説明

セラミックハニカム構造体

【課題】外壁を構成するセラミック粒子の、外壁からの離脱が少なく、耐久性及び耐磨耗性に優れ、外壁表面に印字した場合における、印字の磨耗損傷が起こり難いセラミックハニカム構造体を提供する。
【解決手段】多孔質の隔壁により区画形成された流体の流路となる複数のセルを有するセル構造体と、セル構造体の外周面上に配設された、セラミック粒子を含むコート材からなる外壁5とを備えたセラミックハニカム構造体2である。セラミック粒子の、平均粒子径が20〜50μmであるとともに、その厚み方向における外壁5の中央部分11の気孔率に比して、その厚み方向における外壁5の、中央部分11よりも外側の部分21の気孔率の方が小さいものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックハニカム構造体に関する。更に詳しくは、外壁の耐久性及び耐磨耗性に優れ、外壁表面における印字の磨耗損傷が起こり難いセラミックハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス中の微粒子、特にディーゼル微粒子を捕集するためのフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)として、又は排ガス中の窒素酸化物(NOX)、一酸化炭素(CO)、及び炭化水素(HC:Hydro Carbon)等を浄化する触媒を担持するための触媒担体として、セラミックからなるハニカム構造体(セラミックハニカム構造体)が用いられている。
【0003】
このようなセラミックハニカム構造体は、流体の流路となる複数のセルを有する多孔質体からなる、ハニカム形状のセル構造体を備えてなるものである。また、このセル構造体を構成する複数のセルの隔壁に触媒を担持させ、触媒体としても用いることができる。
【0004】
年々強化される排ガス規制に対応しなければならない近年にあっては、低燃費化・高出力化の要請から、触媒担体及びフィルタの圧力損失を低減するとともに、排ガス浄化効率の向上が要求されている。このような要求に応えるためには、セルの隔壁を薄くして圧力損失を低減するとともに、エンジン始動後に早期に触媒を活性化させ浄化性能を向上させる必要がある。
【0005】
このような構造的特徴を有するセラミックハニカム構造体は、隔壁が薄く、高気孔率であるが故に、機械的強度が低いという問題がある。そこで、機械的強度を向上させ使用時の変形や破損等を防止するために、補強手段を配設することが行われている。例えば、図5に示すように、ハニカム構造のセル構造体1の外周に外壁5を設ける、又は所定の補強材料等により構成された補強層(被覆層)を配設する等により、セラミックハニカム構造体の機械的強度を向上させる方法等が提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜7において開示されたハニカム構造体では、耐熱衝撃性が不十分である場合があった。そこで、外周壁部の熱膨張係数がセル壁部の熱膨張係数よりも小さい、耐熱衝撃性の向上を図ったセラミックハニカム構造体が開示されている(例えば、特許文献8,9参照)。但し、特許文献8,9において開示されたセラミックハニカム構造体であっても、それを構成する外周壁部(外壁)の耐久性及び耐磨耗性の面では十分であるとはいえない場合があり、更なる改良を図る必要性がある。また、外壁表面に品番等の情報を印字した場合においては、磨耗等により印字が損傷し、情報を認識し難くなるという不具合を生ずる場合があった。
【特許文献1】特公昭51−44713号公報
【特許文献2】実開昭50−48858号公報
【特許文献3】実開昭53−133860号公報
【特許文献4】実開昭63−144836号公報
【特許文献5】特許第2613729号公報
【特許文献6】特開2004−175654号公報
【特許文献7】特開2004−231506号公報
【特許文献8】特開2004−75523号公報
【特許文献9】特開2004−75524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、外壁を構成するセラミック粒子の、外壁からの離脱が少なく、耐久性及び耐磨耗性に優れ、外壁表面に印字した場合における、印字の磨耗損傷が起こり難いセラミックハニカム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、セラミックハニカム構造体を構成する外周面上に、セラミック粒子(平均粒子径:20〜50μm)を含むコート材を使用して外壁を形成し、この外壁の厚み方向における中央部分の気孔率に比して、中央部分よりも外側の部分の気孔率の方を小さくすることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下に示すセラミックハニカム構造体が提供される。
【0010】
[1]多孔質の隔壁により区画形成された流体の流路となる複数のセルを有するセル構造体と、前記セル構造体の外周面上に配設された、セラミック粒子を含むコート材からなる外壁と、を備えたセラミックハニカム構造体であって、前記セラミック粒子の、平均粒子径が20〜50μmであるとともに、その厚み方向における前記外壁の中央部分の気孔率に比して、その厚み方向における前記外壁の、前記中央部分よりも外側の部分の気孔率の方が小さいセラミックハニカム構造体。
【0011】
[2]前記外壁の厚みが、300μm〜5mmである前記[1]に記載のセラミックハニカム構造体。
【0012】
[3]前記セラミック粒子が、コージェライト、アルミナ、ムライト、シリカ、リシア、アルミニウムチタネート及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックからなる前記[1]又は[2]に記載のセラミックハニカム構造体。
【0013】
[4]前記外壁の最外周面上の少なくとも一部に、連続した又は分断された、その厚みが1〜50μmの表面緻密層を有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセラミックハニカム構造体。
【0014】
[5]前記外壁の最外周部に浸透して形成された、その厚みが10〜300μmの浸透緻密層を有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセラミックハニカム構造体。
【0015】
[6]前記流体の流路方向と直交する断面における前記表面緻密層の長さが、前記流体の流路方向と直交する断面における前記外壁の全周の60%以上の長さである前記[4]に記載のセラミックハニカム構造体。
【0016】
[7]前記表面緻密層が、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナを主成分としてなるコート層を乾燥、及び必要に応じて焼成してなる層である前記[4]〜[6]のいずれかに記載のセラミックハニカム構造体。
【0017】
[8]前記浸透緻密層が、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナを主成分としてなるコート層を乾燥、及び必要に応じて焼成してなる層である前記[5]に記載のセラミックハニカム構造体。
【0018】
[9]前記コート材に含まれるセラミック粒子の90%粒子径が、150μm以下である前記[1]〜[8]のいずれかに記載のセラミックハニカム構造体。
【0019】
[10]前記外壁の中央部分と、前記外壁の中央部分よりも外側の部分との気孔率の差が、1%以上である前記[1]〜[9]のいずれかに記載のセラミックハニカム構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセラミックハニカム構造体は、外壁を構成するセラミック粒子の外壁からの離脱が少なく、耐久性及び耐磨耗性に優れたものである。また、本発明のセラミックハニカム構造体は、その外壁表面に印字した場合においても、印字の磨耗損傷が起こり難いといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
図1は、本発明のセラミックハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のセラミックハニカム構造体1は、多孔質の隔壁4により区画形成された流体の流路となる複数のセル3を有するセル構造体1と、セル構造体1の外周面上に配設された外壁5とを備えたものである。セル構造体1を構成する材質は特に限定されないが、隔壁4が多孔質であることが必要であるため、通常は、コージェライト、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、ムライト、ジルコニア、燐酸ジルコニウム、アルミニウムチタネート、リシア、又はチタニア等のセラミックからなる焼結体が好適に用いられる。特に、コージェライトからなる焼結体は熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性や機械的強度に優れる点において特に好ましい。なお、図1においては任意のセル3に目封じ部10を配設した状態を示しているが、触媒担体として用いる場合には、この目封じ部10を配設する必要はない。
【0023】
外壁5は、例えば、セラミック粒子を含むコート材で、セル構造体の外周面を囲繞するように形成された外周コート層6を乾燥すること、又は乾燥後に焼成すること等により形成することができる。コート材に含まれるセラミック粒子は、コージェライト、アルミナ、ムライト、シリカ、リシア、及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックからなるものであることが好ましい。コート材が塗布されるセル構造体1の材質に合わせて適宜選択することで、セル構造体1とコート材との親和性を向上させることができる。
【0024】
本明細書にいう「外壁の中央部分」とは、図1のA部拡大図である図2に示すように、外壁5の厚みの40〜60%の範囲内に含まれる部分をいう。また、「外壁の中央部分よりも外側の部分」とは、最外周面7から外壁5の厚みの15%までの範囲内に含まれる部分をいう。更に、「外壁の厚み」とは、セル構造体(図示せず)の外周の包絡線と、外壁5の最外周面7との間の距離をいう。
【0025】
本実施形態のセラミックハニカム構造体2(図2参照)は、その厚み方向における外壁5の中央部分11の気孔率に比して、その厚み方向における外壁5の、中央部分11に比して外側の部分(外側部分21)の気孔率の方が小さいものである。即ち、本実施形態のセラミックハニカム構造体2の、外壁5の外側部分21は、中央部分11に比してより緻密に形成されている。本実施形態のセラミックハニカム構造体2の外壁5はこのように形成されているために、外壁5を構成するセラミック粒子が外壁5から離脱し難く、優れた耐久性及び耐磨耗性を示す。また、外壁5表面に品番等の情報を印字した状態で、セラミックハニカム構造体2を梱包する、又は所定の容器内にキャニングするような場合であっても、印字の磨耗損傷が起こり難く、印字された情報を長期間にわたって認識可能に維持することが可能である。なお、図2中、符号31は外壁5の内側部分を示す。
【0026】
ここで、本明細書にいう「気孔率」の測定方法について説明する。先ず、対象となるセラミックハニカム構造体を、流体の流路方向と平行に切断して所定の解析用断面を露出させる。この解析用断面を観察した顕微鏡写真について、例えば「Win ROOF」(商品名(三谷商事株式会社))等の市販の画像解析用ソフトを使用して画像解析を行い「気孔率」を求めた。画像解析の手順としては、先ず画像解析視野の面積(S)を算出する。次いで、粒子面積(S1)を算出する。算出した画像解析視野の面積(S)と粒子面積(S1)の値を下記式(1)に代入することによって、気孔率(P(%))を測定・算出することができる。
P(%)=(S−S1)/S×100 …(1)
【0027】
このときの画像解析視野を、外壁5の中央部分11、又は外側部分21(図2参照)に設定することにより、外壁5の中央部分11の気孔率(%)、及び外壁5の外側部分21の気孔率(%)をそれぞれ測定・算出することができる。また、セラミック粒子の粒子径は、ストークスの液相沈降法を測定原理とし、X線透過法により検出を行うX線透過式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製セディグラフ 5000−02型等)で測定することができる。求めた粒子径の分布から、セラミック粒子の平均粒子径や90%粒子径を求めることができる。なお、本明細書にいう「90%粒子径」とは、粒度分布において小さい粒子径からの累積質量90%における粒子径をいう。
【0028】
図2に示すように、本実施形態のセラミックハニカム構造体2は、外壁5の外側部分21の気孔率が、外壁5の中央部分11の気孔率に比して1%以上小さいことが好ましく、3%以上小さいことが更に好ましく、5%以上小さいことが特に好ましい。外側部分21と、中央部分11との気孔率の差が1%未満であると、外壁5の最外周面7上からセラミック粒子が離脱し易く、最外周面7上の所定位置に印字した場合、印字不良が発生し易くなる傾向にある。なお、気孔率の差の上限については特に限定されないが、実質的な製造可能性等の観点からは20%以下であればよい。
【0029】
また、本実施形態のセラミックハニカム構造体2は、外壁5の厚みが300μm〜5mmであることが好ましく、300μm〜3mmであることが更に好ましい。外壁5の厚みが300μm未満であると、その粒子が150μm前後のセラミック粒子がコート材に含まれる場合があるため、セル構造体への配設が困難になる場合がある。一方、外壁5の厚みが5mm超であると、1回の施工で外壁を配設することが困難となる。また、複数回の施工を要するためにコスト面において不利になる傾向にある。
【0030】
図3は、本発明のセラミックハニカム構造体の他の実施形態を模式的に示す一部拡大断面図である。図3に示すように、本実施形態のセラミックハニカム構造体は、その厚みが1〜50μmであるとともにそれを構成するセラミック粒子の粒子径が全て1μm未満である表面緻密層15が、外壁5の最外周面7上に形成されていることが好ましい。このような表面緻密層15が形成されることにより、外壁を構成するセラミック粒子の外壁からの離脱をより減少させてセラミックハニカム構造体の耐久性及び耐磨耗性を更に向上させることが可能になる。また、印字の磨耗損傷が更に起こり難くなる。
【0031】
表面緻密層15の厚みが1μm未満であると、表面緻密層15が形成されることにより発揮される効果が十分とはなり難くなる。一方、表面緻密層15の厚みが50μm超であると、図8に示すように、表面緻密層にその幅が25μmを超えるような大きなクラック・剥離等が発生し、印字不良を生じ易くなる傾向にある。なお、表面緻密層15の厚みは、1〜50μmであることが好ましく、1〜20μmであることが更に好ましい。表面緻密層15は、外壁5の最外周面7上の全体に形成されていることが好ましいが、最外周面7上の少なくとも一部に形成されていることも好ましい。具体的には、セラミックハニカム構造体のロット番号や識別記号等を記載するための印字部分のみに表面緻密層が形成されていることも好ましい。
【0032】
また、図9に示すように、本実施形態のセラミックハニカム構造体においては、外壁の最外周部に、その厚みが10〜300μmの浸透緻密層を有することが好ましい。この浸透緻密層は、外壁の最外周部に粒子径1μm以下のコート材を浸透させることにより形成される層である。このような浸透緻密層を有することにより、外壁を構成するセラミック粒子の外壁からの離脱をより減少させてセラミックハニカム構造体の耐久性及び耐磨耗性を更に向上させることが可能になる。また、印字の磨耗損傷が更に起こり難くなる。浸透緻密層の厚みが10μm未満であると、浸透緻密層が形成されることにより発揮される効果が十分とはなり難い。一方、浸透緻密層の厚みが300μm超であると、コスト面において不利になる傾向にある。なお、浸透緻密層の厚みは、10〜100μmであることが更に好ましい。
【0033】
また、図4は、本発明のセラミックハニカム構造体の更に他の実施形態を模式的に示す一部拡大断面図である。図4に示すように、本実施形態のセラミックハニカム構造体における表面緻密層15は、例えば微細なクラック20等によって分断された分断表面緻密層15bであってもよい。このような態様の分断表面緻密層15bであっても、外壁を構成するセラミック粒子の外壁からの離脱をより減少させてセラミックハニカム構造体の耐久性及び耐磨耗性を更に向上させることが可能になる。また、印字の磨耗損傷が更に起こり難くなる。
【0034】
なお、図3に示すように、表面緻密層15はクラック等によって分断されていない連続表面緻密層15aであることが特に好ましい。ここで、本明細書における分断表面緻密層15bに形成された微細なクラック20(図4参照)とは、その最大幅が25μm以下であるものをいう。最大幅が25μmよりも大きくなると、印字の確認が十分に行えなくなる傾向にある。
【0035】
図5は、DPFの一例を示す斜視図である。本実施形態のセラミックハニカム構造体2(DPF30)においては、流体の流路方向と直交する断面における、前述の表面緻密層(図示せず)の長さが、流体の流路方向と直交する断面における外壁の全周の60%以上の長さであることが好ましく、70%以上の長さであることが更に好ましい。表面緻密層の長さが、外壁の全周の60%未満の長さであると、表面緻密層が形成された効果が十分に発揮されなくなる傾向にある。なお、外壁の全体について耐久性及び耐磨耗性を更に向上させるとともに、印字の磨耗損傷が更に起こり難くするといった観点からは、表面緻密層の長さが、外壁の全周の100%の長さ(即ち、外壁の全周と同じ長さ)であることが最も好ましい。
【0036】
次に、本発明の実施形態であるセラミックハニカム構造体の更なる詳細について、その製造方法の一例を挙げて説明する。先ず、適当な硬度に調整した坏土を、所望のセル構造を得ることができる口金を用いて押出成形し、乾燥及び焼成することにより、ハニカム構造の焼結体を得ることができる。次いで、適当な研削加工方法により焼結体の外周部を研削加工して除去し、図6に示すようなセル構造体1を製造する。なお、焼成前の乾燥体の外周部を研削加工して除去してもよい。また、セル構造体は、複数のセル構造体セグメントの外周面どうしを相互に接合することにより製造することもできる。
【0037】
その後、図7に示すように、セル構造体1の外周面を囲繞するように所定のコート材を塗布して外周コート層6を形成する。コート材に含まれるセラミック粒子は、その平均粒子径が20〜50μmである。なお、セラミック粒子の90%粒子径は150μm以下であることが好ましい。また、セラミック粒子の平均粒子径は20〜40μmであることが好ましく、90%粒子径は100μm以下であることが更に好ましい。セラミック粒子の平均粒子径が20μm未満であると、外壁よりも中央部のほうの気孔率が小さくなり易くなる。一方、セラミック粒子の平均粒子径が50μm超であると、コート材の流動性が低下して塗り残しを生じ易くなる。また、コート表面が粗くなり易いために、印字性が低下する。セラミック粒子の90%粒子径が150μm超であると、粒子としては大き過ぎであるために、コート表面の凹凸が増大して印字性が低下し易くなる。また、セラミック粒子どうしを結合させるコロイダルシリカ等のバインダーが多量に必要となり、得られるセラミックハニカム構造体の耐熱衝撃性が低下したり、セラミックハニカム構造体自体の製造コストが上昇したりする。
【0038】
コート材を塗布して外周コート層を形成するに際しては、外周コート層6の厚みを決定すべく、セル構造体1を回転させつつヘラ等の部材で外周コート層6の表面を押圧する。ここで、本実施形態のセラミックハニカム構造体2を製造するには、セル構造体1を3回転以上回転させつつヘラ等の部材で外周コート層6の表面を押圧すればよい。セル構造体1を3回転以上回転させつつ外周コート層6の表面を押圧することにより、図2に示すように、外壁5の外側部分21を中央部分11に比してより緻密に形成することができる。
【0039】
なお、セル構造体のセルの断面形状に特に制限はないが、製作上の観点から、例えば図7に示すような四角形をはじめとして、三角形、六角形等の多角形、又は円形状のうちのいずれかの形状とすることができる。更に、用いるセル構造体の断面形状についても特に制限はない。例えば、図7に示すような円形状の他、楕円形状、レーストラック形状、長円形状、若しくは三角・四角・等の多角形状、又はこれらを組合せた異形形状とすることができる。
【0040】
また、図3及び図4に示すような表面緻密層15を外壁5の最外周面7上に形成する、或いは浸透緻密層を外壁の最外周部に形成するには、外周コート層の乾燥又は半乾燥後に、外周コート層の表面上にコロイダルシリカ又はコロイダルアルミナ等のコロイド状セラミックを主成分とする緻密層形成用のコート材を塗布すればよい。この緻密層形成用のコート材を塗布するには、スプレーコートやハケ塗り等の方法が採用される。なお、緻密層形成用のコート材を塗布する回数を増やすことにより、より緻密に形成された表面緻密層15や浸透緻密層(図示せず)を効率的に形成することができる。なお、表面緻密層及び浸透緻密層は、緻密層形成用のコート材を塗布してコート層を形成した後に乾燥すれば形成することができる。コート層の乾燥は、自然乾燥、強制乾燥のいずれの方式で行ってもよい。また、乾燥後に、必要に応じて焼成することも可能である。
【0041】
塗布時におけるコート材の粘度を選択することにより、表面緻密層を形成したり、浸透緻密層を形成したりすることができる。コート材の粘度が0.017Pa・s以上である場合には、表面緻密層が形成される傾向にある。一方、コート材の粘度が0.01Pa・s以下である場合には、浸透緻密層が形成される傾向にある。コート材の粘度は、水等の溶媒を増減させたり、塗布時の温度を調節したりすることにより、容易に調節することができる。また、コート材の粘度を調節することにより、表面緻密層と浸透緻密層の両方を形成することも容易である。
【0042】
図7に示すような、外周コート層6が形成されたセル構造体1を乾燥後、又は乾燥後に焼成することにより、セル構造体1と外壁5とを備えた、本発明の実施形態であるセラミックハニカム構造体2を得ることができる。なお、所定の目封じ部10を形成した場合には、図5に示すようなセラミックハニカム構造体2(DPF30)を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(セル構造体の製造)
タルク、カオリン、アルミナ、シリカ等を、焼成後にコージェライト組成(2MgO・2Al23・5SiO2)となるように混合したコージェライト原料粉末に、成形助剤、造孔剤、及び水を加え、混合・混練して坏土を得た。得られた坏土を押出成形し、乾燥することによって、ハニカム構造の乾燥体を得た。得られた乾燥体を焼成して焼結体とした後、外周部を研削加工により除去して外径を調整し、外径265mmのセル構造体を得た。このセル構造体のセル形状は四角形で、セル壁厚は0.25mm、セル密度は46.5セル/cm2であった。
【0045】
(実施例1〜14)
セラミック粒子として、平均粒子径が20〜50μm、90%粒子径が150μm以下であるコージェライト粒子を用意し、コロイダルシリカ、セラミックファイバー、水と混合して粘度が13.5Pa・sのコート材を調製した。外周コート機を使用して、セル構造体を3〜5回転させつつヘラで押圧してセル構造体の外周面を囲繞するようにコート材を塗布し、外周コート層を形成した。その後、25℃で48時間乾燥することにより外壁を形成し、外径267mm×長さ400mm、外壁厚1.0mmのセラミックハニカム構造体(実施例1〜14)を製造した。
【0046】
(比較例1〜7)
外周コート層を形成するに際して、セラミック粒子として、平均粒子径が10〜70μm、90%粒子径が170μm以下であるコージェライト粒子を用意し、コロイダルシリカ、水と混合して粘度が13.5Pa・sのコート材を調製し、セル構造体を1〜4回転、回転させつつヘラで押圧してセル構造体の外周面を囲繞するようにコート材を塗布した後、25℃で48時間乾燥すること以外は、上述の実施例1〜14の場合と同様にして、セラミックハニカム構造体(比較例1〜7)を製造した。
【0047】
実施例1〜14、比較例1〜7のセラミックハニカム構造体を、それぞれ流路方向と平行に切断し、樹脂埋めした後、観察面を研磨して電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。SEM写真の倍率は画像解析が可能であれば特に限定しないが、今回は100倍にて評価した。また、画像解析の面積は、0.1〜0.3mm2とした。実施例のセラミックハニカム構造体を流路方向と平行に切断した断面における微構造を示すSEM写真の一例を、図10に示す。このSEM写真を使用して画像解析を行い、外壁の外側部分の気孔率(B)と中央部分の気孔率(A)、及び気孔率差(A−B)を測定・算出した。測定・算出結果を表1に示す。
【0048】
(耐磨耗性確認試験)
セラミックハニカム構造体(実施例1〜14、比較例1〜7)を、外壁面の寸法が40mm×40mmとなるように切断するとともに、切断面における脱落の可能性のある部分をサンドペーパー(#240)で研磨除去することによって、試験用サンプルを作製した。なお、各試験用サンプルを、それぞれの初期質量が9±1gとなるように加工した。商品名「リファイン・ポリッシャーHV」(型番:APM−128F(リファインテック(株)製))のφ200のアルミ板(回転板)の表面に、コピー用紙(商品名:マイリサイクルペーパー100((株)NBSリコー製))を両面テープで貼り付けた。20rpmで回転中のアルミ板上面(紙接着面)に、試験用サンプル及び負荷オモリ(143g)をこの順で載置して試験を開始した。試験開始1分後に試験用サンプルを外すとともに、擦れ面をエアーで塵払いし、試験用サンプルの質量・磨耗面の寸法を測定するとともに、磨耗量(g)及び単位磨耗面積当たりの磨耗量(mg/mm2)を算出した。算出した磨耗量の結果を、以下に示す基準に従って評価した。
◎:磨耗量が、0.05mg/mm2未満。ほとんど磨耗せず、実使用上問題がない。
○:磨耗量が、0.05mg/mm2以上、0.15mg/mm2未満。磨耗量少なく、実使用上問題ない。
△:磨耗量が、0.15mg/mm2以上、0.2mg/mm2未満。磨耗量少々多いが、実使用上問題ない。
×:磨耗量が、0.2mg/mm2以上。磨耗量多く、実使用上問題あり。
【0049】
この試験において、実施例6では磨耗量が0.012g、磨耗面の寸法が9mm×40mmで、単位磨耗面積当りの磨耗量は、0.033mg/mm2であり、「◎」の評価であった。一連の評価結果を表1に示す。
【0050】
(外周コート層の状態評価)
外周コート層の状態を、以下に示す基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
◎:コート面は平滑であり凹凸がない。
○:コート面に凹凸が発生せず、コート材の剥れも生じなかったが微小クラックが存在する。実用上の問題はない。
△:コート面に凹凸が発生した(セル構造体までは見えない、深さ1.0mm未満のヘコミ発生)が実用上問題ない。
×:コート材が剥れ(セル構造体が見える、深さ1.0mm以上のヘコミ発生)実用上問題あり。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例15〜22、比較例8〜11)
実施例15〜22、比較例8〜11のセラミックハニカム構造体の外壁に、表3に示すシリカゾル(1)〜(4)(いずれもコロイダルシリカである)をそれぞれ塗布した後、110℃の熱風で10分間乾燥することにより、表面緻密層又は浸透緻密層を有するセラミックハニカム構造体(実施例15〜22、比較例8〜11)を得た。なお、表面緻密層や浸透緻密層の厚みは、シリカゾルの粘度や塗布回数を変えることにより任意に調整可能である。また、2種類以上の異なるシリカゾルを重ねて塗布したり、予め2種類以上のシリカゾルを混合してから塗布してもよい。更には、表面緻密層と浸透緻密層の両方が形成されるように製造条件を選ぶことも容易である。得られたセラミックハニカム構造体をそれぞれ流路方向と平行に切断し、切断面の電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、表面緻密層及び浸透緻密層の厚みを測定した。測定結果を表2に示す。
【0053】
得られたセラミックハニカム構造体の表面緻密層及び浸透緻密層を、以下に示す基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。
○:最適な厚みの表面緻密層(1〜50μm)又は浸透緻密層(10〜300μm)がある。
×:表面又は浸透緻密層があるが最適厚でない。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
(考察)
表1に示すように、実施例1〜14のセラミックハニカム構造体の外壁は、比較例1〜7のセラミックハニカム構造体の外壁に比して耐磨耗性に優れていることが明らかである。また、表2に示すように、実施例15〜22のセラミックハニカム構造体は、それぞれ最適な厚みの表面緻密層又は浸透緻密層を有するものである。従って、実施例15〜22のセラミックハニカム構造体は、比較例8〜11のセラミックハニカム構造体に比して、外壁の耐久性及び耐磨耗性の更なる向上が期待される。また、印字の磨耗損傷が更に起こり難くなることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のセラミックハニカム構造体は、外壁の耐久性及び耐磨耗性に優れ、外壁表面における印字の磨耗損傷が起こり難いものであり、DPF、又は触媒担体として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のセラミックハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】本発明のセラミックハニカム構造体の他の実施形態を模式的に示す一部拡大断面図である。
【図4】本発明のセラミックハニカム構造体の更に他の実施形態を模式的に示す一部拡大断面図である。
【図5】DPFの一例を示す斜視図である。
【図6】セル構造体を流体の流路方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【図7】セラミックハニカム構造体を流体の流路方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【図8】セラミックハニカム構造体を流路方向と平行に切断した断面における微構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】セラミックハニカム構造体を流路方向と平行に切断した断面における微構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例セラミックハニカム構造体を流路方向と平行に切断した断面における微構造を示す電子顕微鏡写真の一例である。
【符号の説明】
【0059】
1…セル構造体、2…セラミックハニカム構造体、3…セル、4…隔壁、5…外壁、6…外周コート層、7…最外周面、10…目封じ部、11…中央部分、15…表面緻密層、15a…連続表面緻密層、15b…分断表面緻密層、20…クラック、21…外側部分、30…DPF、31…内側部分、T…外壁の厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁により区画形成された流体の流路となる複数のセルを有するセル構造体と、前記セル構造体の外周面上に配設された、セラミック粒子を含むコート材からなる外壁と、を備えたセラミックハニカム構造体であって、
前記セラミック粒子の、平均粒子径が20〜50μmであるとともに、
その厚み方向における前記外壁の中央部分の気孔率に比して、その厚み方向における前記外壁の、前記中央部分よりも外側の部分の気孔率の方が小さいセラミックハニカム構造体。
【請求項2】
前記外壁の厚みが、300μm〜5mmである請求項1に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項3】
前記セラミック粒子が、コージェライト、アルミナ、ムライト、シリカ、リシア、アルミニウムチタネート及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックからなる請求項1又は2に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項4】
前記外壁の最外周面上の少なくとも一部に、連続した又は分断された、その厚みが1〜50μmの表面緻密層を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項5】
前記外壁の最外周部に浸透して形成された、その厚みが10〜300μmの浸透緻密層を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項6】
前記流体の流路方向と直交する断面における前記表面緻密層の長さが、前記流体の流路方向と直交する断面における前記外壁の全周の60%以上の長さである請求項4に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項7】
前記表面緻密層が、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナを主成分としてなるコート層を乾燥、及び必要に応じて焼成してなる層である請求項4〜6のいずれか一項に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項8】
前記浸透緻密層が、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナを主成分としてなるコート層を乾燥、及び必要に応じて焼成してなる層である請求項5に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項9】
前記コート材に含まれるセラミック粒子の90%粒子径が、150μm以下である請求項1〜8のいずれか一項に記載のセラミックハニカム構造体。
【請求項10】
前記外壁の中央部分と、前記外壁の中央部分よりも外側の部分との気孔率の差が、1%以上である請求項1〜9のいずれか一項に記載のセラミックハニカム構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−255542(P2006−255542A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74187(P2005−74187)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】