説明

スルホニウム塩化合物、カチオン重合開始剤および熱硬化性組成物

【課題】カチオン重合性の硬化性組成物に、ゲル化が速い熱硬化を与えることができ、カチオン重合開始剤として適したスルホニウム塩化合物、ならびにそれを用いたカチオン重合開始剤および熱硬化性組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)、


(式中、Aはアルカンジイル基、Rは水素原子またはメチル基、R1およびR2はアルキル基等。)で表されるスルホニウム塩化合物ならびにこれを使用するカチオン重合開始剤および熱硬化性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホニウム塩化合物、カチオン重合開始剤および熱硬化性組成物に関し、詳しくは、新規なスルホニウム塩化合物、ならびにこれを使用するカチオン重合開始剤および熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン重合性開始剤は、熱や光等のエネルギーを受けて酸を発生させて、エポキシ化合物等のカチオン重合性化合物を硬化させる機能を有するものであり、スルホニウム塩化合物が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1の請求項1には、R1+23-(R1は硫黄原子のα位に置換されてもよいフェニル基又はエステル基を有するアルキル基を表し、R2、R3は、それぞれ置換基を有してもよいアルキル基を表し、Xは、SbF6、AsF6、PF6又はBF4を表わす)で表されるスルホニウム塩化合物が開示されている。特許文献1のスルホニウム塩化合物は、カチオン重合性化合物を短時間で硬化させる特徴を有する。また、特許文献2の請求項1には、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンを対イオンに用いた芳香族スルホニウム塩化合物が開示されている。特許文献2には、当該スルホニウム塩化合物は、対イオンにトリフルオロメタンスルホン酸アニオンを用いることで結晶性が向上し、熱や光に対して良好な安定性を有する旨、記載されている。
【特許文献1】特開平7−126313号公報
【特許文献2】特開2004−217551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のスルホニウム塩化合物のように、カチオン重合開始剤は、これを含有する熱硬化性組成物の硬化工程を短縮化するために、加熱による、よりすばやい硬化を与えるものが求められている。また、プリント基板用層間絶縁膜、多層板用絶縁膜、光学フィルム、ディスプレイ用の保護膜用途等では、熱硬化性組成物が硬化した後の硬化物に高度の平坦性が求められるので、ゲル化まではすばやく進行し、硬化途上のリフロー性を有するゲル状態でいる時間がある程度持続する硬化挙動を与えるものも求められる。更にまた、カチオン重合開始剤は、カチオン重合性化合物に対する相溶性が良好なもの、熱硬化時の揮散の無いもの、硬化後の硬化物からのブリードアウトのないものが求められている。
【0005】
そこで本発明の目的は、カチオン重合性の熱硬化性組成物にゲル化が速い熱硬化を与えることができ、カチオン重合開始剤として適したスルホニウム塩化合物、ならびにそれを用いたカチオン重合開始剤および熱硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、特定の構造を有するスルホニウム塩化合物をカチオン重合開始剤として用いた場合に、熱硬化性組成物が、ゲル化が速い熱硬化挙動をとることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明のスルホニウム塩化合物は、下記一般式(1)、

(式中、Aは炭素数1〜4のアルカンジイル基、Rは水素原子またはメチル基、R1およびR2は、それぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基または下記一般式(2)、

(式中、A1は炭素数1〜4のアルカンジイル基、環Bはベンゼン環またはナフタレン環、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜5の整数である)で表される基であり、R1およびR2は、連結してテトラヒドロチオフェン環を形成してもよく、Any-は、y価のアニオン、yは1または2である)で表されることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のカチオン重合開始剤は、上記本発明のスルホニウム塩化合物であることを特徴とするものである。
【0009】
更に、本発明の熱硬化性組成物は、上記本発明のカチオン重合開始剤およびカチオン重合性化合物を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスルホニウム塩化合物は、カチオン重合性の熱硬化性組成物に、ゲル化が速い硬化挙動を与えるカチオン重合開始剤として機能する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のスルホニウム塩化合物は、下記一般式(1)、

で表され、カチオン重合開始剤として有用である。上記一般式(1)において、Aは炭素数1〜4のアルカンジイル基であり、例えば、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH2−CH2−CH2−、−CH(CH3)−CH2−、−CH2−CH(CH3)−、−C(CH32−、−CH2−CH2−CH2−CH2−、−CH(CH3)−CH2−CH2−、−CH2−CH(CH3)−CH2−、−CH2−CH2−CH(CH3)−、−CH(CH3)−CH(CH3)−、−C(CH32−CH2−、−CH2−C(CH32−が挙げられる。
【0012】
また、上記一般式(1)において、Rは水素原子またはメチル基であり、また、R1およびR2は、それぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基または下記一般式(2)、

で表される基であり、R1およびR2は、連結してテトラヒドロチオフェン環を形成してもよい。炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第3アミル、ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、第3ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第3オクチル、2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0013】
また、上記一般式(2)において、A1は炭素数1〜4のアルカンジイル基であり、上記Aにて例示したものと同様の基が挙げられる。また、環Bはベンゼン環またはナフタレン環であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチルが挙げられる。nは0〜5の整数である。
【0014】
上記一般式(1)において、S+に直接、芳香環が結合したものは、熱硬化によるカチオン開始剤として使用すると、硬化が遅く、光安定性が悪い。また、カチオン重合性化合物との相溶性が悪化する場合があるので好ましくない。
【0015】
本発明の一般式(1)で表されるスルホニウム塩化合物において、Aがエチレンであるもの、また、R1およびR2がそれぞれ独立にメチル、ベンジルもしくは4−メチルフェニルメチル、または、R1およびR2が連結してテトラヒドロチオフェン環を形成する基であるものは、本発明の機能を損なうことなく、安価に高い収率で得られるので好ましい。
【0016】
本発明のスルホニウム塩化合物のカチオン成分の具体例としては、以下に示すカチオンNo.1〜32が挙げられる。

【0017】

【0018】

【0019】

【0020】
本発明のスルホニウム塩化合物を表す上記一般式(1)において、Any-で表されるアニオンは、1価または2価のアニオンである。一価のものとして、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、フッ素アニオン等のハロゲンアニオン;過塩素酸アニオン、塩素酸アニオン、チオシアン酸アニオン、六フッ化リンアニオン、六フッ化アンチモンアニオン、四フッ化ホウ素アニオン等の無機系アニオン;トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンスルホン酸アニオン、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸アニオン、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸アニオン、ペンタデカフルオロヘプタンスルホン酸アニオン、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン、ベンゼンスルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、アントラセンスルホン酸アニオン、アセナフテンスルホン酸アニオン、フェナントレンスルホン酸アニオン、カンファースルホン酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、エタンスルホン酸アニオン、プロパンスルホン酸アニオン、ブタンスルホン酸アニオン、ペンタンスルホン酸アニオン、ヘキサンスルホン酸アニオン、ヘプタンスルホン酸アニオン、オクタンスルホン酸アニオン、ノルボルネンスルホン酸アニオン、アダマンタンスルホン酸アニオン、シクロヘキサンスルホン酸アニオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸アニオン、2−アミノ−4−メチル−5−クロロベンゼンスルホン酸アニオン、2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸アニオン等の有機スルホン酸アニオン;ビス(ベンゼンスルホン)イミドアニオン、ビス(トルエンスルホン)イミドアニオン、ビス(メタンスルホン)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドアニオン、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホン)イミドアニオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホン)イミドアニオン、(トリフルオロメタンスルホン)(ノナフルオロブタンスルホン)イミドアニオン、(メタンスルホン)(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオン等の有機スルホンイミドアニオン;オクチルリン酸アニオン、ドデシルリン酸アニオン、オクタデシルリン酸アニオン、フェニルリン酸アニオン、ノニルフェニルリン酸アニオン、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸アニオン等の有機リン酸系アニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素アニオン等の有機ホウ素系アニオンが挙げられ、二価のものとしては、例えば、ベンゼンジスルホン酸アニオン、ナフタレンジスルホン酸アニオン等が挙げられる。
【0021】
上記のAny-で表されるアニオンは、カチオン重合の硬化挙動により適宜、選択される。例えば、単純に硬化までの時間を短縮したいのであれば、六フッ化リンアニオン、四フッ化ホウ素アニオン、六フッ化アンチモンアニオン等の無機系アニオンが好適である。また、熱硬化後の硬化物に高度な平坦性を求められる場合や凹凸のある基体に凹凸を埋め込み平坦な被膜を形成する場合は、リフロー性を向上させる必要がある。リフロー性を向上させるには、硬化途上のゲル状態がある程度継続するような硬化挙動を与えるものが適している。このような性質を与えるアニオンとしては、有機スルホン酸アニオン、有機スルホンイミドアニオン、有機ホウ素系アニオンが挙げられ、具体的には、カンファースルホン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素アニオンが挙げられる。
【0022】
本発明のスルホニウム塩化合物において、その製造方法は、特に制限されることなく周知の有機合成反応を応用した方法を用いることができる。例えば、チオエーテル化合物とハロゲン化有機化合物とアニオン成分1/yAny-を導入するための塩化合物を出発原料として得られるHO−A−S+12・1/yAny-を中間体とし、この中間体と(メタ)アクリル酸誘導体との反応により得ることができる。
【0023】
上記中間体を得る方法の具体例としては、HO−A−S−R1で表される化合物と、Cl−R2で表される化合物と、M+1/yAny-(Mはアルカリ金属)で表される化合物とを反応させる方法、R1SR2で表される化合物と、HO−A−Clで表される化合物と、M+1/yAny-で表される化合物とを反応させる方法が挙げられる。また、上記の(メタ)アクリル酸誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸等の有機酸;アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド等の酸ハライド;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の低級エステルが挙げられる。本発明のスルホニウム塩化合物は、これらの中間体とアクリル酸誘導体を用いて周知のエステル化反応またはエステル交換反応を応用して得ることができる。
【0024】
本発明のスルホニウム塩化合物は、アクリル酸またはメタクリル酸由来の重合性炭素二重結合を有するので、カチオン重合性化合物として(メタ)アクリレートやビニルエーテル、スチレン等の二重結合を有するものを使用した場合に相溶性に優れること、また、硬化後に硬化物である高分子中に化学結合によって組み込まれるのでカチオン重合開始剤のブリードアウトを防止できることが期待される。
【0025】
なお、本発明のスルホニウム塩化合物は、自身を重合性モノマーとした機能性オリゴマーや機能性ポリマー等の重合体の原料として使用することもできる。該重合体は、本発明のスルホニウム塩化合物のみからなるもの、または他の重合性モノマーとの共重合体が挙げられ、これらは光または熱による重合で得ることができる。
【0026】
本発明のカチオン重合開始剤は、上記本発明のスルホニウム塩化合物であることを特徴とするものであり、本発明の熱硬化性組成物は、当該本発明のカチオン重合開始剤と、カチオン重合性化合物を硬化性成分として含有する、熱エネルギーにより硬化する組成物である。必須成分であるカチオン重合開始剤とカチオン重合性化合物以外に、溶媒または分散媒、カチオン重合性化合物以外の重合性化合物、各種添加剤等の任意成分を含有していてもよい。
【0027】
本発明の熱硬化性組成物の必須成分であるカチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物、フェノール化合物、アルデヒド化合物、ビニルエーテル化合物、スチレン化合物、環状エーテル化合物、ラクトン化合物、エピスルフィド化合物、シリコーン類等周知の化合物が挙げられ、これらはカチオン重合による硬化物を得られるように1種類または2種類以上混合して使用される。
【0028】
本発明の熱硬化性組成物における任意成分である、溶媒または分散媒としては、各種有機溶剤を使用することができる。該有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、ポリオール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ポリエーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、塩素系溶剤、シアノ基を有する炭化水素溶剤、ピロリドン溶剤等が挙げられ、これらは、1種類または2種類以上混合して用いることができる。
【0029】
本発明の熱硬化性組成物における任意成分であるカチオン重合性化合物以外の重合性化合物としては、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、オレフィン化合物に代表されるラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0030】
また、本発明の熱硬化性組成物における任意成分である各種添加剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系の紫外線吸収剤;フェノール系、リン系、硫黄系酸化防止剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等からなる帯電防止剤;ハロゲン系化合物、リン酸エステル系化合物、リン酸アミド系化合物、メラミン系化合物、フッ素樹脂または金属酸化物、(ポリ)リン酸メラミン、(ポリ)リン酸ピペラジン等の難燃剤;炭化水素系、脂肪酸系、脂肪族アルコール系、脂肪族エステル系、脂肪族アマイド系または金属石けん系の滑剤;染料、顔料、カーボンブラック等の着色剤;ヒュームドシリカ、微粒子シリカ、けい石、珪藻土類、クレー、カオリン、珪藻土、シリカゲル、珪酸カルシウム、セリサイト、カオリナイト、フリント、長石粉、蛭石、アタパルジャイト、タルク、マイカ、ミネソタイト、パイロフィライト、シリカ等の珪酸系無機添加剤;ガラス繊維、炭酸カルシウム等の充填剤;造核剤、結晶促進剤等の結晶化剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の熱硬化性組成物におけるカチオン重合開始剤の使用量は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、0.01質量部より少ないと硬化が不充分となる場合があり、10質量部を超えても使用効果の増加が得られないばかりでなく、硬化物の物性に悪影響を与える場合があるので0.01質量部〜10質量部が好ましく、0.1質量部〜5質量部がより好ましい。また、溶媒または分散媒、カチオン重合性化合物以外の重合性化合物、各種添加剤等の任意成分のカチオン重合性化合物100質量部に対する使用量は、一般的に溶媒または分散媒は0〜10000質量部、カチオン重合性化合物以外の重合性化合物は0〜100質量部、各種添加剤は、各成分において0〜10質量部、トータルで0〜100質量部である。
【0032】
本発明の熱硬化性組成物の用途としては、インキ、保護膜(保護層)、塗料、接着剤、絶縁材、構造材、光学フィルム、FRP、レジスト等が挙げられる。特に光学フィルム用途、詳しくは液晶またはプラズマディスプレイ用光学フィルムとして有用であり、より詳しくは、プラズマディスプレイ用カラーフィルタ保護膜、反射防止膜、光拡散膜、フィルムシール剤、フィルム接着剤、偏光板保護膜、帯電防止膜、ハードコート膜、光導波路クラッドとして有用である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例、比較例等によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
合成例1
カチオンNo.16のトリフルオロメタンスルホン酸塩の製造
(中間体1の合成)
500mlの反応フラスコに2−(メチルチオ)エタノール0.54モル、1−クロロメチル−4−メチルベンゼン0.54モル、メタノール100g、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム0.60モルを仕込み、25℃で24時間撹拌した。次いでメタノールを減圧除去し、得られた残渣に塩化メチレン100gを加え、これを水100gで3回水洗した後、塩化メチレンを減圧除去して、白色結晶である中間体を収率73%で得た。
【0034】
(目的物の合成)
1リットルの反応フラスコに上記操作により得られた中間体1を0.29モル、炭酸カリウムを0.44モル、アセトンを300g仕込み、攪拌しながら5℃に冷却した。これにメタクリル酸クロライド0.30モルを反応系が5℃を超えないように滴下し、滴下後、5℃で3時間反応させた。得られた反応系に水300gを加え、次にアセトンを減圧除去し、塩化メチレンを200g加え攪拌した。水相を廃棄し、得られた塩化メチレン溶液を300gの水で3回洗浄した後、減圧濃縮し、無色液体である目的物を収率62%で得た。得られた無色液体については、1H−NMR、19F−NMR(400MHz、重クロロホルム溶媒)、MALDI TOFMASSにて分析を行い、目的物であることを確認した。
【0035】
(分析結果)
1H−NMR(ケミカルシフト;H数;ピーク)
(7.21−7.35;4;d)(6.12−5.68;2;d)(4.78−4.87;2;d)(4.42−3.84;4;m)(2.91;3;s)(2.35;3;s)(1.92:3;s)
19F−NMR(ケミカルシフト;F数;ピーク)
(75.6;3;s)
・MALDI TOFMASS
カチオン質量:266.0(理論値265.4)
アニオン質量:150.0(理論値149.1)
【0036】
合成例2
カチオンNo.16の六フッ化アンチモン塩の製造
トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを六フッ化アンチモンカリウムに変更した以外は、合成例1と同様の操作を行い収率51%で目的の化合物を得た。これについて合成例1と同様の分析を行い、目的物であることを確認した。
【0037】
合成例3
カチオンNo.16の六フッ化リン塩の製造
トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを六フッ化リンカリウムに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率53%で得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0038】
合成例4
カチオンNo.16のカンファースルホン酸塩の製造
トリフルオロメタンスルホン酸リチウムをカンファースルホン酸リチウムに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率36%で得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0039】
合成例5
カチオンNo.16のノナフルオロブタンスルホン酸塩の製造
トリフルオロメタンスルホン酸リチウムをノナフルオロブタンスルホン酸リチウムに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率60%で得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0040】
合成例6
カチオンNo.16のテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素塩の製造
トリフルオロメタンスルホン酸リチウムをテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素リチウムに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率52%で得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0041】
合成例7
カチオンNo.20のトリフルオロメタンスルホン酸塩の製造
2−(メチルチオ)エタノールを2−(4−メチルフェニルメチルチオ)エタノールに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率57%で得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0042】
合成例8
カチオンNo.15のトリフルオロメタンスルホン酸塩の製造
1−クロロメチル−4−メチルベンゼンをクロロメチルベンゼンに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率56%で得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0043】
合成例9
カチオンNo.14のトリフルオロメタンスルホン酸塩の製造
(中間体2の合成)
500mlの反応フラスコにテトラヒドロチオフェン0.54モル、2−クロロエタノール0.54モル、メタノール100g、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム0.60モルを仕込み、25℃で24時間撹拌した。次いでメタノールを減圧除去し、得られた残渣に塩化メチレン100gを加えた。この塩化メチレン組成物を水100gで3回水洗した後、塩化メチレンを減圧除去して、中間体2を収率58%で得た。
【0044】
(目的物の合成)
中間体1を、上記操作により得られた中間体2に変更した以外は合成例1と同様の操作を行い中間体2から収率51%で目的物を結晶として得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0045】
合成例10
カチオンNo.6のトリフルオロメタンスルホン酸塩の製造
メタクリル酸クロライドをアクリル酸クロライドに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率37%で目的の化合物を結晶として得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0046】
合成例11
カチオンNo.6のビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド塩の製造
メタクリル酸クロライドをアクリル酸クロライドに変更し、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムをビス(トリフルオロスルホン)イミドカリウムに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い収率38%で目的の化合物を得た。これについて合成例1と同様の分析を行い目的物であることを確認した。
【0047】
実施例1〜11、比較例1、2
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP−4100;旭電化工業(株)製)100質量部に下記表1記載のスルホニウム塩化合物をカチオン重合開始剤としてそれぞれ1質量部ずつ加え、実施例1〜11の熱硬化性組成物を得た。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP−4100;旭電化工業(株)製)100質量部に下記に示すスルホニウム塩化合物(比較化合物1、2)をカチオン重合開始剤として1質量部ずつ加え、比較用の熱硬化性組成物1、2を得た。

【0048】
(ゲル化時間の評価)
得られた熱硬化性組成物について、ゲル化時間(tg)を測定した。なお、試験方法は直径3cmのアルミパンに熱硬化性組成物を0.5g秤量し、200℃に加熱したホットプレート上で加熱する方法をとった。目視およびスパチュラによる触診で検体の粘度が上昇し始めるまでの時間をゲル化時間(tg)とした。得られた結果を下記表1に併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1から、本発明のスルホニウム塩化合物をカチオン重合開始剤として用いた熱硬化性組成物は、ゲル化までの時間(tg)が短い。一方、これに比べて比較用の熱硬化性組成物はゲル化までの時間が長いことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、

(式中、Aは炭素数1〜4のアルカンジイル基、Rは水素原子またはメチル基、R1およびR2は、それぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基または下記一般式(2)、

(式中、A1は炭素数1〜4のアルカンジイル基、環Bはベンゼン環またはナフタレン環、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜5の整数である)で表される基であり、R1およびR2は、連結してテトラヒドロチオフェン環を形成してもよく、Any-は、y価のアニオン、yは1または2である)で表されることを特徴とするスルホニウム塩化合物。
【請求項2】
前記Aがエチレン基である請求項1記載のスルホニウム塩化合物。
【請求項3】
前記R1およびR2がそれぞれ独立にメチル、ベンジルもしくは4−メチルフェニルメチル、またはR1およびR2が連結してテトラヒドロチオフェン環を形成する基である請求項1または2記載のスルホニウム塩化合物。
【請求項4】
前記Any-が六フッ化リンアニオン、四フッ化ホウ素アニオン、六フッ化アンチモンアニオン、カンファースルホン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオンおよびテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素アニオンからなる群から選択されるアニオンである請求項1〜3のうちいずれか一項記載のスルホニウム塩化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項記載のスルホニウム塩化合物であることを特徴とするカチオン重合開始剤。
【請求項6】
請求項5記載のカチオン重合開始剤およびカチオン重合性化合物を含有することを特徴とする熱硬化性組成物。

【公開番号】特開2007−210983(P2007−210983A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35680(P2006−35680)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】