説明

セメント材料の粉砕調製のためのエーテル結合を含む堅牢なポリカルボキシレート

本発明は、ポリカルボン酸系櫛型ポリマーが粉砕添加剤として使用される組成物と方法とを開示している。該櫛型ポリマーは炭素主鎖と側基とを含み、そのオキシアルキレン側基は、ポリマーに、粉砕処理の間の劣化に抵抗し、それによりセメント、ポゾラン、石灰石およびその他のセメント材料等の水和性セメント材料のワーカビリティと強度とを保持するための堅牢性を提供するための、1種または複数のエーテル結合基を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明者】
【0001】
Josephine CHEUNG,Denise SILVA,Byong−Wa CHUNおよびMasahiro SATO
【技術分野】
【0002】
本発明はセメントを含む調製物のための粉砕助剤としての櫛型ポリマーの使用に関し、そして更に具体的には、粉砕処理の間の堅牢性およびワーカビリティと強度促進性を保持するための、炭素主鎖と、エーテル(ビニルエーテルを含む)結合基を含む側鎖のポリオキシアルケン基とを含むポリカルボン酸系櫛型ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
水和性ポルトランドセメント、混合セメント、ポゾランセメントおよびその他のセメント組成物を製造するためのセメントクリンカーおよび/またはポゾラン材料の粉砕処理を含む、セメントとセメント材料を含む調製物のための粉砕剤(grinding agents)としてポリカルボン酸系櫛型ポリマーを使用することは知られている。
【0004】
例えば、特許文献1において、Jardine等は、セメントを粉砕するための、そして特にポゾランセメントを粉砕するための、糖とアルカリまたはアルカリ土類金属塩化物と組み合わせたポリオキシアルキレン含有櫛型ポリマーの使用を開示している(特許文献1参照)。その共同出願者により所有される本特許は、このような櫛型ポリマーが主鎖と側基とを含むことを述べている。主鎖は好ましくは、セメント粒子に結合する働きをする側基のポリカルボン酸単位がそれに結合される炭素基、並びに水性セメントペーストとスラーリ内のポリマーの分散性を制御する働きをする側基の「EO/PO」基を含む。「EO/PO」の文字は、典型的にはポリオキシアルキレン反復基よりなるエチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)単位とを表す。
【0005】
Jardine等は、特許文献2、3、4および5中に開示された水減少性EO/POタイプの櫛型ポリマーをセメント粉砕調製物として使用することができることを示唆した(特許文献2、3、4、5参照)。これらはポリカルボン酸系モノマー(例えばマレイン酸または無水物)と、重合性EO/POを含むモノマー(例えば、ポリアルキレングリコールモノアリルエーテル)とから生成されるコポリマーを伴った。他の典型的なポリオキシアルキレン櫛型ポリマーは特許文献6中に教示され、その(コ)ポリマーは、下記構成単位(I)と(II)とで示される結合基、および場合により下記構成単位(III)と(IV):
【0006】
【化1】

【0007】
[式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH)基を示し、Aは水素原子、C〜C10アルキル基、R’またはアルキル金属カチオンあるいはそれらの混合物を示し、R’は水素原子または、(BO)R”(ここでOは酸素原子を示し、BはC〜C10アルキレン基を示し、R”はC〜C10アルキルを示し、そしてnは1〜200の整数を示す)で表されるC〜C10オキシアルキレン基、あるいはそれらの混合物を示し、そしてa、b、cおよびdはポリマー構造のモル%を表す数値で、例えば、aは50〜70の値であり、cプラスdの合計は少なくとも2〜(100−a)の値であり、そして好ましくは3〜10であり、そしてbは[100−(a+c+d)]を超えない。(文字「B」はもちろん、ホウ素を表さず、単に記号として意図される)]
とで示される基をもつ炭素主鎖をもつものと説明された。
【0008】
特許文献7において、Pakush等はまた、セメントを含む調製物のための粉砕剤として有用な櫛型ポリマーを開示した(特許文献7参照)。要約によると、セメント含有調製物中の粉砕助剤としての櫛型ポリマーは、式
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、アステリスク「*」は櫛型ポリマーの炭素主鎖に対する結合部位を示し、Uは1つの化学結合またはC原子数1〜8のアルキレン基を示し、Xは酸素またはNR基を意味し、kは0または1であり、nは櫛型ポリマーに基づく自然数、それらの平均値を示し、5〜300の範囲にあり、「Alk」はC〜Cアルキレンを示し、基(Alk−O)内のAlkは同一でも異なってもよく、Wは水素、C〜Cアルキル残基またはアリール残基を意味するか、または基Y−Zを意味し、Yはフェニル環を担持してもよいC原子数2〜8の線状または分枝アルキレン基を示し、Zは、環員としてもつことができる窒素、並びに窒素原子並びに炭素原子、酸素、窒素および硫黄から選択される1、2または3個の更なるヘテロ原子により結合された5−〜10−員の窒素複素環基を示し、ここで窒素の環員は基R’を含むことができ、そして1または2個の炭素の環員はカルボニル基として存在することができ、Rは水素、C〜Cアルキルまたはベンジルを示し、そしてR’は水素、C〜Cアルキルまたはベンジルを示す]
のポリエーテル基を有する炭素主鎖、並びにpH>12においてアニオン基の形状で存在する官能基Bとそれらの塩を含む。
【0011】
Pakush等はまた、コンクリート添加剤として使用される多数の先行技術の櫛型ポリマーを列挙し、以下を含む多数の特許化された櫛型ポリマーにつき説明した:
特許文献8の櫛型ポリマーはモノエチレン状の不飽和カルボン酸、モノエチレン状の不飽和スルホン酸および、側基の先端に位置するポリ−C〜Cオキシアルキレングリコールモノ−C〜Cアルキルエーテルのエステルを含む(特許文献8参照)。
【0012】
Koyata等の特許文献9の櫛型ポリマーは、重合されたポリ−C〜C18オキシアルキレングリコールモノ−C〜Cアルキルエーテルとマレイン酸またはマレイン酸無水物のエーテルを含む(特許文献9参照)。Koyata等は、これらの櫛型ポリマーの目的は、高い流動性と、該ポリマーが混合されるコンクリート中への分離に対する抵抗を達成することであり、これらの特性は一般的な建設用途、例えばトンネルのライニングおよび鉄筋強化コンクリート構造物の流し込み、に対して有用であると述べている。しかし、この参照文献は、本発明におけるようなセメント材料の粉砕処理に耐え抜くために要するポリマー構造の強度を保持する方法に関して何の示唆をも提示していない。
【0013】
特許文献10の櫛型ポリマーは、モノ−エチレン状不飽和カルボン酸と、櫛型ポリマーに結合された側基の先端に位置するポリオキシ−C〜Cアルキレングリコールモノ−C〜Cアルキルエーテルのモノエチレン状不飽和カルボン酸のエステルとを含む(特許文献10参照)。
【0014】
特許文献11の櫛型ポリマーは、モノエチレン状不飽和モノカルボン酸と、側基の先端に位置するポリオキシエチレングリコールモノ−C〜Cアルキルエーテルとのモノエチレン状不飽和カルボン酸のエステルとを含む(特許文献11参照)。該ポリマーはセメントと無水石膏との混合物を基材とする、水硬性混合物の混和剤として使用される。
【0015】
特許文献12の櫛型ポリマーは、モノ−エチレン状不飽和モノカルボン酸と、側基の先端に位置するポリオキシアルキレングリコールモノ−C〜C22アルキルエーテル、およびエステル交換法により得られるモノ(メト)アクリル酸エステルを含む(特許文献12参照)。
【0016】
特許文献13および特許文献6の櫛型ポリマーは、環式無水物基とアルキルポリオキシアルキレンエーテルアミンとを含む(特許文献13、6参照)。
【0017】
最後に特許文献14に開示された櫛型ポリマーは、アルキル−ポリアルキレンエーテル
基とカルボキシレート基とを担持する炭素主鎖を含む(特許文献14参照)。これらの櫛型ポリマーは、ポリアルキレンエーテルによるカルボキシレート基含有ポリマーの修飾により、そして更にエチレン状不飽和カルボン酸とのアルキルポリアルキレンエーテル基を含む適当なモノマーの共重合の双方により生成される。
【0018】
特許文献15において、Maeder等は、セメント粉砕添加剤としての櫛型ポリマー並びに、とりわけ、それらのモノマー単位の幾つかはエステル化され、そして幾つかはアミド基の形態であってもよい、ポリ(メト)アクリル酸誘導体を含む水性組成物の使用を開示している(特許文献15参照)。
【0019】
しかし、本発明者は、生成される粉砕セメント材料のワーカビリティと強度性能を達成するために、セメント材料のミルによる粉砕処理用調製物中に使用される櫛型ポリマーの強度を維持するための新規の組成物と方法が要望されると考える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6,641,661号明細書
【特許文献2】米国特許第4946904号明細書
【特許文献3】米国特許第4471100号明細書
【特許文献4】米国特許第5100984号明細書
【特許文献5】米国特許第5369198号明細書
【特許文献6】米国特許第5840114号明細書
【特許文献7】米国特許出願第095799号明細書(公開第20080293850号)
【特許文献8】欧州特許第331 308号明細書
【特許文献9】欧州特許第560 602号明細書
【特許文献10】欧州特許第753 488号明細書
【特許文献11】欧州特許第725 044号明細書
【特許文献12】欧州特許第799 807号明細書
【特許文献13】米国特許第5728207号明細書
【特許文献14】国際出願第98/28353号パンフレット
【特許文献15】米国特許出願第2008/0227890号明細書
【発明の概要】
【0021】
発明の要約
オキシアルキレン基を結合させるためにエステル、アミドまたはイミドを含む先行技術のポリカルボン酸系櫛型ポリマーに対して、本発明は、粉砕の間の櫛型ポリマーの堅牢性を保持し、そしてワーカビリティと強度増強性を与えるために、炭素主鎖と、少なくとも1種のエーテル基からなる結合基をもつ側鎖のポリオキシアルケン基とを含むポリカルボン酸系櫛型ポリマーの使用を伴う。
【0022】
「堅牢性(robustness)」により、本発明者は、粉砕操作の高温と機械的衝撃がポリマーの分子構造および従ってセメントにおけるそのワーカビリティと強度増強性を破壊する傾向をもつ、セメント粉砕ミルの激しい環境に耐える本発明のポリマーの能力を表す。
【0023】
本発明者は、粉砕されたセメント材料のワーカビリティと強度が保持されるように、ポリエーテル基の使用がセメント材料、例えばセメント、ポゾランおよび混合セメント、の内部粉砕の間のポリカルボン酸系櫛型ポリマー構造に堅牢性を与えると考える。
【0024】
更に、本発明者は、エチレンオキシド(EO)基は粉砕操作により生成されるセメントに、ワーカビリティと強度性能を保持させる補助をするポリマーに更なる堅牢性を与えると考えられるので、ポリカルボン酸系櫛型ポリマーのポリオキシアルキレン側基は、プロピレンオキシド(PO)またはそれより大型の基よりむしろ、実質的に、エチレンオキシド(EO)基からならなければならない、と考える。
【0025】
従って、好ましい実施態様においては、EO:PO基のモル比は少なくとも90:10%でなければならず、最も好ましくは、ポリオキシアルキレン基は100%のEO基からならなければならない。
【0026】
セメントクリンカーの粉砕法から生成されるセメントのワーカビリティと強度性能を保持するためには固体形態がより有益であると考えられるため、本発明の好ましい組成物と方法は、溶液形態より好ましい固体形態の、ポリカルボン酸系櫛型ポリマーの使用よりなる。
【0027】
本発明に使用される櫛型ポリマーは例えば、そこでは機械的粉砕作業と組合わせた、熱と湿度がポリマー構造の劣化をもたらし、そして流動性またはワーカビリティ並びに粉砕操作により生成されるセメント材料の強度を減少させる、典型的なセメント粉砕ミルプラントの激しい状態に耐える可能性が高い。
【0028】
従って、ミルによる粉砕処理の間のセメント材料のワーカビリティと強度を保持するための本発明の典型的方法は、セメント材料の粉砕処理の前またはその間に、内部粉砕添加剤(an interground additive)として、セメント材料の乾燥重量の0.002〜0.4%の量の、少なくとも1種のポリカルボン酸系櫛型ポリマーをセメント材料中に導入する処理を含み、該櫛型ポリマーは、炭素主鎖と、下記構成単位(I)および(II):
【0029】
【化3】

【0030】
[式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムまたは有機アミン基あるいはそれらの混合物を示し、pは0〜1の整数を示し、AlkはC〜C10アルキレン基を示し、xは1〜10の整数を示し、yは0〜300の数を示し、zは1〜300の数を示し、Rは水素原子または、炭素原子数1〜10の炭化水素基を示し、そして「a」と「b」とはポリマー構造のモル%を表す数値で、「a」は30〜90、「b」は10〜70である]
で表される側基とを有する。
【0031】
本発明の好ましい方法と組成物において、構成単位(II)中のRは水素原子または、炭素原子数1〜4の炭化水素基を示し、xは1〜4の整数を示し、yは0の数を示し、そしてzは5〜300の数を示す。
【0032】
構成単位(II)におけるRはより好ましくは、水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、xは1〜4の整数を示し、yは0の数を示し、そしてzは10〜300の数を示す。
【0033】
構成単位(II)におけるRは最も好ましくは、水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、xは1〜4の整数を示し、yは0の数を示し、そしてzは40〜200の数を示す。
【0034】
本発明はまた、前記ポリカルボン酸系櫛型ポリマーが炭素主鎖と、エーテル結合をもつ側鎖のポリオキシアルキレン基とを有する、典型的なセメント粉砕助剤組成物を提供する。
【0035】
更なる典型的な実施態様において、櫛型ポリマーは少なくとも1種の従来のセメント粉砕助剤(例えばトリエタノールアミン)、より高分子のアルカノールアミン(例えば、トリイソプロパノールアミン)、および/またはその他のアルカノールアミン、並びにそれらの混合物と組み合わされる。
【0036】
もっと更なる典型的な実施態様において、粉砕セメント製品中の空気量を抑制するために、好ましくは粉砕作業後に、1種または複数の消泡剤を取り入れることができる。
【0037】
本発明の更なる利点と特徴は以下に更に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明の利点と特徴の評価は、図面に関連した典型的な実施態様の以下の説明を考慮して、より容易に理解することができる。
【図1】水もポリマーを含まない「ブランク」(対照)サンプルに比較した、30重量%水溶液として使用されるポリマー1(先行技術のポリマーを代表する、エステル結合をもつ側鎖のオキシアルキレン基を含むポリカルボン酸系櫛型ポリマー)と、乾燥粉末形態および更に30重量%水溶液としても使用されるポリマー4(本発明のエーテル結合をもつ側鎖のオキシアルキレン基を含むポリカルボン酸系櫛型ポリマー)とを使用して製造された、粉砕セメント質スラグセメントの粒度分布のグラフである。
【図2】図1に示したポリマー1、ポリマー4およびブランクサンプルを含む粉砕セメント質スラグセメントの1日後の圧縮強度の結果のボックスプロットグラフの図である。
【図3】図1に示したポリマー1、ポリマー4およびブランクサンプルを含む粉砕セメント質スラグセメントの7日後の圧縮強度の結果のボックスプロットグラフの図である。
【図4】図1に示したポリマー1、ポリマー4およびブランクサンプルを含む粉砕セメント質スラグセメントを含む新鮮なモルタルに対するいわゆるミニスランプ試験からの結果のグラフである。
【0039】
典型的実施態様の詳細な説明
本明細書に使用される用語「ポルトランドセメント」は、内部粉砕添加剤としての、水硬性ケイ酸カルシウムと種または複数の硫酸カルシウムの形態(例えば、石膏)よりなるクリンカーを粉砕する処理により製造される水和性セメントを含む。
【0040】
本明細書に使用される用語「セメント質」は、ポルトランドセメントよりなるか、あるいは、微細な砂利(例えば、砂)、粗い砂利(例えば、粉砕された砂利)、またはそれら
の混合物を保持するための結合物として働く材料を表す。
【0041】
本発明は、セメント材料、例えばポルトランドセメント、フライアッシュ、粒状高炉スラグ、石灰石、天然ポゾラン、またはそれらの混合物、の粉砕効率を高めるために有用な方法と組成物を提供する。ポルトランドセメントは典型的には、1種または複数のその他のセメント材料と組み合わされ、ブレンドとして提供される。しかし本発明の方法と組成物は、独立して、またはどんな組み合わせでも、ポルトランドセメントまたはあらゆるその他のセメント材料を粉砕するために別々に使用することができる。
【0042】
本発明の組成物と方法は、従来の粉砕ミル、例えばボールミル(またはチューブミル)と一緒にまたはそれらの中で用いることができる。本発明者はまた、ロール(例えば、垂直ロール、テーブル上ロール、等)を用いるミルにおいて適用することができると考える。例えば、Cheungの米国特許第6,213,415号明細書を参照されたい。
【0043】
本明細書に使用される用語「水和性」は、水との化学的反応により硬化されるセメントまたはセメント材料を表すことが意図される。ポルトランドセメントのクリンカーは、主として水和性ケイ酸カルシウムよりなる一部融解された塊である。ケイ酸カルシウムは本質的には、ケイ酸三カルシウム(セメント化学者の表記法では3CaO・SiO「CS」)とケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO「CS」)の混合物であり、ここでは前者が主要形態であり、少量のアルミン酸三カルシウム(3CaO・AlSiO、「CA」)とテトラカルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al”Fe、「CAF」)を含む。例えば、Dodson,Vance H.,Concrete Admixtures(Van Nostrand Reinhold,New York NY1990),ページ1を参照されたい。
【0044】
前記に要約されたように、本発明の典型的組成物と方法は、セメント材料の乾燥重量の0.002〜0.4%の量のポリカルボン酸系櫛型ポリマーの使用からなり、該櫛型ポリマーは炭素主鎖と、下記の構成単位(I)および(II):
【0045】
【化4】

【0046】
[式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオン、アンモニウムまたは有機アミン基あるいはそれらの混合物を示し、pは0〜1の整数を示し、AlkはC〜C10アルキレン基を示し、xは1〜10の整数を示し、yは0〜300の数を示し、zは1〜300の数を示し、Rは水素原子または、炭素原子数1〜10の炭化水素基を示し、そして「a」と「b」はポリマー構造のモル%を表す数値で、「a」は30〜90、「b」は10〜70である]で表される側基とを有する。用語「整数」はゼロを含む自然数を表し、他方、用語「数」はそれらの分数または小数部分のみならずまた、整数を含む。
【0047】
好ましい実施態様において、1個または複数のアルキレンオキシド(AlkO)基は好ましくは、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)またはそれらの混合
物よりなり、そこでEO:POのモル%比は90:10〜100:1である。100%エチレンオキシドを含むAlkO基が最も好ましい。
【0048】
更に好ましい実施態様において、前記の構造式(II)中に示したアルキル基(CHは好ましくは、前記構造式(II)に示したエーテル結合に隣接してまたはそれに近接して配置される。
【0049】
前記ポリマーは好ましくは、ポリエチレングリコール当量に基づくゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される5,000〜500,000の重量平均分子量を有する。
【0050】
ポリカルボン酸系櫛型ポリマーを含む内部粉砕添加剤組成物は固体粒子または水溶液形態における粉砕のために使用することができるが、この固体粒子形態は粉砕操作の間に劣化を受けにくい可能性があると考えられるので、本発明者は、固体粒子形態の使用を好む。
【0051】
前記のポリカルボン酸系ポリマーと組み合わせて、本発明の更なる典型的な組成物と方法は、従来のセメント粉砕添加剤、例えばアミン、アルカノールアミン、グリコールまたはそれらの混合物、を使用することができる。好ましい添加剤は、限定はされないが、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールエタノールアミン、テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン、メチルジエタノールアミン、およびそれらの混合物を含む。
【0052】
本発明の更なる典型的な方法と組成物中に、粉砕セメント製品中の空気量を抑制するために、1種または複数の従来の消泡剤を取り入れることができる。1種または複数の消泡剤は、粉砕の前、その間またはその後に取り入れることができる。1種または複数の消泡剤は、幾つかの技術的および営業的理由のために、粉砕処理後、例えば、セメント製品の機密解除段階(declassifying stage)の前またはその期間中、あるいは保存または包装の前に添加することが好ましい。粉砕処理後の1種または複数の消泡剤の添加は、それらの効力を保存し、セメント製造業者に、使用に最も経済的な消泡剤を選択させ、そしてセメント粉砕助剤および/またはセメントの品質改良剤を含む安定な溶液を形成する課題を回避させる可能性があるであろう。粉砕処理後の1種または複数の消泡剤の添加はまた、1種または複数の消泡剤を、粉砕過程に使用されるセメント粉砕添加剤および/またはセメント品質改良剤の性状に応じて選択することができる、より大きい融通性を提供するであろう。
【0053】
典型的な消泡剤はトリ−n−ブチルホスフェート、トリ−イソブチルホスフェート、またはそれらの混合物を含む。
【0054】
他の典型的な消泡剤は、構造式RNRで表されるビスヒドロキシルプロピル鉱脂アミン(第三級アミン)の消泡剤であり、構造式中、Rは疎水性であり、式R−(AO)−またはR−(OA)−で表される、線状または分枝アルキル、アルケン、アルキン、アルコール、エステルまたはオキシアルキレン基(例えばポリオキシアルキレン)よりなるC〜C25の基を表し、後者の式中、Rは水素またはC〜C25のアルキル基を示し、AはC〜Cのアルキル基を示し、そして「n」は1〜4の整数であり、そしてRとRはそれぞれ、分枝または線状アルキル、アルケン、アルキン、アルコール、エステルまたはオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシアルキレン)よりなるC〜Cの基を示し、そして第三級アミンの消泡剤の平均分子量は100〜1500、そしてより好ましくは200〜750である。
【0055】
更なる典型的な消泡剤はオキシアルキレンアミンを含む。一般的な組成物は構造式XN(BO)Rで表すことができ、式中、Xは水素、(BO)Rまたはそれらの混合物を示し、Rは水素、C〜C10のアルキル基、またはBNH(ここでBはC〜C10のアルキレン基を示す)を示し、そしてzは5〜200の整数を示す。
【0056】
更なる典型的な消泡剤はまた、式(PO)(O−R)[ここでRはC〜C20のアルキル基である]で表される組成物、リン酸エステル、アルキルエステル、硼酸エステル、シリコーン誘導体およびEO/POタイプの消泡剤よりなる群から選択することができる。まだ更なる典型的な消泡剤は、セト−ステアリルアルコールエトキシレートおよびセト−オレイルアルコールエトキシレート、特にエトキシル化およびプロポキシレート化線状第一級の16〜18炭素数のアルコールを含むことができる。
【0057】
本発明は、限定された数の実施態様を用いて本明細書に説明されているが、これらの特定の実施態様は、本明細書に別記され、請求された本発明の範囲を限定することは意図されない。記載された実施態様からの修飾物および変更物が存在する。より具体的には、以下の実施例は請求される発明の実施態様の特定の実例として与えられる。本発明は実施例中に示される特定の詳細に限定されないことを理解しなければならない。実施例と明細書の残りにおけるすべての部および百分率は、他に特記されない限り、重量%による。
【0058】
更に、特性の特定の組み合わせ、測定単位、条件、物理的状態または百分率を表すもののような、明細書または請求項中に引用されるあらゆる数の範囲は、引用することにより、あるいは、そのように引用されたあらゆる範囲内の数のあらゆるサブセットを含むこのような範囲内に入るあらゆる数により、本明細書に、文字通り、明白に引用されたものとすることが意図される。例えば、下限RLと上限RUとをもつ数値範囲が開示される場合はいつも、その範囲内に入るあらゆる数Rが明確に開示される。とりわけ、範囲内の以下の数Rは、明確に開示される:R=RL+k(RU−RL)(ここでkは1%の増加を伴う1%〜100%の範囲の変数であり、例えばkは1%、2%、3%、4%、5%…50%、51%、52%…95%、96%、97%、98%、99%または100%である)。更に、前記で計算されるような、いずれかの2種のRの値により表されるあらゆる数の範囲もまた明確に開示される。
【実施例1】
【0059】
(先行技術)
先行技術において、ポリカルボン酸系ポリマーは、炭素主鎖基と、下記に示すような側基とを有し、その第2の構造物はエステル結合をもつオキシアルキレン側基を示す:
【0060】
【化5】

【0061】
[式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アミン基あるいはそれらの混合物を示し、AlkはC〜C10のアルキレン基を示し、Rは水素原子またはC〜C10アルキル基を示し、zは1〜300の数を示し、そして「a」と「b
」とは、ポリマー構造のモル%を示す数値で、「a」は30〜90、「b」は10〜70である]。
【0062】
前記の代表的な構造物に示される種々の基の比率は、特に炭素主鎖単位の比率(a:b)、オキシアルキレン単位(AlkO)の数およびオキシアルキレン単位(AlkO)中のエチレンオキシド(EO):プロピレンオキシド(PO)基の重量%比に関して、下記の表1に明記される。
【0063】
【表1】

【実施例2】
【0064】
本実施例においては、炭素主鎖と、構成単位
【0065】
【化6】

【0066】
[式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムまたは有機アミン基あるいはそれらの混合物を示し、pは0〜1の整数を示し、AlkはC〜C10アルキレン基を示し、xは1〜10の整数を示し、yは0〜300の数を示し、zは1〜300の数を示し、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基を示し、そして「a」と「b」とは、ポリマー構造のモル%を示す数値で、「a」は30〜90、そして「b」は10〜70の値である]
に示されるような少なくとも1種のエーテル結合を有する側鎖のオキシアルキレン基とが使用される、本発明のポリカルボン酸系櫛型ポリマーが説明される。
【0067】
前記の典型的な構造物中に示された種々の基の比率と定義は下記の表2に明記される。ポリマー4の重量平均分子量は32,000である。
【0068】
【表2】

【実施例3】
【0069】
本実施例は、実施例1と2で前記に特定されたポリカルボン酸系櫛型ポリマーの粉砕効率の試験を伴う。これらの結果は、どんなポリマーもその他の添加剤をも含まないブランク(または対照)に比較されるであろう。95部のポルトランドセメント(タイプ1)のクリンカーと5部の石膏を水(ブランクサンプル)と一緒に、あるいは10%のポリカルボン酸系櫛型ポリマー水溶液と一緒に実験室のボールミルで粉砕した。セメントのサンプルを405±5m/kgのBlaine比表面積(BSA)に粉砕する。すべての粉砕物は3325gのクリンカーと175gの石膏を用いて外界温度で製造され、それぞれの粉砕物に、クリンカーと石膏の0.05重量%のポリカルボン酸系櫛型ポリマーと0.45重量%の水を添加した。
【0070】
示した時間間隔で試験された各粉砕物のBSAを含む結果を表3に示す。結果は、すべての4種のポリマーが、水のみで製造された対照粉砕物に対して採られた4時間に比較して、3時間20分で約405±5m/kgのBSAを達成したことを示す。本実施例は、エステルまたはエーテル結合をもつポリカルボン酸系櫛型ポリマーが優れた粉砕添加剤であることを示す。
【0071】
【表3】

【実施例4】
【0072】
本実施例は、エステル結合をもつ3種のポリカルボン酸系櫛型ポリマー(先行技術)の効果に比較すると、櫛の歯中にエチレンオキシド(EO)のみをもつエーテル結合を使用して製造されたポリカルボン酸系櫛型ポリマー(本発明者により教示されたような)と内部粉砕されたセメントにおいて、ワーカビリティと1日圧縮強度の増加した保持を示す。POとEO基をもつポリマー1は強度が一番弱い。
【0073】
モルタルを、欧州標準EN−196(1995)により説明されたモルタル試験プロトコールに従って調製する。モルタルをモルタルスランプコーン中に注入し、それを緩徐に引き揚げる。コーンは150mmの高さ、100mmの基底部直径、および50mmの頂
上直径をもつ。ワーカビリティはスランプと、相互から90度で測定されたモルタルの2種の直径の平均との合計である。ワーカビリティを測定後、モルタルをモルタルボウルに戻し、15秒間混合する。次に再混合モルタルをEN 196のプリズム型中にスプーンで入れ、EN 196のプロトコールに従って振動させる。1日後の圧縮強度が測定され、対照ミックスの%として報告される。
【0074】
9種のモルタルサンプル:対照ミックスと、混合方式(非粉砕)で添加されたポリカルボン酸系櫛型ポリマーと、内部粉砕方式で添加されたポリカルボン酸系櫛型ポリマーとの間の差を示す4対のミックス、を調製する。対照の粉砕セメントに0.05%のポリカルボン酸系櫛型ポリマーを添加する。他方、0.05%のポリマーをボールミルに添加し、対照と同様なBSAに粉砕する。粉砕は実施例3に従って実施する。比較の結果を表4に示す。
【0075】
表4に示すように、モルタルサンプルのワーカビリティと1日圧縮強度は、本発明により教示されるようなエーテル結合をもつポリカルボン酸系櫛型ポリマーのポリマー4を用いることによってのみ、保持される。
【0076】
【表4】

【実施例5】
【0077】
本実施例は、エステル結合をもつポリマーに比較した、本発明で教示されたエーテル結合をもつポリカルボン酸系櫛型ポリマーとともにセメントを加熱する時の1日圧縮強度の増加した保持を示す。
【0078】
8組のモルタルを調製する。4組を、熱処理を用いて、そして4組を熱処理を用いずに調製する。最初に2.25gの10%ポリカルボン酸系櫛型ポリマー溶液または2.025gの水を、Hobartミキサーを用いて450gのタイプIの通常ポルトランドセメントに緩徐に添加する。処理されたセメントをアルミニュームフォイル中に堅く包む。「加熱」と標識されたサンプルの群を120℃のオーブン内に2時間入れ、取り出して1晩、冷却する。「非加熱」の群は室温の同一実験室に1晩放置する。モルタルの調製と性能試験は実施例4に従って実施する。
【0079】
表5の結果は、ポリマー4:エーテル結合と、オキシアルキレン側基にEO基のみをもつポリカルボン酸系櫛型ポリマー、によってのみ1日圧縮強度の維持を示す。
【0080】
【表5】

【実施例6】
【0081】
本実施例は、粉砕処理の間に、ポリカルボン酸系櫛型ポリマーが溶液としてよりも固体形態で添加される時に、より微細な粒子の増加した形成を表す。実施例3におけるものと同一の実験室ボールミルを用いてスラグセメントを調製する。最初にスラグを105℃で24時間乾燥し、粉砕前に冷却する。硫酸塩を石膏(Terra Alba石膏)として添加する。すべての材料(1400gのスラグ、554gのクリンカー、および46gの石膏)をミルに入れ、次に、ポリカルボン酸系櫛型ポリマーを、ピペットを用いてセメント材料上に分散させる。熱はかけない。
【0082】
粉砕材料は、70重量%のスラグ、27.7重量%のクリンカー、および2.3重量%の石膏を含む。ポリマー1と4はセメント成分の0.08重量%または30%溶液約5.2gで添加する。粉砕は395±2m/kgのBSAが達成されるまで、実施される。表6はセメントの最終的特徴を表す。
【0083】
【表6】

【0084】
図1は、レーザー粒度分配分析(PSD)により決定される粒度の関数(x軸)としての粒子濃度(y軸)を示す。乾燥ポリマー4を使用する粉砕物は、その他の粉砕物に比較すると、15〜70μmの粒径範囲で、より高い粒子量を有する。BSAの結果は差を示さなかったが、PSDと#325ふるい試験は、ポリマー4が乾燥形態で添加されると、有意に多い量の微粒子を示す。
【実施例7】
【0085】
本実施例は、粉砕の間に、ポリカルボン酸系櫛型ポリマーが溶液形態より固体で添加されると、スランプと圧縮強度の増加した保持を示す。実施例6に記載のセメントを用いて、以下の12種のモルタルのサンプル:2種(2)のブランク、ポリマー1とポリマー4をセメントの0.08重量%で混合水中に添加する、ブランクの粉砕物を用いて調製された4種(4)のミックス、並びに内部粉砕された乾燥ポリマー4、ポリマー4の30%溶液およびポリマー1の30%溶液を用いて調製された6種(6)のミックス、を調製する。すべてのポリマーをセメント材料の重量の0.08重量%の用量で使用する。
【0086】
水/セメント比率はモルタルサンプルの流動性に拘わらず0.485に一定に維持される。2滴の消泡剤SURUFONIC(R)LF−68をモルタルに添加する。Toni
TechnikTM自動ミキサーを使用して、ASTM C109(2005)に従ってモルタルを調製する。モルタルは0.80mmの振幅で3分間のプロトコールを用いて振動により圧縮される。3個のキューブを1日後、そして他の3個のキューブを7日後に試験する。
【0087】
強度試験の他に、セメントペーストの流動性を評価する試みで、ミニスランプ試験も同様に実施する。これらの試験に対する水/セメント比率は、過剰ブリーディングを回避するために0.4である。
【0088】
図2と3は、1日と7日後それぞれのモルタルの圧縮強度のボックスプロットの結果を示す。両者の劣化に対する傾向は同様である。混合ポリマー1と内部粉砕した乾燥ポリマー4は、ブランクよりも統計的により高い強度を示し、内部粉砕ポリマー1を使用して調製したモルタルはすべてのその他のモルタルより有意に弱い。
【0089】
絶対強度は乾燥ポリマーに対してより高いが、1日後のポリマー4の添加の3形態(混合、30%溶液として内部粉砕、乾燥固体として内部粉砕)間に有意差はない。7日後には、この差は95%の信頼度で統計的に有意になる。これは、固体ポリマー4を用いる粉砕物における大量の、より微細な粒子により誘発された可能性がある。
【0090】
図4は0.4w/c比率をもつセメントペーストを用いるミニスランプ試験の結果を示す。mmにおけるその結果は、相互から90度で測定されたモルタルの2種の直径の平均である。認められるように、内部粉砕法がポリマーの分散能を一部破壊した。ミルに対する最後の物質の添加方式(固体または30%溶液)に拘わらず、ポリマー1はポリマー4より影響を受ける。
【実施例8】
【0091】
本実施例において、炭素主鎖と、下記構成単位
【0092】
【化7】

【0093】
[式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムまたは有機アミ
ンの基あるいはそれらの混合物を示し、pは0〜1の整数を示し、AlkはC〜C10アルキレン基を示し、xは1〜4の整数を示し、yは0〜300の数を示し、zは1〜300の数を示し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4の炭化水素基を示し、そして「a」と「b」とは、ポリマー構造のモル%を示す数値で、「a」は30〜90の値、「b」は10〜70の値である]
に示されるような、少なくとも1種のエーテル結合を有する側鎖のオキシアルキレン基とが用いられる、本発明の更なる典型的なポリカルボン酸系櫛型ポリマーが説明される。
【0094】
前記の典型的実施態様に対する代表的構造物に示される種々の基の比率と定義およびそれらの重量平均分子量を下記の表7に明記する。
【0095】
【表7】

【0096】
ポリマーサンプル4は優れた粉砕効率、増加したワーカビリティおよび良好な1日の圧縮強度を与えることが認められる。従って、本発明の更なる典型的方法と組成物において、構成単位(II)中のRはメチル基(−CH基)を示し、pは0の整数を示し、そしてxは2の整数を示す。
【0097】
ポリマーサンプル5、6および7は優れた粉砕効率、増加したワーカビリティおよび良好な1日圧縮強度を与えることが認められる。従って、本発明の更なる典型的方法と組成物において、構成単位(II)中のRはメチル基(−CH基)を示し、pは0の整数を示し、そしてxは1の整数を示す。
【0098】
ポリマーサンプル8と9は優れた粉砕効率、増加したワーカビリティおよび良好な1日圧縮強度を与えることが認められる。従って、本発明の更なる典型的方法と組成物において、構成単位(II)中のRは水素を示し、pは0の整数を示し、そしてxは1の整数を示す。
【0099】
ポリマーサンプル10は優れた粉砕効率、増加したワーカビリティおよび良好な1日圧縮強度を与えることが認められる。従って、本発明の更なる典型的方法と組成物において、構成単位(II)中のRは水素を示し、pは1の整数を示し、そしてxは4の整数を示す。
【0100】
従って、本発明の好ましい方法と組成物において、構成単位(II)中のRは水素またはメチル基(−CH基)を示し、pは1または0の整数を示し、そしてxは1〜4の整数を示す。
【実施例9】
【0101】
本実施例は、実施例8に記載された典型的ポリカルボン酸系櫛型ポリマーの粉砕効率の試験を伴う。これらの結果はどんなポリマーもその他の添加剤も含まない対照に比較される。95部のポルトランドセメント(タイプ1)のクリンカーと5部の石膏を水(ブランクサンプル)あるいは45重量%のポリカルボン酸系櫛型ポリマー水溶液と一緒に実験室のボールミル中で粉砕する。ポリカルボン酸系櫛型ポリマーを含むセメントサンプルを2時間30分間粉砕する。ブランクを2時間50分間粉砕する。すべてのサンプルを、3325gのクリンカーと175gの石膏を用いて85〜95℃で粉砕する。粉砕される各サンプルに、クリンカーと石膏の0.0285重量%のポリカルボン酸系櫛型ポリマーと0.0343重量%の水を添加する。
【0102】
粉砕された各サンプルのBlaine表面積(BSA)を含む結果を表8に示す。結果は、水のみを用いて2時間50分間で粉砕される対照サンプルに比較して、ポリマーサンプル第4〜10は2時間30分以内に417〜446m/kgのBSAを達成することを示す。
【0103】
以上の結果は、典型的ポリカルボン酸系櫛型ポリマーが、水のみを含む対照サンプルの結果に比較されると粉砕効率をばらばらに(variably)増加したことを示す。
【0104】
【表8】

【実施例10】
【0105】
本実施例は、エーテル結合および、歯中にエチレンオキシド(EO)単位のみを取り入れるポリマーサンプル第4〜10を使用して粉砕されたセメントサンプルにおける増加したワーカビリティの保持と1日の圧縮強度に関する効果を示す。
【0106】
モルタルのサンプルは欧州標準EN−196(1995)に記載のモルタル試験プロトコールに従って調製される。モルタルをモルタルスランプコーン中に注入し、次にそれを鋼の板から緩徐に取り出して、成形モルタルを流動させる。コーンは150mmの高さ、100mmの基底直径および50mmの頂上直径を有する。次に、スランプ(モルタルサンプルの高さの低下)と、基底部直径における各測定地点から90度で採られたモルタルサンプルの基底部の2種の直径の平均の合計を計算して、ワーカビリティを決定する。ワーカビリティを測定後、モルタルをモルタルボウルに戻し、15秒間混合する。次に再混合したモルタルを、プリズム型を形成するための型中にスプーンで入れ(EN 196に従って)、次にモルタルのサンプルをEN 196のプロトコールに明記されるように振動させる。次に、1日後にプリズム型モルタルに対してEN 196に従う圧縮強度の試験を実施し、対照のモルタルサンプルを用いて調製されたモルタルにより提供される強度の%として報告される。
【0107】
15種のモルタルサンプル:対照のサンプルと、一方は対照のセメントに直接添加される(混合方式)ポリカルボン酸系櫛型ポリマーと、他方はモルタルを製造するために用いられるセメントと内部粉砕される(内部粉砕方式)ポリカルボン酸系櫛型ポリマーの間の相異を示す、7対のミックス、を調製する。
【0108】
混合方式に対しては、対照粉砕セメント中に0.0285%のポリマーサンプル第4〜10を添加する。粉砕は実施例8に記載の通りに実施する。比較の結果は表9に示す。
【0109】
表9に示すように、ワーカビリティと1日強度は本発明により教示されるようなポリマー(エーテル結合を含む)により保持される。
【0110】
ポリマーサンプル第5、8および10を用いて内部粉砕されたモルタルに関しては、有意に低い1日強度を認める。強度のこの喪失は、ポリマーサンプル第5、8および10を用いて内部粉砕されたセメントの、より低い微細性に由来すると考えられる。BSAの範囲は対照サンプル(粉砕)に対して認めた440m/kgのBSAに比較して、粉砕サンプルに対しては417〜422m/kgであることを認める。
【0111】
【表9】

【実施例11】
【0112】
本発明の典型的組成物と方法は、モルタル中の空気の量を抑制するために少なくとも1種の消泡剤を含むことができる。例えば、発明者は、従来の消泡剤、例えばトリ−n−ブチルホスフェートを、炭素主鎖と、前記のような少なくとも1個のエーテル基を含む結合基をもつ側鎖ポリオキシアルキレン基とを含むポリカルボン酸系櫛型ポリマーを含むセメントと混合することができ、そしてこれは好ましくは粉砕後に、そしてより好ましくは、セメント製品の貯蔵または包装の間に実施される、と考える。
【0113】
以上の実施例と実施態様は説明の目的のみのために提供され、発明の範囲を限定することは意図されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミルによる粉砕処理の間のセメント材料のワーカビリティと強度の保持方法であって、セメント材料の乾燥重量に対し0.002〜0.4%の量の少なくとも1種のポリカルボン酸系櫛型ポリマーを、セメント材料の粉砕前または粉砕中に内部粉砕添加剤としてセメント材料に導入する処理よりなり、該櫛型ポリマーが、炭素主鎖と、下記構成単位(I)および(II):
【化1】

[式中、
はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムまたは有機アミン基あるいはそれらの混合物を示し、
AlkはC〜C10のアルキレン元を示し、
pは0〜1の整数を示し、
xは1〜10の整数を示し、
yは0〜300の数を示し、
zは1〜300の数を示し、
は水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基を示し、そして
「a」と「b」とは、ポリマー構造のモル%を示す数値で、「a」は30〜90、「b」は10〜70である]
で表される側基とを有する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
セメント材料が、ポルトランドセメント、セメントクリンカー、フライアッシュ、粒状高炉スラグ、石灰石、天然ポゾラン、またはそれらの混合物である、請求項1の方法。
【請求項3】
セメント材料がセメントクリンカーである、請求項2の方法。
【請求項4】
セメント材料が、セメントと、フライアッシュ、粒状高炉スラグ、石灰石、または天然ポゾランの少なくとも1種からなる、請求項3の方法。
【請求項5】
AlkOがエチレンオキシド(EO)およびプロピレンオキシド(PO)を表し、EO:POのモル%比が90:10〜100:0である、請求項1の方法。
【請求項6】
ポリカルボン酸系櫛型ポリマーを含む内部粉砕添加剤が固体状態である、請求項1の方法。
【請求項7】
更にアミンまたはアルカノールアミンあるいはそれらの混合物を添加することからなる、請求項1の方法。
【請求項8】
更に、粉砕の前、その間またはその後に、セメント材料に少なくとも1種の消泡剤を添加することからなる、請求項1の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の消泡剤が粉砕後にセメント材料に添加される、請求項8の方法。
【請求項10】
構成単位(II)中のRが水素原子または、炭素原子数1〜4の炭化水素基を示し、xが1〜4の整数を示し、yが0の数を示し、そしてzが5〜300の数を示す、請求項1の方法。
【請求項11】
構成単位(II)中のRが水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、そしてzが10〜300の数を示す、請求項10の方法。
【請求項12】
ポリカルボン酸系櫛型ポリマーおよび少なくとも1種のその他のセメント粉砕添加剤を用いる、ミルによる粉砕処理の間のセメント材料のワーカビリティと強度の保持のための組成物であって、
炭素主鎖と、下記構成単位(I)および(II):
【化2】

[式中、
はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムまたは有機アミン基あるいはそれらの混合物を示し、
AlkはC〜C10のアルキレン基を示し、
pは0〜1の整数を示し、
xは1〜10の整数を示し、
yは0〜300の数を示し、
zは1〜300の数を示し、
は水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基を示し、そして
「a」と「b」とはポリマー構造のモル%を示す数値で、「a」は30〜90、「b」は10〜70である]
で表される結合基よりなる側基とを有する少なくとも1種のポリカルボン酸系櫛型ポリマー、並びに
アミン、アルカノールアミン、グリコール、またはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のセメント粉砕添加剤、
からなることを特徴とする組成物。
【請求項13】
少なくとも1種のセメントの粉砕添加剤がアルカノールアミンである、請求項12の組成物。
【請求項14】
更に少なくとも1種の消泡剤よりなる、請求項12の組成物。
【請求項15】
構成単位(II)中のRが水素原子または、炭素原子数1〜4の炭化水素基を示し、xが1〜4の整数を示し、yが0の数を示し、そしてzが5〜300の数を示す、請求項12の組成物。
【請求項16】
構成単位(II)中のRが水素原子またはメチル基(−CH基)を示し、そしてz
が10〜300の数を示す、請求項15の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−515695(P2012−515695A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546377(P2011−546377)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021149
【国際公開番号】WO2010/085425
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(399016927)ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー−コネチカット (63)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】