説明

セラミックヒータの製造方法

【課題】優れた強度を有するとともに、所望の抵抗値を備えたセラミックヒータを安定的に製造することができるセラミックヒータの製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックヒータ4は、窒化珪素及び導電性セラミックを主成分として含んでなる発熱体22が、絶縁性セラミックを主成分とする基体21に対して形成されることで構成される。セラミックヒータ4の製造方法は、窒化珪素粉末及び導電性セラミック粉末を混合し、原料粉末を調整する原料調整工程(S11)と、原料粉末により、前記発熱体22となる発熱体成形体31を成形する成形工程(S12)と、発熱体成形体31を焼成し、発熱体22を得る焼成工程(S6)とを含む。また、原料粉末としての導電性セラミック粉末の比表面積が1.2m2/g以上1.8m2/g以下とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性セラミックからなる発熱体が絶縁性セラミックからなる基体にて保持されてなるセラミックヒータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンの始動補助等に用いられるグロープラグは、筒状の主体金具や通電により発熱する発熱体を内蔵するヒータ等を備える。また、前記ヒータとしては、セラミックヒータが採用される場合がある。セラミックヒータは、導電性を有するセラミック製の発熱体が、絶縁性を有するセラミック製の基体によって保持されることで構成される。
【0003】
このようなセラミックヒータは、一般的に次のようにして製造される。すなわち、絶縁性セラミック粉末(例えば、窒化珪素等)と、導電性セラミック粉末(例えば、タングステンカーバイド等)とに焼結助剤を混入させたものを水の中でスラリー状とし、スプレードライを施すことで粉末状態とする。そして、当該粉末とバインダとを混錬し、混錬したものを前記発熱体の形状に成形し、発熱体成形体を作製する。一方で、所定の絶縁性セラミック粉末を主成分とする粉末をプレス成形することで、前記基体となるべき絶縁成形体を形成するとともに、当該絶縁成形体の内部に前記発熱体成形体が配置されてなる保持体を作製する。その後、当該保持体に対して脱脂加工やホットプレス法による焼成を施すとともに、研磨加工により外形を整えることで前記セラミックヒータが得られる。
【0004】
ところで、前記発熱体の機械的強度を向上させるべく、導電性セラミック粉末として、粒径の比較的小さなものを用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。当該特許文献1には、導電性セラミック粉末の粒径を変更することで発熱体の抵抗温度係数を変更できる旨が記載されている。
【0005】
また、前記発熱体の抵抗値は、一般的には前記導電性セラミック粉末の含有割合を調整することにより設定される。加えて、導電性セラミック(発熱体)と絶縁性セラミック(基体)を構成するセラミックの粒径を適宜変更することにより、同材質からなるセラミックであっても焼成後に導電性を示す部位と絶縁性を示す部位とを作り分け、これによりセラミックヒータを得る技術が存在する。こうすることで、発熱体と基体との熱膨張率の相違をなくすことができるようである(例えば、特許文献2等参照)。このように、セラミック粒径がセラミックヒータに与える影響は従来から周知であるから、セラミックヒータの製造に際しては原料(粉末)の混合割合の管理に加え、粒径の管理及び粒成長に影響を与える焼成条件の管理が厳密に行われるとともに重要視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−156275号公報
【特許文献2】特開昭63−96883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、従来の原料粉末の粒径管理は、導電性セラミックの粒径をフィッシャー法により測定することでその管理を行っていた。ところが、このような粒径管理により原料粉末の粒径を厳密に管理し、一定条件下の焼成条件で、同一材料を用いてセラミックヒータを作製しても、他のセラミックヒータと比較して、抵抗値が大きく異なったり、強度が低下したものが製造される場合があった。すなわち、従来の粒径管理では、発熱体の抵抗値にばらつきが生じることを抑制できないことがあった。そこで、本願発明者が更なる検討を重ねた結果、導電性セラミック粉末の本来の原料粉末の粒径が、焼成して完成されたセラミックヒータの発熱体の抵抗値のばらつきに影響を与えることが明らかとなり、上記不具合は、導電性セラミックの粉末に凝集等が起こった結果、測定した導電性セラミック粉末の粒径が、本来の導電性セラミック粉末の粒径と異なったものとなったために生じることを見出した。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性セラミック粉末により発熱体が構成されてなるセラミックヒータについて、優れた強度を有するとともに、所望の抵抗値を備えたセラミックヒータを安定的に製造することができるセラミックヒータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0010】
構成1.本構成のセラミックヒータの製造方法は、窒化珪素及び導電性セラミックを主成分として含んでなる発熱体が、絶縁性セラミックを主成分とする基体に対して形成されてなるセラミックヒータの製造方法であって、
窒化珪素粉末及び導電性セラミック粉末を混合し、原料粉末を調整する原料調整工程と、
前記原料粉末により、前記発熱体となる発熱体成形体を成形する成形工程と、
前記発熱体成形体を焼成し、前記発熱体を得る焼成工程とを含み、
前記原料粉末としての導電性セラミック粉末の比表面積を1.2m2/g以上1.8m2/g以下としたことを特徴とする。
【0011】
本願発明者が度重なる実験を重ね、鋭意検討したところ、原料粉末の本来の粒径と、当該粉末の比表面積との間には相関関係があることが判明した。
【0012】
そこで、上記構成1によれば、原料調整工程において、粒径ではなく、比表面積に基づいて混合される導電性セラミック粉末が決定される。従って、凝集が起きやすく、正確な粒径を測定することが困難な導電性セラミック粉末を原料に用いた場合であっても、本来の粒径と相関の取れた、所望の抵抗値や強度を有するセラミックヒータをより確実に製造することができ、ひいては生産性の向上を図ることができる。
【0013】
また、本構成1によれば、前記導電性セラミック粉末の比表面積が1.2m2/g以上1.8m2/g以下とされる。ここで、導電性セラミック粉末の比表面積を1.2m2/g以上とする(すなわち、粒径の比較的小さなものを用いる)ことで、導電性セラミックの結晶によって窒化珪素結晶の粒成長が阻害されてしまうという事態をより確実に防止することができる。そのため、多数の針状結晶が入り込んだ窒化珪素本来の構造が形成されやすくなり、粒界強度の向上、ひいては製造される発熱体について機械的強度の向上を図ることができる。
【0014】
このように強度の向上を図るという観点からは、導電性セラミック粉末の粒径を小さくすることが好ましいが、粒径を過度に小さくすると、次のような問題が生じ得る。すなわち、窒化珪素結晶の粒成長に伴い導電性セラミックの結晶が押されて導電性セラミックの結晶同士が接触するところ、導電性セラミックの粉末の粒径を過度に小さくすると、窒化珪素結晶の粒成長の程度のわずかな相違により、導電性セラミックの結晶間の接触面積(接触抵抗)が極端に増減してしまう。そのため、熱履歴や焼成温度等のわずかな違いにより、形成されるセラミックヒータの抵抗値が大きく増減してしまうおそれがある。
【0015】
この点、本構成1によれば、導電性セラミック粉末の比表面積を1.8m2/g以下とする(すなわち、ある程度の大きさを有するものを用いる)ことで、熱履歴や焼成温度等に多少の違いがあったとしても、導電性セラミックの結晶間における接触面積(接触抵抗)の増減を極力抑制することができる。従って、製造される発熱体について、その抵抗値のばらつきを極力小さなものとすることができ、所望の抵抗値を有するセラミックヒータをより確実に製造することができる。
【0016】
以上のように、本構成1によれば、優れた強度を有するとともに、所望の抵抗値を備えたセラミックヒータを安定的に製造することができる。
【0017】
構成2.本構成のセラミックヒータの製造方法は、上記構成1において、前記原料粉末中における、前記導電性セラミックがタングステンカーバイド(WC)であって、その含有量を64.0wt%以上67.0wt%以下としたことを特徴とする。
【0018】
上記構成2によれば、WC粉末の含有量が64.0wt%〜67.0wt%とされる。従って、製造される発熱体について、焼成温度等の相違に伴う抵抗値の変動幅をより一層小さなものすることができるとともに、一層優れた強度を実現することができる。
【0019】
尚、WC粉末の混合量が64.0wt%未満とされると、焼成温度や熱履歴の相違等に伴う発熱体の抵抗値の変動幅が若干大きなものとなってしまうおそれがある。一方で、WC粉末の混合量が67.0wt%を超えると、窒化珪素の含有量が相対的に減少してしまい、ひいては強度の低下を招いてしまうおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態におけるグロープラグの構成を示すものであり、(a)は、グロープラグの断面図であり、(b)は、グロープラグの正面図である。
【図2】グロープラグの先端部を示す部分拡大断面図である。
【図3】セラミックヒータの製造工程を示すフローチャートである。
【図4】半割絶縁成形体の収容凹部に発熱体成形体を設置する過程を説明する斜視図である。
【図5】保持体を示す斜視図である。
【図6】(a)は、保持体の焼成時におけるプレス方向を示す断面図であり、(b)は、得られた焼成体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、一実施形態について図面を参照して説明する。まず、本発明に係るセラミックヒータ4を備えるセラミックグロープラグ1(以下、「グロープラグ1と称す」)について、図1(a),(b)及び図2を参照しつつ説明する。図1(a)は、グロープラグ1の縦断面図であり、図1(b)は、グロープラグ1の正面図である。また、図2は、セラミックヒータ4を中心に示す部分拡大断面図である。尚、図1,2においては、図の下側をグロープラグ1(セラミックヒータ4)の先端側、上側を後端側として説明する。
【0022】
図1(a),(b)に示すように、グロープラグ1は、主体金具2、中軸3、セラミックヒータ4、外筒5、端子ピン6等を備えている。
【0023】
主体金具2は、所定の金属材料(例えば、S45C等の鉄系素材)によって形成されるとともに、軸線CL1方向に沿って延びる軸孔7を有している。さらに、前記主体金具2の長手方向中央部外周には、グロープラグ1をエンジンのシリンダヘッドに取付けるための雄ねじ部8が形成されている。併せて、主体金具2の後端部外周には断面六角形状をなす鍔状の工具係合部9が形成されており、前記シリンダヘッドにグロープラグ1(雄ねじ部8)を取付ける際には、当該工具係合部9に使用される工具が係合されるようになっている。
【0024】
また、主体金具2の軸孔7には、金属製で丸棒状をなす前記中軸3が収容されている。さらに、当該中軸3の先端部は、金属材料(例えば、SUS等の鉄系素材)によって形成された円筒状の接続部材10の後端部に圧入されるとともに、当該接続部材10の先端部には、前記セラミックヒータ4の後端部が圧入されている。そのため、中軸3とセラミックヒータ4とが接続部材10を介して機械的かつ電気的に接続されている。尚、前記中軸3の先端側には、その外径が先端側へと細径化されてなる括れ部13が形成されており、当該括れ部13によって、中軸3に伝わる応力の緩和等が図られている。
【0025】
一方で、前記中軸3の後端部には、金属製の前記端子ピン6が加締め固定されている。また、当該端子ピン6の先端部及び前記主体金具2の後端部の間には、両者間における直接的な電気的導通を防止すべく、絶縁性素材よりなる絶縁ブッシュ11が設けられている。さらに、前記軸孔7内の気密性の向上等を図るべく、前記主体金具2及び前記中軸3の間には、前記絶縁ブッシュ11の先端部に接触するようにして絶縁性素材からなるOリング12が設けられている。
【0026】
加えて、前記外筒5は、所定の金属材料によって筒状に形成されている。また、当該外筒5は、前記セラミックヒータ4の軸線CL1方向に沿った中間部分を保持しており、セラミックヒータ4の先端部は前記外筒5の先端から露出した状態となっている。さらに、前記外筒5は、自身の後端部が前記軸孔7に挿入された状態で、主体金具2及び外筒5の接触面外縁に沿ってレーザー溶接を施すことで、主体金具2に接合されている。尚、グロープラグ1を内燃機関に取付けた際には、前記外筒5の長手方向中央外周に形成されたテーパ状部分が燃焼室との気密を確保するシールとしての役割を担うこととなる。
【0027】
次に、セラミックヒータ4の詳細について説明する。図2に示すように、セラミックヒータ4は、絶縁性セラミックによって構成されるとともに、軸線CL1方向に延びる略同径で丸棒状の基体21を有し、その内部に、導電性セラミックよりなる長細いU字状をなす発熱体22が埋設状態で保持されている。また、当該発熱体22は、一対の棒状のリード部23,24と、前記リード部23,24の先端部同士を連結する連結部25とを備え、当該連結部25のうち特に先端側の部分が発熱部26となっている。発熱部26は、いわゆる発熱抵抗体として機能する部位であり、曲面状に形成されたセラミックヒータ4の先端部分において、その曲面に沿うようにして断面略U字状をなしている。また、本実施形態においては、発熱部26の断面積がリード部23,24の断面積よりも小さくなるようにして構成されており、通電時には、前記発熱部26において積極的に発熱が行われるようになっている。
【0028】
さらに、前記リード部23,24は、それぞれセラミックヒータ4の後端側に向けて互いに略平行に延設されている。加えて、一方のリード部23の後端寄り位置には、電極取出部27が外周方向に突設されている。そして、当該電極取出部27は、セラミックヒータ4の外周面に露出している。同様に、他方のリード部24の後端寄りの位置にも、電極取出部28が外周方向に突設されており、当該電極取出部28が、セラミックヒータ4の外周面に露出している。尚、前記一方のリード部23の電極取出部27は、前記軸線CL1方向に沿って、前記他方のリード部24の電極取出部28よりも後端側に位置している。
【0029】
加えて、電極取出部27の露出部分は、前記接続部材10の内周面に接触している。その結果、接続部材10に接続された中軸3と前記リード部23との電気的導通が図られている。また、前記電極取出部28の露出部分は、外筒5の内周面に対して接触している。これにより、外筒5に接合された主体金具2とリード部24との電気的導通が図られている。すなわち、本実施形態では、前記中軸3と主体金具2とが、グロープラグ1において、セラミックヒータ4の発熱部26に通電するための陽極・陰極として機能するようになっている。
【0030】
加えて、本実施形態では、前記セラミックヒータ4のうち、発熱体22が、導電性セラミック材料としてのタングステンカーバイド(WC)粉末と、窒化珪素粉末とを主成分とする原料粉末を焼成することで形成されている。また、前記原料粉末中における、前記WC粉末の含有量が64.0wt%(質量%)以上67.0wt%(質量%)以下とされている。尚、発熱体22は、窒化珪素やWC以外の成分(例えば、各種焼結助剤等)を含んで構成されることとしてもよい。また、WCは、例えば、タングステン酸アンモニウムから製造することができる。
【0031】
一方で、前記基体21は、窒化珪素を主成分とする絶縁性セラミック粉末が焼成されることで形成されている。尚、基体21は、その他の成分(例えば、希土類成分やアルミナ等)を含んで構成されることとしてもよい。
【0032】
次いで、上述したグロープラグ1の製造方法について説明する。尚、特に明記しない部位については、従来公知の方法により製造されるものとする。
【0033】
まず、前記セラミックヒータ4を製造しておく。すなわち、図3に示すように、素子成形工程(S1)において、上述した発熱体22の前駆体である発熱体成形体31(図4参照)を成形する。詳述すると、まず、原料調整工程(S11)においては、WC粉末に、窒化珪素粉末や焼結助剤等の添加物を混入したものを水の中でスラリー状にするとともに、スプレードライを施し、乾燥させることで原料粉末を得る。尚、本実施形態においては、前記WC粉末として、比表面積が1.2m2/g以上1.8m2/g以下のものが用いられている。また、原料粉末中における前記WC粉末の含有量は64.0wt%以上67.0wt%以下とされている。
【0034】
尚、比表面積は、BET法(例えば、JIS R1626の一点法)により測定することができる。すなわち、前処理として、WC粉末を60分間に亘り200℃で加熱し、脱気する。次いで、液体窒素によりWC粉末を冷却した後、N2ガスをWC粉末に飽和吸着させる。次に、WC粉末を室温まで放置し、WC粉末からN2ガスを離脱させる。そして、離脱したガスの量からN2ガスの吸着量を測定することで、当該吸着量やWC粉末の重量等に基づいて比表面積を算出できる。
【0035】
次いで、成形工程(S12)において、前記原料粉末にバインダとしての樹脂チップを混錬し、射出成形を行う。その後、バインダの一部を灰化させる(取り除く)べく予備的に加熱乾燥を行うことで、発熱体成形体31を作製する。当該発熱体成形体31は、図4に示すように、未焼成のリード部32,33と、リード部32,33の先端側(図の左側)を連結するU字形状の未焼成の連結部34とを備えている。
【0036】
尚、リード部32,33の後端側を接続するサポート部(図示せず)を一体的に形成することとしてもよい。この場合には、比較的細く、また、焼成前であり強度の低い連結部34への応力の集中を防止でき、連結部34の割れや折れ等をより確実に防止することができる。尚、前記サポート部を設けた場合、当該サポート部は後述する焼成工程後に切断されることとなる。
【0037】
さて、セラミックヒータ4の製造過程の説明に戻り、前記素子成形工程(S1)とは別に、半割絶縁成形体成形工程(S2)において、基体21の半分を構成する半割絶縁成形体41(図4参照)を形成する。詳述すると、まず、半割絶縁成形体41を構成する材料としての絶縁性セラミック粉末を用意する。すなわち、主成分である窒化珪素にCr化合物粉末やアルミナ、窒化アルミニウム等を混入したものを、窒化珪素製の球石を使用してエタノール中で40時間湿式混合し、次いで湯煎乾燥し、粉末状とすることで、前記絶縁性セラミック粉末が用意される。
【0038】
そして、前記絶縁性セラミック粉末を所定の金型装置(図示せず)によりプレス成形することで、前記半割絶縁成形体41が形成される。尚、金型装置としては、例えば、平面視長方形状の開口を有する枠形状の外枠と、当該外枠に対して上下動可能な下型及び上型とを備えている。そして、外枠の開口に下型の凸部を挿通させた状態とし、開口内に、前記絶縁性セラミック粉末を所定量充填した上で、前記上型を下動させ、所定圧力でプレス加圧する。これにより、収容凹部42の形成された半割絶縁成形体41(図4参照)が得られる。尚、発熱体成形体31の成形と、半割絶縁成形体41の成形とは、どちらを先に行うこととしてもよい。
【0039】
次いで、保持体成形工程(S3)において、前記半割絶縁成形体41及び発熱体成形体31、並びに、前記絶縁性セラミック粉末を用いた保持体51(図5参照)の成形が行われる。この保持体51の成形に際しても所定の金型装置(図示せず)が使用される。金型装置としては、例えば上記同様の枠形状をなす外枠と、当該外枠に対して上下動可能な下型及び上型とを備えている。そして、外枠の開口に下型の凸部を挿通させた状態とし、その上に前記半割絶縁成形体41をセットする。次いで、セットされた半割絶縁成形体41の収容凹部42に、発熱体成形体31を設置する。次に、前記外枠の開口内に、上述の絶縁性セラミック粉末を充填し、上型の凸部を開口に挿通させて上型を下動させ、所定圧力でプレス加圧する。これにより、図5,6にしめすように、発熱体成形体31が絶縁成形体52で保持されてなる保持体51が得られる。
【0040】
次いで、脱脂工程(S4)において、前記保持体51を、窒素ガス雰囲気下で所定温度(例えば、約800℃)にて加熱し、前記バインダを除去する。
【0041】
その後、離型剤塗布工程(S5)において、保持体51の外表面全体に離型剤が塗布される。続いて、保持体51が焼成工程(S6)に供される。この工程では、いわゆるホットプレス法による焼成が行われる。すなわち、図示しないホットプレス加工機を用い、非酸素雰囲気下で、1800℃、1.5時間、ホットプレス圧力25MPaで図6(a)に示す保持体51を加圧・加熱することによって、図6(b)に示す焼成体61を得る。尚、焼成工程においては、焼成後の焼成体61が略円柱状となるように、上述したセラミックヒータ4の外形に準じた形状の凹部が形成されたカーボン治具が用いられてホットプレス焼成が行われる。また、保持体51は、図6(a)において矢印で示すように一軸加圧条件下で加圧される。
【0042】
その後、研磨工程(S7)において、焼成体61に各種研磨加工を施すことで、上述したセラミックヒータ4が得られる。尚、研磨加工としては、公知のセンタレス研磨機を用いて焼成体61の外周を研磨し、電極取出部27,28を外周面から露出させるセンタレス研磨や、基体21の先端部に曲面加工を施し、外周面と発熱部26との距離の均一化を図るためのR研磨などがある。
【0043】
次いで、SUS630等の鉄系素材からなるパイプ材を所定長さに切断した上で、所定の円筒形状に整えることにより接続部材10を形成する。加えて、所定の金属材料(例えば、SUS430)からなるパイプ材を切断し、切削加工を施すことによって、外筒5を形成する。尚、接続部材10及び外筒5の表面に、Auメッキ等のメッキ加工を施すこととしてもよい。
【0044】
その後、前記接続部材10の先端部に対して、前記セラミックヒータ4の後端部を圧入する。そして、セラミックヒータ4を前記外筒5の内孔に対して圧入する。このとき、外筒5は、前記接続部材10と接触しないように軸線CL1方向に離間させて圧入固定される。
【0045】
次いで、前記接続部材10後端部に対して予め製造した中軸3を嵌め込んだ上で、接続部材10及び中軸3の接触面に沿ってレーザービームを照射し、接続部材10及び中軸3を接合する。これにより、中軸3、セラミックヒータ4、中筒5、及び、接続部材10が一体化して構成されることとなる。
【0046】
一方で、主体金具2を製造しておく。すなわち、所定の金属材料からなるパイプ材を所定長さに切断した上で、切削加工や転造加工を施すことで、前記雄ねじ部8や前記工具係合部9を備えた主体金具2が得られる。
【0047】
次に、前記中軸3やセラミックヒータ4等が一体化された中筒5と前記主体金具2とが接合される。すなわち、中筒5の後端部を主体金具2の軸孔7に嵌合した上で、前記中筒5及び主体金具2の接触面外縁に沿ってレーザービームを照射する。これにより、中軸3やセラミックヒータ4等と一体化された中筒5、及び、主体金具2が接合される。
【0048】
最後に、前記絶縁ブッシュ11及びOリング12を、主体金具2及び中軸3間の所定位置に配置した上で、主体金具2の後端側から突出した中軸3の後端部に予め形成した端子ピン6を加締め固定することでグロープラグ1が得られる。
【0049】
以上詳述したように、本実施形態によれば、原料調整工程S11においては、粒径ではなく、比表面積に基づいて混合されるWC粉末が決定される。従って、凝集が起きやすく、正確な粒径を測定することが困難なWC粉末を用いた場合であっても、本来の粒径と相関の取れた、所望の抵抗値や強度を有するセラミックヒータ4(発熱体22)をより確実に製造することができ、ひいては生産性の向上を図ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、WC粉末の比表面積が1.2m2/g以上1.8m2/g以下とされる。ここで、WC粉末の比表面積を1.2m2/g以上とする(すなわち、粒径の比較的小さなWC粉末を用いる)ことで、WC結晶によって窒化珪素結晶の粒成長が阻害されてしまうという事態をより確実に防止することができる。そのため、多数の針状結晶が入り込んだ窒化珪素本来の構造が形成されやすくなり、粒界強度の向上、ひいては製造される発熱体22(セラミックヒータ4)について機械的強度の向上を図ることができる。
【0051】
一方で、WC粉末の比表面積を1.8m2/g以下とする(すなわち、ある程度の大きさを有するWC粉末を用いる)ことで、熱履歴や焼成温度等に多少の違いがあったとしても、WC結晶間における接触面積(接触抵抗)の増減を極力抑制することができる。従って、製造される発熱体22(セラミックヒータ4)について、その抵抗値のばらつきを極力小さなものとすることができ、所望の抵抗値を有するセラミックヒータ4を安定的に製造することができる。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、優れた強度を有するとともに、所望の抵抗値を備えたセラミックヒータ4を安定的に製造することができる。
【0053】
加えて、本実施形態では、WC粉末の混合量が64.0wt%〜67.0wt%とされるため、製造される発熱体22(セラミックヒータ4)について、焼成温度の相違等に伴う抵抗値の変動幅をより一層小さなものすることができるとともに、一層優れた強度を実現することができる。
【0054】
次に、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、抵抗値変動割合評価試験、及び、強度試験を行った。
【0055】
抵抗値変動割合評価試験の概要は、次の通りである。すなわち、WC粉末の比表面積、及び、WC粉末の含有量を種々変更した複数の原料粉末を用意した上で、各原料粉末を用いて焼成温度を種々変更して複数のセラミックヒータのサンプルを作製した。そして、各サンプルの抵抗値を測定するとともに、WC粉末の比表面積及びWC粉末の含有量がそれぞれ等しい原料粉末により作製されたサンプルの群(同原料サンプル群)に着目して、同原料サンプル群における、焼成温度の違いによる抵抗値の変動割合(抵抗値変動割合)を算出した。尚、抵抗値変動割合は、同原料サンプル群の中で最も抵抗値が大きかったサンプルの抵抗値から、最も抵抗値が小さかったサンプルの抵抗値(最小抵抗値)を減算した上で、当該減算して得た値を前記最小抵抗値で除算し、100を乗ずることで得た。尚、焼成温度は、1740℃、1780℃、又は、1820℃とした。
【0056】
また、前記強度試験の概要は、次の通りである。すなわち、上述の各サンプルについて、JIS R1601に準じる3点曲げ強度に基づく抗折強度(MPa)を測定した。そして、前記同原料サンプル群における、抗折強度の平均値(平均強度)及び抗折強度の最小値(最小強度)を求めた。尚、強度試験の条件は、スパンを12.0mmとし、クロスヘッド速度を0.5mm/分とした。また、各サンプルの外径は3.3mmとした。
【0057】
表1に、各サンプルについての抵抗値、並びに、同原料サンプル群における抵抗値変動割合、平均強度及び最小強度を示す。また、参考として、レーザー法により測定した各WC粉末の粒径(測定粒径)を示す。尚、抵抗値変動割合が20%以下であり、かつ、平均強度が800MPa以上の場合には、製造されたセラミックヒータについて、抵抗値のばらつきが少なく、さらには、優れた強度を有するとして「○」の評価を下すこととした。一方で、抵抗値変動割合が20%を超えていたり、平均強度が800MPa以下であったりした場合には、抵抗値のばらつきが大きくなってしまったり、強度が不十分なものとなってしまったりするとして「×」の評価を下すこととした。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、WC粉末の比表面積を1.2m2/g以上としたサンプル(サンプル5〜16)は、平均強度が800MPa以上となり、十分な強度を有することが明らかとなった。これは、WC粉末の比表面積を1.2m2/g以上と(すなわち、WC粉末の粒径を比較的小さく)したことで、WC結晶によって窒化珪素結晶の粒成長が阻害されてしまうという事態を極力抑制でき、ひいては多数の針状結晶が入り込んだ窒化珪素本来の構造が形成されやすくなったためであると考えられる。
【0060】
また、WC粉末の比表面積を1.8m2/g以下としたサンプル(サンプル1〜12)は、抵抗値変動割合が20%以下となり、抵抗値のばらつきが抑制されることがわかった。これは、WC粉末の比表面積を1.8m2/g以下とした(すなわち、WC粉末の粒径をある程度大きくした)ことで、焼成温度が相違し、窒化珪素結晶の粒成長の程度が多少異なる場合であっても、WC結晶間の接触面積(接触抵抗)が極端に増減しなかったためであると考えられる。
【0061】
さらに、WC粉末の比表面積を1.2m2/g以上1.8m2/g以下としたサンプル(サンプル5〜12)の中で、特にWC粉末の含有量を64.0wt%以上67.0wt%以下としたサンプル(サンプル6,7,10,11)は、WC粉末の含有量を60.0wt%、或いは、70.0wt%としたサンプル(サンプル5,8,9,12)と比較して、全体的により優れた強度を有していた。また、WC粉末の含有量を64.0wt%以上67.0wt%以下としたサンプル(サンプル6,7,10,11)は、WC粉末の含有量を60.0wt%としたサンプル(サンプル5,9)と比較して、抵抗値変動割合が一層低減されることがわかった。
【0062】
加えて、特にWC粉末の測定粒径に着目してみると、比表面積を1.0m2/gとしたサンプル(サンプル1〜4)の測定粒径は0.81μmであり、サンプル5〜8の測定粒径とサンプル9〜12の測定粒径との間の値であったにも関わらず、サンプル1〜4は、サンプル5〜12と比較して強度の面で劣っていた。すなわち、測定された粒径は本来の粒径とは異なるものとなっており、測定した粒径に基づいて抵抗値や強度を調整することは難しいといえる。これに対して、比表面積と抵抗値変動割合及び強度とは、相関の取れた関係となっていた。従って、比表面積に基づいて用いるWC粉末を決定することが、抵抗値にばらつきが少なく、また、強度に優れたセラミックヒータを安定して製造するという面において好ましいといえる。
【0063】
以上、上記試験の結果を総合的に勘案して、焼成温度の相違等に伴う抵抗値のばらつきを抑制しつつ、十分な強度を有するセラミックヒータを安定的に製造するという観点から、比表面積が1.2m2/g以上1.8m2/g以下のWC粉末が混合されてなる原料粉末を用いることが好ましいといえる。また、抵抗値のばらつきを一層抑制しつつ、強度の更なる向上を図るという観点からは、原料粉末中におけるWC粉末の含有量を64.0wt%以上67.0wt%以下とすることがより好ましいといえる。
【0064】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0065】
(a)上記実施形態では、WC粉末の含有量が64.0wt%以上67.0wt%とされているが、セラミックヒータ4(発熱体22)の目標抵抗値を考慮して、WC粉末の含有量を種々変更することとしてもよい。
【0066】
(b)上記実施形態においては、射出成形により発熱体22が成形されているが、発熱体22の成形手法はこれに限定されるものではなく、例えば、印刷成形により発熱体22を成形することとしてもよい。
【0067】
(c)上記実施形態のセラミックヒータ4は、丸棒状、すなわち、断面円形状である場合に具体化されているが、必ずしも断面円形状である必要はなく、例えば断面楕円形状や断面長円形状、断面多角形状であってもよい。また、絶縁性の基体を板状に複数形成して、その間に発熱体を挟み込んだいわゆる板状ヒータに、本発明の技術思想を適用することとしてもよい。
【0068】
(d)上記実施形態のように、導電性セラミック粉末として、凝集が強く起こる(固まりやすく、ほぐれにくい)WC粉末を用いた場合には、本来の正確な粒径を測定することが著しく困難であり、本発明の作用効果が顕著に奏されることとなる。しかしながら、WCは例示であって、本発明を適用可能な導電性セラミックはこれに限定されるものではない。従って、例えば、二珪化モリブデンや酸化モリブデンのような他の導電性セラミックを用いたものであっても、本発明は有効である。尚、酸化モリブデンや酸化モリブデンから生成されるモリブデン化合物は凝集が強く起こり得る。そのため、導電性セラミックとしてWCを用いた場合と同様に、導電性セラミックとして酸化モリブデン等を用いた場合には、本発明の効果が顕著に発揮されることとなる。
【0069】
(e)上記実施形態において、セラミックヒータ4は、基体21内に発熱体22が埋設される構成となっているが、発熱体22は、必ずしも基体21内に埋設されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…グロープラグ、4…セラミックヒータ、21…基体、22…発熱体、31…発熱体成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素及び導電性セラミックを主成分として含んでなる発熱体が、絶縁性セラミックを主成分とする基体に対して形成されてなるセラミックヒータの製造方法であって、
窒化珪素粉末及び導電性セラミック粉末を混合し、原料粉末を調整する原料調整工程と、
前記原料粉末により、前記発熱体となる発熱体成形体を成形する成形工程と、
前記発熱体成形体を焼成し、前記発熱体を得る焼成工程とを含み、
前記原料粉末としての導電性セラミック粉末の比表面積を1.2m2/g以上1.8m2/g以下としたことを特徴とするセラミックヒータの製造方法。
【請求項2】
前記原料粉末中における、前記導電性セラミックがタングステンカーバイドであって、その含有量を64.0wt%以上67.0wt%以下としたことを特徴とする請求項1に記載のセラミックヒータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−277706(P2010−277706A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126344(P2009−126344)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】