説明

セラミックス多孔体及びその製造方法

【課題】任意の部位に任意の気孔径を形成したセラミックス多孔体を提供する。
【解決手段】嵩密度の異なる3次元網目構造体のセラミックス多孔体同士が、それぞれの3次元網目構造を構成する骨格により結合されているセラミックス多孔体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩密度の異なる3次元網目構造体のセラミックス多孔体同士が結合して所定形状を呈するセラミックス多孔体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス多孔体は、各種部材に使用されて、部材の軽量化や新たな機能性の付与に大きく寄与している。例えば、炭化珪素多孔体は、耐熱性や耐薬品性に優れ、通電発熱が可能である等の理由から、ディーゼルエンジンの排ガス等を処理するフィルタ、触媒担体、ガスや液体等の流体加熱用ヒータ等に使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
これらのセラミックス多孔体からなる部材では、部位によりセラミックス多孔体の密度(気孔径)を変えて、軽量化や他の機能の付加等が図られることがある。例えば、フレーム等のほか部材との取付部位に、他の部位よりも気孔径の小さい高密度のセラミックス多孔体を用いて機械的強度を高めることが行なわれる。気孔径の異なるセラミックス多孔体同士の接合には、接着剤を用いる他に、金属蝋付け、ガラス封着または反応焼結法により接合することも行なわれている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、接着剤を用いて接合した場合、接合部の構造及び材質がセラミックス多孔体とは異なるため、他の部分と特性が大きく異なり、セラミックス多孔体全体としての特性(耐熱性、耐食性または導電性等)に悪影響を及ぼす。一方、金属蝋付け、ガラス封着または反応焼結法では、接合部分と他の部分とで熱収縮率が大きく異なり、接合界面近傍で機械的強度が大きく低下するという問題がある。また、接合層は緻密な構造であるため、多孔体の特性である流体透過性を損ない、更には溶接痕のような、溶接や焼結に伴う層状の痕跡(接合層)が残存する。更には、これら接合方法では専用の装置も必要であり、生産性も低く、製造コストの上昇を招く。
【0004】
【特許文献1】特開平1−186580号公報
【特許文献2】特開平8−91963号公報
【特許文献3】特開平8−188489号公報
【非特許文献1】P. Popper : The Preparation of Dense Self-Bonded Silicon Carbide”, SPECIAL CRAMICS (1960)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、任意の部位に任意の気孔径を形成したセラミックス多孔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は下記を提供する。
(1)嵩密度の異なる3次元網目構造体のセラミックス多孔体同士が、それぞれの3次元網目構造を構成する骨格により結合されていることを特徴とするセラミックス多孔体。
(2)前記骨格が炭化珪素からなることを特徴とする上記(1)記載のセラミックス多孔体。
(3)前記骨格が中空であることを特徴とする上記(1)または(2)記載のセラミックス多孔体。
(4)A)嵩密度の異なる3次元網目構造体の高分子材料からなる芯材に熱硬化性樹脂を含浸させる工程と、
B)熱硬化性樹脂を含浸させた芯材同士を当接した状態で乾燥させてプリフォームを作製する工程と、
C)プリフォームを不活性ガス雰囲気下で加熱して炭素質多孔体とする工程と、
D)炭素質多孔体の骨格を気相化学含浸法によりセラミックスで被覆する工程と、
を有することを特徴とするセラミックス多孔体の製造方法。
(5)D)工程の後に、E)酸素雰囲気中で炭素質多孔体を焼失させ、骨格を中空にする工程を行なうことを特徴とする上記(4)記載のセラミックス多孔体の製造方法。
(6)芯材が有機質多孔体からなり、かつ、熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂、フラン系樹脂、メラミン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂及びメタクリル系樹脂の少なくとも1種であることを特徴とする上記(4)または(5)記載のセラミックス多孔体の製造方法。
(7)D)工程において、セラミックスが炭化珪素であることを特徴とする上記(4)〜(6)の何れか1項に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、気孔径の異なるセラミックス多孔体同士を、接合層が存在せずに接合でき、接合部での機械的特性の低下が大きく改善される。また、製造に際しても、金属蝋付け、ガラス封着または反応焼結法のように複雑な作業や特殊な装置も不要で、低コストとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明するが、ここでは図1に模式的に示すように、気孔径の大きいセラミックス多孔体からなる第1の部材10の両端に、気孔径の小さいセラミックス多孔体からなる一対の第2の部材20,20を接合したセラミックス多孔体を例示して説明する。
【0009】
上記セラミックス多孔体を作製するには、先ず、気孔径の大きい第1の有機質多孔体を、目的とする形状に成形して第1の部材10を作製する。また、気孔径の小さい第2の有機質多孔体を、目的とする形状に成形して第2の部材20を作製する。有機質多孔体としては、汎用のカッター等で容易に目的形状に加工することができ、更に安価で市場から容易に入手できる等の理由から、メラミン樹脂発泡体やウレタン樹脂発泡体等の種々の樹脂発泡体、パルプ、綿、段ボール等を好適に用いることができる。中でも、目的に合わせて気孔径や気孔率を制御できることから、樹脂発泡体が好ましい。尚、第1の有機質多孔体及び第2の有機質多孔体は、異なる材料であってもよいが、得られるセラミックス多孔体全体として均質な機械的強度が得られることを考慮すると、同一材料であることが望ましい。
【0010】
次いで、第1の部材10及び第2の部材20に熱硬化性樹脂を含浸させる。含浸方法としては、熱硬化性樹脂を適当な溶剤に溶解した溶液に、各部材を浸漬するディッピング法が簡便かつ効率的で好ましい。熱硬化性樹脂としてはフェノール系樹脂、フラン系樹脂、メラミン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、メタクリル系樹脂等が挙げられる。これらの中でもフェノール系樹脂が好ましい。溶剤としてはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、水等を使用できる。
【0011】
上記のディッピングにおいて、熱硬化性樹脂溶液の粘度を調節することにより、有機質多孔体の気孔の閉塞を抑制することが出来る。また、各部材を熱硬化性樹脂溶液から取り出した後、余分な熱硬化性樹脂溶液を除去することにより、熱硬化性樹脂の含浸量の調節、及び熱硬化性樹脂による有機質多孔体の気孔の閉塞を防止することができる。余分な熱硬化性樹脂溶液の除去はロール等での絞り出しや、遠心分離、エアー吹き等を利用することができる。中でも、気孔径の小さい有機質多孔体に対しては、エアー吹きや遠心分離が好ましい。熱硬化性樹脂の含浸量は、乾燥後に含浸前の部材重量の1.2〜1.8倍程度となるのが適当であり、含浸及び除去作業を繰り返し行う等して調整する。
【0012】
次いで、熱硬化性樹脂を含浸させた第1の部材10と第2の部材20とを、接着剤等を用いることなく、直接当接させて図示される形状に組み立て、大気雰囲気中で加熱乾燥して一体化し、プリフォームを作製する。この加熱乾燥により熱硬化樹脂が硬化し、第1の部材10と第2の部材とが接合し、その接合状態を保持する。尚、このときの組み立て状態を良好に維持できるように、上記において有機質多孔体を第1の部材10及び第2の部材20に成形する際に、それぞれの接合面に入子状の凹凸を設けておくことも好ましい。また、加熱乾燥時の乾燥温度は70〜200℃、乾燥時間は0.1〜12時間程度が適当である。
【0013】
上記のディッピング及び加熱乾燥は複数回繰り返し行なってもよい。
【0014】
次いで、プリフォームを窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の非酸化性ガス雰囲気下で800〜2000℃の温度で焼成し、有機質多孔体及び熱硬化性樹脂を炭素化することで、気孔径の大きな部材10と気孔径の小さい部材20とがそれぞれ炭素質の多孔体となり、更に、それぞれの骨格同士が結合したものとなる。
【0015】
次いで、得られた炭素質多孔体に、内部の骨格を含めてセラミックスで被覆する。セラミックスによる被覆は、気相化学含浸法(CVI;Chemical Vapor Infiltration)により行うことができる。図2は気相化学含浸法を実施するための装置の構成を示す模式図であるが、電気炉100内の反応容器110に炭素質多孔体を収容し、先ず、真空ポンプ120によって反応容器110の内部を真空排気し、所定の内圧(例えば666Pa以下)にする。次いで、後述する混合原料ガスの導入工程と、反応工程と、再真空排気工程とからなる一連のプロセスを所定サイクル繰り返す。サイクル数の目安は、炭化珪素被膜の厚みが2〜20μmとなるようにすればよく、通常2000〜30000回である。
【0016】
混合原料ガスの導入工程では、反応容器110を真空にした後、真空ポンプ側バルブ102を閉め、ガス導入側バルブ101を開けて、四塩化珪素(SiCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、メチルトリクロロシラン(CHSiCl)等の塩化珪素ガス、水素、メタン等の炭化水素からなる原料ガス、必要に応じてキャリアガスを反応容器110に供給する。原料ガスにおける混合体積比は、水素:塩化珪素ガス:メタン=70〜96:2〜10:2〜20が適当である。尚、使用する塩化珪素ガスとしては、前記の中でも特に四塩化珪素、トリクロロメチルシランが好ましい。また、これらの原料ガスをガス貯留容器105に供給し、ガスを安定させた後、反応容器110に供給してもよい。
【0017】
反応工程では、反応容器110を反応温度である800〜1300℃に維持しておき、そこへ混合原料ガスを導入した後、ガス導入側バルブ101を閉めて0.3〜10秒間保持する。これによって、炭素骨格の表面に炭化珪素が析出し、炭化珪素被膜が形成される。
【0018】
排気工程では、真空ポンプ側バルブ102を開けて真空ポンプ120により反応容器110から残留未反応混合原料ガス及び反応生成ガス(HCl等)の排気を行い、反応容器110を再び前記内圧となるように再排気を行う。
【0019】
その後、酸化雰囲気中で焼成して、当初の骨格である炭素質多孔体を焼失させて中空にしてもよい。析出した炭化珪素は強固であり、中空にしてもセラミックス多孔体は十分な機械的強度を有するため、中空にすることで軽量化が図られる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
気孔径が2.5〜3.5mm、セル数が8個/25mmの三次元網目構造のウレタン発泡体(商品名:MF−8、(株)イノアックコーポレーション製)を縦150mm、横125mm、厚さ25mmに裁断して第1の部材とした。また、気孔径が1.0mm〜1.5mm、セル数が20個/25mmの三次元網目構造のウレタン発泡体(商品名:CFH−20、(株)イノアックコーポレーション製)を縦150mm、横125mm、厚さ25mmに裁断して第2の部材とした。
【0022】
フェノール樹脂原液(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学工業製)をエタノールで20重量%に稀釈して熱硬化性樹脂溶液を調製し、この液中に第1の部材及び第2の部材を浸漬し、取り出した後に余分な熱硬化性樹脂溶液をローラーで絞り除去した。次いで、第1の部材及び第2の部材を90℃で2時間乾燥させた後、重量を測定した。この含浸から乾燥までの工程を3回繰り返し、第1の部材及び第2の部材の重量が初期重量の1.5倍にした。
【0023】
次いで、上記の熱硬化性樹脂を含浸させた第1の部材及び第2の部材を再び同一の熱硬化性樹脂溶液に浸漬し、取り出した後余分な熱硬化性樹脂溶液をローラーで絞り除去した。その後、第1の部材と第2の部材とを鉄板にて挟み込んで密着させ、90℃で2時間乾燥させプリフォームを作製した。
【0024】
次いで、プリフォームをアルゴン雰囲気中1000℃で2時間焼成し、炭素化させて多孔質構造体とした。
【0025】
次いで、多孔質構造体を裁断して縦100mm、横80mm、厚さ40mmとし、これを図2に示す構成の装置の反応容器内に収容し、電気炉を加熱して反応容器内を1145℃に昇温した。そして、反応容器内を666Pa以下となるまで真空ポンプにより真空排気した後、反応容器に水素:四塩化珪素:メタン(体積比)=23:1:1である原料混合ガスを110kPaの圧力で供給し、1秒間反応させ、その後反応容器内を排気して真空(666Pa以下)とした。この一連のプロセスを30000回繰り返し、多孔質構造体の炭素骨格を炭化珪素からなる厚さ40μmの被膜で被覆し、セラミック多孔体を得た。
【0026】
第1の部材と第2の部材との接合部分を顕微鏡で観察したところ、両部材を構成する骨格同士が直接接合していた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のセラミックス多孔体の一例を示す模式図である。
【図2】気相化学含浸法を実施するための装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0028】
10 第1の部材(気孔径が大きいセラミックス多孔体)
20 第2の部材(気孔径が小さいセラミックス多孔体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩密度の異なる3次元網目構造体のセラミックス多孔体同士が、それぞれの3次元網目構造を構成する骨格により結合されていることを特徴とするセラミックス多孔体。
【請求項2】
前記骨格が炭化珪素からなることを特徴とする請求項1記載のセラミックス多孔体。
【請求項3】
前記骨格が中空であることを特徴とする請求項1または2記載のセラミックス多孔体。
【請求項4】
A)嵩密度の異なる3次元網目構造体の高分子材料からなる芯材に熱硬化性樹脂を含浸させる工程と、
B)熱硬化性樹脂を含浸させた芯材同士を当接した状態で乾燥させてプリフォームを作製する工程と、
C)プリフォームを不活性ガス雰囲気下で加熱して炭素質多孔体とする工程と、
D)炭素質多孔体の骨格を気相化学含浸法によりセラミックスで被覆する工程と、
を有することを特徴とするセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項5】
D)工程の後に、E)酸素雰囲気中で炭素質多孔体を焼失させ、骨格を中空にする工程を行なうことを特徴とする請求項4記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項6】
芯材が有機質多孔体からなり、かつ、熱硬化性樹脂がフェノール系樹脂、フラン系樹脂、メラミン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂及びメタクリル系樹脂の少なくとも1種であることを特徴とする請求項4または5記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項7】
D)工程において、セラミックスが炭化珪素であることを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載のセラミックス多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−124273(P2006−124273A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284930(P2005−284930)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】