説明

セメント系濁水由来クロムの還元処理方法

【課題】セメント系濁水に含まれる6価クロムを3価に無害化するための処理において、人体や環境に優しい還元剤を使用し、排水だけでなく、固形残渣もリサイクル可能にする処理方法を提供する。
【解決手段】6価クロム含有セメント系濁水に、無機凝集剤と、多量の亜硫酸カルシウムを添加することにより、pH:5〜8の範囲で、懸濁成分の凝集沈降と、懸濁液中の6価クロムを3価に還元する反応を進行させるとともに、未反応の亜硫酸カルシウムを固相成分として液中に残留させる工程(沈降・還元工程)、その後、固液分離して6価クロム量が排水基準を下回る液と、亜硫酸カルシウムを含む固形残渣を回収する工程(固液分離工程)を有するセメント系濁水由来クロムの還元処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系濁水に含まれる6価クロムを3価に還元し無害化する技術に関する。ここで「セメント系濁水」とは、セメント系材料起因の微粉粒状物質が懸濁している(単に浮遊している場合も含む)水であり、例えばセメント系固化剤を用いた地盤改良で発生する濁水、コンクリートダムのグリーンカットズリとSS(Suspended Solid)を含んだブリージング水、養生水、トンネル工事現場で発生するセメント分を含んだ濁水、残土処理施設で発生するセメント分を含んだ濁水などが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
上記のようなセメント系濁水にはセメントに起因する6価クロムがわずかながら(液中に溶解している6価クロム濃度で例えば0.02〜1mg/L程度)含有されている。6価クロムに関連する基準には排水基準と土壌環境基準があり、排水基準は6価クロム含有量0.5mg/L(環境庁告示64号)、脱水ケーキ等の固形残渣を埋め戻し等によってリサイクルする場合の土壌環境基準は6価クロムの溶出量が0.05mg/L(環境庁告示46号)を満たすことと規定されている。従来、工事現場等で発生するセメント系濁水は、現場近くに設置された濁水処理施設において液と固形残渣に分離する処理に供されている。一般的なコンクリート工事で発生する濁水では、液の6価クロムの含有量は排水基準を満たし、土壌環境基準の2倍がせいぜいであるため、6価クロムは問題にならない。このため、濁水処理施設では通常、分離された液に対しては6価クロムを3価に還元する処理を施さずに、排出することが多い。しかし、ブリージング水が大半を占める場合には排水基準を超えることがあり、処理が必要となる。一方、回収された固形残渣については、上記のように溶出量の環境基準が排水の場合の10分の1と厳しいことから、これをクリアすることは容易ではなく、盛土等としてリサイクルすることは困難な状況にある。
【0003】
クロムを含む工場排水の処理においては、工場内で、亜硫酸水素ナトリウム(NaHCO3)等を還元剤に用いて低pH下(2以下)で6価クロムを3価に還元する処理が行われている。亜硫酸水素ナトリウムを上記pH域外で作用させるには当量比で過剰な添加を要し、クロム以外の有害物質を含む固形残渣が増えるため、必要当量で済むように低pHに調整される。
【0004】
コンクリート工事現場等の近くに設置される濁水処理施設では、仮設であるため、有害性が高いものは使用できず、また、pHを極端に低減させる前処理を行うことも難しい。特許文献1、2には、比較的使いやすく汎用的な硫酸第一鉄(FeSO4)を還元剤として使用することにより、セメント系排水の6価クロムを3価に還元する手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−199097号公報
【特許文献2】特開2003−145175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の亜硫酸水素ナトリウムを用いてクロムを含む工場排水を処理する手法は、排水中のクロムを除去することが主目的であり、これによってリサイクル可能な固形残渣を得ることはできない。特許文献1、2に開示の硫酸第一鉄を使用する手法も、排水処理を対象としており、固形残渣のリサイクルまでは意図していない。また、固形残渣中には硫酸第一鉄が残るので、環境に対する配慮が必要である。排水については6価クロムを排水基準以下、さらには土壌環境基準値以下に低減することは十分可能であるが、還元剤の硫酸第一鉄は水に溶解しやすいため、一旦添加した後には回収することが困難であり、過剰に添加してしまうことによる無駄が多くなりやすい。
【0007】
本発明は、セメント系濁水の発生現場近くに仮設する濁水処理施設で、濁水に含有される6価クロムを3価に無害化するための処理を行うのに適した方法であって、人体や環境に優しい還元剤を使用し、得られる固形残渣をリサイクルすることが可能な処理方法を提供しようというものである。また、排水の処理に関しては還元剤の過剰な添加を防止しやすい処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では6価クロムを3価に還元するための還元剤として亜硫酸カルシウム(CaSO3)を使用する。一般的に入手しやすい亜硫酸カルシウムは半水のCaSO3・0.5H2Oの形のものである
【0009】
求項に記載の発明は、セメント系濁水を固液分離するまでの過程で還元剤を作用させる処理であり、図2の工程Cに相当する工程を有するものである。
すなわち、6価クロム含有セメント系濁水に、無機凝集剤と多量の亜硫酸カルシウムを作用させることにより、pH:5〜8の範囲で、懸濁成分の凝集沈降および液中6価クロムの還元反応を進行させる工程(沈降・還元工程)、
その後、固液分離して6価クロム量が排水基準を下回る液と、固形残渣とを回収する工程(固液分離工程)、
を有するセメント系濁水由来クロムの還元処理方法である。
【0010】
前記沈降・還元工程では、多量の亜硫酸カルシウムを添加することにより、未反応の亜硫酸カルシウムを固相成分として液中に残留させることができる。この場合、固液分離工程では亜硫酸カルシウムを含んだ状態の固形残渣が回収される。ここで「多量の亜硫酸カルシウム」とは、固液分離工程に供する段階で液中に未反応の亜硫酸カルシウムを残存させるに足るだけの亜硫酸カルシウム量を意味する。
【0011】
前記沈降・還元工程の後に、pH:7〜9の範囲で3価クロムを水酸化クロム(Cr(OH)3)として沈殿させる工程(クロム沈殿工程)を実施することができる。なお、沈降・還元工程とクロム沈殿工程は、時期的にオーバーラップすることがある。例えば、pHをはじめから7〜8の間に維持するような場合には、還元されて生じた3価クロムは、順次、水酸化クロムに変化して沈降していく。
【発明の効果】
【0012】
本発明で還元剤として使用する亜硫酸カルシウムは、上水の蛇口における塩素除去用の還元剤や、ワイン等の酸化防止剤として使用されており、人体に対する安全性の高い物質である。このため、従来の還元剤(亜硫酸水素ナトリウムや硫酸第一鉄など)を使用した処理に比べ、安全性が向上する。また、亜硫酸カルシウムは水に溶けにくいので、液の還元処理に際しては、ネットに入れた亜硫酸カルシウムを反応に必要な時間だけ液に浸漬したのち引き上げる方法や、亜硫酸カルシウムを詰めたフィルターに液を通す方法が採用でき、還元剤の過剰添加による無駄を防止しやすい。また、6価クロムを還元除去することにより稀釈水が不要となり、放流する水の量も低減できる。さらに本発明は、固形残渣と亜硫酸カルシウムを混合した状態にすることにより、固形残渣のセメント粒子内部で還元されずに残存していた6価クロムが将来溶出してきた際にも、速やかに3価に無害化することができるなど、セメント系濁水に由来する固形残渣のリサイクルを可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の濁水処理方法に従って濁水処理施設で生成される液(処理水)、あるいは固形残渣に対して、亜硫酸カルシウムを適用する場合のフローの一例を示した図。
【図2】濁水処理施設において本発明を適用する場合のフローの一例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に従来の濁水処理方法に従って濁水処理施設で生成される「液」(処理水)、あるいは固形残渣に対して、亜硫酸カルシウムを適用する場合のフローの一例を示す。
セメント系材料を使用する工事現場から発生したセメント系濁水は、現場近くに設けられた濁水処理施設に移される。濁水処理施設では必要に応じて濁水のpH調整を行った後、凝集剤を添加して懸濁成分の沈降を促進させ、その後、濁水のスラリーを固液分離することにより、処理水と、固形残渣が回収される。場合によっては、pH調整のみで貯水池に導かれる場合もある。
【実施例】
【0015】
一方、本発明は、図2に示す濁水処理プロセスにおいて、工程Cと表示したところに適用することができるものである。この工程は濁水処理施設において従来一般に行われている「沈降工程」、「固液分離工程」(図1参照)に相当する工程であり、本発明を適用した場合には「沈降・還元工程」、「固液分離工程」を有する工程となる。固液分離工程の前には「クロム沈殿工程」を経ることができる。被処理液は6価クロムを含有するセメント系濁水であるが、予めpH調整を行うことによってある程度pHを低下させたもの(例えばpH:8〜11程度)が好適な対象となる。このpH調整は、中和剤として炭酸ガスを吹き込むなど、公知の方法が利用できる。以下、「沈降・還元工程」、「クロム沈殿工程」、「固液分離工程」について説明する。
【0016】
〔沈降・還元工程〕
6価クロム含有セメント系濁水に、凝集剤を作用させることにより懸濁成分を凝集沈降させるとともに、亜硫酸カルシウムを作用させることにより液中に溶解している6価クロムを3価に還元する反応を進行させる工程である。
凝集剤としては、従来濁水処理で使用されている硫酸バンド、PAC等の無機凝集剤が使用できる。有機凝集剤はコスト高となるので濁水処理ではほとんどメリットはない。上記の硫酸系無機凝集剤は酸性化剤としても機能する。凝集剤による沈降作用が生じるpH域は概ね5〜8である。したがって、無機凝集剤自体による酸性化作用を利用するとともに、必要に応じてpH調整剤を添加することによってpHを5〜8、好ましくは6〜7の範囲とし、凝集・沈降反応を進行させる。凝集剤の添加量は、液中の懸濁成分(SS)との質量比で0.1〜10%程度の範囲で調整すれば通常良好な結果が得られる。
【0017】
一方、液中に溶解している6価クロムは、還元剤である亜硫酸カルシウムを添加することによって還元され、3価クロムとなる。亜硫酸カルシウムの添加量は、少なくとも液中に溶解している6価クロムが全量3価に還元されるに足る量を確保することが望ましい。pH5〜8の範囲では6価クロムに対し概ね2〜5当量の範囲で亜硫酸カルシウム量を調整すれば液中に溶解している6価クロムをほぼ全量3価に還元することができる。
【0018】
ただし、後工程の固液分離によって回収される固形残渣についても、6価クロムの溶出量を環境基準以内に抑えることが好ましい。図2の工程Dと表示したところで、亜硫酸カルシウムの添加処理を行えば、固形残渣からの6価クロムの溶出は十分に抑止できる。しかし、沈降・還元工程で多量の亜硫酸カルシウムを投入しておけば、後工程で還元処理を省略したり、あるいは還元剤添加量を大幅に低減したりすることが可能になり、より効果的である。これは、亜硫酸カルシウムが水に溶けにくい性質を有しているために実現できるのである。水溶性の還元剤であれば、固液分離によって液側に移行するため、多量の添加は還元剤の浪費につながるのに対し、亜硫酸カルシウムは難溶性で未反応であったものが固形残渣として回収されるので、固形残渣をリサイクル可能にする上で有効に活用される。種々検討の結果、被処理液である濁水に存在する6価クロム量に対して、亜硫酸カルシウム添加量を概ね20〜100当量の範囲で調整することによって、固形残渣中に亜硫酸カルシウムを残留させることができる。後工程で還元剤を添加しなくてもリサイクルを可能とする固形残渣を得るためには、濁水に存在する6価クロム量に対して50〜100当量の亜硫酸カルシウムを添加することが望ましい。
【0019】
無機凝集剤と亜硫酸カルシウムの添加順序は、特にこだわる必要はない。通常は同時期に添加して液と混合すればよい。なお、凝集・沈降反応と還元反応が進行する過程でpHは変動しうるので、上記の適正なpH範囲に維持されるように適宜pH調整を行うことが望ましい。その際、pH上昇剤としては元のセメント系濁水、あるいは図2の工程Dで発生する脱水処理水を有効利用することができる。またpH降下剤としては図2の工程Eと表示したところで回収できる処理水を有効利用することができる。
【0020】
〔クロム沈殿工程〕
上記の工程で亜硫酸カルシウムを添加することにより液中に溶解している6価クロムは3価に還元され、後工程の固液分離で回収される液は、排水としての環境基準をクリアするものとなる。しかし、重金属であるクロムを含む水は、3価のクロムに無害化されていたとしても、そのまま放流することは環境上好ましいとは言えない。そこで、本発明では必要に応じて固液分離前に3価クロムを水酸化クロムとして沈殿させる処理を行う。この処理は、pHを水酸化クロムの生成域である8前後(pH:7〜9、好ましくは7.5〜8.5)に調整することによって可能になる。pH調整には上記のように元のセメント系濁水などが活用できる。凝集・沈降反応が概ね完了した時点でpHを8前後に調整し、しばらく撹拌すれば、水酸化クロムの沈殿反応が進行する。沈降・還元工程をpH7〜8程度で行った場合は、その段階で水酸化クロムの沈殿反応も生じると考えられ、沈降・還元工程とクロム沈殿工程は時期的にオーバーラップし得る。
【0021】
沈降・還元工程でのクロムの還元反応と、クロム沈殿工程での水酸化クロム生成反応は、以下のような反応式で表されると考えられる。
2H2CrO4 + 3CaSO3・0.5H2
→ Cr2(SO43 + 3Ca(OH)2 + 0.5H2O ……(1)
→ 2Cr(OH)3↓ + 3CaSO4 + 0.5H2O ……(2)
ここで(1)がクロム還元反応、(2)が水酸化クロム生成反応である。
【0022】
〔固液分離工程〕
懸濁成分の沈降反応、および6価クロムの還元反応が十分に進行し、必要に応じて水酸化クロムの沈殿反応も十分に進行した後、液(スラリー)は固液分離に供される。固液分離の手法は、従来一般的な方法に従えばよい。得られた液は無害化されており、クロム沈殿工程を経たものでは3価クロムもほとんど除去されているので、そのまま放流しても環境に優しい。一方、固形残渣の方は、亜硫酸カルシウムを含有する形で回収されたものは、そのままで6価クロムの溶出量が環境基準を下回るか、あるいは若干の還元剤を補充することで環境基準を満たすことが可能である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6価クロム含有セメント系濁水に、無機凝集剤と亜硫酸カルシウムを作用させることにより、pH:5〜8の範囲で、懸濁成分の凝集沈降および液中6価クロムの還元反応を進行させる工程(沈降・還元工程)、
その後、固液分離して6価クロム量が排水基準を下回る液と、固形残渣とを回収する工程(固液分離工程)、
を有するセメント系濁水由来クロムの還元処理方法。
【請求項2】
6価クロム含有セメント系濁水に、無機凝集剤と多量の亜硫酸カルシウムを添加することにより、pH:5〜8の範囲で、懸濁成分の凝集沈降および液中6価クロムの還元反応を進行させるとともに、未反応の亜硫酸カルシウムを固相成分として液中に残留させる工程(沈降・還元工程)、
その後、固液分離して6価クロム量が排水基準を下回る液と、亜硫酸カルシウムを含む固形残渣とを回収する工程(固液分離工程)、
を有するセメント系濁水由来クロムの還元処理方法。
【請求項3】
前記沈降・還元工程の後に、pH:7〜9の範囲で3価クロムを水酸化クロムとして沈殿させる工程(クロム沈殿工程)を有する請求項またはに記載のセメント系濁水由来クロムの還元処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24764(P2012−24764A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217581(P2011−217581)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2007−240657(P2007−240657)の分割
【原出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】