流体を回転機器の相対回転部材間において良好に流動させることができるロータリジョイントを提供する。
【解決手段】スラリ流体用ロータリジョイントは、相対回転自在に連結されたケース体2と回転体3との間に回転体3の径方向に同心状に並列配置された第1及び第2メカニカルシール4,5と、両体2,3間の空間であって第1メカニカルシール4内に形成された第1シール空間6及び両メカニカルシール4,5間に形成された第2シール空間7と、ケース体2に形成された静止側通路8と回転体3に形成された回転側通路9とを第1シール空間6を介して連通させてなる一連のスラリ流体通路10と、ケース体2に形成されて第2シール空間7に冷却液11を給排させる給排液通路12,13とを具備する。両メカニカルシール4,5は端面接触形のものであり、これらの固定密封環18,22は一体構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形微粒子を含有する液体,気体や凝固成分を含有する液体等のスラリ流体を扱う回転機器(例えば、半導体ウエハ研磨装置,ガラス基板研磨装置やマイクロビーズ等を粉砕・分散させる超微粉砕・分散機等)において相対回転部材間において当該スラリ流体を流動(圧送及び/又は真空吸引)させるためのスラリ流体用ロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラリ流体用ロータリジョイントとして、例えば、特許文献1に開示される如く、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法による半導体ウエハの表面研磨を行う半導体ウエハ研磨装置において装備されるものであって、相対回転自在に連結されたケース体と回転体との間に、ケース体の静止側通路と回転体の回転側通路とを端面接触形メカニカルシールでシールしたシール空間を介して連通接続してなる一連のスラリ流体通路を形成して、このスラリ流体通路により当該装置の固定側部材(装置本体等)と回転側部材(ターンテーブル,トップリング等)との間でスラリ流体を流動させるように構成したものが公知である。
【0003】
かかるスラリ流体用ロータリジョイント(以下「従来ジョイント」という)にあっては、端面接触形メカニカルシールがドライ運転される場合(例えば、スラリ流体が気体である場合やスラリ流体を真空吸引により排出させる場合)にもケース体側の密封環と回転体側の密封環との摺接部分の発熱,焼き付き,摩耗が可及的に防止されるように、当該摺接部分を冷却水により冷却するように工夫されている。
【0004】
すなわち、ケース体と回転体との対向周面間に配設したリップシール等の弾性材シールにより当該メカニカルシールを囲繞する冷却室を形成し、この冷却室に冷却水を供給することにより前記摺接部分を冷却,潤滑するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−230366号公報
【特許文献2】特開平11−287371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来ジョイントにあっては、冷却室のシール手段としてリップシール等の弾性材シールを使用しているために、冷却室に供給できる冷却水の圧力が制限され、高圧の冷却水を使用することができない。このため、前記摺接部分の冷却,潤滑を十分に行うことができず、その発熱,焼き付き,摩耗損傷を効果的に防止することできないといった問題があった。かかる問題は、高圧のスラリ流体を流動させる場合にあって両密封環の接触圧を高く設定する場合やその相対回転が高速である場合(高速回転機器に装備される場合)にあって、より顕著となる。
【0007】
このような問題を解決するために、冷却室のシール手段としてリップシール等に比してシール力の高いメカニカルシールを使用することも考えられる(例えば、特許文献2を参照)が、スラリ流体通路をシールするための上記メカニカルシールに加えて更に冷却室用のメカニカルシールを設けておくことは、ロータリジョイントの軸長(軸線方向長さ)が必要以上に大きくなると共にロータリジョイントの構造も複雑化することになり、用途が制限される(軸線方向スペースが小さな回転機器には装備できない)と共にロータリジョイントの製造コストも高騰する。
【0008】
本発明は、このような問題を生じることなく、スラリ流体を回転機器の相対回転部材間において良好に流動させることができ、広範な用途に供しうる実用的なスラリ流体用ロータリジョイントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成すべく、ケース体とこれに相対回転自在に連結された回転体との間に回転体の径方向に同心状に並列配置された第1及び第2メカニカルシールと、両体間の空間であって第1メカニカルシール内に形成された第1シール空間及び両メカニカルシール間に形成された第2シール空間と、ケース体に形成された静止側通路と回転体に形成された回転側通路とを第1シール空間を介して連通させてなる一連のスラリ流体通路と、ケース体に形成されて第2シール空間に冷却液を給排させる給排液通路とを具備しており、第1メカニカルシールが、回転体に固定された第1固定密封環と、ケース体に形成され且つ静止側通路が貫通する第1保持突起に第1Oリングを介して回転体の軸線方向に移動可能に外嵌保持された第1可動密封環と、第1可動密封環とケース体との間に介装されて、第1可動密封環を第1固定密封環へと押圧接触させるべく附勢する第1スプリング部材とを具備して、両密封環の対向端面である第1密封端面の相対回転摺接作用により第1シール空間をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであり、第2メカニカルシールが、第1固定密封環の外周部に一体形成された第2固定密封環と、ケース体に第2Oリングを介して前記軸線方向に移動可能に保持された第2可動密封環と、第2可動密封環とケース体との間に介装されて、第2可動密封環を第2固定密封環へと押圧接触させるべく附勢する第2スプリング部材とを具備して、両密封環の対向端面である第2密封端面の相対回転摺接作用により第2シール空間をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであり、第2シール空間に供給された冷却液により第1及び第2密封端面を冷却すると共に第1密封端面を洗浄,潤滑するように構成したことを特徴とするスラリ流体用ロータリジョイントを提案するものである。
【0010】
かかるスラリ流体用ロータリジョイントの好ましい実施の形態にあって、第1保持突起の外周部には第1Oリングを係合保持する環状のOリング溝が形成されており、第1保持突起の先端部分はその周方向に所定間隔を隔てた複数個所において切除されており、この切除箇所においてOリング溝を静止側通路及び第1シール空間に全面的に開放することにより、Oリング溝内におけるスラリ流体の滞留を防止するように構成される。第2シール空間には、スラリ流体通路を流動するスラリ流体より高圧の冷却液を供給するようにすることが好ましい。また、ケース体は、周壁部分とその一端部を閉塞する端壁部分とに分離構成されたものであって、中間部分をケース体内に露出する状態で配置したボルトにより当該両壁部分を連結することによって有底筒状構造物に組み立てられたものとしておくことが好ましく、かかる構造においては、当該ボルトの中間部分を第2可動密封環の外周部に形成した凹部に係合させて、この係合により第2可動密封環のケース体に対する相対回転を軸線方向移動を許容しつつ阻止するように構成しておくことが好ましい。また、第1及び第2固定密封環はセラミックスで構成しておくことが好ましく、この場合において、第1固定密封環を、外周部を第2固定密封環に一体構成した円環状板部とこれに一体形成されて回転体の端部に嵌合された円筒状部とで構成し、回転体に対する相対回転を円筒状部に嵌合固着した金属製の固定環を回転軸にキー止めすることにより阻止するように構成しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷却室として機能させる第2シール空間を第1及び第2メカニカルシールでシールするようにしたから、第2シール空間に第1メカニカルシールの摺接部分である密封端面の冷却,洗浄,潤滑を行いうるに十分な圧力の冷却液を供給することができる。したがって、当該メカニカルシールが高速運転,ドライ運転される条件下においても、密封端面の発熱,焼き付き,摩耗を効果的に防止することができ且つ当該密封端面を良好に洗浄することができ、固形成分,凝固成分を含有するスラリ流体を良好に流動させることができる。しかも、第1及び第2メカニカルシールが回転体の径方向に並列配置されており且つ両メカニカルシールの固定密封環が1つの部材で兼用構成されていることから、第2シール空間をメカニカルシール(第2メカニカルシール)でシールするようにしているに拘わらず、ロータリジョイントの軸長がスラリ流体通路をシールするメカニカルシール(第1メカニカルシール)のみを設けた場合と同等となり、ロータリジョイントの小型化,構造簡略化を実現することができ、ロータリジョイント設置スペースの小さな回転機器や高速回転機器にも適用することができ、広範な用途に供しうる実用的なスラリ流体用ロータリジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明に係るロータリジョイントの一例を示す縦断正面図である。
【図2】図2は同ロータリジョイントの縦断側面図である。
【図3】図3は図1の要部を拡大して示す縦断正面図である。
【図4】図4は同要部の横断底面図(断面は図3のIV−IV線に沿う)である。
【図5】図5は変形例を示す図4相当の横断底面図である。
【図6】図6は図5に示す要部の一部切欠斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図3に基づいて具体的に説明する。図1は本発明に係るスラリ流体用ロータリジョイントの一例を示す縦断正面図であり、図2は同ロータリジョイントの縦断側面図であり、図3は図1の要部(第1保持突起及びこれに係合保持させたOリング)を拡大して示す縦断正面図であり、図4は同要部の横断底面図(断面は図3のIV−IV線に沿う)である。
【0014】
図1及び図2に示すスラリ流体用ロータリジョイントは、半導体ウエハ研磨装置,ガラス基板研磨装置やマイクロビーズ等を粉砕・分散させる超微粉砕・分散機等の回転機器において回転テーブル等の回転側部材とこれを支持する機器本体等の固定側部材との間でスラリ流体(固形成分(砥粒等の固形微粒子)を含有する液体,気体や凝固成分を含有する液体等)1を流動させるためのものであって、前記固定側部材に取付けられるケース体2と、前記回転側部材に取付けられる回転体3と、両体2,3に同心状に並列配置された第1及び第2メカニカルシール4,5と、両体2,3間の空間であって第1メカニカルシール4内に形成された第1シール空間6及び両メカニカルシール4,5間に形成された第2シール空間7と、ケース体2に形成された静止側通路8と回転体3に形成された回転側通路9とを第1シール空間6を介して連通させてなる一連のスラリ流体通路10と、ケース体2に形成されて第2シール空間7に冷却液11を給排させる給排液通路12,13とを具備する。なお、以下の説明において、上下とは図1及び図2における上下を意味するものとする。
【0015】
ケース体2は、図2に示す如く、円筒状の周壁部分14とその上端部を閉塞する端壁部分15とに分離構成された金属(SUS316等)製のものであり、両壁部分14,15を適当数(1本のみ図示)のボルト16により連結することにより、中心線が上下方向に延びる有底筒状体に組み立てられている。
【0016】
端壁部分15は、図1及び図2に示す如く、下面中心部に円柱状の第1保持突起15aを突設すると共に下面外周縁近傍に第1保持突起15aと同心をなす環状の第2保持突起15bを突設した円盤状のものであり、中心部には、上下方向に貫通する静止側通路8が形成されている。なお、静止側通路8は、第1保持突起15aの中心部を貫通している。
【0017】
周壁部分14は、図2に示す如く、端壁部分15と外径を同一とするものであって、上端側部分14aを下端側部分14bより薄肉として端壁部分15の第2保持突起15bの外周面に嵌合させると共に、下端側部分14bのみを上下方向に貫通するボルト16を端壁部分15の第2保持突起15bに螺着させることにより、端壁部分15に固着されている。ボルト16の中間部分16aは、薄肉部分15aの内周面の近傍をこれに平行して通過するものであり、ケース体2内に露出されている。
【0018】
回転体3は、図1及び図2に示す如く、軸線が上下方向に延びる軸状の金属(SUS316等)製のもので、ベアリング17,17によりケース体2に同心をなして相対回転自在に連結されている。ベアリング17,17は、回転体3の上端近傍部位とケース体2の下端側部分(周壁部分14の下端側部分)14bとの間に装填されている。回転体3の中心部には、これを上下方向に貫通する回転側通路9が形成されている。
【0019】
第1及び第2メカニカルシール4,5は、両体2,3間に、回転体1の径方向(軸線に直交する方向)に同心をなして並列状に配置されており、次のように構成されている。
【0020】
すなわち、内側に位置する小径の第1メカニカルシール4は、図2に示す如く、回転体3の上端部にこれと同心をなして固定された第1固定密封環18と、ケース体2の第1保持突起15aに、第1固定密封環18にこれと同心をなして直対向する状態で、第1Oリング19を介して回転体3の軸線方向(上下方向)に移動可能に外嵌保持された第1可動密封環20と、第1可動密封環20とケース体2との間に介装されて、第1可動密封環20を第1固定密封環18へと押圧接触させるべく附勢する第1スプリング部材21とを具備して、両密封環18,20の対向端面である第1密封端面18a,20aの相対回転摺接作用により第1シール空間6をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールである。すなわち、第1メカニカルシール4は、第1密封端面18a,20aの内周側領域である第1シール空間6とその外周側領域である第2シール空間7とを遮蔽シールするものである。
【0021】
また、外側に位置する大径の第2メカニカルシール5は、図1及び図2に示す如く、第1固定密封環18の外周部に一体形成された第2固定密封環22と、ケース体2の第2保持突起15bに、第2固定密封環22にこれと同心をなして直対向する状態で、第2Oリング23を介して回転体3の軸線方向(上下方向)に移動可能に内嵌保持された第2可動密封環24と、第2可動密封環24とケース体2との間に介装されて、第2可動密封環24を第2固定密封環22へと押圧接触させるべく附勢するスプリング部材25とを具備して、両密封環22,24の対向端面である第2密封端面22a,24aの相対回転摺接作用により第2シール空間7をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールである。すなわち、第2メカニカルシール5は、第2密封端面22a,24aの内周側領域である第2シール空間7と両体2,3間に形成される空間であって第2密封端面22a,24aの外周側領域であるベアリング配設空間26とを遮蔽シールするものである。
【0022】
第1固定密封環18は、図2に示す如く、中心孔を回転側通路9に合致させた状態で回転体3の上端面に衝合された円環状板部27と回転体3に嵌合された円筒状部28とからなるセラミックス(この例では炭化珪素)製の一体構造物である。第1固定密封環18の回転体3に対する相対回転は、円筒状部28に焼嵌め等により嵌合固着した金属(SUS316等)製の固定環29を回転体2にキー止めすることにより行われている。すなわち、脆性材料であるセラミックス部材をキー止めしておくことはキー止め部分が欠損する等の問題を生じるが、円筒状部28に嵌合固着した金属製の固定環29をキー30により回転体3に連結しておくことにより、このような問題を生じることなくセラミックス製の第1固定密封環18と回転体3との連結を強固に行うことができる。なお、回転体3と円筒状部28との間はOリング31により二次シールされている。
【0023】
第2固定密封環22は、図1及び図2に示す如く、円環状板部27の外周部分で構成されている。すなわち、第1及び第2固定密封環18,22はセラミックス製の一体構造物に構成されている。なお、円環状板部27の上面には、軸線に直交する環状平滑面である小径の第1密封端面18a及びこれと同心をなす大径の第2密封端面22aが形成されている。
【0024】
第1可動密封環20は、図2に示す如く、第1保持突起15aに第1Oリング19を介して軸線方向に移動可能に外嵌保持されており、ケース体2の端壁部分15に両保持突起15a,15b間に配して突設されたドライブピン32を第1可動密封環20の外周部に形成した凹部20bに係合させることにより、軸線方向移動を許容しつつケース体2に対する相対回転が阻止されている。第1可動密封環20はセラミックス(この例では炭化珪素)製のもので、その先端面(下端面)は軸線に直交する平滑環状面たる第1密封端面20aに形成されている。なお、第1密封端面20aの内径を第1Oリング19との接触面の径(バランス径)より若干小さく設定すると共に当該密封端面20aの外径を当該バランス径より若干大きく設定することにより、第1メカニカルシール4を所謂バランス形メカニカルシールに構成して、スラリ流体1や冷却液11の圧力変動等により両シール空間6,7の圧力バランスが逆転した場合にも、良好なシール機能を維持できるように工夫してある。
【0025】
第1Oリング19は、図1及び図2に示す如く、第1保持突起15aの外周部に形成した環状のOリング溝33に係合保持されている。ところで、このOリング溝33には第1シール空間6を通過するスラリ流体1が侵入,滞留して、スラリ流体1に含まれる固形成分,凝固成分が堆積し、これにより、第1可動密封環20と第1Oリング19との接触面における相対運動が円滑に行われなくなり、第1可動密封環20の追従性が低下する虞れがある。当該ロータリジョイントでは、このような事態の発生を回避すべく、第1保持突起15aの先端部分を次のように部分的に切除してある。すなわち、第1保持突起15aは、図3に示す如く、Oリング溝33の一側壁(上側壁)を形成する基端部15cとOリング溝33の底壁を形成する中間部15dとOリング溝33の他側壁(下側壁)を形成する先端部15eとからなる円筒状構造物である。而して、第1保持突起15aの先端部15eは、図3及び図4に示す如く、その周方向に所定間隔を隔てた複数個所15fにおいて切除されており、この切除箇所15fにおいてOリング溝33を静止側通路8及び第1シール空間6に全面的に開放することにより、Oリング溝33内におけるスラリ流体の滞留を防止するように工夫してある。
【0026】
第2可動密封環24は、図2に示す如く、第2保持突起15bに第2Oリング23を介して軸線方向に移動可能に内嵌保持されており、前記ボルト16の露出部分(中間部分)16aを第2可動密封環24の外周部に形成した凹部24bに係合させることにより、軸線方向移動を許容しつつケース体2に対する相対回転が阻止されている。第2可動密封環24はカーボン製又はセラミックス製(この例ではカーボン製)のもので、その先端面(下端面)は軸線に直交する平滑環状面たる第2密封端面24aに形成されている。
【0027】
第1及び第2スプリング部材21,25は、図2に示す如く、夫々、可動密封環20,24とケース体2の端壁部分15との間に周方向に所定間隔を隔てて配置された複数のコイルスプリング(1個のみ図示)で構成されており、可動密封環20,24を固定密封環18,22へと押圧附勢して、第1密封端面18a,20a及び第2密封端面22a,24aを適当圧で接触させるものである。
【0028】
スラリ流体通路10は、図1及び図2に示す如く、ケース体2に形成された静止側通路8と回転体3に形成された回転側通路9とを、第1メカニカルシール4でシールされた第1シール空間6を介して連通させてなる一連のものであり、静止側通路8を当該回転機器の静止側部材(図示せず)に形成された静止側流路34に接続すると共に回転側通路9を当該回転機器の回転側部材(図示せず)に形成された回転側流路35に接続することによって、スラリ流体1を、図1及び図2に矢印で示す如く静止側流路34から回転側流路35へと、或いは逆に回転側流路35から静止側流路34へと流動させるものである。
【0029】
給液通路12及び排液通路13は、図1に示す如く、ケース体2に形成されており、一端部を可動密封環20,24の背面側(上面側)において第2シール空間7に開口させる共に他端部をケース体2の外周面に開口して冷却液11の循環装置(図示)に接続させたものである。すなわち、第2シール空間7には所定圧の冷却液11が給排液通路12,13により循環供給され、この冷却液11により、第1密封端面18a,20a及び第2密封端面22a,24aが冷却,洗浄,潤滑されるようになっている。この例では、冷却液11の圧力(第2シール空間7における冷却液圧力)を第1シール空間6を流動するスラリ流体1の圧力より若干高くなるように設定すると共に、冷却液11として、スラリ流体1に混入しても支障のない性状のもの(この例では清水)を使用している。
【0030】
なお、ケース体2の周壁部分14には、図1に示す如く、ベアリング(上位のベアリング)17の直上位に配して厚肉部分14bから内方に張り出す断面L字状の環状をなすドレン受け36が形成されると共に、このドレン受け36内に開口するドレン路37が形成されていて、第2密封端面22a,24aからベアリング配設空間26に漏洩した冷却液11がベアリング17,17に侵入しないように工夫してある。すなわち、第1密封端面22a,24aからベアリング配設空間26に漏洩した冷却液11は、第2固定密封環22及び固定環29と周壁部分14との間からドレン受け36に回収され、ドレン受け36からドレン路37へと排出される。
【0031】
以上のように構成されたスラリ流体ロータリジョイントにあっては、スラリ流体通路10の相対回転部分(静止側通路8と回転側通路9との対向端部を接続する第1シール空間6)が端面接触形の第1メカニカルシール4によりシールされているから、スラリ流体1を漏れを生じることなく良好に流動させることができる。また、第1メカニカルシール4のシール部分である第1密封端面18a,20aが硬質のセラミックス材(炭化珪素)で構成されているから、第1密封端面18a,20aの接触による摩耗粉が大量に生じることがない。
【0032】
しかも、第1密封端面18a,20aが第2シール空間7に供給される冷却液11によって潤滑されることから、第1メカニカルシール4が端面接触形のものであり且つその密封端面18a,20aが自己潤滑性に乏しい炭化珪素等のセラミックス製のものであっても、第1密封端面18a,20aの摩耗,発熱が可及的に防止,抑制され、良好なメカニカルシール機能が発揮される。かかるメカニカルシール機能は、スラリ流体1が気体である場合やスラリ流体1を真空吸引させる場合等において第1密封端面18a,20aがドライ運転されるときにも、冷却液11による第1密封端面18a,20aの潤滑作用により良好に発揮される。特に、冷却液11を第1シール空間6の圧力より高く設定しておくことにより、冷却液11が第1密封端面18a,20aを確実に潤滑すると共に当該密封端面18a,20aを良好に洗浄することができ(密封端面18a,20a間へのスラリ成分(固形成分,凝固成分)の侵入,堆積を確実に防止することができ)、スラリ流体1の性状に拘わらず常に良好なメカニカルシール機能が発揮される。
【0033】
したがって、本発明に係るスラリ流体用ロータリジョイントによれば、高度のコンタミネーション防止対策を必要とする回転機器(半導体ウエハ研磨装置等)においてもスラリ流体1を相対回転部材間において良好に流動させることができる。
【0034】
また、本発明に係るスラリ流体用ロータリジョイントにあっては、スラリ流体通路10のシール部分を冷却する冷却室(冷却液11が供給される第2シール空間)7を端面接触形メカニカルシール4,5でシールしているから、高圧の冷却液11を使用することができ(例えば、スラリ流体1より高圧の冷却液11を使用することができ)、両体2,3が高速で相対回転する場合にも第1密封端面18a,20a(及び第2密封端面22a,24a)の冷却,潤滑を良好に行うことができる。したがって、従来ジョイントでは適用できないような高速回転機器においても好適に使用することができる。
【0035】
また、上記冷却室7をシールする第2メカニカルシール5を第1メカニカルシール4の軸線方向ではなく径方向に並列配置するようにしたから、当該ロータリジョイントの軸長(軸線方向長さ)が第1メカニカルシール4のみを設けた場合と同様になり、軸線方向のスペースが小さな回転機器にも適用することができる。しかも、両メカニカルシール4,5の固定密封環18,22を共通部材で兼用構成したから、両メカニカルシール4,5の全体構造を簡略化,小型化することができ、回転機器への設置スペースを更に減少させると共に、部品点数の削減による当該ロータリジョイントの製作コストを低減することができる。また、上記した構成のスラリ流体用ロータリジョイントは、ケース2を周壁部分14と端壁部分15とに分離構成して、その組み立て(メカニカルシール4,5の組み込み等)を容易に行うことができるものであるが、ケース体2の組み立て(周壁部分14と端壁部分15との連結)に使用するボルト16の一部16aを第2可動密封環24の相対回転阻止用ドライブピンとして兼用していることによって、更に構造の簡略化,小型化,部品点数の削減を図ることができる。なお、ドライブピンとして使用されるボルト16の中間部分(ベアリング配設空間26に露出する部分)16aは、その両側が周壁部分14の厚肉部分14bと端壁部分15の第2保持突起15bとで支持された両端支持構造をなすものであるから、高速回転等により第2可動密封環24に必要以上のトルクが作用した場合にも、当該密封環24の相対回転阻止機能を確実に発揮させることができる。
【0036】
また、第1可動密封環20を第1保持突起15aに第1Oリング19を介して外嵌保持させると共に、当該Oリング19を係合保持するOリング溝33を複数個所15fにおいて第1シール空間6及び静止側通路8に全面的に開放するようにしたから、スラリ流体1に含まれるスラリ成分(固形成分,凝固成分等)がOリング溝33内に侵入しても、これがスラリ流体通路10を流動するスラリ流体1によってOリング溝33外に速やかに流動されることになり、Oリング溝33内においてスラリ流体1ないしこれに含まれるスラリ成分の滞留が可及的に防止,抑制される。したがって、スラリ成分がOリング溝33内に付着,堆積して第1可動密封環20と第1Oリング19との相対運動を妨げることがなく、第1可動密封環20の追従性が長期に亘って良好に保持されることになる。したがって、第1メカニカルシール4による被密封流体が固形成分,凝固成分等のスラリ成分を含むスラリ流体1であっても、当該メカニカルシール4によるシール機能を良好に発揮させることができる。
【0037】
なお、本発明に係るスラリ流体用ロータリジョイントの構成は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良,変更することができる。例えば、第1保持突起15aの先端部分の切除範囲15fは、第1Oリング19のOリング溝33から第1シール空間6への飛び出しを阻止する部分が先端部15eに存在すること及び第1Oリング19の内周部が接触するシール部分15gが中間部15dに存在することを条件として、適宜に設定することができる。例えば、図5及び図6に示すものでは、切除範囲15fが先端部15eのみならず中間部15dの先端側(シール部分15gより先端側)にまで拡大されている。
【符号の説明】
【0038】
1 スラリ流体
2 ケース体
3 回転体
4 第1メカニカルシール
5 第2メカニカルシール
6 第1シール空間
7 第2シール空間
8 静止側通路
9 回転側通路
10 スラリ流体通路
11 冷却液
12 給液通路
13 排液通路
14 周壁部分
15 端壁部分
15a 第1保持突起
16 ボルト
16a ボルトの中間部分
18 第1固定密封環
18a 第1密封端面
19 第1Oリング
20 第1可動密封環
20a 第1密封端面
21 第1スプリング部材
22 第2固定密封環
22a 第2密封端面
23 第2Oリング
24 第2可動密封環
24a 第2密封端面
25 第2スプリング部材
27 円環状板部
28 円筒状部
29 固定環
30 キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース体とこれに相対回転自在に連結された回転体との間に回転体の径方向に同心状に並列配置された第1及び第2メカニカルシールと、両体間の空間であって第1メカニカルシール内に形成された第1シール空間及び両メカニカルシール間に形成された第2シール空間と、ケース体に形成された静止側通路と回転体に形成された回転側通路とを第1シール空間を介して連通させてなる一連のスラリ流体通路と、ケース体に形成されて第2シール空間に冷却液を給排させる給排液通路とを具備しており、
第1メカニカルシールが、回転体に固定された第1固定密封環と、ケース体に形成され且つ静止側通路が貫通する第1保持突起に第1Oリングを介して回転体の軸線方向に移動可能に外嵌保持された第1可動密封環と、第1可動密封環とケース体との間に介装されて、第1可動密封環を第1固定密封環へと押圧接触させるべく附勢する第1スプリング部材とを具備して、両密封環の対向端面である第1密封端面の相対回転摺接作用により第1シール空間をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであり、
第2メカニカルシールが、第1固定密封環の外周部に一体形成された第2固定密封環と、ケース体に第2Oリングを介して前記軸線方向に移動可能に保持された第2可動密封環と、第2可動密封環とケース体との間に介装されて、第2可動密封環を第2固定密封環へと押圧接触させるべく附勢する第2スプリング部材とを具備して、両密封環の対向端面である第2密封端面の相対回転摺接作用により第2シール空間をシールするように構成された端面接触形メカニカルシールであり、
第2シール空間に供給された冷却液により第1及び第2密封端面を冷却すると共に第1密封端面を洗浄,潤滑するように構成したことを特徴とするスラリ流体用ロータリジョイント。
【請求項2】
第1保持突起の外周部には第1Oリングを係合保持する環状のOリング溝が形成されており、第1保持突起の先端部分はその周方向に所定間隔を隔てた複数個所において切除されており、この切除箇所においてOリング溝を静止側通路及び第1シール空間に全面的に開放することにより、Oリング溝内におけるスラリ流体の滞留を防止するように構成したことを特徴とする、請求項1に記載するスラリ流体用ロータリジョイント。
【請求項3】
第2シール空間に供給される冷却液がスラリ流体通路を流動するスラリ流体より高圧であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載するロータリジョイント。
【請求項4】
ケース体が周壁部分とその一端部を閉塞する端壁部分とに分離構成されたものであって、中間部分をケース体内に露出する状態で配置したボルトにより当該両壁部分を連結することによって有底筒状構造物に組み立てられたものであり、当該ボルトの中間部分を第2可動密封環の外周部に形成した凹部に係合させて、この係合により第2可動密封環のケース体に対する相対回転を軸線方向移動を許容しつつ阻止するように構成してあるこを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載するスラリ流体用ロータリジョイント。
【請求項5】
第1及び第2固定密封環がセラミックスで構成されており、第1固定密封環が、外周部を第2固定密封環に構成した円環状板部とこれに一体形成されて回転体の端部に嵌合された円筒状部とで構成されると共に、円筒状部に嵌合固着した金属製の固定環を回転軸にキー止めすることにより回転体に対する相対回転を阻止されたものであることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載するスラリ流体用ロータリジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−270834(P2010−270834A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123384(P2009−123384)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】