説明

セラミックススプリング、及びその製造方法

【課題】直線状のスプリング軸を有しており、弾力性および機械強度に優れたセラミックススプリング、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】スプリング外径が0.01μm〜100μm、スプリングピッチが0.01μm〜10μm、スプリング長が1.0×10−5mm〜20mm、スプリング軸が直線状である螺旋形状を有し、かつ、破断強度が80MPa以上である一重又は二重のセラミックススプリングである。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、この発明は、セラミックススプリング、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル状の炭素材料であるカーボンコイルは、他の炭素材料に比べ、電磁波吸収特性、触覚・近接センサ特性、及び弾力性に優れていることが知られている。こうしたカーボンコイルの特性は、コイル形状という特異な形態に因るところが大きい。
このようなカーボンコイルとして、例えば、繊維直径が0.05〜5μmの実質的に非晶質な炭素からなる気相熱分解反応で得られたままでコイル状の繊維で、コイル外径が繊維直径の2〜10倍で、巻数が10μmあたりコイル外径(μm)の逆数の5〜50倍の範囲であるコイル状炭素繊維が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
カーボンコイルの巻き状態は、2本の炭素繊維が互いに巻き合いながら成長した二重のものと、炭素繊維1本が螺旋状に伸びた一重のものとがある。二重のカーボンコイルとしては、例えば特許文献2に記載されるものが挙げられ、一重のカーボンコイルとしては、例えば特許文献3に記載されるものが挙げられる。
図2に、特許文献2に記載される二重のカーボンコイルのX線回折スペクトル10と、特許文献3に記載される一重のカーボンコイルのX線回折スペクトル20を示す。図2からわかるように、両方とも非結晶質で、弾力性はあるが、脆い材質であり、破断強度が不十分である。一重のカーボンコイルの方が結晶性と導電性が高い。
【0004】
従来の二重カーボンコイルは電気抵抗があったため、カーボンコイルに吸収された電磁波エネルギーは誘導電流となり、ジュール熱を発生して最終的に熱エネルギーとして消費された。
また、導電性の向上ために、カーボンコイルは高温(特に2500℃以上)で熱処理するが、次第にグラファイト構造が発達してヘリングボーン(魚の骨状)構造を示し、グラファイト面は触媒粒子の各結晶面に平行に発達して、脆くなる傾向がある。
【0005】
そのため、より機械強度の大きいコイルや、機械強度が大きくさらに弾力性にも富むスプリングが求められており、種々のセラミックスコイルが検討されている。
例えば、カーボンコイルを鋳型として、その表面を化学気相蒸着法でセラミック被覆した中空セラミックスコイルが開示されている(例えば、特許文献4参照)。当該中空セラミックスコイルは、実質的にピッチがゼロであり、コイルを構成する繊維は中空のパイプ状である。また、予め用意したコイル状炭素繊維を原料とし、1200℃で気相メタライジング、ケイ化、ホウ化、炭化及び/又は酸化処理されたセラミックマイクロコイルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
さらに、特許文献6で記載されているさまざまなセラミックスコイルも、カーボンコイルを鋳型として、間接的にセラミックスコイルを製造する方法で製造されている。
【0006】
カーボンコイルを用いずに、セラミックスコイルを製造する方法としては、例えば、レジストを用いて基板上にパターニングした膜の上に、セラミックス膜を作製し、レジストを剥離することで、均一な厚さと幅を有するマイクロセラミックスコイルを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献7参照)。特許文献7に記載されたセラミックスコイルは、高温で形成した材料ではなく、特許文献7の図2に示されるように、繊維自体の断面形状が略矩形となるような平べったい幅のある繊維で構成される。従って、特許文献7に記載されたセラミックスコイルは、いわば電話コードのような螺旋構造の分子集合体であって、弾力性が低く、スプリングとしては機能し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2721557号
【特許文献2】特許第3817703号
【特許文献3】特開2006−83494号公報
【特許文献4】特許第3844564号
【特許文献5】特開10−140424号公報
【特許文献6】特開2004−91985号公報
【特許文献7】特開2009−147133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献4及び特許文献5に記載されるセラミックスコイルの製造方法は、複雑な二段プロセスであり、そのため生産コストが高くなるという欠点がある。特に、特許文献5に記載される製法では、メタライジングの反応が遅く、製造効率が低い。
また、特許文献4のセラミックスコイルは、コイル繊維が中空であるという性質上、破断強度が十分でない。特許文献5のセラミックスコイルについても、その製法ゆえか、破断強度は60MPa程度であり、機械強度が不十分である。さらにこれらのセラミックスコイルは弾力性が低くスプリングとしても機能し難いため、種々の応用に際してこれらの欠点か大きな障害となって、応用を展開しにくい。
【0009】
特許文献6に記載されたセラミックスの被覆層を有するコイルは、当該被覆層が剥がれ易いため、機械強度が低く、弾力性も不十分であるためにスプリング状繊維とは言いがたい。また、カーボンコイルにセラミックスの被覆層を形成した後、前記被覆層を残してカーボンコイルを取り除くことで、繊維の芯までセラミックス化した100%セラミックスコイルを製造することができるが、かかる製造工程は複雑で、生産効率上も好ましくない。
【0010】
特許文献7に記載されたセラミックスコイルは、特許文献7の図2に示されるように、セラミックスコイルの軸線が所々屈曲しているため、その用途は充填材等に限られ、応用の展開がし難い。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、直線状のスプリング軸を有しており、弾力性および機械強度に優れたセラミックススプリング、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> スプリング外径が0.01μm〜100μm、スプリングピッチが0.01μm〜10μm、スプリング長が1.0×10−5mm〜20mm、スプリング軸が直線状である螺旋形状を有し、かつ、破断強度が80MPa以上である一重又は二重のセラミックススプリングである。
【0013】
<2> 下記(1)及び下記(2)、下記(1)及び下記(3)、下記(2)及び下記(3)、または下記(1)、下記(2)、及び下記(3)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む前記<1>に記載のセラミックススプリングである。
(1)炭素
(2)ホウ素、窒素、及び酸素からなる群より選択される少なくとも1つ
(3)ケイ素、遷移金属、及び遷移金属を含有する合金からなる群より選択される少なくとも1つ
【0014】
<3> 前記化学組成を有する化合物は、TiN、Si、TiC、SiC、BC、ZrC、NbC、NbN、TaN、及び、TiBからなる群より選択されるいずれか1つである前記<2>に記載のセラミックススプリングである。
【0015】
<4> (I)遷移金属含有触媒が担持された基板を有する反応容器内で、(II)インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する触媒促進剤と、(III)炭素源ガスと、(IV)水素ガスと、(V)ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガスとを、前記(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度で混合することによりスプリング繊維を螺旋状に成長させるセラミックススプリングの製造方法である。
【0016】
<5> 前記(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度が、500℃〜950℃である前記<4>に記載のセラミックススプリングの製造方法である。
【0017】
<6> 前記(II)インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する触媒促進剤が、硫黄、チオフェン、硫化水素、三塩化リン、及び塩化スズからなる群より選択される少なくとも1つである前記<4>または前記<5>に記載のセラミックススプリングの製造方法である。
【0018】
<7> 前記(III)炭素源ガスが、炭化水素ガスである前記<4>〜前記<6>のいずれか1つに記載のセラミックススプリングの製造方法である。
【0019】
<8> 前記(V)ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガスが、四塩化チタンガス、四塩化珪素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、五塩化ニオブガス、五塩化タンタルガス、及び四塩化ジルコニウムガスからなる群より選択される少なくとも1つである前記<4>〜前記<7>のいずれか1つに記載のセラミックススプリングの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、直線状のスプリング軸を有しており、弾力性および機械強度に優れたセラミックススプリング、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1のTiC/CスプリングのSEM像である。
【図2】特許文献2及び3に記載される従来のカーボンスプリングのX線回折スペクトル、並びに実施例1及び4のセラミックススプリングのX線回折スペクトルである。
【図3】実施例2のTiC/CスプリングのSEM像である。
【図4】実施例5のTiCスプリングのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<セラミックススプリング>
本発明のセラミックススプリングは、スプリング外径が0.01μm〜100μm、スプリングピッチが0.01μm〜10μm、スプリング長が1.0×10−5mm〜20mm、スプリング軸が直線状である螺旋形状を有し、かつ、破断強度が80MPa以上である一重又は二重のセラミックススプリングである。
まず、本発明のセラミックススプリングの成分(化学組成)、形状、物性等について、詳細に説明する。
【0023】
〔成分〕
本発明のセラミックススプリングを構成する成分としては、例えば、金属の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物等の無機化合物が挙げられるが、炭化ホウ素や炭化窒素のように非金属であるホウ素や窒素の炭化物なども含まれる。
より具体的には、下記(1)及び下記(2)、下記(1)及び下記(3)、下記(2)及び下記(3)、または下記(1)、下記(2)、及び下記(3)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む成分であることが好ましい。
(1)炭素
(2)ホウ素、窒素、及び酸素からなる群より選択される少なくとも1つ
(3)ケイ素、遷移金属、及び遷移金属を含有する合金からなる群より選択される少なくとも1つ
【0024】
前記(1)及び前記(2)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む成分としては、例えば、炭化ホウ素(BC)、炭化窒素(NC)のほか、炭化ホウ素(BC)と炭素(C)との複合物(BC/C)等が挙げられる。
【0025】
前記(1)及び前記(3)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む成分としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ニオブ(NbC)のほか、炭化ケイ素(SiC)と炭素(C)との複合物(SiC/C)、炭化チタン(TiC)と炭素(C)との複合物(TiC/C)、炭化ニオブ(NbC)と炭素(C)との複合物(NbC/C)等が挙げられる。
なお、「遷移金属を含有する合金」としては、SiTi、TiNb、HfZr等が挙げられ、前記(1)及び「遷移金属を含有する合金」の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む成分としては、例えば、SiTi/C、TiNb/C、HfZr/C等が挙げられる。
【0026】
前記(2)及び前記(3)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む成分としては、例えば、窒化ケイ素(Si)、窒化チタン(TiN)、ホウ化チタン(TiB)、窒化チタン(TiN)と炭素(C)との複合物(TiN/C)等が挙げられる。
【0027】
前記(1)、前記(2)及び前記(3)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む成分としては、例えば、SiBC、TiNC、NbNC等と炭素(C)との複合物(SiBC/C、TiNC/C、NbNC/C)等が挙げられる。
【0028】
セラミックススプリングを構成する成分が、炭化物、窒化物等のセラミックス成分と炭素(C)との複合物であるとき、セラミックススプリング全質量中の炭素(C)の割合は、たとえば、スプリング弾力性と強度のバランスの観点から、50mol%〜90mol%であることが好ましい。
ここで、「セラミックス成分(例えば、TiC、TiN、SiC等)と炭素(C)との複合物」とは、セラミックス成分と炭素とを含む物質をいう。各元素の存在状態は必ずしも明確ではないが、セラミックス成分と炭素が完全に固溶・均一相となったもの、一部の成分が偏折したもの、あるいはすべての成分が独立分散したものなど、様々な構造になっていると考えられる。例えば、セラミックス成分と炭素との化合物である形態、セラミックス成分中に炭素が分散した形態、炭素中にセラミックス成分が分散した形態等が考えられる。
【0029】
上記の中でも、本発明のセラミックススプリングを構成する成分は、TiN、Si、TiC、SiC、BC、ZrC、TiB、NbN、及びNbC、並びにそれらと炭素(C)との複合物TiN/C、Si/C、TiC/C、SiC/C、BC/C、ZrC/C、TiB/C、NbN/C、及びNbC/Cが好ましい。
【0030】
〔形状〕
本発明のセラミックススプリングは、スプリング繊維が螺旋形状に伸びたバネ形状の繊維である。また、本発明のセラミックススプリングは、1本のスプリング繊維が単独で渦を巻いて伸びた一重のスプリングと、2本のスプリング繊維で構成される二重のスプリングとがある。二重のスプリングの形状は、2本のスプリング繊維が互いに巻き合いながら成長した、右巻きと左巻きのスプリングからなるものや、スプリング内に、該スプリングの内径より小さい外径を有するスプリングが成長した、右巻き同士または左巻き同士のスプリングからなるもの等がある。
中でも、本発明のセラミックススプリングは、用途が多様であり応用の展開が可能な、一重のスプリングであることが好ましい。
【0031】
本発明のセラミックススプリングは、スプリング外径(直径)が0.01μm〜100μmである。スプリング外径は、0.05μm〜50μmであることが好ましく、0.3μm〜20μmであることがより好ましい。
【0032】
本発明のセラミックススプリングは、スプリングピッチ、すなわち、ある一巻きのスプリング繊維と、隣接する他の一巻きのスプリング繊維との距離が0.01μm〜10μmである。スプリングピッチが前記範囲であることで、弾力性に富むスプリングとすることができる。スプリングピッチは、0.1μm〜5μmであることが好ましい。
【0033】
本発明のセラミックススプリングは、スプリング長が1.0×10−5mm(10nm)〜20mmである。スプリング長は、0.01mm〜3mmであることが好ましい。
【0034】
本発明のセラミックススプリングは、スプリング軸、すなわち、スプリングの長さ方向の中心線(軸線)が直線状である。
ここで、「直線状」とは、直線ないし曲率の小さい線形状をいい、スプリング軸上の1点もしくは複数点で折れ曲がるものではないことを意味する。スプリング軸が略直線状であることで、スプリングの長さ方向の破断強度が特に向上し、また、本発明のセラミックススプリングの用途が限定されず、応用の幅が広がる。
スプリング軸は直線であることが好ましい。
【0035】
セラミックススプリングの長さ方向と直行するスプリング繊維の断面の形状は、特に制限されないが、機械強度の観点から、円形状(円形ないし楕円形)であることが好ましく、特に円形であることが好ましい。
【0036】
本発明のセラミックススプリングは、スプリング繊維の前記断面形状が円形状である場合には、その直径が0.01μm〜10μmであることが好ましい。スプリング繊維の直径が前記範囲であることで、本発明のセラミックススプリングの機械強度を向上し、弾力性に富むスプリングとすることができる。スプリング繊維の直径は、0.05μm〜5μmであることがより好ましく、0.1μm〜2μmであることがさらに好ましい。
【0037】
上述のセラミックススプリングの各形状は、SEM〔走査型電子顕微鏡〕による写真(SEM像)を観察することにより確認することができる。図1は、スプリング成分がTiC/Cである本発明の一重のセラミックススプリング(後述する実施例1のTiC/Cスプリング)のSEM像である。
【0038】
〔物性〕
本発明のセラミックススプリングは、破断強度の大きなスプリングであり、破断強度は80MPa以上である。セラミックススプリングの機械強度は大きいほうが好ましく、具体的には120MPa以上が好ましい。
ここで、セラミックススプリングの破断強度とは、マニピュレータを用いて測定されるセラミックススプリングの引っ張り強度をいう。セラミックススプリングの破断強度は、より具体的には、例えば、マニピュレーター(微小移動装置)と電子天秤とを組み合わせて用い、電子天秤上に置いた重りにスプリングの一端を固定し、マニピュレータに固定した他端を引っ張り上げることで、スプリングが破断した時の荷重から測定することができる。
【0039】
セラミックススプリングの成分を金属窒化物とすることで、繊維成分が金属炭化物または金属酸化物であるセラミックススプリングよりも破断強度の強いセラミックススプリングとし易い。
前記剛性率は、セラミックススプリングの材質と用途にもよるが、50GPa以上であることが好ましい。
【0040】
ここで、前記剛性率は、スプリングの剛性率として、スプリングのスプリング定数から算出することができる。
前記剛性率と、スプリング定数とは、下記数式(i)で表される関係を有する。
【0041】
【数1】

【0042】
前記数式(i)におけるk、G、d、N、及びDは次のとおりである。
k:スプリング定数〔N/mm〕
G:剛性率〔MPa(=N/mm)〕
d:繊維の直径〔mm〕
N:スプリングの有効巻き数
D:スプリング外径〔mm〕
【0043】
前記数式(i)におけるスプリングの有効巻き数(N)は、下記数式(ii)により算出した値である。
【0044】
【数2】

【0045】
前記数式(ii)におけるLおよびPは次のとおりである。
L:スプリング長〔mm〕
P:スプリングピッチ〔mm〕
【0046】
スプリング定数は、前記マニピュレータによるスプリングの引っ張り測定より、重りの荷重と、スプリングが破断したときのスプリング長とから算出することができる(フックの法則)。得られたスプリング定数から、前記数式(i)を用いて剛性率が算出される。
【0047】
セラミックススプリングの伸び率は、セラミックススプリングの剛性率、材質、及び形状によって異なる。たとえば、セラミックススプリング構成成分中の非結晶質炭素の割合が多いセラミックススプリングは、非結晶質炭素の割合が少ないセラミックススプリングに比べ、伸び率が大きい(スプリングが伸び易い)。また、金属窒化物は、金属炭化物より強靭性が高いため、セラミックススプリングの構成成分が金属窒化物であるものは、構成成分が金属炭化物であるものに比べ、よく伸びる。本発明のセラミックススプリングの伸び率は少なくとも1.1以上(元の長さの1.1倍以上に伸びる)であり、直線まで伸びる(セラミックススプリングの繊維自体の長さまで伸びる)場合もある。
【0048】
ここで、伸び率とは、スプリングの一端を固定して、他端を引っ張ってスプリングの長さ方向に伸ばしたとき、「伸ばす前のスプリングの長さ」に対する「スプリングが伸びる最大の長さ方向の大きさ」の比率をいう。なお、「スプリングが伸びる最大の長さ方向の大きさ」とは、スプリングの前記他端を引っ張る力をなくした(離した)ときにスプリングが元の長さに戻る場合の長さをいう。
例えば、スプリング長が2であるスプリングの一端を固定し、他端を、例えばフックで引っ張り、当該他端をフックから離したときに、スプリング長が2に戻るスプリングの最大長が6である場合、「スプリングが伸びる最大の長さ方向の大きさ」は6であり、当該スプリングの伸び率は6/2=3である。
スプリングの伸び率は、前記マニピュレータを用いて測定することができる。
【0049】
本発明のセラミックススプリングの結晶性は、特に制限されないが、スプリングの導電性を向上する点から、結晶質であることが好ましい。スプリングの結晶性は、X線回折により調べることができ、例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(30kV、40mA)を用いてスプリングにX線を照射して得られるX線回折スペクトルから結晶性を判断することができる。
図2には、従来のカーボンコイル及び本発明のセラミックススプリングのX線回折スペクトルが示されている。図2において、X線回折スペクトルが表示されているグラフの縦軸は強度であり、横軸は2θ(X線回折角度の2倍)である。非晶質である従来の二重らせんカーボンコイルのスペクトル10、及び、非晶質である従来の一重らせんカーボンコイルのスペクトル20にはブロードな吸収がある。一方、結晶質である本発明のTiC/Cのセラミックススプリングのスペクトル30、及び、同じく結晶質である本発明のTiN/Cのセラミックススプリングのスペクトル40には、ブロードな吸収のほか、シャープな吸収がある。
【0050】
本発明のセラミックススプリングは、いずれも弾力性と機械強度(特に破断強度)に優れているが、繊維成分により更に他の優れた特性を有する。
例えば、炭化珪素(SiC)を含むセラミックススプリングは熱伝導性と絶縁性に優れる。
窒化珪素(SiN)を含むセラミックススプリングは、耐熱衝撃性(thermal shock resistance)、断熱性、及び絶縁性に優れる。
【0051】
炭化チタン(TiC)を含むセラミックススプリングは、金属光沢がある銀色で、高融点、高硬度であり、導電性に優れる。
窒化チタン(TiN)を含むセラミックススプリングは金属光沢がある金色で、高融点、高硬度と導電性に優れる。
【0052】
炭化ニオブ(NbC)を含むセラミックススプリングは高融点、高硬度である。
窒化ニオブ(NbN)を含むセラミックススプリングは、超伝導性に優れる。
【0053】
ホウ化チタン(TiB)を含むセラミックススプリングは、金属光沢があり、硬度性、及び導電性に優れる。
【0054】
次に、上記の形状、物性を有する本発明のセラミックススプリングの製造方法を詳細に説明する。
【0055】
<セラミックススプリングの製造方法>
本発明のセラミックススプリングの製造方法は、(I)遷移金属含有触媒が担持された基板を有する反応容器内で、(II)インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する触媒促進剤と、(III)炭素源ガスと、(IV)水素ガスと、(V)ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガスとを、前記(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度で混合する工程を有する。
【0056】
なお、「(II)インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する触媒促進剤」を、単に「(II)触媒促進剤」と称することがある。また、「(V)ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガス」を単に「(V)セラミックス原料ガス」と称することがある。
【0057】
本発明においては、前記(III)〜(V)に記載される各成分ガスを混合する前に、(V)セラミックス原料ガスの元となる難分解性のセラミックス原料を予備活性化分解する工程を有することが好ましい。なお、予備活性化分解処理については後述する。
【0058】
触媒を担持した基板を有する反応容器内で、(III)炭素源ガスと、(V)セラミックス原料ガスとを、通常の触媒活性化熱化学気相蒸着(CVD)法で混合することで、スプリング繊維を前記基板から析出させ、繊維を成長することは、これまでの製造方法によっても可能であった。しかしながら、これまでの製造方法では、弾力性の低いコイルとなり、スプリングを製造することができなかった。
【0059】
本発明においては、(I)遷移金属含有触媒及び(II)触媒促進剤の存在下、(III)〜(V)の各成分のガスを混合する温度を、(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度に制御し、さらに必要に応じてセラミックスになる難分解成分の予備活性化分解処理をすることで、スプリング繊維の成長を促進しつつ、触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる条件の両立を達成することができることがわかった。
さらには、かかる条件で(III)〜(V)の各成分のガスを混合することで、多機能をもつセラミックススプリングを一段プロセスで製造することができる。従って、従来の二段階の合成法より製造コストを著しく下げることができる。
【0060】
本発明のセラミックススプリングの製造方法により製造されるセラミックススプリングの成分は、セラミックス成分と炭素との複合物(例えば、TiN/C等)、または、炭素(C)を含まないセラミックス(例えば、TiC、TiN)である。
【0061】
セラミックススプリングの製造方法を上記構成とすることで、弾力性および機械強度に優れた本発明のセラミックススプリングを製造することができる。
これは、従来のカーボンコイルを出発原料として炭素を徐々にセラミックス成分に置換する方法と異なり、本発明では、(I)遷移金属含有触媒と(II)触媒促進剤と(III)〜(V)の各種成分とを(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度で混合することにより、反応初期から、基板からセラミックスと炭素との複合物を成長させることができるために、繊維中にセラミックス成分を均一に分散させることができることによると考えられる。
換言すると、カーボンコイルを鋳型として製造する従来のセラミックスコイルは、繊維内へのセラミックス成分の分散が後天的であるゆえ、繊維材質が非均一材質となり易い。一方、原料ガスの反応初期からセラミックスと炭素との複合物が析出する本発明は、セラミックス成分の繊維内への分散が先天的であるため、繊維材質が均一材質であり、繊維表面から繊維中心まで均一にセラミックス成分が分散していると考えられる。
【0062】
繊維中のセラミックス成分が均一に存在することで、量子効果に基づく電気抵抗の低減化を実現することができると考えられる。また、他成分の複合・ハイブリッド化に基づく結晶化の促進により、スプリングの強度向上を実現することができ、弾力性に富み、機械強度に優れると考えられる。
以下、前記(I)〜(V)の各成分と反応条件について説明する。
【0063】
〔(I)〜(V)の各成分〕
−(I)遷移金属含有触媒−
(I)遷移金属含有触媒は、遷移金属を含有することの他は特に制限はなく、触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせ易い触媒であることが好ましい。例えば、鉄、ニッケル、銅、コバルト、銀、白金等からなる触媒が挙げられる。(I)遷移金属含有触媒は、1種または2種以上の遷移金属を含む化合物でもよいし、1種または2種以上の遷移金属と、他の元素とを含む化学組成の触媒であってもよい。
【0064】
たとえば、1種または2種以上の遷移金属を含む化合物としては、ニッケル触媒(Ni触媒)、ニッケル−鉄触媒(Ni−Fe触媒)、コバルト−ニッケル触媒(Co−Ni触媒)等が挙げられる。
また、1種または2種以上の遷移金属と、他の元素とを含む化学組成の触媒としては、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、硫化物(例えば、WS)、金属有機(例えば、フェロセン)、有機酸塩などが挙げられる。
【0065】
(I)遷移金属含有触媒の製造方法について説明する。例えば、多種の遷移金属を含む複合遷移金属含有触媒を製造する場合は、各遷移金属の塩の溶液を混合し、乾燥し、さらに還元することにより製造することができる。例えば、CoとNiのモル比(Co:Ni)が6:4であるCo−Ni触媒は、硝酸ニッケル溶液と硝酸鉄溶液とアルミナ溶液とを混合し、乾燥し、水素で還元することにより製造することができる。
セラミックススプリングの製造において、担持体を使用する場合には、最初から、遷移金属の塩の溶液と触媒の担持体(例えば、Al、シリカ、モレキュラーシーブ等)とを混合する。
【0066】
(I)遷移金属含有触媒の形態は、特に制限されず、粉末、金属板、粉末の焼結板のいずれでもよく、粉末として用いる場合には、粉末の平均粒径は50nm〜5μmであることが好ましい。さらに、ペースト状の(I)遷移金属含有触媒や、液体状の(I)遷移金属含有触媒(例えば、遷移金属塩溶液)も用いることができ、その場合、ペースト又は遷移金属塩溶液は、直接基板の上に塗って用いる。
【0067】
−(II)触媒促進剤−
(II)触媒促進剤は、インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する成分であり、ガス、粉末、溶液、ペースト等として用いることができる。
(II)触媒促進剤とは、セラミックススプリングの製造において、(I)遷移金属含有触媒と共に用いることで、螺旋構造のスプリング繊維の成長(析出)を促進させる物質をいう。
【0068】
(II)触媒促進剤は、より具体的には、次のものが挙げられる。
硫黄を含む化合物としては、硫黄、チオフェン、メチルメルカプタン、硫化水素等が挙げられる。
リンを含む化合物としては、リン、三塩化リン等が挙げられる。
インジウム、又はスズを含む化合物としては、銅、インジウム、スズ等の金属単体、Co(NO、Cr(NO等の硝酸化物、SnCl等の塩化物等が挙げられる。
【0069】
(II)触媒促進剤は、上記の中でも、セラミックススプリングの収量を高くし、セラミックススプリングの形状を均一にし易いとの観点から、硫黄(S)を含む化合物、スズ(Sn)を含む化合物、及びインジウム(In)を含む化合物であることが好ましい。
【0070】
(II)触媒促進剤の用い方には特に制限されないが、(II)触媒促進剤の効果を効率よく発現するためには、(II)触媒促進剤の形態(固体、気体、及び液体)に応じて、次のように用いることが好ましい。
(II)触媒促進剤が固体である場合には、(I)遷移金属含有触媒の原料と混合して用いることが好ましい。
(II)触媒促進剤が気体である場合には、(III)炭素源ガスと一緒に反応容器内に導入することが好ましい。
(II)触媒促進剤が液体である場合には、水素ガスをキャリアーガスとして反応容器内に一緒に導入することが好ましい。
【0071】
(II)触媒促進剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0072】
(II)触媒促進剤が固体である場合、(I)遷移金属含有触媒と(II)触媒促進剤との量比(質量基準)は、用いる(I)遷移金属含有触媒および(II)触媒促進剤の種類により異なるが、最適化合成の観点から、「(I)遷移金属含有触媒」/「(II)触媒促進剤」を100/1〜100/30として、反応容器内に一回投与することが好ましい。
(II)触媒促進剤を気体として導入する場合には、(II)触媒促進剤の濃度は、(II)触媒促進剤と(III)炭素源ガスとの総量に対して5mol%以下であることが好ましい。
【0073】
−(III)炭素源ガス
(III)炭素源ガスとしては、炭化水素ガス、一酸化炭素ガス等が挙げられる。炭化水素は、エチレン、アセチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素であっても、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素であってもよいが、ガスとして用いることから分子量の小さい(例えばMw60以下)炭化水素が好ましく、炭素数が5以下のアセチレン、メタン、プロパン等が好ましい。
上記の中でも、(I)遷移金属含有触媒および(II)触媒促進剤の作用の点から、炭化水素ガスが好ましく、アセチレンが最も好ましい。
(III)炭素源ガスは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
−(IV)水素ガス−
本発明のセラミックススプリングの製造方法では、(III)炭素源ガスと、(V)セラミックス原料ガスと共に、(IV)水素ガスを用いる。
【0075】
−(V)セラミックス原料ガス−
(V)セラミックス原料ガスは、ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガスであり、(III)炭素源ガスと共に反応容器内に導入されることによりスプリング繊維を構成する成分の原料となるガスである。なお、(V)セラミックス原料ガスには、液体または固体のセラミックス原料が水素ガス等の気体中に分散された、いわゆるエアロゾル(aerosol)が含まれる。
【0076】
ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する成分(セラミックス原料)が、難分解性である場合には、当該セラミックス原料を後述する予備活性化分解処理により活性化して用いることが好ましい。
【0077】
ホウ素含有成分としては、例えば、三塩化ホウ素、ボラン、ジボラン、ボラジン、トリクロロボラジン等が使用される。
窒素含有成分としては、例えば、窒素ガス、アンモニア、ヒドラジン等が使用される。
ケイ素含有成分としては、例えば、四塩化ケイ素、六塩化二ケイ素、シラン、ジシラン等が使用される。
【0078】
遷移金属含有成分としては、チタン含有成分、ジルコニウム含有成分、ニオブ含有成分、クロム含有成分、タンタル含有成分、コバルト含有成分等が挙げられる。具体的には次のような成分が挙げられる。
チタン(Ti)含有成分としては、例えば、四塩化チタン(TiCl)が挙げられ、ジルコニウム(Zr)含有成分としては、例えば、四塩化ジルコニウム(ZrCl)が挙げられ、ニオブ(Nb)含有成分としては、例えば、五塩化ニオブ(NbCl)が挙げられる。また、タンタル(Ta)含有成分として、五塩化タンタル(TaCl)を用いてもよい。
【0079】
セラミックス原料が液状である場合及び溶液として用いる場合には、セラミックス原料をガラス飽和器の中に入れて、キャリアーガスの水素ガスと共に反応容器に導入する。このときのセラミックス原料の流量(Fs)は、水素ガスの流量(Fc)に依存し、下記数式(iii)より算出される量とすることが好ましい。
【0080】
【数3】

【0081】
数式(iii)中、Pは温度T〔℃〕における飽和蒸気圧〔mmHg〕である。なお、1mmHgは、133.322〔Pa〕である。飽和蒸気圧Pと温度Tとの関係は、下記数式(iv)により表される。
【0082】
【数4】

【0083】
(V)セラミックス原料ガスは、目的とするセラミックススプリングの成分に応じて1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
(III)炭素源ガスと、(V)セラミックス原料ガスとの量比は、目的とするセラミックススプリングの形状や物性により異なる。
たとえば、TiC/Cスプリングを部品等に応用する場合、耐火性と耐熱性は不要で、弾力性が要求される。このとき、TiC/Cスプリングの弾力性を高めるには、反応容器に導入する(III)炭素源ガスの割合を上げることが好ましい。TiC/C等のセラミックス/炭素(C)の複合物は、炭素(C)の割合が多いとき、スプリングの弾力性が増すからである。TiC/Cスプリングが耐火性と耐熱性も要求される場合には、炭素源ガスの割合を低くする。
【0085】
−不活性ガス−
酸素ガスのようにコイル成長に有害な影響を及ぼす不純物ガスが反応系に混入されるのを防止するために、反応系の物質と反応しない希ガス等の不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を用いることが好ましい。また、反応容器内に導入する(IV)水素ガスの割合を多くすることで不純物ガスの混入を防止することもできる。
不活性ガスは、前記(III)〜(V)の各成分ガスを混合する前に、反応容器内に充満させておくことが好ましい。
【0086】
−基板、容器−
(I)遷移金属含有触媒を担持して、セラミックススプリングを析出させる基板は、特に制限されないが、(I)〜(V)の各成分と反応してセラミックススプリング以外の化合物を生成しない物質であることが好ましい。例えば、ニッケル基板や、ステンレススチール、グラファイト基板等を用いることができる。
【0087】
また、前記基板を有し、(II)触媒促進剤と(III)〜(V)の各成分ガスを混合する反応容器も、特に制限されないが、各種成分のガスや液体等の導入を制御可能な、開閉弁を有する密閉可能な容器であることが好ましく、一般に、ガラスまたは石英の容器を用いる。
【0088】
〔反応条件〕
本発明のセラミックススプリングの製造方法は、既述の(I)遷移金属含有触媒が担持された基板を有する反応容器内で、(II)触媒促進剤と、(III)炭素源ガスと、(IV)水素ガスと、(V)セラミックス原料ガスとを、前記(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度で混合する。
(I)遷移金属含有触媒が担持された基板から、セラミックス/炭素(C)の複合物が析出するとき、当該複合物は、(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面における触媒活性の異方性応じて、合成速度が異なっているため、繊維内部に応力が生じ、繊維が螺旋状に成長することにより、スプリングになると考えられる。
【0089】
従って、セラミックススプリングの寸法(スプリング外径、ピッチ、長さ、繊維の直径等)や、物性(機械―電気特性、強度等)は、(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性の異方性に依存していると考えられる。
(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性の異方性は、(III)〜(V)の各成分の反応温度環境に大きく影響するが、他の反応条件〔(I)遷移金属含有触媒の種類や粒径、(II)触媒促進剤の種類、(III)〜(V)の各成分ガスのガス流量、予備活性分解処理におけるプラズマパワー等〕によっても制御することが可能である。
【0090】
ここで、「(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度」は、用いる(I)遷移金属含有触媒、(II)触媒促進剤、およびセラミックス原料の種類、ならびに、それらの活性やエネルギーの状態により異なるが、通常、500℃〜950℃であり、700℃〜850℃である場合が多い。
セラミックス原料について予備活性化分解処理をする場合には、より低温で触媒活性に異方性をもたせることができる。(I)遷移金属含有触媒が合金触媒である場合や、セラミックス原料について予備活性化分解処理をしない場合に、反応系を1000℃以上として触媒活性に異方性をもたせることがある。
【0091】
具体的には、例えば、下記の成分の組合せ、および下記の反応条件の場合には、次に示す温度が、その反応系で得られるセラミックススプリングを製造する場合の「(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度」である。
【0092】
Arガスの雰囲気中、(I)遷移金属含有触媒としてNi−Fe触媒を用い、(II)触媒促進剤としてSnCl(20mol%)と硫化水素ガス(総ガス流量では1.0体積%以下)を用い、セラミックス原料として820℃、4.2×10Paの減圧環境で、マイクロ波プラズマ(Arプラズマ)で予備活性化分解処理したTiClを用いた場合、かかる反応系で、Ni−Fe触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度は、約730℃である。
【0093】
(I)遷移金属含有触媒としてアルミナ(Al)に担持されたNi触媒を用い、(II)触媒促進剤としてチオフェンと、SnCl(20mol%)と、硫化水素ガス(総ガス流量では1.0体積%以下)を用い、セラミックス原料として820℃、4.2×10Paの減圧環境で、マイクロ波プラズマで予備活性化分解処理したTiClを用いた場合に、かかる反応系で、Ni触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度は、780℃である。
【0094】
窒素の雰囲気中で、(I)遷移金属含有触媒としてPdCl触媒を用い、(II)触媒促進剤としてPCl(3mL/分)を用い、タングステン(フィラメント)で予備活性化分解処理したセラミックス原料TiClを用いた場合に、かかる反応系で、PdCl触媒の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度は、約950℃である
【0095】
窒素の雰囲気中で、(I)遷移金属含有触媒としてWS触媒を用い、(II)触媒促進剤としてPCl(3mL/分)を用い、タングステン(フィラメント)で予備活性化分解処理したセラミックス原料TiClを用いた場合に、かかる反応系で、PdCl触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度は、約750℃である
【0096】
窒素の雰囲気中で、(I)遷移金属含有触媒としてPd-Ni触媒を用い、(II)触媒促進剤としてPClを用い、セラミックス原料として予備活性化分解処理をしていないTiClを用いた場合に、かかる反応系で、Pd-Ni触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度は、約950℃である。
【0097】
セラミックス原料が難分解性である場合には、後述の予備活性化分解処理を、前記反応容器とは異なる活性化容器で行う。つまり、セラミックス原料を、(IV)水素ガスをキャリアーガスとして活性化容器中に導入し、活性化容器中で予備活性化分解処理し、飽和蒸気等の(V)セラミックス原料ガスを、活性化容器から反応容器に導入すればよい。
反応時間は、(II)〜(V)の全ての成分が容器内で混ざり合ったときを、反応開始の基準として測定し、例えば、0.5時間〜7時間反応させる。例えば、(II)、(III)、(IV)及び(V)の各成分ガスをこの順で導入する場合、(V)の成分のガスを導入開始したときを反応開始の基準とする。反応終了の判断は、製造されたセラミックススプリングについてX線回折測定し、セラミックス成分と炭素(C)の割合を確認することにより行なうことができる。
【0098】
セラミックススプリング外径は、(I)遷移金属含有触媒粒子の粒径を調整することにより制御することができる。例えば、(I)遷移金属含有触媒粒子の粒径を小さくすると、セラミックススプリング径を小さくすることができる。
また、触媒を担持する担持体の形状に依存することもあり、モレキュラーシーブのような一定の細孔を有する担持体の細孔中に、触媒粒子を分散することで、外径が100nm以下のセラミックススプリングを得ることもできる。
【0099】
セラミックススプリングピッチの制御は、セラミックススプリングの製造に用いる(I)遷移金属含有触媒と(II)触媒促進剤の種類や量によって異なるが、(IV)水素ガスの濃度調整により行なうことができる。
なお、(III)炭素源ガスと、(IV)水素ガスと、(V)セラミックス原料ガスとの合計流量に対する(IV)水素ガスの流量の割合が減少すると、基板から成長するスプリングの形状が不規則になることがある。また(IV)水素ガスの流量の割合が増大すると、一本のスプリングの中に、多種の外径でスプリング同士が巻き合う不均一なスプリングが成長することがある。
【0100】
セラミックススプリングの長さは、反応時間に依存し、反応時間が長いほど、得られるセラミックススプリングは長くなる。
セラミックススプリングの成長速度は、一重のスプリングと二重のスプリングとで異なり、二重のスプリングは、一重のスプリングに比べ、成長速度が大きく、概ね1mm〜2mm/時間である。一方、一重のスプリングの成長速度は、概ね300μm/時間である。
【0101】
セラミックススプリングの巻き状態は、触媒の種類により制御することができる。(I)遷移金属含有触媒として、鉄含有触媒(例えば、Ni−Fe触媒)を用いると、一重のセラミックススプリングを製造し易い。触媒中の鉄の含有割合が多いほど、セラミックススプリングの巻き状態は一重になりやすく、鉄を含まない、例えば、ニッケル触媒を用いると、二重のセラミックススプリングが製造される。触媒中の鉄の含有割合が少ないほど、二重のセラミックススプリングを製造し易い。
【0102】
−予備活性化分解処理−
本発明のセラミックススプリングの製造方法は、(III)〜(V)の各成分ガスを混合する前に、(V)セラミックス原料ガスの元となる難分解性のセラミックス原料を予備活性化分解する工程を有することが好ましい。
予備活性化分解処理は、難分解性のセラミックス原料に、熱やプラズマ等のエネルギーを付与して予め分解し、セラミックス原料の反応活性を向上させる処理である。
【0103】
予備活性化分解処理は、熱分解法、フィラメント法(フィラメント法を使用する場合は、予備活性化分解処理をする活性化容器と、(I)〜(V)の各成分を反応させる反応容器とを分けずに、一つの縦型反応管内で行うこともある)、プラズマ法等により行なうことができる。ここでは、予備活性化分解処理として好ましい方法の1つであるプラズマ法を例に、具体的に説明する。なお、プラズマ法による予備活性化分解処理は、下記方法に限られるものではない。
【0104】
まず、活性化容器の内部を真空にして窒素ガスで置換した後、減圧状態(通常、10Pa〜10Pa)で、活性化容器の中にセラミックス原料と水素ガスとアルゴンガスと一緒に導入する。水素ガスはキャリアーガスとして、アルゴンガスと共に活性化容器中に導入する。さらに、活性化容器中のプラズマ領域に放電し、プラズマ予備処理を行い、セラミックス原料を活性化分解する。プラズマの発生エネルギーは、例えば、2.45GHz、500Wの電磁波を、減圧状態の混合ガスに対して照射することにより、プラズマ予備処理を行なう。
【0105】
一般に、水素ガスの流量が100mL/分のとき、セラミックス原料(例えば四塩化チタン)の流量は10mL/分である。
【0106】
上述のように、本発明のセラミックススプリングの製造方法において、(I)〜(V)の各成分の反応条件を制御することにより0.001Ω・cm〜1Ω・cmの電気抵抗を持つ種々のセラミックススプリングを製造することができる。従来の製造方法で得られるカーボンコイルのバルク抵抗率は、0.1Ωcm〜10Ωcm(コイル外径約5μm、コイル繊維直径約0.75μm、コイル長さ約2mmの場合)であるため、本発明のセラミックスプリングは、従来のカーボンコイルと比べて、電磁波を熱エネルギーに変換するエネルギー変換効率に優れており、さらにマイクロデバイスへの応用にも優れている。
また、セラミックススプリングを構成する成分の結晶性はカーボンコイルより高く、機械強度はカーボンコイルより高い。
【0107】
本発明のセラミックススプリングは、上述のように、電気抵抗が低く、弾力性に冨み、機械強度が高いため、種々の電子製品に用いることができる。より具体的には、マイロサイズまたはナノサイズの、スプリング、デバイス素子、メカニカル素子、エレクトロニクス素子、MEMS(Micro−Electro−Mechanical Systems)、スイッチング素子、センサ、フィルタ、電磁波吸収材、三次元強化複合材等に応用することができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
<反応容器>
石英の管により連結された活性化容器(A)と反応容器(B)とを用いた。活性化容器(A)内および反応容器(B)内の減圧には、反応容器(B)に連結した真空ポンプを用いて行なった。
(IV)水素ガスは、活性化容器(A)若しくは反応容器(B)、又は活性化容器(A)と反応容器(B)の両方に導入した。(V)セラミックス原料ガスは活性化容器(A)を介して反応容器(B)に導入し、(I)遷移金属含有触媒、(II)触媒促進剤、(III)炭素源ガスは、反応容器(B)に直接導入した。
【0110】
<スプリングの物性値測定>
実施例1〜6により製造したスプリング及び比較例1〜4により製造したスプリングの形状および物性値は、下記の方法により測定した。なお、形状及び物性値について、下記表1において「(平均値)」と示されている数値は、実施例1〜6及び比較例1〜4により製造したスプリングそれぞれ5個についての測定値である。
【0111】
1.形状測定(外径、長さ、ピッチ)および外観
スプリングの外径、長さ、ピッチ、及び繊維の直径は、製造したスプリングについてSEMの写真により測定した。
また、スプリングの表面外観(光沢度、軸線)は目視観察により行なった。
【0112】
2.繊維の化学組成と、セラミックス成分の含有量
スプリングを構成する繊維の化学組成は、株式会社リガク製のX線回折装置(30kV、40mA)により得られたスペクトルから判断した。繊維が非晶質の炭素を含むときは、ブロードの吸収があり、結晶質のセラミックス成分を含むときは、シャープな吸収がある。
また、繊維中のセラミックス成分の含有率は、EPMA分析(堀場製作所社製HORIBA−6853)から算出した。
【0113】
3.単線コイル抵抗
スプリングの単線コイル抵抗は、株式会社アドバンテスト製の自動抵抗測定器R6450およびAgilent Technologies社製のImpedance Analyzer4294Aを用いて、測定周波数10kHz、印加電圧0.5Vで測定した。
【0114】
4.スプリング定数、剛性率、伸び率、及び破断強度
スプリングの伸び率、及び破断強度は、電子天秤とマニピュレータ(微小移動装置)とを用いて測定し、スプリング定数は、伸び率から算出した。また、剛性率は、算出されたスプリング定数と、SEM像観察により測定されたスプリングの寸法から、前記数式(i)を用いて算出した。
【0115】
具体的には、電子天秤上に重りを載せ、スプリング及びコイルの長さ方向の一端を当該重りに固定し、他端をマニピュレータに固定して、電子天秤の目盛りをゼロに設定した。その後、マニピュレータによりスプリング及びコイルを長さ方向にゆっくりと引っ張り上げ、スプリング及びコイルが破断したときの荷重(絶対値)を、破断強度とし、そのときのスプリング及びコイルの長さ(最大長さという)に基づいて伸び率を測定した。また、重りの質量(F)及び前記最大長さ(z)から、フックの法則(F=k×z)により、スプリング定数(k)を算出した。
【0116】
〔実施例1〕
−一重のTiC/Cスプリングの製造−
反応容器(B)中のグラファイト基板上に、アルミナ(Al)に担持したNi−Fe触媒(硝酸ニッケル含有率30mol%、硝酸鉄50mol%)とSnCl(触媒促進剤20mol%)のエタノール溶液を塗布した後、乾燥し、反応容器(B)内部をアルゴン(Ar)ガスで置換してから、730℃まで昇温させ、その温度に保った。
活性化容器(A)の内部を、Arガスで置換してから、820℃に昇温し、その温度に保った。その後、Arガス100mL/分を導入すると共に、水素ガス100mL/分をキャリアーとしてTiClを導入した。次いで、活性化容器(A)内を、820℃に保ち、4.2×10Paの減圧環境で、2.45GHz、500Wの電磁波を、Arガス、TiClガス、及び水素ガスに照射してプラズマを発生させ、TiClを活性化分解させた。
【0117】
TiClを活性化分解し、730℃の反応容器(B)に導入すると同時に、TiClガス10mL/分と、硫化水素ガス(触媒促進剤、総ガス流量では1.0体積%以下にした。)と水素ガスとの混合ガス100mL/分(アセチレンガス流量60mL/分に対して、水素ガスは120〜200mL/とした)と、を反応容器(B)内に導入し、これらのガスと、活性化容器(A)から導入していた活性化気体成分(TiClガス)、触媒、及び触媒促進剤とを作用させた。
そうすると、730℃反応容器(B)内で、続けて炭化チタン(TiC)と炭素(C)との複合物(TiC/C)が析出し、螺旋状に成長した。2時間以上反応させてTiC/Cのセラミックススプリングを得た。
【0118】
実施例1のセラミックススプリングの軸線はほぼ直線状であり、また、その結晶性は、図2のX線回折スペクトル30に示すように、非晶質炭素の相を示す幅広いピークと共に、結晶質の炭化チタン(TiC)相の存在を示す鋭いピークが観察された。
実施例1のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0119】
〔実施例2〕
−二重のTiC/Cスプリングの製造−
実施例1のセラミックススプリングの製造工程において、反応容器(B)中のグラファイト基板上に塗布した触媒と触媒促進剤について、アルミナ(Al)に担持したNi−Fe触媒とSnCl(触媒促進剤)を、アルミナ(Al)に担持したNi触媒(粒径200nm)0.5gとチオフェン(触媒促進剤;チオフェンの流量はガス総流量の1.2体積%以下とした。)に変更し、反応容器(B)の温度を780℃、アセチレンの流量を30mL/分に減らした他は同様にして、スプリング径とピッチの大きいTiC/Cのセラミックススプリングを製造した。
【0120】
ここで、チオフェンの流量(Fs)は、既述の式(iii)と式(iv)とを用い、次式により算出した。
・Log P=6.95926−{1246.02/(T+221.35)}
(Tは反応容器(B)内の温度〔℃〕、Pはチオフェンの飽和蒸気圧〔mmHg〕である。なお、1mmHgは、133.322〔Pa〕である。)
・Fs=Fc・P/(760−P)
(Fcはキャリアーガスである水素ガスの流量〔mL/分〕である)
【0121】
実施例2で得られたTiC/Cのセラミックススプリングの結晶性は、X線回折により確認され、非晶質である炭素(C)のブロードな吸収と、結晶質であるTiCのシャープな吸収とが確認された。
実施例2のセラミックススプリングの軸線は、ほぼ直線状であった。
実施例2のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0122】
〔実施例3〕
−一重のTiN/Cスプリングの製造−
活性化容器(A)にタングステン(フィラメント径:0.5mm、コイル径:1cm、コイル長:12cm)を配置した。
反応容器(B)中のグラファイト基板上に、PdCl触媒0.2molを塗布し、活性化容器(A)と反応容器(B)の内部をArガスで充満させ950℃まで昇温させた。5分後、フィラメントが少し光る程度に(約10A)電流を流してタングステンの温度を上げた(タングステン温度:約1500℃)。その後、活性化容器(A)に、キャリアーとして水素ガス100mL/分を用いてTiClを導入し、TiClを活性化分解させた。
【0123】
活性化分解したTiClを反応容器(B)に導入すると同時に、アセチレンガス80mL/分と、窒素ガス50mL/分と、PCl(3mL/分)とそのキャリアーガス水素ガスとを、反応容器(B)内に導入し、これらのガスと、活性化容器(A)から導入していた活性化気体成分、触媒、及び触媒促進剤とを作用させた。
その後、950℃の反応容器(B)内で、窒化チタン(TiN)と炭素(C)との複合物(TiN/C)が析出し、螺旋状に成長した。3時間以上反応させて、TiN/Cのセラミックススプリングを得た。
【0124】
実施例3で得られたTiN/Cのセラミックススプリング3の結晶性は、X線回折により確認され、非晶質である炭素(C)のブロードな吸収と、結晶質であるTiNのシャープな吸収とが確認された。
実施例3のセラミックススプリングの軸線はほぼ直線状であった。
実施例3のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0125】
〔実施例4〕
−二重のTiN/Cスプリングの製造−
実施例1のセラミックススプリングの製造工程において、反応容器(B)中のグラファイト基板上に塗布した触媒と触媒促進剤について、アルミナ(Al)に担持したNi−Fe触媒とSnCl(触媒促進剤)を、アルミナ(Al)に担持したNi触媒(粒径200nm)0.5gとチオフェン(触媒促進剤、チオフェンの流量はガス総流量の1.2体積%以下とした。)に変更し、またArを窒素ガスに変更して、反応容器(B)内の温度を780℃にした他は同様にして、TiN/Cのセラミックススプリングを得た。
【0126】
実施例4で得られたTiN/Cのセラミックススプリングの結晶性は、X線回折により確認され、図2のX線回折スペクトル40に示されるように、非晶質である炭素(C)のブロードな吸収と、結晶質であるTiNのシャープな吸収とが確認された。
実施例4のセラミックススプリングの表面は金色の金属光沢があり、軸線はほぼ直線状であった。
実施例4のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0127】
〔実施例5〕
−一重のTiCスプリングの製造−
反応容器(B)中のグラファイト基板上に、0.2gWS粉末(市販)を塗布し、内部をアルゴン(Ar)ガスで置換してから、750℃まで昇温させ、その温度に保った。
活性化容器(A)の内部を、Arガスで置換してから、900℃に昇温し、その温度に保った。
活性化容器(A)にタングステン(フィラメント径:0.5mm、コイル径:1cm、コイル長:12cm)を配置した。5分後、フィラメントが少し光る程度に(約10A)電流を流してタングステンの温度を上げた(タングステン温度:約1500℃)。その後、キャリアーとして水素ガス100mL/分を用い、TiClを導入し、TiClを活性化分解させた。
【0128】
キャリアーガス水素ガスと共に10mL/分の活性化分解したTiClを反応容器(B)に導入すると同時に、アセチレンガス(流量60mL/分)を反応容器(B)内に導入した。このようにして、活性化容器((A)から導入していた活性化気体成分(活性化分解したTiCl)、アセチレンガス、触媒、及び触媒促進剤を作用させた。
2時間以上反応させてから、炭化チタン(TiC)と炭素(C)との複合物(TiC/C)のスプリングが析出し、アセチレンガスの導入を停止することによりファイバーの成長を止めた(TiClガス等の他のガスの導入は中断せず継続した)。アセチレンガスの導入停止によりスプリングの成長は止まった。アセチレンガスの導入停止後、1時間で、ファイバー中の残留炭素と活性化分解したTiClとが反応し、TiCが生成した(ファイバー中の残留炭素が全てTiCとなった)。最後に加熱を停止させ、TiCのセラミックススプリングを得た。
【0129】
実施例5のTiCセラミックススプリングの結晶性は、結晶質の炭化チタン(TiC)相の存在を示す鋭いピークが観察された。
実施例5のセラミックススプリングの表面は金属光沢があり、軸線はほぼ直線状であった。
実施例5のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0130】
〔実施例6〕
−一重のTiN スプリングの製造−
反応容器(B)中のグラファイト基板上に、0.05molのPdClと0.01molのNiClを塗布し、反応容器(B)内部をArガスで充満させ1050℃まで昇温させた。
その後、キャリアーとして水素ガスとPCl2mL/分を用い、当該水素ガスによりTiCl(10mL/分)、アセチレンガス(10mL/分)と、窒素ガス(100mL/分)とを反応容器(B)内に導入し、3時間で窒化チタン(TiN)スプリングを得た。
【0131】
実施例6で得られたTiNのセラミックススプリングの結晶性は、X線回折により確認され、結晶質であるTiNのシャープな吸収が確認された。
実施例6のセラミックススプリングの表面は金属光沢があり、軸線はほぼ直線状であった。実施例6のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0132】
〔比較例1〕
反応容器(C)内に、Niパウダー触媒を塗布したグラファイト基板をセットし、反応ガスとして、チオフェン不純物を1.51mol%含むアセチレンを30cc/分、水素を70cc/分、アルゴンを40cc/分で流し、常圧下、750℃で1時間反応を行なった。得られたカーボンスプリングは、ほとんどが二本のスプリング繊維が互いに巻き合いながら成長した二重スプリングであった。
比較例1のカーボンスプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0133】
〔比較例2〕
比較例1のカーボンスプリングの製造において、Ni触媒の代わりに、Ni−Fe(30mol%)―SnCl(10mol%)触媒を用い、650℃で合成し、一重のカーボンスプリングを得た。
比較例2のカーボンスプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0134】
〔比較例3〕
ワイヤーギャプがない(つまりスプリングピッチとスプリング繊維との直径が等しい)カーボンスプリング1と、石英基板を有する反応容器(D)を用意した。
カーボンスプリング1(50mg)を石英基板上に載せ、反応容器(D)内の酸素を取り除くため、減圧して空気を排気し、アルゴンガスで充填した。次いで、反応容器(D)内に100mL/分のアルゴンガスを導入しながら、反応温度である1100℃まで昇温させた。当該反応温度に達した後、アルゴンガスを停止し、100mL/分の水素ガスをキャリアーとして10mL/分の四塩化チタンガスを導入した。
なお、反応開始の基準は、反応容器(D)内に四塩化チタンガスを導入し始めた時点とし、四塩化チタンガスの導入を停止した時点を反応終了とした。
【0135】
四塩化チタンガスを停止することにより、反応を終了させ、次いで、100mL/分のアルゴンガスを反応容器(D)内に導入しながら冷却した。反応容器(D)内の温度が200℃以下になったらアルゴンガスを停止し、TiC/Cのスプリングを得た。
比較例3のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0136】
〔比較例4〕
ワイヤーギャプがない(つまりスプリングピッチとスプリング繊維との直径が等しい)カーボンスプリング1と、石英基板を有する反応容器(D)を用意した。
カーボンスプリング1(50mg)を石英基板上に載せ、反応容器(D)内の酸素を取り除くため、減圧して空気を排気し、窒素で充填した。反応温度である1100℃まで昇温させた。次いで、100mL/分の窒素を導入しながら、当該反応温度に達した後、100mL/分の水素ガスをキャリアーとして10mL/分の四塩化チタンガスを導入した。
なお、反応開始の基準は、反応容器(D)内に四塩化チタンガスを導入し始めた時点とし、四塩化チタンガスの導入を停止した時点を反応終了とした。
【0137】
四塩化チタンガスを停止することにより、反応を終了させ、次いで、100mL/分のアルゴンガスを反応容器(D)内に導入しながら冷却した。反応容器(D)内の温度が200℃以下になったらアルゴンガスを停止し、TiN/Cのスプリングを得た。
比較例4のセラミックススプリングの構成および物性を、下記表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
表1からわかるように、繊維材質が炭素である比較例1と比較例2のカーボンスプリングは、破断強度が小さかった。繊維材質がセラミックスである比較例3と比較例4のセラミックススプリングは、比較例1と比較例2のカーボンスプリングと比べると大きな破断強度となった。しかし、1000℃を超える高温の合成反応温度にしたにも関わらず、本発明のセラミックススプリング(実施例1〜6)のような80MPaを超える破断強度は発現しなかった。これは、比較例3及び比較例4のセラミックススプリングは、セラミックス成分であるTiC及びTiNが、炭素(C)の中に均一に分散していないためと考えられる。
【0140】
また、実施例1、実施例2、及び実施例5の各スプリングのSEM〔走査型電子顕微鏡〕による写真(SEM像)を、それぞれ、図1、図3、及び図4に示す。
【符号の説明】
【0141】
10・・・特許文献2に記載される従来の二重螺旋カーボンスプリングのX線回折スペクトル
20・・・特許文献3に記載される従来の一重螺旋カーボンスプリングのX線回折スペクトル
30・・・実施例1のTiC/CのセラミックススプリングのX線回折スペクトル
40・・・実施例4のTiN/CのセラミックススプリングのX線回折スペクトル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリング外径が0.01μm〜100μm、スプリングピッチが0.01μm〜10μm、スプリング長が1.0×10−5mm〜20mm、スプリング軸が直線状である螺旋形状を有し、かつ、破断強度が80MPa以上である一重又は二重のセラミックススプリング。
【請求項2】
下記(1)及び下記(2)、下記(1)及び下記(3)、下記(2)及び下記(3)、または下記(1)、下記(2)、及び下記(3)の組み合わせにより構成される化学組成を有する化合物を含む請求項1に記載のセラミックススプリング。
(1)炭素
(2)ホウ素、窒素、及び酸素からなる群より選択される少なくとも1つ
(3)ケイ素、遷移金属、及び遷移金属を含有する合金からなる群より選択される少なくとも1つ
【請求項3】
前記化学組成を有する化合物は、TiN、Si、TiC、SiC、BC、ZrC、NbC、NbN、TaN、及び、TiBからなる群より選択されるいずれか1つである請求項2に記載のセラミックススプリング。
【請求項4】
(I)遷移金属含有触媒が担持された基板を有する反応容器内で、(II)インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する触媒促進剤と、(III)炭素源ガスと、(IV)水素ガスと、(V)ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガスとを、前記(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度で混合することにより、スプリング繊維を成長させるセラミックススプリングの製造方法。
【請求項5】
前記(I)遷移金属含有触媒粒子の各結晶面での触媒活性に異方性をもたせる温度が、500℃〜950℃である請求項4に記載のセラミックススプリングの製造方法。
【請求項6】
前記(II)インジウム、スズ、硫黄、及び、リンからなる群より選択される元素を少なくとも1つ有する触媒促進剤が、硫黄、チオフェン、硫化水素、三塩化リン、及び塩化スズからなる群より選択される少なくとも1つである請求項4または請求項5に記載のセラミックススプリングの製造方法。
【請求項7】
前記(III)炭素源ガスが、炭化水素ガスである請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載のセラミックススプリングの製造方法。
【請求項8】
前記(V)ホウ素、窒素、ケイ素、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する化合物を含むセラミックス原料ガスが、四塩化チタンガス、四塩化珪素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、五塩化ニオブガス、五塩化タンタルガス、及び四塩化ジルコニウムガスからなる群より選択される少なくとも1つである請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載のセラミックススプリングの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−148682(P2011−148682A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286625(P2010−286625)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】