説明

セメント組成物及びセメント混練物

【課題】 産業廃棄物あるいは産業副産物を多量に含ませることができ、練混ぜ直後の流動性に優れたセメント組成物を提供する。
【解決手段】 セメント組成物は、セメントクリンカーと石膏とを含有し、セメントクリンカーに占めるSO量が0.58質量%以下、又はアルカリ量がNaO当量で0.53質量%以下である。セメントクリンカーに占めるCAとCAFの合計は、ボーグ式算定で18質量%を超え30質量%以下であり、セメントクリンカーに占めるCA量がボーグ式算定で9質量%〜15質量%である。また、セメント組成物に、リグニンスルホン酸塩系分散剤又はポリカルボン酸系分散剤を練り混ぜて、コンクリート等を調整することもできる。セメントクリンカーには、産業廃棄物や産業副産物である鉄鋼スラグ、非鉄スラグ、石炭灰、及び下水汚泥等を原料として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物あるいは産業副産物を含ませることができ、水との練混ぜ直後における流動性に優れたセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業では古くから原料及び燃料に産業廃棄物あるいは産業副産物を用いてきたが、1990年代より資源循環型社会の構築の機運が高まり、セメント組成物における産業廃棄物や産業副産物の使用量のさらなる増大が望まれている。一般にセメント組成物の原料として使用できる廃棄物は、Al成分に富んだものであり、粘土代替原料として使用されている。したがって、廃棄物原料の使用量を増大させるためには、セメントクリンカーの組成をAl成分に富む組成にすればよい。しかし、この場合、同時にクリンカー化合物組成も変化し、アルミネート系化合物である3CaO・Al(「CA」と略される)や4CaO・Al・Fe(「CAF」と略される)が増大することになる。
【0003】
廃棄物を多量に使用して製造する技術の代表的なものとして、JIS R 5214「エコセメント」で規定されているエコセメントがある。このエコセメントは、従来のポルトランドセメントとは異なり、カルシウムクロロアルミネート化合物を含む、あるいはCAを多量に含むことを特徴としている。これらの化合物は水和活性が非常に高いため、所定の流動性を得るには、化学混和剤を多量に使用する必要がある。しかも流動性の経時変化が大きいために、減水能力が大きいポリカルボン酸系高性能減水剤や遅延剤の併用が欠かせず、これを改良する技術として下記特許文献1に示されるように、アルミネート系化合物の量を制限している。
【0004】
表1に、種々のセメント系材料中のアルミネート系化合物(CA、非晶質C12等)の標準的な含有量を示す。アルミネート系化合物は一般に活性が高く、その性質を利用する早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、速硬セメント、急結材等に多く含まれる。しかし、アルミネート系化合物量が多くなると、一般にセメントペースト、モルタルあるいはコンクリートの流動性は低下し、しかも経時変化が大きくなる。このため、減水剤を多量に添加する、あるいは減水能力の大きい減水剤を使用する、あるいは減水剤と遅延剤を併用するなどの対策が取られている。
【0005】
【表1】

【0006】
また、セメントクリンカー中のSO量及びアルカリ量は、水溶性アルカリ量やCAの結晶多形を決定する重要な要因である。ここで、アルカリ量とは、NaOとKOの合計量をNaOに換算した値である。水溶性アルカリ量は、SO/アルカリのモル比が1未満であればSO量の増加とともに増大し、SO/アルカリのモル比が1以上であればアルカリ量の増加とともに増大する。また、SO/アルカリのモル比が1未満ではセメントクリンカー中にアルカリが固溶し、その固溶量に応じてCAの結晶変態が変化することが知られている。
【0007】
このようなセメントクリンカー中のSO量及びアルカリ量に着目した技術として、下記特許文献2に記載の技術がある。特許文献2では、セメントクリンカー中の(SO/アルカリ)モル比が0.7以上、(水溶性アルカリ/全アルカリ)モル比が0.7以上であることが規定されている。
【特許文献1】特開平11−199301号公報
【特許文献2】特許第3202061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コンクリートは、セメント組成物、水、細骨材等の練混ぜ、運搬、さらに打設の過程を経る。練混ぜ直後の流動性はコンクリート配合あるいは減水剤添加量である程度の調整は可能であるが、単位水量の問題や減水剤添加量の増大によるコストアップを考慮すると、その流動性は高い方が好ましい。従って、使用するセメント組成物は、練混ぜ直後の流動性が高いことが望まれている。この点、上記特許文献2に記載のセメント組成物は、水溶性アルカリ量を増し斜方晶CA量を少なくすることで、練混ぜ直後のスランプ発現性を向上させるというものであるが、コンクリートの流動性は、必ずしも斜方晶CA量の影響が大きいとは限らない。
【0009】
そこで、本発明は、産業廃棄物あるいは産業副産物を多量に含ませることができ、練混ぜ直後の流動性に優れたセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、このような目的を達成するために、クリンカー鉱物組成と少量成分が、セメント組成物の練混ぜ直後における流動性に及ぼす影響を鋭意研究した結果、SO量あるいはアルカリ量、さらに間隙相量と、CA量を適正化することにより、普通ポルトランドセメントよりも、廃棄物の使用量を多くし、間隙相を増量したセメントクリンカーを含有しても、練混ぜ直後の流動性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏とを含有し、該セメントクリンカーに占めるSO量が0.58質量%以下、又は、該セメントクリンカーに占めるアルカリ量がNaO当量で0.53質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
このセメント組成物によれば、普通ポルトランドセメントよりも、廃棄物の使用量が多く、間隙相を増量したセメントクリンカーを含有しても、水との練混ぜ直後の流動性は十分高い。一方、セメントクリンカーに占めるSO量が0.58質量%を越え、かつ、アルカリ量がNaO当量で0.53質量%を越える場合、セメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ量が増加し、練混ぜ直後の流動性が顕著に低下するため好ましくない。
【0013】
また、このようなセメント組成物において、セメントクリンカーに占めるCAとCAFの合計がボーグ式算定で18質量%を超え30質量%以下であることが好ましい。間隙相量を18質量%以下とすると、セメント組成物に使用する産業廃棄物や産業副産物の使用量は、従来のセメント組成物における産業廃棄物及び産業副産物の使用量と同程度に少なくする必要があり、循環型環境社会の観点からは、社会全体のさらなるエネルギー損失量低減効果は得られなくなる傾向がある。また、間隙相量が30質量%を超えると、流動性の低下や耐久性の低下が懸念されるため、好ましくない。
【0014】
さらに、このセメント組成物において、セメントクリンカーに占めるCA量がボーグ式算定で9質量%〜15質量%であることが好ましい。CA量が9質量%未満の場合、そのようなセメント組成物に水を練り混ぜた直後の初期強度の発現が低下する傾向がある。一方、CA量が15質量%を超えると、セメントクリンカーに占めるSO量やアルカリ量を調整しても、練混ぜ直後の流動性が低下する傾向がある。
【0015】
また、セメントクリンカーは、原料として、鉄鋼スラグ、非鉄スラグ、石炭灰、及び下水汚泥から選ばれる少なくとも一種以上が使用されていると良い。循環型環境社会の観点から、これらの産業廃棄物や産業副産物を活用することにより、資源循環に貢献することができる。ここで、本セメント組成物は、普通ポルトランドセメントよりも廃棄物の使用量を多くすることができ、間隙相を増量したセメントクリンカーを含有しても、流動性に優れる。
【0016】
さらに、セメント組成物は、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機粉末を含有することが好ましい。これらの含有量が多いほど、流動性は良好となる。また、高炉スラグやフライアッシュを使用することで産業副産物を活用することになる。したがって、初期強度の発現等が問題とならない範囲で、無機粉末の含有量は多いほど好ましい。
【0017】
この場合、水及びリグニンスルホン酸塩系分散剤を添加して調整したセメントペーストの注水練混ぜ開始時から5分後における降伏値が9.1Pa以下であることが好ましい。セメントペーストの降伏値がこの条件を満たせば、モルタルやコンクリートでも良好な流動性を発現することができる。
【0018】
また、本発明に係るセメント混練物は、上記のセメント組成物に、リグニンスルホン酸塩系分散剤が練り混ぜられていることを特徴とする。セメント混練物としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート等が例示される。上記のセメント組成物は、リグニンスルホン酸塩系分散剤との相性に優れている。そのため、セメント混練物は、水溶性の硫酸アルカリが少ないことによる流動性の低下は生じず、良好な流動性を発現できる。
【0019】
あるいは、上記セメント組成物は、水及びポリカルボン酸系分散剤を添加して調整したセメントペーストの注水練混ぜ開始時から10分後の降伏値が15Pa以下となることが好ましい。セメントペーストの降伏値がこの条件を満たせば、モルタルやコンクリートでも良好な流動性を発現することができる。
【0020】
また、本発明に係るセメント混練物は、上記のセメント組成物に、ポリカルボン酸系分散剤が練り混ぜられていることを特徴とする。セメント混練物としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート等が例示される。上記のセメント組成物は、ポリカルボン酸系分散剤との相性に優れている。そのため、セメント混練物は、水溶性の硫酸アルカリが少ないことによる流動性の低下は生じず、良好な流動性を発現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、産業廃棄物あるいは産業副産物を多量に含ませることができ、練混ぜ直後の流動性に優れたセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るセメント組成物の好適な実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態に係るセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏とを含有し、そのセメント組成物に含有されるセメントクリンカーに占めるSO量が0.58質量%以下、又は、セメントクリンカーに占めるアルカリ量がNaO当量で0.53質量%以下である。より好ましくは、セメントクリンカーに占めるSO量は0.45質量%以下、又は、セメントクリンカーに占めるアルカリ量がNaO当量で0.44質量%以下である。SO量が0.58質量%を越え、かつ、アルカリ量がNaO当量で0.53質量%を越える場合、セメントクリンカーに含まれる水溶性の硫酸アルカリ量が増加し、練混ぜ直後の流動性が顕著に低下するため好ましくない。なお、セメントクリンカー中のSOは、クリンカー化合物の結晶内に固溶して存在するものや、硫酸カリウム等の塩として存在する。
【0024】
また、水溶性の硫酸アルカリ量を抑制する観点では、セメントクリンカーに占めるSO量は、少ないほど好ましい。しかし、この場合、アルカリ量が過度に多いと斜方晶CAが極端に増し、流動性の低下が危惧される。このため、SO量が0.58質量%以下であっても、アルカリ量はNaO当量で0.60質量%以下であることが好ましい。
【0025】
さらに、セメントクリンカーは、上記の条件に加え、CAとCAFの合計で表される間隙相量がボーグ式算定で18質量%を超え30質量%以下、好ましくは19質量%〜28質量%、より好ましくは20質量%〜26質量%であることが望ましい。間隙相量を18質量%以下とすると、産業廃棄物や産業副産物の使用量は、従来のセメント組成物における産業廃棄物及び産業副産物の使用量と同程度に少なくする必要があり、循環型環境社会の観点からは、社会全体のさらなるエネルギー損失量低減効果が小さくなる傾向にある。また、間隙相量が30質量%を超えると、流動性の低下や耐久性の低下が懸念されるため、好ましくない。
【0026】
また、セメントクリンカーは、上記の条件に加え、CA量がボーグ式算定で9質量%〜15質量%、好ましくは9質量%〜14質量%、より好ましくは9質量%〜13質量%である。CA量が9質量%未満の場合、そのようなセメント組成物に水を練り混ぜた直後の初期強度の発現が低下する傾向がある。一方、CA量が15質量%を超えると、セメントクリンカーに占めるSO量やアルカリ量を調整しても、練混ぜ直後の流動性が低下する傾向がある。
【0027】
ボーグ式算定のCA量が少ないほど、練混ぜ直後の流動性は良好となることから、CA量の不足による初期強度の低下やCAF量の増加による呈色が問題とならない範囲で、ボーグ式算定のCA量は少ない方が好ましい。
【0028】
なお、セメントクリンカーに関し、その種類および製造方法は制限されない。例えば、単一のセメントクリンカーを焼成製造したものを用いても良いし、二種以上のセメントクリンカーを混合し調製したものを用いても良い。
【0029】
さらに、セメントクリンカーは、セメントクリンカー原料として、産業廃棄物や産業副産物である鉄鋼スラグ、非鉄スラグ、石炭灰、及び下水汚泥から選ばれる少なくとも一種以上が使用されていることが望ましい。鉄鋼スラグとしては高炉スラグや製鋼スラグが、非鉄スラグとしては銅ガラミや亜鉛滓等が挙げられる。石炭灰は、石炭火力発電所等から発生するものであり、シンダアッシュ、フライアッシュ、クリンカアッシュおよびボトムアッシュが挙げられる。下水汚泥は、汚泥単味のほか、それに生石灰を加えて乾粉化したものや焼却残渣なども使用することができる。ここで、本セメント組成物は、普通ポルトランドセメントよりも廃棄物の使用量を多くすることができ、間隙相を増量したセメントクリンカーを含有しても、流動性に優れる。
【0030】
さらに、上記のセメント組成物は、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機粉末を含有することが望ましい。このように、産業副産物である高炉スラグやフライアッシュを使用することにより、資源循環型社会の要請に応えることができる。これらの含有量が多いほど流動性は良好となるため、初期強度の発現等が問題とならない範囲であれば、無機粉末の含有量は多い方が好ましい。
【0031】
ここで、上記のセメント組成物は、水セメント比55%でリグニンスルホン酸塩系分散剤を0.25質量%添加して調製したセメントペーストの注水練混ぜ開始から5分後の降伏値が9.1Pa以下であることが望ましい。このような配合では、セメントペーストは近似的にビンガム流動を示し、降伏値を測定することができる。本発明者らの検討結果では、セメントペーストの降伏値がこの条件を満たせば、コンクリートでも良好な流動性を発現できることが確認された。
【0032】
さらに、上記のセメント組成物に、リグニンスルホン酸塩系分散剤を練り混ぜて、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント混練物を作製すると良い。セメント組成物に分散剤を添加してコンクリートを調整する際、分散剤として一般に用いられるナフタレンスルホン酸系分散剤を用いると、水溶性の硫酸アルカリが少ない場合、間隙相水和物へ分散剤が吸収されやすく、練混ぜ直後の流動性が低下する。それに比べ、リグニンスルホン酸塩系分散剤の場合、セメント組成物は、リグニンスルホン酸塩系分散剤との相性に優れている。そのため、セメント混練物は、水溶性の硫酸アルカリが少ないことによる流動性の低下は生じず、良好な流動性を発現できる。
【0033】
あるいは、上記のセメント組成物は、水セメント比35%でポリカルボン酸系分散剤を0.6質量%添加して調製したセメントペーストの注水練混ぜ開始から10分後の降伏値が、15Pa以下であることが望ましい。このような配合では、セメントペーストは近似的にビンガム流動を示し、降伏値を測定することができる。本発明者らの検討結果では、セメントペーストの降伏値がこの条件を満たせば、コンクリートでも良好な流動性を発現できることが確認されている。
【0034】
また、セメント組成物に、ポリカルボン酸系分散剤を練り混ぜて、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント混練物を作製すると良い。分散剤としてナフタレンスルホン酸系分散剤を用いるのに比べ、ポリカルボン酸系分散剤を用いれば、セメント組成物は、ポリカルボン酸系分散剤との相性に優れている。そのため、セメント混練物は、水溶性の硫酸アルカリが少ないことによる流動性の低下は生じず、良好な流動性を発現できる。
【0035】
ポリカルボン酸系高性能AE減水剤を用いた場合、水溶性アルカリ量が多いと、練混ぜ直後の流動性が低下することは知られている。また、前述のようにCA量が多いと、流動性が低下することも一般にいわれている。しかし、本発明者らの検討によると、流動性に及ぼすCA量および水溶性アルカリ量の影響には相互作用があり、水溶性アルカリ量を抑制すれば、CA量による流動性の低下は抑えられることが明らかになった。特に間隙相量が通常の普通ポルトランドセメントよりも多いセメント組成物の場合、斜方晶CA量よりも水溶性アルカリ量の調整が重要であり、本発明のようにセメントクリンカーに占めるSO量またはアルカリ量を規定することによって、CA量の増加による流動性の低下を抑え、良好な流動性を得ることができる。
【0036】
このように、通常のポルトランドセメントのみならず、産業廃棄物や産業副産物を多量に使用し間隙相量を増大させたセメントクリンカーにおいてさえも、セメントクリンカーに占めるSO量またはアルカリ量の調整により、流動性に及ぼすCA量の影響を調整できることを見出したことが、極めて重要なポイントであり、それらを最適化することで、本発明の目的を達成できる。
【0037】
なお、セメント組成物において、用い得る石膏の種類は、二水石膏や半水石膏、不溶性無水石膏が挙げられる。石膏を添加するタイミングは、特に制限されるものではなく、セメントクリンカーの粉砕時に添加しても良く、あるいは粉砕されたセメントクリンカーに添加し混合しても良い。
【0038】
また、セメント組成物は、水および各種減水剤との混合により、優れた流動性を発現するが、更にはこれをベースとした混合セメント、セメント系固化材、セルフレベリング材等の用途においても、好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
[ セメント組成物の調製 ]
石灰石、珪石の天然原料と、高炉スラグ、石炭灰および鉄精鉱から選ばれる廃棄物類の所要量を使用し、(株)モトヤマ製超高速昇温電気炉にて、セメントクリンカーを試製した。表2に、各セメントクリンカーの鉱物組成およびSO、アルカリ含有量を示す。ここで、SO量及びアルカリ量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」により測定した。アルカリ量は、NaO量とKO量の合計をNaO当量で表したものであり、次式により算出した。
NaO当量(質量%) = NaO(質量%)+0.658KO(質量%)
【0041】
表2中のNo.1〜3は間隙相量が18質量%である普通ポルトランドセメントクリンカーに相当する。これらのセメントクリンカーに、セメント組成物のSO量が2.0質量%となるよう二水石膏および半水石膏を添加し、ブレーン比表面積で320±10m/kgに粉砕した。ここで、セメント中の半水石膏と(二水石膏+半水石膏)との比(=半水石膏/(二水石膏+半水石膏))は、いずれも0.8とした。また、減水剤としては、リグニンスルホン酸塩系AE減水剤(以下LSと略記する)およびポリカルボン酸系高性能AE減水剤(以下PCと略記する)を使用した。以下に使用した材料を記す。
【0042】
(1)セメント組成物の原料:
(i)セメントクリンカー原料
石灰石( CaO含有量=55.2質量%)
珪石( SiO2含有量=96.1質量%)
高炉スラグ( Al2O3含有量=14.6質量%)
石炭灰( Al2O3含有量=32.0質量%)
鉄精鉱( Fe2O3含有量=70.1質量%)
酸化アルミニウム(試薬特級、和光純薬鉱業株式会社製)
硫酸カルシウム二水和物(試薬特級、関東化学株式会社製)
炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬鉱業株式会社製)
炭酸カリウム(試薬特級、和光純薬鉱業株式会社製)
(ii)石膏
二水石膏:硫酸カルシウム二水和物(試薬特級、関東化学株式会社製)
半水石膏:硫酸カルシウム二水和物(試薬特級、関東化学株式会社製)を大気中で加熱調製(加熱温度120℃)
(2)減水剤
LS:ポゾリスNo.70(株式会社エヌエムビー製)
PC:レオビルドSP8Sx4(株式会社エヌエムビー製)
【0043】
【表2】

【0044】
[セメント組成物の流動性評価]
(i)セメントペーストの調製
調製した各セメント組成物100質量%に対し、下記の配合でイオン交換水および減水剤を加え、ハイシアーミキサー(SILVERSON社製)にて2分間攪拌することでセメントペーストを調製した。
LSを添加するセメント組成物:水セメント比55%、減水剤添加量0.25質量%
PCを添加するセメント組成物:水セメント比35%、減水剤添加量0.60質量%
【0045】
これをR.H.(相対湿度)90%以上の湿空環境で静置した。さらに、LSが添加されたセメントペーストは、注水撹拌開始時から5分後に、次項に示す流動性の評価試験を実施した。また、PCが添加されたセメントペーストは、注水撹拌開始時から10分で流動性の評価試験を実施した。
【0046】
(ii)評価試験
流動性の評価は、プレート間のギャップを0.5mmとしたパラレルプレート型回転粘度計(Haake社製Rotovisco RV1)を用い、せん断速度を0 s-1 → 500 s-1 → 0 s-1 (加速・減速ともに2分間)と変化させた周期的せん断試験により、せん断応力を測定した。このうち、加速時の100〜400 s-1 におけるせん断応力を直線近似し、ビンガム降伏値を流動性の指標とした。
【0047】
調整したセメント組成物の流動性評価試験結果を表2の「流動性試験結果」の欄に示す。セメントクリンカーに占めるSO量およびアルカリ量が高い比較例1〜3のセメント組成物と比べて、実施例1〜5のセメント組成物より調整したセメントペーストの注水練混ぜ直後(5分又は10分)の流動性は、LSを添加した場合であっても、降伏値は9.1Pa以下となり、また、PCを添加した場合であっても、降伏値は15Pa以下となり、いずれの減水剤を添加した場合でも、良好であった。特に、PCを添加した場合において、SO量およびアルカリ量が高い場合には、CA量の増加に伴い流動性は顕著に悪化するが、SO量あるいはアルカリ量が低い場合には、CA量の増加に伴う流動性の変化は僅かであることがわかった。
【0048】
以上の結果より、同じCA量や間隙相量であっても、セメントクリンカーに占めるSO量やアルカリ量によって流動性は明らかに異なり、CAの増量に伴う流動性の変化が、セメントクリンカーに占めるSO量やアルカリ量によって影響を受けることが示された。セメントクリンカーに占めるSO量を0.58質量%以下、または、アルカリ量をNaO当量で0.53質量%以下とすることで、CAあるいは間隙相の増量に伴う流動性の低下を抑え、好適に使用することができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーと石膏とを含有し、該セメントクリンカーに占めるSO量が0.58質量%以下、又は、該セメントクリンカーに占めるアルカリ量がNaO当量で0.53質量%以下であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
前記セメントクリンカーに占めるCAとCAFの合計がボーグ式算定で18質量%を超え30質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記セメントクリンカーに占めるCA量がボーグ式算定で9質量%〜15質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記セメントクリンカーは、原料として、鉄鋼スラグ、非鉄スラグ、石炭灰、及び下水汚泥から選ばれる少なくとも一種以上が使用されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
さらに、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機粉末を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
水及びリグニンスルホン酸塩系分散剤を添加して調整したセメントペーストの注水練混ぜ開始時から5分後における降伏値が9.1Pa以下であることを特徴とする請求項1〜5に記載のセメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセメント組成物に、リグニンスルホン酸塩系分散剤が練り混ぜられていることを特徴とするセメント混練物。
【請求項8】
水及びポリカルボン酸系分散剤を添加して調整したセメントペーストの注水練混ぜ開始時から10分後の降伏値が15Pa以下であることを特徴とする請求項1〜5に記載のセメント組成物。
【請求項9】
請求項1〜5,8のいずれか一項に記載のセメント組成物に、ポリカルボン酸系分散剤が練り混ぜられていることを特徴とするセメント混練物。

【公開番号】特開2006−1796(P2006−1796A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180157(P2004−180157)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】