説明

セメントの製造方法

【課題】セメント製造工程から排出される排ガス中のダイオキシン類等の有機塩素化合物および水銀等の揮発性の高い重金属の濃度を低減できるセメント製造方法を提供する。
【解決手段】セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に送入するセメント製造工程において、(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の循環経路から排出する工程と、(B)工程(A)により排出した集塵ダストを、加熱装置内に導入し、還元雰囲気中で加熱処理する工程と、(C)工程(B)により加熱処理した集塵ダストを、急速冷却する工程と、(D)工程(C)により急速冷却した集塵ダストを、セメントクリンカ製造工程の循環経路に戻し、サスペンションプレヒータ上段からセメント原料として再度送入する工程とを含むことを特徴とするセメントの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造工程から排出される排ガス中の有機塩素化合物および水銀の濃度を効率的に低減できるセメントの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカは、石灰石、粘土、珪石、鉄源等の原料をサスペンションプレヒータ付きのロータリーキルン内で高温焼成されることにより製造されている。高温焼成されるセメントクリンカの製造において、石灰石、粘土、珪石、鉄源等の主原料以外に、資源の有効利用の面から、様々な産業廃棄物及び副産物も原燃料源として利用されている。さらに、セメントメーカーは、廃棄物の量および種類の増加に対応しながら、セメントクリンカ製造工程において循環型社会形成を推進できるように、新規設備の導入や既存設備の改造等を加えている。その中で、廃プラスチックや廃タイヤ等の可燃性廃棄物を、燃料の一部として仮焼炉やロータリーキルンの窯尻部等で使用するケースが増えている。
【0003】
これらの可燃性廃棄物は、仮焼炉やロータリーキルン内で、微粉炭やオイルコークス等とともに燃焼されている。しかし、廃プラスチックや廃タイヤの種類、形状および投入場所等によっては完全に燃焼されない場合があり、意図せずに、不完全燃焼時に発生する有機化合物と塩素とが反応して有機塩素化合物が生成することがある。また、焼却灰等の廃棄物に含まれる有機塩素化合物は完全に分解されずに、一部が排ガス中に残存することもある。ここで、有機塩素化合物とは、ポリ塩化ダイベンゾパラダイオキシン、ポリ塩化ダイベンゾフラン、ポリ塩化ビフェニル、クロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼンなどが挙げられる。
【0004】
また、セメントクリンカ製造時に使用される各種産業廃棄物や副産物には重金属を比較的多く含むものがあるため、これらを原燃料源とすると、セメント製造工程内に持ち込まれる重金属類の量が増加することがある。その中で、水銀のように揮発性の高い重金属は、高温加熱の熱履歴を受けるセメントクリンカにはほとんど含まれず、大部分はサスペンションプレヒータから集塵機までに至る領域を循環している。
【0005】
セメントクリンカ製造工程内に存在する有機塩素化合物および水銀などの揮発性の高い重金属の形態は、通常、製造工程内の温度によって変化する。セメント焼成設備のサスペンションプレヒータから集塵機に至るまでの領域において、排ガス中の有機塩素化合物や水銀は、排ガスの温度の低下に伴い、排ガス中に存在するダストの表面に凝縮し、集塵機内で集塵ダストとして捕集されているため、大気にはほとんど放出されることはない。しかしながら、ダストに凝縮されなかった微量の有機塩素化合物や水銀は、排ガスとして大気に排出されるので、排ガス中の有機塩素化合物および水銀の濃度を更に低減させることが望ましい。
【0006】
このような問題を鑑みて、セメントクリンカ製造工程から排ガス中の有機塩素化合物や重金属等の有害物質の濃度を低減する様々な技術が提案されている。例えば、セメント製造工程の排ガスから、有機塩素化合物を含む集塵ダストを捕集し、捕集した集塵ダストの一部をセメント製造装置内の800℃以上の場所(例えば、サスペンションプレヒータの最下段、仮焼炉、ロータリーキルンの窯前または窯尻等)に投入することにより、特別な加熱手段等を設けることなく、有機塩素化合物を効率的に分解し無害化する方法が提案されている(特許文献1)。また、セメント製造工程の排ガスから捕集した集塵ダストを加熱炉に導き、集塵ダストに含まれる揮発性重金属を揮発温度以上に加熱して揮発性重金属をガス化して除去し、揮発性重金属を除去した集塵ダストをセメント原料の一部に使用する方法が提案されている(特許文献2)。特許文献1や特許文献2に記載されているように、セメントクリンカ製造工程内で有機塩素化合物および揮発性の高い重金属(例えば、水銀)は、集塵ダストに低温凝縮しているため、集塵ダスト中の有機塩素化合物または水銀を適切に処理することにより、セメントクリンカ製造工程から排出される排ガス中の有機塩素化合物または水銀の濃度を更に低減することが可能である。その一方で、特許文献1および2は、排ガス中の水銀濃度および有機塩素化合物濃度の両方を低減できる技術を開示するものではない。
【0007】
一方、集塵機で集塵ダストと排ガスとに分離した後で、排ガス中の有機塩素化合物および水銀を吸着物質に吸着させることにより、排ガス中の有機塩素化合物および水銀の濃度を更に低減できる技術が提案されている(特許文献3)。しかし、特許文献3は、集塵機で捕集された集塵ダストに含まれる有機塩素化合物および水銀濃度を直接低減することは開示していない。
【特許文献1】特開2004−244308公報
【特許文献2】特開2002−355531公報
【特許文献3】特開2006−96615公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、セメント製造工程から排出される排ガス中の有機塩素化合物および揮発性の高い重金属(例えば、水銀)の濃度を低減することができるセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント製造排ガス処理工程において、有機塩素化合物および水銀を含む集塵ダストの一部をセメントクリンカ製造工程の循環経路から一旦排出し、セメントクリンカ製造工程内の有機塩素化合物および水銀の循環量を減らすことにより、排ガスとして排出される有機塩素化合物および水銀の濃度を効率的に低減させること、排出した集塵ダストを加熱装置に導入して、還元雰囲気中で加熱処理することにより、有機塩素化合物を脱塩素させて分解除去するとともに、集塵ダスト中に含まれる水銀を気化させて分離除去させること、加熱処理した集塵ダストを急速冷却することにより、集塵ダストにおける有機塩素化合物の再合成を抑制させること、急速冷却した集塵ダストをセメント製造工程のサスペンションプレヒータの上段からセメント原料として再度送入すること、加熱装置から発生する水銀を含む排ガスを急速冷却することにより、有機塩素化合物の再合成を抑制し、水銀を液体として回収して利用すること、急速冷却した排ガス中に含まれる有機化合物を吸収または吸着させることにより、大気中に排出される排ガス中の水銀および有機塩素化合物を含む有機化合物の濃度を低減させること、および吸収剤または吸着剤をセメント製造工程の燃料として利用することにより、上記課題を解決することを見出し、集塵ダストの処理方法を含む本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に送入するセメント製造工程において、(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の循環経路から排出する工程と、(B)工程(A)により排出した集塵ダストを、加熱装置内に導入し、還元雰囲気中で加熱処理する工程と、(C)工程(B)により加熱処理した集塵ダストを、急速冷却する工程と、(D)工程(C)により急速冷却した集塵ダストを、セメントクリンカ製造工程の循環経路に戻し、サスペンションプレヒータ上段からセメント原料として再度送入する工程とを含むことを特徴とするセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、(E)工程(B)において発生する排ガスを急速冷却して、水銀を回収する工程をさらに含む、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、(F)工程(E)により急速冷却した排ガス中に残存する有機化合物を、吸収または吸着する工程をさらに含む、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、集塵機が電気集塵機である、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出する集塵ダストが、集塵機下流側荷電区で捕集される集塵ダストである、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(B)において、加熱処理の温度が400℃以上であり、かつ還元雰囲気が酸素濃度0.5%以下である、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(C)において、集塵ダストを、有機塩素化合物が再合成しない速度で急速冷却する、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(C)において、集塵ダストを、150℃以下の温度まで急速冷却する、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(E)において、排ガスを、有機塩素化合物が再合成しない速度で急速冷却する、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(E)において、排ガスを、150℃以下の温度まで急速冷却する、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(B)において、集塵ダストを加熱処理装置に導入する前に、CaO及び/またはCa(OH)を集塵ダストに添加する、上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、(G)工程(F)において、排ガス中に残存する有機化合物を吸収または吸着させた吸収剤または吸着剤を、セメント製造工程の燃料として用いる工程をさらに含む、上記のセメントの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るセメントの製造方法によれば、セメント製造工程内の有機塩素化合物および水銀の循環量を低減させて、セメント製造工程からの浄化排ガス中の有機塩素化合物および水銀濃度を効率的に低減することが可能であり、循環型社会形成を推進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳しく説明する。本発明のセメントの製造方法は、セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に送入するセメント製造工程において、
(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の循環経路から排出する工程と、
(B)工程(A)により排出した集塵ダストを、加熱装置内に導入し、還元雰囲気中で加熱処理する工程と、
(C)工程(B)により加熱処理した集塵ダストを、急速冷却する工程と、
(D)工程(C)により急速冷却した集塵ダストをセメントクリンカ製造工程の循環経路に戻し、サスペンションプレヒータ上段からセメント原料として再度送入する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、(E)工程(B)において発生する排ガスを急速冷却して、水銀を回収する工程をさらに含むことを特徴とする。また、本発明は、(F)工程(E)により急速冷却された排ガス中に残存する有機化合物を、吸収または吸着する工程をさらに含むことを特徴とする。さらに、本発明は、(G)工程(E)において、排ガス中に残存する有機化合物を吸収または吸着した廃吸収剤または廃吸着剤をセメントクリンカ製造工程における燃料として利用する工程をさらに含むことを特徴とする。
【0014】
本発明では、工程(A)により、セメント製造工程内の水銀および有機塩素化合物の循環量を減らすことにより浄化排ガス中の水銀および有機塩素化合物を低減することができる。
また、工程(B)によって、集塵ダスト中の有機塩素化合物を脱塩素分解除去すると同時に、集塵ダスト中の水銀を気化分離させることができる。
また、工程(C)によって、集塵ダストに含まれる有機塩素化合物の再合成を抑制することができる。
また、工程(E)によって、排ガス中の有機塩素化合物の再合成を抑制することができ、水銀が液体となるため、大気中に放出される排ガス中の有機塩素化合物および水銀の濃度を低下させることができる。また、水銀を回収することで、回収した水銀の再利用が可能である。
さらに、工程(F)によって、大気中に放出される排ガス中の有機化合物を低減させることができ、工程(G)によって、有機化合物を吸収または吸着させた廃吸収剤または廃吸着剤を、セメント製造工程の燃料源として利用することができるため、循環型社会形成をより推進させることができる。
【0015】
本発明のセメントの製造方法によれば、セメントクリンカ製造工程から排出される排ガス中の有機塩素化合物および水銀の濃度を低減することができる。
【0016】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明するが、以下に述べる本発明の操業条件における数値は一例であり、本発明はこれらの数値に限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明のセメント製造方法について図1を用いて説明する。図1は、本発明によるセメント製造方法を実施するためのセメント製造設備を示す概略図である。図1において、実線はダストなどの粉体および原料の経路を示し、点線はガスの経路を示す。
【0018】
図1に示すように、セメント製造設備100においては、石灰石、粘土、珪石、鉄源の他各種廃棄物の原料からなる調合原料は、原料ミル2で乾燥粉砕される。原料ミル2から排出される排ガスは粉砕された調合原料およびセメント焼成設備からのダストを少量含み、この排ガスは、集塵機4に導入され、浄化排ガスと集塵ダストとに分離される。浄化排ガスは、煙突(図示せず)を経て大気に放出される。集塵ダストは、集塵ダスト移送ラインL1を経て調合原料と合さり、送入原料としてセメント焼成設備1に移送される。セメント焼成設備1では、送入原料が複数のサイクロンで予熱され、ロータリーキルン12に導入されて焼成された後、空気中で冷却されて、セメントクリンカが得られる。
【0019】
一方、セメント焼成設備1から排出される排ガスは、排ガス移送ラインL2を経由し、原料ミル2と調湿塔3に導入されて冷却される。原料ミル2では、調合原料がセメント焼成設備1から排出される排ガスにより乾燥され、調湿塔3では、集塵機4の集塵効率を上げるためにガス温度および湿度が調整される。原料ミル2および調湿塔3から排出された排ガスは集塵機4に導入され、集塵機4で浄化排ガスと集塵ダストとに分離され、煙突(図示せず)を経て浄化排ガスが大気放出される。集塵ダストは、集塵ダスト移送ラインL1を経て調合原料と合さり、送入原料としてセメント焼成設備1に移送される。
【0020】
焼成設備1の上段に送入された原料はサイクロンを下降しながら予熱される。ここで、送入原料に含まれる有機塩素化合物はサイクロン上段部でガス中に気化分離し、水銀は短期間で排ガス中に蒸発する。そして、プレヒータ排ガスとして排出され、排ガス移送ラインL2を経由して原料ミル2と調湿塔3に導入される。プレヒータ排ガス中の有機塩素化合物および水銀は、粉砕原料および調湿塔ダストに一部凝縮された後、残りの有機塩素化合物および水銀は、排ガスとして集塵機4に入る。集塵機4において、有機塩素化合物および水銀の大部分は、排ガス中のダスト表面に低温凝縮した状態で集塵ダストとして捕集される。そして、捕集された集塵ダストは、集塵ダスト移送ラインL1を経て、前記粉砕原料および調湿塔ダストと合わさり、送入原料としてサスペンションプレヒータ上部から送入される。このように、セメント製造工程内の有機塩素化合物および水銀の大部分は、サスペンションプレヒータ上部から電気集塵機の間の経路で、気化および凝縮を繰返しながら循環している。
【0021】
例えば、調合原料中の水銀濃度は、0.01〜0.26mg/kgである。また、煙突から排出される浄化排ガス中の有機塩素化合物の濃度は、ダイオキシン類(DXNs)を例にとると、0.000001〜0.1ng−TEQ/Nm3であり、水銀濃度は0.01〜0.20mg/Nm3である。そして、集塵ダスト中のDXNs濃度は0.01〜1.0ng−TEQ/gであり、水銀濃度は0.1〜10mg/kgである。しかし、これらの水銀およびDXNs濃度の値は、調合原料およびキルン操業条件によって変化するものであり、これらの数値は例示である。なお,ここでダイオキシン類(DXNs)と称すものは,ポリ塩化ダイベンゾパラダイオキシン,ポリ塩化ダイベンゾフランおよびコプラナーポリ塩化ビフェニルのことである。
【0022】
有機塩素化合物および水銀が低温凝縮した集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の循環経路から集塵ダスト排出ラインL3を経由して、集塵ダスト貯蔵タンク5に貯蔵することにより、セメント製造工程内の有機塩素化合物や水銀の循環量を減らすことができる。集塵ダストをセメント原料の一部として使用するセメントクリンカ製造方式において、集塵ダストの一部をセメント製造工程の系外へ排出することにより、サスペンションプレヒータ上部から送入されるセメント原料中に含まれる有機塩素化合物および水銀の量を減少させ、排出される浄化排ガス中の有機塩素化合物や水銀を減少させることができる。
【0023】
ここで、集塵ダスト排出ラインL3へ排出される集塵ダストの一部とは、集塵機で補集されるダストの35質量%未満が好ましい。35質量%以上の場合は、加熱処理および急速冷却するダストの量が多すぎるため、エネルギー効率の点において好ましくない。
【0024】
本発明に係る集塵機としては、例えば、電気集塵機、バグフィルタなどを採用することができるが、大量の排ガスを処理できるという点では電気集塵機が望ましい。電気集塵機の場合には、循環経路から排出する集塵ダストは、集塵機下流側荷電区で捕集される集塵ダストがより好ましい。集塵機下流側荷電区で捕集されるダストには、より高濃度の有機塩素化合物および水銀が含まれているため、電気集塵機下流側で捕集される集塵ダストを選択的に系外に排出することにより、効果的にセメント製造工程内に循環する水銀量を減らすことができるからである。なお、本明細書では、集塵機内部のガスの流れに沿って、原料ミル2および調湿塔3から排出される排ガスを導入する入口側を「上流側」とし、浄化排ガスを排出する側を「下流側」とする。
【0025】
本明細書において、「集塵機下流側荷電区」とは、最上流側荷電区で捕集されるダスト中に含有される水銀量の10倍以上となる水銀量を含有するダストが捕集される荷電区をいう。また、本発明書において、「最上流側荷電区」とは、集塵機入口に最も近い荷電区をいう。また、本発明において、集塵機下流側荷電区は、最上流側荷電区で捕集されるダストの20倍以上の水銀含有量のダストが捕集される荷電区であることが好ましく、30倍以上の水銀含有量のダストが捕集される荷電区であることがより好ましい。なお、集塵機下流側荷電区で捕集される集塵ダストは、全荷電区で捕集される集塵ダストの15重量%以下である。
【0026】
集塵ダストを系外に排出しない場合のセメント製造工程内の原料、ダスト及びクリンカ中の水銀含有量を表1に示す。原料、ダストおよびクリンカ中の水銀含有量の測定は、JIS M 8821:2002「石炭類−全水銀の定量方法」の付属書3(加熱気化−金アマルガム捕集−加熱気化原子吸光方法)に準じて行った。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、集塵ダストを系外に排出しない場合、セメント製造工程内の原料及びダスト中の水銀含有量は、電気集塵ダストで最も多く、クリンカで最も少なくなっている。セメント焼成設備に投入される送入原料中の水銀は、セメント焼成設備及び電気集塵機までの経路内で蒸発し、セメントクリンカ製造工程内の低温部となる電気集塵機に捕集される電気集塵ダスト上に凝縮し、濃縮されていることが分かる。このことから、電機集塵機に補集される集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の系外に排出することにより、セメントクリンカ製造工程内の水銀循環量を効率的に低減することができる。例えば、電気集塵機から排出される全ダスト量に対して、15重量%のダストを、集塵ダスト排出ラインL3よりセメント製造工程の系外に排出し続けることにより、工程内の水銀循環量が徐々に低減し,最終的にセメント製造工程内に循環する水銀濃度を約20%減らすことが可能である。
【0029】
電気集塵機の各荷電区で捕集した集塵ダスト中の水銀含有量を表2に示す。電気集塵機の作動条件を例示すると以下のとおりである。例えば、電気集塵機の荷電流設定値は、1区:300mA、2区:300mA、3区:250mA、4区:250mA、5区:200mAである。電気集塵機入口ガス温度は95℃であり、出口ガス温度は93℃である。ガスの水分量は17.7%である。しかし、これらの条件は例示であり、本願の発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、集塵機下流側(4区〜5区)の電気集塵ダスト中の水銀含有量は1〜2区、3区と比較して多いことが分かる。例えば、電気集塵機内で捕集されるダストの各荷電区での割合が、1〜2区の荷電区で85重量%、3区で10重量%、4区〜5区で5重量%である場合、集塵機下流側荷電区である4区および5区から排出される5重量%の電気集塵ダストのすべてを系外に排出することにより、セメントクリンカ製造工程外に排出される浄化排ガス中の水銀濃度を約45%低減することができる。したがって、集塵機下流側荷電区の電気集塵ダストを選択的に排出することにより、浄化排ガス中の水銀濃度を効率的に低減させることができる。
【0032】
集塵ダストを系外に排出しない場合のセメント製造工程の原料、ダストおよび排ガス中の有機塩素化合物を、DXNsを例にとってその濃度を示すと、表3になる。ここで、原料およびダスト中のDXNs濃度の測定は「特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法」によって行い、排ガス中のDXNs濃度の測定はJIS K 0311「排ガス中のダイオキシン類の測定方法」に規定される方法によって行った。なお、DXNs濃度は,毒性等価係数WHO−TEF(2006)を用いて算出した。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に示すように、集塵ダストを系外に排出しない場合には、セメント製造工程内のDXNsの大部分は、調合原料粉と電気集塵ダストに凝縮されながら循環しており、特にセメント製造工程内の低温部となる電気集塵機に捕集される電気集塵ダスト上に濃縮され、ダストに凝縮されなかった極微量のDXNsが電気集塵機出口ガスとして排出されていることが分かる。なお、集塵ダストを系外に排出しない場合の出口ガスとして排出されるDXNs濃度は、操業条件によって変動する。
【0035】
このように、セメント焼成設備のプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを電気集塵機で浄化排ガスと電気集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてプレヒータ上部に循環させるセメント製造工程において、製造工程内のDXNsは、原料調合粉および電気集塵ダストに凝縮しながら循環しており、ダストに凝縮されなかったDXNsの一部が浄化排ガスとして排出されていることが分かる。このことから、電気集塵機で捕集される集塵ダストの一部を、特に電気集塵機下流側で捕集される集塵ダストを、セメントクリンカ製造工程の系外に排出することにより、セメント製造工程内の有機塩素化合物の循環量を減らし、浄化排ガスとして排出される有機塩素化合物の量を効率的に低減することが可能となる。例えば、電気集塵機から排出される全ダスト量に対して、15重量%のダストを、集塵ダスト排出ラインL3よりセメント製造工程の系外に1時間排出することにより、セメント製造工程内に循環する有機塩素化合物を約7%減らすことが可能で,集塵ダストを連続的に排出することによりセメント製造工程内に循環する有機塩素化合物を約10〜30%減らすことが可能となる。
【0036】
集塵ダスト貯蔵タンク5に排出した集塵ダストを、集塵ダスト加熱ラインL4によって加熱装置6に輸送および供給し、加熱装置6内において還元雰囲気下で加熱処理する。これにより、集塵ダストに凝縮している有機塩素化合物を、脱塩素化および熱分解させ、集塵ダストから有機塩素化合物を除去することが可能となる。また、集塵ダストに付着している水銀もガス中に気化するため、集塵ダストから水銀を完全に分離することが可能である。加熱装置6の加熱処理温度は、400℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましい。加熱温度が400℃以上であれば、有機塩素化合物中の塩素を脱離させることが可能である。さらに、水銀の沸点は約357℃であるため、有機塩素化合物の脱塩素化と同時に、集塵ダストから水銀を除去することもできる。加熱雰囲気は、ポリ塩化ダイベンゾパラダイオキシンやポリ塩化ダイベンゾフラン等の有機塩素化合物を分解させるために還元雰囲気下とし、酸素濃度は0.5%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましい。窒素ガス等の不活性ガスの供給装置等を用いて還元雰囲気とすることができる。例えば、PSA方式の窒素ガス発生装置を用いれば、窒素ガス純度を99.9〜99.99%にすることが可能であり,酸素濃度を0.5%以下にすることができる。
【0037】
また、集塵ダストを加熱する際に、CaOおよびCa(OH)から選択された少なくとも1つのカルシウム化合物を添加し、有機塩素化合物の塩素源を塩化カルシウムとして固定化することにより脱塩素化の効果を更に向上させることができる。
【0038】
さらに、加熱装置6において、撹拌羽根6’を用いることで均一に加熱を行うことや集塵ダストの滞留時間を長くすることができ、有機塩素化合物の脱塩素分解を十分に促すことができる。加熱装置の熱源は、省エネルギーの観点から、セメントクリンカ製造工程で発生する廃熱を利用することが望ましく、例えばセメントクリンカクーラより抽気される廃熱を利用することができる。
【0039】
加熱装置6で加熱処理し、水銀及び有機化合物を除去した集塵ダストを、集塵ダスト冷却ラインL5を経由して、集塵ダスト冷却器7に輸送および供給する。集塵ダスト冷却器7で急速冷却することにより、集塵ダストに含まれる微量の未分解有機物の有機塩素化合物への再合成を防止することができる。有機塩素化合物の再合成を防止するために、集塵ダストを、150℃以下に急速冷却することが好ましく、100℃以下に急速冷却することがより好ましい。DXNs等の有機塩素化合物の再合成は、200℃以下であれば抑えることができる。本発明において、急速冷却は、有機塩素化合物の再合成を防止することができる速度であれば特に制限はないが、例えば、冷却器に導入後1秒以内で150℃以下または100℃以下を達成すれば、有機塩素化合物の再合成を完全に防止することができる。このような速度を達成するために、冷却器としては特に限定されないが、例えば水冷ジャケット横円筒型の冷却器を用いることができる。
【0040】
一方、加熱装置6で発生した有機化合物および水銀を含む排ガスを、排ガス冷却器8で急速冷却する。これにより、排ガス中の有機化合物から有機塩素化合物の再合成を抑制するとともに、排ガス中の水銀蒸気を液体として回収除去することができ、水銀の再利用が可能となるので、循環型社会の形成を促進することができる。排ガスを、150℃以下に急速冷却することが好ましく、100℃以下に急速冷却することがより好ましい。本発明において、急速冷却は、有機塩素化合物の再合成を防止することができる速度であれば特に制限はなく、例えば、排ガス冷却器に導入後1秒以内で150℃または100℃以下を達成することにより、有機塩素化合物の再合成を完全に防止することができる。また、急速冷却後の温度であれば水銀蒸気は液体となるため、水銀を回収除去することができる。このような速度を達成するために、冷却器として特に限定されないが、例えば多管円筒型熱交換器(シェル&チューブ方式)を用いることができる。
【0041】
排ガス冷却器8から排出した排ガス中に残存する有機化合物を、有機化合物吸収剤を有する有機物除去器9を用いて除去する。有機物除去器9では、排ガス中の有機化合物を、吸収剤、例えばアルコール、油または油と水の混合液等に吸収させ除去するか、あるいは吸着剤、例えば活性炭や微粉炭に吸着させて除去することができる。ここで発生する廃液、廃活性炭および廃微粉炭は、セメントクリンカ製造工程内の高温部(例えば、ロータリーキルン窯尻部)から微粉炭およびオイルコークス等の燃料に適量添加すれば有機化合物を分解しながら処理することができる。
【0042】
このように、排ガス冷却器8および有機物除去器9を用いて水銀および有機塩素化合物を含む有機化合物を除去した排ガスは、大気中に放出される。
【0043】
有機塩素化合物および水銀が除去された集塵ダストは、集塵ダスト合流ラインL6を経由して、集塵ダスト移送ラインL1に戻される。そして、ブレンディングサイロ10で粉砕原料および調湿塔ダストと混合されて、ストレージサイロ11を経て、セメント原料の一部として再度利用される。
【0044】
集塵ダスト排出ラインL3よりセメント製造工程から排出された集塵ダストを、集塵ダスト加熱ラインL4を経由して、加熱装置6に導入し加熱処理することにより集塵ダストの有機塩素化合物及び水銀を大幅に低減することができる。また、集塵ダストを、集塵ダスト冷却ラインL5を経由して、集塵ダスト冷却器7に導入し急速冷却することにより、集塵ダストに残存する有機化合物の有機塩素化合物への再合成を防止することができる。このため、集塵ダスト合流ラインL6を経由して、集塵ダスト移送ラインL1に戻される集塵ダストは、水銀及び有機塩素化合物をほとんど含まないため、セメント製造工程を循環する水銀量及び有機塩素化合物量の増加に影響を与えることはない。
【0045】
また、加熱装置6から排出される排ガスには集塵ダストから除去された有機塩素化合物及び水銀を含む。そのため、排ガスを集塵ダストと別々に処理することにより、集塵ダスト合流ラインL6を経由して、集塵ダスト移送ラインL1に戻される集塵ダストに含まれる水銀及び有機塩素化合物の含有量を大幅に低減することができる。さらに、排ガス冷却器及び有機物除去器により、排ガスに含まれる水銀及び有機塩素化合物を処理することにより、大気へ放出される排ガスの水銀及び有機塩素化合物の含有量を低減することができる。
【0046】
本発明により、セメントクリンカ製造工程内を循環する、有機塩素化合物および水銀濃度を効率よく低減させることが可能であり、大気中に排出される浄化排ガス中のこれらの濃度も低減させることが可能であるという効果を奏する。また、セメント製造工程の系外へ排出した有機塩素化合物の吸着のために使用した、廃活性炭などをセメント製造工程における燃料源とすることができ、回収した水銀も再利用できるため、循環型社会の形成を推進することが可能であるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本願発明のセメント製造設備の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0048】
100:セメント製造設備
1:セメント焼成設備
2:原料ミル
3:調湿塔
4:集塵機
5:集塵ダスト貯蔵タンク
6:加熱装置
6’:撹拌羽根
7:集塵ダスト冷却器
8:排ガス冷却器
9:有機物除去器
10:ブレンディングサイロ
11:ストレージサイロ
12:ロータリーキルン
L1:集塵ダスト移送ライン
L2:排ガス移送ライン
L3:集塵ダスト排出ライン
L4:集塵ダスト加熱ライン
L5:集塵ダスト冷却ライン
L6:集塵ダスト合流ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に送入するセメント製造工程において、
(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の循環経路から排出する工程と、
(B)工程(A)により排出した集塵ダストを、加熱装置内に導入し、還元雰囲気中で加熱処理する工程と、
(C)工程(B)により加熱処理した集塵ダストを、急速冷却する工程と、
(D)工程(C)により急速冷却した集塵ダストを、セメントクリンカ製造工程の循環経路に戻し、サスペンションプレヒータ上段からセメント原料として再度送入する工程と、
を含むことを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
(E)工程(B)において発生する排ガスを急速冷却して、水銀を回収する工程、
をさらに含む、請求項1記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
(F)工程(E)により急速冷却した排ガス中に残存する有機化合物を、吸収または吸着する工程、
をさらに含む、請求項1または2記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
集塵機が電気集塵機である、請求項1〜3のいずれか1項記載のセメントの製造方法。
【請求項5】
工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出する集塵ダストが、集塵機下流側荷電区で捕集される集塵ダストである、請求項4記載のセメントの製造方法。
【請求項6】
工程(B)において、加熱処理の温度が400℃以上であり、かつ還元雰囲気が酸素濃度0.5%以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載のセメントの製造方法。
【請求項7】
工程(C)において、集塵ダストを、有機塩素化合物が再合成しない速度で急速冷却する、請求項1〜6のいずれか1記載のセメントの製造方法。
【請求項8】
工程(C)において、集塵ダストを、150℃以下の温度まで急速冷却する、請求項1〜7のいずれか1項記載のセメントの製造方法。
【請求項9】
工程(E)において、排ガスを、有機塩素化合物が再合成しない速度で急速冷却する、請求項1〜8のいずれか1項記載のセメントの製造方法。
【請求項10】
工程(E)において、排ガスを、150℃以下の温度まで急速冷却する、請求項1〜9のいずれか1項記載のセメントの製造方法。
【請求項11】
工程(B)において、集塵ダストを加熱処理装置に導入する前に、CaO及び/またはCa(OH)を集塵ダストに添加する、請求項1〜10のいずれか1項記載のセメントの製造方法。
【請求項12】
(G)工程(F)において、排ガス中に残存する有機化合物を吸収または吸着させた吸収剤または吸着剤を、セメント製造工程の燃料として用いる工程、
をさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項記載のセメントの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−184902(P2009−184902A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276589(P2008−276589)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】