説明

セグメントの継手構造

【課題】 セグメントの接合作業が極めて容易で、接合部の信頼性にも優れるとともに、接合部の製作に高い精度を必要としないセグメントの継手構造を提供する。
【解決手段】 雄型接合面3には、複数の雌型インサート31、31が埋設され、各雌型インサート31、31に、締付力保持体を備える棒状の雄型継手5、5の基端部が螺着されている。一方、雌型接合面2には、雄型継手5、5と対向する位置に凹陥部13、13が形成され、雄型継手5、5に嵌合する切欠部を有する係止板を備える雌型継手4、4が凹陥部13、13に挿着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントの継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シールドトンネル工事におけるセグメントの組立では、セグメントに予め連通孔を設けておき、セグメント同士を当接させた際、当該連通孔にボルトを挿通してナットにより締め付けることが行われている。しかし、従来の継手構造は、連通孔の位置決めやボルトとナットの締め付け作業等に手間がかかるため、作業効率が悪く、工期が長期化するという問題がある。
そこで、特許文献1では、ボルト頭部からなる雄継手を接合面に有するセグメントと、切欠部を有する係止板からなる雌継手を接合面に有するセグメントを使用し、セグメントの接合面同士をスライドさせてボルト頭部を切欠部に嵌合させることにより、セグメント同士を接合させるセグメントの継手構造が開示されている。
【特許文献1】特開平10−46988号公報 (第2−3頁、第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のセグメントの継手構造では、係止板の厚みの設定が難しく、係止板が薄すぎると接合部に緩みが生じるし、係止板が厚すぎるとボルトが破断するおそれがある。また、ボルトと係止板との間にあそびがないため、継手のアンカー部をセグメントに埋め込む際に高い精度が要求されるという問題もある。
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、セグメントの接合作業が極めて容易で、接合部の信頼性にも優れるとともに、接合部の製作に高い精度を必要としないセグメントの継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明に係るセグメントの継手構造では、雄型継手を接合面に有する一方のセグメントと雌型継手を接合面に有する他方のセグメントの互いの接合面同士をスライドさせて、前記雄型継手と前記雌型継手を嵌合させることにより、セグメント同士を接合させるセグメントの継手構造であって、前記雄型継手は、前記一方のセグメントの接合面に立設する、先端部にねじ部が形成された棒状体と、当該ねじ部に螺合するナットと、前記棒状体に係合して前記棒状体の中間部を摺動する摺動体と、前記ナットと前記摺動体間に介装されて、前記摺動体が前記ナット方向に摺動することにより圧縮力を生ずるとともに、当該圧縮力が所定の圧縮力に達した後は当該所定の圧縮力を保持する締付力保持体とを備え、前記雌型継手は、前記他方のセグメントの接合面に形成された凹陥部の開口部の少なくとも一部を覆うような係止板を備えてなり、当該係止板は、前記雄型継手が側方から嵌合可能な切欠部を有するとともに、前記雄型継手がスライドする方向に向けて厚さが漸増するテーパー状断面を有していることを特徴とする。
本発明では、雌型継手の凹陥部に雄型継手を挿入し、雌型継手の係止板に形成された切欠部に沿って雄型継手をスライドさせる。この際、係止板の断面が、スライド方向に向けて厚さが漸増するテーパー状になっているため、係止板に係合する雄型継手の摺動体は、雄型継手のナットの方向に摺動する。摺動体がナットの方向に摺動すると、ナットと摺動体間に介装された締付力保持体には圧縮力(締付力)が発生するが、所定の圧縮力に達した後は、締付力保持体はその圧縮力を保持する。そのため、本発明では、セグメントの接合面同士をスライドさせても、所定の締付力以上の大きな締付力は雄型継手に作用せず、雄型継手が損傷することがない。
また、本発明では、締付力保持体があるため、雄型継手と雌型継手の製造時および接合面への取り付け時に誤差が生じても、締付力保持体によってその誤差を吸収することができる。
【0005】
また、本発明に係るセグメントの継手構造では、前記雄型継手は、前記一方のセグメントの接合面に着脱可能であってもよい。
本発明では、セグメント搬送時に雄型継手をセグメントから取り外しておくことができるため、雄型継手が損傷したり変形したりするのを防止することができる。
【0006】
また、本発明に係るセグメントの継手構造では、前記雄型継手の前記摺動体と前記一方のセグメントの接合面との間にスペーサーが介装されていてもよい。
本発明では、雄型継手の摺動体とセグメントの接合面との間にスペーサーを介装することにより、摺動体とセグメントの接合面と間の初期間隔がスペーサーの寸法に統一される。
【0007】
また、本発明に係るセグメントの継手構造では、前記締付力保持体は、初期剛性に比べて2次剛性が小さなバイリニア型の復元力特性を有していてもよい。
ここで、縦軸を締付力保持体の圧縮力、横軸を締付力保持体の変形とする締付力保持体の復元力特性グラフにおいて、原点近傍における復元力曲線の接線勾配を初期剛性と呼び、圧縮力が所定の圧縮力に達することにより、復元力曲線の接線勾配が低下したときのその勾配を2次剛性と呼ぶ。バイリニア型の復元力特性は、初期剛性を有する直線と2次剛性を有する直線の2本の直線からその復元力特性が構成される。
本発明では、締付力保持体の2次剛性がゼロまたは初期剛性に比べて非常に小さな2次剛性を有するものが望ましい。例えば、塑性化することにより弾性時に比べて剛性が大幅に低下する材料や、形状が変化することにより初期剛性に比べて2次剛性が大幅に低下するものなどを締付力保持体として利用することができる。
【0008】
また、本発明に係るセグメントの継手構造では、前記締付力保持体は、その中間部の外周面にノッチが形成されているスリーブであってもよい。
本発明では、締付力保持体の変形が増大すると、ノッチ部で締付力保持体が外方に変形することにより、以後、締付力保持体の変形が増大しても圧縮力は増大せず、所定の圧縮力を保持することができる。
【0009】
また、本発明に係るセグメントの継手構造では、前記締付力保持体は、少なくともその中間部が蛇腹状に形成されているスリーブであってもよい。
本発明では、締付力保持体の少なくとも中間部が蛇腹状になっているため、締付力保持体の変形が増大しても圧縮力は増大せず、所定の圧縮力を保持することができる。
【0010】
また、本発明に係るセグメントの継手構造では、前記締付力保持体は、その中間部の肉厚が両端部の肉厚に比べて薄いスリーブであってもよい。
本発明では、締付力保持体の変形が増大すると、締付力保持体の薄肉部が塑性化することにより、以後、締付力保持体の変形が増大しても圧縮力は増大せず、所定の圧縮力を保持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、雄型継手を接合面に有する一方のセグメントと雌型継手を接合面に有する他方のセグメントの互いの接合面同士をスライドさせて、雄型継手と雌型継手を嵌合させる際に、雄型継手を構成する締付力保持体により所定の締付力以上の大きな締付力が雄型継手に作用することがない。そのため、本発明によれば、セグメントの接合作業が極めて容易で、接合部の信頼性にも優れるとともに、接合部の製作に高い精度を必要としないセグメントの継手構造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るセグメントの継手構造の実施形態について、図面に基いて説明する。
図1は、本発明に係るセグメントの継手構造の実施形態の一例を示す概略図である。また、図2は雄型継手の側断面図、図3は雌型継手を示す図であって、(a)はその外観図、(b)はA−A矢視断面図、(c)はB−B矢視断面図である。
セグメント20、30は、円弧板状をなすコンクリート製セグメントであり、一方の周方向端部に雄型接合面3を、他方の周方向端部に雌型接合面2を備える。そして、トンネルの周方向に隣接配置されたこれらセグメント20、30の雄型接合面3と雌型接合面2を接合させることにより、筒状壁体を構成するリングが構築される。
【0013】
雄型接合面3には、トンネルの軸方向に一定の離間間隔をおいて、複数の雌型インサート31、31が埋設されている。そして、各雌型インサート31、31に雄型継手5、5の基端部が螺着される。
図2に示すように、雄型継手5は、先端部6cおよび基端部6aにねじ部が形成された棒状体6と、先端部6cに形成されたねじ部に螺合するナット7と、棒状体6に係合して棒状体6の中間部6bを摺動する摺動体9と、ナット7と摺動体9間に介装された締付力保持体8とから構成され、スリーブ状のスペーサー10を介して棒状体6の基端部6aが雌型インサート31に螺着されている。
摺動体9は、リング形状であって、その中央部9aを棒状体6が挿通している。また、摺動体9がスペーサー10に接する側の面は、周縁から中央に向けて厚さが漸増するテーパー状になっている。
鋼製スリーブからなる締付力保持体8は、スリーブ内を棒状体6が挿通するとともに、両端にそれぞれナット7と摺動体9が当接している。締付力保持体8の中間部の外周面にはスリット状のノッチ8aが形成されている。
スペーサー10は、摺動体9と雄型接合面3との初期間隔を統一するためのものであって材質は特に限定されない。スペーサー10の高さは、後述する切欠部の入口部分の厚さよりも幾分大きく設定される。
【0014】
一方、雌型接合面2には、雄型継手5、5と対向する位置に凹陥部13、13が形成され、これら凹陥部13、13内に雌型継手4、4が挿着されている。
図3に示すように、凹陥部13の開口部は、係止板11によってその大部分を覆われている。係止板11には、雄型継手5が側方から嵌合可能なように、スペーサー10の外径よりも幾分大きな幅で、雄型継手5のスライド方向Sに細長い切欠部12が形成されるとともに、切欠部12の隅角部には、雄型継手5が嵌合しやすいように、アール12a、12aが形成されている。
係止板11の裏面11aは、雄型継手5がスライドする方向Sに向けて厚さが漸増するテーパー状になっており、また、スライド直交方向についても、切欠部12から外周部に向けて厚さが漸増するテーパー状になっている。
【0015】
次に、上記構成からなるセグメント20、30を接合する方法について、図4に基づき説明する。
先ず、セグメント30の雄型接合面3の雌型インサート31、31に雄型継手5、5の基端部6aを螺着する。続いて、雌型継手4、4の凹陥部13、13に雄型継手5、5を挿入させ、雌型継手4、4の係止板11、11に形成された切欠部12、12に沿って雄型継手5、5をスライドさせる。
この際、係止板11の裏面11aが、スライド方向に向けて厚さが漸増するテーパー状になっているため、係止板11の裏面11aに係合する雄型継手5の摺動体9は、雄型継手5のナット7の方向に摺動する。摺動体9がナット7の方向に摺動すると、ナット7と摺動体9に両端を当接する締付力保持体8には圧縮力(締付力)が発生し、雄型継手5のスライドに伴う摺動体9の摺動とともに締付力保持体8の圧縮力は増大する。
締付力保持体8の圧縮力が所定の圧縮力に達すると、締付力保持体8の中間部の外周面に形成されたノッチ8a部分から外方に向けて締付力保持体8が変形し始める。そして、締付力保持体8は、所定の圧縮力を保持した状態で、変形のみが進行する。その結果、セグメント20、30の接合面同士をスライドさせても、所定の締付力以上の大きな締付力は雄型継手5、5に作用せず、雄型継手5、5が損傷することはない。
【0016】
図5は、締付力保持体8の復元力特性を示す図であり、縦軸が締付力保持体8の圧縮力を、横軸が締付力保持体8の変形を示している。
摺動体9が摺動すると、締付力保持体8の圧縮力は初期剛性kで増大していく。しかし、締付力保持体8の圧縮力が所定の圧縮力Qに達すると、急激に剛性が低下し、以後、締付力保持体8の圧縮力は2次剛性kで増大していく。このような特性を示す復元力特性をバイリニア型の復元力特性と呼ぶ。本発明では、締付力保持体8の2次剛性kがゼロまたは初期剛性kに比べて非常に小さな2次剛性kを示すものが望ましい。
【0017】
図6は、バイリニア型の復元力特性を示す締付力保持体8の他の実施形態を示したものである。
(a)は、鋼製スリーブからなる締付力保持体8の中間部8bが蛇腹状になったものである。中間部8bが蛇腹状になっているため、締付力保持体8の変形が増大しても圧縮力は急増せず、一定の圧縮力を保持することができるものである。
(b)は、鋼製スリーブからなる締付力保持体8の中間部8cの肉厚が両端部の肉厚に比べて薄くなっているものである。締付力保持体8の変形が増大すると、締付力保持体8の薄肉部分が塑性化することにより2次剛性が低下し、以後、締付力保持体8の変形が増大しても圧縮力は増大せず、所定の圧縮力を保持することができるものである。
【0018】
本実施形態によるセグメントの継手構造1では、雄型継手5、5を雄型接合面3に有するセグメント30と雌型継手4、4を雌型接合面2に有するセグメント20の接合面同士をスライドさせて、雄型継手5、5と雌型継手4、4を嵌合させる際に、雄型継手5を構成する締付力保持体8により所定の締付力以上の大きな締付力が雄型継手5に作用することがない。そのため、セグメント20、30の接合作業が極めて容易で、接合部の信頼性にも優れるセグメントの継手構造を実現することができる。
また、本実施形態によるセグメントの継手構造1では、締付力保持体8があるため、雄型継手5と雌型継手4の製造時および接合面への取り付け時に誤差が生じても、締付力保持体8によってその誤差を吸収することができる。
【0019】
以上、本発明に係るセグメントの継手構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、周方向に隣接するセグメント同士の接合に適用したが、本発明は、トンネルの軸方向に隣接するセグメント同士の接合に適用してもよい。また、上記の実施形態では、本発明に係る継手構造をコンクリート製セグメントを適用したが、鋼製セグメントや中詰めコンクリート製セグメントにも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す概略図である。
【図2】雄型継手の側断面図である。
【図3】雌型継手を示す図であって、(a)は外観図、(b)はA−A矢視断面図、(c)はB−B矢視断面図である。
【図4】雄型継手と雌型継手が嵌合している状態を示す側断面図である。
【図5】締付力保持体の復元力特性を示す図である。
【図6】締付力保持体の他の実施形態を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 セグメントの継手構造
2 雌型接合面
3 雄型接合面
4 雌型継手
5 雄型継手
6 ボルト
7 ナット
8 締付力保持体
9 摺動体
10 スペーサー
11 係止板
12 切欠部
13 凹陥部
20、30 セグメント
31 雌型インサート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型継手を接合面に有する一方のセグメントと雌型継手を接合面に有する他方のセグメントの互いの接合面同士をスライドさせて、前記雄型継手と前記雌型継手を嵌合させることにより、セグメント同士を接合させるセグメントの継手構造であって、
前記雄型継手は、前記一方のセグメントの接合面に立設する、先端部にねじ部が形成された棒状体と、当該ねじ部に螺合するナットと、前記棒状体に係合して前記棒状体の中間部を摺動する摺動体と、前記ナットと前記摺動体間に介装されて、前記摺動体が前記ナット方向に摺動することにより圧縮力を生ずるとともに、当該圧縮力が所定の圧縮力に達した後は当該所定の圧縮力を保持する締付力保持体とを備え、
前記雌型継手は、前記他方のセグメントの接合面に形成された凹陥部の開口部の少なくとも一部を覆うような係止板を備えてなり、当該係止板は、前記雄型継手が側方から嵌合可能な切欠部を有するとともに、前記雄型継手がスライドする方向に向けて厚さが漸増するテーパー状断面を有していることを特徴とするセグメントの継手構造。
【請求項2】
前記雄型継手は、前記一方のセグメントの接合面に着脱可能であることを特徴とする請求項1に記載のセグメントの継手構造。
【請求項3】
前記雄型継手の前記摺動体と前記一方のセグメントの接合面との間にスペーサーが介装されることを特徴とする請求項1または2に記載のセグメントの継手構造。
【請求項4】
前記締付力保持体は、初期剛性に比べて2次剛性が小さなバイリニア型の復元力特性を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のセグメントの継手構造。
【請求項5】
前記締付力保持体は、その中間部の外周面にノッチが形成されているスリーブであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のセグメントの継手構造。
【請求項6】
前記締付力保持体は、少なくともその中間部が蛇腹状に形成されているスリーブであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のセグメントの継手構造。
【請求項7】
前記締付力保持体は、その中間部の肉厚が両端部の肉厚に比べて薄いスリーブであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のセグメントの継手構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−274547(P2006−274547A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91219(P2005−91219)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】