説明

セラミックス接合体

【課題】多孔質セラミックスの特性である通気性を損なうことなく、高気孔率の多孔質セラミックスと緻密質セラミックスを強固に接合できるセラミックス接合体を提供する。
【解決手段】本セラミックス接合体は、気孔が連通した連球状開気孔を有する多孔質焼結セラミックス基材の平均気孔径10μm以上150μm以下であり、最大気孔径が230μmで、かつ気孔全体の95%以上が200μm以下である多孔質セラミックス同士もしくは前記セラミックスと緻密質セラミックスとをろう材によって接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス接合体に係り、特に多孔質セラミックス接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックスと緻密質セラミックスとを接合する方法としては、ろう付、無機質接着剤による接着、加圧焼結法(特許文献1)による接着等がある。
【0003】
ろう付により、炭化珪素の緻密質焼結体と多孔質焼結体を接合する場合、多孔質セラミックスの気孔率が高いと気孔の内部にまでろう材が侵入し、多孔質セラミックスの特性である通気性を損ねてしまうおそれがあった。また、特許文献1に記載の加圧焼結法による接着では、気孔率が高いと多孔質セラミックスの強度が不足し形状を保てなくなるため、高気孔率の多孔質セラミックスの接合には適さない。
【0004】
しかし、用途によっては、さらに高い気孔率が要求される場合もあり、多孔質セラミックスの特性である通気性を損なうことなく、高気孔率の多孔質セラミックスと緻密質セラミックスを強固に接合できるセラミックス接合体が要望されていた。
【特許文献1】特開2002−338334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、気孔が連通した連球状開気孔を有する多孔質焼結セラミックスの特性である通気性、通液性を損なうことなく、高気孔率の多孔質焼結セラミックス同士もしくは多孔質焼結セラミックスと緻密質セラミックスとが強固に接合したセラミックス接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明に係るセラミックス接合体は、気孔が連通した連球状開気孔を有する多孔質焼結セラミックス基材の平均気孔径10μm以上150μm以下であり、最大気孔径が230μmで、かつ気孔全体の95%以上が200μm以下である多孔質焼結セラミックス同士もしくは前記多孔質焼結セラミックスと緻密質セラミックスとをろう材によって接合したことを特徴とする。
【0007】
前記多孔質焼結セラミックスの気孔率が40%以上であることが望ましい。
また、前記多孔質焼結セラミックスおよび前記緻密質セラミックスが炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムからなることが望ましい。
前記ろう材はSi系ろう材からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るセラミックス接合体によれば、気孔が連通した連球状開気孔を有する多孔質焼結セラミックスの特性である通気性を損なうことなく、高気孔率の多孔質焼結セラミックスと緻密質セラミックスを強固に接合できるセラミックス接合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るセラミックス接合体の第1実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0010】
図1は本発明の第1実施形態に係るセラミックス接合体の縦断面図である。
【0011】
図1に示すように、本第1実施形態に係るセラミックス接合体1は、いずれも平板状の多孔質焼結セラミックス基材2と緻密質セラミックス基材3が、ろう材4によって接合されて形成されている。
【0012】
多孔質焼結セラミックス基材2は、平均気孔径10μm以上150μm以下であり、最大気孔径が230μmで、かつ気孔全体の95%以上が200μm以下である。多孔質焼結セラミックス基材2の気孔率は、好ましくは40%以上、さらに好ましくは80%以上である。また、多孔質焼結セラミックス基材2および緻密質セラミックス基材3は炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムが好ましい。
【0013】
また、多孔質焼結セラミックス基材2の接合面2aから侵入するろう材4の深さは、多孔質焼結セラミックスの最大気孔径の2倍以下であるのが好ましい。
【0014】
セラミックス基材をろう付するにあたり、特に気孔率の高い多孔質焼結セラミックスの表面のみを緻密化させ、基材内部へのろう材の侵入を制御し、多孔質部分の特性を損なうことなく安定したろう付を可能にする。これにより、緻密質セラミックスと多孔質焼結セラミックスあるいは多孔質焼結セラミックス同士の強固なろう付が可能となる。
【0015】
ろう付に使用されるろう材は特に限定されないが、できるだけセラミックス基材との熱膨張差が小さく、さらにそのセラミックス基材上でよく濡れるものを選定することによってより良好な接合部を得ることができる。特に緻密質炭化珪素と多孔質炭化珪素あるいは多孔質炭化珪素同士のろう付には、Si系ろう材もしくは純Siを用いることが最も好ましい。
【0016】
本セラミックス接合体は、上記のように焼成された緻密質セラミックス基材と多孔質焼結セラミックス基材あるいは多孔質焼結セラミックス基材同士の間にろう材を挟み込み、所定の温度まで温度を上げてろう付を行うことによって、ろう材が緻密質セラミックスと多孔質焼結セラミックスあるいは多孔質焼結セラミックスと多孔質焼結セラミックスとの間にろう材が流れ込むことによって強固な接合部が得られる。このとき、多孔質焼結セラミックスの表面は緻密化しているため、多孔質セラミックスの内部への侵入はほとんどない。このため気孔内に容易に侵入できる高気孔率セラミックス基材においても、ろう材の侵入を防ぐことが可能であることから、使用用途に応じた気孔率のものを選択することによって必要な通気性を確保した接合体を得ることが可能となる。
【0017】
多孔質セラミックスの気孔率については、好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。
【0018】
ろう付に使用されるろう材は特に限定されないが、できるだけセラミックス基材との熱膨張差が、小さく、さらにその基材上で濡れるものを選定することによってより良好な接合部を得ることができる。例えば炭化珪素同士のろう付にはSi系ろう材を用いることが好ましい。
【0019】
本セラミックス接合体は、上記のように焼成された緻密質セラミックスと多孔質セラミックスあるいは多孔質セラミックス同士の間にろう材を挟み込み、所定の温度まで温度を上げてろう付を行うことによって緻密室セラミックス基材と多孔質セラミックス基材あるいは多孔質セラミックス基材と多孔質セラミックス基材との間にろう材が流れ込むことによって接合部が形成される。
【0020】
多孔質セラミックス基材に230μm以上の気孔が含まれている場合には、その箇所からろう材が集中的に侵入し、多孔質セラミックス基材内部まで深く侵入してしまう。気孔内にろう材が深く侵入してしまうと多孔質セラミックスの特性である通気性が損なわれるため好ましくない。また、1カ所より集中して多孔質セラミックス基材内に侵入することから、侵入口以外の気孔からはほとんど多孔質セラミックス基材内へ侵入せず、逆にろう材不足になり、接合部にろう材がなくなってしまう。このため、接合層が不均一となり、良好な接合部を形成することができない。さらに200μm以上の気孔径が10%より多く存在する場合も同様に、ろう材が気孔径内に侵入する確率が極端に高くなり良好な接合部を形成することができない。
【0021】
本発明の多孔質焼結セラミックス基材を製造するには、例えば、下記のような方法による。即ち、溶媒にセラミックス粉末及び架橋重合性物質(モノマー)等を溶解または分散させてセラミックスラリーを調製する。このセラミックスラリーに、バインダー分散剤、制泡剤等を加え、得られたセラミックスラリーに架橋剤を添加し機械的に攪拌して起泡させた状態で成形し、架橋重合反応により前記架橋重合性物質をゲル化させて硬化させる。この際、攪拌強度等を調整することにより、泡状スラリーの気泡径等を制御する。そして、成形体を乾燥して溶媒を除去し、脱脂後、焼結して多孔質焼結セラミックス基材を得る。
【0022】
上記のように本第1実施形態のセラミックス接合体によれば、気孔径と気孔率が制御された多孔質焼結セラミックス基材と緻密質セラミックス基材をろう付することにより、ろう材が最適量だけ両基材に流れ込むことによって強固な接合部が得られ、さらに、ろう材が多孔質焼結セラミックスの内部まで侵入することがほとんどなく、使用用途に応じた気孔率のものを選択することによって必要な通気性・通液性を確保した接合体を得ることが可能となる。
【実施例】
【0023】
試験1:緻密質SiC焼結体の原料としては平均粒径0.7μmのSiC原料粉を用い、助剤としてBCを0.2重量%、カーボン源としてフェノール樹脂を適量、および溶媒としてアルコールを加え、樹脂ボールにて混合したその後、スプレードライヤーにて造粒粉を作製し、CIP成形を行って成形体を得た。その後、2000℃以上の不活性ガス雰囲気中にて焼成を行い気孔率0.01%以下の緻密質SiC焼結体を得た。
【0024】
多孔質SiC焼結体は原料として平均粒径0.7μmのSiC原料粉を用い、助剤としてBCを0.2重量%、カーボンブラックを2重量%、イオン交換水40重量%、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウムを0.1重量%添加し、ポットミルで24時間混合した。その後、発泡剤および硬化剤を適量添加し、所定の気孔径になるまで撹拌した後、プラスチック容器に流し込んで成形体を得た。その後、2000℃以上の不活性ガス雰囲気中にて焼成を行い、表1に示すような平均気孔径10μmから160μm、最大気孔径30〜240μmの多孔質SiC焼結体を得た。このとき気孔径200μm以下の気孔が表1に示すような基材全体の95%以上を占めるものと90%未満のものをそれぞれ準備した。その後、緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体との間にそれぞれ高純度Si材を挟み込んだ後、1600℃の真空中にてろう付を行った。ろう付後、各テストピースを切断して接合層を観察し、接合の状態について確認を行った。
【0025】
結果を下記及び表1に示す。
【0026】
[実施例1]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径10μm、最大気孔径30μm)を上記の方法にてろう付したところ、ろう材侵入深さは最大で約30μmであり、良好な接合部を得ることができた。
【0027】
[実施例2]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(気孔率50%、平均気孔径50μm、最大気孔径80μm)を上記の方法にてろう付したところ、ろう材侵入深さは最大で約50μmであり、図2に示すような良好な接合部を得ることができた。
【0028】
[実施例3]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径100μm、最大気孔径130μm)を上記の方法にてろう付したところ、ろう材侵入深さは最大で約130μmであり、良好な接合部を得ることができた。
【0029】
[実施例4]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(気孔率50%、平均気孔径100μm、最大気孔径180μm)を上記の方法にてろう付したところ、ろう材侵入深さは最大で約180μmであり、図3に示すような良好な接合部を得ることができた。
【0030】
[実施例5]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径150μm、最大気孔径200μm)を上記の方法にてろう付したところ、ろう材侵入深さは最大で約200μmであり、良好な接合部を得ることができた。
【0031】
[実施例6]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径150μm、最大気孔径230μm、多孔質SiC基材内において200μm以下の気孔が占める割合が95%)を上記の方法にてろう付したところ、ろう材侵入深さは最大で約230μmであり、良好な接合部を得ることができた。
【0032】
[比較例1]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径150μm、最大気孔径230μm、多孔質SiC基材内において200μm以下の気孔が占める割合が90%)を上記の方法でろう付したところ、230μmの気孔が存在していた部分にSiが集中し、この部分ではろう材が基材表面から500μm程度侵入しており、接合層が均一でなく良好な接合部を得ることができなかった。さらに、比較的気孔径の小さい部分ではSiが気孔内に侵入せず、230μmの気孔内へ流れてしまったため、接合界面にろう材が存在していない場所があった。
【0033】
[比較例2]
密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径140μm、最大気孔径240μm、多孔質SiC基材内において200μm以下の気孔が占める割合が90%)を上記の方法でろう付したところ、240μmの気孔が存在していた部分にSiが集中し、この部分ではろう材が基材表面から750μm付近まで侵入しており、接合層が均一でなく良好な接合部を得ることができなかった。さらに、比較的気孔径の小さい部分ではSiが気孔内に侵入せず、240μmの気孔内へ流れてしまったため、接合界面にろう材が存在していない場所があった。
【0034】
[比較例3]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径160μm、最大気孔径230μm、多孔質SiC基材内において200μm以下の気孔が占める割合が95%)を上記の方法でろう付したところ、230μmの気孔が存在していた部分にSiが集中し、この部分ではろう材が基材表面から500μm付近まで侵入しており、接合層が均一でなく良好な接合部を得ることができなかった。さらに、比較的気孔径の小さい部分ではSiが気孔内に侵入せず、230μmの気孔内へ流れてしまったため、接合界面にろう材が存在していない場所があった。
【0035】
[比較例4]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径150μm、最大気孔径240μm、多孔質SiC基材内において200μm以下の気孔が占める割合が95%)を上記の方法でろう付したところ、240μmの気孔が存在していた部分にSiが集中し、この部分ではろう材が基材表面から650μm付近まで侵入しており、接合層が均一でなく良好な接合部を得ることができなかった。さらに、比較的気孔径の小さい部分ではSiが気孔内に侵入せず、240μmの気孔の方へ流れてしまったため、接合界面にろう材が存在していない場所があった。
【0036】
[比較例5]
緻密質SiC焼結体と多孔質SiC焼結体(平均気孔径160μm、最大気孔径240μm、多孔質SiC基材内において、200μm以下の気孔が占める割合が88%)を上記の方法でろう付したところ、240μmの気孔が存在していた部分にSiが集中し、この部分ではろう材が基材表面から950μm付近まで侵入しており、接合層が均一でなく良好な接合部を得ることができなかった。さらに、比較的気孔径の小さい部分ではSiが気孔内に侵入せず、240μmの気孔の方へ流れてしまったため、接合界面にろう材が存在していない場所があった。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るセラミックス接合体の断面を示す概念図。
【図2】本発明の実施例の接合状態を示す図。
【図3】本発明の実施例の接合状態を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 セラミックス接合体
2 多孔質セラミックス基材
3 セラミックス基材
4 Si系ろう材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔が連通した連球状開気孔を有する多孔質焼結セラミックス基材の平均気孔径10μm以上150μm以下であり、最大気孔径が230μmで、かつ気孔全体の95%以上が200μm以下である多孔質焼結セラミックス同士もしくは前記多孔質焼結セラミックスと緻密質セラミックスとをろう材によって接合したことを特徴とするセラミックス接合体。
【請求項2】
前記多孔質焼結セラミックスの気孔率が40%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス接合体。
【請求項3】
前記多孔質焼結セラミックスおよび前記緻密質セラミックスが炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックス接合体。
【請求項4】
前記ろう材がSi系ろう材であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のセラミック接合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−282419(P2006−282419A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101635(P2005−101635)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】