説明

セラミックス乾燥体、セラミックス構造体及びセラミックス構造体の製造方法

【課題】有機バインダーや無機バインダーを多量に含有させたり、変形を生じさせたりすることなく強度を向上させたセラミックス乾燥体と、当該セラミックス乾燥体を用いて製造されたセラミックス構造体と、当該セラミックス乾燥体を用いたセラミックス構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料に水を加えて混練して得た坏土を所定形状のセラミックス成形体に成形した後、当該セラミックス成形体を乾燥させることにより得られたセラミックス乾燥体であって、前記有機バインダーの添加量が、前記セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%であり、前記セラミックス乾燥体の表面の少なくとも一部に、電解質の溶解濃度が50%以上である電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させたものであるセラミックス乾燥体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス構造体の製造工程の途中で得られるセラミックス乾燥体に関し、より詳しくは有機バインダーや無機バインダーを多量に含有させることなく強度を向上させたセラミックス乾燥体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、セラミックスからなる各種構造体(セラミックス構造体)は、有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料に水を加えて混練して得た坏土を所定形状のセラミックス成形体に成形した後、それを乾燥してセラミックス乾燥体とし、このセラミックス乾燥体を脱脂して有機バインダーを除去してから焼成することによって製造される(例えば、特許文献1参照)。このようなセラミックス構造体の製造工程の途中で得られるセラミックス乾燥体は、白加工等の取り扱い時に、端部が欠ける等の不良が生じにくいよう、その強度をなるべく高くすることが望まれる。
【0003】
一般に、セラミックス形成材料に添加する有機バインダーの量を増加させれば、セラミックス乾燥体の強度は向上する。しかしながら、有機バインダーの添加量を増加させると、脱脂時や焼成時に有機バインダーが燃焼することにより生じるCOや有害ガスの発生量も増加し、環境汚染、地球温暖化といった環境面での問題が生じる。また、有機バインダーの量を増加させると、脱脂による有機バインダー除去後の気孔率が増大するため、いわゆる脱脂切れが生じたり、最終的に得られるセラミックス構造体の機械的強度が低下したりするという問題もある。更に、大型のセラミックス構造体の製造する場合には、焼成時に表面近傍部分と内部との温度差が大きくなるため、多量の有機バインダーを含んでいると、熱応力によりクラック等の欠陥が発生し、構造体としての機械的強度が低下するだけでなく、歩留まりが大幅に低下するという問題もある。
【0004】
また、有機バインダーに代えて、あるいは有機バインダーと共に、無機バインダーをセラミックス形成材料に添加することによっても、セラミックス乾燥体の強度を向上させることができる(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、無機バインダーは焼成後もセラミックス構造体中に残存するため、無機バインダーを多量に添加するとセラミックス構造体の組成が変化し、それに伴ってセラミックス構造体の製品特性が悪化する(例えば、熱膨張係数が増大する)という問題がある。更に、無機バインダーを多量に添加すると製造コストが上昇するという問題もある。
【0005】
なお、セラミックス乾燥体の表面に、有機バインダーの水溶液を塗布して乾燥させると、当該表面に有機バインダーの膜が形成されて、セラミックス乾燥体の強度が向上するが、この水溶液の塗布時に、セラミックス乾燥体中の有機バインダーが水溶液の水分を吸水して軟化し、乾燥前に変形してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282405号公報
【特許文献2】特開2007−1836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、有機バインダーや無機バインダーを多量に含有させたり、変形を生じさせたりすることなく強度を向上させたセラミックス乾燥体と、当該セラミックス乾燥体を用いて製造されたセラミックス構造体と、当該セラミックス乾燥体を用いたセラミックス構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のセラミックス乾燥体、セラミックス構造体及びセラミックス構造体の製造方法が提供される。
【0009】
[1] 有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料に水を加えて混練して得た坏土を所定形状のセラミックス成形体に成形した後、当該セラミックス成形体を乾燥させることにより得られたセラミックス乾燥体であって、前記有機バインダーの添加量が、前記セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%であり、前記セラミックス乾燥体の表面の少なくとも一部に、電解質の溶解濃度が50%以上である電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させたものであるセラミックス乾燥体。
【0010】
[2] 前記セラミックス乾燥体の表面の一部にのみ前記電解質水溶液を塗布した[1]に記載のセラミックス乾燥体。
【0011】
[3] 前記電解質水溶液が、クエン酸イオン、酒石酸イオン及び酢酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の陰イオンと、アルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオンを含む)、水素イオン及びアンモニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種の陽イオンとを含有するものである[1]又は[2]に記載のセラミックス乾燥体。
【0012】
[4] 前記電解質が、酢酸マグネシウム及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の電解質である[1]〜[3]の何れかに記載のセラミックス乾燥体。
【0013】
[5] 前記セラミックス成形体が、押出成形により成形されたものである[1]〜[4]の何れかに記載のセラミックス乾燥体。
【0014】
[6] 前記セラミックス成形体が、ハニカム形状に成形されたものである[1]〜[5]の何れかに記載のセラミックス乾燥体。
【0015】
[7] [1]〜[6]の何れかに記載のセラミックス乾燥体を脱脂した後、焼成して得られたセラミックス構造体。
【0016】
[8] [1]〜[6]の何れかに記載のセラミックス乾燥体を脱脂した後、焼成するセラミックス構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセラミックス乾燥体は、その表面の少なくとも一部に、所定溶解濃度の電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させたことにより、表面に電解質の膜が形成されるとともに、電解質が内部に浸透してバインダー的な役割を果たすため、高い強度を発揮する。よって、セラミックス乾燥体の強度を向上させるために、有機バインダーや無機バインダーを多量に含有させる必要が無く、その結果、それらバインダーの多量添加に伴う諸問題、具体的には、COや有害ガスの発生量増加による環境汚染や地球温暖化、気孔率増大による脱脂切れや機械的強度の低下、焼成時の熱応力増大に伴う欠陥発生と歩留まりの低下、セラミックス構造体の組成変化による製品特性の悪化、製造コストの上昇といった問題を解消できる。また、電解質にはその周囲に水分を引きつける性質があるため、セラミックス乾燥体の表面に電解質水溶液を塗布した際に、当該水溶液の水分が、セラミックス乾燥体に含まれる有機バインダーに吸水されることを抑制でき、その結果、有機バインダーの吸水によるセラミックス乾燥体表面の軟化とそれに伴う変形を防ぐことができる。
【0018】
また、本発明のセラミックス構造体は、本発明のセラミックス乾燥体を用いて製造されたものであるので、その製造に当たって、本発明のセラミックス乾燥体の前記効果を享受することができる。
【0019】
更に、本発明のセラミックス構造体の製造方法は、本発明のセラミックス乾燥体を用いてセラミックス構造体を製造するものであるので、その実施に当たって、本発明のセラミックス乾燥体の前記効果を享受することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0021】
前記のとおり、本発明のセラミックス乾燥体は、有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料に水を加えて混練して得た坏土を所定形状のセラミックス成形体に成形した後、当該セラミックス成形体を乾燥させることにより得られたセラミックス乾燥体であって、前記有機バインダーの添加量が、前記セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%であり、前記セラミックス乾燥体の表面の少なくとも一部に、電解質の溶解濃度が50%以上である電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させたものであることを、その主要な特徴とする。
【0022】
電解質水溶液を塗布する前のセラミックス乾燥体は、一般的なセラミックス構造体の製造工程の途中で得られるものであり、従来公知の方法によって得ることができる。具体的には、まず、有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料に水を加えて混練し、坏土を得る。
【0023】
坏土を得るために用いるセラミックス形成材料は、焼成することによって最終的に製造しようとするセラミックス構造体の主成分となるセラミックスの粉末であり、具体的なものとしては、例えば、コージェライト形成原料、ムライト、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素等の粉末が挙げられる。なお、コージェライト形成原料とは、コージェライトそのもの及び/又は焼成によりコージェライトを形成する原料を意味する。焼成によりコージェライトを形成する原料としては、例えば、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの粉末を、焼成後の組成がコージェライトの理論組成となるように混合したものを挙げることができる。
【0024】
このようなセラミックス形成材料に添加する有機バインダーとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が好適に使用できる。有機バインダーの添加量は、セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%、好ましくは1〜6質量%である。有機バインダーの添加量が、セラミックス形成材料に対し外配で1質量%未満では、坏土の可塑性、成形性、保形性等が十分に得られない。一方、有機バインダーの添加量が多くなると、前述したように、COや有害ガスの発生量増加による環境汚染や地球温暖化、気孔率増大による脱脂切れや機械的強度の低下、焼成時の熱応力増大に伴う欠陥発生と歩留まりの低下といった問題が発生するので、セラミックス形成材料に対し外配で10質量%を超えない添加量とする。本発明のセラミックス乾燥体は、電解質水溶液を塗布することによって、その強度を向上させるものであるので、セラミックス形成材料に対し外配で10質量%を超えるような多量の有機バインダーを添加しなくても、十分な強度が得られる。
【0025】
なお、セラミックス形成材料には、有機バインダーとともに、必要に応じて、他の添加物、例えば、分散剤、造孔剤、可塑剤、焼結助剤、無機バインダー等を添加してもよい。
【0026】
分散剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、又はポリアルコール等を挙げることができる。造孔材としては、例えば、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、未発泡樹脂、既発泡樹脂、シラスバルーン、フライアッシュバルーン等を挙げることができる。可塑剤としては、例えば、グリセリン誘導体等を挙げることができる。焼成助剤としては、例えば、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、又はセリア(CeO)等を挙げることができる。なお、これら各添加物は、目的に応じて1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
無機バインダーとしては、例えば、モンモリロナイト、パイロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、アタパルジャイト、ハイドロタルサイト等が好適に使用できる。セラミックス形成材料に無機バインダーを添加する場合、その添加量は、セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%とすることが好ましく、1〜3質量%とすることがより好ましい。無機バインダーの添加量が、セラミックス形成材料に対し外配で1質量%未満では、添加効果はほとんど得られない。また、無機バインダーの添加量が多くなると、前述したように、最終的に得られるセラミックス構造体の組成変化による製品特性の悪化、製造コストの上昇といった問題が発生するので、セラミックス形成材料に対し外配で10質量%を超えない程度の添加量とすることが好ましい。本発明のセラミックス乾燥体は、電解質水溶液を塗布することによって、その強度を向上させるものであるので、セラミックス形成材料に対し外配で10質量%を超えるような多量の無機バインダーを添加しなくても、十分な強度が得られる。
【0028】
有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料の混練に際し、分散媒として加える水の量は、セラミックス形成材料の種類によって異なるため、一義的に決定することは困難であるが、例えば、セラミックス形成材料がコージェライト形成原料である場合には、セラミックス形成材料に対して、外配で10〜50質量%程度の水を加えることが好ましい。混練は、従来公知の混練機、例えば、シグマニーダ、バンバリーミキサ、スクリュー式の押出混練機等を用いて行うことができる。特に、真空減圧装置(例えば、真空ポンプ等)を備えた混練機(いわゆる真空土練機や二軸連続混練押出成形機等)を用いると、欠陥が少なく、成形性の良好な坏土を得ることができ好ましい。
【0029】
混練により得られた坏土は、所定形状のセラミックス成形体に成形される。セラミックス成形体の形状としては、特に制限はなく、例えば、シート形状、チューブ形状、レンコン形状、ハニカム形状等を挙げることができる。なお、ハニカム形状とは、2つの端面を有し、それら端面間を貫通する複数のセルが隔壁によって区画形成された形状であり、このようなハニカム形状のセラミックス成形体は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等のフィルターや排ガス浄化用触媒の触媒担体等の製造に用いられる。
【0030】
セラミックス成形体を成形する方法についても、特に制限はなく、ろくろ成形、押出成形、射出成形、プレス成形、シート成形等の従来公知の成形法を用いることができる。例えば、ハニカム形状のセラミックス成形体を成形する場合には、坏土を、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法が好適である。
【0031】
セラミックス成形体の乾燥の方法も特に制限はなく、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を用いることができる。中でも、セラミックス成形体全体を迅速かつ均一に乾燥させることができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法を用いることが好ましい。
【0032】
本発明のセラミックス乾燥体は、このようにセラミックス成形体を乾燥させることにより得られたセラミックス乾燥体の表面の少なくとも一部に、電解質の溶解濃度が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上である電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させたものである。なお、ここで言う「溶解濃度」とは、20℃における飽和溶解度に対する電解質水溶液の濃度の割合を意味し、下式により算出される。
溶解濃度(%)=(電解質の質量/電解質水溶液の質量)/飽和溶解度
【0033】
セラミックス乾燥体の表面に、電解質の溶解濃度が50%以上である電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させると、表面に電解質の膜が形成されるとともに、電解質が内部に浸透してバインダー的な役割を果たすため、塗布前に比べて大幅に強度が向上する。よって、本発明のセラミックス乾燥体は、有機バインダーや無機バインダーを多量に含有させなくても高い強度を発現し、その結果、それらバインダーの多量添加に伴う諸問題、具体的には、COや有害ガスの発生量増加による環境汚染や地球温暖化、気孔率増大による脱脂切れや機械的強度の低下、焼成時の熱応力増大に伴う欠陥発生と歩留まりの低下、セラミックス構造体の組成変化による製品特性の悪化、製造コストの上昇といった問題を解消できる。
【0034】
なお、電解質には、その周囲に水分を引きつける性質があるため、セラミックス乾燥体の表面に電解質水溶液を塗布した際に、電解質水溶液の水分が、セラミックス乾燥体に含まれる有機バインダーに吸水されることを抑制でき、その結果、有機バインダーの吸水によるセラミックス乾燥体表面の軟化とそれに伴う変形を防ぐことができる。ただし、電解質の溶解濃度が50%未満の電解質水溶液を用いた場合には、電解質が電解質水溶液の水分を十分に引きつけることができないため、電解質水溶液の水分がセラミックス乾燥体に含まれる有機バインダーに吸水されることを十分に抑制できず、セラミックス乾燥体表面が軟化し、変形が生じることがある。
【0035】
本発明のセラミックス乾燥体は、その表面全体に電解質水溶液が塗布された後、再乾燥されたものでもよいし、例えば、他の部位より肉薄で強度が劣る部分や、白加工が施される特定部分の強度を向上させるために、その表面の一部にのみ電解質水溶液が塗布された後、再乾燥されたものでもよい。このように、電解質水溶液の塗布部分を強度向上が必要な部分に限定することにより、電解質の使用量を低減して、製造コストを抑えることができる。
【0036】
なお、本発明のセラミックス乾燥体において、電解質水溶液に含まれる電解質の種類としては、クエン酸イオン、酒石酸イオン及び酢酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の陰イオンと、アルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオンを含む)、水素イオン及びアンモニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種の陽イオンとが含有されていることが好ましい(電解質を、対になるイオンで示している)。電解質水溶液中に溶解させる電解質としては、例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等を挙げることができる(電解質を、物質名で示している)。これらの中でも、酢酸マグネシウム、クエン酸が特に好適に用いられる。また、電解質水溶液の塗布方法についても、特に制限はなく、例えば、スプレー塗布、刷毛塗り、電解質水溶液中へのセラミックス乾燥体の浸漬等の方法を用いることができる。また、電解質水溶液を塗布したセラミックス乾燥体を再乾燥させる方法としても、特に制限はなく、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を用いることができる。
【0037】
次に、本発明のセラミックス構造体について説明する。本発明のセラミックス構造体は、本発明のセラミックス乾燥体を脱脂した後、焼成して得られたものである。ここで、「脱脂」とは、セラミックス乾燥体に含まれる有機バインダー等の有機物を燃焼させて除去する操作を意味する。
【0038】
一般に、有機バインダーの燃焼温度は100〜300℃程度であるので、セラミックス乾燥体に含まれる有機物が、有機バインダーのみである場合、あるいは有機バインダーと有機バインダーの燃焼温度より低い温度で燃焼する有機物である場合には、脱脂温度を前記のような温度範囲に設定すればよい。また、セラミックス乾燥体に含まれる有機物が、有機バインダーと有機バインダーの燃焼温度より高い温度で燃焼する有機物である場合には、脱脂温度を当該有機物の燃焼温度以上の温度に設定する。
【0039】
脱脂時間としては特に制限はないが、通常は、1〜10時間程度である。脱脂の雰囲気は、セラミックス乾燥体を構成するセラミックス形成材料やセラミックス乾燥体に含まれる有機バインダー等の有機物の種類によって適宜選択され、具体的な雰囲気としては、大気雰囲気、酸素雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を挙げることができる。
【0040】
セラミックス乾燥体を脱脂した後に行う焼成の条件(温度・時間)は、セラミックス乾燥体を構成するセラミックス形成材料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、セラミックス形成材料として、コージェライト形成原料を用いた場合には、脱脂後のセラミックス乾燥体を、1300〜1500℃で、3〜10時間程度焼成することが好ましい。焼成温度が1300℃未満では、目的の結晶相(コージェライト相)が得られないことがあり、1500℃を超えると、融解してしまうことがある。また、焼成の雰囲気も、セラミックス乾燥体を構成するセラミックス形成材料の種類によって適宜選択され、具体的な雰囲気としては、大気雰囲気、酸素雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を挙げることができる。
【0041】
本発明のセラミックス構造体は、本発明のセラミックス乾燥体を用いて製造されたものであるので、その製造に当たって、本発明のセラミックス乾燥体の前記効果を享受することができる。
【0042】
次いで、本発明のセラミックス構造体の製造方法について説明する。本発明のセラミックス構造体の製造方法は、本発明のセラミックス乾燥体を脱脂した後、焼成するものである。このセラミックス構造体の製造方法における好適な脱脂条件や焼成条件は前述のとおりである。
【0043】
本発明のセラミックス構造体の製造方法は、本発明のセラミックス乾燥体を用いてセラミックス構造体を製造するものであるので、その実施に当たって、本発明のセラミックス乾燥体の前記効果を享受することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[水溶液の調製]
電解質である酢酸マグネシウム、クエン酸、又は有機バインダーであるメチルセルロースを塗布物質(溶質)とし、それらを表1に示す配合量で水(溶媒)と配合して溶解させることにより、塗布物質の溶解濃度が同表に示す値となるような5種類の水溶液1〜5を調製した。
【0046】
【表1】

【0047】
[坏土の調製]
タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの粉末を表2に示す割合で調合したセラミックス形成材料(コージェライト形成原料)に対し、有機バインダーとしてのメチルセルロース、無機バインダーとしてのモンモリロナイトを、それぞれ外配で同表に示す添加量となるよう添加し、これに所定量の水を加えて混練することにより、3種類の坏土1〜3を得た。
【0048】
【表2】

【0049】
(実施例1)
坏土1を用い、押出成形により、外形が直径40mm、長さ100mmの円柱形で、隔壁厚さ12ミル(305μm)、セル密度300セル/平方インチ(46.5セル/cm)、セル形状が正方形であるハニカム形状のセラミックス成形体(ハニカム成形体)を成形した。次いで、このハニカム成形体をマイクロ波乾燥及び熱風乾燥により乾燥させて、ハニカム状のセラミックス乾燥体(ハニカム乾燥体)を得た。次に、このハニカム乾燥体から3セル×6セル×50mmの抗折棒を切り出した。この抗折棒の表面に、水溶液1をスプレー塗布し、その塗布時の表面状態を目視により観察して、変形が生じているかどうかを確認した後、熱風乾燥により乾燥させた。その後、この抗折棒について、JIS R1601に準拠した装置を用いて4点曲げ強度を測定した。また、このハニカム乾燥体の表面に、水溶液1をスプレー塗布し、熱風乾燥により乾燥させた後、大気中にて450℃で5時間かけて脱脂し、脱脂後のハニカム乾燥体について、目視による外観観察により脱脂切れの有無を調べた。なお、ここで言う「脱脂切れ」とは、脱脂後のハニカム乾燥体において、本来連続しているべき隔壁やセルが不連続になっている状態のことである。前記水溶液塗布時の抗折棒の表面状態の観察結果、抗折棒の4点曲げ強度の測定結果、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査結果を表3に示した。
【0050】
(実施例2)
水溶液1の代わりに水溶液2を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、水溶液塗布時の抗折棒の表面状態の観察、抗折棒の4点曲げ強度の測定、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。
【0051】
(実施例3)
水溶液1の代わりに水溶液3を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、水溶液塗布時の抗折棒の表面状態の観察、抗折棒の4点曲げ強度の測定、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。
【0052】
(実施例4)
坏土1の代わりに坏土2を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、水溶液塗布時の抗折棒の表面状態の観察、抗折棒の4点曲げ強度の測定、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。
【0053】
(比較例1)
水溶液1の代わりに水溶液4を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、水溶液塗布時の抗折棒の表面状態の観察、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。なお、この比較例1については、水溶液塗布時に抗折棒が変形したため、抗折棒の4点曲げ強度の測定は行わなかった。
【0054】
(比較例2)
水溶液1の代わりに水溶液5を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、水溶液塗布時の抗折棒の表面状態の観察、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。なお、この比較例2については、水溶液塗布時に抗折棒が変形したため、抗折棒の4点曲げ強度の測定は行わなかった。
【0055】
(比較例3)
何れの水溶液の塗布も行わなかった以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、抗折棒の4点曲げ強度の測定、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。
【0056】
(比較例4)
坏土1の代わりに坏土3を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、ハニカム乾燥体と抗折棒を得、抗折棒の4点曲げ強度の測定、及び脱脂後のハニカム乾燥体の脱脂切れの有無の調査を行い、その結果を表3に示した。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すとおり、有機バインダーの添加量が、セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%の範囲内にある坏土(坏土1及び2)を用いるとともに、電解質の溶解濃度が50%以上である電解質水溶液(水溶液1〜3)を用いた実施例1〜4は、電解質水溶液の塗布を行っていない比較例3に比して、高い強度を示した。一方、電解質の溶解濃度が50%未満である電解質水溶液(水溶液4)を用いた比較例1と、電解質ではなく有機バインダーの水溶液(水溶液5)を用いた比較例2は、水溶液の塗布時に、表面が軟化して変形が生じた。また、有機バインダーの添加量が、セラミックス形成材料に対し外配で10質量%を超える坏土(坏土3)を用いた比較例4は、高い強度を示したものの脱脂切れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のセラミックス乾燥体、セラミックス構造体及びセラミックス構造体の製造方法は、例えば、セラミックフィルター、触媒担体等の各種セラミック製品に用いられるセラミックス構造体やその製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダーが添加されたセラミックス形成材料に水を加えて混練して得た坏土を所定形状のセラミックス成形体に成形した後、当該セラミックス成形体を乾燥させることにより得られたセラミックス乾燥体であって、
前記有機バインダーの添加量が、前記セラミックス形成材料に対し外配で1〜10質量%であり、
前記セラミックス乾燥体の表面の少なくとも一部に、電解質の溶解濃度が50%以上である電解質水溶液を塗布した後、再乾燥させたものであるセラミックス乾燥体。
【請求項2】
前記セラミックス乾燥体の表面の一部にのみ前記電解質水溶液を塗布した請求項1に記載のセラミックス乾燥体。
【請求項3】
前記電解質水溶液が、クエン酸イオン、酒石酸イオン及び酢酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の陰イオンと、アルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオンを含む)、水素イオン及びアンモニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種の陽イオンとを含有するものである請求項1又は2に記載のセラミックス乾燥体。
【請求項4】
前記電解質が、酢酸マグネシウム及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の電解質である請求項1〜3の何れか一項に記載のセラミックス乾燥体。
【請求項5】
前記セラミックス成形体が、押出成形により成形されたものである請求項1〜4の何れか一項に記載のセラミックス乾燥体。
【請求項6】
前記セラミックス成形体が、ハニカム形状に成形されたものである請求項1〜5の何れか一項に記載のセラミックス乾燥体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のセラミックス乾燥体を脱脂した後、焼成して得られたセラミックス構造体。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載のセラミックス乾燥体を脱脂した後、焼成するセラミックス構造体の製造方法。

【公開番号】特開2012−200993(P2012−200993A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67612(P2011−67612)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】