説明

セラミックフィルター及びセラミックフィルターの製造方法

【課題】初期捕集効率を上昇させると共に、圧力損失の上昇を、より抑えることができるフィルターを提供する。
【解決手段】柱状結晶が集合した結晶塊を多数有すると共に、それら多数の結晶塊同士が結合したものから構成され、前記多数の結晶塊間に大径孔が多数存在すると共に、前記結晶塊を構成する多数の前記柱状結晶間に小径孔が存在するように成形してあるセラミックフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ケイ素を含む原料を主成分とするセラミックフィルター及びセラミックフィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にセラミックフィルターは、耐熱性、耐食性に優れ、例えばディーゼルエンジンから排出されるスス等の広い粒度分布を有する粒状物質(パティキュレートマター。以下「PM」と称する)の捕集を効率的に行なうために使用される。
しかし、PMの捕集効率と圧力損失との関係は、一般的には相反する関係になることが多く、例えば気孔径が大きすぎると、捕集されずに通過してしまい捕集効率が低下し、気孔径が小さすぎるとガスの通過に対する抵抗により圧力損失が大きくなり、エンジンへの負荷が増大するばかりか、その小さな気孔が目詰まりしやすく、そのために圧力損失の上昇がはげしく長期使用が困難になる。
そこで従来、捕集効率と圧力損失とを調整したものとして炭化ケイ素からなるセラミックフィルターが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−11908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の炭化ケイ素からなるセラミックフィルターにおいて、初期捕集効率が低く、そのために微細気孔を多くすると目詰まりが激しく、圧力損失の上昇においても満足いくものではなかった。結局、微細気孔は減らすのが良いと考えられている。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、初期捕集効率を上昇させると共に、圧力損失の上昇を、より抑えることができるフィルター及びその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、柱状結晶が集合した結晶塊を多数有すると共に、それら多数の結晶塊同士が結合したものから構成され、前記多数の結晶塊同士の間に大径孔が多数存在すると共に、前記結晶塊を構成する多数の前記柱状結晶同士の間に小径孔が多数存在するように成形してあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、結晶塊同士の間の多数の大径孔の存在で、圧力損失の上昇を抑え、しかも、柱状結晶の集合した結晶塊に微細なPMが引っ掛り易く、そのために、捕集率を高くすることができる。
その上、結晶塊にPMが多く引っ掛っても、柱状結晶同士の間の多数の小径孔が通気を許し、そのために目詰まりしにくく圧力損失の上昇を抑えることができる。
従って、捕集性能を高く維持しながら長期使用を図ることが可能となる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、気孔径分布曲線において極大値が2箇所存在し、第1の極大値が8〜25μmの範囲に存在し、第2の極大値が0.2〜3μmの範囲に存在するところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、2箇所の極大値を有する上記気孔径分布により、高い捕集効率と圧力損失の上昇抑制作用が実現できる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記柱状結晶は、六方晶系であるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、六方晶系の結晶構造により、PMが引っ掛り安く捕集効率が向上する。六方晶系の柱状結晶を有するセラミックの代表として、窒化ケイ素が挙げられる。
【0012】
本発明の第4のセラミックフィルターの製造方法の特徴構成は、ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、造孔剤を含む原料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行うセラミックフィルターの製造方法であって、前記原料中にβ型窒化ケイ素を10〜50質量%混入させて、反応焼結を行うところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、反応焼結を行う原料中に10〜50質量%のβ型窒化ケイ素を混入させることによって、焼結時に金属シリコンがβ型窒化ケイ素に窒化され柱状結晶を形成しやすくなり、且つβ型窒化ケイ素の結晶塊を形成することができる。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記第4の特徴構成における前記混合時に、さらにジルコニウムを含む原料を混入させるところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、反応焼結時の金属シリコンの窒化率が向上し、柱状結晶をより形成しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の窒化ケイ素フィルターの電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の窒化ケイ素フィルターの気孔径分布曲線のグラフである。
【図3】比較例の炭化ケイ素フィルターの電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例の炭化ケイ素フィルターの気孔径分布曲線のグラフである。
【図5】初期圧力損失の変化曲線のグラフである。
【図6】長期圧力損失の変化曲線のグラフである。
【図7】圧力損失の変化を測定する試験装置を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する
本発明のセラミックフィルターは、耐熱性、耐食性、及び耐熱衝撃性に優れ、例えばディーゼルエンジンから排出されるスス等の広い粒度分布を有するPMの捕集を効率的に行なうために、排ガス濾過用セラミックフィルター(以下DPFと称する)として使用されるものである。
【0018】
一般的に、DPF前の圧力が12kPa以上になると、DPFに溜まったPMの燃焼による除去(再生)又は、DPF自身の交換が必要になる。
また、高性能なDPFに求められる捕集性能(=捕集率)は、85%以上であり、これを下回るとPMの排出規制値をクリアすることが難しくなる。
そこで、本発明のセラミックフィルターは、図1の電子顕微鏡写真に示すように、六方晶系のβ型窒化ケイ素(Si34)柱状結晶が集合した結晶塊を多数有すると共に、それら多数の結晶塊同士が結合したものから構成され、多数の結晶塊同士の間に大径孔が多数存在すると共に、結晶塊を構成する多数の柱状結晶同士の間に小径孔が多数存在するように成形してある。
前記大径孔と小径孔は、図2に示すように、気孔径分布曲線において極大値が2箇所存在し、第1の極大値が8〜25μmの範囲に存在し、第2の極大値が0.2〜3μmの範囲に存在する。また、表1に示すように、気孔率が50〜65%で、比表面積が0.6〜0.75m2/ccである。
【0019】
【表1】

【0020】
尚、本発明の窒化ケイ素からなるフィルターと比較する従来の炭化ケイ素からなるフィルターは、図3の電子顕微鏡写真及び図4に示すように、気孔径分布曲線において1箇所に極大値が存在するのみで、単純な形状の粒子が結合したものである。
【0021】
〔物理的性質〕
本発明のセラミックフィルターの物理的性質を、炭化ケイ素からなるフィルターを比較例として対比する実証試験を行い、次の表2及び図5、図6に示した。
【0022】
【表2】

【0023】
表2中の初期の捕集率は、排ガス出口にろ紙をセットし、運転開始から20分間運転した時の捕集率をフィルターの有無で測定した。また、図5と図6の圧力損失の変化を調べるのに、図7の実験装置を用いた。図7中の1は50×50×150mm 260CPSI、13milのハニカム状試験片を作成し、その試験片をフィルターFとして通気路2に配置して、500ccディゼルエンジンの排気ガスを通過させ、ハニカム前後の差圧(kPa)を圧力計3で測定する。
【0024】
図5は、特に初期における圧損(圧力損失)の変化曲線を示し、図6は、長期における圧損の変化曲線を示す。これによると、初期において、本発明のフィルターは圧損が比較例よりも高く、捕集率も高い。また、長期使用に伴って、圧損は比較例のほうが本発明のフィルターよりも高くなり、しかも、捕集率に差はない。これは、比較例のフィルターが、初期において捕集すべきPMを通過させ易い気孔径や分布をなしていることを示しているのに対して、本発明のフィルターが捕集率を高く維持しながら圧損の変化が少なく、長期使用が可能になることを意味し、フィルターそのものに形成された気孔が、大径孔のみならず結晶塊中の柱状結晶同士の間の小径孔の存在によるものと考えられる。
【0025】
推察ではあるが、結晶塊中の柱状結晶同士間の小径孔は、フィルター内の比表面積を増大させる効果を有していると共に、その結晶形状から気孔間の連通性が高い構造をなしており、これを理由として、本願のセラミックフィルターは、高い捕集率を有しながら、圧力損失の上昇を抑制することができていると考えられる。
【0026】
〔製造方法〕
本発明の窒化ケイ素フィルターの製造方法について説明する。
原料として、金属シリコン(Si)48質量%、二酸化ジルコニウム(ZrO2)1.3質量%、アルミナマグネシアスピネル(MgAl24)1.3質量%、β型窒化ケイ素(β―Si34)25質量%、造孔剤13質量%、その他バインダーを11.4質量%、準備する。
原料を準備した後、以下の工程で製造する。
1.上記原料を混合・混練する。
2.押出装置で、例えばφ144mm×150mmのハニカム状の円筒体を成形する。
3.脱脂後、窒素中で反応焼結を行う。焼成温度は、第1段焼成が1000℃〜1450℃で行い、第2段焼成が1700℃〜1800℃未満で行う。
4.研磨、接合等の加工を行う。
【0027】
上記製造方法により形成された成形品としては、β型窒化ケイ素が95質量%以上で残部がその他助剤成分から成っており、小径孔を多数有する図1に示す柱状結晶の集合した結晶塊が多数存在し、それらの結晶塊同士が、それら同士の間に大径孔を多数存在させる状態で結合してセラミックフィルターが形成される。
【符号の説明】
【0028】
1 試験片
2 通気路
3 圧力計
F フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状結晶が集合した結晶塊を多数有すると共に、それら多数の結晶塊同士が結合したものから構成され、
前記多数の結晶塊同士の間に大径孔が多数存在すると共に、
前記結晶塊を構成する多数の前記柱状結晶同士の間に小径孔が多数存在するように成形してあるセラミックフィルター。
【請求項2】
気孔径分布曲線において極大値が2箇所存在し、
第1の極大値が8〜25μmの範囲に存在し、
第2の極大値が0.2〜3μmの範囲に存在する
請求項1に記載のセラミックフィルター。
【請求項3】
前記柱状結晶は、六方晶系である請求項1または2に記載のセラミックフィルター。
【請求項4】
ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、造孔剤を含む原料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行うセラミックフィルターの製造方法であって、前記原料中にβ型窒化ケイ素を10〜50質量%混入させて、反応焼結を行うセラミックフィルターの製造方法。
【請求項5】
前記混合時に、さらにジルコニウムを含む原料を混入させる請求項4に記載のセラミックフィルターの製造方法。

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−63497(P2011−63497A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217871(P2009−217871)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】