説明

セメント製造においてリンを含む代替燃料を回収する方法

セメント・クリンカーの製造においてリンを含む代替燃料を回収する方法では、セメント・クリンカー製造工程のロータリー・キルンとは別の熱分解反応器内で、セメント・クリンカー製造工程からの廃熱を使用して代替燃料を熱分解し、それによって放出されたエネルギーをセメント・クリンカー製造工程に供給し、リンを含む代替燃料の熱分解残留物を熱分解反応器から排出し、それゆえ、熱分解反応器内で、リンを含む代替燃料の熱分解残留物を、ハロゲン担体としてのセメント・キルン・バイパス生成物と混合し、生成された重金属ハロゲン化物を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント・クリンカーの製造においてリンを含む代替燃料を利用する方法であって、セメント・クリンカー製造工程のロータリー・キルンとは別の熱分解反応器内で、セメント・クリンカー製造工程からの廃熱を使用して代替燃料を熱分解し、それによって放出されたエネルギーをセメント・クリンカー製造工程に供給し、リンを含む代替燃料の熱分解残留物を熱分解反応器から排出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント・クリンカーの製造では、原料セメント粉末を予熱し、か焼する。それによってCOが放散する。続いてロータリー・キルン内で実際に燃焼し、その後、焼けたクリンカーを冷却して水硬性の生成物を得る。全体として、これらの工程にはかなり量のエネルギーが使用され、可能ならば消費されたエネルギーを回収し、回収したエネルギーを、できるだけ効率よくその工程で再使用する試みが絶えず行われている。さらに、セメント・クリンカー製造工程に対して代替燃料を使用する努力も続けられている。代替燃料はすなわち、高品質の天然ガス又は石油に比べて発熱量が小さい燃料であり、それにより、しばしば廃棄物の形態で入手可能である。代替燃料は通常、例えば石油や天然ガスのような従来の燃料ほどには燃焼性が高くなく、したがって、ロータリー・キルン又はか焼炉のバーナでは、限定された方式でしか使用することができない。したがって、このような代替燃料はしばしば、別個の熱分解(pyrolysis又はthermolysis)反応器内で蒸解され(digested)、又は燃やされる。廃棄物の形態の代替燃料を少量だけを利用するときには、代替燃料から生じた灰(ash)又はスラグ(slag)をクリンカー・キルンに導入し、したがってセメント・クリンカー製造工程の生成物に吸収、結合させることができる。しかしながら、前述の代替燃料をより大量に使用する場合には、代替燃料から生じる比較的に大量の熱分解残留物が、製造されるクリンカーの硬化挙動及び安定性に負の影響を与えるであろう。例えば、熱分解残留物に含まれることがあるリンは、セメントの初期安定性に影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
セメント・クリンカー内にあまりに大量の灰又はスラグがあることによる負の影響を回避するため、可燃性廃棄物を利用する方法であって、分離された方式で廃棄物を燃やし、その結果廃棄物から生じた煙道ガス(flue gas)をか焼に対して使用する方法が、例えばドイツ特許出願DE 34 11 144 Alにおいて提案された。この点に関して、廃棄物の燃焼によって生じたスラグは分離された方式で除去され、その結果、前述の欠点を回避することができる。この文献によれば、やはり使用した廃棄物に由来する重金属及び重金属化合物は、塩化物又はフッ化物の形態で排ガスとともに排出され、排ガスと原料セメント粉末が接触したときに原料セメント粉末によって吸収される。この方法では、代替燃料の熱分解残留物が水浴中へ排出され、他の特別な利用には供給されない。
【0004】
前述の代替燃料のリン内容物を、例えば農地で使用することができる肥料として使用することができるようにするためには、当然ながら、存在する可能性がある重金属及び重金属化合物を特に徹底的に除去する必要があり、このことが、ハロゲン化物の形態の重金属及び重金属化合物を熱分解残留物から除去するためにハロゲンの供給を増やす必要がある理由である。
【0005】
セメント・クリンカーの製造では、セメント・キルン内において塩素又は塩化物が循環する傾向があり、このことは、キルンの流入領域(inflow area)、上昇管(riser duct)又はサイクロン予熱器/熱交換器の領域におけるケーキング(caking)の形成を促進する。ロータリー・キルン内の高温によって出発原料及び代替燃料に含まれる塩化物は蒸発し、その後、例えば熱交換器内の場合のように高温のキルン・ガスから熱が抽出されると、これらの塩化物は凝縮する。このように塩化物は循環し、その結果、セメント・キルン内又は熱交換器システム内に塩化物が蓄積する。消失させるため、通常は、塩化物を同伴しダスト(dust)を含むキルン・ガスを取り出し、急冷によってダストから塩化物を除去する。低塩化物含量の場合には塩素を含むこれらのダストをセメント製造工程に戻すことができる。しかしながら、塩素含量又は塩化物含量が高いときには、このような方式で伴出されたセメント・キルン・バイパス・ダストのセメント製造工程への導入は望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許出願DE 34 11 144 Al
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、セメント・クリンカー製造工程における塩化物の循環を低減し、同時に、植物が使用可能な形態でリンが存在するリンを含む肥料として熱分離残留物を使用することができるように、代替燃料の利用の結果生じた熱分解残留物から重金属を特に効果的に除去する目的で、最初に述べたタイプの方法を改良する課題に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため、最初に述べたタイプの方法を、本発明に従って、熱分解反応器内で、リンを含む代替燃料の熱分解残留物を、ハロゲン担体(halogen carrier)としてのセメント・キルン・バイパス生成物と混合し、その結果生じた重金属ハロゲン化物を取り出す範囲まで、さらに発展させた。ダスト及び/又はガスとして存在することがあるセメント・キルン・バイパス生成物を、リンを含む代替燃料の熱分解残留物から重金属及び重金属化合物を除去するためのハロゲン担体として使用すると、熱分解反応器内の塩化物含量が、肥料として使用する熱分解残留物からの重金属及び重金属化合物の事実上完全な消失を保証するのに十分な高さに維持される。本発明によって提供されるように、その結果生じた重金属ハロゲン化物を取り出し、セメント・クリンカー製造工程に導入しない場合には、重金属をほぼ含まないセメント・クリンカーを製造することができるだけでなく、非鉄金属工業における利益を生む利用に重金属を供給することもできる。全体として、セメント・キルン・バイパス生成物を新たな方式で使用することができ、それによって、代替燃料の利用により、熱分解反応器及びセメント・クリンカー製造工程から、重金属残留物を事実上含まない肥料として使用可能な生成物が排出され、取り出した重金属ハロゲン化物を現状技術において知られている方法に従って処理することによって貴重な重金属を回収することにより、追加の経済的利益が得られる。
【0009】
塩化物を回収するために、本発明の範囲内において、ダストを同伴し塩化物を含むキルン・ガスをセメント・キルン・バイパス生成物として取り出し、熱分解反応器に導入する態様で進展させると有益なことがある。この場合には、キルンの流入領域からキルン・ガスを取り出し、熱分解反応器内での重金属の転化に直接に使用する。
【0010】
しかしながら、本発明の好ましい一実施例によれば、熱分解反応器内のリンを含む代替燃料の熱分解残留物に加える前に急冷することによって、セメント・キルン・バイパス生成物としてのセメント・キルン・バイパス・ダストの塩化物含量を増大させる態様で、本発明を進展させることもできる。それによって、原料粉末に比べて高い塩化物含量を有する、塩化物に富むダストが形成される。急冷時には、取り出したキルン煙道ガスを急速に冷却し、それによってガス相に含まれる塩素又は塩化物が固体粒子の表面に凝縮する。フィルタでこのダストを分離した後、凝縮した塩素又は塩化物を、熱分解反応器内での転化に使用することができる。
【0011】
本発明の好ましい一実施例によれば、リンを含む代替燃料の熱分解残留物から重金属を除去するための追加の塩化物源を利用するために、セメント・キルン・バイパス生成物に加えて、塩化物を含む代替燃料をハロゲン担体として使用する態様で、本発明を進展させることができる。
【0012】
熱分解反応器からの熱分解残留物を肥料として使用することができるように、リンを含む代替燃料中に存在するリンを植物が使用可能な形態にするためには、十分に高い温度で熱分解を実施しなければならない。この目的のため、本発明をさらに、熱分解反応器内の温度を600℃から1200℃の間に設定する範囲まで、有利に発展させた。この温度で、リンは鉱物学的に変化し、この変化は、植物がリンを取り込むことを可能にし、リンを植物に対して使用可能にする。熱分解反応器内の温度を800℃から1100℃の間に設定する手順が特に好ましいことが立証されている。
【0013】
リンを含む代替燃料に含まれる化学エネルギーを、セメント・クリンカー製造工程に対して使用可能にするため、本発明に基づく方法をさらに、熱分解反応器内において酸化条件を設定し、熱分解の結果生じた煙道ガスの熱をセメント・クリンカー製造工程に導入する範囲まで、好ましく発展させた。この煙道ガスの顕熱は主に、か焼炉内において原料粉末をか焼するために使用される。
【0014】
高温の煙道ガスを形成するための十分に酸化的な雰囲気を生成するため、本発明に基づく方法をさらに、酸化条件を設定するために、周囲空気(ambient air)、セメント・クリンカー製造工程からの予熱された空気、酸素、CO及び/又は水蒸気の形態の酸化剤を加える範囲まで、好ましく発展させた。その際、水蒸気は工程に加えることができ、又はリンを含む代替燃料の水分に由来する。
【0015】
しかしながら、高温の煙道ガスを発生させる代わりに、代替燃料から熱分解によって燃料ガスを形成することもできる。それに際して、この方法をさらに、熱分解反応器内において還元条件を設定し、熱分解の結果生じた燃料ガスをセメント・クリンカー製造工程において燃焼させる範囲まで、有利に発展させた。それによって、クリンカー・キルンの主バーナではこのような燃料ガスが主に使用される。
【0016】
原則として、さまざまな起源の廃棄物を、リンを含む代替燃料として認めることができる。しかしながら、本発明の範囲内では、リンを含む代替燃料として汚水スラッジ(sewage sludge)を使用するのが好ましいと考えられる。汚水スラッジを使用すると、重金属の効果的な除去及び有益な肥料の形成を伴う汚水スラッジの処分によって、全体として、廃水処理、セメント・クリンカー製造、肥料製造及び重金属回収が相乗効果的に統合され、それによって汚水スラッジの最適な利用が達成される。
【0017】
汚水スラッジは通常、比較的に高い含水率を有する。そのため、この方法をさらに、熱分解の前に汚水スラッジを乾燥させる範囲まで、好ましく発展させた。それによって、この点に関しては、熱分解の前に汚水スラッジを乾燥物含量(dry matter content)>60%まで乾燥させる態様で、この方法を進展させることが好ましい。
【0018】
セメント・クリンカー製造工程に存在する熱量を最適に使用するため、本発明をさらに、汚水スラッジの乾燥に対してセメント・クリンカー製造工程からの熱を使用する範囲まで、有利に発展させた。その目的には、クリンカー冷却器からの高温の排気が特に適しており、それにより、クリンカー冷却器のどの領域から排気を取り出すかによって、さまざまな温度レベルが使用可能である。
【0019】
以下では、図に示した実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に基づく方法を実行するのに適したシステムの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、1は、予熱器及びか焼炉、ロータリー・キルン並びにクリンカー冷却器を実質上備えるセメント・クリンカー製造プラントを表わす。本発明に従って使用されるリンを含む代替燃料は、管路2を通して乾燥器18に供給される。乾燥器18は、例えば汚水スラッジでは15%から45%の間である代替燃料の乾燥物含量を、60%から100%の間の値まで増大させる役目を果たす。そのために必要な熱は、セメント・クリンカー製造プラント1に接続された管路3を通して乾燥器に供給され、管路3は例えば、予熱器又はか焼炉からの乾燥用空気、特にクリンカー冷却器からの乾燥用空気を含むことができる。蒸発した水は、管路4を通して工程から除かれる。
【0022】
代替燃料の実際の熱分解は熱分解反応器5で起こり、熱分解反応器5には、管路6を通して、予備乾燥された代替燃料が供給される。熱分解反応器には、セメント・クリンカー製造工程の高温の処理空気(process air)が管路7を通して供給され、本発明によれば、セメント・キルン・バイパス生成物が管路8を通して供給される。リンを含む代替燃料の熱分解は熱分解反応器で起こり、それによって、含まれているリンが、植物が使用可能な鉱物学的形態に転化される。同時に、含まれている可能性がある重金属が、ハロゲン担体、特に管路8を通して導入された塩化物によって揮発性の重金属ハロゲン化物に転化され、それによって、このハロゲン化物は、熱分解によって生じたガスとともに管路9を通して取り出される。生成物ガスが燃料ガスとして存在する場合、そのガスは洗浄器10に供給される。洗浄器では、重金属ハロゲン化物が固体の形態に変換され、この固体のハロゲン化物は管路11を通して排出することができ、熱分解によって生じたガスは、管路12を通してセメント・クリンカー製造工程に供給される。熱分解の生成物ガスが酸化条件下で形成された煙道ガスである場合には、任意選択で、そのガスを、管路13を通して熱分解反応器を加熱するために使用してもよい。
【0023】
植物が利用できる形態のリンを含む熱分解による熱分解残留物は、管路14を通して熱分解反応器から取り出され、熱を回収するために熱交換器15に供給され、管路16を通して排出される。熱交換器15からの熱を、管路17を通して、セメント・クリンカー製造工程に供給してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント・クリンカーの製造においてリンを含む代替燃料を利用する方法であって、
セメント・クリンカー製造工程のロータリー・キルンとは別の熱分解反応器内で、セメント・クリンカー製造工程からの廃熱を使用して前記代替燃料を熱分解し、それによって放出されたエネルギーをセメント・クリンカー製造工程に供給し、前記リンを含む代替燃料の熱分解残留物を前記熱分解反応器から排出する方法において、
前記熱分解反応器内で、前記リンを含む代替燃料の熱分解残留物を、ハロゲン担体としてのセメント・キルン・バイパス生成物と混合し、生成された重金属ハロゲン化物を取り出すことを特徴とする方法。
【請求項2】
ダストを同伴し塩化物を含むキルン・ガスをセメント・キルン・バイパス生成物として取り出し、前記熱分解反応器に導入することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱分解反応器内の前記リンを含む代替燃料の前記熱分解残留物に加える前に急冷することによって、セメント・キルン・バイパス生成物としてのセメント・キルン・バイパス・ダストの塩化物含量を増大させることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記セメント・キルン・バイパス生成物に加えて、塩素を含む代替燃料をハロゲン担体として使用することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱分解反応器内の温度を600℃から1200℃の間に設定することを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分解反応器内の前記温度を800℃から1100℃の間に設定することを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱分解反応器内において酸化条件を設定し、熱分解の結果生じた煙道ガスの熱を前記セメント・クリンカー製造工程に導入することを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化条件を設定するために、周囲空気、セメント・クリンカー製造工程からの予熱された空気、酸素、CO及び/又は水蒸気の形態の酸化剤を加えることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記熱分解反応器内において還元条件を設定し、熱分解の結果生じた燃料ガスを前記セメント・クリンカー製造工程において燃焼させることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記リンを含む代替燃料として汚水スラッジを使用することを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
熱分解の前に前記汚水スラッジを乾燥させることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
熱分解の前に前記汚水スラッジを乾燥物含量>60%まで乾燥させることを特徴とする、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記汚水スラッジの前記乾燥に対して前記セメント・クリンカー製造工程からの熱を使用することを特徴とする、請求項10乃至請求項12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−515668(P2013−515668A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546513(P2012−546513)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/IB2010/003265
【国際公開番号】WO2011/080558
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(511139291)ホルシム テクノロジー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】