説明

セラミックシートの製造方法

【課題】セラミックシート、特に、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートを、歩留まり良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、(I)セラミックセッター上に、セラミック多孔質スペーサ12とセラミックシート用のグリーンシート11とを、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように交互に、且つ、ジルコニア系グリーンシート11の外縁がセラミック多孔質スペーサ12の外縁よりも0.5mm以上10.0mm以下の範囲で内側に位置するように積み重ねて、セラミック多孔質スペーサ12とグリーンシート11とからなる積層体1を配置する工程と、(II)積層体1を構成しているセラミック多孔質スペーサ12を、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で互いに接合することによって、積層体全体を固定する工程と、(III)積層体1の状態でグリーンシート11を焼成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックシートは、優れた機械的強度、電気絶縁性、靭性、耐摩耗性、耐薬品性、及び耐食性等を有することから、各種電子材料、各種構造材料、刃物、及び焼成用のセッター等に利用されている。その中で、アルミナを主体とするセラミックシートは優れた電気絶縁性を有することから厚膜印刷基板及び薄膜回路基板として、窒化アルミニウムを主体とするセラミックシートは優れた熱伝導性と絶縁性を有することからパワーモジュール向け放熱・絶縁基板及び回路基板として、さらにまた、ジルコニアを主体とするセラミックシートは高い酸素イオン伝導性を有することから燃料電池の電解質膜として、活用されている。
【0003】
セラミックシートを電子基板として利用する場合、基板上に導体回路を形成したり電子素子を搭載したりするので、基板となるセラミックシートに反りやウネリがあったり、また、キズ等の表面欠陥があると、導体回路や電子素子の実装が困難になるという不具合が生じる。
【0004】
また、近年、燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと記載する。)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0005】
SOFCのセルは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックからなる電解質が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、カソード、電解質シート及びアノードを重ね合わせたものを単セルとする。この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられることによって、高出力が得られる。このような電解質シートには、高い寸法精度及び高い平坦性(反り及びうねりの抑制)等が要求される。したがって、電解質シートの生産コストの低減及び生産性の向上等のために、高い寸法安定性を実現でき、反り及びうねりの発生を抑制でき、且つ、割れ及び欠けの発生を抑制できる製造方法の確立が求められている。
【0006】
SOFCの電解質には、ジルコニア系、セリア系及びランタンガレート系のセラミック材料が好適に用いられる。ジルコニア系セラミック材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)及びスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等が挙げられる。セリア系セラミック材料としては、イットリア、サマリア及び/又はガドリア等がドープされたセリアが挙げられる。ランタンガレート系セラミック材料としては、ランタンガレート、及び、ランタンガレートのランタン及び/又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル及び/又は銅等で置換されたものが挙げられる。したがって、これらのセラミック系電解質材料からなるシートが、高い寸法安定性を実現でき、反り及びうねりの発生を抑制でき、且つ、割れ及び欠けの発生を抑制できる方法によって、歩留まり良く製造されることが求められる。
【0007】
セラミックシートは、通常、セラミック原料粉末、バインダー及び溶剤等を混合及び粉砕して得られるスラリーをドクターブレード法等によりテープ状に成形してグリーンテープを作製し、このグリーンテープを所定形状に切断・打ち抜きしたグリーンシートを焼成することによって作製できる。通常、グリーンシートを焼成する際は、生産性を上げるため、さらにシートの高い平坦性を実現するため等の目的で、セラミックセッターの上にセラミック多孔質スペーサとグリーンシートとを交互に積み重ねて積層体とし、この積層体の状態でグリーンシートが焼成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−302515号公報
【特許文献2】特開平3−16965号公報
【特許文献3】特開平8−290976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、セラミックシート、特にSOFC用の電解質シートに要求される寸法精度等が高くなってきている。したがって、従来の方法では、そのような高い要求を満たすセラミックシートを歩留まり良く製造することが困難になってきている。
【0010】
そこで、本発明は、セラミックシート、特にSOFC用の電解質シートを歩留まり良く製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者は、セラミックシート用のグリーンシートの積層工程及び焼成工程について検討を行い、積層体の状態でグリーンシートを焼成する際の問題点と製造されるセラミックシートの歩留まりとの関係を見出した。生産性向上のため、積層体に含まれるスペーサ及びグリーンシートの数は増加する傾向にある。すなわち、積層体の高さは増加する傾向にある。その結果、積層体は、少しの力、例えばスペーサとグリーンシートとが重ね合わされた後に焼成炉まで移動する際にかかる小さな力でも、ずれたり崩れたりする。本発明者は、積層体にずれや崩れが生じたままの状態でグリーンシートを焼成すると、製造されるセラミックシートに寸法異常、反り及びうねり異常、外観異常(キズ等の発生)、さらに割れ及び欠けが発生して、歩留まりが低下することを突き止めた。
【0012】
なお、アルミナ基板の製造には、一般的に、アルミナのグリーンシート同士を積層した状態で焼成する方法が用いられている。したがって、アルミナのグリーンシートの積層体について、積層されたグリーンシートのずれを抑制する技術も種々提案されている(特許文献2及び3参照)。しかし、SOFC用の電解質シートとして製造されるセラミックシートは、上述したような、非常に高い要求を満たす必要がある。そのため、アルミナ基板で利用される従来の製造方法をそのまま利用すると、却って、寸法異常、割れ及び欠け等の問題が発生して、歩留まりが低下すると考えられる。
【0013】
そこで、本発明者は、上記の点を全て考慮して、以下の本発明に到達した。
【0014】
本発明のセラミックシートの製造方法は、
(I)セラミックセッター上に、セラミック多孔質スペーサとセラミックシート用のグリーンシートとを、最下層及び最上層に前記セラミック多孔質スペーサが配置されるように交互に、且つ、前記グリーンシートの外縁が前記セラミック多孔質スペーサの外縁よりも0.5mm以上10.0mm以下の範囲で内側に位置するように積み重ねて、前記セラミック多孔質スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、
(II)前記積層体を構成している前記セラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で互いに接合することによって、前記積層体全体を固定する工程と、
(III)前記積層体の状態で前記グリーンシートを焼成する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法では、工程(II)において、積層体を構成しているセラミック多孔質スペーサ同士が接合されて固定されるので、その間に挟まれたグリーンシートもスペーサと一体的に固定される。したがって、積層体がずれたり崩れたりすることがない。また、積層体は、工程(I)において、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとが、グリーンシートの外縁がセラミック多孔質スペーサの外縁よりも0.5mm以上10.0mm以下の範囲で内側に位置するように積み重ねられることによって、形成されている。すなわち、積層体の側端面を構成しているのは、セラミック多孔質スペーサの外縁である。したがって、積層体全体を固定するための手段として、例えば粘着剤等の化学物質が使用された場合でも、当該手段と接触するのはスペーサのみであり、グリーンシート自体は当該手段と接触しない。したがって、グリーンシートは、積層体の固定のため(セパレータ同士の接合のため)に如何なる手段が使用される場合であっても、その手段に汚染されることなく、焼成されることができる。これらの結果、セラミックシートが、高い歩留まりで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法の工程(I)において作製される、セラミック多孔質スペーサとセラミックシート用のグリーンシートとからなる積層体を示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法の工程(II)において、セラミック多孔質スペーサの側端面同士が粘着テープによって互いに接合された状態を示す断面図である。
【図3】(a)〜(e)は、それぞれ、積層体の最上層又は最下層のセラミック多孔質スペーサから見た状態の、粘着テープの数及びその位置を示す平面図である。
【図4】積層体の最上層又は最下層のセラミック多孔質スペーサから見た状態のワックスの塗布位置を示す平面図である。
【図5】実施例3において、ワックスを付着させるグリーンシート上の位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
【0018】
本実施の形態のセラミックシートの製造方法は、
(I)セラミックセッター上に、セラミック多孔質スペーサとセラミックシート用のグリーンシートとを、最下層及び最上層に前記セラミック多孔質スペーサが配置されるように交互に、且つ、前記グリーンシートの外縁が前記セラミック多孔質スペーサの外縁よりも0.5mm以上10.0mm以下の範囲で内側に位置するように積み重ねて、前記セラミック多孔質スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、
(II)前記積層体を構成している前記セラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で互いに接合することによって、前記積層体全体を固定する工程と、
(III)前記積層体の状態で前記グリーンシートを焼成する工程と、
を含む。
【0019】
まず、工程(I)で用いられるセラミックシート用のグリーンシートについて、SOFC用の電解質シートを例に挙げて説明する。本実施の形態の製造方法において用いられるSOFC用の電解質シート用のグリーンシートは、例えば、セラミック系電解質原料粉末に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーをテープ状に成形して乾燥させたグリーンテープを所定形状に切断・打ち抜きすることによって得ることができる。
【0020】
セラミック系電解質原料粉末としては、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属酸化物;Sc23、Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23及びYb23等の希土類元素酸化物;及び、Bi23及びIn23等の酸化物、から選択される1種もしくは2種以上を、安定化剤として含有するジルコニアの粉末を例示できる。さらに、その他の添加剤として、SiO2、Ge23、B23、SnO2、Ta25及びNb25から選択される何れかの酸化物が含まれていてもよい。これらの中でも、より高レベルの酸素イオン伝導性、強度及び靭性を確保する上で好ましいのは、スカンジア、イットリア、セリア及びイッテルビアからなる群から選択される少なくとも何れか1種を安定化剤として含む、安定化ジルコニアである。安定化ジルコニア全体における安定化剤の含有量は、スカンジアで4〜12モル%、イットリアで3〜10モル%、セリアで0.5〜2モル%、イッテルビアで4〜15モル%である。結晶系は正方晶系であってもよいし立方晶系であってもよいが、スカンジアを含むジルコニアの場合、スカンジアの含有量が多くなると結晶系が菱面体晶に転移することがあるので、結晶系を立方晶系に安定化するために、第三成分としてセリアやアルミナ等を加えてもよい。以下、例えば、4モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(「4モル%のスカンジアを安定化剤として含むジルコニア」という意味。以下、同様の表現を同様の意味で用いる。)を4ScSZ、10モル%のスカンジア及び1モル%のセリアで安定化されたジルコニアを10Sc1CeSZ、8モル%のイットリアで安定化されたジルコニアを8YSZと表記する。
【0021】
セラミック系電解質原料粉末としては、他に、セリア系セラミック材料の粉末及びランタンガレート系セラミック材料の粉末を用いることもできる。セリア系セラミック材料としては、イットリア、サマリア及び/又はガドリア等がドープされたセリアが挙げられる。ランタンガレート系セラミック材料としては、ランタンガレート、及び、ランタンガレートのランタン及び/又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル及び/又は銅等で置換されたものが挙げられる。
【0022】
本実施の形態で用いられるSOFC用の電解質シート用のグリーンシートは、以上のようなセラミック系電解質原料粉末を用いて作製されるものである。
【0023】
また、セラミックシートの主要素材となるセラミック粉末としては、アルミナ系粉末、チタニア系粉末、マグネシア系粉末、窒化アルミニウム系粉末、ホウ珪酸ガラス系粉末、コージェライト系粉末、ムライト系粉末、及びこれら2種以上からなる複合粉末等を挙げることができる。また、セラミック粉末として、ジルコニア系粉末、セリア系粉末及びランタンガレート系粉末を用いることも可能である。
【0024】
回路を形成したり電子素子を搭載したりするための電子基板用セラミックシートの素材として特に好ましいのはアルミナ系粉末であり、放熱・絶縁基板として特に好ましいのは窒化アルミニウム系粉末である。アルミナ系粉末としては、アルミナのみ、並びに、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属の酸化物、Y23、La23及びCeO2等の希土類元素の酸化物、Y23、La23及びCeO2等の希土類元素の酸化物で安定化されたジルコニア、焼結時にガラス質を形成し易いSiO2、K2O及びB23等の酸化物、Na23−SiO2−MgO系ガラス等のガラス成分等を、1種又は2種以上含むアルミナ系セラミックからなる粉末が挙げられる。窒化アルミニウム系粉末としては、窒化アルミニウムのみ、並びに、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属の酸化物、Y23、La23及びCeO2等の希土類元素の酸化物等を、1種又は2種以上含む窒化アルミニウム系セラミックからなる粉末が挙げられる。
【0025】
グリーンシートの作製に用いられるバインダーの種類には制限がなく、従来の電解質シートの製造方法で公知となっている有機バインダーの中から適宜選択できる。有機バインダーとしては、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロース等のセルロース類及びワックス類等が例示される。これらの中でもグリーンシートの成形性や強度、特に量産のために大量焼成するときの熱分解性等の点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレート又はヒドロキシアルキルメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレート又はアミノアルキルメタクリレート類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレート等のマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマー等の中から少なくとも1種を重合又は共重合させることによって得られるポリマーが好ましく使用される。
【0026】
グリーンシートの作製に用いられる溶剤の種類には制限がなく、従来の電解質シートの製造方法で公知となっている溶剤の中から適宜選択できる。例えば、炭素数が2〜4のエタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルキルアルコール;1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、等の中から適宜選択した溶剤を使用できる。これらの溶剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0027】
必要に応じて用いられる分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤には、従来の製造方法で電解質シートを製造する際に用いられる公知の分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤を、それぞれ用いることができる。
【0028】
セラミック原料粉末、バインダー及び溶剤等を混合して作製されたスラリーを、通常の方法、例えばドクターブレード法、押出成形法又はカレンダーロール法等によりテープ状に成形し、乾燥させたグリーンテープを、所定の形状に切断することによって、セラミックシート用のグリーンシートを作製できる。なお必要に応じて、グリーンシートの表面を粗化する工程が含まれていてもよい。グリーンシートの大きさ及び厚さは、目的とするセラミックシートの形状、大きさ及び厚さと、焼成による収縮率とから求められる。
【0029】
SOFC用の電解質シートの場合は、本実施の形態の製造方法で用いられるグリーンシートは、最終的に得られる電解質シートが50〜1000cm2の面積を有し、且つ0.05〜0.5mmの厚さを有するように、大きさ及び厚さを有することが好ましい。
【0030】
グリーンシートの形状は、用途に応じて、例えば電解質シートの場合はその電解質シートが適用されるSOFCの形状に応じて、適宜決定されればよいため、特に制限されない。
【0031】
セラミックセッター上に、セラミック多孔質スペーサと、上記のように作製されたグリーンシートとを、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように交互に積み重ねて、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとからなる積層体を配置する。図1に示すように、積層体1は、グリーンシート11の外縁がセラミック多孔質スペーサ12の外縁よりも0.5mm以上10.0mm以下の範囲で内側に位置するように積み重ねられる。積層体1をこのように形成することによって、後の工程で、セラミック多孔質スペーサをそれらの側端面の少なくとも一部で互いに接合して、積層体全体を固定する際に、接合のための手段(例えば粘着剤等)がグリーンシートを汚染することを抑制できる。したがって、グリーンシートは、積層体の固定に如何なる接合手段が使用される場合であっても、その接合手段の影響を受けることなく、焼成されることができる。その結果、得られる電解質シートに発生する問題(寸法異常、割れ及び欠け等)が抑制され、さらにセラミック多孔質スペーサとグリーンシートとを積み重ねる際の安定性が向上する。これらの効果をより確実に得るために、グリーンシート11の外縁は、セラミック多孔質スペーサ12の外縁よりも、1.0〜8.0mmの範囲で内側に位置することが好ましく、2.0〜6.0mmの範囲で内側に位置することがより好ましい。
【0032】
積み重ねられるグリーンシートの枚数は、その寸法にもよるが、例えば2〜20枚であり、好ましくは4〜12枚である。なお、セラミックセッター及びセラミック多孔質スペーサには、電解質シートを作製する際に一般的に用いられる、公知のセラミックセッター及びセラミック多孔質スペーサが使用できる。
【0033】
本実施の形態の製造方法において用いられるセラミック多孔質スペーサは、アルミナ、ジルコニア及びムライトからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含む多孔質体からなることが好ましい。これらは、耐クリープ性及び耐スポーリング性に優れているからである。さらに、これらは、高温雰囲気下でジルコニアとの反応性が低いので、ジルコニア系グリーンシートを焼成する際のスペーサとして適している。
【0034】
セラミック多孔質スペーサの気孔率は、30%以上70%以下が好ましい。セラミック多孔質スペーサがこのような気孔率を有することにより、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとを交互に積み重ねた状態でグリーンシートを焼成する際に、バインダー、可塑剤及び分散剤等の有機成分の熱分解によって生成するガス成分を速やかに外部に放出させて脱脂効果を促進できるからである。気孔率が30%未満である多孔質スペーサを使用すると、通気性の低下によって有機成分の燃焼及び有機成分分解ガスの放出が不十分となり、積層体上に重しを載置しても、電解質シートに発生するうねり及び反りの高さが大きく、且つ多くなり、クラックや割れが生じる原因になる。一方、気孔率が70%を超える多孔質スペーサを使用すると、有機成分の燃焼及び有機成分分解ガスの効率的な放出が行われてうねり及び反りの発生は低減されるが、多孔質スペーサ自体の強度が不十分となるため、ハンドリング性が著しく低下して複数回の使用に耐えられなくなる他、多孔質スペーサ表面の平滑性も悪くなって電解質シートにクラックや割れが生じやすくなる等の問題が生じる。多孔質スペーサのより好ましい気孔率は35%以上65%以下であり、さらに好ましい気孔率は40%以上60%以下である。
【0035】
なお、ここでいう気孔率とは、JIS R2205の「耐火れんがの見掛気孔率の測定方法」に準拠して求められる気孔率のことである。試料の見掛気孔率(P0)は、乾燥試料の質量(W1)、飽水試料の水中の質量(W2)、飽水試料の質量(W3)から、下記式(1)で算出される。
0={(W3−W1)/(W3−W2)}×100 ・・・(1)
【0036】
また、多孔質スペーサの厚さが100μm未満では、気孔率が上記の好ましい範囲内であっても多孔質スペーサ自体のハンドリング強度が十分でなく、一方、厚さが500μmを超えると、ハンドリング強度は十分であるがグリーンシートからの有機成分分解ガスが効率良く放散されにくくなり、電解質シートにうねり及び反りが発生しやすくなる。多孔質スペーサのより好ましい厚さは120μm以上400μm以下であり、さらに好ましい厚さは150μm以上350μm以下である。
【0037】
多孔質スペーサの面積及び形状は、目的とする電解質シートの面積及び形状から特定されるグリーンシートの面積及び形状に基づいて決定される。したがって、多孔質スペーサの形状は、焼成するグリーンシートの形状と相似形であることが好ましく、円形、楕円形、角形又はR(アール)を持った角形等、いずれでもよく、これらの形状内に円形、楕円形、角形又はR(アール)を持った角形等の穴を有するものであってもよい。
【0038】
本実施の形態の製造方法において用いられるセラミックセッターは、一般に、主に電子部品やガラスの焼成に使用されるセラミック製の焼成用治具のことであり、棚板や敷板とも呼ばれる。本実施の形態で用いられるセラミックセッターは、アルミナ、シリカ、マグネシア及びジルコニア等の酸化物、及び/又は、コージェライト、ジルコン及びムライト等の複合酸化物を含み、厚さが5〜30mm程度で、一辺が150〜400mm程度の平板状であり、セラミック多孔質スペーサが載置される敷板であることが好ましい。
【0039】
次に、積層体を構成しているセラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で互いに接合することによって、積層体全体を固定する(工程(II))。セラミック多孔質スペーサ同士の接合に用いられる手段は、特に限定されない。例えば、積層体を構成しているセラミック多孔質スペーサを、その側端面の少なくとも一部で粘着テープを用いて互いに接合する方法、又は、積層体を構成しているセラミック多孔質スペーサを、その側端面の少なくとも一部でワックスを用いて互いに接合する方法が、好適に使用できる。
【0040】
セラミック多孔質スペーサ同士を、それらの側端面で、粘着テープを用いて互いに接合する場合について説明する。図2に示すように、粘着テープ2が、例えば、積層体1の最上層のセラミック多孔質スペーサ12aの上面13から、積層体1の側端面に沿って最下層のセラミック多孔質スペーサ12bの下面14まで差し渡されることによって、セラミック多孔質スペーサ12の側端面同士を互いに接合できる。
【0041】
一つの積層体について、セラミック多孔質スペーサの側端面を互いに接合するために貼付される粘着テープの数と、当該粘着テープが貼付される位置とは、特に限定されない。例えば積層体を焼成炉まで移動させる際に当該積層体にかかる程度の弱い力で、積層体がずれたり崩れたりすることを抑制できるように、積層体のサイズ(高さ及びセラミック多孔質スペーサの面積)と、用いられる粘着テープの粘着力と、セラミック多孔質スペーサの材質と、等を考慮して、粘着テープの数及びその貼付位置を適宜決定すればよい。ただし、作業効率を考慮すると、貼付される粘着テープの数はできるだけ少ないことが好ましい。そこで、粘着テープの数は、作業効率も考慮した上で決定することが好ましい。
【0042】
セラミック多孔質スペーサが矩形である場合、例えば、対向する1組の辺のそれぞれ対応する位置に粘着テープを貼付してもよい。具体的には、図3の(a)〜(d)にそれぞれ示すように、セラミック多孔質スペーサ12の2箇所、4箇所、6箇所又は8箇所を粘着テープ2で固定してもよい。また、図3(e)に示すように、セラミック多孔質スペーサ12の対向する2組の辺について、それぞれ対応する位置に粘着テープ2を貼付することも可能である。セラミック多孔質スペーサが円形の場合は、例えば対向する位置に1組又は2組以上の粘着テープを貼付してもよい。
【0043】
セラミック多孔質スペーサの外縁長さに対する、貼付された粘着テープの線幅の合計の比(粘着テープの線幅合計/スペーサの外縁長さ)は、1/100〜50/100の範囲であることが好ましく、4/100〜20/100の範囲であることがより好ましい。1/100以上とすることにより、積層体全体の固定力が十分に得られる。50/100以下とすることにより、作業効率の低下を抑制でき、さらに、積層体全体が強固に固定されすぎることによって発生する、電解質シートの反り及び割れ等の不具合も抑制できる。
【0044】
粘着テープの基材には、例えば、セロハン、クラフト紙、布、アルミ箔、ポリエステルフィルム、ポリエチレン及びポリイミドフィルムが使用できる。粘着テープの粘着剤には、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤及びシリコーン系粘着剤が使用できる。粘着テープとしては、入手のしやすさから、これらの基材及び粘着剤からなる市販の粘着テープが好ましい。
【0045】
次に、セラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面で、ワックスを用いて互いに接合する場合について説明する。図4に示すように、ワックス3が積層体1の側端面に塗布されることによって、セラミック多孔質スペーサ12の側端面同士が接合される。上述のとおり、グリーンシートの外縁は、セラミック多孔質スペーサ12の側端面によって形成される積層体1の側端面よりも、0.5mm以上内側に位置している。このような構成により、積層体1の側端面に塗布されたワックス3が、グリーンシートを汚染することを抑制できる。なお、ワックス3の塗布位置は、図4に示された位置に限定されず、積層体全体をずれ及び崩れが生じない程度に強固に固定できるように適宜選択すればよい。
【0046】
ここで用いられるワックスには、一般的なワックスが使用可能である。その中でも、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとからなる積層体の固定化に望ましいのは、熱機械分析(TMA)による軟化点が30〜100℃(好ましくは35〜80℃、より好ましくは40〜70℃)であり、100℃での溶融粘度が100〜4000mPa・s(好ましくは300〜3000mPa・s、より好ましくは500〜2000mPa・s)である、ワックスである。このような特性を備えたワックスは、積層体の焼成時に炉内が望ましい温度(グリーンシートが焼成される特定の温度)になれば速やかに溶融するが、望ましい温度付近までは積層体を強固に固定することができる。さらに、上記のような比較的高い溶融粘度を有するワックスは、溶融後に積層体の内側に流れ込んでグリーンシートを汚染する可能性が非常に低い。これらの理由から、本実施の形態の製造方法において、上記の特性を満たすワックスが好適に用いられる。また、ワックスの分子量は、1,000〜100,000の範囲が好ましく、10,000〜80,000の範囲がより好ましく、20,000〜60,000の範囲がさらに好ましい。
【0047】
次に、積層体の状態でグリーンシートを焼成する(工程(III))。具体的な焼成の条件は、特に制限されない。したがって、グリーンシートを焼成する通常の方法を用いることが可能である。例えば、グリーンシートからバインダー及び可塑剤等の有機成分を除去するために、150〜600℃、好ましくは250〜500℃で5〜80時間程度処理する。次いで、酸化性雰囲気下もしくは非酸化性雰囲気下、1000〜1800℃、好ましくは1200〜1600℃で2〜10時間保持して焼成することによって、セラミックシートが得られる。
【0048】
本実施の形態の製造方法によって得られるセラミックシートは、寸法異常、反り及びうねり異常、外観異常(キズ等の発生)、さらに割れ及び欠けの発生が抑制され、SOFC用の電解質シートとしての厳しい要求を満たすものである。すなわち、本実施の形態の製造方法は、セラミックシートを歩留まり良く製造できる方法である。
【実施例】
【0049】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されない。
【0050】
(実施例1)
実施例1では、セラミック多孔質スペーサ同士の接合に粘着テープを用いた例を説明する。なお、本実施例では、SOFC用の電解質シートとして、ジルコニア系電解質シートを製造した。
【0051】
(1)ジルコニア系グリーンシートの製造
原料粉末として、市販の8モル%酸化イットリウム安定化ジルコニア粉末(d50(平均粒径):0.5μm)100質量部に対し、メタクリル系共重合体からなるバインダー(数平均分子量:100,000、ガラス転移温度:−8℃)を固形分換算で16質量部、分散剤としてソルビタン酸トリオレート2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部、溶剤としてトルエン/イソプロパノール(質量比=3/2)の混合溶剤50質量部を、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに入れ、40時間ミリングしてスラリーを調製した。得られたスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、攪拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度:40℃で減圧(約4〜21kPa)下に濃縮脱泡し、25℃での粘度を3Pa・sに調整して塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーをドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に連続的に塗工し、次いで、40℃、80℃、110℃と乾燥させることによって、長尺の固体電解質用未処理グリーン体(グリーンテープ)を得た。このグリーンテープを、PETフィルムから剥がし、平均表面粗さRaが3.5μm、厚さが0.3mmの厚紙を装着した1000KN4柱式試験プレス機(株式会社大阪ジャッキ製作所製)を用いて、350KNで2秒間加圧した。その後、このグリーンテープを打ち抜き金型で打ち抜いて、一辺が132mmの正方形のグリーンシートを得た。得られたグリーンシートの厚さは、215μmであった。
【0052】
(2)セラミック多孔質スペーサの準備
セラミック多孔質スペーサには、一辺が約138mmである正方形のアルミナスペーサを用いた。このアルミナスペーサは、厚さが0.3mm、気孔率が45%であった。
【0053】
(3)積層体の作製
上記のように製造されたジルコニア系グリーンシート10枚と、上記アルミナスペーサ11枚とを準備した。下層及び最上層にアルミナスペーサが配置されるように、アルミナスペーサとジルコニア系グリーンシートとを交互に積み重ねた。このとき、ジルコニア系グリーンシートの外縁が、アルミナスペーサの外縁よりも約3.0mm内側に位置するように積み重ねて、積層体を作製した。
【0054】
(4)積層体の固定
幅24mmの市販の粘着テープと、幅50mmの市販の粘着テープを準備した。これらをそれぞれ長さ30mmにカットして、上記(3)で得られた積層体の所定の位置に貼り付けて、当該積層体全体を固定した。なお、固定位置(テープが貼り付けられた位置)は、表1に示すとおりである。
【0055】
(5)焼成
市販の粘着テープで固定された積層体の上に、厚さ1.6mmのセラミック多孔体(重し)を別途載置した。これを、150mm角のアルミナ製焼成セッターに載置し、連続脱脂炉を有する連続トンネル焼成炉で、最高温度1400℃で3時間保持して焼成した。
【0056】
なお、本実施例では、固定に用いたテープの幅と、固定位置と、焼成時の重しの枚数とを変えて、互いに異なる条件下で製造された、番号1−1〜1−4の4種のサンプルを得た。番号1−1〜1−4のサンプルについて、固定に用いたテープの幅、固定位置及び重しの枚数を、表1に示す。また、テープによる固定を行わなかった点以外は番号1−1〜1−4と同様の手順で、比較例となるシート(番号1−5)も作製した。
【0057】
表1に、焼成後に得られたシートの各種検査結果及び歩留を示す。本実施例では、治具検査として、CCD検査装置を用いた寸法検査及び反り検査が行われた。治具検査に合格したシートに対して、さらに目視による外観検査が行われた。外観検査として、表2に示す各項目の検査も行われた。外観検査の各項目の評価基準は以下のとおりである。
ディンプル・うねり:焼成品(シート)の5%を抜き取り、シートの外縁から約15mm内側の厚さを2点ずつ測定して、シートの平均厚さを求める。この平均厚さ+20μmに隙間を設定し、その隙間にシートを挿入して、シートが隙間に挿入できれば合格、挿入できなければ不合格とした。
割れ・欠け・クラック:目視で認められなければ合格とした。
キズ・斑点・付着物:目視で認められなければ合格とした。ただし、限度見本以下は許容した。
【0058】
焼成枚数に対する外観検査の合格枚数の割合を算出し、得られた値を総合歩留とした。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1及び2に示されたように、テープ幅24mm及び50mmのテープを用いて積層体が固定された場合は、共に、積層体が固定されなかった比較例(番号1−5)と比べて、得られたシートの寸法合格率、反り合格率及び外観合格率が全て同等かそれ以上であった。この結果から、テープによって積層体全体が固定されることにより、歩留が向上することが確認された。
【0062】
(実施例2)
実施例2でも、実施例1と同様に、セラミック多孔質スペーサ同士の接合に粘着テープを用いた例を説明する。なお、本実施例では、SOFC用の電解質シートとして、ランタンガレート系電解質シートを製造した。
【0063】
(1)ランタンガレート系グリーンシートの製造
電解質粉末として市販のLa0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23-δ粉末(平均粒子径:0.7μm、比表面積:10m2/g、以下LSGMと記載する。)100質量部に対して、メタクリレート系共重合体(数平均分子量:80,000、ガラス転位温度:−15℃、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で20質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2.2質量部、及びトルエン/イソプロパノール(質量比:3/2)の混合溶媒50質量部を添加し、実施例1と同様の方法で塗工用スラリーを調製した。この塗工用スラリーをドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に連続的に塗工し、次いで、40℃、80℃、110℃と乾燥させることによって、長尺の固体電解質用未処理グリーン体(グリーンテープ)を得た。このグリーンテープを、PETフィルムから剥がし、平均表面粗さRaが5.3μm、厚さが0.4mmの厚紙を装着した1000KN4柱式試験プレス機(株式会社大阪ジャッキ製作所製)を用いて、150KNで1秒間加圧した。その後、このグリーンテープを打ち抜き金型で打ち抜いて、一辺が132mmの正方形のグリーンシートを得た。得られたグリーンシートの厚さは、300μmであった。
【0064】
(2)セラミック多孔質スペーサの準備
セラミック多孔質スペーサには、一辺が約138mmである正方形のアルミナスペーサを用いた。このアルミナスペーサは、厚さが0.3mm、気孔率が50%であった。
【0065】
(3)積層体の作製
上記のように製造されたランタンガレート系グリーンシート8枚と、上記アルミナスペーサ9枚とを準備した。下層及び最上層にアルミナスペーサが配置されるように、アルミナスペーサとランタンガレート系グリーンシートとを交互に積み重ねた。このとき、ランタンガレート系グリーンシートの外縁が、アルミナスペーサの外縁よりも約3.0mm内側に位置するように積み重ねて、積層体を作製した。
【0066】
(4)積層体の固定
幅24mmの市販の粘着テープと、幅50mmの市販の粘着テープを準備した。これらをそれぞれ長さ30mmにカットして、上記(3)で得られた積層体の所定の位置に貼り付けて、当該積層体全体を固定した。なお、固定位置(テープが貼り付けられた位置)は、表3に示すとおりである。
【0067】
(5)焼成
市販の粘着テープで固定された積層体の上に、厚さ1.6mmのセラミック多孔体(重し)を別途載置した。これを、150mm角のアルミナ製焼成セッターに載置し、連続脱脂炉を有する連続トンネル焼成炉で、最高温度1480℃で3時間保持して焼成した。
【0068】
なお、本実施例では、固定に用いたテープの幅と、固定位置と、焼成時の重しの枚数とを変えて、互いに異なる条件下で製造された、番号2−1〜2−4の4種のサンプルを得た。番号2−1〜2−4のサンプルについて、固定に用いたテープの幅、固定位置及び重しの枚数を、表3に示す。また、テープによる固定を行わなかった点以外は番号2−1〜2−4と同様の手順で、比較例となるシート(番号2−5)も作製した。
【0069】
焼成後に得られたシートを実施例1と同様に検査し、その各種検査結果及び歩留を表3に示す。表4は、外観検査の結果を示す。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表3及び4に示されたように、テープ幅24mm及び50mmのテープを用いて積層体が固定された場合は、共に、積層体が固定されなかった比較例(番号2−5)と比べて、得られたシートの寸法合格率、反り合格率及び外観合格率が全て同等かそれ以上であった。この結果から、テープによって積層体全体が固定されることにより、歩留が向上することが確認された。
【0073】
(実施例3)
実施例3では、種々のワックスを用いて、これらのワックスがグリーンシートに及ぼす影響について検討を行った。
【0074】
まず、実施例1と同様の方法で、ジルコニア系グリーンシートを準備した。また、ワックスとして、日本精鑞株式会社製の「パラフィンワックスNo.155」、同社製の「マイクロクリスタリンワックス1045」、同社製の「マイクロクリスタリンワックス2045」及び株式会社日本触媒製の「高分子ワックスST−100」を準備した。それぞれのワックスの特性は、表5に示すとおりである。
【0075】
【表5】

【0076】
それぞれのワックスについて、図5に示すようにグリーンシート11の表面の9箇所A〜Iにワックスを付着させたものを4枚ずつ準備した。これら4枚を互いに重ね合わせ、さらに上から厚さ1.6mmのセラミック多孔体(重し)を載せて、1400℃で焼成した。焼成後のシートについて、表6に示す項目に関し、目視で評価を行った。各項目の評価の基準は、実施例1と同じである。
【0077】
【表6】

【0078】
以上の結果から、軟化点が30〜100℃の範囲内であって、且つ100℃での溶融粘度が100〜4000mPa・sの範囲内である番号3−4の「高分子ワックスST−100」が、グリーンシートに及ぼす影響が最も小さく、本発明の製造方法で用いられるワックスとして最適であることが確認された。
【0079】
(実施例4)
実施例4では、セラミック多孔質スペーサ同士の接合にワックスを用いた例を説明する。実施例4では、実施例3で良好な結果が得られたワックス(株式会社日本触媒製の「高分子ワックスST−100」)を用いた。
【0080】
「ジルコニア系グリーンシートの製造」、「セラミック多孔質スペーサの準備」及び「積層体の作製」は、実施例1と同じであったため、ここでは説明を省略する。
【0081】
図4に示すように、株式会社日本触媒製の「高分子ワックスST−100」を積層体の側端面の4箇所に塗布した。具体的には、温度を60℃〜76℃としたワックスを台所用スポンジに含ませて、当該スポンジを積層体の側端面の4箇所に数秒間押し当てることによって、ワックスを積層体に塗布した。このようにしてワックスが塗布された積層体を、12個準備した。12個の積層体を、それぞれ番号4−1−1〜4−1−12として、塗布されたワックスの重量を測定した。結果は、表7に示すとおりである。
【0082】
【表7】

【0083】
また、ワックスが塗布されていない点以外は番号4−1−1〜4−1−12の積層体と同じである、比較例としての積層体(番号4−2)も準備した。番号4−1−1〜4−1−12及び4−2の積層体を、以下の条件で焼成した。
【0084】
高分子ワックスで固定された積層体の上に、厚さ1.6mmのセラミック多孔体(重し)を、別途載置した。これを、150mm角のアルミナ製焼成セッターに載置し、連続脱脂炉を有する連続トンネル焼成炉で、最高温度1400℃で3時間保持して焼成した。
【0085】
焼成によって得られたシートについて、治具検査(寸法検査)及び目視による外観検査を行った。検査結果を表8に、外観検査の詳細結果を表9に、それぞれ示す。各項目の評価の基準は、実施例1と同じである。
【0086】
【表8】

【0087】
【表9】

【0088】
以上の結果から、本発明の製造方法のように、粘着テープ又はワックスを用いて積層体全体を固定することにより、電解質シートを製造する際の歩留が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のSOFC用の電解質シートの製造方法は、良質な電解質シートを歩留まり良く製造できるので、特に高価格材料からなる電解質シートの製造にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 積層体
2 粘着テープ
3 ワックス
11 グリーンシート
12 セラミック多孔質スペーサ
12a 最上層のセラミック多孔質スペーサ
12b 最下層のセラミック多孔質スペーサ
13 最上層のセラミック多孔質スペーサの上面
14 最下層のセラミック多孔質スペーサの下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)セラミックセッター上に、セラミック多孔質スペーサとセラミックシート用のグリーンシートとを、最下層及び最上層に前記セラミック多孔質スペーサが配置されるように交互に、且つ、前記グリーンシートの外縁が前記セラミック多孔質スペーサの外縁よりも0.5mm以上10.0mm以下の範囲で内側に位置するように積み重ねて、前記セラミック多孔質スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、
(II)前記積層体を構成している前記セラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で互いに接合することによって、前記積層体全体を固定する工程と、
(III)前記積層体の状態で前記グリーンシートを焼成する工程と、
を含む、セラミックシートの製造方法。
【請求項2】
前記工程(II)において、前記積層体を構成している前記セラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で、粘着テープを用いて互いに接合する、
請求項1に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項3】
前記工程(II)において、前記積層体を構成している前記セラミック多孔質スペーサを、当該スペーサの側端面の少なくとも一部で、ワックスを用いて互いに接合する、
請求項1に記載のセラミックシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−31981(P2013−31981A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170085(P2011−170085)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(391028052)共立エレックス株式会社 (15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】