説明

セメント系材料の熱損傷度測定装置、及び熱損傷度予測方法

【課題】セメント系材料の爆裂などの熱損傷の解析・対策技術を提供する。
【解決手段】セメント系材料の熱損傷度を測定する装置であって、セメント系材料試験体6を拘束する試験体拘束手段1と、前記試験体拘束手段1で拘束されたセメント系材料試験体6の熱応力特性を測定する熱応力特性測定手段3とを具備する。更にセメント系材料試験体6の内部に発生する水蒸気圧を測定する水蒸気圧測定手段7を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント系材料の熱損傷度判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物が火災に遭うと、コンクリート表層部は爆発的に剥離・剥落する。所謂、爆裂が発生する。コンクリート表層部が剥落すると、場合によっては、内部の鉄筋が露出する。露出した鉄筋は熱により品質が大きく低下する。又、コンクリート表層部の剥落が起きると、鉄筋コンクリート構造物の断面が小さくなる。この結果、構造物の耐荷性能は著しく損なわれる。従って、危険な状態となる。又、鎮火後の構造物の復旧に際しても、復旧工事に費用および期間が大幅に掛かる。すなわち、社会的な損失が大きい。
【0003】
このようなことから、爆裂はコンクリート工学における重要な研究テーマとなっている。
爆裂のメカニズムとしては、
(1) 急速加熱により生じる温度勾配に起因すると謂われる熱応力説
(2) コンクリート内部の水分の蒸発に起因すると謂われる水蒸気圧説
が論じられている。
しかしながら、未だ、確たる結論は得られてない。
【0004】
図1は、火災によりコンクリート構造物に爆裂現象が生じた場合の概念図である。図2は、火災によって内部に発生する水蒸気によりコンクリート構造物にマイクロクラックが発生し、爆裂が起きた場合の概念図である。
【0005】
いずれにしても、爆裂により、コンコリート構造物に強度低下が起きることは容易に理解される。
【0006】
ところで、コンクリートの表面に爆裂により生じる剥離深さを予測するための方法であって、前記コンクリートを構成するモルタル内部において加熱時に生じる水蒸気圧により前記モルタル内部に発生することが予想される引張応力と、前記モルタルの引張強度との比によって定義された爆裂指標と爆裂深さとの関係を、所定の条件において調合されたコンクリートについて加熱実験を行うことにより予め求めておくことにより、前記所定の条件においてコンクリートを調合する際に、前記爆裂指標により、調合されたコンクリートにおいて爆裂により発生が予想される剥離深さを予想することを特徴とするコンクリートの爆裂深さ予測方法、又、前記コンクリートの爆裂深さ予測方法であって、爆裂指標B=σt/fct,σt=α・Ps・r/d,r=(L・P/π)1/2,d=(L−2r)/2,fct=前記モルタルの引張強度、σt=蒸気圧に起因する引張応力、P=前記モルタルの空隙率、Ps=空隙の飽和度、L=前記モルタル内において想定された正方形の単位領域の一辺の長さ、α=前記モルタル内の飽和度を圧力に換算する係数であるコンクリートの爆裂深さ予測方法が提案(特許文献1)されている。
【0007】
又、不定形耐火物の成形体よりなる小型サンプルを作製する工程と、作製した小型サンプルを加熱し、この加熱による小型サンプルの重さの減少量を測定する工程と、その測定結果に基づいて、前記小型サンプル内における水分の移動のし易さを表すパラメータであって、加熱による小型サンプルの重さの減少量とは非線形の関係にある通水特性値を求める工程とを有する不定形耐火物の耐爆裂性評価方法や、不定形耐火物の成形体よりなる小型サンプルを加熱する加熱機、及び該加熱機の加熱による小型サンプルの重さの減少量を測定する質量計を有する乾燥装置と、前記質量計の測定結果に基づいて、前記小型サンプル内における水分の移動のし易さを表すパラメータであって、加熱による小型サンプルの重さの減少量とは非線形の関係にある通水特性値を求める演算手段を有するコンピュータとを備えた不定形耐火物の耐爆裂性評価装置が提案(特許文献2)されている。
【0008】
その他にも、特許文献3や、非特許文献1,2にも、爆裂に関する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4029309号公報
【特許文献2】特開2008−304330号公報
【特許文献3】特許第2533904号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】内之倉「不定形耐火物と粉体工学(その27)第5章不定形耐火物の乾燥 焼成−乾燥プロセス 伝統的方法から最近の動向−」耐火物 57〔11〕 2005年 p590〜597
【非特許文献2】神田美津夫ら「キャスタブル耐火物施工体の乾燥に関する一考」 耐火物 40 No.5 1988年 p270〜278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これまでに提案されて来た技術は、コンクリート内部の水分の蒸発に起因すると謂われる水蒸気圧説を基にしたものであった。そして、急速加熱により生じる温度勾配に起因すると謂われる熱応力は一顧だにされて無い。この為、爆裂などの熱損傷の解析・対策は不十分であつたと謂わざるを得ない。
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は前記問題点を解決することである。すなわち、例えば急速加熱により生じる温度勾配に起因すると謂われる熱応力に基づく爆裂などの熱損傷の解析・対策技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題は、
セメント系材料の熱損傷度を測定する装置であって、
セメント系材料試験体を拘束する試験体拘束手段と、
前記試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体の熱応力特性を測定する熱応力特性測定手段
とを具備することを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0014】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体内に発生する水蒸気圧を測定する水蒸気圧測定手段を更に具備することを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0015】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体を加熱する加熱手段を更に具備することを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0016】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、試験体拘束手段の温度を制御する温度制御手段を更に具備することを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0017】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、試験体拘束手段を複数個具備してなり、前記複数個の試験体拘束手段が積層されてなることを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0018】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、試験体拘束手段を複数個具備してなり、前記複数個の試験体拘束手段が積層されてなり、前記積層された試験体拘束手段の間にはシーリング材が設けられてなることを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0019】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、試験体拘束手段が筒体であることを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0020】
好ましくは、前記のセメント系材料熱損傷度測定装置であって、セメント系材料の熱による爆裂特性を測定する装置であることを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置によって解決される。
【0021】
前記の課題は、
前記セメント系材料熱損傷度測定装置が用いられることによりセメント系材料の熱損傷度を予測する方法であって、
前記セメント系材料熱損傷度測定装置で得られた測定値から求められる応力と該セメント系材料試験体の強度とを対比することによりセメント系材料の熱損傷度を予測することを特徴とする熱損傷度予測方法によって解決される。
【発明の効果】
【0022】
急速加熱により生じる温度勾配に起因すると謂われる熱応力に基づく爆裂などの熱損傷の解析・対策を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】爆裂現象の概略説明図
【図2】爆裂現象の概略説明図
【図3】水蒸気圧測定の概略説明図
【図4】試験体の内部温度−加熱時間のグラフ
【図5】蒸気圧−加熱時間のグラフ
【図6】第1実施形態の本発明装置の概略側面図
【図7】第1実施形態の本発明装置の概略横断面図
【図8】第1実施形態の本発明装置の概略縦断面図
【図9】第2実施形態の本発明装置の概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の発明はセメント系材料の熱損傷度を測定する装置である。例えば、セメント系材料の熱による爆裂特性を測定する装置である。本装置はセメント系材料試験体を拘束する試験体拘束手段を具備する。本装置は前記試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体の熱応力特性を測定する熱応力特性測定手段を具備する。
【0025】
本装置は、好ましくは、前記試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体内に発生する水蒸気圧を測定する水蒸気圧測定手段を更に具備する。本装置は、好ましくは、前記試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体を加熱する加熱手段を更に具備する。本装置は、好ましくは、前記試験体拘束手段の温度を制御する温度制御手段を更に具備する。本装置は、好ましくは、ひび割れ検出手段を更に具備する。このひび割れ検出手段によって、爆裂の有無や発生時間を精度よく知ることが出来る。特に、外観からの判断のみでは検知でき難い場合でも、試験体の内部でのひび割れの発生を検知できる。本装置は、好ましくは、前記試験体拘束手段を複数個具備する。そして、前記複数個の試験体拘束手段が積層される。更に好ましくは、前記積層された試験体拘束手段の間にはシーリング材が設けられる。前記試験体拘束手段は、例えば筒体である。特に好ましくは円筒体である。セメント系材料試験体は筒体の内壁面に密着しているから、セメント系材料試験体は筒体によって拘束を受けている。
【0026】
第2の発明は前記セメント系材料熱損傷度測定装置が用いられることによりセメント系材料の熱損傷度を予測する方法である。本方法は、前記セメント系材料熱損傷度測定装置で得られた測定値から求められる応力と該セメント系材料試験体の強度とを対比することによりセメント系材料の熱損傷度を予測するものである。
【0027】
以下、本発明が更に詳しく説明される。
【0028】
本発明におけるセメント系材料は水硬性セメントを結合材とする材料である。例えば、セメントペースト、モルタル、或いはコンクリート等が挙げられる。不定形耐火材料も含まれる。尚、例えばレジンモルタルやレジンコンクリート等の如く、水硬性セメントを結合材として含まないものは含まれない。水硬性セメントとしては、例えばポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメントやフライアッシュセメント等の混合セメント、アルミナセメント、超速硬セメント等が挙げられる。
【0029】
本発明におけるセメント系材料には、水硬性セメントの他に、適宜混和材料及び骨材から選ばれる一種又は二種以上が含まれていても良い。混和材料としては、例えばAE減水剤、高性能AE減水剤、高性能減水剤、減水剤及び流動化剤等のセメント分散剤、セメント用ポリマー、防水材、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤、コンクリート用膨張材等の膨張材、急結剤(材)、急硬剤(材)、凝結遅延剤、消泡剤、発泡剤、高炉スラグ微粉末、石粉、石膏、シリカフューム、火山灰、空気連行剤、表面硬化剤等が挙げられる。骨材としては、例えば川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工骨材、スラグ骨材などが挙げられる。
【0030】
本発明におけるセメント系材料には水が含まれる。水硬性セメントを結合材として含む場合は、混練水として添加される。
【0031】
本発明における試験体拘束手段はセメント系材料試験体を拘束するものである。好ましくは、セメント系材料試験体の加熱面と平行に圧縮応力を掛けることが出来るものである。例えば、鋼管等の金属製管、鋼製箱、鋼製平板2枚を平行となるように配置し鋼管、鋼製棒、鋼板等で接続したもの(例えば、JIS A 6202:1997「コンクリート用膨張材」附属書2(参考)「膨張コンクリートの拘束膨張及び収縮試験方法」に規定される拘束器具又はこれに類似の器具)等が挙げられる。好ましい試験体拘束手段は鋼管である。更に好ましくはスーパーインバー鋼の如きの低熱膨張率(例えば、常温時の熱膨張係数;0.1×10−6/℃,300℃における熱膨張係数;3×10−6/℃)の鋼管である。中でも断面形状が円形の鋼管である。斯かる箱構造(筒や管も含まれる)の如きの試験体拘束具が採用されると、これは、同時に、型枠としての機能を持つことから、試験体作製に際して、わざわざ、特別な型枠を用いる必要が無い。そして、断面が円形の筒や管構造体が用いられた場合、加熱によりセメント系材料試験体に発生する熱応力による鋼管の変形は均等である。そして、鋼管の円周方向の歪εを測定すると、熱応力(圧縮応力)σは次式により簡単に求められる。
σ=ε・t・E/R
t:鋼管の肉厚(mm)
R:鋼管の内径(mm)
:鋼管の弾性係数(N/mm
【0032】
前記試験体拘束手段の拘束度合いを制御する拘束制御手段が備わっていると、試験体に対する拘束力を制御し高めることが出来、より正確な測定が行うことが出来る。この拘束制御手段としては、装置が簡素になることや拘束力を試験体に均等に掛けやすいことから、温度制御手段(温度上昇抑制手段)が好ましい。前記試験体拘束手段の温度を制御する温度制御手段(温度上昇抑制手段)が備わっていると、試験体拘束手段には熱変形(熱膨張)が起き難くなる。従って、試験体に対する拘束力が高まり、より正確な測定が行われる。温度制御手段(温度上昇抑制手段)としては、水冷装置や空冷装置(例えば、放熱板)などが挙げられる。例えば、水冷装置や空冷装置の場合、試験体拘束手段に前記装置を取り付けることが考えられる。或いは、試験体拘束手段の一部が水冷装置又は空冷装置として機能するように構成させることも考えられる。温度制御手段(温度上昇抑制手段)としては、送風機や噴霧器なども採用できる。この場合には、空気や水滴が試験体拘束手段に供給(噴霧)されることで、温度上昇が抑制される。他にも、断熱手段(断熱層)を試験体拘束手段(筒や管など)の内壁(試験体との接触面)に設けることも考えられる。例えば、断熱性塗料を塗布することでも構成できる。試験体拘束手段として鋼管が用いられ、温度上昇抑制手段として断熱塗料が用いられる場合、鋼管の内壁に断熱性塗料を塗布することで実現できる。温度制御手段(温度上昇抑制手段)以外の拘束制御手段としては、ジャッキ等の載荷装置がある。
【0033】
温度制御手段(温度上昇抑制手段)を設けるのが好ましいのは、試験体拘束手段の熱変形(熱膨張)を防止する為である。熱変形(熱膨張)が起き難い材料で試験体拘束手段を構成させれば、温度制御手段(温度上昇抑制手段)が無くても、それなりの目的が達成される。例えば、例えば、スーパーインバー鋼(常温時の熱膨張係数;0.1×10−6/℃,300℃における熱膨張係数;3×10−6/℃)は低熱膨張性のものであるから、斯かる材料が採用されることは非常に好ましい。
【0034】
本発明における熱応力測定手段は、加熱により発生する熱応力を求めることが出来るものであれば良い。好適なものとして、例えば歪ゲージが挙げられる。その他には、微小圧力計や土圧計などの圧力計(圧力センサ)、応力計(応力センサ)、変位計などが挙げられる。尚、熱応力測定手段によって熱応力が求められる際、温度補正を可能とする為、温度測定が行われることが好ましい。すなわち、温度測定手段を備えていることが好ましい。
【0035】
本発明における水蒸気圧測定手段は、セメント系材料試験体内に発生する水蒸気圧を測定できるものであれば良い。例えば、圧力伝達媒体が充填された圧力計測用パイプを接続した圧力計などが好適に用いられる。ここで、圧力伝達媒体としては、例えばモーターオイル(エンジンオイル)やシリコーンオイル等が挙げられる。勿論、前記流体に限られるものでは無い。好ましい媒体としては、例えば15℃〜400℃(より好ましくは、5〜500℃)では熱分解しない流体である。流体としては気体や液体がある。好ましくは液体である。好ましい圧力計測用パイプは内径10mm以下の管である。より好ましくは7mm以下の金属管である。径の下限値は、好ましくは1mmである。
【0036】
水蒸気圧測定手段の圧力感知部(計測部:圧力計測用パイプ)は、セメント系材料試験体における加熱面(加熱手段(加熱装置)に対向するセメント系材料試験体の面)と略平行に試験体内に配置されることが好ましい。すなわち、略平行に配置することにより、セメント系材料試験体内に発生した水蒸気圧の変化が鋭敏に捉えられる。このことが図3,4,5に示される。図3は、水蒸気圧測定装置の圧力計測用パイプが水平方向(又は上側から下側に向けて垂直方向)にセメント系材料試験体(コンクリート)内に差し込まれ(圧力計測用パイプの先端はセメント系材料試験体の下端面(加熱面)から10mmの位置に設定)ており、かつ、セメント系材料試験体の下部に加熱装置が配置されていて、輻射熱によりセメント系材料試験体の平坦下端面が加熱されるようにしたものである。尚、水蒸気圧測定装置は、モーターオイルが充填された圧力計測用パイプ(内径5mmの金属管)を接続した圧力計が用いられた。そして、セメント系材料試験体の加熱に伴って発生する水蒸気圧が測定された。図4は試験体の下端面(加熱面)から10mmの位置において測定された温度のグラフである。図5は水蒸気圧のグラフである。図5によれば、水蒸気圧測定装置の圧力計測用パイプが水平方向(加熱面と平行方向)に設定されている方が水蒸気圧に鋭敏であることが判った。従って、本発明においては、水蒸気圧測定手段の圧力感知部(計測部:圧力計測用パイプ)は、セメント系材料試験体における加熱面と略平行に試験体内に配置されることが好ましい。
【0037】
本発明の装置は、好ましくは、ひび割れ検出手段を具備している。ひび割れ検出手段としては、例えばAE(アコースティックエミッション)法等による装置が挙げられる。
【0038】
図6〜図8は本発明になる装置の概略図であり、図6は側面図、図7は横断面図、図8は縦断面図である。
【0039】
各図中、1はスーパーインバー鋼製の円筒体(拘束リング:試験体拘束手段)である。この円筒体は、内径が100mm、肉厚が4mm、高さが20mmである。そして、図6,8からも判る通り、複数個(本実施形態では3個)の円筒体1が上下に積層されている。同じ高さの試験体の爆裂現象を調べる場合でも、試験体拘束手段を複数個の拘束具の積層で構成した場合、一つ一つの拘束具に対応して各種測定手段を配設し易くなり、高さ方向における爆裂特性をより子細に測定できる。従って、本実施形態でも円筒体1を複数個用いた。円筒体1と円筒体1との間には耐熱性を有する樹脂で出来たリング状のシーリング体2が配置されている。シーリング体2の構成樹脂としては、円筒体1とシーリング体2との密着性に優れていて、シーリング体2を介して積層された円筒体1内にセメント系材料組成物が投入された場合に、積層円筒体1が型枠としての機能を奏することが出来、かつ、加熱時において円筒体1とシーリング体2との接合面からの水蒸気噴出を抑制できると共に、加熱時の温度に耐えられるものが選択された。
【0040】
3は歪ゲージ(熱応力特性測定手段)である。歪ゲージ3は円筒体1の外周壁面に90°置きで合計4個取り付けられている。そして、歪ゲージ3によって、円筒体1の円周方向の歪(ε)が測定される。
【0041】
4は熱電対(温度測定手段)である。熱電対4は歪ゲージ3配設位置に対応して設けられている。更に、積層円筒体1内の所望箇所(例えば、円筒体1の中心部、内壁面、及び下面側)にも熱電対4が設置されている。そして、熱電対4により当該箇所の温度が測定される。
【0042】
5は断熱層(温度制御手段)である。この断熱層5は、積層円筒体1の内壁面に断熱性塗料が塗布されることで構成されたものである。
【0043】
6はセメント系材料試験体である。このセメント系材料試験体6は、下側開口部が閉鎖された積層円筒体1内にセメント系材料の組成物(水も含有)が投入されて構成されたものである。
【0044】
7は、積層円筒体1で拘束されたセメント系材料試験体6内に加熱時に発生した水蒸気圧を測定できる水蒸気圧測定装置である。この水蒸気圧測定装置7は、モーターオイル8が充填された圧力計測用金属パイプ(内径5mm)9と、圧力計測用金属パイプ9が接続された圧力計10とを具備したものである。そして、本実施形態にあっては、圧力計測用金属パイプ9が水平面(加熱面と平行な面)内に存するよう、かつ、圧力計測用金属パイプ9の先端が積層円筒体1の中心部に位置するよう配置されている。尚、本実施形態では、蒸気圧測定装置7は一番下側位置の円筒体1に対応して1個設けられものであるが、図9に示される如く、円筒体1の各々に対応して設置されても良い。すなわち、セメント系材料試験体6の上下方向で異なる位置(例えば、円筒体1内の上下方向で異なる位置)において、セメント系材料試験体6内で発生した水蒸気による圧が測定可能となるよう水蒸気圧測定装置7が設置されていても良い。
【0045】
11は加熱装置である。
【0046】
尚、図示されてないが、ひび割れ検出手段(例えば、アコースティックエミッション法用のセンサ)が蒸気圧測定装置7設置位置の円筒体1に対応して設けられている。
【0047】
上記の如くに構成させた装置が用いられて、高温環境下(加熱時)において、セメント系材料(例えば、コンクリート)試験体6の爆裂特性が調べられた。すなわち、上記装置を用いての爆裂現象が調べられた。先ず、加熱装置11によって積層円筒体1内のセメント系材料試験体6の下面が加熱された。この加熱に伴ってセメント系材料試験体6は温度が上昇し、内部に存した水が気化した。すなわち、水蒸気が発生した。この発生した水蒸気の圧力が水蒸気圧測定装置7によって測定された。又、円筒体1に対して設けられている歪ゲージ3により、例えば加熱現象に基づく円筒体1の円周方向の歪(ε)が測定された。尚、前記測定時には温度が熱電対で測定されているので、この測定温度を基にして前記歪値の補正が行われている。そして、σ=ε・t・E/Rにεの測定値が代入され、熱応力(圧縮応力)σの値が得られた。又、ひび割れ検出手段(アコースティックエミッション法のセンサ)によりひび割れが検出された。このび割れ発生時の水蒸気圧Pと熱応力(圧縮応力)σとが記録された。そして、セメント系材料試験体6の強度σと前記水蒸気圧P及び熱応力(圧縮応力)σとの間には所定の関係の有ることが確かめられた。すなわち、水蒸気圧P及び熱応力(圧縮応力)σとによって決まる応力σallがセメント系材料試験体6の強度σを越えた時点で、爆裂現象が起きることが判った。従って、各種セメント系材料において上記装置を用いての爆裂現象が起きた(又は、起きる直前の)物性を調べておいたならば、所定の組成になるセメント系材料における爆裂現象を高精度に判定できるようになる。逆にいうならば、爆裂しないセメント系材料を簡易に選定することができる。このことは、例えば火災に遭っても損傷を受けにくい構造物を構築することが出来る。火災に遭っても復旧工事に掛かる費用及び期間を大幅抑制できる構造物を構築できるようになる。そして、社会的な損失を抑制できる。
【符号の説明】
【0048】
1 鋼製円筒体(拘束リング:試験体拘束手段)
2 リング状シーリング体
3 歪ゲージ(熱応力特性測定手段)
4 熱電対(温度測定手段)
5 断熱層(温度制御手段:温度上昇抑制手段)
6 セメント系材料試験体
7 水蒸気圧測定装置
8 モーターオイル(圧力伝達媒体)
9 圧力計測用金属パイプ
10 圧力計
11 加熱装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料の熱損傷度を測定する装置であって、
セメント系材料試験体を拘束する試験体拘束手段と、
前記試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体の熱応力特性を測定する熱応力特性測定手段
とを具備することを特徴とするセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項2】
試験体拘束手段で拘束されたセメント系材料試験体内に発生する水蒸気圧を測定する水蒸気圧測定手段
を更に具備することを特徴とする請求項1のセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項3】
試験体拘束手段の温度を制御する温度制御手段
を更に具備することを特徴とする請求項1又は請求項2のセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項4】
試験体拘束手段を複数個具備してなり、
前記複数個の試験体拘束手段が積層されてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項5】
積層された試験体拘束手段の間にはシーリング材が設けられてなる
ことを特徴とする請求項4のセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項6】
試験体拘束手段が筒体である
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかのセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項7】
セメント系材料の熱による爆裂特性を測定する装置である
ことを特徴とする請求項1〜請求項6いずれかのセメント系材料熱損傷度測定装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7いずれかのセメント系材料熱損傷度測定装置が用いられることによりセメント系材料の熱損傷度を予測する方法であって、
前記セメント系材料熱損傷度測定装置で得られた測定値から求められる応力と該セメント系材料試験体の強度とを対比することによりセメント系材料の熱損傷度を予測することを特徴とする熱損傷度予測方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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